1. 色を つける「かかり」は だれ?
1. 髪に色を入れるのは、毛の根もとにいる細胞
1. 毛球のメラノサイトが、毛母細胞に色素を渡す
かみの けの 根もとには、色素を つくる 細胞が います。「メラノサイト」と いいます。
メラノサイトは、「メラニン」と いう 色の もとを、かみの けを つくる 細胞に わたします。それで、かみの けに 色が つきます。
ぬり絵の 色を、じゅんばんに くばる かかりの ような ものです。ただし 本当は、色を くばる 人が いるのでは なく、細胞から 細胞へ 小さな つぶが わたされます。
この かかりが はたらかなく なったり、色を わたさなく なったりすると、色の ない 毛が 生えます。それが しらがです。色の ない 毛は、光を はねかえして 白く 見えます。
白い 色が 足されるのでは なく、色が 入らないだけ。これは「かみの けの ひみつ」にも 書きました。
では、かかりは どこから 来るのでしょう。
2. よびの かかりは、毛の ふくらみで まって いる
2. 「予備」は毛のふくらみにいる
2. 毛包のバルジは色素幹細胞の貯蔵所
毛が 出て くる あなの 中には、少し ふくらんだ ところが あります。「バルジ」と いいます。
ここは、メラノサイトの もとに なる 幹細胞を ためて おく ところだと いわれます。かかりの 「よび」です。
ためた おこづかいを、ひつような ときに 少しずつ つかうのと、にています。
ただし 本当は、おかねでは なく、生きて いる 細胞です。ふえたり、かかりに かわったり します。
しらがが できる わけは、まだ ひとつに 決まって いません。研究者の 間には、3つの 考えが あります。かかりが へる という 考え。よびが へる という 考え。毛が のびる とき、さびる ような ことが おきて いたむ という 考えです。
この 記事では、まん中の「よびが へる」を 見て いきます。
髪の毛が生えてくる毛穴の内側を「毛包」といいます。その途中にある、少しふくらんだ部分が「バルジ」です。
ここは、メラノサイトのもとになる「メラノサイト幹細胞」の貯蔵所だとされています。毛球のメラノサイトの「予備」がいる場所、と考えるとイメージしやすいでしょう。
ただし、白髪の仕組みは、いまも一つに決まっていません。総説論文には、大きく3つの考え方が並んでいます[3]。
- 毛球にあるメラノサイトが減る
- バルジの幹細胞が減る
- 髪が成長する間の酸化ストレスが響く
この記事は、二つ目の「幹細胞が減る」という考え方に関わる研究を中心にたどります。ほかの考え方が間違いだと言いたいわけではありません。
3. よびが 使い切られて しまう?
3. 予備が使い切られる ── 2005年の報告と、居場所での「早がわり」
3. 色素幹細胞の自己維持不全と、ニッチ内での異所性分化
2005年、西村さんたちが 報告を 出しました。ネズミと、年を とった 人の 毛の あなを しらべて、「よびの 細胞が 自分を たもち つづけられなく なると、しらがに なる」と 書いて います。
その 後、東京大学の 研究室が、年を とった ネズミの ひげで、おもしろい ことを つたえました。
よびの 細胞が、まって いる 場所の 中で、もう 色を つける 細胞に なりはじめて しまう のです。
ためて いた おこづかいを、しまって ある 場所の 中で つかって しまう ような もの。そして ひつような ときには、もう のこって いません。
ただし 本当は、おこづかいでは なく 細胞です。ここで 色づくのは ふつうでは ない、という ところが ポイントです。
ただし、これが わかったのは ネズミの ひげの 毛の あなです。人でも 同じか どうかは、まだ はっきり 言えません。
2005年、西村栄美さんたちが科学雑誌『Science』に論文を出しました。マウスと、年を重ねた人の毛包を調べて、「白髪はメラノサイト幹細胞の自己維持がうまくいかないことで起こる」と報告しました[4]。
居場所の中で、先に色づいてしまう
その後、東京大学医科学研究所の西村研究室は、年をとったマウスのひげの毛包で、次のことを見つけたと説明しています。色素幹細胞が、本来待っているはずの居場所(ニッチ)の中で、色をつくる細胞のほうへ変わってしまう。これを「異所性分化」といいます。
その結果、待機していた幹細胞が使い切られて、新しい色素細胞を出せなくなり、白髪になるというのです[5]。
ここで見つかったのは、マウスのひげの毛包での結果です[5]。人の毛包でも調べが進んでいますが、同じしくみが人でも確かめられたとまでは言えません。
4. つよい ストレスで、よびが へる?
4. 強いストレスで予備が減る? ── マウスの実験
4. 急性ストレスと交感神経 ── Nature 2020
「こわい ことが あって、一ばんで かみが 白くなった」と いう はなしを 聞いた ことが あるかもしれません。
2020年、研究チームが、ネズミで しらべた ことを 報告しました。
強い ストレスを かけると、体の 中の 神経の 一つが 強く はたらきすぎます。その 神経が 出す ものが、よびの 細胞を 急に へらして、しらがに なった そうです。
「めんえき」の はたらきや、ストレスの ホルモンは、げんいんでは ありませんでした。
ただし これは ネズミの 話です。人の しらがが、ストレスで おなじ しくみで できるかどうかは、この 報告からは 言えません。
「一晩で髪が真っ白になった」という話を、聞いたことがあるかもしれません。
2020年1月、Zhang、Hsuらのグループが、科学雑誌『Nature』にマウスの研究を報告しました。強い急性ストレスで、体の中の交感神経が過剰に活動し、ノルアドレナリンという物質が放出される。それによって、メラノサイト幹細胞が急速に減り、白髪になったというものです[6]。
免疫の攻撃やストレスホルモンが原因ではなかった、とされています。
ただし、これはマウスでの結果です。人の白髪も、同じ仕組みでストレスから起こるのかどうかは、この報告からは言えません。
5. しらがは、がんの ブレーキ かもしれない?
5. 白髪は、がんを防ぐ代わりの反応かもしれない
5. 老化分化とがん ── 2025年の発表
2025年に、また 新しい 発表が ありました。東京大学の 研究チームです。
ネズミに、放射線を あてる など、細胞の 中の 大事な ものが 切れて しまう ような ストレスを かけると、よびの 細胞が 自分から 色づいて 使われて しまい、しらがに なりました。
けれども、がんを おこしやすい 薬や、紫外線の ときは ちがいました。よびの 細胞が 色づく のを ひかえて、きずついた まま のこる こともあると いいます。
その 細胞は、がんの もとに なるかも しれません。
つまり、しらがは、きずついた 細胞を 先に 使い切って がんを ふせぐ、ブレーキの ような はたらきかも しれない、という 見方です。
ただし これも おもに ネズミで しらべた ことです。「しらがの ある 人は がんに なりにくい」とは 言えません。
2025年10月、東京大学医科学研究所が、『Nature Cell Biology』に載った研究を発表しました。
放射線などでDNAの二本鎖が切れるようなストレスがかかると、色素幹細胞に「老化分化」という反応が起こり、白髪になります。傷ついた細胞を色づかせて使い切る、ブレーキのようなはたらきと見ることもできます。
ところが、発がん性のある薬(DMBA)や紫外線を受けた場合は、この老化分化が抑えられました。傷ついた幹細胞が残って、がんのもとになりうる、という報告です[7]。
つまり、白髪は、がんを防ぐ反応の結果かもしれない、という見方です。ただし、これは主にマウスの実験です。「白髪のある人はがんになりにくい」とまでは、言えません。
東京大学医科学研究所は2025年10月6日、Nature Cell Biology に掲載された研究を発表した。放射線などによるDNA二本鎖切断のストレスでは、色素幹細胞に「老化分化」が起こり、白髪になる。一方、発がん物質DMBAや紫外線などの発がん環境下では、この老化分化のプログラムが回避され、傷ついた幹細胞が残ってがんの発生が許容される[7]。
この結果は、白髪化が、傷ついた幹細胞を使い切ってがんを防ぐ側面を持つ可能性を示す。ただし主にマウスの実験であり、「白髪のある人はがんになりにくい」とは結論できない。
6. もっと しりたく なったら
6. 自分でも調べてみたくなったら
6. 自分でも調べてみたくなったら
今日 できること
紙に、毛の あなの 絵を かいて、あなの 横に 「よびの 場所」を 一つ かきましょう。そこから 矢じるしを のばして、「色の もと」が あなの 中へ 入って いく ところを しめして みましょう。かけたら、「よびの 場所」から 色の もとが どう 動くか、口で せつめいして みましょう。
出かけて できること
図書館の 「からだ」の 本の コーナーで、「毛」や「ひふ」の 本を さがして みましょう。毛の あなの 図が のって いるか、見て みましょう。
くわしい 人に きく
頭の ひふや かみの けが 気に なるときは、ひふ科の 先生に 聞いて ください。
今日できること
紙に毛包の断面図を描き、バルジと毛球の位置に印をつけて、色素幹細胞がどこから毛球へ動くのか矢印で示してみてください。描いた図に、本文の「異所性分化」が起こる場所(ニッチ)も書き足すと、説明がぐっとつかみやすくなります。
図をもとに人に説明できたら、東京大学医科学研究所の研究紹介や2025年10月の発表(日本語)も読めます。本文の説明と原文を比べてみてください。
出かけてできること
図書館で、皮膚や毛髪についての本を探してみてください。毛包の断面図に、バルジがどこに描かれているか、見つけられるでしょうか。
専門家の話を聞く
髪や頭皮のことが気になるときは、自己判断せず、皮膚科などで相談してください。
今日できること
東京大学医科学研究所の研究紹介と、2025年10月6日のプレスリリースは日本語で読める。本文の「異所性分化」「老化分化」の説明を、原文と照らし合わせてみるとよい。
出かけてできること
まず紙に毛包の断面図を描き、バルジと毛球の位置を書き込んで、色素幹細胞の移動を矢印で示してみる。そのうえで図書館の皮膚科学・毛髪科学の棚にある図と比べるとよい。原典案内として、Nishimura ら(2005)の要旨が PubMed で公開されている。英語だが、題名と要旨だけでも、この記事の説明と照らし合わせられる。
公式情報
白髪の原因は、いまも一つに決まっていない。髪や頭皮の状態が気になる場合は、自己判断せず、皮膚科などに相談してほしい。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
この記事は、下にあげた公開情報をもとに書いています。文章や図を無断で転載してはいません。
- 花王 ヘアケアサイト「髪の色」 https://www.kao.com/jp/haircare/hair/1-5/ (メラノサイトから毛母細胞へのメラニンの受け渡し、白髪化のしくみ)
- 資生堂 Beauty Journey「白髪」 https://www.shiseido.co.jp/sw/beautyinfo/archive/BJ010639.html (白髪が白く見える理由、主な要因)
- Three Streams for the Mechanism of Hair Graying, Annals of Dermatology, 2018. https://anndermatol.org/DOIx.php?id=10.5021%2Fad.2018.30.4.397 (バルジ、3つの説)
- Nishimura EK, Granter SR, Fisher DE. Science, 2005(PubMed 収録の要旨). https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15618488/ (メラノサイト幹細胞の自己維持の不全)
- 東京大学医科学研究所 西村研究室 研究内容 https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/aging-regeneration/research/ (ニッチ内での異所性分化と幹細胞の枯渇)
- Zhang B ら, Nature, 2020(Nature Asia ハイライト). https://www.natureasia.com/ja-jp/nature/pr-highlights/13193 (急性ストレス、交感神経とメラノサイト幹細胞の減少)
- 東京大学医科学研究所 プレスリリース(2025年10月6日) https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/imsut/jp/about/press/page_00356.html (老化分化とがんの関係)
なおした ところ
更新履歴
更新履歴(改版の記録)
- 初版を公開。
このサイトでは、公開した記事の本文は原則として書き直しません。誤りが見つかったときや、内容が古くなったときだけ手を入れ、その理由をこの欄に残します。