このサイトは、ほんの入り口です

ここにあるのは、だれかが実際に調べ、考え、作ってきたことを集めたメモです。気になったら、ページの下の「参考にした情報源」から、もとの本や記事、それを生み出した人たちに、直接ふれてみてください。このメモには書ききれないおもしろさが、そこにあります。

いちじくの 花は、どこに さいて いるの?

イチジクの花はどこにある? ── 外から見えないのに、日本で実るわけ

イチジクの花のうと単為結実 ── 花が見えないまま、受粉役のいない日本でなぜ実るのか

分野:生きもの

いちじくの 木に、花が さいて いる ところを 見た ことが ありますか。じつは、わたしたちが 食べて いる ところは、花の はいった ふくろ です。

花が 見えないのに、どうして みのるの でしょう。そして、どうして えだを さす だけで ふえるの でしょう。この 記事で、その わけが わかります。

イチジクの木に花が咲いているところを、見たことがある人は少ないはずです。それもそのはずで、食べている部分は、小さな花を内側にぎっしり並べた「袋」がふくらんだものだからです。

花が外から見えないのに、イチジクはどうやって実るのでしょうか。そして、枝を土に挿すだけで増えるのはなぜでしょうか。この記事で、その答えと、約1万年以上前の栽培の手がかりが分かります。

イチジクの花は、外から見えない。食べる部分は、花を内側に抱えこんだ袋状の器官がふくらんだものだからだ。しかも日本には、野生型の受粉を担う小さなハチがいないと説明されるのに、栽培品種はふつうに実る。

花が隠れ、受粉役がいなくても実るのはなぜか。そして、その性質は、この果樹の増やし方や、人との付き合いの古さとどう結びつくのか。この記事で、その理由が分かる。

読み方を切り替えられます。画面の上にある「よみかた」のボタンで、小学校低学年むけ・小学校高学年むけ・中学生むけの3つの書き方に切り替わります。むずかしいと思ったら、いつでもやさしい方に戻ってください。選んだ読み方はブラウザが覚えているので、次に別の記事を開いたときも同じ読み方で始まります。

1. いちじくを きると、中は どう なって いるの?

1. 切ってみると見える「花の袋」

1. 花のうの構造 ── 食べているのは、花托がふくらんだ袋の外側だ

いちじくを たてに はんぶん きって みましょう。中は あなが あいて いて、小さな つぶが ぎっしり 見えます。

あの 中がわには、小さな 花が たくさん さく しくみに なって います[1]。ふくろの 形を した ものの 内がわに 花が ならぶ ので、外からは 花が 見えません[2]。

食べて いる ところは、花を のせる 土台が ふくろの 形に ふくらんだ もので、その 内がわに 小さな 花が ならんで います。ふつうの 花は、はなびらを ひらいて、虫に 見つけて もらいます。いちじくの 花は、ふくろの 中に かくれて さいて います。

花が かくれて いると、虫は どうやって はいるの でしょう。そもそも、虫は ひつよう なの でしょう。

イチジクを縦に切ると、中は空洞で、小さな粒がびっしり詰まっています。この内側に、たくさんの小さな花が咲く仕組みになっています[1]。

ふつうの花は、花びらを開いて虫を呼びます。ところがイチジクは、花を支える土台(花托)が袋のようにふくらみ、その内壁に花が並びます。そのため外からは花が見えません。食べているのは、この土台が袋状にふくらんだもので、内側に小さな花が並んでいます[2]。

花が袋に閉じこめられていたら、花粉はどうやって運ばれるのでしょうか。そもそも運ぶ相手は必要なのでしょうか。

イチジクの「実」は、植物学では果実そのものではない。花托(花を支える土台)が壺状にふくらみ、その内壁に多数の小花が密生している。この花序は隠頭花序(花のう)と呼ばれ、食べる部分は、花托がふくらんだ袋とその内側の小花である[1]。花が袋の内側にあるのだから、花弁を開いて昆虫を誘う一般的な花と違い、外から花は見えない[2]。

この構造は、一見すると受粉にとって不利に思える。花粉を運ぶ相手が入る道は、袋の先の狭いすき間しかない。では、野生のイチジクは、どうやってこの閉じた花の中で受粉を成立させているのか。次の章で、日本で栽培されるイチジクが、その仕組みを必要としない理由とあわせて見る。

2. はちの なかまが いない 日本で、なぜ みのるの?

2. 受粉の相棒がいなくても、日本のイチジクが実るわけ

2. 野生型の受粉とコバチ、そして単為結実 ── 日本の栽培品種が実る理由

せかいには、いちじくの なかまが 900しゅ ちかく あります。たいていは それぞれに、ちがう イチジクコバチと いう 小さな 虫が いて、花ふんを はこびます[4]。

めすの コバチは、ふくろの 中に はいって たまごを うみます。そだった めすは、花ふんを からだに つけて 外へ でて、べつの ふくろへ 花ふんを はこびます[3]。

ところが、日本で 作られる いちじくは、コバチが いなくても みのる ものが ほとんどです[2]。「たんいけつじつ」と いって、花ふんが つかなくても 実に なる せいしつです[5]。(実に なる ことと、たねが できる ことは、べつの はなしです。)むかしの 西ようの しゅるいは、コバチの いない 日本では みのらなかった、と かんがえられて います[1]。

日本へは、17せいきの はじめごろ、ながさきに はいったと されて います。ただし、いつ なのかは いろいろな せつが あります[1]。

コバチを ひつよう と しない せいしつは、そだてる ときにも やくに たちます。

世界のイチジクの仲間(イチジク属)は、熱帯を中心に900種近くあります。それぞれの種に、多くの場合は種類のちがうイチジクコバチという小さな虫がいて、花粉を運びます[4]。例外もあります。

野生型の場合、雌のコバチが袋の中に入り、花に卵を産みつけます。羽化した雌は花粉を体につけて袋の外へ出て、別の袋に入って受粉を助けます[3]。野生のイチジクとコバチは、おたがいに相手がいないと続かない関係です。

では日本のイチジクはどうでしょうか。国内で栽培される品種は、ほとんどが受粉なしで実ります。この性質を単為結実といいます。受粉なしで実ることと、中に種ができないことは、別の話です。福岡県の研究報告では、日本で広く栽培される普通系(ミッション系)の品種に単為結実性があると書かれています[5][2]。

この性質のおかげで、受粉役のコバチがいない日本でも、栽培ができます。西洋の品種の中には、結実に別の木からの受粉が必要なものがあり、そうした品種は日本では実らなかったと考えられています[3][1]。日本には、17世紀前半に長崎へ入ったとされます。時期には諸説あります[1]。

受粉が要らないなら、種をまかなくても木は増やせるのでしょうか。

野生型のイチジク(カプリ系)では、イチジクコバチの雌が花柱の側から産卵管を差し込んで雌花に産卵し、羽化した雌が花粉をつけて袋を出て、別の花のうの受粉を助ける[3]。イチジク属は熱帯を中心に900種近くあり、多くの種で、種ごとに別種のコバチが花粉を媒介する(例外もある)。この一対一に近い相互依存は「絶対相利共生」と呼ばれる[4]。日本は分布の北限にあたり、南西諸島を中心に16種が知られる[4]。

ところが、栽培されるイチジクの事情はこれと違う。スミルナ系は花柱が長くてコバチの産卵管が子房まで届かず、結実にはカプリ系の花粉が要る[3]。この型は、受粉役がいない日本では実らなかったと考えられている[1]。他方、普通系(ミッション系)は雌花をつけ、単為結実性があって受粉なしで結実する[5]。国内で栽培される品種がほぼ単為結実なのは、そのためと読み取れる[2]。

伝来は17世紀前半に長崎へ入ったとされるが、時期には諸説がある[1]。西洋種が定着せず、受粉不要の系統が残ったとすれば、日本で広まった品種は「実るから選ばれた」面があるのかもしれない。ここは出典が考察にとどまる点なので、断定は避ける。では、受粉で種をつくらない木は、どうやって世代をつないでいるのか。

3. 夏と 秋、えだの どこに 実が つくの?

3. 夏果と秋果 ── 実のつく枝がちがう

3. 夏果と秋果の結果習性 ── 前年枝と新梢、剪定との関係

いちじくには、夏に とれる 実と、秋に とれる 実が あります。この 二つは、つく ところが ちがいます[2]。

夏の 実は、前の 年に のびた えだに つきます。しょかの ころに 食べごろに なります。

秋の 実は、その 年に のびた 新しい えだの、葉の つけ根に つぎつぎ つきます。えだの 下の ほうの 実から、さきに じゅくします[2]。

秋の 実の 木は、冬の おわりごろに えだを みじかく きると、9がつから 12がつごろに 実が とれると いわれます。月は 土地や そだて方で かわります[2]。

ただし 夏の 実は、先に つくので、えだの 先を きってしまうと つきません[2]。

イチジクには、実のなる時期が二つあります。初夏ごろ収穫する夏果と、秋に収穫する秋果です[2]。

夏果は、前の年に伸びた枝に実がつくタイプです。秋果は、その年に新しく伸びた枝(新梢)の葉のつけ根に、次々と実がつくタイプです。新梢の根元に近い実から順に熟していきます[2]。

秋果は、2〜3月に枝を切り返しておくと、9〜12月ごろに収穫できるとされます。時期は地域や栽培方法で変わります[2]。

ここに、世話の工夫がかくれています。夏果は前の年の枝の先につくので、枝を短く切ってしまうと夏果はつきません。夏果を残したいか、秋果をたくさん取りたいかで、切り方を選ぶことになります[2]。

切られた枝は、そのまま捨ててしまうしかないのでしょうか。

イチジクの結果習性は、夏果と秋果で異なる。夏果は前年に伸びた枝に着果するタイプで、初夏ごろ収穫される。秋果は当年に伸びた新梢の葉腋に着果するタイプで、基部の実から順に熟す[2]。収穫期は、2〜3月に切り返した秋果で9〜12月ごろとされるが、これは地域や栽培法で変わる目安にとどまる[2]。

この違いが、剪定の方針を左右する。イチジクは果樹の中でも生育が旺盛で、春の萌芽力が強く、剪定後は切り口付近から複数の新梢を勢いよく伸ばす[2]。ところが夏果は前年枝の先に着くため、枝を切り詰めると着果しない[2]。結局、強い生育力があるからこそ、夏果を取るか秋果を取るかで枝の扱いを変える必要が生じる。

では、切り取った枝には、使い道があるのか。次の章は、イチジクが種から育てなくても増える理由に関わる。

4. えだを つちに さすと、ほんとうに 木に なるの?

4. 剪定した枝が、次の木になる ── 挿し木

4. 挿し木による増殖 ── 休眠枝と活着率の条件

いちじくは、えだを つちに さして ふやす ことが できます。これを「さしき」と いいます[6]。

千葉けんの しけんでは、前の 年に のびた 冬の えだを つかうと、もとの 木が ふるくても ねが でると ほうこく されて います[6]。

いちじくは、いきおいが つよい 木 です。切った あとからも、あたらしい えだを どんどん のばします[2]。そのため、えだを さす やり方でも、元気に そだつのでしょう。

でも、たねを まかなくて いいのは、どうして なの でしょう。

イチジクは、挿し木で容易に増やせる果樹です。千葉県の試験では、前の年に伸びた休眠中の枝から穂木(挿す枝)を採れば、親木の樹齢が進んでいても根が出たと報告されています[6]。

これは、イチジクの生育が旺盛なこととつながります。剪定した切り口の近くから、複数の新梢を勢いよく伸ばす木です[2]。枝の一部から根や芽が出るため、挿し木で増やせるのだと考えられます。

前の章の「切り詰めた枝」も、次の木のもとになります。切る作業が、増やす作業にもなるのです。

それにしても、人はいつごろから、枝を挿してイチジクを増やしてきたのでしょうか。その手がかりが、約1万1千年前の遺跡から見つかっています。

イチジクは挿し木で容易に増やせる。千葉県の試験では、前年に伸びた休眠枝から穂木を採取すれば、親木の樹齢が進んでいても発根した[6]。ただし、品種や環境で結果が変わる可能性は残る。

この性質は、旺盛な生育と表裏の関係にある。剪定すれば切り口付近から複数の新梢が勢いよく伸びる[2]ということは、枝の一部だけでも芽と根を再生する力を持つと読める。ただし出典は栽培上の記述であり、細胞レベルの仕組みまでは述べていない。

種から育てるのが一般的でないなら、この果樹はいつから人の手で増やされてきたのか。次の章では、考古学が示す最古級の手がかりを見る。

5. 1万1千年前にも、いちじくを そだてて いた?

5. 約1万1千年前の遺跡に残った、栽培の手がかり

5. ギルガルI遺跡の炭化イチジク ── 最古の栽培作物の可能性と、確定していない点

ヨルダンの ギルガルIと いう あとから、1万1千年 いじょう 前の いちじくが 見つかりました。たべ ものの あとに、こげて のこって いたのです[7]。

この いちじくは、花ふんが つかなくても 実に なり、たねが できない しゅるい でした[7]。たねが ないと、土に まいても ふえません。人が えだを 植えて ふやさないと、つづかない のです。

この いせきの いちじくは、人が そだてた いちばん ふるい 作物の ひとつかも しれない、と かんがえる 研究が あります。ただし、はっきり 決まった わけでは ありません[7]。

日本の いちじくが、花ふんなしで 実り、えだで ふえる のと、おなじ せいしつ です。

ヨルダン渓谷のギルガルI遺跡で、約1万1400〜1万1200年前の炭化したイチジクが見つかりました。9個の実と313個の小さな粒です[7]。

注目されたのは、この実が「受粉しなくても実り、種ができないタイプ」だったことです[7]。種ができなければ、種をまいて増やすことはできません。続けるには、人が枝を植えて増やしたと考えられています。

この遺跡のイチジクは、人が育てた最も古い作物のひとつである可能性があるとされています。ただし、確定した話ではありません[7]。

前の章までの話も、ここにつながります。受粉なしで実る性質は、日本で栽培できる理由でした。さらに、枝を挿して木を増やせる性質があれば、人は気に入った木を手元で増やせます。この2つが重なった栽培が、約1万年前までさかのぼる可能性があるのです。

ヨルダン渓谷のギルガルI遺跡(約1万1400〜1万1200年前)からは、炭化したイチジク9個と小果313個が出土した。研究者は、それが受粉なしで結実し種ができない変異体だったと報告している[7]。

種ができない型は、種からは増えない。このタイプが実り続けるには、人が枝を植えて世代をつないだと考えられている。この考えから、同遺跡の資料は最古の栽培作物の可能性があるとされる[7]。ただし確定ではない。

この話が面白いのは、前章までの性質とつながるからだ。受粉なしで結実する性質は栽培を可能にし、枝から木を増やせる性質は挿し木による増殖を可能にする。前者は現代日本で栽培が成立する理由でもある。ただし、1万年以上前の変異体と現在の日本の品種が同じ系統かどうかは、出典からは言えない。

6. いちじくを きって、ふくろの 中を 見て みよう

6. いちじくの「花の袋」を、自分の目で見る

6. 手元のイチジクで確かめられること

おうちの 人に たのんで、いちじくを たてに はんぶん きって もらいましょう。きる ときは、おうちの 人に まかせます。

中の 小さな つぶを、よく 見て みましょう。ふくろの 内がわに、小さな ものが ぎっしり ならんで いるでしょうか。

木が ちかくに あれば、えだの 葉の つけ根も 見て みます。小さな 実が ついて いるでしょうか。つき方は、えだの 下から 上へ、じゅんばんに なって いるでしょうか。

実が いつ なるかは、土地に よって ちがいます。ぜんぶ 見られなくても、だいじょうぶです。

家の人に、イチジクを縦に切ってもらいましょう。包丁を使うのは、おとなにまかせます。

切り口から中を見て、袋の内側に小さな粒がびっしり並んでいるのを確かめます。花は見えなくても、この内側に咲く花が、この果物の正体です。

近くにイチジクの木があれば、枝の葉のつけ根に、小さな実がついているかを探します。つき方が、枝の根元から先へ向かって順番になっているかを見てみましょう。実がなる時期は地域で変わるので、見つからなくても心配はいりません。

「ほかの果物の中には、花はどこにあるのか」と考えてみるのも、ひとつの出発点になります。

手元にイチジクがあれば、縦に切って内壁を観察する(刃物は保護者に頼む)。花のうの内側にある粒が、前述の小花とつながる構造であることを確かめられる。

木が身近にあれば、枝の葉腋に実がつくか、基部から先端へ順に熟すかを見る。夏果か秋果かを判別する手がかりにもなる。

切った断面は、スケッチしておくとよい。粒の並び方や数を描きとめれば、袋の内側の小花の様子を、あとで見くらべられる。

しらべた もとの じょうほう

参考にした情報源

参考にした情報源と、その使い方

花の袋の構造、受粉と単為結実、結果習性、挿し木、ギルガルI遺跡の記述は、以下の資料による。

  1. コトバンク「イチジク」(日本大百科全書・世界大百科事典) https://kotobank.jp/word/%E3%82%A4%E3%83%81%E3%82%B8%E3%82%AF (花序の構造・日本での栽培品種・伝来)
  2. マイナビ農業「イチジクの結果習性」 https://agri.mynavi.jp/2026_01_13_440067/ (花嚢・単為結実・夏果と秋果・生育)
  3. コトバンク「いちじく」 https://kotobank.jp/word/%E3%81%84%E3%81%A1%E3%81%98%E3%81%8F-3143133 (コバチによる受粉・系統の違い)
  4. 京都大学学術情報リポジトリ(イチジクとコバチの共生に関する論文) https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/68798/3/ynink00366.pdf (イチジク属の種数・一対一の共生)
  5. 福岡県農業総合試験場研究報告24 https://farc.pref.fukuoka.jp/farc/kenpo/kenpo-24/24-21.htm (普通系の単為結実性)
  6. 千葉県農林総合研究センター研究報告 https://www.pref.chiba.lg.jp/lab-nourin/nourin/kenkyuuhoukoku/documents/cafrc5-19-26.pdf (挿し木の発根条件)
  7. Harvard Gazette "Figs likely first domesticated crop"(2006年) https://news.harvard.edu/gazette/story/2006/06/figs-likely-first-domesticated-crop (ギルガルI遺跡のイチジク・英語)

なおした ところ

更新履歴

更新履歴(改版の記録)

  •  初版を公開。

このサイトでは、公開した記事の本文は原則として書き直しません。誤りが見つかったときや、内容が古くなったときだけ手を入れ、その理由をこの欄に残します。