1. ハエは どうして、たたかれる まえに にげるの?
1. ハエはなぜ、丸めた新聞紙より先に逃げられるのか
1. 新聞紙より先に動けるのはなぜか ── 時間を細かく見る、という説明
ハエを たたこうと 手を あげた しゅんかん、ふっと いなく なった。そんな ことは ありませんか。
2013年に、ダブリンの 大学などの 研究チームが、いろいろな 動物の 目を くらべました。そして、ハエが まるめた 新聞しを よける わけを「人より 細かい 時間で 動きを 見られるから」と せつめいしました[4]。
ハエ だけを はかった 研究では ありません。ハエが どう 見えて いるかを、スローモーションの ようだと たとえた お話だと 思って ください。
2. ハエの 目は、はっきり 見えて いるの?
2. ハエの目は、人よりぼんやりした絵を作る
2. 個眼の集まりとしての複眼 ── 空間解像度は低い
ハエの 目を 近くで 見ると、小さな つぶが ぎっしり ならんで います。この つぶ 1つ1つを「こがん」と いいます。
こがんには、レンズと、光を 感じる 細ぼうが 入って います。イエバエの 目には、こがんが 4000こ ほど あるそうです[1]。
こがんの つぶが 大きいほど、絵は あらく なります。ハエの 目は、1まいの レンズで 見る 人の 目より、絵が ぼやけると いわれます[2]。ただし、じっさいに どう 見えて いるかは、人には 分かりません。「モザイクの よう」は たとえです。
そのかわり、動くものを 見つけるのは とくいだと されます[2]。
ハエの顔を拡大して見ると、小さな六角形のつぶがびっしり並んでいます。このつぶを個眼といい、個眼が束になったものが複眼です。
1つの個眼には、レンズの働きをする角膜や円錐晶体、光を感じる視細胞、色素をもつ細胞が入っています。イエバエの個眼の数は約4千、トンボでは1万〜2万8千ほどと紹介されています[1]。
複眼は、人のように1つのレンズで見る目と比べると、像の細かさ(解像度)が低いとされています。そのかわり、速い動きを見つけることや、種によっては光の向きを見分けることに向いています[2]。
「モザイク画のように見える」という説明を見かけますが、これは比喩です。ハエに実際どう見えているのかは、人には分かりません。
複眼は個眼(こがん)が集まってできている。1つの個眼には、角膜、レンズ、円錐晶体(えんすいしょうたい)、7〜8個の視細胞、色素細胞がある。個眼の数はイエバエで約4千、トンボで約1万〜2万8千という[1]。
複眼は、1つのレンズで像を結ぶ目に比べて解像度が低いと説明される。その代わり、速い動きの検出には向き、種によっては偏光の検出もできる[2]。
「モザイクに見える」は比喩であり、実際の見え方は分からない。個眼数も種で大きく異なる(ここで挙げたイエバエの約4千は、別資料にあるショウジョウバエの約800とは別の数値で、混ぜて読まない)。
絵が粗いのなら、ハエは何で勝負しているのか。次は、粗さのかわりに高い、時間の細かさを見る。
3. ハエは、1びょうを どれだけ 細かく 見るの?
3. 1秒を細かく刻む目 ── 人は約60回、ハエは200〜300回ほど
3. ちらつき融合頻度 ── 人の約60Hzと、ハエ類の200〜300Hzという目安
パラパラまんがを めくると、1まい1まいの 絵が つながって、動いて 見えます。ゆっくり めくると、1まいずつ 見えて しまいます。
ちかちか ひかる 光でも、同じです。はやく てんめつ させると、人の 目には ずっと ついて いる 光に 見えます。人は 1びょうに 60回ほどまで、ちかちかを 見分けられます[3]。
ハエや ミツバチは、200から 300回ほどの ちかちかにも 反応すると いわれます[1]。60の 3ばいから 5ばいほどです。これは 本に のっている およその めやすで、しゅるいで かわります。
パラパラまんがで たとえると、ハエは 人より たくさんの 絵を、1びょうの うちに 見て いる ことに なります。
パラパラ漫画を速くめくると、1枚ずつの絵がつながって動いて見えます。ゆっくりめくると、絵が1枚ずつ見えてしまいます。
点滅する光でも同じことが起こります。ちらつく光が、ずっとついている光にしか見えなくなる最も低い点滅の速さを、ちらつき融合頻度といいます。人ではおよそ60ヘルツ(1秒に60回)です[3]。
ハエやミツバチは、200〜300ヘルツほどのちらつきにも反応するとされます[1]。計算すると人の約3〜5倍です。ただしこれは百科事典に紹介された大づかみの目安で、種によって変わります。
動物全体を比べた分析では、体が小さく、体重あたりの代謝が高い動物ほどこの値が高い傾向があります[3]。
点滅光が連続光に見え始める最低の点滅の速さを、ちらつき融合頻度(CFF)という。人では、明るい場所での行動実験で約60Hzとされる[3]。
ハエ類やミツバチでは200〜300Hzほどという目安が百科事典に示されており、人の約3〜5倍にあたる[1]。ただし、これは個々の種の精密な測定値ではなく大づかみの値で、種で変わる。固定値として扱うべきではない。
この値は動物の体の大きさや生活と関係する。脊椎動物の比較分析によると、小型で体重あたりの代謝率が高く、明るい環境にすむ動物ほどCFFが高い[3]。目の細かさとは別の軸で、「速く動く暮らし」に合わせた性能があるということだ。
では、時間を細かく見られることは、実際の行動にどう役立つのか。ハエの飛び立ちの前を調べた実験がある。
4. 見えたら、すぐ とべるの?
4. 影が迫ると、ハエは飛ぶ前から体を整えはじめる
4. 飛び立ちの約200ミリ秒前に始まる姿勢の調整 ── キイロショウジョウバエの実験
ハエは、見てから 考えて とぶので しょうか。ある 実験では、ちがう ようすが 分かりました。
ショウジョウバエに、ハエたたきを まねた 大きく なる かげを 見せると、とびたつ 0.2びょうほど まえから、体の 向きを かえはじめました。かげから はなれる 向きに、とびたてるように なる ためです[5]。
しかも、これは きまった うごきの くりかえしでは ありません。はじめの しせいに あわせて、体の うごかし方が かわりました[5]。
この 実験は ショウジョウバエの もの です。イエバエも 同じとは、まだ いえません。
時間を細かく見られても、飛び立てなければ意味がありません。ハエは影を見たあと、体をどう動かしているのでしょうか。
2008年の実験では、キイロショウジョウバエに、ハエたたきを模した迫る影を見せました。すると、飛び立つ約200ミリ秒(0.2秒)前から、影から遠ざかる向きに跳べるよう、体の重心を動かしはじめました[5]。
この動きは、決まった動作を再生しているのではなく、最初の姿勢によって変わります。つまりハエは、今の体の向きに合わせて、飛び立ち方を組み立てていたのです[5]。
ただし、この実験の対象はキイロショウジョウバエです。イエバエにそのまま当てはめることはできません。
時間の分解能が高くても、それが行動に結びつかなければ逃げ切れない。Card & Dickinson(2008)は、キイロショウジョウバエに、ハエたたきを模して拡大する影の刺激を見せ、飛び立ち前の動きを調べた。
その結果、飛び立ちの約200ミリ秒前から、影から遠ざかる向きに跳べるよう姿勢を調整し、重心を動かしていた[5]。さらにこの動きは、決まった動作の再生ではなく、はじめの姿勢に応じて変わる[5]。そのため、見てから反応する単純な反射ではなく、状況に合わせた「準備」と読める。
ただし対象はキイロショウジョウバエで、イエバエやアブに同じ数値を当てはめることはできない。また、この実験が示すのは飛び立ち前の準備であって、ちらつき融合頻度との関係は別の資料にもとづく話である。
ところで、ハエの目は時間だけでなく、「色」についても人と違う顔をもつといわれる。
5. ハエには、人に 見えない 光も 見えるの?
5. ハエの目は、紫外線や光の向きまで感じるといわれる
5. 紫外線と偏光 ── 感じる光の範囲と、見え方を想像する限界
ハエや アブなどの むしの 目は、みどり、あお、それに 紫外線にも 反応すると いわれます[1]。紫外線は、人の 目には 見えない 光です。
また、光の ふるえる 向きも 見分けます。これを へんこうと いいます[1]。どんな 色に 見えて いるかは、たとえ話でしか いえません。
ハエの目が見ているのは、人と同じ色の世界ではありません。昆虫の複眼は、緑・青・紫外線に感度をもち、さらに偏光(光が振動する向き)も見分けるとされています[1]。
紫外線は人には見えない光なので、ハエの目は、人が見ていない範囲まで光を拾っていることになります。それがどんな色や模様に見えているかは、たとえ話でしか言えません。
昆虫の複眼は、緑・青・紫外に感度をもち、偏光(光の振動方向)も感じるとされる[1]。人は紫外線を見られないので、ハエの目は人より広い範囲の光を拾っていることになる。
ただし、視細胞が反応しても、それがどんな色や模様として「見えている」かは、人には分からない。「ハエには紫外線の模様が見える」という言い方は、感度の話から想像を広げたものとして読む必要がある。
こうして見ると、ハエの目は、絵では人に劣るが、時間・色・光の向きでは別の方向に性能が伸びている。次に、アブの目の模様を見てみる。
6. アブの 目の しまもようは、なに?
6. アブの目のしま模様は、色素ではなく光の曲がり方
6. アブの複眼の模様 ── 色素ではなく屈折、そして残る謎
生きて いる アブの 目には、てん、よこじま、ジグザグの ひかる もようが 出ます。まるで 絵のぐで かいたようですが、ちがいます。
この 色は 色そ では なくて、となりあう 小さな めんの レンズで、光が まがる ようすが ちがう ことで できると、こん虫学者の リチャード・ジョーンズさんは せつめいして います[6]。
この もようの もくてきは、はっきり して いません。それに、ひょうほんに なると 色は くすんで しまいます[7]。
生きているアブ(ウシアブなど)の目には、点、横じま、ジグザグの明るい模様が浮かびます。絵の具で描いたように見えますが、色素ではありません。
昆虫学者のリチャード・ジョーンズさんは、隣り合う個眼のレンズの光の曲がり方(屈折)の差でこの色ができており、その差はレンズのクチクラの密度で決まる、と説明しています[6]。
アブ類の目の模様と色は、標本になるとくすんでしまいます[7]。アブの目は光の向き(偏光)を見分け、メスが動物を見つける手がかりになっているとされます。一方で、「アブは熱や赤外線を遠くから見つける」というのは俗説で、視細胞は赤外線や赤い光をほとんど感じないといわれます[7]。
模様が何のためにあるのかは、まだはっきりしていません。「見分けやすくするため」などと言い切れる段階ではありません。
生きたアブ(ウシアブなど)の目には、点・横じま・ジグザグの明るい模様が現れる。この色は色素ではなく、隣り合う小面(個眼のレンズ)の光の屈折の差で生じ、レンズのクチクラの密度で決まるという説明がある[6]。昆虫学者のリチャード・ジョーンズによる説明であり、雑誌記事の形で伝えられている点は、念頭に置いておきたい。
アブ類(Tabanidae)の目は生きている間は模様と鮮やかな色をもつが、標本では色がくすむ。偏光を見分け、メスが宿主を見つける決め手になるとされる。「赤外線や熱を遠くから見つける」は俗説で、視細胞は赤外線・赤の光をほとんど感じない、と整理されている[7]。ただしこの資料は百科事典の記述で、引用元の論文を直接確かめたわけではない。
模様の目的は確定していない。色素で描いた模様ではなく、レンズの構造が作る色だという点が、この話の核である。
7. じぶんで ためして みよう
7. 自分で確かめてみる
7. 試してみる、読んでみる
パラパラまんがを 作って みましょう。小さな 紙の はしに、ボールを すこしずつ ずらして かいて、かさねて めくります。
ゆっくり めくると、1まいずつ 見えます。はやく めくると、1つの 絵が 動いて 見えます。どの はやさで かわるか、ためして みて ください。
ただし、ハエの 見え方は これとは ちがう ものです。ハエを つかまえたり、たたいたりする 必要は ありません。
図書館や 図かんで、アブや ハエの 目の しゃしんを さがして みても おもしろいです。
パラパラ漫画を作ってみましょう。小さな紙の端に、ボールの位置を少しずつずらして描き、重ねてめくります。
ゆっくりめくると1枚ずつの絵が見えますが、速くめくると1つの絵が動いて見えます。どのくらいの速さで切り替わるのか、試してみてください。人の目のちらつきの見分けと、似た現象です。
ハエを捕まえたり、叩いたりする必要はありません。図書館の図鑑やウェブサイトで、アブやハエの目の拡大写真を探して、個眼の並び方やしま模様を比べるのもおすすめです。
パラパラ漫画で、点滅が連続に見える現象を体験できる。紙の端にボールの位置を少しずつずらして描き、めくる速さを変えて、どの速さで1枚ずつの絵がつながって見えるか確かめてみる。ちらつき融合頻度の話は、これに近い。
日本語で調べるなら、図鑑や百科事典で「複眼」「ちらつき融合頻度」を引いてみるとよい。英語の資料を読むなら、ちらつき融合頻度の比較分析は、Healy et al. 2013(Animal Behaviour 86(4): 685–696)が本文で公開されている[3]。ハエの飛び立ち前の動きは、Card & Dickinson 2008(Current Biology 18(17): 1300–1307)が原典である[5]。
この記事で使った「200〜300Hz」という値は百科事典の目安で、特定の種を精密に測った値ではない。数値の出どころを自分で探してみることが、次の問いになる。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
出典について:百科事典の項目、動物の目の比較分析の論文、ハエの飛び立ちの実験論文、研究のプレスリリース、雑誌記事を使った。何に使ったかは、それぞれの項目の最後に書いている。
- コトバンク「複眼」。https://kotobank.jp/word/複眼-123925 (個眼の数、200〜300Hzの目安、紫外線と偏光について。百科事典)
- Wikipedia「Compound eye」。https://en.wikipedia.org/wiki/Compound_eye (複眼は像の細かさが低く、動きに向くことについて。二次資料)
- Healy et al. (2013) Animal Behaviour 86(4): 685–696。https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3791410/ (ちらつき融合頻度の定義、人の約60Hz、小さい動物ほど高い傾向について)
- ScienceDaily (2013-09-16) 研究のプレスリリース再掲。https://www.sciencedaily.com/releases/2013/09/130916102006.htm (新聞紙をよけられる理由についての説明。報道)
- Card & Dickinson (2008) Current Biology 18(17): 1300–1307。https://authors.library.caltech.edu/12405 (キイロショウジョウバエの飛び立ち前の姿勢の調整について)
- Discover Wildlife「Why do horseflies have such pretty eyes?」。https://discoverwildlife.com/animal-facts/horseflies-pretty-eyes (アブの目の模様が屈折でできるという説明について。雑誌記事)
- Wikipedia「Tabanidae」。https://en.wikipedia.org/wiki/Tabanidae (アブの目の色、偏光、赤外線の俗説について。二次資料)
なおした ところ
更新履歴
更新履歴(改版の記録)
- 初版を公開。
このサイトでは、公開した記事の本文は原則として書き直しません。誤りが見つかったときや、内容が古くなったときだけ手を入れ、その理由をこの欄に残します。