1. ひだりききは、クラスに なん人 いるの?
1. 30人のクラスに、左利きは何人いるのか
1. 左利きは世界で約1割:最良推定値10.6%と、幅が出る理由
30人の クラスを おもいうかべて ください。ひだりききの 人は、なん人 いるでしょう。
せかい中の 研究を あつめて くらべた 研究では、ひだりききの わりあいは 10.6パーセントが いちばん たしかそうな 数字でした。30人に あてはめると、3人ほどです。
ただし、どこから ひだりききと 言うかで、数字は かわります。きびしく きめると 9.3パーセント、ゆるく きめると 18.1パーセントでした。
ひだりききは、めずらしいけれど、どの クラスにも いる、ふつうの ちがいです。では、この ちがいは、おやから うけつぐ ものなのでしょうか。
30人のクラスを思いうかべてください。左利きの人は何人いるでしょうか。
世界の研究をまとめて調べ直した研究(200の研究、約240万人分)では、左利きの割合のいちばんよい推定値は10.6%でした。30人にあてはめて計算すると、3人ほどです[1]。
ただし、どこから「左利き」とするかで数字は動きます。いちばんきびしい基準では9.3%、いちばんゆるい基準(右利き以外すべて)では18.1%でした。年代や測り方、性別、祖先によっても変わります[1]。
左利きは少数派ですが、どのクラスにもいるのがふつうです。では、この違いは親から受けつぐものなのでしょうか。
30人学級に左利きは何人いるか。200件の研究・約240万人を統合したメタ分析(Papadatou-Pastouら、2020年)では、最良推定値は10.6%で、30人にあてはめれば約3人になる(この計算は筆者による)。
ただし、この数字は「左利き」の定義に左右される。最も厳しい基準では9.3%、右利き以外をすべて含める最も緩い基準では18.1%となり、年代・測定方法・性別・祖先によっても値が変わる[1]。1割という言い方は、幅のある推定値を丸めたものとして読む必要がある。
では、この少数派はどこから生まれるのか。親から子へ遺伝するなら、左利きの親の子が左利きになるはずだ。次の章で、その割合を調べた大規模な研究を見る。
2. おやが みぎききなら、子も みぎききに なるの?
2. 利き手は、親から子へどのくらい伝わるのか
2. 遺伝の寄与は約4分の1:双子・兄弟姉妹の研究が示した割合
オーストラリアなどで、ふたごや きょうだいの 家族 2万5千組いじょうを しらべた 研究が あります。5万人ちかくの 人が 手つだって くれました。
わかったのは、ききての ちがいの うち、いでんで せつめいできるのは 4ぶんの 1ほど(23.64パーセント)だと いうことです。のこりは、おなじ 家で そだっても、きょうだいで ちがう ような えいきょうでした。
ただし、これは みんなの ばらつきを 見た わりあいです。ひとりの 人の ききてが、4ぶんの 1だけ いでんで きまる、という 意味では ありません。
この 研究では、ふたごに とくべつな えいきょうは 見つかりませんでした。ふたごと ふつうの きょうだいで、ひだりききの わりあいも ちがいませんでした。
いでんで せつめいできたのは、4ぶんの 1ほどでした。それでも、いでんしの はんいは たくさん 見つかっています。
オーストラリアなどで、双子と兄弟姉妹の家族25,732組(54,270人)が協力した大きな研究があります。利き手のばらつきのうち、遺伝で説明できる部分は約4分の1(23.64%)で、残りは、きょうだいで共通しない環境の影響でした[2]。
注意したいのは、この約24%が「集団のばらつき」についての割合だということです。ある一人の利き手の24%が遺伝で、76%が環境で決まる、という意味ではありません[2]。
この研究では、双子だけに特別な影響(母親の体内でのホルモンのやりとりや、左右の鏡像のような関係)も見つかりませんでした。双子と、双子でない兄弟姉妹で、左利きの割合にも差はありませんでした[2]。
遺伝で説明できたのは、約4分の1でした。ところが、遺伝子の側から調べると、関わる領域はたくさん見つかりました。
利き手がどのくらい遺伝するかは、双子・兄弟姉妹の比較で調べられる。Medlandら(2009年)は、25,732家族・54,270人のデータを解析し、加算的な遺伝効果が利き手のばらつきの23.64%(95%信頼区間20.17〜27.09%)を説明し、残りは非共有環境(同じ家庭で育ってもきょうだいで異なる要因)で説明されると報告した[2]。
この24%は、集団内のばらつきを分けた値であり、個人の24%が遺伝子で決まるという意味ではない。また、母体内のホルモン移行や鏡像のような双子特有の効果は見られず、双子と単生児の兄弟姉妹で左利きの割合に差もなかった。この研究では、双子に特有の効果は見つからなかった。
では、遺伝の寄与が小さいのに、遺伝子が無関係とは言えないのはなぜか。それは、1つの大きな遺伝子ではなく、小さな効果をもつ多数の遺伝子が重なる場合に起きる。次の章で、その場所の数を見る。
3. 「ひだりききの いでんし」は、1つだけ?
3. 「左利きの遺伝子」は1つではなく、関わる領域が48か所見つかった
3. 48か所の遺伝子領域:177万人のゲノム解析が示した「小さな効果の積み重ね」
いでんしの 場所を くわしく しらべる 研究が あります。イギリスなどの 大きな データを あわせて、170万人いじょうの いでんしを くらべました。
すると、いでんしの はんい(りょういき)が、ひだりききに かかわる ものが 41か所、りょうてききに かかわる ものが 7か所、ぜんぶで 48か所 見つかりました。
たとえば、みんなで 1つの ロープを ひく 「つなひき」を おもいうかべて ください。1人の 力は 小さくても、たくさん あつまると、むきが きまります。ききても、小さな えいきょうの あつまりで うごくと 考えられて います。ただし ほんとうの しくみは、つなひきほど かんたんでは ありません。
では、この 48か所は、からだの どこで、なにを して いるのでしょうか。
UK Biobank、23andMe、国際利き手コンソーシアムのデータをあわせた約177万人のゲノム解析では、左利きに関わる41か所と、両手利きに関わる7か所、合わせて48か所の遺伝子領域が見つかりました[3]。
しかも、中枢神経系(脳やせきずい)で働く遺伝子が多く、1つ1つの影響は小さいと報告されています。「左利きの遺伝子」が1つだけある、という考え方は合わないようです[3]。
たとえるなら、綱引きです。1人の力は小さくても、たくさんの人が少しずつ引くと、綱の動く向きが変わります。利き手も、小さな影響の重なりで動くと考えられています。ただし、実際の仕組みは綱引きほど単純ではありません。
では、その遺伝子は、体の中で何をしているのでしょうか。
遺伝の寄与が約4分の1なら、その遺伝子は少数の大きな効果をもつものか、多数の小さな効果の集合か。ゲノムワイド関連解析(GWAS)は、後者を示した。Cuellar-Partidaら(2021年)は、UK Biobank・23andMe・国際利き手コンソーシアムの約177万人を解析し、左利きに関連する41か所と両手利きに関連する7か所、計48か所の遺伝子領域を報告した[3]。
関連した領域には中枢神経系で働く多くの遺伝子が含まれ、1つ1つの効果は小さい。したがって「左利きの遺伝子」は存在せず、多数の変異が確率を少しずつ動かす多遺伝子的な性質だと説明される。
では、これらの遺伝子は神経系で具体的に何をしているのか。次の章では、脳の配線と、PCSK6という遺伝子の例を見る。
4. 見つかった いでんしは、からだの なかで なにを して いるの?
4. 見つかった遺伝子は、脳のつくり方と左右づくりに関わっていた
4. 脳の配線とPCSK6:遺伝子が関わるのは、利き手の向きか、偏りの強さか
イギリスの 40万人ほどの データを しらべた 研究では、4つの 場所が 見つかりました。うち 3つは、脳が できて いく ときに はたらく いでんしに かんけいして いました。
また、ひだりききの 人は、ことばを あつかう 左右の 脳の はんぶん どうしの つながりが、すこし 強い ことも わかりました。
PCSK6(ピーシーエスケーシックス)という いでんしの 研究も あります。この いでんしは、からだの 左右を つくる ときに はたらく ことで しられて います。
1113人の 研究では、この いでんしの ちがいは、右か 左かでは なく、どれだけ 一ぽうの 手に かたよるか、という ことと かんけいして いました。ほかの 人たちの 研究でも 同じか どうかは、まだ 大きくは たしかめられて いません。
イギリスのUK Biobank約40万人(左利き38,322人、右利き356,567人)の解析では、4つの関連領域が見つかりました。そのうち3つは、脳の発達や形づくりに関わる遺伝子(MAP2やMAPTなど)の近くにありました。さらに、左利きの人は、言語をあつかう左右の脳のネットワークどうしのつながりが強いことも分かりました[4]。
もう1つ、おもしろい例があります。PCSK6という遺伝子は、体の左右の軸ができるときに働くことが知られています。成人1,113人の研究では、この遺伝子の変異は、利き手が右か左かではなく、どれだけ一方の手に偏るか(度合い)と関係していました[5]。ほかの集団での再現は、まだ限られています。
遺伝子は、「右か左か」を直接決めるのではなく、脳や体の左右づくりをとおして、偏りを少しずつ動かしているのかもしれません。
では、その偏りは、いつから現れるのでしょうか。
48か所の中身は何か。UK Biobankの約40万人(左利き38,322人、右利き356,567人)を解析したWibergら(2019年)は4領域を見つけ、うち3つが脳の発達・パターン形成に関わる遺伝子(微小管に関わるMAP2、MAPTなど)に関係すると報告した。さらに、左利きの人では左右の言語ネットワークの機能的結合が強かった[4]。
もう一つの手がかりがPCSK6(ピーシーエスケーシックス)である。この遺伝子は、中枢神経系の前方のパターン形成と体の左右軸の形成に関わることが知られる。成人1,113人を調べたScerriら(2011年)では、33塩基の繰り返し配列の違いが、利き手の向きではなく、一方の手に偏る度合いと関連した[5]。他の集団での再現は限定的で、一つの研究の結果として扱うべきだ。
そのため、遺伝子は「右か左か」を決めているというより、左右の脳や体のつくりを通して、偏りの強さを動かしている可能性がある。ただし、これは相関から出てくる仮説であり、因果は示されていない。
では、この偏りは、生まれる前から現れているのか。
5. おなかの 中の あかちゃんは、もう 右うでを よく うごかす?
5. 生まれる前から、腕の動きに左右の差が見つかっている
5. 脳が腕を動かす前から、脊髄に左右差がある:胎児期の手がかり
おなかの 中の あかちゃんを、おなかの 外から うつす きかい(ちょうおんぱ)で 調べた 研究が あります。
10しゅうの あかちゃん72人の うち、85パーセントが、左より 右の うでを よく うごかして いたと しょうかいされて います。おとなの 右ききの わりあいに ちかい 数字です。
せぼねの 中を とおる しんけいの いでんしを 調べた 研究では、8〜12しゅうの あかちゃんで、はたらき かたに 左右の ちがいが あると いわれて います。脳が うでを うごかす まえから、左右の ちがいが あるのかも しれません。ただし、この 研究は 5人を しらべた もので、まだ きめつけられません。
ききての ちがいの のこり 4ぶんの 3は、おなじ 家で そだっても きょうだいで ちがう えいきょうや ぐうぜんと いわれます。おなかの 中の かたよりが、その いちぶ なのかは、まだ わかっていません。
おなかの中の赤ちゃんの腕の動きは、超音波で観察できます。10週の胎児72人の記録では、85%が右腕を左腕より多く動かしたと紹介されています。これは大人の右利きの割合(約89%)に近い数字です[6](ただし原論文ではなく、解説記事による紹介です)。
29人の赤ちゃんを、妊娠14・18・22週に調べて9歳時点の利き手と照らした研究では、18週以降の腕の動きの速さなどから、89〜100%の精度で利き手を推定できました[7]。ただし対象は29人の小さな研究で、「決まる」のではなく「推定できた」という報告です。
さらに、妊娠8〜12週の胎児5人の脊髄を調べた研究では、発達の段階に応じて遺伝子の働き方に左右差があると報告され、腕や脚を動かす部分で目立ちました。脳が脊髄とつながる前から腕の動きに偏りがあることから、脊髄の左右差が利き手の分子レベルの出発点かもしれない、と提案されています[8]。5人の結果なので、原因が分かったとは言えません。
遺伝で説明できるのは利き手のばらつきの約4分の1で、残りの約4分の3は、きょうだいで共通しない環境や偶然とされます。胎児期の偏りがその一部かどうかは、まだ分かっていません。
利き手のばらつきのうち、遺伝で説明できない残りの約4分の3は何か。手がかりの一つは胎児期にある。10週の胎児72人の超音波記録では、85%が右腕を多く動かしたと紹介されている(Hepperらの1998年の研究とされるが、ここでは解説記事による二次的な紹介で、原論文は確認していない)。この値は大人の右利きの割合(約89%)に近い[6]。
さらに、29人の胎児を妊娠14・18・22週に4D超音波で調べ、9歳時点の書く手と照らしたParmaら(2017年)の研究では、18週以降の腕の動き(速さ・減速)から89〜100%の精度で利き手を分類できた[7]。ただし29人中25人が右利きという小規模な研究であり、「推定できた」という報告にとどまる。
そもそも、この偏りはどこから始まるのか。Ocklenburgら(2017年)は妊娠8〜12週の胎児5人の頸部〜胸部の脊髄を調べ、発達段階に応じた遺伝子発現の左右差があり、腕や脚を動かす領域で顕著だったと報告した。運動野が脊髄と機能的に結ばれる前から腕の動きに偏りがあることから、脊髄の左右差が利き手の分子的な出発点かもしれない、と提案している[8]。5人の結果であるため、原因が特定されたとは言えない。
以上をまとめると、遺伝子は約4分の1を説明し、胎児期の偏りも見つかっているが、この偏りが環境による残りの部分とどう関係するかは分かっていない。ここが、これからの研究に残された問いだ。
6. じぶんでも しらべて みたく なったら
6. 自分でも調べてみたくなったら
6. 自分でも調べてみたくなったら
きょう できる こと
けしゴムを 左右の 手で 1分間に いくつ つめるか、くらべて みましょう。どちらが よいと いう ことでは なく、「手が ちがうと うごきが かわる」ことを 感じる ためです。
しらべる とき
としょかんで 「からだ」の ほんを さがし、「ききて」や 「のう」の ページを 読んで みましょう。
今日できること
消しゴムを積み上げるか、ボタンを留めるなど、同じ動きを左右の手で1分間やってみて、できた数を比べてみましょう。優劣を見るのではなく、手によって動きやすさが変わることを感じるための実験です。
家族とくらべるなら
ボールを投げる、はさみで切る、歯をみがく。どちらの手を使うか、家族や友だちにも聞いて表にしてみましょう。左右どちらかにきっぱり分かれる人もいれば、動作によって手が変わる人もいるはずです。図書館で、脳や体の発達の本を探してもよいでしょう。
今日できること
消しゴムの積み上げやボタン留めなど同じ動作を左右の手で1分間行い、数を比べてみるとよい。手の優劣ではなく、偏りの「度合い」が人によって違うことを、自分の体で確かめる実験になる。PCSK6の研究が「向き」ではなく「度合い」と関連した、という話と重ねて考えられる。
度合いを自分で見るなら
ボール投げ、はさみ、歯みがき、字を書くなど5〜10種類の動作で、どちらの手を使うかを家族や友人にも聞いて表にし、「全部同じ手」か「動作で変わる」かを比べてみるとよい。偏りの度合いが人によって違うことが、手元のデータで見えてくる。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文で使った資料です。論文は英語です。
- Papadatou-Pastou et al., Human handedness: a meta-analysis, Psychological Bulletin(2020). https://research-repository.st-andrews.ac.uk/handle/10023/19889 (左利きの割合)
- Medland et al., Genetic influences on handedness, Neuropsychologia(2009). https://researchers.mq.edu.au/en/publications/genetic-influences-on-handedness-data-from-25732-australian-and-d/ (遺伝の割合・双子の比較)
- Cuellar-Partida et al., Genome-wide association study identifies 48 common genetic variants associated with handedness, Nature Human Behaviour(2021). https://research.vu.nl/en/publications/genome-wide-association-study-identifies-48-common-genetic-varian-2/ (48か所の遺伝子領域)
- Wiberg et al., Handedness, language areas and neuropsychiatric diseases, Brain(2019). https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6763735 (脳の発達に関わる遺伝子・言語ネットワーク)
- Scerri et al., PCSK6 is associated with handedness in individuals with dyslexia, Human Molecular Genetics(2011). https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3695088 (PCSK6と利き手の度合い)
- Psychology Today, Does left-handedness develop before or after birth?(2020). https://www.psychologytoday.com/us/blog/the-asymmetric-brain/202006/does-left-handedness-develop-before-or-after-birth (妊娠10週の腕の動き。Hepperらの研究の紹介)
- Parma et al., Prenatal kinematics predict handedness, Scientific Reports(2017). https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5711880 (胎児の腕の動きと9歳の利き手)
- Ocklenburg et al., Epigenetic regulation of lateralized fetal spinal gene expression, eLife(2017). https://elifesciences.org/articles/22784v1 (胎児の脊髄の左右差)
なおした ところ
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