1. ふくは、きて いない じかんの ほうが ながい?
1. 服は、着ている時間より掛かっている時間のほうが長い
1. 服が着られていない時間と、肩の形
あさ、ふくを きて、でかけます。かえって きたら、ぬいで ハンガーに かけます。ふくが ハンガーに かかって いる じかんは、きて いる じかんより ながい ことも あります。
洋服は、ひとが きて いる すがたが いちばん いい、と いわれます。ひとの かたに のった とき、ふくは いちばん きれいな 形に なるからです。
木の ハンガーを つくって いる 会社の ひとは、きて いる すがたを クローゼットの なかでも たもつ ために、ふくらみの ある 形に して いると せつめい して います。かたの 形は、ふくを かける ため だけでは なくて、ふくの すがたを まもる ための 形なのです。
では、かたの さきが どんな 形だと いいのでしょう。ほそい はりがねだと、どうなるのでしょう。
朝、服を着て出かけ、夜に脱いでハンガーに掛けます。スーツのような服は、自分が着ている時間より、着ていない時間のほうが長くなりやすい服です。
日本の木製ハンガーメーカーの営業担当者は、欧米向けの紹介の中で、洋服は人が着ている状態がいちばん良いとされると話しています。そのため、着ていない間も着ている形をクローゼットの中で保てるように、立体的な形のハンガーをすすめているそうです[1]。
つまり肩の形は、服を掛ける場所である前に、着た形のまま休ませるための型だと説明できます。ただしこれは木製ハンガーを作る会社の説明で、すべてのハンガーの設計者の考えを代表するものではありません。
では、肩先がどんな形だとよいのでしょうか。細い針金では、何が起きるのでしょうか。
洋服は人が着ている状態がもっとも良い形とされる。一方で、スーツのような服は着ている時間より着ていない時間のほうが長い。日本の木製ハンガーメーカーの営業担当者は、欧米向けの紹介で、そのため着ている形をクローゼットの中でも保つ立体的な形状を勧めると説明している[1]。
この説明に立てば、肩の形は服を掛けるための突起ではなく、着た形を保つ型である。ただし、これは一社の営業担当者の説明であり、肩の形を人の肩の測定から決めたという設計者の記述は、今回読んだ資料には出てこない。そのため本記事では、肩の形を「人が着た形を保つ形」という働きの面から読む。
問題は、その形がどの程度の細かさで服に合わせられるかである。次の章では、肩先の曲がり方と針金の細さが、服に何を起こすかを見る。
2. かたの さきが とがって いると、ふくは どう なるの?
2. 肩先が真横に突き出ていると、服はどうなるのか
2. 肩先の曲がり方と針金の細さは、服に何をもたらすか
いちばん ふつうの ハンガーは、かたはばぐらいの ながさで、ゆるい「く」の 字や、ゆるい 三角形の 形を して います。
ちがいが でるのは、かたの さきです。まえへ ゆるく まがって いる ものが あんしんと いわれます。まよこに とびだして いると、ふくの くびの うしろが つっぱって、しわに なる ことが あるそうです。ハンガーの はばは、ふくより 1センチほど ちいさい ものが おさまりが いい、という めやすも あります。
ほそい はりがねの ハンガーは、ふくの かたの ところが ほそい 線で ささえられます。すると、あとや しわが つきやすく なります。クリーニングの おみせの ような はりがねの ハンガーは、ちょっとの あいだ つかう もので、ながく かけると 形が くずれる もとに なる といわれます。
そこで、はばが ひろくて まるい カバーを かぶせて、ひとの かたに ちかい 形に する くふうが、とっきょに かかれて います。
最も一般的な衣類用ハンガーは、肩幅ほどの長さの、ゆるく「く」の字に曲がった棒か、ゆるい曲線の三角形をしています[3]。
形の差が出るのは肩先です。ライフスタイル媒体のハンガー紹介では、肩先が前方へゆるやかにカーブしたものが安心とされ、真横に突き出たものは、服の首の後ろが突っ張ってシワになるおそれがあると説明されています[2]。これは選ぶときの目安で、規格や法則ではありません。
細い針金の場合は、少し事情がちがいます。クリーニング店で使われる被覆つきの針金ハンガーは一時的な使用向きで、長く掛けると型崩れの原因になるといわれます[3]。ある米国特許の説明では、針金ハンガーは細いので服に跡やシワがつきやすく、肩のまわりで服が小さな曲線に曲げられます。そこで、幅が広く丸い肩カバーをかぶせて人の肩の一般的な形に近づけ、外したときの見た目を自然に戻す工夫が書かれています[4]。
細い線で支えるのではなく、広い面で受けて、人の肩の形に近づける。この考えは、針金ハンガーが生まれたころの特許にもあらわれます。では、その針金ハンガーは、どこから来たのでしょうか。
もっとも一般的な衣類用ハンガーは、肩幅程度の長さの、ゆるく「く」の字に曲がった棒、またはゆるい曲線の三角形である[3]。この形の中で服への影響を分けるのは、肩先である。生活情報媒体のハンガー紹介では、肩先が前方へゆるやかにカーブしたものが安心とされ、真横に突き出たものは首の後ろが突っ張ってシワになるおそれがあると説明される[2]。これは選ぶときの目安であって、規格や法則ではない。
では、細い針金ではどうなるのか。針金に被覆したクリーニング店のようなハンガーは一時的な使用向きで、長く掛けると型崩れの原因になるとされる[3]。米国特許6,581,810は、その理由を次のように述べる。針金ハンガーは細いため、服に跡やシワがつきやすく、肩のまわりで服が小さな曲線に曲げられる。そこで、幅が広く丸い肩カバーを重ね、人の肩の一般的な形に近づけて、外したときの服の見た目を自然にする。同じ特許は、典型的な針金ハンガーの両肩の角度を140°と例示している[4]。ただし、これは一例の数字であり、すべての針金ハンガーの角度ではない。
つまり、肩の形には二つの役目がある。一つは、肩先の曲がりで首まわりの突っ張りを避けること。もう一つは、細い線ではなく幅のある面で服を受け、跡を減らすことである。後者の考えは、針金ハンガーが生まれたころの特許にも見える。では、その針金ハンガーは、どこから来たのだろうか。
3. フックが ぜんぶ ふさがって いた あさ、なにが おきたの?
3. 空いているコートフックがなかった朝、針金が曲げられた
3. 壁の衣類フックから、針金を曲げた逸話まで
はりがねの ハンガーの もとは、アメリカの 1869ねんの とっきょに ある、ふくを かける ための フックだ、と いわれます。O.A.ノースさんが、まげた きんぞくの ぼうや はりがねで つくる ものの とっきょを とりました。かべの いたに はめて、すうちゃくの ふくを せまい ところに かけ、きずから まもる ものでした。
それから 34ねんあとの 1903ねん。ミシガンしゅうの ある 会社で はたらいて いた アルバート・パークハウスさんが、あさ、しごとに くると、コートフックが ぜんぶ ふさがって いたそうです。そこで、はりがねを まげて、ふくを かける ものを つくった、と つたえられて います。
ほんとうに その あさに うまれたのかは、はっきり しません。でも、ふくを かける ところが たりなくて、はりがねを まげた、という はなしは、ものの はじまりを おもいうかべる ヒントに なります。
英語版Wikipediaは、現在の肩形の針金ハンガーが1869年の衣類フックに着想を得たと伝えています[6]。ほかの資料で裏づけられた話ではなく、そう語られている、というところまでが確かです。そのフックの特許は、コネチカット州のO. A. Northが得た米国特許85,756で、曲げた金属棒か針金で作る衣類の支持具で、壁の板にはめて数着を狭い場所に掛け、傷から守るものでした[5]。まだ肩の形はなく、吊り下げて使う現代のハンガーそのものでもありません。
それから約30年後の1903年のこととして、英語版Wikipediaにこんな逸話が載っています。ミシガン州ジャクソンのTimberlake Wire and Novelty Companyで働いていたAlbert Parkhouseが、ある朝出勤すると、コートフックがすべて使われていました。そこで針金を曲げて、服を掛けるものを作った、という話です[6]。
ただしこれは逸話で、確かな記録で裏づけられた話とは言えません。「発明者はParkhouse」と言い切れる資料は、今回読んだ範囲にはありません。
肩の形の針金ハンガーが、どこから来たのかを見よう。英語版Wikipediaは、現在の形の針金ハンガーが、1869年の衣類フックに着想を得たと伝える。ただし、これは同百科事典の記述であり、別の資料で裏づけられた事実とは言えない[6]。そのフックの特許(米国85,756)を得たのは、コネチカット州ニューブリテンのO. A. Northである。曲げた金属棒または針金で作る衣類の支持具で、壁の板にはめて使い、数着を狭い場所に掛けて傷から守るとされる[5]。壁掛けのフックであり、吊り下げて使う現代のハンガーそのものではない。
その約30年後、1903年の朝の逸話が語られる。ミシガン州ジャクソンのTimberlake Wire and Novelty Companyの従業員Albert Parkhouseが、出勤するとコートフックが全部ふさがっていたため、針金を曲げて服を掛けるものを作った、という話である[6]。
ただし、この話の資料は逸話の形(「the story goes」)で書かれており、英語版Wikipedia上でも出典の追加が求められている。そのため、Parkhouseを発明者と断定することはできない。ここでは、壁の衣類フックという前史と、針金を曲げた朝の逸話が、同じ流れの中で語られる、というところまでを読み取る。
4. とっきょに のこった なまえは、だれ?
4. 特許に残った名前は、逸話の人ではなかった
4. 逸話の人と特許の発明者は、なぜ違うのか
1904ねんに とどけが 出て、1906ねんに ひろく しられる ことに なった、「ふくの ハンガー」という 特許が あります。この とっきょに かかれた なまえは、パークハウスさんでは なくて、チャールズ・パターソンさんでした。けんりを もって いたのは、ジョン・ティンバーレークさんです。
この とっきょの ハンガーの りょうはしには、はりがねを コイルの ように まいた「かたの ささえ」が ついて います。ふくの かたを ひろい めんで ささえて、形を たもつ ための ものと かかれて います。
では、発明したのは だれでしょう。おはなしの 中の ひとと、とっきょの なまえの ひとが ちがうので、1人に きめるのは むずかしいのです。わかるのは、かたの 形を もった ハンガーが、1900ねんごろの アメリカで、とっきょに なる くらい、くふうされて いた ことです。
米国特許822,981「Garment-hanger」は、1904年1月25日に出願され、1906年6月12日に公開されました。発明者として書かれているのはCharles Lewis Patterson(デトロイト)で、権利者はJohn B. Timberlakeです[7]。逸話の会社名と同じ姓であることは気になりますが、二人の関係はこの資料からは分かりません。
この特許の針金ハンガーには、針金の骨組みの両端に、コイル状の針金でできた「肩の支え」がついています。コートの肩をふくらませたまま、比較的広い面で服を支えるためだと書かれています[7]。前の章で見た、細い線ではなく面で受けるという考えが、すでに設計に入っていたことになります。
では、だれが発明したのでしょうか。逸話ではParkhouse、特許上の発明者はPattersonです。資料の種類がちがうので、一人には決められません。分かるのは、1900年代のはじめの米国で、肩を支える針金ハンガーが特許になる形に整えられていた、ということです。
特許の記録に当たると、名前が逸話と一致しない。米国特許822,981「Garment-hanger」は、1904年1月25日に出願され、1906年6月12日に公開された。発明者名はCharles Lewis Patterson(デトロイト)、権利者はJohn B. Timberlakeである[7]。特許からParkhouseの名前は確認できない。逸話の会社名Timberlakeと権利者の姓が一致する点は注意をひくが、両者の関係を述べた資料は、今回読んだ範囲にはない。
この特許の構造は、前の章の読みとつながる。針金の骨組みの両端に、コイル状の針金による「肩の支え」を置き、コートの肩をふくらませたまま、比較的広い面で服を支えて形を保つ、と書かれている[7]。細い線ではなく面で受けるという考えは、すでに20世紀の初めの設計に入っていた。後の特許6,581,810が、幅の広い肩カバーで人の肩の形に近づけようとするのも、同じ方向の工夫である[4]。
では、逸話と特許はどう読めばよいのか。逸話は、ものの始まりを思いうかべやすくするが、記録としては弱い。特許は、設計の中身を確かに示すが、実際に最初に作った人を示すとは限らない。針金ハンガーの発明者を一人に決めない読み方のほうが、資料と矛盾しない。
5. きものは、どうして ハンガーに かけなかったの?
5. 着物はなぜ、洋服のようには掛けなかったのか
5. 着物の衣紋掛けと洋服ハンガーを分ける形
むかしの にほんでは、着物を ようふくの ように かけて しまう かんがえは なく、たたんで、たんすや ひきだしに いれる ことが ふつうだった といわれます。
きものを かけるための どうぐは「えもんかけ」と いいます。ながい うでぎ(よこの ぼう)が ある、ほぼ まっすぐの 形です。洋服の ハンガーとは、ちがう しゅるいとして わけられて います。
ふくの 形が ちがえば、ささえる 形も ちがいます。かたで 形が きまる 洋服には、かたの 形の ハンガーが よく あうのでしょう。
肩の形は、洋服という服の作りと深くかかわっています。日本の着物は、洋服のように掛けて収納する発想がもともとなく、折りたたんでたんすや引き出しに入れるのが一般的だったといわれます[3]。
着物用の「衣紋掛け」は、長い腕木をもつ水平な形で、洋服用ハンガーとは別の型として分類されています(特許庁の意匠分類に「和服ハンガー型」があります)[3]。
肩の形で着た形を保つハンガーは、肩で形が決まる洋服に合わせて育った道具だと考えられます。これは資料にもとづく読み方の一つで、日本で洋服ハンガーが広まった年代を示す資料は、今回の範囲にはありません。
肩の形のハンガーは、洋服の作りと対応した道具である。日本語版Wikipediaによれば、着物は洋服のように掛けて収納する発想が古来なく、折りたたんでたんすや引き出しに入れるのが一般的だった。着物用の「衣紋掛け」は、長い腕木をもつ水平な形で、特許庁の意匠分類でも洋服用ハンガーとは別の型(和服ハンガー型)に置かれる[3]。
ここから読めるのは、肩の形で服を支えるハンガーが、肩で形を保つ洋服に合うということだ。一方、着物では水平の腕木が使われる。ただし、これは二つの形の違いから導いた読みであり、肩の形が洋服のために設計されたと述べる一次資料はない。
6. うちの ハンガーの かたを みくらべて みよう
6. 家のハンガーの肩を、服に当てて見くらべる
6. 家のハンガーで肩先と幅を確かめる
きょう できる こと
おうちの ハンガーを 2つ ならべて みましょう。かたの さきが まえに ゆるく まがって いる ものと、まよこに のびて いる ものが あるかも しれません。ふくを かけて、くびの うしろが つっぱって いないか、かたの ところに あとが ないか、みて みましょう。
ものさしで、ふくの かたはばと ハンガーの はばを はかって、ちがいを かきとめて みるのも おもしろいです。ほそい はりがねの ハンガーに かけた ふくは、かたの ところを よく みて ください。
しらべる とき
JETRO(ジェトロ)の ウェブサイトに、日本の ハンガーの 会社を しょうかいする 日本語の どうがが あります。おうちの ひとと いっしょに みて みましょう。
今日できること
家にあるハンガーを2つ並べて、肩先の曲がり方と幅を見比べます。そのハンガーに服を掛けて、首の後ろが突っ張っていないか、肩のところに跡がないかを見てみます。
ものさしで、服の肩幅とハンガーの幅を測って書きとめると、服とハンガーの幅の差が、肩の跡の出方とどう関係するかを見くらべられます。細い針金のハンガーに掛けた服は、肩のあたりを見てください。
資料を読むなら
日本貿易振興機構(JETRO)の動画「日本製ハンガーをスーツの本場・欧米へ」で、メーカーの人が肩の形を説明する場面を見られます[1]。
今日できること
家のハンガーを2種類以上並べ、肩先の曲がり方(前方へ曲がるか、真横に突き出るか)と幅を比べるとよい。同じ服を掛けて、首の後ろの突っ張りと肩の跡を観察し、ものさしで服の肩幅とハンガーの幅の差を測れば、幅の差と肩の跡の出方に関係があるかを、自分の服で確かめられる。
資料を読むなら
日本語では、JETROの動画で、メーカーの営業担当者が着る形を保つ形状について説明している[1]。本文で触れた米国特許は、822,981の「肩の支え」の記述[7]、85,756の衣類フックの説明[5]、6,581,810の肩カバーの説明[4]で、番号を資料欄から見つけられる。特許は、図と見比べると、「肩を面で支える」という考えがどの部品で実現されているかを自分の目で確かめられる。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文で使った資料です。
- JETRO TV「日本製ハンガーをスーツの本場・欧米へ」(ナカタハンガー). https://www.jetro.go.jp/tv/internet/2022/06/2e9513880ac2e27d.html (着る形を保つハンガーの説明)
- ヨムーノ「ハンガーおすすめ12選」. https://yomuno.jp/posts/45391 (肩先と幅の選び方の目安)
- Wikipedia日本語版「ハンガー」. https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%83%B3%E3%82%AC%E3%83%BC (一般的な形と衣紋掛けの分類)
- US6581810B1 Self-shaping garment hanger shoulder guard(米国特許). https://patents.google.com/patent/US6581810 (針金ハンガーの跡と肩カバー)
- US85756A Improvement in clothes-hook(米国特許). https://patents.google.com/patent/US85756A/en (1869年の衣類フック)
- Wikipedia英語版「Clothes hanger」. https://en.wikipedia.org/wiki/Clothes_hanger (1903年の逸話)
- US822981A Garment-hanger(米国特許). https://patents.google.com/patent/US822981A/en (1906年公開の肩の支えのある針金ハンガー)
なおした ところ
更新履歴
更新履歴(改版の記録)
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