1. どうやって 「おなじ とり」と わかるの?
1. 同じ鳥かどうか、どう見分けるのか
1. 識別の方法 ── 足環という「名札」
ユリカモメは、からだの 大きさも もようも、見わけにくい とりです。だから、足に つけた 足環が、とりの なふだに なります。
足環には、ばんごうが かいて あります。けんきゅうの 人は、とりを つかまえて 足環を つけ、もとの ばしょに かえします。あとで どこかで その とりを 見つけて ばんごうを よめば、「あの とりだ」と わかります[4]。
ヨーロッパでは、色の 足環を つかって、とりを 1わずつ 見わけた けんきゅうが あります。とおくから 見るだけで わかるので、とりを また つかまえなくて すみます。
では、この なふだを つけた ユリカモメは、つぎの ふゆも おなじ ところに いたのでしょうか。
2. オランダの 池で、194わを 見つづけた
2. ハーグの池で、194羽を追った研究
2. ハーグの池の194羽 ── 約半数が、のちの冬にも現れた
オランダの ハーグという 町の まんなかに、小さな 池が あります。1960ねんだいの はじめ、ひとりの 人が、ここで 色の 足環を つけた ユリカモメ 194わを 見つづけました[1]。
けっかは こうです。
- おなじ ふゆの うちに この 池で 見られた とりは、57パーセントでした。
- つぎの ふゆ いこうに、また この 池で 見られた とりは、52パーセントでした。
100わの うち 50わ くらいが、べつの ふゆにも もどって きた ことに なります。この 池には、人が くれる パンを たべに ユリカモメが あつまります[1]。たべものの 多い ばしょを おぼえて いるのかも しれません。ただし、これは わかった ことでは なく、考えです。
この けんきゅうは、60ねんくらい まえの、ひとつの 池の はなしです。
オランダのハーグの中心部に、小さな池(ホフフェイフェル)があります。1960年代の初め、A. スパーンスという研究者が、ここで色足環をつけたユリカモメ194羽を、2回の冬にわたって観察しました[1]。
論文の要約によると、結果は次のとおりです。同じ冬のうちにこの池で見られたのは57%で、のちの冬にも見られたのは52%でした。つまり、100羽のうち約半分が、別の冬にもこの池に戻ってきたことになります[1]。
オランダの町では、冬にユリカモメが集まり、市民が投げるパンを食べます。人に慣れた鳥が多いので、同じ鳥が同じ場所に戻ってくるのではないかと、スパーンスは考えました[1]。食べ物の得やすい場所を覚えているという説明は、考えとしては自然ですが、この数字だけで証明されたわけではありません。
また、これは約60年前の1つの池での結果です。
オランダのハーグ中心部の池(ホフフェイフェル)で、1960年代初めにA. スパーンスが、色足環をつけたユリカモメ194羽を2回の冬にわたって観察した。論文の要約によると、同じ冬のうちに調査地で見られたのは57%。のちの冬にも見られたのは52%だった[1]。
冬のオランダの都市では、ユリカモメが群れで集まり、市民のパンを食べる。人に慣れた様子から、同じ個体が毎冬同じ場所に戻るのではないかと考えて始めた調査だという。スパーンスは、同様の場所への忠実性が、ほかのオランダの都市やヨーロッパの別の地域でも見つかっており、「例外ではなく通例」らしいとまとめている[1]。
留意点も多い。この要約から読み取れるのは、約60年前の1か所の結果であること。また、パンを与えられる条件のよい池で、成鳥が多かったことが、高い再確認率につながった可能性が、著者自身によって指摘されている[1]。「戻ったのは約半数」を、ユリカモメ全体の数字として読むことはできない。
3. すむ ばしょを えらぶ ちからは、どのくらい?
3. 繁殖地もねぐらも越冬地も同じ場所に戻る
3. マルメの標識調査 ── 繁殖地・ねぐら・越冬地への忠実性
スウェーデンの マルメという 町では、1965ねんから 1999ねんまで、2万羽より 多い ユリカモメに 足環を つけました[2]。
あとで、どこかで 見つかった 足環の きろく 812こ(おなじ とりの 分も ふくむ)を しらべると、つぎの ことが わかりました。
- 子そだてを した ばしょへ、また もどる とりが 多いです。
- よるに ねる ばしょ(ねぐら)や、ふゆを すごす ばしょへも、また もどる とりが 多いです。
ふゆを すごす 中心は、オランダ、ベルギー、イギリスなど、ヨーロッパの 北西でした[2]。
ユリカモメは、「ここ」と きめた ばしょに もどる くせが ある、と いえそうです。
スウェーデン南部のマルメでは、1965〜1999年に、公園などで合わせて2万羽以上のユリカモメに足環がつけられました。その後、近くの地域をのぞいて見つかった812羽ぶんの記録(同じ鳥が何度か見つかった分を含む)を、ベンクトソンとブロムクヴィストが分析しています[2]。
結論として、ユリカモメは繁殖地だけでなく、ねぐらや越冬地にも強い忠実性を示しました。主な越冬地は、オランダ、ベルギー、イギリスを含む北西ヨーロッパです。また、約30年前より北で冬を越すようになっている可能性も指摘されています[2]。
足環の記録は、鳥が見つかった場合にしか集まらないので、「戻らなかった鳥」は数えにくくなります。この分析も、忠実性が高いという傾向を示したもので、何%が戻るかを示したものではありません。
スウェーデン南部のマルメで、1965〜1999年に、公園で約2万1千羽(巣立った幼鳥・成鳥)、繁殖コロニーで約3,700羽(ひな)のユリカモメに足環がつけられた。ベンクトソンとブロムクヴィスト(2001)は、近隣の地域を除く812羽ぶんの回収記録(複数回回収された個体を含む)を分析した[2]。
結果は、繁殖地に加えて、ねぐらと越冬地にも高い忠実性がある、というものだった。主な越冬地は北西ヨーロッパ(オランダ・ベルギー・イギリスなど)で、北緯45°より南での回収は少なかった。回収記録の傾向から、約30年前より北で冬を越すようになった可能性も、著者らによって示されている[2]。
足環の回収・再確認は、鳥が発見された場合にしか記録されない。そのため、忠実性が「高い」ことは読み取れても、戻らなかった個体を正確に数えるのは難しい。ハーグの数字とマルメの分析は、方法も対象も別のものとして読む必要がある。
4. ぜんぶの とりが もどる わけでは ない
4. 戻る鳥と、戻らない鳥
4. 回帰しない個体 ── エーレデの10羽が示すもの
ハーグの 池では、のちの ふゆに 見られた とりは 52パーセントでした。のこりの 48パーセントは、どうなったのでしょう。
ほかの ばしょの けんきゅうも あります。オランダの エーレデという 村では、足環を つけた 10わを 見つづけました。デンマーク、エストニア、リトアニア、フィンランド、オランダと、いろいろな 国で 足環を つけられた とりが いました[3]。
- まいとし この 村に もどって、ふゆの あいだ ずっと いる とりが いました。
- ちかくの 大きな 町でも 見つかる、あちこち うごく とりも いました。
- 1〜2かい しか すがたを 見せない とりも いました。
すがたを 見せなく なった とりは、べつの ばしょへ いった のかも しれません。しんで しまった のかも しれません。たまたま 目に とまらなかった だけかも しれません。足環だけでは、どれか わかりません。
ハーグの池で、のちの冬にも見られなかった残りの約半数は、どうなったのでしょうか。理由として、別の場所に移った、死んだ、その場所にいたのに見落とされた、などが考えられます。足環の記録だけでは、この3つを区別するのは難しいようです。
オランダのエーレデという村では、足環をつけた10羽が観察されました。デンマークで標識された3羽、エストニア・リトアニア・フィンランドで標識された各1羽、オランダで標識された4羽です[3]。
その中には、毎冬エーレデに戻る鳥がいました。ある鳥は8月上旬から、別の鳥は11月上旬から、また別の鳥は12月上旬から滞在し、いずれも2〜3月ごろまでとどまりました。いっぽう、近くの大きな町(フローニンゲン)でも見つかる動きの多い鳥や、1〜2回しか見られなかった鳥もいました[3]。
このように、同じ種でも、場所に強くこだわる個体と、あちこち動く個体がいるようです。
また、ハーグの研究では、寒波のときにつかまえた鳥は、暖かいときに足環をつけた鳥より、あとで戻ってくる割合が低かったと、要約に書かれています[1]。
ハーグで、のちの冬に見られなかった約半数は、どうなったのか。考えられるのは、別の場所へ移った、死亡した、調査地にいたが見落とされた、の3つで、足環の再確認記録だけでは区別できない。
オランダ北部エーレデの調査(Bonder 1999)では、足環を読み取れた10羽の内訳は、デンマーク標識3羽、エストニア・リトアニア・フィンランド標識が各1羽、オランダ標識4羽だった。毎冬エーレデに戻る個体がおり、8月上旬・11月上旬・12月上旬と個体ごとに異なる時期から滞在し、2〜3月ごろまでとどまった。一方で、近隣の都市フローニンゲンでも観察される移動性の高い個体や、1〜2回しか観察されなかった個体もいた[3]。
ハーグの研究の要約には、霜の時期に捕獲した個体は、霜の前に足環をつけた個体より、のちの再確認率が低かったことも書かれている[1]。再確認率の差が、調査地への執着の差なのか、悪天候による死亡や移動なのかは、足環の記録だけでは決めにくい。
「回帰する」と「回帰しない」を2つに分けるより、個体ごとに程度が異なり、年や天候にも左右されると見たほうが、データに近い。
5. にほんでは どうなの?
5. 日本では何が分かっているのか
5. 日本の記録 ── 手賀沼から水元公園へ移った12歳のユリカモメ
にほんの ユリカモメは どうでしょう。ここまでの 数字は、ぜんぶ ヨーロッパの ものです。にほんで、おなじ ばしょへ もどる わりあいを まとめた 資料は、手もとに ありません。
でも、足環で ひとわずつ おいかけた きろくは あります。千葉けんの 手賀沼で、2007ねんの 12がつに、うまれた ばかりの 年の ユリカモメに 足環が つけられました。この とりは そのあと、千葉けんの 市川市や 船橋市、東京の 水元公園へ うつりました。2019ねんの 1がつに、水元公園で 見つかった とき、12歳に なって いました[4]。
この とりは、ひとつの 川に ずっと いた わけでは ありません。ふゆの あいだに、近くの ばしょを すこしずつ うつって いました。
ここまでの数字は、すべてヨーロッパの研究です。日本のユリカモメが、毎冬同じ場所に戻る割合をまとめた資料は、この記事を書いた時点では手元にありません。
ただし、足環で1羽ずつ追った記録はあります。我孫子市鳥の博物館の資料によると、2007年12月に千葉県の手賀沼で幼鳥として足環をつけられた個体が、市川市や船橋市、東京都の水元公園へ移動しながら冬を過ごし、2019年1月に水元公園で見つかったときは12歳だったとされています[4]。
この例は、毎冬必ず同じ川に戻るのではなく、冬ごとに近くの場所を移りながら暮らす鳥もいる、ということを示します。それでも、関東の同じ地域の水辺を、10年以上使いつづけたことは分かります。
1羽の記録なので、日本のユリカモメ全体の傾向とまでは言えません。
日本のユリカモメの越冬地回帰率を示した資料は、この記事では見つけられなかった。ここまでの数字は、すべてヨーロッパの研究である。
足環による個体追跡の記録はある。我孫子市鳥の博物館の資料によれば、2007年12月に千葉県の手賀沼で幼鳥として足環をつけられた個体が、市川市・船橋市を経て、東京都の水元公園へ移動していることが足環から分かった。2019年1月に水元公園で確認されたとき、12歳とされている[4]。
この記録からは、毎冬同じ水辺に戻るとは限らず、関東の近い水辺どうしを移りながら、10年以上同じ地域を使った個体がいることが分かる。ハーグやエーレデで見られた「場所への忠実性に個体差がある」という像と、矛盾しない。
ただし、1個体の記録であり、「日本のユリカモメは同じ川に戻る」「戻らない」のどちらも、これだけでは言えない。
6. じぶんでも しらべて みよう
6. 自分でも調べてみたくなったら
6. 自分でも調べてみたくなったら
冬に ユリカモメが いる 川や 池が 近くに あれば、足に 足環の ある とりが いないか、とおくから 見て みましょう。もし 見つけたら、ばんごうや 色が 読めるか、しゃしんに とれるか ためして みてください。見つけた 日と 場所も、ノートに かいて おきましょう。
とりには 近づかないで ください。エサも あげないで ください。
足環の きろくを あつめると、その とりが どこへ いったかが わかります[4]。ことしの ふゆと らいねんの ふゆを くらべて みるのも、おもしろいです。
冬に近くの川や池でユリカモメを見かけたら、足に足環がついていないか、離れた場所から探してみてください。見つけたら、色や文字が読める写真を撮り、見つけた日と場所を記録します。足環の記録が集まると、その鳥の移動や寿命が分かります[4]。
足環がなくても、できることがあります。同じ川の同じ場所で、同じ時間に何羽いるかを数え、毎年同じ時期に比べます。数が似ているからといって同じ鳥とは言えませんが、「この川には毎年だいたい何羽くるのか」という手がかりになります。
鳥には近づかず、エサも与えないでください。
足環の記録が集まるしくみを知りたいときは、足環の記録を紹介している我孫子市鳥の博物館の資料[4]が手がかりになります。
冬に近くの川や池でユリカモメを見かけたら、足環がついた個体がいないか、離れた場所から探してみる。見つけたら、色や文字が読める写真を撮り、日時と場所を記録する。足環の記録が集まると、その個体の移動や寿命が分かる[4]。
足環がなくても、同じ川の同じ場所で、同じ時間帯に何羽いるかを数えて毎年同じ時期に比べる方法がある。個体は特定できないが、「この川に毎年どのくらい来るのか」という数の変化は見える。調べるときは、鳥から離れ、エサを与えない。
自分の観察で試すなら、同じ川の同じ場所で、同じ時期に見られるユリカモメの数を、何年か続けて記録して比べるとよい。数が似ていても同じ個体とは限らないので、足環の記録と合わせて考える。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
出典について:我孫子市鳥の博物館は公的施設の資料、Spaans・Bengtsson & Blomquist・Bonder は学術誌の論文です。論文は要約(アブストラクト)を読んで書いており、本文の表までは確かめていません。
- Spaans, A.L. (2000) “Grote plaatstrouw van Kokmeeuwen Larus ridibundus aan een winterkwartier in Den Haag” Limosa 73(3): 87–96。 https://nou.nu/limosa/limosa_samenvatting.php?nr=3935 (ハーグの池での色足環の調査。194羽・57%・52%の数字は、要約の英文による)
- Bengtsson, K., Blomquist, L. (2001) “Origin, migration, and site fidelity of Black-headed Gulls Larus ridibundus ringed at Malmö” Ornis Svecica 11: 59–77。 https://doi.org/10.34080/os.v11.22860 (マルメで標識した鳥の回収記録の分析。要約のみ)
- Bonder, M. (1999) “Geringde Kokmeeuwen Larus ridibundus in de winter in Eelde” Drentse Vogels 12(1): 58–63。 https://natuurtijdschriften.nl/pub/552054 (エーレデで足環を読み取った10羽の記録。要約のみ)
- 我孫子市鳥の博物館の広報資料(2022年1月)。 https://www.city.abiko.chiba.jp/bird-mus/info2/tegatan/tegatan2017_.files/tega202201.pdf (手賀沼で足環をつけたユリカモメが12歳で見つかった例)
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