1. 表紙は、なにを して いるの?
1. 表紙の仕事は、まず「守る」こと
1. 表紙は、中身の代わりに傷みを引き受ける部品だった
本を 手に とって みて ください。いちばん 外がわに ある ものが 表紙です。表紙は、中の ページを 守って、題名を のせて、かざりにも なります[1]。日本の むかしの 本では、題名を 書いた 小さな 紙(題簽)を 表紙に はりました[1]。
おもしろいのは、守る ために、表紙の ほうが 先に きずつく ことです。ヨーロッパの むかしの 本を 見せて いる 図書館の せつめいでは、表紙は すりへる ことを 引きうけた ので、中の ページの ほうが 長もち しやすかったと いわれます[4]。
ときには、いたんだ 表紙だけを とりかえた 本も ありました[4]。表紙は、本の いちばん 外がわで、きずを うけとめて います。
では、むかしの 表紙は、なにで できて いたのでしょう。
古いヨーロッパの本には、すり切れた表紙だけを付け替えて、中身はそのまま使い続けたものがありました[4]。本を手に取ると、まず目に入るのが表紙です。日本の美術用語の辞典では、表紙は冊子や巻物の外側を覆うもので、中身を守ることと、飾ることのために付けるとされています[1]。表の面には、題名を書いた題簽を付けるのが一般的でした[1]。
守るという仕事には、意外な面があります。コーネル大学図書館の展示は、中世ヨーロッパの本では表紙が擦り減りを引き受けたため、守られた中の紙のほうが表紙より長持ちしやすかったと説明しています[4]。表紙だけが付け替えられた写本も多いとされます[4]。
つまり表紙は、傷むことで中身を守る部品として始まりました。では、その表紙は何でできていたのでしょうか。
製本とは、折ったページをそろえて綴じ、表紙をつけて一冊にする作業である[2]。その外側の表紙について、日本の美術用語の辞典は、冊子本・折本・巻子本の外側を覆い、保護と装飾のために付けるものとし、正面には題名を記した題簽が付くのが一般的だと述べる[1]。
注目したいのは、保護の中身である。コーネル大学図書館の展示によれば、中世の本では表紙が摩耗の負担を引き受けたため、それに守られた中の紙のほうが長持ちする傾向があった[4]。そのため、表紙を付け替えて今に伝わる写本も多い。
ここから、表紙は「壊れないこと」より「中身の代わりに傷むこと」で役目を果たしてきた、と読める。ただし、守る・題名・飾るの3つのうち、どれが最初の役目だったかは、これらの資料からは言い切れない。次に、守るために使われた材料を見る。
2. むかしの 表紙は、どうして 木の 板だったの?
2. 木の板と革でできた、重い表紙
2. 木の芯・革・金具 ── 中世ヨーロッパの写本の表紙
むかしの ヨーロッパの 本は、手で 書いた 大切な もの でした。その 表紙には、木の 板が 入って いました[3]。
木の 板を、革で くるんで、もようを おして かざりました[3]。イタリアや ドイツでは ブナ、イギリスや フランスでは オークの 木を つかったと いいます[3]。
板は 重い ので、ページを 上から おさえて くれます。ページに つかった 羊の 皮の 紙は、そりやすい ので、表紙の 重さが そりを おさえるのに 役だったと いわれます[3]。
角や まんなかには、金属の かざりの びょうも つきました。つくえや ゆかに 本が じかに つかないように して、すりへりを うけとめる やくめです[4]。
図書館では、本を くさりで たなに つないで おく ことも ありました[4]。それほど 本は 大切で、たかい ものだった からです。
中世ヨーロッパの手書きの本(写本)の表紙は、芯に木の板を使いました。国立国会図書館の資料によれば、イタリアやドイツではブナ、イギリスやフランスではオークが使われ、その板を革で覆って、型押しの模様で飾りました[3]。
板にはもう一つ理由がありました。ページに使われた羊皮紙は反りやすいので、重い表紙で本を押さえ、反りをおさえやすくする働きもあったとされます[3]。
革表紙の角や中央に付けた金属の飾り鋲も、飾りだけではありません。机や床に表紙が直接つかないようにして、擦り減りを受け止める役目がありました[4]。図書館の棚に鎖でつないで保管された本もあり、それだけ本が高価で貴重だったことがうかがえます[4]。
ところで、こうした本は、どう置かれていたのでしょうか。置き方が分かると、題名の書き場所も変わって見えてきます。
中世ヨーロッパの写本の表紙は、芯に木の板を使い、その外側を革で覆い、型押し(tooling)で飾る構造だった。木の種類は地域で異なり、イタリア・ドイツではブナ、イギリス・フランスではオークが使われたと、国立国会図書館の資料は記す[3]。
板が重い理由は、ページの材料である羊皮紙が反りやすいため、重い表紙で本を押さえ、反りをおさえやすくする働きがあったとされる[3]。革表紙の角や中央に付く金属製の飾り鋲(ボス)は、装飾を兼ねながら、机や床に表紙が直接触れないようにして摩耗を受け止めた[4]。
これほど手をかけた表紙でも、先に傷むのは表紙だった。鎖で図書館の棚につないだ写本が示すように、本は高価で貴重だった。そこで、中身を残すために、表紙の板・革・金具のほうへ摩耗を集めるつくりが選ばれた、と読める[4]。ただし、なぜ木が選ばれたかを直接説明する資料は、今回の範囲にはない。では、そんな本の題名は、どこに書かれたのか。
3. 題名は、どこに 書いて あったの?
3. 本を平らに置いた時代、題名は「縁」に書いた
3. 平置きの本の題名 ── 表紙ではなく小口に書いた時代
いまの 本は、たなに 立てて ならべますね。せなかの 文字を 見れば、題名が 分かります。
でも 16せいきごろまでは、本は たいらに おいて いたと いわれます[3]。つみ かさねて おくと、見える のは 本の ふちだけです。
そこで、題名を 本の ふち(小口)に 書いたり、かざりに したり するのが ふつうでした[3]。表紙の 上では なく、横から 見て 分かる ように した のです。
題名の 書き場所は、本の おきかたに 合わせて かわって きた ようです。
今の本は棚に立てて並べ、背の文字で題名を探します。ところが、国立国会図書館の資料によれば、16世紀ごろまでは本を平らに置くことが多く、題名は表紙ではなく、本の縁(小口)に書いたり飾ったりするのが普通でした[3]。
平らに積んだ本では、見えるのは縁だけです。題名を縁に書くのは、探しやすさから見て自然な工夫でした。
のちに本を立てて並べるようになると、見える面が変わります。題名の書き場所も、置き方に合わせて変わっていったと考えられます。表紙に題名がまったく無かったわけではありませんが、縁にも書くのが普通だったところに、置き方と題名の位置の深いつながりが見えます。
では、表紙の見た目は、どのように変わっていったのでしょうか。
16世紀ごろまでは本を平らに置くのが一般的で、そのため題名は表紙より小口(本の縁)に書いたり装飾したりするのが普通だった、と国立国会図書館の資料は述べる[3]。
理由は、置き方にある。平積みの本では、見える面は小口と表紙の上面に限られる。この資料から、重い木の表紙で本を平らに保つこと(前章)と、小口に題名を置くことは、同じ置き方を前提にした一連のしくみだったと読める。表紙に題名が全く無かったと言い切るのは危うく、「小口にも」書かれた、と受け取るのが安全である。
のちに棚に立てて並べる置き方へ移ると、見える面が背に変わるため、題名の位置も動いたと考えられるが、移り変わりの細部は今回の資料の範囲を超える。次に、材料そのものが変わる19世紀の転機を見る。
4. 本を つつむ 紙は、なんの ために できたの?
4. 布の表紙のあとに現れた、本を包む紙
4. 布の表紙を守る紙が、値段や宣伝にも使われるまで
いまの 本には、表紙の 上に もう 1まい、紙の カバーが ついた ものが あります。この カバーは いつ ごろ 生まれたのでしょう。
ヨーロッパでは、1820ねん代に、きかいで 本を つくる ほうほうと、ぬの の 表紙が ひろまりました[6]。しゅっぱんしゃは、たくさんの 本を 同じ ぬの の 表紙で つくれるように なりました。
うつくしい ぬの の 表紙は、買う 人の 手に とどく まえに よごれて しまいます。そこで 本を 紙で つつんで、まもる ように なったと いわれます[6]。
いまの ところ 知られて いる いちばん ふるい つつみ紙は、1829ねんごろの ものです[5]。ふうろうで とめる 紙で、値段も 書いて ありました[5]。
はじめは まもる ための 紙でしたが、のちには 絵や しょうかいの 文を のせる、せんでんの 紙としても 使われて いったと いわれます[6]。
19世紀の初めまで、西洋の本の表紙は木や革が主流でした。1820年代になると、機械的な製本の技術と布の表紙が広まり、出版社は一度に多くの本を同じ布装で作れるようになりました[6]。
きれいな布の表紙は、買い手の手に届く前に汚れたり傷ついたりしやすいものです。本を紙で包むジャケットは、この1820年代の終わりまでに現れたといわれ、初めの役目は布の表紙を守ることだったとされます[6]。
知られている中で最古とされる包み紙は、1829年ごろのもので、オックスフォードのボドリアン図書館で見つかりました[5]。本を包んで封蝋でとめる紙で、12シリングという値段が印刷されていました[5]。守るだけでなく、値段を知らせる役目も見てとれます。
のちには、絵柄や紹介文がジャケットに載るようになったといわれます[6]。ただし、これは全体の傾向で、個々の本はそれぞれ違います。
表紙は、守る板から、見せる・飾る・売る顔へも広がっていったのです。日本では、この流れはどう入ってきたのでしょうか。
西洋では19世紀初めまで、木や革の表紙が主流だった。1820年代に機械的な製本と布の表紙が広まると、出版社が同じ布装を一度に多数作れるようになった[6]。本を包むジャケットは、1820年代の終わりまでに現れたとされ、布の表紙が一般的になった時期と重なる[6]。
知られている最古とされる包み紙は、1829年ごろ、1830年版の贈答本 Friendship's Offering のためのもので、ボドリアン図書館で見つかった[5]。封蝋でとめる包み紙で、値段(12シリング)が印刷されていた。年は資料により1829年・1830年と表記が揺れ、「知られている中で」という限定も付く。
初めは美しい布の表紙を傷から守る紙だったとされ、のちに絵柄や紹介文の載る宣伝の媒体としても使われた[6]。ただしこれは全体の傾向であって、個々の本はそれぞれ異なる。守る板だった表紙には、こうして「守る部品」のほかに「見せて売る部品」の面も加わっていった。最後に、日本の場合を見る。
5. 日本の 本は、いつ ごろ 洋ふうの 作りに なったの?
5. 日本に洋式の製本が来たとき
5. 和装本と洋装本 ── 明治初めに入った洋式製本
日本の むかしの 本は、ひもで とじた 「和とじ」の 本が 中心でした。表紙の 正面には、題名を 書いた 小さな 紙(題簽)を はる ことが 多かったと いわれます[1]。
洋ふうの 作りかたは、明治の はじめに 日本へ つたわりました。1873ねんに、外国人の ぎじゅつしゃが いんしょきょくで つたえたと されて います[2]。
いまの 本は、ほとんどが 洋ふうの 作りです[2]。
6. 家の 本で、表紙の はたらきを さがして みよう
6. 家の本で、守る表紙と見せる表紙を見分けてみる
6. 手元の本で確かめる ── 摩耗の位置と、資料の読み方
やってみよう① 家の 本を 3さつ えらんで、カバーを はずして みましょう。カバーの 下の 表紙は、どんな ようすですか。カバーが ある ときと ない ときで、見た目は どう ちがうでしょう。
やってみよう② 長く 読まれた 本の 角を 見て みましょう。ほかの ところより、すりへって いませんか。むかしの 本の びょうが うけとめて いた ところと、にて いるかも しれません。
図書館や 本の 売り場でも、表紙の 見せかたを くらべて みると、おもしろいですよ。
今日、家でできることがあります。本棚から3冊を選び、カバーをはずしてみてください。カバーの下の表紙は、どんな手ざわりで、何が書いてありますか。カバーには、傷を防ぐ役目のほかに、絵や紹介文で本を伝える役目もありますか。
長く読まれた本は、角や背がすり減っていることがあります。傷む場所が、表紙の角や縁に集まっているかを見ると、鋲が受け止めていた擦り減りと同じ考え方が見えてきます。
出かけられるなら、図書館や書店で、布の表紙・革の表紙・ジャケット付きの本を見比べると、役目の違いが分かります。本の製本について知りたいときは、国立国会図書館のウェブサイトなど、公的な機関の説明を調べてみるのもよいでしょう。
手元の本の表紙で確かめられるのは、摩耗の位置と、ジャケットの有無である。長く読まれた本の傷みが角や縁に集まっているか、カバー(ジャケット)を外した表紙に題名や装飾があるかを見ると、本文で見た保護・題名・装飾・宣伝の役目が、現代の本のどこに残るかを考えられる。
資料の読み方としては、次の点に注意したい。西洋の表紙の歴史の一部(布装の普及やジャケットの年)は、ウィキペディアやブログの要約を出典に含む。1829年/1830年の表記のゆれがあり、「知られている中で」「1820年代」といった限定は外せない。より詳しく調べるには、国立国会図書館のインキュナブラ(初期印刷本)の章(英語)、コーネル大学図書館の展示、ボドリアン図書館のブログなどの一次的な資料にあたるとよい。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文の事実は、次の資料を突き合わせて書きました。年や名称に限定が付くものは、本文にそのまま書いています。
- 日本美術のかたち(JAANUS)「表紙」 https://aisf.or.jp/~jaanus/deta/h/hyoushi.htm (表紙の役目・題簽)
- コトバンク「製本」(世界大百科事典・デジタル大辞泉) https://kotobank.jp/word/%E8%A3%BD%E6%9C%AC-86498 (製本の定義・日本への洋式製本の伝来)
- 国立国会図書館「Incunabula(世界の中のインキュナブラ)」第4章 https://www.ndl.go.jp/incunabula/e/chapter4/index.html (木の板の表紙・重い表紙・題名の位置)
- Cornell University Library, Medieval Book exhibit "Leather and Chains" https://exhibits.library.cornell.edu/medievalbook/feature/leather-and-chains (飾り鋲・摩耗・鎖つきの本)
- Bodleian Library blog "Earliest known book wrapper or dust-jacket" https://blogs.bodleian.ox.ac.uk/theconveyor/earliest-known-book-wrapper-or-dust-jacket/ (最古のダストジャケット)
- Wikipedia "Dust jacket" https://en.wikipedia.org/wiki/Dust_jacket (布装の普及・ジャケットの役目の変化。二次資料)
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