1. 牛肉の パックの 数字は、どこから 来たの?
1. 牛肉の10桁の数字は、牛の耳についていた番号
1. 牛肉の表示番号は、生きていた牛の耳標と同じ番号である
日本で 育った 牛には、原則として、生まれた あとに、10けたの 番号が 書かれた 小さな ふだが 両耳に つけられます[1]。これは 2003年12月から 始まった、牛を 一頭ずつ 追うための 決まりです[1]。外国から 来た 牛にも 同じ 番号が つきます[2]。
この 番号が あると、どこで 生まれたか、どこで 育ったかが 分かります[2]。お店で 売る 牛肉にも、同じ 番号を 書く ことに なって います[3]。パックの 数字から、その 牛の ことを しらべる ことも できます[2]。
これは 名前では なく、数字です。では、名前は ないのでしょうか。
日本で飼われている牛には、原則として輸入牛も含めて、10桁の個体識別番号を印字した耳標が両耳につけられます[1]。根拠は牛トレーサビリティ法という法律で、2003年(平成15年)12月に施行されました[1]。番号からは、性別や種別、生まれてから飼われた場所などの履歴が記録されています[2]。
国内で飼われた牛の肉にも、この10桁の番号が表示されます。販売する業者や飲食店には、表示の義務があります[3]。番号を入力すれば、インターネットで生産の履歴を調べられる仕組みもあります[2]。牛肉は、牛の耳についていた番号とつながっているわけです。
ここで気づくのは、番号は数字で、名前ではないということです[3]。法律が決めているのは番号のほうで、名前のつけ方は別の話です。では、牛の名前はどこにあるのでしょうか。
牛トレーサビリティ法(平成15年12月施行)により、国内で生まれた牛と輸入牛には、原則として、10桁の個体識別番号を印字した耳標が両耳に装着される[1][2]。番号と結びつけて、性別・種別と、出生から飼養地までの履歴が記録される[2]。
この制度は牛肉にも及び、国内で飼養された牛の肉には同じ個体識別番号が表示され、販売業者・飲食店には表示の義務がある[3]。購入した肉の番号から、インターネットで生産履歴を調べられる[2]。つまり、店頭の肉とその牛の耳標を、番号が一本の線でつないでいる。
ただし、これは名前ではなく番号である[3]。制度が定めているのは番号の付与と管理であり、名前の付け方までは、これらの資料には書かれていない。では、名前はどこで生まれているのか。
2. 番号が あるのに、名前も つけるの?
2. 名前は、親牛の記録をたどる「登録名」にある
2. 登録名は、子牛登記証明書で血統を示す
名前は あります。黒い 毛の 和牛などの 子牛は、生まれた あと、登録の ための しらべを とおると、親子の つながりを 書いた 紙が もらえます[4]。この 紙に、親の 名前が 書かれて います[4]。
しかも、おじいさん・おばあさんの 代まで 書かれて います。牛を 売り買いする とき、どんな 親の 子なのかが 大切だからです[4]。
和牛の 子牛の 名前は、おすか めすかが 分かりやすいように、おすは 漢字、めすは ひらがなで つけると 書かれて います[4]。
番号は、牛に つく、くつ箱の 番号みたいな もの。名前は、親との つながりを しめす 名ふだです。番号は 国の 決まりで 牛を 一頭ずつ 追う ための もの。登録の 名前は、牧場で 牛を よぶ 名前とは べつに、親子の つながりを 記録する 役目が あります。
名前はあります。黒毛和種などの子牛は、生まれたあと登録のための検査に合格すると、子牛登記証明書が発行されます。証明書には、二代祖(祖父母の代)までの父母の名前と、三代祖の父の名前が書かれます[4]。牛を売り買いするとき、どんな親の子なのか(血統)が重く見られるためです[4]。
このときつけられる名前にも決まりがあります。農林水産省の資料によると、和牛の子牛は、雌雄が分かりやすいように、雄は漢字、雌はひらがなで名前がつけられます[4]。名前を見るだけで、おすかめすかが分かる工夫です。
番号は、原則として対象となる牛に国が決めた方法でつく管理用の符号です。名前は、血統を記録に残すための登録名で、役割がちがいます。ただし、この「雄は漢字・雌はひらがな」は農林水産省の資料に書かれた和牛の話で、乳牛にはまた別の決まりがあります。
黒毛和種などの子牛は、出生後に登録のための検査に合格すると、子牛登記証明書が発行される。証明書には二代祖までの父母名と三代祖の父名が記載され、取引では血統が重視される[4]。つまり名前は、血統を示す記録の一部として機能している。
農林水産省の解説では、子牛の名前は雌雄が分かりやすいように、雄は漢字、雌はひらがなで付けられる[4]。ただし、この規則は肉用の和牛についての記述であり、乳牛の登録名は別の形式をとる(次章)。
番号と名前を比べると、役割の違いが見える。番号は法律にもとづき原則として対象となる牛に付与され、牛肉のトレーサビリティを支える管理用の識別子である。一方、登録名は血統の記録に属しており、取引の場で親子関係を示す。牧場で日ごろ牛をどう呼ぶかは、登録名や番号とは別の話であり、その付け方を決めた制度は、この調べた範囲では見当たらなかった。
3. ミルクを 出す 牛の 名前は、なぜ 長いの?
3. 乳牛の名前は、父母の名を受け継いでカタカナで長くなる
3. ホルスタインの登録名は、父母の名を引き継ぐ
ミルクを とる 牛(ホルスタイン)の 名前は、カタカナで、とても 長い ものが あります。たとえば 東京で ひらかれた、子牛の 名前を みんなから 集めた とき、父牛が 「サンワード スーパー エモーション」、母牛が 「メトロ ルナ デンプシー メイ」でした[5]。
この 子牛の 名前は 「メトロ メイ エモーション ○○○○○」と なります[5]。母牛の 名前の 「メトロ」「メイ」と、父牛の 名前の 「エモーション」が 入って いますね。さいごの ○○○○○ だけを、さんかした 人が 考えます[5]。
この ときは、使える 文字は カタカナ・アルファベット・数字・ドット・ハイフンで、ひらがなと 漢字は 使えません。文字数は 10文字までです[5]。
ミルクをとる牛(ホルスタイン)の登録名は、父牛と母牛の名前を受け継ぐ形があります。東京の子牛命名募集の例では、父牛が「サンワード スーパー エモーション」、母牛が「メトロ ルナ デンプシー メイ」で、子牛の名前は「メトロ メイ エモーション ○○○○○」。母牛の名から「メトロ」「メイ」、父牛の名から「エモーション」が引き継がれ、最後の部分だけを応募者が決める仕組みでした[5]。
使える文字はカタカナ、アルファベット、数字、ドット、ハイフンで、ひらがなと漢字は使えません。この募集では10文字以内という条件がつきました。ただし、この文字数は、この募集の条件です[5]。
長野県が認定した「名誉原種牛」の名前を見ると、「エムケー アフター クリマ」「エムケー ランナー マンサ」のように複数の語が並んでいます[6]。名誉原種牛は、乳量や乳成分、体型などの基準を満たした原種牛を2頭以上産んだ母牛です。名前は、県の発表にも載る牛の「名札」になっています[6]。
乳牛(ホルスタイン)の登録名には、父牛・母牛の名を受け継ぐ形がある。東京の子牛命名募集の例では、父牛「サンワード スーパー エモーション」と母牛「メトロ ルナ デンプシー メイ」から、名前は「メトロ メイ エモーション ○○○○○」の形をとり、末尾だけを応募者が決める[5]。母の名の語と父の名の語が、そのまま子の名前に入っていることが読み取れる。
使用できる文字はカタカナ・アルファベット・数字・ドット・ハイフンで、ひらがなと漢字は使えず、この募集では10文字以内とされた[5]。ただし10文字以内は、この募集の条件である。
実際の登録名の例として、長野県の令和2年度名誉原種牛には「エムケー アフター クリマ」「エムケー ランナー マンサ」などが挙がる。名誉原種牛は、乳量・乳成分・体型などの基準を満たした原種牛を2頭以上産んだ母牛である[6]。複数語の長い名前は、血統を引き継ぐ形式のあらわれと読めるが、先頭の語が牧場名にあたるかは、資料からは断定できない。
4. 名前で よぶと、牛は ミルクを たくさん 出すの?
4. 名前で呼ぶ農場は、乳量が多かった
4. 英国の酪農場管理者516人への調査では、牛を名前で呼ぶ農場の乳量が多かった
イギリスの ニューカッスル大学の 研究者が、牧場の 人 516人に、手紙で アンケートを しました[8]。その 結果、牛を 名前で よぶ 農場の ほうが、ミルクが 258リットル 多く とれて いた ことが 分かりました[7][8]。ただし、なん日分・なん頭分の 数かは、資料からは 分かりません。
おなじ 調査では、多くの 人が 「牛にも 気持ちや かしこさが ある」と 答えました。「牛は 人を こわがる」と 答えた 人は 少なかった そうです[8]。
だからと いって、名前を つけると 牛が たくさん ミルクを 出す、とは 言えません。次の 章で 理由を 見ましょう。
イギリスのニューカッスル大学の研究チームは、酪農場の管理者516人に郵送でアンケートを送りました。その結果、牛を名前で呼んでいる農場は、そうでない農場より乳量が258リットル多かった、と報告しています[7][8]。ただし、期間や1頭あたりかといった数え方は、資料からは分かりません。
この調査は2009年に学術誌『Anthrozoös』に発表されました。同じ調査で、多くの回答者が「牛には感情と知性がある」と答え、「牛は人を怖がる」とする回答は少数派だったといいます[8]。
では、名前をつければ乳量が増えるのでしょうか。「名前で呼ぶ農場の乳量が多かった」ことは報告されていても、名前が原因だったとまでは言えません。次の章で、その理由を見ます。
英国ニューカッスル大学の研究チームは、酪農場の管理者516人を対象に郵送調査を行い、牛を名前で呼ぶ農場は、そうでない農場より乳量が258リットル多かったと報告した(Bertenshaw & Rowlinson, 2009, Anthrozoös 22(1):59-69)[8][7]。ただし、集計の期間や単位は資料から分からない。調査の主題は、農場管理者の人と動物の関係のとらえ方と乳生産の関連である。
同じ調査では、多くの回答者が牛に感情と知性があると答え、牛は人を怖がるとする回答は少数派だった[8]。
この結果は、名前で呼ぶことと乳量の多さが「同時に見られた」という相関であり、名前をつけたから乳量が増えた、という因果を示すものではない[8]。次章では、報告された解釈とあわせて、その限界を整理する。
5. 名前の おかげ? それとも、ほかの わけ?
5. 乳量を増やしたのは、名前か、それとも世話の仕方か
5. 相関の読み方:名前の効果か、世話の仕方の指標か
研究者の 一人は、名前そのものが ミルクを ふやすのでは ないと 話しました。名前で よばれる 牛は、一頭ずつに かけて もらう 気配りが 多くて、もっと 落ち着いて いるのだろう、という 考えです[7]。
たとえば、毎日 名前で よびかけて 世話を して いる 農場なら、牛の 様子に よく 気づけるかも しれません。それとも、もともと 世話を ていねいに する 人が、名前も よぶのかも しれません。アンケートだけでは、どちらかは 決められません[8]。
名前の 力なのか、気配りの 多さが 名前に あらわれて いるのか。それは まだ 分かって いません。
研究者の一人は、名前そのものが乳量を増やすのではない、という趣旨を述べています。名前で呼ばれる牛は、一頭ずつにかけられる気配りが多く、より落ち着いて過ごしているのだろう、という見方です[7]。
これは、2つの読み方ができることを示しています。ひとつは、名前で呼ぶことが牛への気配りを増やし、乳量につながる、という順番。もうひとつは、もともと牛をていねいに世話している農場ほど、名前でも呼ぶ、という逆の順番です。この調査はアンケートなので、どちらなのかは区別できません[8]。
名前をつければ乳量が増える、とは言い切れません。なお、258リットルのような数字を使うときは、1頭あたりか1年あたりかといった数え方を、原典で見て確かめる必要があります。
この調査はアンケートによる観察であり、「名前で呼ぶ」という回答と乳量の多さの対応を示しただけで、介入によって原因を確かめた実験ではない。研究者の一人は、名前そのものが乳量を増やすのではなく、名前で呼ばれる牛は一頭ずつにかけられる気配りが多く、より落ち着いているのだろうという趣旨を述べた[7]。つまり、名前は気配りの量を表す指標かもしれない、という解釈である。
この解釈でも、因果の向きは複数考えられる。名前で呼ぶことが気配りを促した、という向きと、もともと気配りの多い農場が名前でも呼ぶ、という向きである。アンケートだけでは両者を分けられず、農場の規模や飼い方といった別の要因が影響している可能性も排除できない。
乳量258リットルという数字についても、1頭あたりか1年あたりか、といった数え方は、本稿で参照した資料の範囲では示されていない。数字を引用する場合は、論文本文または補足資料で、測り方を確かめる必要がある。この点が、一次資料に当たるべき理由のひとつである。
6. 自分でも 調べて みたく なったら
6. 牛肉のパックで、番号を探してみる
6. 牛肉の表示番号と原典で確かめられること
おうちの 人と スーパーに 行ったら、日本で 育った 牛の 肉の パックを 見て、10けたの 数字を さがして みましょう。数字の けたを 数えて、本当に 10けたか しらべて みます。パックは さわりすぎ ないで、見るだけに しましょう。
見つけた 数字は、牛が 生きて いた とき 耳に つけて いた 番号と 同じです。その 牛は どこかで 生まれて、育って いたと 思うと、パックが ちがって 見えるかも しれません。
おうちの 人と 牧場に 行く ことが あれば、牛の 耳に 小さな ふだが ついて いるか、見て みましょう。牛に さわったり、大きな 声を 出したり しない ように します。
おうちの人とスーパーに行ったら、国産の牛肉のパックから、10桁の個体識別番号を探してみましょう。桁を数えて、本当に10桁かを確かめます。同じ売り場でも、パックによって番号がちがうことに気づけるかもしれません。パックは触りすぎず、見るだけにとどめます。
番号を入力して生産履歴を調べる仕組みがあることは、農林水産省や県のページに書かれています[2]。使うときは、おうちの人と一緒に行いましょう。牧場や動物園で牛を見る機会があれば、耳の札と、牛を呼ぶ人の声かけにも注意してみてください。遠くから静かに見て、係の人の指示に従います。
名前と乳量の調査は、英語の論文です。読めなくても、題名と要旨に「名前で呼ぶ農場」の話が書かれていることは、出典欄から探せます。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
出典について:農林水産省と県のページ、子牛登記と命名募集の解説、長野県の発表、英国の大学の調査の発表と要旨を使った。何に使ったかは、それぞれの項目の最後に書いている。
- 農林水産省 九州農政局「牛トレーサビリティ制度」。https://www.maff.go.jp/kyusyu/syohianzen/nouchiku/ushitore.html (耳標と法律の施行について)
- 宮城県「子牛の個体識別」。https://www.pref.miyagi.jp/soshiki/sd-kaho/kotaishikibetu.html (番号と履歴、生産履歴の検索について)
- 農林水産省「相談コーナー」。https://www.maff.go.jp/j/heya/sodan/1901/02.html (牛肉への番号表示と表示の義務について)
- 農林水産省 aff 2016年8月号「子牛登記」。https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/1608/spe1_04.html (子牛登記証明書と和牛の名前の決まりについて)
- 公募ガイド「東京農林水産フェア 子牛の命名募集」(東京都農林水産振興財団)。https://koubo.jp/contest/153199 (ホルスタインの名前の例と文字の条件について)
- 長野県「令和2年度長野県ホルスタイン名誉原種牛を認定」。https://www.pref.nagano.lg.jp/enchiku/happyou/20210312gensyu_gyu.html (名誉原種牛の名前と認定の基準について)
- ScienceDaily(ニューカッスル大学の発表)。https://sciencedaily.com/releases/2009/01/090128074933.htm (乳量の差と研究者の見方について)
- Newcastle University eprints(Bertenshaw C, Rowlinson P. "Exploring Stock Managers' Perceptions of the Human-Animal Relationship on Dairy Farms and an Association with Milk Production." Anthrozoös 2009, 22(1):59-69 の要旨。論文の書誌情報で探せる)。https://apps-eprint4-l.ncl.ac.uk/149618 (調査の対象と結果について)
なおした ところ
更新履歴
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