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ここにあるのは、だれかが実際に調べ、考え、作ってきたことを集めたメモです。気になったら、ページの下の「参考にした情報源」から、もとの本や記事、それを生み出した人たちに、直接ふれてみてください。このメモには書ききれないおもしろさが、そこにあります。

みつろうは、すこし あたためると なぜ かたちが かわるの?

蜜蝋は64℃近くまで溶けないのに、なぜ30℃台でやわらかくなるの?

融点が60℃を超える蜜蝋は、なぜ30℃台で形を変えやすくなるのか

分野:生きもの

みつろうは、ミツバチが つくる ろうです。れいぞうこから 出した ばかりの ものは、かたくて、おると ぽきんと われる ことが あります[2]。

ところが、すこし あたためると、かたくて われやすかった みつろうが、しなやかに なります。ほんとうに とけて みずのように なるのは、60どを こえてから です[1]。

とけないのに、なぜ やわらかく なるのでしょう。その わけと、ハチの ふしぎな しごとが 分かります。

冷えた蜜蝋は、折ると割れることがあるほど固い物質です[2]。それなのに、融点よりも30℃ほど低い温度で、高い可塑性を示すといわれます[1]。

どろどろに溶けていないのに、なぜやわらかくなるのでしょうか。手がかりは、ハチが自分の口でろうをかみこねて巣に使っていることと、蜜蝋が「ゆるやかに軟らかくなる混合物」であることです。この記事では、そのわけが分かります。

蜜蝋の融点は、薬局方では61〜66℃、多くは62〜65℃とされる。ところが、FAO(国連食糧農業機関)の資料は、約32℃という低い温度ですでに高い可塑性を示すと書いている[1]。融点より30℃ほど手前で、すでに高い可塑性を示すというわけだ。

固体のままなのに、なぜ形が変わるのか。この記事では、ミツバチが口でろうをかみこねて巣に使うことと、蜜蝋が成分の混ざった物質であることの2点から、その理由が分かる。

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1. かたくて われる みつろうが、あたためると しなやかに なる

1. 冷たい蜜蝋は割れるのに、あたためるとしなやかになる

1. 常温では砕けやすい蜜蝋が、温めるとしなやかになる

みつろうの かたまりを、へやの 中に しばらく おいて おきます。さわると かたくて、つよく まげると われやすい もの です。われた ところは、ざらざらして います[2]。

これを 手で あたためると、しなやかに なって、おして かたちを かえられるように なります[2]。

ところが、みつろうが みずのように とける 温度は、60どを こえます[1]。ひとの からだの 温度より、ずっと うえです。とけて いない のに、どうして やわらかいの でしょう。

常温(20〜25℃ほど)の天然の蜜蝋は砕けやすく、割ったところは乾いてざらざらしています。ところが温めていくと、しなやかになって形を変えやすくなります[2]。

では、完全に溶ける温度はどれくらいでしょうか。薬局方という医薬品の基準では61〜66℃、多くの資料では62〜65℃とされています[1]。一方で、FAOの資料には、蜜蝋は約32℃という比較的低い温度で高い可塑性(力を加えると形が変わり、そのまま残る性質)を示す、とあります[1]。

32℃は「溶ける温度」ではなく、高い可塑性を示す温度の目安です。固体のままで形が変わるのは、なぜなのでしょうか。

蜜蝋を常温(20〜25℃ほど)に置いておくと、砕けやすく、割れ口は乾いた粒状になる[2]。しかし温めると、しなやかに曲がるようになる。この「冷たいと割れ、温めると曲がる」という性質が、蜜蝋を道具や材料として使いやすくしている。

では、液体になる温度はどこか。薬局方(各国の医薬品の品質基準)では61〜66℃、より一般的には62〜65℃とされる。ところが、FAOの資料は、蜜蝋を「約32℃という比較的低い温度で高い可塑性を示す不活性な物質」と説明している[1]。可塑性とは、力を加えると変形し、力を除いても元に戻らない性質のことだ。

ここで注意したいのは、約32℃は溶ける温度ではなく、高い可塑性を示す温度の目安だという点だ。この数値はFAOの資料によるもので、「30℃台前半から」くらいの幅をもたせて読むのがよい。固体のままで形が変わるのは、なぜか。

2. まざり ものの みつろうは、どう あたたかさで かわるの?

2. 混ざりものの蜜蝋は、温度が上がるとどう変わるのか

2. 混合物であることは、温度による変化にどう関わるのか

こたえの ひとつは、みつろうが 「まざり もの」 だと いう ことです。

みつろうは、いろいろな ものが まざって できて います。ある じてんでは、エステルと いう なかまが 70パーセントほど、しぼうさんが 15パーセントほど、ほかにも いくつかの ものが まざって いると されます[3]。わりあいは、とれた ばしょなどで かわります。

けんきゅうでは、ミツバチの ろうを ゆっくり あたためて しらべました。すると、64どで いっぺんに とける のでは なく、およそ 40どから、すこしずつ とけはじめる ようすが 見えました[4]。

こおりは 0どで とけますが、みつろうは そうでは ありません。かたい ものから やわらかい ものへ、ゆっくり かわる のです。

まざって いる ものが たくさん あるので、ゆるやかに かわるのだろう、と 考えられて います。

理由の一つは、蜜蝋が単一の物質ではなく、混合物であることです。日本大百科全書によれば、成分のおよそ70%がエステル(主成分はパルミチン酸ミリシルで約23%)、遊離脂肪酸が約15%、炭化水素が約10%です[3]。割合は産地や資料によって変わります。

この混合物を、示差走査熱量測定(DSC)という方法で調べた研究があります。温度を少しずつ上げながら、物質が吸う熱の量を測る方法です。セイヨウミツバチのろうは、64℃で一気に溶ける鋭い山ではなく、約40℃から溶けはじめる幅広い曲線を示しました。見た目は固体のままでも、熱を吸いはじめて内部の構造が変わりうる、と著者らは述べています[4]。

氷なら0℃で一気に溶けます。いくつもの成分が混ざった蜜蝋は、溶けはじめから溶け終わりまでの幅が広く、その途中の「固体だけれどやわらかい」状態が長く続くようです。混合物であることと幅広い曲線を結びつけたこの見方は、資料からの読み取りで、有力な説明のひとつです。

理由の一つは、蜜蝋が単一の化合物ではなく混合物であることだ。日本大百科全書によれば、成分の約70%がエステル(主成分のパルミチン酸ミリシルが約23%)、遊離脂肪酸が約15%、炭化水素が約10%、遊離アルコールが約1%である[3]。FAOは、モノエステル、ジエステル、炭化水素、遊離酸などを挙げており、割合は資料や産地で異なる(炭化水素が12〜16%という例もある)[1]。

では、混合物だとなぜ温度で変わりやすいのか。Buchwaldら(2008)は、示差走査熱量測定(DSC)で、セイヨウミツバチ(Apis mellifera)のろうを調べた。DSCは温度を上げながら試料が吸収する熱を測る方法で、純粋な物質なら融点で鋭いピークが出る。ところがこのろうでは、64℃付近で一気に溶ける鋭い山は出ず、約40℃から溶けはじめる幅広い曲線が得られた。著者らは、見た目が固体のままでも、熱を吸いはじめて構造が変わりうると述べている[4]。ここでの約40℃は溶けはじめの温度で、全体が液体になる温度ではない。

つまり、融点に近づくずっと前から、一部の成分が先にゆるみはじめ、材料全体が少しずつやわらかくなっていく可能性が高い。混合物であることと幅広い曲線という2つの結果を並べた、有力な読み取りである。

溶ける温度の幅が広いなら、ハチはそれを、どう利用しているのか。

3. ハチの おなかから 出る、うすい うろこ

3. ハチは体の中で、ろうを小さなうろこにして出す

3. ろうの薄片を出すには、巣の中を温める必要がある

みつろうを つくるのは、はたらきバチです。おなかの 下に ある あなから、とても ちいさな うすい かけらを 出します。「うろこ」 と よばれる かけらです[2]。

1グラムの ろうを つくるのに、うろこは 1100まいほど いる、と いう はなしも あります[2]。

ろうを 出すには、すの 中が 33〜36どの あたたかさでは ないと いけない そうです[1]。ハチは なかまと あつまって、すを あたたかく して いるのです。

蜜蝋を作るのは働きバチです。腹部にある8つのろう腺から、小さな薄いかけら(うろこ)を出します。1gのろうを作るのに、このうろこが1100枚ほど必要だといわれます[2]。

ろうを出すには、巣の中が33〜36℃でなければならないとされます[1]。これは「ハチがろうを出せる巣の温度」で、ろうがやわらかくなる温度とは別の話です。ただ、ろうの可塑性が現れる30℃台前半と近い温度で作業していることになります。

出てきたばかりのうろこは、小さな薄片です。これを、どうやって六角形の部屋が並ぶ巣の壁にするのでしょうか。

蜜蝋を作るのは働きバチだ。腹部の第4〜7節にある8つのろう腺から、ろうの小さな薄片(うろこ)が出る。1gのろうを作るのに必要なうろこの数は約1100枚とされる[2]。

うろこが出るには、巣内が33〜36℃に保たれている必要があるとされる[1]。これは「ろうを出せる巣の温度」であって、ろうがやわらかくなる温度とは別の概念だ。それでも、可塑性が現れはじめる温度と、ろうが出る巣の温度は近い。

1枚の薄片の大きさは小さく、そのままでは巣材として使いにくい。ハチはこれを、どう扱うのか。

4. けんきゅうでは、ハチが かむと みつろうの せいしつが かわっていた

4. 研究では、ハチがかみこねるとろうの性質が変わっていた

4. アフリカミツバチの研究では、咀嚼で結晶の並びが乱れていた

ハチは、出て きた うろこを 足と 口で うけとります。そして 口の 中の えきと いっしょに、かんで こねます。つかいやすい やわらかさに して から、すに おしつけて かたちを ととのえます[5]。

みなみアフリカの ミツバチの ろうを しらべた ろんぶんが あります。けんきゅうでは、出た ばかりの うろこは、つぶの ならびが そろって いて、よく のびて やわらかい。かたちを つくる ざいりょうに むいて いる、と 書いて あります[6]。

いっぽう、すに なった ろうは、かまれて ならびが みだれ、かたちが かわりにくい、じょうぶな ざいりょうに なって いたと いいます[6]。

これは ひとつの しゅるいの ミツバチの けっかです。ミツバチ ぜんぶが そうだとは、言い切れません。

ハチは、出てきたうろこを足と口で受け取り、大あごから出る分泌物といっしょにかみこねます。使えるやわらかさにしてから巣に押しつけ、形を整えます[5]。ただ温めているだけではなく、口で「加工」しているのです。

この加工で何が変わるのかを調べた学位論文があります。南アフリカのアフリカミツバチ(A. m. scutellata)のろうを調べたKurstjens(1990)によれば、出たばかりのうろこは結晶の並びがそろっていて、よく伸びて硬さが低く、型にする材料に向いています。一方、巣になったろうは、かみこねられて結晶の並びが乱れ、変形に強い「構造材料」になっていました[6]。

つまりろうは、ハチがこねる前と後で、同じ蜜蝋でも性質が変わっていたと報告されています。ただし、これは一つの亜種についての一本の論文の結果で、ミツバチ全般に当てはまるとは言い切れません。

ハチは、出てきたうろこを足と大あごで受け取り、大あごの分泌物とともにかみこねる。使えるやわらかさにしてから巣に押しつけ、整える[5]。

この咀嚼で、材料の側に何が起きているのか。Kurstjens(1990)は、南アフリカのアフリカミツバチ(A. m. scutellata)のろうの学位論文で、うろこの状態と巣のろうを比べている。出たばかりのうろこは、結晶がそろって並び、高い伸びやすさと低い硬さを示し、型に押しこむような材料に向く。これに対して巣のろうは、かみこねられることで結晶の並びが乱れ、変形に強い構造材料になっていた[6]。

前章の混合物という見方と合わせると、次のように考えることができる。ろうは、成分の混ざりかたによって温度とともにゆるやかにやわらかくなる。ハチのかみこむ前後で、型に押しこめる状態と、巣として形を保つ状態という違いが観察されたことになる。これは両方の資料から組み立てた読み取りで、一つの亜種についての一本の論文に基づく。ミツバチ全般に言い切れるものではない。

5. じぶんの 手で たしかめて みよう

5. 蜜蝋の手ざわりを、自分で比べてみよう

5. 残る問いと、確かめ方

みつろうで できた クレヨンや キャンドルが おうちに あれば、おとなと いっしょに ためして みましょう。

やって みよう

  • れいぞうこから 出した ばかりの ものと、手で しばらく にぎって あたためた ものを、かるく おして みる。かたさが どう ちがうか、かんじた ことを いってみよう。むりに おって はいけません。

ハチの すの 六かくけいの へやが どうして できるのか、実は まだ 分かって いません。ろうが やわらかく なる ことと かんけいが あるのでは、と いう 考えも ありますが、はんたいする けんきゅうも あります[7]。

家に蜜蝋のクレヨンやキャンドルなどがあれば、大人といっしょに、湯も火も使わずに試せます。

手で温める前と後で比べる

  • 冷蔵庫から出した直後のかけらと、しばらく手で握って温めたかけらを、軽く押して比べる。無理に曲げたり折ったりしないこと。手ざわりの変化は、感じ方に個人差があります。

巣の六角形の部屋ができる理由は、まだ決着していません。Pirkら(2004)は、ろうを温度で軟化・硬化する熱可塑性の材料とみなし、こねたあとの流れで形が決まるという仮説を出しました。Hepburnら(2007)は、これに反論しています[7](どちらもアブストラクトにもとづく紹介です)。ろうの性質が、巣の形にどうかかわるのかは、今も議論の途中です。

この記事の問いへの答えは、2つに分けられる。蜜蝋は混合物で、溶けはじめから溶け終わりまでの幅が広いと考えられること。そしてハチが咀嚼でろうの構造を変えること。残る問いは、その性質が巣の形にどう関わるかだ。

残された問い:六角形の巣房

Pirkら(2004, Naturwissenschaften)は、ろうを温度の上下で軟化・硬化する熱可塑性の建築材料とみなし、巣房の形はハチがこねたあとの、液体のような流れによる平衡で決まるという仮説を出した。Hepburnら(2007, Apidologie)はこれに反論しており、決着していない[7]。ここで紹介したのは、アブストラクトに書かれた範囲の概要である。

手で確かめる

  • 蜜蝋でできたクレヨンやキャンドルを、冷蔵庫から出した直後と、手で握って温めたあとで、軽く押して比べる。湯や火は使わない。無理に折ったり曲げたりしない。
  • 握る時間を変えて、手ざわりがどう変わるかを比べる。たとえば10秒と1分で、押したときのへこみ方や、表面のやわらかさを言葉にしてみる。可塑性の目安(約32℃)と、溶けはじめの温度(約40℃)は別のものなので、手で温めるだけでは溶けないことも確かめられる。

しらべた もとの じょうほう

参考にした情報源

参考にした情報源と、その使い方

出典について:国連機関の資料、百科事典、学術論文(アブストラクトを含む)、学位論文を使っています。数値は資料や産地、ミツバチの種類によって違います。

  1. FAO「Chapter 4 Wax」 https://www.fao.org/4/w0076E/w0076e12.htm (融点と約32℃の可塑性、成分、巣内温度)
  2. Wikipedia「Beeswax」 https://en.wikipedia.org/wiki/Beeswax (常温でのもろさ、うろこの数)
  3. コトバンク「みつろう」(日本大百科全書・化学辞典) https://kotobank.jp/word/みつろう-1597729 (成分の割合)
  4. Buchwald, Breed, Greenberg (2008) The thermal properties of beeswaxes: unexpected findings. J Exp Biol 211:121-127. https://cob.silverchair.com/jeb/article/211/1/121/17468/The-thermal-properties-of-beeswaxes-unexpected (約40℃から溶けはじめる曲線。アブストラクトの要約による)
  5. Wikipedia(日本語版)「蜜蝋」 https://ja.wikipedia.org/wiki/蜜蝋 (ハチがろうをこねる様子)
  6. Kurstjens (1990) ウィットウォータースランド大学 学位論文 https://wiredspace.wits.ac.za/items/1de98382-cdb0-400b-bd2a-e6f364120fb9 (うろこと巣のろうの性質のちがい)
  7. Hepburn ら (2007) Apidologie(Pirk ら 2004 への反論を含む) https://www.apidologie.org/10.1051/apido:2007005 (巣房の形をめぐる議論。アブストラクトの要約による)

なおした ところ

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