カラスの かしこい はなしは ほんとう?

カラスの賢い話は、どこまで本当なのか

カラスの「賢い逸話」を確かめる ── 車でクルミを割る行動から、鳴き声を数える実験まで

分野:生きもの

カラスに ついて、「くるまを つかって クルミを わる」と いう はなしを きいた ことは ありますか。

この メモでは、そんな はなしが ほんとうか どうか、研究けんきゅうした ひとたちの ほうこくを 見て いきます。

信号で止まっている車の前に、カラスがクルミを置く。そんな話を聞いたことはありませんか。

このメモでは、カラスの「賢い話」がどこまで本当なのかを、研究者の論文や報告書で確かめます。確かめられたことと、まだ分からないことを分けて書きます。

カラスの賢さをめぐる話には、研究で裏づけられたものと、そうでないものが混ざっています。前のメモ(カラスの知能)では、道具づくりや顔の記憶を扱いました。

このメモでは、日本の街で報告された「車でクルミを割る」行動を出発点に、それを疑った研究、地域による差、人の顔と顔の向きへの反応、鳴き声を数える実験、見本どおりに物を作る実験を、原典にあたって整理します。

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1. カラスが しんごうの まえに クルミを おく

1. 仙台の交差点で、カラスがクルミを置く

1. 仙台のハシボソガラス ── 信号待ちの車にクルミを轢かせる

仙台せんだいの まちに、ハシボソガラスと いう カラスが います。その カラスが、信号しんごうで とまって いる くるまの まえに、クルミを おきます。

くるまが うごくと、クルミは タイヤで つぶされて、から が われます。カラスは、われた なかみを たべます。

クルミの から は、とても かたいです。たかい ところから おとしても、われない クルミが あります。だから、くるまの ちからを かりて いるように 見えます。

くるまの タイヤは、おおきな ハンマーみたいな ものです。ただし、カラスが ほんとうに そう かんがえて いるのかは、まだ よく わかって いません。

これを 研究けんきゅうした ひとは、21か月の あいだ、カラスを 見つづけて、43回ぶんを くわしく 記録きろくしました。

信号待ちの車の前に、クルミを置く

仙台市で、ハシボソガラスがオニグルミを車に轢かせて割る行動が研究されました(1990年代)。手順はこうです。カラスが、信号で止まっている車の前にクルミを置く。車が動いてクルミを轢く。カラスが、割れた中身を食べる。

東北大学の仁平義明が1995年に発表した論文では、21か月の観察のあいだにこの行動がよく見られ、43回を詳しく記録しています[1]

高いところから落とす方法もある

カラスは、10メートルより高いところからクルミを落として割ることもあります。ただ、この方法では割れないほど硬いクルミもあります[1]

1990年代の仙台市で、ハシボソガラスがオニグルミを自動車に轢かせて割る行動が研究されました。仁平義明(東北大学)が1995年に日本鳥学会誌へ発表した論文は、典型的な手順を次のように記述しています。カラスが、信号で止まっている車の前にクルミを置く。車が動いてクルミを轢く。カラスが砕けた実の破片を食べる[1]

21か月の観察期間中にこの行動は頻繁に見られ、そのうち43例が詳しく記録されました[1]。カラスは10メートル以上の高さからクルミを落として割ることもありますが、この方法では割れないほど硬いクルミもあります[1]

2. まいかい やりかたが ちがう

2. 「毎回ちがう」ことが、大事な手がかりだった

2. 行動のバリエーション ── 偶然ではないと考えた根拠

この カラスたちは、いつも おなじ やりかたを して いるわけでは ありませんでした。

クルミを 木から とって くる ことも あれば、じめんに うめて おいた ものを ほりだす ことも ありました。クルミを おく ばしょも、あかしんごうで とまった くるまの すぐ まえだったり、くるまが とおりそうな ところに、まえもって おいて おいたり しました。

その ときどきで やりかたを かえるので、ただの ぐうぜんでは ないのでは、と かんがえた ひとが いました。ただし、ほんとうの ことは、まだ ぜんぶは わかって いません。

状況に合わせて、やり方を変える

仁平が仙台市の川内地区で観察を続けたところ、この行動にはいくつものバリエーションがありました[2]

  • クルミの手に入れ方:果肉のついた青いクルミを木から直接とる。埋めてたくわえておいた、果肉のないクルミを取り出す。
  • 置き方:赤信号で止まった車の直前に歩み出て置く。車が通りそうなところに、あらかじめ置いておく。
  • そのほか:場所、時刻、交通量、待つ時間、置き直しなど。

「偶然ではなさそう」と考えた理由

同じ個体でも、状況によって手順が変わります。仁平は、決まった1つの手順を覚えているのではなく、状況に合わせて使い分けられる知識のまとまり(スキーマ)を学んだのだろうと考えました[2]。1995年の論文も、この行動は偶然ではなく、割れにくいクルミや果肉のついたクルミを割るための「もう1つの発明」ではないかと考えています[1]

1997〜1999年度の報告書は、この行動が出てくる場所を、オニグルミが生える水辺の自然と、ある程度の交通量がある人間の社会とが接する「境目」だと述べています。ほかのカラスへの伝わり方は、親から子へ伝わる可能性が残されたままです[3]

仁平の科研費報告(1994年度)は、仙台市川内地区での連続観察から、この行動に次のようなバリエーションがあると記しています[2]

  • クルミの手に入れ方:果肉のついた青いクルミを木から直接とる。埋めて貯えておいた、果肉のないクルミを取り出す。
  • 置き方:赤信号で停車した車の直前に歩み出て置く。車が通りそうな場所にあらかじめ置いておく。
  • そのほか:場所・時刻・交通量、待ち時間、置き直しなどの修正行動。

同じ個体の中でも状況に応じて手順が柔軟に変わることから、仁平は、固定された1つの手順ではなく、複数の知識をまとめた「スキーマ」を学習したと考えるのがよいと述べています[2]。1995年の論文も、この行動を偶然ではなく系統的なものと見なし、高所から落としても割れないほど硬いクルミや、果肉のついたクルミを割るための「代わりの発明」と解釈しています[1]

1997〜1999年度の報告書は、この行動の出現条件を、オニグルミが茂る水辺の自然環境と、ある程度の交通量がある人間社会が接する「境界現象」と位置づけています。行動は単純な固定的行動ではなく、多くの要素を考慮した柔軟な行動であり、他個体への伝播経路は「親子間伝播である可能性が残された」という結論です[3]

3. ほんとうに くるまを つかって いるの?

3. 「たまたまでは?」と疑った研究者たち

3. 反論 ── 「カラスは自動車をクルミ割りに使わない」(1997年)

この はなしを うたがった ひとも います。アメリカの カリフォルニアと いう ところで、アメリカガラスと いう カラスを 見た ひとたちです。

その ひとたちは、「カラスは くるまを クルミわりに つかって いない」と いう ろんぶんを 出しました。くるまで クルミが われるのは、かたい じめんに ものを おとして わる ときに、たまたま おこる ことかも しれない、と いうのです。

ただし、カラスの しゅるいも、ばしょも ちがいます。だから、どちらかが まちがいと、すぐには いえません。

アメリカで調べた人たちの結論

この話を疑った研究者もいます。カリフォルニア州デイビスでアメリカガラスを観察したダニエル・クリストルらは、1997年に「カラスは自動車をクルミ割りに使わない」という題名の論文を発表しました[4]

この論文は、車が来たときと来ないときで、カラスの行動を比べています。車が来たからといって、車を使うような行動は増えませんでした。そこで、車でクルミが割れるのは、舗装された硬い地面に落として割る行動の「副産物」である可能性を示唆しています。著者たちも、意図的な利用を完全には否定できないと書いています[4]

2つの結果は、そのまま比べられない

ただし、鳥の種も国もちがいます。仁平が「偶然ではなさそう」と考えた根拠は、条件に応じて手順を変えるバリエーションでした[1][2]。意図してやっているのか、副産物なのかという問いに、決着がついたとは、このメモで読んだ資料には書かれていません。

この話を疑った研究者もいます。ダニエル・クリストルらは、カリフォルニア州デイビスでアメリカガラスを観察し、1997年に「Crows do not use automobiles as nutcrackers: putting an oft-repeated anecdote to the test(カラスは自動車をクルミ割りに使わない ── よく繰り返される逸話を検証する)」という題名の論文を The Auk 誌に発表しました[4]

この論文は、車の有無で、カラスが道路に「近づく・クルミを落とす・クルミを残す」行動を比べています。車が来たときに、車を利用する行動は増えませんでした。そこで、車でクルミが割れるのは、舗装面にものを落として割る行動の副産物である可能性を示唆しています。ただし著者たちは、意図的な利用を完全には否定できないとも書いています[4]

ただし、鳥の種も国もちがう2つの結果を、そのまま比べることはできません。仁平が「偶然ではなさそう」と考えた根拠は、条件に応じて手順を変えるという、バリエーションの多さでした[1][2]。意図的な行動か、副産物かという問いに決着がついたとは、このメモで読んだ資料には書かれていません。

4. 函館はこだての カラスは ちがった

4. 函館のカラスは、少しやり方がちがった

4. 地域差 ── 函館(2016年)では、仙台とちがう方法が見られた

北海道ほっかいどう函館はこだてでも、カラスが クルミを わって いる ようすを しらべた ひとが います。

仙台せんだいでは、くるまの まえに クルミを おいて いました。でも 函館はこだてでは、電線でんせんなどの たかい ところから、クルミを おとして いました。

しらべた ひとたちは、函館はこだての やりかたは、仙台せんだいより、まだ うまく なって いないのでは、と かんがえて います。

どうして ばしょに よって ちがうのかは、この メモの しりょうだけでは わかりません。

電線から落とす函館のカラス

荒奏美・三上かつら・三上修は、2016年の秋から冬に函館市内でハシボソガラスを観察し、2019年に日本鳥学会誌へ発表しました[5]

仙台では、信号で止まった車の前にクルミを置く方法が見られたのに対して、函館では、電線などの高いところからクルミを落とす方法が見られました。著者たちは、函館の行動は、仙台の例に比べて、まだ効率よくなっていないのだろうと考えています[5]

各地で、別々に始まったのかもしれない

仁平の1994年度の報告は、北海道・東北でのアンケート調査から、この行動が宮城県のほかのいくつかの県でも見られることを確かめました。始まった時期から、各県でそれぞれ、同じころに起きたと考えたほうがよい、としています[2]

仙台の行動がほかの場所へ伝わったのか、それぞれの場所で思いついたのかは、ここで読んだ資料からは決められません。

荒奏美・三上かつら・三上修の論文(日本鳥学会誌、2019年)は、2016年の秋から冬に函館市内で観察した結果を報告し、仙台とのちがいを指摘しています[5]。仙台では信号で止まった車の前にクルミを置く方法が見られたのに対し、函館では、電線などの高い所からクルミを落とす方法が中心でした。著者らは、函館市のハシボソガラスのクルミ割り行動は、仙台市の事例に比べて、まだ効率化が進んでいないと推測しています[5]

一方、仁平の1994年度の報告は、北海道・東北での広域的な質問紙調査から、車を利用する行動が宮城県以外のいくつかの県でも見られることを確認しました。その発生時期から、この行動は各県で独立に、しかも同じような時期に起きたと考えたほうがよい、としています[2]

地域による差が生まれる理由や、行動がどのように広がるのかは、このメモで読んだ資料からは決められません。仙台の行動が別の場所へ伝わったのか、それぞれの場所で独自に生まれたのかは、上の2つの資料が別々の見方を示している、というところまでです。

5. カラスの なかまは 人を 見わけるの?

5. 見られていることに気づく鳥

5. 視線と個体識別 ── ニシコクマルガラスの実験(2015年)

ここからは、クルミの はなしとは べつの けんきゅうを 3つ 見ます。まず、人を 見わける カラスの なかまの はなしです。

イギリスの ケンブリッジの ちかくで、カラスの なかまの ニシコクマルガラスを しらべた ひとたちが います。

けんきゅうしゃは、ふたつの おめんを つかいました。ひとつは、まえに の はこから ひなを だして、おもさを はかった ときの おめんです。もうひとつは、そばを あるいて とおりすぎただけの ときの おめんです。

そのあと、どちらかの おめんを つけて、はこの ほうを むいて 立ちました。すると、ひなを だした ときの おめんの ほうが、とりたちは に もどるのが おそく なりました。おめんで 人を 見わけて、けいかいしたのです。

かおの むきは、もどる はやさには えいきょうしませんでした。はこの ほうを むいて いる ときに、はいるのが すこし はやい ようすは ありましたが、はっきりした ちがいでは ありません。

ところで、「カラスは 人の しせんを 見て、を さがして、ひなを たべに くる」と いう はなしを 見る ことが あります。この メモで しらべた はんいでは、それを たしかめた ろんぶんは 見つかりませんでした。

ここからは、クルミ割りとは別の研究を3つ見ていきます。最初は、カラスの仲間が人をどう見分けるかです。

おめんを使った実験

ケンブリッジ大学のガブリエル・デイヴィッドソンらは、ケンブリッジ郊外のマディングレー村で、野生のニシコクマルガラス(カラスの仲間)を調べ、2015年に発表しました[6]

研究者は2種類のお面を使い分けました。「脅威」のお面は、前に巣箱からひなを取り出して体重を量ったときに着けたもの。「中立」のお面は、巣箱のそばを歩いて通り過ぎただけのときに着けたものです。そのあと、どちらかのお面を着けた研究者が、巣箱のほうか、その反対を向いて立ち、鳥の反応を測りました[6]

巣箱に戻るまでの時間は、脅威のお面のときのほうが、はっきり長くなりました。ひなを取り出したときのお面だと見分けて、警戒したのです[6]

顔の向きも調べた

顔の向きは、戻るまでの時間には影響しませんでした。巣箱の外に降りたあとでは、研究者が巣箱のほうを向いているときのほうが、入るのが早い傾向がありましたが、はっきりした差とはいえません。論文は、危険を感じるかどうかは、向きよりも「誰か」を見分けることで決まる部分が大きい、と結論しています[6]

人の顔を覚える話は、前のメモのマーズラフの実験にも出てきます。

確かめられなかった話

「カラスは人の視線の先に巣があると知って、ひなを食べにくる」という話を見かけることがあります。今回調べた範囲では、それを実験や観察で確かめた論文は見つけられませんでした。上の実験は、人が巣箱のほうを向いているときの鳥の反応を調べたもので、カラスが人の視線を手がかりに巣を探すという話とは別です。

ここからは、クルミ割りとは別の比較的新しい研究を3つ見ます。人への反応(2015年)、鳴き声を数える課題(2024年)、見本どおりに物を作る課題(2024年)です。

ケンブリッジ大学のガブリエル・デイヴィッドソンらは、ケンブリッジ郊外のマディングレー村で、野生のニシコクマルガラス(カラス科の鳥)が人の個体差や顔の向きにどう反応するかを調べ、2015年に Animal Behaviour 誌へ発表しました[6]

研究者は2種類のマスクを使い分けました。「脅威」マスクは、以前に巣箱からひなを取り出して扱ったときに着けていたもの、「中立」マスクは、巣箱の近くを通り過ぎただけのときに着けていたものです。マスクを使うのは、鳥が反応しているのが研究者本人の顔の特徴ではないことを確かめるためです。そのあと、どちらかのマスクを着けた研究者が、巣箱のほうか、その反対を向いて立ち、鳥の反応を調べました[6]

巣箱に戻るまでの時間は、脅威マスクのときのほうが有意に長くなりました。一方、顔の向きは、戻るまでの時間に影響しませんでした。ただし、巣箱の外に降りたあとでは、研究者が巣箱のほうを向いているときのほうが、巣箱に入るのが早い傾向がありました(統計的に有意ではありません)。論文は、鳥が顔の向きも手がかりにしている可能性はあるが、危険の見積もりは主に「誰か」を見分けることで決まる、と結論しています[6]。題名も、顔の向きに「反応するかもしれない(may respond)」という慎重な書き方です。人の顔の記憶については、前のメモのマーズラフの実験も参照してください。

「カラスは人の視線の先に巣があると知って、ひなを食べにくる」という話を見かけることがあります。今回調べた範囲では、それを実験や観察で確かめた論文は見つけられませんでした。上の実験は、人が巣箱のほうを向いているときの鳥の反応を調べたもので、カラスが人の視線を手がかりに巣を探すという話とは別のものです。

6. カラスは 「なんかい なくか」を きめられる?

6. 鳴き声の数を数えたカラス

6. 発声を数える ── ハシボソガラスの実験(2024年)

ドイツの だいがくで、3わの ハシボソガラスに、へんな しごとを させました。

すうじを 見せたり、おとを 聞かせたり します。カラスは、その あいずに あわせて、1回から 4回、こえを 出します。そして、おわったら、キーを つつきます。

3わとも、ただしい 回すうを 出せました。まちがえる ときは、1回 おおいか、1回 すくない ことが おおかったそうです。

けんきゅうした ひとたちは、カラスは、なく まえに、なんかい なくかを かんがえて いる、と 考えて います。

「1回から4回」を鳴き分ける

ドイツのテュービンゲン大学のアンドレアス・ニーダーらは、訓練した3羽のハシボソガラスに、次のような課題を出しました。画面のアラビア数字か、決まった音が合図です。カラスは合図に合わせて1〜4回鳴き、鳴き終わったらキーをつつきます[7]

3羽とも正しい回数を鳴くことができ、まちがえるときは、1回多い・1回少ないといった誤りでした。合図が数字でも音でも、同じ傾向が見られました[7]

鳴く前に、回数を決めている?

最初に鳴くまでの時間は、鳴く回数が多いほど長くなりました。研究チームは、カラスが数の抽象的な考えをもち、それを使って鳴く前に回数を計画していると解釈しています[7]

調べたのは3羽で、回数も1〜4回の範囲です。人間の数え方と同じかどうかまでは、この実験だけでは言えません。

ドイツのテュービンゲン大学のアンドレアス・ニーダーらの研究チーム(筆頭著者は Diana A. Liao)は、2024年5月23日に Science 誌で、ハシボソガラスが自分の鳴く回数を「数える」ように見える実験を報告しました[7]

課題は次のとおりです。訓練した3羽に、アラビア数字か特定の音を合図として示し、カラスは1〜4回の鳴き声を出したあと、キーをつついて終了を知らせます。3羽とも正しい回数を出せました。誤りは1回多い・少ないといったものが中心で、鳴いた回数や残りの回数を忘れたために起きたと考えられています。合図が視覚でも聴覚でも同じ傾向でした[7]

刺激を示してから最初の鳴き声までの反応時間は比較的長く、必要な回数が多いほどさらに長くなりました。研究チームは、この結果を、カラスが抽象的な数の概念を形成し、鳴く前にそれを使って発声を計画していると解釈しています[7]。対象は3羽、回数は1〜4回の範囲で、人間の数え方と同じ仕組みかどうかまでは、この実験だけでは判断できません。

7. 見ほんの とおりに 紙を ちぎる カラス

7. 見本に合わせて紙をちぎるカラス

7. 見本にあわせて物を作る ── ズキンガラスの実験(2024年)

ロシアの だいがくで、ズキンガラスと いう カラスの 3わに、おもしろい 実験じっけんを しました。

カラスは、まず、かみの きれはしを あなに いれると、ごちそうが もらえる ことを おぼえます。つぎに、いろや おおきさの ちがう 見ほんを おぼえます。

そのあと、見ほんも ごちそうも ない ところで、かみを ちぎらせました。すると 3わとも、まえに ごちそうが もらえた 見ほんと おなじ いろの かみを ちぎりました。おおきさも、ごちそうが もらえた 見ほんに ちかく なりました。

ズキンガラスは、ふだん、どうぐを つくる のが とくいな カラスでは ありません。それでも、見ほんを おぼえて、それに あわせて ものを つくれる ことが わかりました。

見本を覚えて、それに近いものを作る

ロシアのモスクワ大学で、野生から保護されたズキンガラス3羽に対して行われた実験です。2024年に、アンナ・スミルノワらが発表しました[8]

カラスはまず、紙のかけらをスロットに入れるとミルワームがもらえることを覚えます。次に、色や大きさのちがう見本を覚えます。そのあと、見本もごほうびもない状態で、紙をちぎらせました[8]

3羽とも、前にごほうびをもらった見本と同じ色の紙からかけらをちぎりました。大きさも、ごほうびをもらった見本に近くなりました[8]

道具づくりの名人でなくても

見本に合わせて物を作る力は、道具づくりの名人であるニューカレドニアガラスや、オウムの仲間のほかにも見つかった、と論文は述べています。野生のズキンガラスは、道具づくりの専門家ではありません[8]。ニューカレドニアガラスの話は、前のメモにあります。

アンナ・スミルノワらは2024年に Animal Cognition 誌で、ズキンガラス(Corvus cornix)が心的テンプレート(見本のイメージ)に合わせて物を作ることを報告しました[8]。これまでは、道具づくりに特化したニューカレドニアガラスと、オウムの仲間で確かめられていたことです[8]。前のメモで扱ったニューカレドニアガラスの実験と同じ系統の研究です。

被験体は、野生から保護され、モスクワ大学で飼育されている成鳥3羽です。カラスはまず、紙片をスロットに入れるとミルワームがもらえることを学び、次に色と大きさの見本に対する報酬を学びました。そのあと、見本も報酬の差もない状態で、紙をちぎってもらいました[8]

結果として、3羽とも、以前に報酬をもらった見本と同じ色の紙から紙片を作りました。大きさも、報酬をもらった見本に近いものを作りました。この本番テストでは、報酬はどちらの条件でもランダムに与えられています[8]。野生のズキンガラスは道具づくりの専門家ではありませんが、貝を岩に落とすといった、道具の使用の手前にあたる行動は知られています[8]

じぶんでも やって みる

自分でも調べてみたくなったら

自分でも調べてみたくなったら

カラスが ものを おとして わる ところを、見かけたら、よく 見て みましょう。

あんぜんな ばしょで できる こと

  • みずべや こうえんで、カラスを 見る。 なにを、どこから おとして いるか、大人と いっしょに 観察かんさつして みましょう。
  • どうろや くるまの ちかくには いかない。 クルミを どうろに おく まねも しては いけません。あぶないです。
メモの すすめ

きょう 出て きた かずを ひとつ だけ ノートに かいて おきましょう。「21かげつ」「43回」だけでも いいです。

このメモの話は、自分で論文や報告書を見て確かめることができます。

今日できること

  • カラスが物を落として割るところを探す。水辺や公園で、何をどこから落としているかを、大人と一緒に観察してみましょう。
  • 道路や車の近くには近づかない。クルミを道路に置くまねは、事故のもとなのでしてはいけません。

調べてみよう

函館の論文や、仁平義明の報告書は、下の「参考にした情報源」からたどれます。日本心理学会の「心理学ミュージアム」にも、この行動の展示ページがあります[9]

メモのすすめ

気になった数字を1つだけ書いておくと、あとで調べる入口になります。「21か月で43回」だけでも十分です。

クルミ割りの行動や数の実験は、原典の要旨を自分で読むと、このメモに書ききれなかった条件が見えてきます。

手を動かして確かめる

  • 近くの水辺や公園で、カラスが物を落とす様子を観察する。秋から冬は、函館の観察もこの時期に行われています[5]。何を、どの高さから、どんな地面に落としているかをメモしてみましょう。
  • 道路や車の近くには近づかない。クルミを道路に置くまねは、事故のもとなのでしないでください。

一次情報にあたる

函館の論文は DOI(10.3838/jjo.68.43)から、仁平義明の報告書は KAKEN(科学研究費助成事業データベース)の課題ページから読めます。日本心理学会の「心理学ミュージアム」にも、この行動の展示ページがあります[9]

メモのすすめ

気になった数字や言葉を1つだけノートに記録しておきましょう。「21か月・43例」という一文でもかまいません。

しらべた もとの じょうほう

参考にした情報源

参考にした情報源と、その使い方

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出典について:論文の公式ページ、大学の公式発表、公的な研究データベースを使っています。英語の資料は、内容を日本語で説明しています。

  1. 仁平義明「Variations of behaviour of Carrion Crows Corvus corone using automobiles as nutcrackers(ハシボソガラスの自動車を利用したクルミ割り行動のバリエーション)」日本鳥学会誌 44巻1号 21–35ページ(1995年)。 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjo1986/44/1/44_1_21/_article (仙台のカラスが車にクルミを轢かせる行動を21か月観察した論文の、英文要旨のページ)
  2. KAKEN(科学研究費助成事業データベース)「ハシホソガラスの車利用によるクルミ割り行動の学習:認知心理学からのアプローチ」(研究代表者:仁平義明、1994年度)。 https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-06801011/ (行動のバリエーション、スキーマの学習、他県での発生についての研究概要)
  3. KAKEN「ハシボソガラスの車利用行動の学習と伝播に関する研究」(研究代表者:仁平義明、1997〜1999年度)。 https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-09490001/ (「境界現象」、柔軟な複数解、親子間伝播の可能性についての研究概要)
  4. Cristol, D. A., Switzer, P. V., Johnson, K. L. & Walke, L. S.「Crows do not use automobiles as nutcrackers: putting an oft-repeated anecdote to the test」The Auk 114巻2号(1997年)。 https://thekeep.eiu.edu/bio_fac/371/ (アメリカの大学リポジトリの書誌ページ)
    https://people.wm.edu/~dacris/pdfs/crows_as_nutcrackers.pdf (著者の1人が公開している論文PDF。スキャン画像のため、内容の確認にはAIによる読み取りを使った)
  5. 荒奏美・三上かつら・三上修「ハシボソガラス Corvus corone によるクルミ割り行動:函館市における車を利用したクルミ割り行動」日本鳥学会誌 68巻1号 43–51ページ(2019年)。 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjo/68/1/68_43/_article/-char/ja/ (函館市でのクルミ割りを、仙台市と比べた論文の要旨のページ。DOI:10.3838/jjo.68.43)
  6. University of Cambridge「Here’s looking at you: research shows jackdaws can recognise individual human faces」(Davidson, Clayton & Thornton, Animal Behaviour 108巻 17–24ページ、2015年の研究の紹介)。 https://www.cam.ac.uk/research/news/heres-looking-at-you-research-shows-jackdaws-can-recognise-individual-human-faces (ケンブリッジ大学の公式ニュース。ニシコクマルガラスのお面と顔の向きの実験の解説)
    https://www.repository.cam.ac.uk/items/4cccd185-6cf0-4231-96b1-58b9b4677af1 (同じ論文の要旨。結果の書き方は、こちらの要旨にもとづく)
  7. phys.org「Crows can deliberately plan how many calls to make, study shows」(2024年5月)。 https://phys.org/news/2024-05-crows-deliberately.html (テュービンゲン大学のニーダーらが2024年5月23日に Science 誌へ発表した実験の紹介記事。英語のニュースサイトで、論文そのものは読めていない)
  8. Smirnova, A. A., Bulgakova, L. R., Cheplakova, M. A. & Jelbert, S. A.「Hooded crows (Corvus cornix) manufacture objects relative to a mental template」Animal Cognition(2024年)。 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11058793/ (米国国立医学図書館の論文公開サイト。ズキンガラスの見本にあわせて紙をちぎる実験の論文)
  9. 日本心理学会 心理学ミュージアム「カラスの自動車利用行動(クルマにクルミを割らせる行動の学習)」。 https://psychmuseum.jp/show_room/crow/ (展示ページ。スライドとPDF資料が公開されている。題名のほかは、このメモの根拠には使っていない)

なおした ところ

更新履歴

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