1. なのはなも ダイコンも、おなじ 十字の 花なの?
1. 菜の花もダイコンも、十字の形に開く
1. 菜の花もダイコンも同じ十字形:科の古い名前に残った形
春の 畑で、黄色い なのはなと、うすい 色の ダイコンの 花を 見くらべて みましょう。色は ちがっても、花びらは どちらも 4まい。ひらくと、十字の かたちに なります。
この 十字の 花を もつ なかまを、アブラナ科と いいます。むかしの 名前は 「十字花科」でした。十字の 花の 科、という いみです。キャベツの 花も、この 十字の なかまに 入ります。
花びらが 4まいで 十字に 見える。まずは これが、アブラナ科の 花の いちばんの とくちょうです。
春の畑で、黄色い菜の花と、うすい色のダイコンの花を見くらべてみましょう。色はちがっても、花びらはどちらも4枚で、開くと十字の形になります[1]。
この仲間を、いまはアブラナ科と呼びます。古い科名は「十字花科」(学名ではCruciferae)で、十字花植物とも呼ばれていました。名前の由来は、花の十字形の配置です[1][2]。
世界には約350属、約3000種があるとされます。種の数は資料によって3000〜4000と幅があります[1]。見た目も食べ方もちがう野菜が、花ではそろって十字をつくります。
では、あの十字は花のどこがどう並んでできるのでしょうか。
アブラナ科の花は、4枚の花弁が離れてついており、開くと十字形になる。かつての科名Cruciferae(十字花科)は、この十字形の配置に由来し、十字花植物という呼び名もあった[1][2]。現在の科名はBrassicaceaeで、Cruciferaeは古い慣用名として残っている。
この科は約350属、約3000種とされるが、別の資料は約4000種とする。資料によって数が異なるため、数字には「約」と出典を添えて読む必要がある[1]。
菜の花(アブラナ)も、ダイコンも、キャベツも、この科に入る。見た目も食べ方も全く違うのに、花を開くと同じ十字形が現れる。では、その十字は花のどの部分がどう並んで作られているのか。
2. 十字は、花びらが どう ならぶと できるの?
2. 十字は、花びらをがく片のすきまに置くとできる
2. 十字形の正体:4枚ずつの輪が互い違いに重なる4数性
花の いちばん 外がわには、みどりの 小さな 「がく」が 4まい あります。つぼみを つつんで いた ぶぶんです。
花びらは、その すぐ 内がわに 4まい あります。そして、がくの 真上では なく、がくと がくの あいだに ななめに 入ります。
花びらは ぜんぶで 4まい、ぐるりと 90度ずつ ずれて ならびます。上から 見ると、それが 十字に 見えるのです。
たとえるなら、まるく 手を つないだ 4人の あいだに、べつの 4人が ひとりずつ 入って ならんだ ようすです。ただし 本当の 花びらは、根もとが 細く、先が 広がって います。
花を外側から順に見ると、いちばん外にがく片が4枚、その内側に花びらが4枚あります。花びらは、がく片の真上ではなく、がく片とがく片のあいだ、つまり斜めの位置に入ります[2]。
4枚の花びらは90度ずつずれて並ぶので、上から見ると十字に見えます。こうした「4つ組」の花の作りは、4数性と呼ばれます。がく片の輪と花びらの輪が、互い違いになっているのが特徴です[4]。
花は外から内へ、輪を重ねるように作られます。モデル植物のシロイヌナズナで調べられた例では、第1の輪にがく片4、第2の輪に花びら4、第3の輪に雄しべ6、いちばん中に、2つの部分がくっついた雌しべがあります[3]。
ここまでで、十字に見える理由の要点は分かりました。次の問いは、「なぜ4なのか」です。
3. 4まいだと、花に とくなの?
3. 「4」は、花にとって得な数なのか
3. 4数性は有利さで説明されているのか:総説が示す「制約」の見方
「4まいが いちばん とくだから、そうなった」と、考えたくなります。でも、そう せつめいした 研究は、今回しらべた 本や ろんぶんには 出て きません。
研究者が 言って いるのは、べつの ことです。アブラナ科の 花の 形は、なかまの 中でも ふるい タイプの 形だと みられて います。そして、とても つよく 守られて います。その ため、花の 形には 大きな 「きまり」の ような ものが ある のでは ないか、と 考えられて います。
まだ はっきり 分かって いない ことです。分かって いない ところが、おもしろい ところでも あります。
「十字が虫を呼びやすいから」「4枚が一番ちょうどいいから」と、理由を考えたくなります。ところが、資料のなかには、この十字の形が有利だと示した研究は出てきません。花びらが4枚の4数性は、植物の大きなグループ(真正双子葉類)では、ときどきしか見られない特徴とされています[4]。
研究者が書いているのは、有利さの話とはちがいます。アブラナ科の花の基本形は、近い仲間(アブラナ科、フウチョウソウ科、クレオメ科)のなかで祖先的な型とみなされています。それがとても強く保たれていることから、花の形には大きな制約がありそうだ、と総説は述べています[4]。
「得だからこうなった」ではなく、「作り方の型が簡単には変わらない」。いまの研究は、そちらの方向を向いています。
型が変わりにくいなら、近い仲間と比べたとき、数のゆれ方に差が出るはずです。実際にそのちがいを調べた研究があります。
十字形や花弁4枚は、花粉を運ぶ虫にとって有利だから進化した、と考えたくなる。しかし、今回たどった資料のなかに、花弁4枚の十字形を適応として示した研究は出てこない。4数性は、真正双子葉類では「ときどき見られる」特徴にとどまる[4]。
代わりに、Brassicaceae flowers: diversity amid uniformity(J Exp Bot 2019)という総説は、基本形がアブラナ科・フウチョウソウ科・クレオメ科の仲間のなかで祖先的な型とみなされ、これほど強く保たれていることは「花の形態にかなり大きな制約がある」ことを示唆する、と述べている[4]。この「制約」は、形が変わりにくいという見方であり、4枚が有利だという説明とは別物である。
制約が実際にあるなら、近縁種と比べたとき、4枚という数のゆれ方に差が出るはずだ。その差を調べた研究がある。
4. 近い なかまには、花びらが 0まいの 花も あるって ほんとう?
4. 近い仲間では、花びらの数がゆれることがある
4. シロイヌナズナは常に4枚、近縁のタネツケバナ属の一種は0〜4枚
モデルの 植物として よく 研究されて いる シロイヌナズナは、花びらが いつも 4まいです。ふえたり へったり しません。
ところが、ちかい なかまの タネツケバナの なかまの ある 草は、花ごとに 0まいから 4まいまで ばらばらです。同じ 草でも、花びらが ない 花が あったり、4まい そろう 花が あったり します。
シロイヌナズナの 4まいは、「かならず そろう ように おさえられて いる」と 考えられて います。
おさえて いる 役の ひとつが、AP1と いう 遺伝子です。AP1は、花びらの 数を かえる かもしれない ほかの 遺伝子の はたらきを かくして、4まいで 安定させて います。
この AP1を、ばらつく なかまに 入れてみると、花びらの 数の ばらつきが 小さく なったと 言われて います[5][6]。
たとえば、おさらの くぼみに ボールを おくと、ゆすっても まん中に もどる ようすに にています。ただし 本当は、AP1だけで 4まいが 決まる わけでは ありません。ばらつきを かくす 役です。
モデル植物として世界中で研究されているシロイヌナズナの花は、花びらの数がいつも4枚です。変わらない形質です[5]。
ところが、近縁のタネツケバナ属の一種(英名hairy bittercress)の花は、0枚から4枚までばらばらです[5]。同じ科でも、数が守られている種と、ゆれる種があるのです。
差を作っている遺伝子のひとつに、AP1があります。シロイヌナズナのAP1は、花びらの数を変えうるほかの遺伝子の働きを隠して、数を4に安定させる役をしています。この型のAP1をタネツケバナ属の一種に入れると、花びら数のばらつきが小さくなったと報告されています[6]。
ただし、AP1だけで4枚が決まるわけではありません。ばらつきを抑える役のひとつです。たとえるなら、お皿のくぼみに置いたボールのように、ゆすられても真ん中にもどる性質を作っていると考えられます。
では、花びらに囲まれた中の部品はどうでしょう。雄しべにも、十字の仲間らしい特徴があります。
シロイヌナズナの花弁数は常に4で、不変の形質である。一方、近縁のCardamine hirsuta(タネツケバナ属の一種)は、花弁数が0〜4枚と花ごとにばらつく[5]。同じ科でも、数が守られる種とゆれる種がある。
では、この差は何が作るのか。Monniauxら(2018)は、シロイヌナズナのAP1遺伝子が、花弁数を変えうる他の遺伝子の働きを覆い隠し、数を4に安定させていることを示した。その型のAP1をC. hirsutaに導入すると、花弁数のばらつきが小さくなった[5][6]。
ただし、AP1が4枚を「決める」のではない。ばらつきを隠す役である。ここでいう安定化は、深い皿に置いたボールがゆすられても中央に戻る様子に近いが、一つの遺伝子だけで説明できるわけではない。また、ここで調べられたのは花弁数であり、十字形そのものの進化的な理由ではない。
花弁の内側の部品にも、この科らしい数と長さの規則がある。
5. 花の まん中の おしべは、どうして 長さが ちがうの?
5. 雄しべは6本で、長さが2種類ある
5. 四強雄蕊:6本の雄しべの長短は虫の動きと関係するか
花びらを 4まい はずすと、おしべが 6本 あります。よく 見ると、そとがわの 2本は みじかく、うちがわの 4本は 長く なって います。
花の ちゅうしんの めしべは、2つが くっついて できて いて、中に しきりが あります。
おしべの 長さが ちがう わけは、はっきり 決まって いません。ただ、野生の ダイコンの なかまで、虫の うごきを スローモーションの どうがで しらべた 研究が あります。長い おしべと みじかい おしべが あると、虫が よく うごいて、花ふんを はこびやすく なるのでは、という かんがえに あう ものでした。
これは おしべの 話で、花びらの 十字形の 理由では ありません。
花びらを外すと、雄しべが6本あります。外側の2本は短く、内側の4本は長くなっています。この並びは「四強雄蕊」と呼ばれます。花の中心には雌しべがあり、2つの部分(心皮)がくっついてできていて、中に仕切りがあります[1][2]。
長さのちがいに意味はあるのでしょうか。野生のダイコン(Raphanus raphanistrum)を使い、訪れる虫の動きをスローモーション動画で調べた2025年の研究があります。長い雄しべと短い雄しべがあると、虫がよく動いて花粉を運ぶのに役立つ、という仮説を支えた結果で、さまざまな虫に対応する受粉のための適応かもしれない、と結論づけています[7]。
ただしこの研究が調べたのは雄しべの長短で、花びらの十字形ではありません。十字形の理由は、いまのところ「なぜ4か」と同じく、はっきり答えが出ていない問いです。
雄しべは6本で、外側の2本は短く内側の4本は長い。これを四強雄蕊(tetradynamous)という。花の中心の雌しべは2心皮からなり、隔壁(仕切り)をもつ[1][2]。
長短の差の意味については、野生ダイコン(Raphanus raphanistrum)で、訪花昆虫の動きをスローモーション動画で解析した研究がある。2種の雄しべがあると虫がよく動き受粉に役立つという仮説を支持する結果で、著者らは、多様な虫に対応する一般的な受粉への適応かもしれないと結論づけた[7]。
ただし、この研究の対象は雄しべの長短であり、花弁の十字形の機能を検証したものではない。また、野生ダイコン1種での結果であり、他のアブラナ科に一般化できるかは別の問題である。十字形と4数性の理由は、現時点では機能ではなく発生上の制約として論じられている段階だ。
6. 花を 1りん ならべて、4・4・6・2を 数えてみよう
6. 花を1輪ばらして、4・4・6・2を数える
6. 4・4・6・2を自分の目で数え、4でない花を探す
アブラナ科の 花が 手に はいったら、1りんを ゆっくり ばらして みましょう。さわって いい 花か、おうちの 人に 聞いてから にします。ピンセットや 指で、やさしく はずします。
そとから、がくは 4まい、花びらは 4まい、おしべは 6本、めしべは 1つです。おしべは、長い ものと みじかい ものを わけて ならべて みましょう。
花びらが 4まいに ならない 花を 見つけたら、どんな ふうだったか、ノートに 絵で かいて みましょう。
菜の花でもダイコンでも、アブラナ科の花が手に入ったら、1輪をていねいにばらしてみましょう。畑や道ばたの花は、持ち主や管理する人に聞いてからにします。指かピンセットで、外側から順にはずします。
数えるのは、がく片4、花びら4、雄しべ6(短い2本と長い4本)、雌しべ1です。花びらをがく片の位置とずらして台紙に並べると、斜めに入っている様子が見えます。
たくさんの花を数えると、4枚でない花に出会うこともあるかもしれません。見つけたら、枚数と、どの輪が変わっていたかを記録してみてください。
花を数輪見つけたら、花びらの数を数えて比べてみましょう。同じ株に咲く花どうしでも、数や並びに違いがあるでしょうか。
虫は十字をどう見ているのか、雌しべの仕切りの中はどうなっているのか。気になった問いが、次の観察になります。
自分で確かめるには、アブラナ科の花を1輪ばらして、がく片・花弁・雄しべ・雌しべの数を数えるのがよい。4・4・6・2という並びと、雄しべの長短(外側2・内側4)が実際に見える。花弁をがく片の位置と比べて台紙に並べれば、交互配置も確かめられる。採取してよい場所の花を使い、持ち主や管理者の許可を得ること。
多数の花を数えると、花弁が4枚でない個体に出会う可能性もある。そのときは、枚数と、どの輪の数が変わっていたかを記録するとよい。シロイヌナズナで「常に4」、C. hirsutaで「0〜4」と報告されている数の安定性が、野外の花でどの程度成り立つかは、各自の観察で見えてくる。
花を数輪見つけたら、花弁の数を数えて比べるとよい。同じ株の花どうしでも、枚数や配置に差があるか。1輪だけでは分からない「ばらつき」が、数輪並べると見えてくる。この科の花の基本形と多様さの見方は、総説にまとめられている[4]。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文で使った資料です。
- 世界大百科事典「アブラナ科」(コトバンク). https://kotobank.jp/word/%E3%82%A2%E3%83%96%E3%83%A9%E3%83%8A%E7%A7%91-3141461 (科名・花弁4枚・雄しべの長短・種数)
- Brassicaceae (Cruciferae), Botany Online, Universität Hamburg. https://www-archiv.fdm.uni-hamburg.de/b-online/vascular/brassic.htm (科名の由来・花弁の斜めの配置)
- Xu, Y. et al. Plant Physiology 146(2):566-575 (2008). https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2245835 (シロイヌナズナの花の4つの輪)
- Brassicaceae flowers: diversity amid uniformity. Journal of Experimental Botany 70(10) (2019). https://academic.oup.com/jxb/article/70/10/2623/5368346 (4数性・基本形が保たれていることの見方)
- Monniaux, M. et al. The role of APETALA1 in petal number robustness. eLife (2018). https://elifesciences.org/articles/39399 (花弁数が常に4の種と、ばらつく種)
- eLife digest "How many petals?". https://elifesciences.org/digests/39399/how-many-petals (AP1がばらつきを隠す役)
- Waterman, R. et al. Royal Society Open Science 12(9) (2025). https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12457041/ (野生ダイコンの雄しべの長短と虫の動き)
なおした ところ
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