1. ぬるい かんジュースは、なぜ あまく かんじるの?
1. ぬるくなると、なぜ「甘すぎる」と感じるのか
1. 冷たさは甘さを弱めるのか ── 飲料は冷やして飲む前提という解説
つめたい かんジュースは ちょうど いい あまさ。なのに のこして ぬるく なると、「あれ、あまったるい」と かんじた ことは ありませんか。
イギリスの かがくの ざっしの かいせつに よると、つめたさは あまさを かんじにくく させます。おみせで うる のみものは、ひやして のむ ことを かんがえて つくられて いて、ぬるく なると あまく なりすぎる、と いう せつめいが あります[5]。
ただし これは のみもの ぜんたいの はなしです。かんコーヒーの 1つ1つが どう つくられて いるかを 言って いる わけでは ありません。
では、した の なかで なにが おきて いるのでしょう。
冷蔵庫から出したばかりの缶ジュースはちょうどいい甘さなのに、飲み残してぬるくなると、急に甘ったるく感じる。ぬるさで甘さの印象が変わることは、案外よくあります。
イギリスの科学雑誌の質問コーナーには、冷たさは甘さを感じにくくするので、市販の飲み物は冷やして飲むことを考えて作られていて、ぬるくなると甘すぎる、という説明があります[5]。
ただし、これは飲み物全般についての一般的な説明です。特定の缶コーヒーの配合や設計を述べたものではありません。この記事でも、缶コーヒーの甘さの作り方には踏みこみません。
むしろ気になるのは、冷たさがなぜ甘さを弱めるのか、という点です。答えは、舌の中の小さな部品にありました。
ぬるくなった缶ジュースが甘すぎる、という体験には、解説がある。英国の科学誌BBC Science Focusの質問欄は、冷たさは甘さの感覚を抑え、市販の飲料は冷やして飲むことを考えて作られているので、ぬるいと甘すぎる、という説明をしている[5]。
ただし、これは一般的な説明で、特定の缶コーヒーの配合を述べたものではない。メーカーの設計は、ここで使った資料からは分からないので、以降は「温度は甘さの感じ方に影響する」という原理に絞る。
では、冷たさは舌のどこで、どうやって甘さを弱めるのか。2005年に、その手がかりになる部品が報告された。
2. した の なかに、温度で うごく ぶひんが ある?
2. 舌の中に、温度で働きが変わる部品があった
2. 味蕾のTRPM5チャネルと温度 ── 2005年のNature論文
した には、あじを かんじる ちいさな きかんが あります。そこに、「TRPM5(ティーアールピーエム ファイブ)」と いう ぶひんが あります。
2005年に、この ぶひんが 温度で はたらきを かえる ことが 本に のりました。マウスに あまい 水を なめさせて、水の 温度を 15℃から 35℃まで かえて しらべました。すると、あまさを つたえる しんけいの はんのうが かわりました。ところが TRPM5を もたない マウスでは、温度を かえても かわりませんでした[1]。
この けんきゅうを しょうかいした 大学の ほうこくでは、TRPM5は 15℃だと ほとんど ひらかず、37℃だと 100ばい いじょう かんじやすい と せつめいされて います[2]。
ただし 100ばいは ぶひんの かんじやすさの はなしです。あまさが 100ばいに なる わけでは ありません。また マウスの じっけんなので、人の かんコーヒーの あじを はかった ものでも ありません。
マウスで見つかった、温度で動く部品
舌には、味を感じる細胞が集まった味蕾(みらい)という小さな器官があります。その細胞にあるTRPM5というチャネル(細胞の出入り口のような部品)が、温度で働きを変えることが2005年に科学誌『ネイチャー』で報告されました[1]。
実験では、マウスの舌に甘い液をあて、液の温度を15℃から35℃まで変えながら、味を伝える神経の反応を測りました。温度で反応が変わりましたが、TRPM5を持たないマウスでは、温度を変えても反応は変わりませんでした[1]。
100倍は何の数字か
この研究を紹介した大学発の報告では、TRPM5は15℃ではほとんど開かず、37℃では感度が100倍以上になると説明されています[2]。ここで注意したいのは、100倍はチャネルの感度の話で、甘さが100倍になるという意味ではないことです。
なお、これはマウスの実験です。人が缶コーヒーを飲んだときの味を測ったものではありません。
味蕾の細胞に発現するTRPM5チャネルは、温度によって働きが変わる。Talaveraらは2005年、『Nature』438巻に載った論文で、マウスの鼓索神経(舌の味を伝える神経の一つ)の甘味への応答が溶液温度(15〜35℃)で変調され、TRPM5を欠くマウスでは温度を変えても応答が変わらないと報告した[1]。つまり、温度による甘味の変化には、このチャネルが関わっていると考えられる。
この研究を紹介したルーヴェン大学(K.U.Leuven)発の報告は、TRPM5が15℃ではほとんど開かないのに対し、37℃では感度が100倍以上高いと説明する[2]。ただし、この100倍はチャネルの感度であって、感じる甘さが100倍になるわけではない。体温(約37℃)に近づくほど開きやすいという性質が、「冷たいと甘さを感じにくい」ことの一つの説明になる。
注意点は、マウスの神経応答の実験であることと、論文の本文ではなく書誌と要旨にもとづく点だ。人の舌では、同じことが起きるのか。
3. なにも のんで いないのに、あまく かんじる?
3. 舌の温度を変えるだけで、「甘い」を感じる人がいる
3. 人の舌への温度刺激 ── 温めると「甘い」、冷やすと「苦い・すっぱい」
人の した では どうでしょう。した の 一ぶだけを あたためたり ひやしたり して、なにを かんじるかを きく じっけんが あります。
この じっけんでは、あたためる ときに「あまい」、ひやす ときに「にがい」や「すっぱい」と こたえる 人が おおかった と ほうこくされました[3]。あまさを かんじはじめた 温度は、22℃から 38℃の あいだでした。にがさは、温度が 32℃から 18℃に さがる ときに おおく でました[3]。
ただし、だれでも こうなる わけでは ありません。この けんきゅうは、温度だけで あじを かんじる 人を あつめて おこなわれました。かんじかたの ちがいは、とても おおきい そうです[3]。
温度だけで味を感じる人たち
人の舌の一部に温度の変化だけを与えて、何を感じるかを答えてもらう実験があります。温めるときは「甘い」、冷やすときは「苦い」や「すっぱい」という答えが多かったと報告されています[3]。
甘さを感じ始めた温度は22〜38℃の幅で、苦みは温度が32℃から18℃へ下がるときに多く報告されました[3]。この研究では、体温より低い温度から甘さを感じ始めた人もいました。
みんなが同じではない
ただし、この研究は温度だけで味を感じる人を対象にしていて、感じ方には個人差が大きいと書かれています[3]。だれもが同じように感じる、という意味ではありません。
人の舌ではどうか。Skinnerらの研究(2018年)は、舌に温度変化だけを与える実験で、温めるときに「甘い」、冷やすときに「苦い」「すっぱい」の報告が多かったことを示した[3]。甘味を感じ始める温度は22〜38℃、苦味は温度が32〜18℃に下がる範囲に多く現れた[3]。
ここでTRPM5の話とつなげると、体温に近づくほど甘さが出る傾向とは向きが合う。ただし、論文がそう結論したとは書かれておらず、このメモでの読み合わせにとどまる。
さらに、この研究の対象は温度だけで味を感じる人(thermal taster)で、個人差が大きい。全員にあてはまる法則ではない[3]。では、ふつうの飲み物ではどうなるのか。中学生が実際に確かめた記録がある。
4. ちゅうがくせいが のみくらべた けっかは?
4. 中学生の飲み比べでは、何℃がいちばん甘かったか
4. 2013年の中学生の自由研究 ── 7種の飲み物を約3〜45℃で比べる
大阪の 中学校の 生徒が、じゆうけんきゅうで 7しゅるいの のみものを よういして、さまざまな 温度で のみくらべました。ただし、サイダーは たんさんが ぬけて しまい、けっかの かんがえからは はずされました。
リンゴジュースなど 3しゅるいは、35℃ぐらいが いちばん あまく かんじられました。つめたすぎると、あじを ほとんど かんじません。たかすぎると、すっぱさが でました。みかんの ジュースなどは、温度が たかいほど あまく かんじられました[4]。
ただし これは 中学生の 小さな じゆうけんきゅうです。ここから 「ぜんぶの のみものは こう なる」とは 言えません。
大阪教育大学附属天王寺中学校の生徒が、自由研究(2013年)で、7種類の飲み物を用意し、約3〜45℃で飲み比べました。ただし三ツ矢サイダーは炭酸が抜けたため、結果の考察からは除かれています[4]。
結果は、リンゴジュースなど3種類は35℃前後が甘く、冷たすぎると味をほとんど感じず、温度が高すぎると酸っぱさが出た、というものでした。みかん果汁などは、温度が高いほど甘く感じたそうです[4]。
体温に近い35℃前後で甘さが強く出る、という点は、先ほどの舌の実験とも向きが合います。ただし、飲み物によって甘さのピークは違い、これは中学生の自由研究という小さな規模の結果です。法則として言い切ることはできません。
この資料は、糖の種類による違いも紹介しています。果糖は温度が高いほど甘さが減り、ショ糖やブドウ糖は温度であまり変わらない、といわれます[4]。ただし、元のデータの出どころはこの資料に書かれておらず、「といわれる」程度の話です。
大阪教育大学附属天王寺中学校の生徒は、自由研究(『自由研究 第38集』、2013年)で、7種類の飲み物を用意し、約3〜45℃に変えて飲み比べた。ただし三ツ矢サイダーは炭酸が抜けたため、結果の考察から除かれている[4]。2℃前後では冷たくて味をほとんど感じず、35℃では甘く、48℃では後味が残って少し酸っぱいと記録している。
リンゴジュースなど3種は35℃前後が最も甘く、温度が高すぎると酸っぱさが出た。みかん果汁などは、温度が高いほど甘く感じた[4]。つまり、飲み物ごとに甘さのピークが違う。
この資料が引く図では、果糖は温度が高いほど甘さが減り、ショ糖とブドウ糖は温度でほとんど変わらないとされる。果物(果糖が多い)は冷たいほうが甘く、甘味料のケーキは体温付近のほうが甘かった、との記述もある[4]。ただし、図の元データの出典は資料に明記されておらず、「といわれる」程度に読むのがよい。
35℃で甘いという結果は、先に見た舌の実験(22〜38℃)や、TRPM5が体温付近で開きやすいという話と矛盾しない。しかし、人数と方法は小規模な自由研究で、一般法則として扱えない。飲み物ごとにピークがずれる以上、「何℃が最も甘い」と一つの数字で言い切ることもできない。
5. かんコーヒーでは、どこまで 言えるの?
5. 缶コーヒーでは、どこまで言えるのか
5. 缶コーヒーに当てはめるときの限界 ── 「熱すぎる」は味の温度ではない
ここまで 見た じっけんは、マウスの 水や、人の した、ジュースの 話です。かんコーヒーを 使った じっけんでは ありません。
コーヒーには にがさも あります。にがさが 温度で どう かわるかは、この 記事で 使った しりょうでは わかりません。わかるのは、「温度で あまさの かんじかたは かわりうる」までです。
あつい コーヒーは、また べつの はなしです。ドイツの 87人に きいた 小さな けんきゅうでは、「あつすぎる」と かんじる 温度は へいきん 66℃、すきな 温度は へいきん 63℃でした[6]。この「あつすぎる」は、いたみに ちかい かんじで、あまさの はなしとは ちがいます。
ここまでの実験は、マウスの甘い液、人の舌への温度刺激、ジュースの飲み比べで、どれも缶コーヒーそのものを使ったものではありません。缶コーヒーには苦みもあり、苦みが温度でどう変わるかは、この記事で使った資料では分かりません。いえるのは、「温度によって甘さの感じ方は変わりうる」というところまでです。
ホットのコーヒーは、また別の話になります。ドイツの87人を対象にした小さな研究では、ホットコーヒーを「熱すぎる」と感じる温度は平均66℃(58〜71℃)、好みの温度は平均63℃(55〜70℃)でした[6]。
この「熱すぎる」は痛みに近い感覚の境目で、味の甘さの話ではありません。同じ「温度と飲み物」でも、味の感じ方と、熱さを感じる境目は分けて考える必要があります。
以上の実験はいずれも缶コーヒーそのものを用いておらず、結論をそのまま当てはめることはできない。缶コーヒーは苦味も持つが、苦味が温度でどう変わるかは、ここで使った資料の範囲では分からない。支えられるのは、「温度は甘味の感じ方を変えうる」という範囲だ。
ホットについては、ドイツの87人を対象にした小規模な研究(PMC6025158)がある。ホットコーヒーを「熱すぎる」と感じる温度(痛みのしきい値)は平均66℃(58〜71℃)、好みの飲用温度は平均63℃(55〜70℃)だった[6]。ただしこれは痛覚の温度と好みの温度の話で、甘味の感じ方とは別の量だ。
では、自分の舌でも確かめられるのか。家にあるもので試せる。
6. ぬるい ジュースで、あまさの かわりめを さがそう
6. 同じ飲み物を、冷たいときとぬるいときで飲み比べる
6. 出口 ── 飲み比べの手順と、読んでみたい原典
おうちの 人と いっしょに やります。1つの ジュースを、コップ 2つに わけます。1つは れいぞうこで ひやし、もう 1つは へやに しばらく おきます。のみくらべる すぐ まえに、れいぞうこから つめたい ほうを だします。ホットでは やりません。
ひやした ほうと、ぬるい ほうを、のみくらべて、どちらが あまく かんじるか おうちの 人と くらべます。かんじかたは 人に よって ちがうので、答えが ちがっても だいじょうぶです。
すきな 温度を さがすのも おもしろい です。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
出典について:学術論文の書誌、大学の報告、中学校の自由研究、科学誌の解説を使った。何に使ったかは、それぞれの項目の最後に書いている。
- Talavera K. ほか(IDEAS/RePEcの書誌・要旨ページ)「Heat activation of TRPM5 underlies thermal sensitivity of sweet taste」Nature 438:1022-1025(2005年)。https://ideas.repec.org/a/nat/nature/v438y2005i7070d10.1038_nature04248.html (TRPM5と温度、マウスの実験について。書誌と要旨にもとづく)
- Innovations Report「K.U.Leuven発表の紹介」。https://innovations-report.com/?p=56959 (TRPM5の感度が15℃と37℃で100倍以上違う説明について。二次資料)
- Skinner ほか 2018年 Physiology & Behavior。https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5861308 (人の舌への温度刺激と味の報告について)
- 大阪教育大学附属天王寺中学校『自由研究 第38集』「味と錯覚」。https://f.osaka-kyoiku.ac.jp/tennoji-j/wp-content/uploads/sites/4/2020/09/38-12.pdf (飲み物の温度と甘さの飲み比べについて。中学生の自由研究)
- BBC Science Focus「Why do some drinks taste better when they are cold?」。https://www.sciencefocus.com/qanda/why-do-some-drinks-taste-better-when-they-are-cold (冷たさが甘さを感じにくくする一般的な説明について)
- Pilot study of coffee temperature(PMC6025158)。https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6025158/ (熱すぎると感じる温度と好みの温度、87人の小規模な研究について)
なおした ところ
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