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ここにあるのは、だれかが実際に調べ、考え、作ってきたことを集めたメモです。気になったら、ページの下の「参考にした情報源」から、もとの本や記事、それを生み出した人たちに、直接ふれてみてください。このメモには書ききれないおもしろさが、そこにあります。

あおい たまごを うむ にわとりが いる ── ふるい ウイルスの なごりが、べつべつに はいった?

青い卵のニワトリには、大昔のウイルスの名残が、別々に入っていた? ── 色を決める遺伝子と、野鳥の卵の色の話

青い卵の色はどう決まるのか ── 中国と南米で別々に起きたとみられる遺伝子の変化と、年齢・環境による卵の色の違い

分野:生きもの

せかいには、あおい たまごを うむ にわとりが います。しらべると、その にわとりの DNAには、むかしの ウイルスの なかまに ちかい ぶぶんが、はいって いました。しかも ちゅうごくと みなみアメリカでは、はいった ばしょが ちがって いて、べつべつに おきたらしいのです。

ウイルスに うつって あおくなる のでは ありません。では、どうして そんな ことが おきたのでしょう。そして、とりの たまごの いろには、どんな いみが あるのでしょう。この メモを よむと、それが すこし わかります。

青い卵を産むニワトリの遺伝子には、大昔のウイルスに由来する配列が入りこんでいます。しかも、その配列は中国の品種と南米由来の系統とで入った場所が違い、別々に入ったとみられています。

ウイルスにかかって青くなるわけではありません。では、なぜそれが卵の色を変えるのでしょう。さらに、同じニワトリの卵でも色が変わる理由や、野鳥の卵の色の意味についても、研究から分かることを紹介します。

青い殻を産むニワトリのゲノムには、内在性レトロウイルス由来の配列(EAV-HP)が挿入されている。しかも、その挿入位置は中国の青卵の品種とアメリカ大陸のアローカナで異なり、独立に起きた変化とみられる[1]。

感染して青くなるのではないのに、なぜ配列の挿入が殻の色を変えるのか。さらに、同じ鶏でも殻の色が変わる理由や、野鳥の卵の色の分布が示す意味はどこまで言えるのか。このメモを読むと、色素と遺伝子、環境の関係が分かる。

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1. たまごの いろは、なにで きまる?

1. 卵の色は、殻につく色素で決まる

1. 殻の色をつくる2種類の色素

ふつうの しろい たまごと ちゃいろい たまごは、だれでも しって います。では、あおい たまごは、なにが ちがうのでしょう。

たまごの いろは、からに ついた「しきそ」で きまります。ちゃいろは「プロトポルフィリン」、あおみどりは「ビリベルジン」と いう しきそが おもに かかわると いわれます[5]。

ちゃいろい たまごでは、しきそは からの いちばん そとがわに あつまって います[3]。からが できあがる さいごの 3〜4じかんで、おもに はこばれると いわれます[4]。

だから、わった からの うちがわは、そとがわほど いろが ついて いません。ただし ほんとうは、にわとりの しゅるいや たべものでも、いろは かわります。

色素は殻の外側に塗られる

褐色の卵の殻では、主な色素はプロトポルフィリンIXで、ビリベルジンとその亜鉛との化合物もごく少量ふくまれます。色素は殻をつくる臓器(殻腺)で作られると考えられていますが、正確な場所や仕組みは明らかではありません。色素は殻の最も外側の層と、表面の膜(クチクラ)に集中しています[3]。

殻づくりの終わりごろ、蓄えられた色素の大部分が表面へ運ばれるという解説もあります(採卵鶏の育種会社の資料)[4]。色素は外側に多く集まるので、割った殻の内側は、外側ほど色がついていません。

日本の研究報告は、褐色の色素のプロトポルフィリンは人の目に茶色に、ビリベルジンは青や緑に見えると述べています。青緑の卵を産むアローカナ系のニワトリは、両方の色素をもつようです[5]。

褐色卵の殻の主な色素はプロトポルフィリンIXで、ビリベルジンとその亜鉛キレートもごく少量含まれる。色素は殻腺で作られると考えられるが、正確な場所や仕組みは明らかでない。色素は最外層とクチクラに集中する[3]。沈着は殻形成の終盤で、大部分が最後の3〜4時間に表面へ運ばれるとされる(育種企業の解説)[4]。

では、青い卵は何が違うのか。農研機構のデータベースにある報告は、プロトポルフィリンが茶色、ビリベルジンが青〜緑に見えるとし、青緑卵(アローカナ系)には両方が含まれると述べる[5]。ただしこの報告は抜粋でしか確認できず、沈着の順序などの細部は、この資料から断定しない。

2. あおい たまごの かぎは、DNAの なか?

2. 青い卵の鍵は、遺伝子のスイッチにあった

2. SLCO1B3遺伝子の上流へのEAV-HP挿入

では、どうして あおい いろに なる にわとりが いるのでしょう。2013ねんの けんきゅうで、しらべた ひとたちは にわとりの DNAを くらべました。

すると、「SLCO1B3」と いう いでんしの すぐ となりに、ウイルスの なかまに ちかい ながい ぶぶんが はいって いました[1]。これは、にわとりの DNAに のこっている、むかしの ウイルスの なごりです。

この ぶぶんが あると、からを つくる ばしょで、この いでんしが よく はたらくように なります。その けっか、からが あおく なると、けんきゅうは しめしました[1]。

ウイルスに かかった わけでは ありません。ちょうど、おんがくの おとを おおきくする つまみのように、いでんしの はたらきを つよめて いるのです。

ただし この たとえは、いでんしの はたらきを イメージしやすく したもの。ほんとうの しくみは もっと こまかい ものです。

ウイルスの名残が、遺伝子の働きを強める

2013年に発表された研究が、青い殻の原因を調べました。青卵を産むニワトリでは、SLCO1B3という遺伝子のすぐ上流に、EAV-HPという配列が挿入されていました。EAV-HPは、ニワトリのゲノムに残っている古いレトロウイルス(ウイルスの一種)に由来する配列です[1]。

この挿入があると、殻をつくる子宮部で、SLCO1B3の発現が高まります(遺伝子がよく働くようになります)。SLCO1B3は、細胞の膜で特定の物質を運ぶ仲間(OATPファミリー)の遺伝子です[1]。

大切なのは、ウイルスに感染して青くなるのではないことです。配列はもともとゲノムの一部になっていて、遺伝子の働く場所と量を変えています。

「遺伝子のスイッチ」は、働き方をイメージしやすくしたたとえで、実際の仕組みはもっと複雑です。

青い殻の原因は何か。Wangら(2013)は、SLCO1B3遺伝子の5′側上流領域へのEAV-HP挿入が、卵管の子宮部(殻腺)での同遺伝子の発現を高め、青い殻を生じさせると報告した[1]。EAV-HPは鶏の内在性レトロウイルスに由来する配列である。SLCO1B3は、有機アニオンを運ぶ膜輸送体OATPファミリーの遺伝子だ[1]。

ここで注意したいのは、感染が原因ではない点だ。挿入された配列はゲノムの一部となり、子宮部でのSLCO1B3の発現を高める。この論文のなかで、殻の色素がSLCO1B3を通じてどう作られるか、その細かい経路までは述べられていない。要旨が示すのは、挿入と発現上昇が青い殻とつながっている、という点までである。

3. その ウイルスの なごりは、なんど はいったの?

3. 青い卵の遺伝子の変化は、中国と南米で別々に起きたのか

3. 青い卵の遺伝子の変化は、中国と南米で別々に起きたのか

この はなしの いちばん おどろく ところは、ここです。しらべられた あおい たまごの にわとりに、ちゅうごくの ひんしゅと、みなみアメリカの アローカナが あります。

しらべると、ウイルスの なごりが はいって いる ばしょは、この ふたつで ちがって いました[1]。それで、おなじ へんかが べつべつに おきたと かんがえられて います。

べつの けんきゅうグループは、チリの マプチェという にわとりと ヨーロッパの あおい たまごの なかまで、この なごりが はいって いて、いでんしが よく はたらいて いると しらせました[2]。

南米と中国で、別々に

研究のなかで、いちばん興味深いのは、挿入の場所です。中国の青卵の品種と、アメリカ大陸のアローカナ(チリのマプチェ鶏の系統)では、EAV-HPが入っている位置が違っていました。そこで研究グループは、同じ変化が別々に起きたと考えました[1]。

別の研究グループ(Wraggら、2013)も、マプチェ鶏とヨーロッパの青卵の系統でEAV-HPの挿入を確かめ、殻腺と卵管でSLCO1B3が過剰に働いていたと報告しています[2]。これは、独立した起源の検証とは別の報告です。

地域も種類も離れたニワトリで、似た色が別々に生まれたことになります。青い卵につながる変化は、別々の地域で起きた可能性があります。

この遺伝的な変化は、何度起きたのか。Wangらは、アローカナの青殻鶏の挿入部位が中国の品種の挿入部位と異なることから、独立した組み込み(integration)が起きたと考えた[1]。同じ配列でも入る場所が違うなら、共通の祖先で一度だけ入ったとは考えにくいからだ。

別のグループも関連する報告をしている。Wraggらは、マプチェ鶏と欧州の青卵系統でEAV-HPの挿入を確認し、殻腺と卵管でSLCO1B3が過剰に発現していたと報告した[2]。これは挿入と発現上昇の報告であり、独立起源の検証とは別の主張だ。独立に起きたという推定は、Wangらの「考えられる」という強さで受けとってほしい。

4. おなじ にわとりでも、たまごの いろは かわる?

4. 同じニワトリの卵でも、色は変わっていく

4. 褐色の濃さを変える要因と、週齢による退色

いろは いでんしだけで きまるのでは ありません。おなじ にわとりの ちゃいろい たまごでも、うみはじめの ころより、だんだん うすく なる ことが あります。

ロードアイランドレッドと いう にわとり 120わの けんきゅうでは、26しゅうから 60しゅうに かけて、ちゃいろが うすく なりました(70しゅうでは すこし もどりました)[7]。しきその りょうと、いろの うすさも、いっしょに うごいて いました。

ほかにも、えさや びょうき、ストレスで いろが かわると いわれます[3]。

産みはじめと、年をとってからの色

褐色の濃さは、ニワトリの週齢(生まれてからの週の数)・飼い方・品種・えさ・ストレス・伝染性気管支炎などの病気でも変わるとされます[3]。

ロードアイランドレッド120羽を調べた研究では、26〜60週齢のあいだに褐色が薄くなり、色素(プロトポルフィリンIX)の量と色の薄れが相関していました。70週で少し回復したとも報告されています[7]。

なぜ薄くなるのかという仕組みは、育種会社の資料も「分かっていない」としています[4]。

卵の色は遺伝子だけでなく、週齢・飼育方式・系統・飼料・ストレス・伝染性気管支炎などの疾病でも変わる[3]。ロードアイランドレッド120羽を対象にした研究では、26〜60週齢で褐色が薄くなり、プロトポルフィリンIX量と色の薄れが相関した。70週でわずかに回復したという[7]。

では、なぜ薄くなるのか。この点は、Hendrix Geneticsの解説でも未解明とされる[4]。ここから言えるのは、同じ鶏でも産みはじめより薄くなる傾向がある、という範囲までだ。

5. やちょうの たまごは、さむい ところほど こい?

5. 野鳥の卵は、寒い地域ほど濃い色になる?

5. 卵の色の地理的分布と、温度調節仮説

ニワトリから、のとりに めを うつして みましょう。のとりの たまごの いろは、ほんとうに いろいろです。しろ、あお、ちゃいろ、はんてんの あるもの。

この いろには、どんな いみが あるのでしょう。2020ねんに はっぴょうされた けんきゅうは、せかいの たくさんの とりを しらべました[6]。

さむい ところに すむ とりほど、こい いろの たまごを うむ、ことが わかりました。とくに、すが ひなたに ある とりで、その ちがいが めだちました[6]。

こい いろの たまごは、ひなたで はやく あたたまる という しょうこも えられました[6]。ただし、「いろは あたたかさの ためだ」と きめるのは まだ はやいです。

濃い色は、日なたで早く温まる

鳥の卵の色は、温度の調節に関わるかもしれません。2020年にNature Ecology & Evolutionに載った研究は、世界の多くの種の鳥の卵を調べました。寒い環境にすむ鳥、とくに巣が日光にさらされる鳥ほど、卵の色が濃いという結果でした[6]。

さらに、濃い卵のほうが日光を受けて速く温まる、という証拠も得られました[6]。寒い場所で卵を温めやすい色が、有利に働いたのかもしれません。

ただし、これは「そう考えると説明しやすい」というレベルの話です。暖かい地域の卵の色には、ほかの要因も関わるとされています。卵の色の役割については、まだ決まった答えはありません。

色素の話から一歩引くと、「卵は何のために色づくのか」という問いが出てくる。Wisockiら(2020)は、世界の多くの種の鳥の卵を調べ、寒冷な環境にすむ鳥、とくに巣が日射にさらされるものほど卵が濃色であることを示した。さらに、濃い卵は日光のもとで速く温まるという証拠も得ている[6]。

だから「寒冷地では濃い卵が、日射による加温で有利になる」という温度調節仮説が立つ。ただし、この研究が示すのは分布と加温の速さの関係であり、色が実際にひなの孵化率を上げるかどうかまでは別の問いだ。暖かい環境では他の要因も働くとされ、卵の色の機能については複数の仮説がある。

6. ずかんと はくぶつかんで、たまごの いろを みよう

6. 図鑑や博物館で、卵の色と巣の場所を見くらべよう

6. 出口 ── 卵の色と巣の環境を見くらべる方法と、資料の読みどころ

のとりの たまごは、さわったり もって かえったり しては いけません。ですから、ずかんや はくぶつかんで みて みましょう。

とりの ずかんで、たまごの しゃしんを みつけます。つぎに、その とりが すを つくる ばしょを しらべます。つちの うえ、き の あな、くさの なかなど、ばしょは いろいろです。

いろと ばしょに、なにか つながりが ありそうか、かんがえて みましょう。けんきゅうでは、さむい ところの こい たまごが めだちましたが、ほかの りゆうも あるかも しれません。

野鳥の卵や巣には、さわらず、持ち帰らないでください。観察は、図鑑や博物館の標本でできます。

鳥の図鑑で、卵の写真と、その鳥が巣をつくる場所(地面、木の穴、草むらなど)を見くらべてみましょう。色の濃さと巣の環境に、何か傾向がありそうか、自分なりの予想を立ててみます。

もっと読みたくなったら、ニワトリの青卵の遺伝子の論文[1]や、野鳥の卵の色を世界規模で調べた研究[6]を開いてみてください。どちらも英語の論文なので、読める人向けです。日本語なら、まず図鑑や博物館の解説から入るのがおすすめです。

図鑑や博物館の標本で、卵の写真とその鳥の営巣環境(地面・樹洞・草むらなど)を見比べ、色の濃さに傾向があるか予想を立てる。野鳥の卵や巣には触れず、持ち帰らない。ただし、実際の分布は種ごとの系統や色素の違いも混じるため、この見比べは仮説づくりの練習にとどまる。

資料を読むなら、青卵の遺伝子はWangら[1]とWraggら[2]、褐色卵の色素は総説[3]、野鳥の卵の色の分布はWisockiら[6]が出発点になる。まず日本語の図鑑や博物館の解説を入口にし、英語の論文は読める人向けの次の一歩とするとよい。卵の色の役割を考えるうえで、さらに調べる価値のある問いは多い。

しらべた もとの じょうほう

参考にした情報源

参考にした情報源と、その使い方

出典について:研究論文の要旨と、公的機関・育種企業の解説を使った。何に使ったかは、それぞれの項目の最後に書いている。

  1. Wang Z. ほか (2013) An EAV-HP Insertion in 5′ Flanking Region of SLCO1B3 Causes Blue Eggshell in the Chicken. PLoS Genetics. https://journals.plos.org/plosgenetics/article?id=10.1371/journal.pgen.1003183 (青い殻の原因と、挿入位置の違いについて)
  2. Wragg D. ほか (2013) Endogenous retrovirus EAV-HP linked to blue egg phenotype in Mapuche fowl. https://eprints.nottingham.ac.uk/2534/ (別グループによる確認について。抜粋で確認)
  3. Eggshell color in brown-egg laying hens - a review (2015) Poultry Science. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26240390/ (褐色卵の色素と、色を変える要因について)
  4. Hendrix Genetics「Eggshell color Eggsplained」。https://layinghens.hendrix-genetics.com/en/articles/eggshell-color-eggsplained/ (色素が沈着する時期と、薄れる理由の現状について。企業の解説)
  5. 農研機構(農林水産研究データベース)卵殻色素に関する報告。https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010871247.pdf (2種類の色素と、色の見え方について。抜粋で確認)
  6. Wisocki P. A. ほか (2020) The global distribution of avian eggshell colours suggest a thermoregulatory benefit of darker pigmentation. Nature Ecology & Evolution. Europe PMC(要旨) (野鳥の卵の色と寒さ・日光の関係について)
  7. Brown eggshell fading with layer ageing: dynamic change in the content of protoporphyrin IX (2018) Poultry Science. https://agris.fao.org/search/fr/records/65de5e417c7033e84beabae0 (週齢による褐色の薄れについて。抄録で確認できる範囲)

なおした ところ

更新履歴

更新履歴(改版の記録)

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