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ここにあるのは、だれかが実際に調べ、考え、作ってきたことを集めたメモです。気になったら、ページの下の「参考にした情報源」から、もとの本や記事、それを生み出した人たちに、直接ふれてみてください。このメモには書ききれないおもしろさが、そこにあります。

コウモリの 毛1本から、なにが わかるの?

コウモリの毛のうろこで、どこまで種を見分けられるのか

コウモリの毛1本を顕微鏡で見ると ── 種の手がかりと、毛だけでは決まらない理由

分野:生きもの

とんでいる すがたを 見ただけでは、コウモリの なかまを 言いあてるのは むずかしいのです[1]。

そこで、毛を 1本 とって 顕微鏡けんびきょうで 見る 人たちが います。毛の うろこの もようで、なかまの ちがいは わかるのか。でも、名前まで きめるには、毛の はかった 数や、ほかの 手がかりも いるのです。

日本のコウモリは、ほとんどの種が、捕まえて手に取らないと種類を決めにくいとされています[1]。宮城県の資料には、似ている2種の体毛がどちらも褐色から暗褐色と書かれています[2]。

毛の色が当てにならないなら、毛のどこを見るのでしょうか。毛を1本ずつ顕微鏡で見ると、表面のうろこの並びが手がかりになる研究があります。ただし、うろこ模様で分かるのは科や属までという研究が多く、種まで決めるには、毛の長さなどの測定値やほかの特徴も要ります。その理由と、毛が役立つ場面を見ます。

日本のコウモリは、ほとんどの種が捕獲しないと識別が困難とされ、調査では捕獲とバットディテクターが併用される[1]。見た目も毛の色も似た種が多く、宮城県の評価書でも、似た2種の体毛はどちらも褐色〜暗褐色と記される[2]。

では、色のほかに毛の何が手がかりになるのか。毛を1本ずつ顕微鏡で観察し、表面のうろこの形や断面を比べる研究が、インドと米国で行われている。この研究では、うろこの形で科やLasiurus属は見分けられたが、種の同定には毛の測定値やほかの形態的・地理的情報も必要とされた。毛の構造が分類に役立つかをめぐる論争と、毛が実際に使われる場面を整理する。

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1. 茶色い コウモリは、どうやって 見分けるの?

1. 似た茶色のコウモリは、何で区別されるのか

1. 色が似た2種のコウモリを、何で区別するか

日本の 山で コウモリを しらべる 人は、とんでいる すがたを 見るだけでは なく、つかまえて しらべる ことが 多いそうです[1]。そうしないと、なかまが わかりにくいからです。

カグヤコウモリは、毛が こげ茶色の 小さな コウモリです。ヒメホオヒゲコウモリに よく にて いて、ちがうのは、あしと うでの 長さだと 書かれて います[2]。

毛の 色が にて いる とき、ほかに なにを 見れば いいのでしょう。

丹沢山地の調査報告は、ほとんどのコウモリは捕獲しないと種の識別が難しいと書き、超音波を人に聞こえる音に変えるバットディテクターも一緒に使っています[1]。

宮城県の資料で、カグヤコウモリは、前腕の長さ38mm前後、体重8g前後の小さな種と紹介されています。体毛は褐色か暗褐色で、ヒメホオヒゲコウモリによく似ています。ちがいとして書かれているのは、下腿と前腕がやや長く、少し大きい点です[2]。

色が似ていて、体の寸法も近いとき、毛そのものから何か読み取れないのでしょうか。毛の中身をのぞく研究を、次に見ます。

丹沢山地の調査報告は、ほとんどのコウモリ類は捕獲しないと種の識別が困難であるため、捕獲調査を行ったと述べる。超音波を人に聞こえる音に変えるバットディテクターも併用した[1]。

宮城県の評価書は、カグヤコウモリを前腕長38mm前後・体重8g前後の小型種とし、体毛は褐色〜暗褐色と記す。ヒメホオヒゲコウモリによく似ているが、下腿と前腕が長くやや大型だという[2]。この記述では、似ている点に毛の色が入り、見分ける点は体の寸法として挙げられている。

では、毛の色が使えない場面で、毛そのものから何が読み取れるのか。

2. 毛の 中は、どう なって いるの?

2. 毛1本を輪切りにすると、何が見えるのか

2. 毛は3層からなる ── 外側のうろこ・皮質・髄質

毛を 1本 とって、とても 大きく して 見ると、外がわに、さかなの うろこのような ものが ならんで います。

毛は、外の うろこ、色のもとが ある まんなか、中心の しんの 3つで できて いるそうです[3]。

コウモリの 毛には、あらくて 長い 毛と、細くて なみうつ 毛が あります。細い 毛の ほうが、ずっと たくさん あります[4]。

ただし、毛の 中は、ふつうの めがねでは 見えません。しらべる 人は 顕微鏡けんびきょうを つかいます。

毛は、外側のうろこ状の層(キューティクル)、色素を含む皮質、中心の髄質の3層からできています。この3つの層の形や並び方を種ごとに比べて、種の見分けに使えそうだという研究が、インドのコウモリで報告されています[3]。

コウモリの毛は、粗くてまっすぐで長めの毛と、細くて波うつ下毛に分けられます。粗い毛は本数が少なく、先の近くがこん棒のようにふくらむことがあります。下毛はそれより数がずっと多い毛です[4]。

体の大部分では毛の構造はほぼ同じで、においを出す腺のまわりにだけ特別な毛がある、とも書かれています[4]。

主役になるのは、いちばん外側のうろこです。これが種ごとにちがうのか、次の章で見ます。

コウモリの毛は、外側のうろこ状のキューティクル、色素を含む皮質、中心の髄質の3層からなる。この3層の形と並び方を種の同定に使う発想で、インドの食虫性コウモリ9種の毛を調べた研究がある[3]。

毛の種類は、米国の研究によれば、粗くまっすぐで長めの毛と、細く波うつ下毛に分けられる。粗い毛は下毛より本数が少なく、先端寄りの3分の1あたりにこん棒状のふくらみが出ることがある[4]。

体の大部分で毛の構造はほぼ同じで、においを出す腺のまわりだけ特殊な毛がある[4]。米国の20種の調査では、背中の毛が比べられた。

このなかで最も目立つのは、毛の表面を覆うキューティクルの模様である。それが種ごとに異なるのかが、次の問いになる。

3. うろこの かたちは、コウモリごとに ちがうの?

3. うろこの形は、種ごとにちがうのか

3. インド9種・米国20種で、うろこの形はどう違ったか

インドで、コウモリ 9しゅるいの 毛を、とても 強い 顕微鏡けんびきょうで 見た 研究が あります[3]。

うろこが、毛を ぐるりと かこむ かたちが 6しゅるい。うろこが かさなって ならぶ かたちが 3しゅるい。かたちに ちがいが ありました。

アメリカでは、20しゅるいの コウモリの せなかの 毛を 見ました。うろこの かたちを 見るだけで、いくつかの グループの ちがいが かんたんに わかったそうです[4]。

ただし、おなじ グループの 中の ちがいは、うろこだけでは むずかしいと 書かれて います。

インドの研究では、食虫性のコウモリ9種の毛を、走査電子顕微鏡で調べました。うろこの形に差があり、6種ではうろこが毛の軸をぐるりと囲む型、残りの3種ではうろこが重なり合う型でした[3]。

米国コロラド州の研究では、20種の背中の毛を比べています。うろこの形だけで、2つの科(モロッシ科とヒナコウモリ科)を簡単に区別できたと報告されています。ヒナコウモリ科のなかでも、Lasiurus属は別の特徴を持つグループとして見分けられました[4]。

ただ、どれも「科や属ならうろこで分かる」という話で、同じグループにいる種どうしは、うろこだけでは足りません。そこで種ごとの区別には、毛の長さやうろこの長さ・幅なども測って使われました[4]。

毛の特徴が、そのまま種の名前になるわけではない。では、研究者たちは毛をどう評価してきたのでしょうか。

Kumarらは、インド産の食虫性コウモリ9種の毛を走査電子顕微鏡で観察した。うろこは、毛の軸をぐるりと囲む冠状型が6種、重なり合う型が3種で、型の差が見られた。著者らは、毛の微細構造のちがいが種の識別に使えると述べる[3]。

米国コロラド州の20種(モロッシ科2種、ヒナコウモリ科16種、ほか可能性のある種)の背中の毛を調べた研究では、うろこの形でモロッシ科とヒナコウモリ科が容易に区別でき、ヒナコウモリ科のなかでもLasiurus属は別のグループとして見分けられた[4]。この20種は分析した種の数で、日本の種ではない。

種どうしの区別には、毛の長さ、うろこの長さ・幅などの測定値も使われた[4]。この研究では、うろこの形で科やLasiurus属を見分けられた一方、種の同定には毛の測定値に加え、ほかの形態的・地理的情報も必要とされた。これらは海外の種の研究で、日本の種にそのまま当てはまるとは書けない。

では、毛の構造は分類に役立つのか、研究者の評価はどう分かれてきたのか。

4. 毛だけで、名前は きまるの?

4. 毛だけで種は決まるのか ── 評価が割れてきた理由

4. 毛の構造は分類に役立つのか ── 1948〜1957年の評価と、複数の特徴の組み合わせ

むかしから、毛は なかま分けに やくだつのか、研究者の 考えは わかれて きました[4]。

あまり やくに たたないと 言う 人も いました。なかまごとに ちがうと 言う 人も いました。

うろこの もようだけでは、なかまの 名前までは 決まらないと いう ことも あります。でも、毛の 切り口の かたちや、中の しんの かたちなど、いろいろな とくちょうを 合わせれば、名前が わかる ことも あると されます[4]。

1つの 手がかりだけで 答えを 出さず、いくつも 合わせて 考える。コウモリの 毛は、そういう 手がかりです。

毛の構造がコウモリの分類に役立つかどうかは、昔から議論がありました。Nasonは1948年に「分類上の価値は小さい」と述べ、Mayerは1952年に「種ごとに特有で役に立つ」と見ました。Benedictは1957年に、種よりも上の分類群(科など)の見分けに役立つとした、と米国の研究者Ammanらは紹介しています[4]。

この意見の分かれ方は、前の章の結果とよく重なります。うろこの形は科や属を分けるのには強くても、種までは決めきれない場面があるからです。

先行研究には、うろこ模様だけでは種まで決められないが、断面の形や髄質の形など複数の特徴を使えば種の見分けも可能だと指摘するものがあります。一方、うろこ模様をいちばん有力な手がかりと考える研究者もいて、評価は一つにそろっていません[4]。

毛は、決め手になることもあれば、材料のひとつにとどまることもあります。では、それでも毛を使う価値があるのは、どんなときでしょうか。

毛の構造がコウモリの分類に有用かどうかは古くから議論があった。Nason(1948)は同定上の価値が小さいとし、Mayer(1952)は種ごとに特有で非常に有用だとした。Benedict(1957)は、種より上の分類群(科など)の同定に有用だと整理した[4]。

この論争は、前章の結果と整合する。うろこの形は科や属の違いを明瞭に示すが、種のレベルでは重なりが生じうる。先行研究(Short 1978)は、うろこ模様だけでは種の同定に至らないが、断面形や髄質の形など多様な形質を組み合わせれば種まで同定できると指摘している[4]。ただし、うろこ模様を最も有力な手がかりとみなす研究者もいて、評価は割れている。

したがって、「毛で必ず種が決まる」とは書けない。毛は、単独で種を決める鍵ではなく、複数の形質の1つとして働く。それでもなお毛が使われる場面があるのは、他の手段が取りにくい状況があるからだ。次の章で見る。

5. 毛だけが のこって いたら、どうするの?

5. 毛だけが残ったとき、毛は何を教えてくれるのか

5. 毛が手がかりになる場面 ── 捕獲しにくいとき・体の一部しかないとき

たとえば、コウモリが ねて いる ばしょです。ねて いる コウモリを おどろかせたく ない とき、毛を 手がかりに すれば、なかまが しらべやすく なると、書いた 人たちが います[4]。

けがを したり、くさったり して、からだの 一部しか 見つからない ときも、毛が 手がかりに なると 書かれて います[4]。

毛は、そっと 手に 入る 手がかり。だから、使う ところが あるのです。

毛の見分け方を使うよさは、コウモリを驚かせずに調べられる点にあります。毛の検索表(見分けのための手順表)は、ねぐらにいる種を、コウモリを驚かせずに調べたり、傷んだ体の一部から種を調べたりするのに役立つかもしれないと、著者らは書いています[4]。

毛は、捕獲しにくいときや、体の一部だけが残ったときにも手がかりになります。ただし、決め手になるかどうかは種によって異なります。

捕まえて手に取れないときに、そっと手に入る毛が手がかりになる。それが、毛が使われる理由です。

とはいえ、毛だけでは決まらない種もあります。ほかの特徴は、どんなものがあるのでしょうか。

毛の検索表が役立つ場面について、Ammanらは、ねぐらにいる種をコウモリを驚かせずに調べられること、傷んだり腐敗したりした個体の種を調べられることを挙げている[4]。捕獲を伴わず、傷んだ個体にも使える点が、毛を使う理由として挙げられている。

毛は、捕獲しにくいときや、体の一部だけが残ったときにも手がかりになる。ただし、毛が決め手になるかどうかは種によって異なり、前章で見た限界はここでも残る。

つまり毛は、捕獲や実物が使えない状況で、「種を絞り込む手がかり」になる。これは「毛だけで確定する」と同じ意味ではない。

では、毛以外にどんな手がかりが、毛と組み合わされているのか。

毛の ほかに、なにを 手がかりに する?

毛から声へ ── コウモリの見分けを広げる手がかり

毛・声・遺伝子 ── 見分けの手がかりをどう組み合わせるか

まず、しらべて みよう

  • おうちの 人に たのんで、かみの毛を 1本 もらい、虫めがねで 見て みましょう。色は おなじ 黒でも、ふとさや まがりかたが ちがう ことが あります。コウモリの うろこの もようは、虫めがねでは 見えません。
  • コウモリが とぶ ゆうがたは、とおくから 見るだけに しましょう。つかまえたり、さわったり しては いけません。

こんな 手がかりも あるよ

コウモリは、人に 聞こえない 高い 声を 出して います。それを 人に 聞こえる 音に かえる きかいが、しらべる ときに つかわれます[1]。

家でできること

  • 家の人の髪の毛を1本もらって、虫めがねで見てみましょう。色は同じでも、太さや曲がり方が少しちがうかもしれません。コウモリのうろこ模様は虫めがねでは見えず、顕微鏡で調べるものですが、毛1本にも個性があることは感じられます。
  • 夕方にコウモリが飛ぶ場所があっても、遠くから見るだけにしましょう。捕まえたり、さわったりしてはいけません。

調べてみたいこと

  • 丹沢山地の調査報告は、捕獲とバットディテクターの併用を挙げています。声(超音波)で種を決められるのか、毛とはどう分担されるのかが、次の問いです。
  • 頭の骨の形やDNAの配列を比べる方法もあるといわれます。ただ、これは捕獲や標本が必要になることが多いようです。

資料を読むなら

  • 丹沢山地の調査報告(神奈川県立生命の星・地球博物館)は、日本のコウモリがなぜ捕獲に頼りがちなのかを、調査の現場の言葉で書いている[1]。
  • 米国テキサス工科大学博物館のOccasional Papers No.216は、毛の3層構造、粗い毛と下毛、うろこ形の分類、毛の鍵の使い方を1冊で見られる。英語だが、図と表が多く、拾い読みもしやすい[4]。
  • インドの9種を扱うKumarらの論文は、うろこの型の名と、毛の構造が種の認識に使える根拠を読める[3]。

次に気になること

  • 声(超音波)で判定できる種はどこまでか。丹沢の報告はバットディテクターを併用しており、音声と毛が互いにどう補えるかは、読んでみる価値のある問いだ。
  • 外見や毛が似ていて区別しにくい種では、頭骨の形やDNAの比較が使われるともいわれるが、捕獲や標本が必要なことが多いとされる。日本の種についての資料を探してみたい。
  • 日本のコウモリの毛を調べた研究は、ここで使った資料には含まれていない。日本語の一次資料が見つかるか、図書館や論文検索で探してみる題材になる。

しらべた もとの じょうほう

参考にした情報源

参考にした情報源と、その使い方

本文で使った事実の出どころの一覧です。毛の研究はインドと米国のコウモリが中心で、日本の種に当てはまるかどうかは、この記事では述べていません。

  1. 山口ほか「丹沢山地におけるコウモリ類の生息状況」神奈川自然誌資料 23(2002) https://nh.kanagawa-museum.jp/assets/icp/pdf/nhr23_019_024yamaguchi.pdf (捕獲が必要なこと・バットディテクターの併用)
  2. 宮城県 環境影響評価書(6章10-2 哺乳類) https://www.pref.miyagi.jp/documents/55122/syobunnzyo_hyoukasyo_6syou10-2.pdf (カグヤコウモリの体毛・大きさの説明)
  3. Kumar et al. 2016, Zoological Studies 55:25 https://zoolstud.sinica.edu.tw/Journals/55/55-25.html (毛の3層構造・インド9種のうろこの型)
  4. Amman, Owen & Bradley 2002, Occasional Papers, Museum of Texas Tech University No.216 https://www.depts.ttu.edu/nsrl/publications/downloads/OP216.pdf (米国20種の毛・研究史の議論・毛の鍵の使い道)

なおした ところ

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