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ここにあるのは、だれかが実際に調べ、考え、作ってきたことを集めたメモです。気になったら、ページの下の「参考にした情報源」から、もとの本や記事、それを生み出した人たちに、直接ふれてみてください。このメモには書ききれないおもしろさが、そこにあります。

うれしいと、どうして えがおに なるの?

うれしいと、どうして笑顔になるの? 目の見えない選手と、ペンをくわえる実験から考える

うれしいと、なぜ笑顔になるのか:目もとの筋肉、生まれつきの証拠、そして「笑えば気分が変わるか」の再検証

分野:からだ

うまれた ときから 目が 見えない 柔道じゅうどうの 選手せんしゅも、しあいに かって うれしい とき、見える 人と おなじ えがおを つくります。だれの えがおも 見た ことが ないのに、です。

うれしいと、どうして かおが うごくのでしょう。この きじでは、えがおの ときに はたらく 筋肉きんにくと、うまれつきらしい しょうこ、そして「わらうと きぶんが かわるか」を たしかめた 実験じっけんが わかります。

2004年のアテネ大会で、生まれつき目の見えない柔道選手たちが、勝ち負けの場面で、見える選手と同じ顔の筋肉の動きを見せました。笑顔の写真を一度も見たことがないはずなのに、です。

うれしいと、顔はなぜ笑顔になるのでしょうか。逆に、笑ってみると気分も変わるのでしょうか。この記事では、笑顔で動く筋肉、生まれつきらしいという証拠、世界17か所でやり直された実験の結果が分かります。

2004年のアテネ五輪・パラリンピックで撮られた4,800枚以上の写真を分析した研究では、生まれつき目の見えない柔道選手も、見える選手とほぼ同じ顔の筋肉の動きで、勝敗などの場面の感情を表していた。見たことのない表情を、なぜ作れるのか。

では逆に、顔を笑いの形にすれば気分は変わるのか。この記事では、笑顔の筋肉の組み合わせ、生得性を示す証拠とその限界、そして世界17の研究室でやり直された実験の結果が分かる。

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1. えがおの とき、うごいて いるのは 口だけ?

1. 本物らしい笑顔では、口だけでなく目もとも動く

1. 笑顔の「本物らしさ」の目印は、口と目のまわりの筋肉が同時に動くこと

うれしいと、口の はしが ぐっと 上がります。ここまでは、みんなが 知って います。

じつは、もう 1つ うごく ところが あります。目の まわりの 筋肉きんにくです。目じりが きゅっと ちぢんで、目が すこし ほそく なります。

口と 目の まわりが いっしょに うごく えがおは、ほんとうの うれしさの しるしと されて きました。この えがおを、はかせの なまえを とって「デュシェンヌ・スマイル」と よびます。

ただし、目が わらって いれば かならず ほんものと いうわけでは ありません。いまの 研究けんきゅうでは、目の しるしだけで ほんものか つくりわらいかを かならず 見分けられるとは かぎらない と されて います。

うれしい ときの えがおは、口と 目の 筋肉きんにくが いっしょに はたらく かおの うごき、と おぼえて おきましょう。

笑顔のとき、顔では頬の筋肉(大頬骨筋)が口の端を引き上げます。もう一つ、目のまわりの筋肉(眼輪筋)が目尻を縮め、目を少し細くします。この二つが同時に動く笑顔を、研究では「デュシェンヌ・スマイル」と呼び、うれしさが表れた笑顔の目印にしてきました[1]。

名前の由来は、19世紀のフランスの医師デュシェンヌです。1862年に彼は、頬の筋肉は自分の意志で動かせるが、目のまわりの筋肉は本当に快い気持ちのときにしか働かない、と書きました。その考え方を、のちに顔の動きの記述法をつくった研究者たちが復活させたといわれます[1]。

ただし、この区別には限界があります。最近の研究では、目もとの動きだけで本物と作り笑いをいつも見分けられるわけではない、とされています[2]。「目が笑っているから本物」と決めつけるのは、早すぎるようです。

では、この表情は、うれしさと一緒に生まれつき備わっているものなのでしょうか。

笑顔の「本物らしさ」の目印は、頬の大頬骨筋(口の端を上げる)と、目のまわりの眼輪筋(目尻を縮める)が同時に働くことだとされる。この組み合わせの笑顔は、フランスの医師デュシェンヌにちなんで「デュシェンヌ・スマイル」と呼ばれ、うれしさなど肯定的な感情の表れとして扱われてきた[1]。

デュシェンヌは1862年、頬の筋肉は意志で動かせるが、目のまわりの筋肉は本当の快い感情でしか働かないと書いた。この区別は長く忘れられていたが、顔の動きを筋肉の単位で記述する方法(FACS)を作ったエクマンとフリーセンが、1970年代に再び取り上げたと紹介される[1]。

ところが、そのまま使える基準とは言えない。目もとの動き(AU6と呼ばれる)だけに頼っても、本物の笑顔と、指示されて作った笑顔を確実には区別できないという趣旨の指摘がある[2]。目の動きは本物らしさの手がかりの一つであって、判定器ではない。

では、この表情と感情の結びつきは、学んで身につくものか。それとも、生まれつきのものか。

2. 見た ことの ない えがおを、どうして つくれるの?

2. 生まれつき目の見えない選手も、同じ表情を作った

2. 見たことのない表情を作る:生まれつき目の見えない選手を調べた研究

この もんだいを しらべるのに、柔道じゅうどうの しあいが つかわれました。2004年の アテネの 大会で、見える 選手せんしゅと、うまれつき 目が 見えない 選手せんしゅの しゃしんを、4800まいより たくさん くらべました。23の くにの 選手せんしゅが ふくまれて います。

けっかは、おどろく ほどでした。勝った とき、まけた ときの かおの 筋肉きんにくの うごきが、見える 人と 見えない 人で ほとんど おなじだったのです。

見えない 人は、人の えがおを 見て まねる ことが できません。それでも おなじ 表情ひょうじょうが 出る。だから、うれしいと かおが うごく しくみの 一部は、うまれつき もって いるのだろう、と かんがえられて います。

けれど、ぜんぶが うまれつきと いうわけでは ありません。家ぞくの こえかけで まなんだ ぶぶんも あるかもしれない と、研究けんきゅうした 人たちも みとめて います。

もう 1つ、おもしろい ことが ありました。表情ひょうじょうは、ときには 気もちを ととのえる ために も つかわれます。ぎんメダルの 選手せんしゅの 85パーセントは、ひょうしょうしきで 口だけを うごかす えがおを 見せました。くやしさを おさえて、あいさつを しようと する えがおと 考えられます。

この疑問を調べたのが、サンフランシスコ州立大学のマツモトらの研究です。2004年アテネの五輪とパラリンピックの柔道の写真4,800枚以上を使い、23か国の選手について、生まれつき目の見えない選手と、見える選手の表情を比べました[3]。

結果、勝ったとき・負けたときに顔のどの筋肉が動くかは、見える選手と見えない選手でほとんど重なりました。統計上の相関は、ほぼ完全といえるほどでした[3]。笑顔を一度も見たことがなくても、同じ顔の動きが出ることになります。

これは「笑顔は生まれつきの働きを土台にしている」ことを支える材料です。ただし、「すべて生まれつき」とまでは言えません。見えない人も、声や触れ合いを通して学ぶ道があり、研究した人たち自身も、その可能性を認めています[3]。

同じ研究では、もう一つ面白いことが見つかりました。表彰式で、銀メダルの選手の85%は、口だけを動かす「社会的な笑顔」を見せました。これは見える・見えないにかかわらず同じでした。悔しい気持ちを整えながら、相手や周りに向ける笑顔だと読み取れます[3]。

では、顔の動きと気分は、一方通行なのでしょうか。顔を動かすと、気分が動くことはないのでしょうか。

生得性を直接調べる方法として、生まれつき目の見えない人の表情を、見える人と比べる研究がある。マツモトとウィリンガムは、2004年アテネ五輪・パラリンピックの柔道の写真4,800枚以上(23か国の選手)を分析し、試合中や表彰式など勝敗の場面で見られた顔の動きを比べた。見える選手と見えない選手の間の統計的な相関は、ほぼ完全といえるほど高かった[3]。

見えない選手は、他人の表情を見て模倣する機会が極めて少ない。それでも表情が一致したことは、感情と表情の結びつきの少なくとも一部が生まれつきである、という説を支える。ただし著者自身が、家族の声かけなどを通じた学習の可能性を排除していないと述べており、「笑顔はすべて生得」とは結論できない[3]。

この研究には、もう一つ見落とせない結果がある。銀メダルの選手の85%が表彰式で、口だけを使う「社会的な笑顔」を作ったことだ。これも見える・見えないにかかわらず同様で、表情が感情の表れであると同時に、場面に合わせて調整されうることを示す[3]。

なお文化による違いも報告されている。東アジアと西洋の各15人を比べた2012年の研究では、東アジアの人は感情の強さを目もとの動きで伝える傾向があった。ただし批判もあり、表情が「完全に万国共通」とも「文化で全部違う」とも言い切れない[7]。

ここまでは、感情から表情へ向かう矢印の話だった。では、逆向きの矢印はあるのか。

3. 口に ペンを くわえると、気分も かわるの?

3. ペンをくわえる実験は、なぜ世界17か所でやり直されたのか

3. 口にペンをくわえる実験の再検証:効果は「0に近い」と出た

1988ねんに、こんな 実験じっけんが ありました。ペンを 歯で くわえると、口が わらった かたちに なります。その 人たちは、まんがを すこし おもしろく 感じた、と いう のです。

「わらうと うれしく なる」なら、すてきな はなしです。でも、研究けんきゅうでは、1つの けっかだけで きめません。2016ねんに、世界の 17か所の 研究けんきゅうしつが、おなじ やりかたで 実験じっけんを くりかえしました。

けっかは、「おもしろさの ちがいは 0.03点」でした。ほとんど 0に ちかい ちいさな ちがいで、はっきりした こうかは 見られませんでした。

これは、はじめの 研究けんきゅうが うそだった、と いう ことでは ありません。おなじ やりかたで くりかえしたら、おなじ けっかには ならなかった、と いう ことです。

1988年、ペンを歯でくわえて口を笑った形にした人は、漫画を少し面白く感じたという実験が発表されました。顔の形が気分を動かす、という考え方(表情フィードバック)を支える有名な結果でした。

ところが、科学では一つの結果だけでは決めません。2016年、世界17の研究室が、同じ手順でこの実験をやり直しました。評価の差は0.03点(おおまかな範囲はマイナス0.11点から0.16点)で、はっきりした効果は見られませんでした[5]。

これは元の研究を「うそ」と呼ぶ結果ではありません。同じ方法でやり直したところ、元の結果は再現されませんでした。そのうえで、うまくいかなかった理由を探す研究が続きました。

一方、138件の研究(合わせて1万1000人超)をまとめて分析した2019年の報告では、笑顔が気分を動かす効果は「小さく、ばらつきが大きい」とされました。筆頭著者は、笑えば幸せになれるとは思わない、と述べています[4]。

顔の形が気分を動かすという「表情フィードバック」の代表例が、1988年のペン実験である。歯でペンをくわえて口を笑いの形にした人は、漫画を少し面白く感じたと報告された。

この結果を、世界17の研究室が事前に手順を決めて追試したのが2016年の登録追試報告である。評価の差は0.03点(95%区間は−0.11〜0.16)で、はっきりした効果は見られなかった[5]。区間が0をまたぐため、効果があるとも、ないとも断定できない。再現できなかったことと、元の研究が誤りだったことは、別の話である。

逆向きの影響そのものを調べた138件・1万1000人超のメタ分析(2019年)でも、効果は「小さく、ばらつきが大きい」とされ、筆頭著者は「笑えば幸せになれるとは思わない」と述べた[4]。

では、笑顔が気分を動かす現象は、まったく存在しないのか。最近の大規模な共同研究が、この点にもう一歩踏みこんでいる。

4. けっきょく、わらうと 気もちは どう なるの?

4. 19か国の共同研究が示した、「笑うと気分が動く」ことの条件

4. 19か国・約3,900人の共同研究:方法によって結果が分かれる

2022ねんには、19の くにで 3900人ほどが あつまった、大きな 研究けんきゅうが ありました。やりかたは、実験じっけんの まえに きめて おきました。

えがおの しゃしんを まねたり、口の はしを うごかしたり する とき、しあわせな 気もちが すこし ふえました。でも、ペンを くわえる やりかたでは、はっきりした けっかに なりませんでした。

つまり、わらいの かたちを つくると 気分が 少し うごく ことが あるかも しれない、と いう ところまでが 見えて きました。でも、「むりに わらえば しあわせに なる」とは いえません。

2022年、19か国・約3,900人が参加した共同研究が、事前に分析の方法を決めたうえで行われました(Many Smiles)。笑顔の写真をまねる課題や、口角を動かす指示を受けた場合には、幸福感が増しました。一方、ペンをくわえる控えめな方法では、結論がはっきりしませんでした[6]。

つまり、「顔の形が気分を少し動かすことがある」可能性は残っています。ただし、それは方法によって変わりますし、動く量も大きくはありません。

ここで注意したいのは、「作り笑いを続ければ本物の幸せになる」という見出しは、この研究が示した範囲より強い表現です[6]。笑顔と気分の間には、行き来する道が少しはあるのかもしれない、という段階です。

2022年のMany Smiles共同研究は、19か国・約3,900人を対象に、分析方法を事前に登録して行われた。笑顔の写真を模倣する課題や、口角を動かす指示では幸福感が増したが、ペンをくわえる控えめな方法では結論がはっきりしなかった[6]。

ここから読み取れるのは、効果が「ある・ない」の二択ではなく、顔の動かし方の強さや、本人に笑顔を作っている自覚があるかどうかによって変わりうる、ということだ。なお、この自覚の有無が原因だとまでは、資料からは言えない。

ペン実験の追試で効果が見えなかったこと、メタ分析で効果が小さいこと、大規模研究で方法により結果が分かれること。三つを並べると、「笑うと気分が少し動くことがある。ただし大きくも、確実でもない」というのが、いまの慎重な読み方になる。

「作り笑いで幸せになる」という見出しは、この読み方より強い。一つの研究の見出しは、本文より強くなりやすいことにも気をつけたい。

5. じぶんの えがおを 見て みよう

5. 笑顔の「目もと」を観察してみる

5. 目もとと口もとを、自分の顔で観察してみる

きょう できる こと

かがみの 前で、わざと えがおを つくって みましょう。つぎに、おもしろい ことを おもいだして わらって みます。目の まわりの うごきが ちがうか、見て みましょう。

ちがいが 見つからなくても、だいじょうぶです。目もとの うごきだけでは、ほんものか つくりものかを かならず 見分けるのは むずかしいのですから。

しらべる とき

「デュシェンヌ・スマイル」や「ペン 実験じっけん」を キーワードに、としょかんで ひょうじょうの 本を さがして みましょう。

今日できること

鏡の前で、わざと作った笑顔と、面白かったことを思い出したときの笑顔を比べてみます。目尻やまぶたの動きに差があるかを見ます。差が見つからなくても、研究者でも目もとだけで判定するのは難しいとされるので、気にしなくて大丈夫です。

資料を読むなら

「表情フィードバック」「デュシェンヌ・スマイル」で図書館の本や論文紹介を探せます。ペン実験の追試は、一つの結果を世界中でやり直す科学のやり方を知る入口にもなります。

今日できること

鏡の前で、意図的に作った笑顔と、実際に面白い場面を思い出したときの笑顔を比べ、目尻とまぶたの動きを観察する。差が小さくても、目もとだけでは本物と作り笑いを確実に見分けられないという研究[2]とは矛盾しない。

資料を読むなら

追試の記録としては、世界17の研究室の登録追試報告[5]、Many Smilesの概要[6]が読める。日本語の解説なら「表情フィードバック」「デュシェンヌ・スマイル」で探せる。

しらべた もとの じょうほう

参考にした情報源

参考にした情報源と、その使い方

本文で使った資料です。

  1. APS Observer, The Psychological Study of Smiling. https://www.psychologicalscience.org/observer/the-psychological-study-of-smiling (デュシェンヌ・スマイルの説明)
  2. Frontiers in Psychology(2020), 笑顔の本物と作り笑いの区別に関する論文. https://www.frontiersin.org/journals/psychology/articles/10.3389/fpsyg.2020.01126/full (目もとの動きの限界)
  3. ScienceDaily(2008), サンフランシスコ州立大学の研究紹介. https://sciencedaily.com/releases/2008/12/081229080859.htm (目の見えない選手の表情)
  4. ScienceDaily(2019), テネシー大学の研究紹介. https://www.sciencedaily.com/releases/2019/04/190412094728.htm (138件のメタ分析)
  5. Wagenmakers et al. (2016), Registered Replication Report. https://pure.uva.nl/ws/files/14872420/Registered_Replication_Report.pdf (ペン実験の追試)
  6. Coles et al. (2022), Nature Human Behaviour. https://www.nature.com/articles/s41562-022-01458-9 (19か国の共同研究)
  7. グラスゴー大学ニュース(2012). https://www.gla.ac.uk/news/archiveofnews/2012/april/headline_230511_en.html (表情の文化差)
  8. Matsumoto & Willingham (2009), Journal of Personality and Social Psychology. https://doi.org/10.1037/a0014037 (目の見えない選手の表情の原著論文)

なおした ところ

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