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ここにあるのは、だれかが実際に調べ、考え、作ってきたことを集めたメモです。気になったら、ページの下の「参考にした情報源」から、もとの本や記事、それを生み出した人たちに、直接ふれてみてください。このメモには書ききれないおもしろさが、そこにあります。

イグ・ノーベルしょうって、どんな けんきゅうが もらうの?

脳のない粘菌が、東京の鉄道網に似た形を作った ── バナナの皮・牛ふんバニラまで、イグ・ノーベル賞の3つの研究

脳のない粘菌は迷路と鉄道網をどう解いたか ── バナナの皮の摩擦、牛ふんのバニリンも含め、イグ・ノーベル賞(2007〜2014)の3つの研究と使い道の手がかり

分野:自然

のうが ない 生きものが、めいろの 出口を 見つけました。東京とうきょうの まわりの 町に えさを おいたら、てつどうの 地図に にた 形の あみが できました。これは、イグ・ノーベル賞しょうに えらばれた 研究です。バナナの 皮では、くつで ふむと すべりにくさが 6分の1に なると はかった 研究も ありました。

どうして、のうが ないのに そんな ことが できたのでしょう。ほかにも、バナナの 皮と 牛の ふんの 研究が あります。どんな ふしぎを たしかめたのか、なにに つながりそうなのかが わかります。

脳を持たない粘菌が、迷路の最短の道を見つけ、さらに東京周辺の鉄道網とよく似た形の網をつくりました。この研究チームは、迷路の研究で2008年に、鉄道網の研究で2010年に、それぞれイグ・ノーベル賞に選ばれています[7][4]。バナナの皮では、靴底で踏んだときの摩擦が約6分の1になることを、数字で示した研究も賞を取りました。

イグ・ノーベル賞は、まず人を笑わせ、次に考えさせる研究に贈られる賞です[1]。笑ってしまう研究の裏で、研究者は何を確かめようとしたのでしょうか。粘菌、バナナの皮、牛ふんから取り出したバニラの香り成分の3つについて、その問いと、先に待っていたものが分かります。

脳を持たない粘菌(モジホコリ)が迷路の最短経路を選び、関東の鉄道網に似た形の網も作った。北海道大学の中垣俊之らのこの研究は、迷路の研究で2008年に認知科学賞、鉄道網の研究で2010年に交通計画賞と、それぞれイグ・ノーベル賞に選ばれた[7][4]。創設は1991年、趣旨は「まず笑わせ、次に考えさせる」研究への贈賞である[1]。バナナの皮では、靴底で踏んだときの摩擦が約1/6になることを測った研究も受賞している。

笑いから入った研究は、何を問い、どこへつながったのか。粘菌のほか、2014年物理学賞のバナナの皮の摩擦、2007年化学賞の牛ふんのバニリンを取り上げ、その問いの立て方と、研究のその後の使い道の手がかりが分かる。

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1. のうが ない 生きものは、めいろを とけるの?

1. 迷路にひろげた粘菌は、なぜ最短の道だけが残ったのか

1. 粘菌の迷路実験 ── 餌のない道から引き上げ、最短経路が残る

めいろを いっぱいに うめるように、粘菌ねんきんを ひろげます。そして、めいろの 入口と 出口の 2か所だけに、えさを おきます。

すると、えさに かんけいの ない みちから、粘菌ねんきんは ひっこんで いきます。さいごに のこるのは、入口と 出口を いちばん みじかく むすぶ 道だけです[2]。

これを たしかめたのは、北海道ほっかいどう大学の なかがき としゆきさんたちです。2008年に、イグ・ノーベル賞しょうの にんち科学の賞しょうに えらばれました[7]。

この 賞しょうは、はじめに 人を わらわせて、そのあと 考えさせる 研究に おくられます[1]。のうが ない ものに めいろが とける、と 聞けば、まず わらってしまいます。でも、どうして そう なるのか、ふしぎです。

この 粘菌ねんきんは、東京の まちの ならびも、なぞって しまいました。つぎの 章で 見てみましょう。

迷路全体に粘菌(モジホコリ)を広げ、入口と出口の2か所にだけ餌を置きます。すると、粘菌は餌と関係のない道から引き上げていき、最後には2つの餌を結ぶ最短の道だけが残りました[2]。

これを示したのは、北海道大学の中垣俊之さんたちです。同じ実験は2000年に、Nature という科学雑誌に論文として出ています[3]。2008年のイグ・ノーベル賞認知科学賞では、「粘菌がパズルを解けると発見した」ことが授賞理由でした[7]。

脳のない生きものに迷路が解けると聞けば、笑ってしまいます。けれど、笑いのあとに「どうしてそうなるのか」が残ります。中垣さんはこのような、脳がなくても物理や化学のしくみで環境に合わせて賢く動くことを、「原生知能」と呼んでいます[2]。

迷路で最短の道が残るなら、広い地図の上に餌を置いたらどうなるのでしょうか。研究は、東京の周りへと広がります。

実験の手順は簡潔である。迷路全体に粘菌(モジホコリ)を広げ、入口と出口にのみ餌を置く。粘菌は餌と無関係な道から撤退し、2つの餌を結ぶ最短経路だけが残る[2]。餌のない道から粘菌が引いた結果として、最短の道が残る、という見え方になる。

中垣俊之(北海道大学)らの同種の実験は、Nakagaki, Yamada, Tóth の論文 “Maze-solving by an amoeboid organism” として Nature 2000年に掲載されている[3]。そして、2008年のイグ・ノーベル賞認知科学賞は、「粘菌がパズルを解けると発見した」ことを授賞理由とした[7]。笑いを入口にした受賞だが、対象は Nature に載った実験である。

中垣は、脳がなくても物理・化学のしくみで環境に適応した賢い動きをすることを「原生知能(げんせいちのう)」と呼ぶ[2]。では、この「迷路を解く」性質は、迷路よりずっと広く複雑な、実際の地図でも働くのか。次に取り上げる実験は、その問いへの答えだった。

2. 東京の まわりに えさを おくと、なにが できたの?

2. 東京の周りに餌を置いたら、鉄道網に似た網ができた

2. 関東の鉄道網実験 ── 費用・効率・耐障害性が実際の路線網と同程度になった

つぎは、めいろでは なく、東京の まわりの 地図です。ぬれた おさらの 上で、東京とうきょうに あたる ところに 粘菌ねんきんを おきます。まわりの 大きな 町の 場所には、オートミールの かけらを おきます[5]。

粘菌ねんきんは 光が きらいです。そこで、山や 湖のように 行けない ところは、光を あてて あらわしました[5]。

しばらくすると、粘菌ねんきんは えさどうしを つなぐ あみのような 形に なりました。それは、ほんとうの てつどうの 地図と、よく にて いたのです[4]。

この てつどうの 研究は 2010年に、交通計画賞しょうを もらいました。めいろの 研究の 受賞しょうから 2年で、また えらばれたのです[4]。

ただし 粘菌ねんきんが てつどうを せっけいした わけでは ありません。にた 力を もつ あみが できた、と いう 話です[6]。

この あみは、ほかの ことにも やくに 立ちそうです。どんな ことでしょうか。

2010年、研究チームは迷路ではなく、関東の地図で試しました。湿った皿の、東京にあたる場所に粘菌を置き、ほかの主要都市の位置にはオートミールの片を餌として置きます。粘菌は光を嫌うので、山や湖など通れない場所は光を当てて表しました[5]。

粘菌は餌と餌の間に管のような枝を残し、やがて網の形になります。その形は、実際の鉄道の地図とよく似ていました[4]。2010年1月に Science 誌に発表された研究(Tero ら)では、粘菌の網は、総延長が短いこと、2つの餌のあいだの平均距離が短いこと、一部が切れても全体がつながり続ける強さ(耐障害性)が高いことで、実際の東京周辺の鉄道網と同程度の性能だったと報告されています[6]。日本と英国の研究者が参加した研究です。

この成果で、中垣さんたちは2010年に交通計画賞を受賞しました。授賞理由は「粘菌を使って鉄道の最適な経路を決めた」こと。日本科学未来館の記事は、短い期間に2度受賞したことを異例と紹介しています[4]。

誤解されやすい点があります。粘菌が鉄道を設計したわけではありません。粘菌の網が、鉄道網と似た性能を持っていた、という結果です[6]。

鉄道に似た網を、司令塔なしでつくれるなら、鉄道以外にも使えるかもしれません。そこで、研究者が見た先は?

迷路の最短経路は、点が2つの単純な問題だった。では、餌(目的地)が多数ある現実的な地図ではどうか。2010年の実験では、湿った皿の東京にあたる位置に粘菌を置き、関東の主要都市の位置にオートミール片を置いた。粘菌が光を避ける性質を使い、山や湖など通れない場所を光で再現した[5]。

粘菌は餌どうしを結ぶ管状の枝を残し、実際の鉄道の地図とよく似た構造ができた[4]。2010年1月の Science 誌発表(Tero ら、日英の研究者が参加)では、できた網は、総延長が短い、餌どうしの平均最短距離が短い、偶発的な切断への耐障害性が高い、の3点で、実際の東京周辺の鉄道網と同程度の性能を示したという[6]。この年の交通計画賞の授賞理由は「粘菌を使って鉄道の最適な経路を決めた」で、短期間の2度目の受賞は異例とされる[4]。

ここで注意が要る。粘菌が鉄道を設計したのではなく、似た性能の網ができた、という結果にすぎない[6]。授賞理由の文言よりも、実験の慎重な言い方のほうが正確だ。

では、似た性能の網を中央の司令なしに作れることは、何に使えるのか。研究チームは応用の見通しも述べている。

3. 粘菌ねんきんの あみは、なにに 使えるの?

3. 司令塔のない網づくりに、使えるかもしれない

3. 応用の見通し ── 中心の司令なしに作るネットワーク(実用化済みではない)

この 研究を した 人たちは、粘菌ねんきんの ふえ方を まねた 計算の やり方が、いつか やくに 立つかもしれないと 考えて います。

たとえば、あちこちに おいた センサーを つなぐ あみや、むせんで つなぐ あみです。ぜんたいを とりしきる 人が いなくても、むだなく つなぐ やり方に なる かのうせいが あるそうです[6]。

ただし 「かもしれない」と いう 見とおしで、もう 使われて いると いう 話では ありません。

めいろと てつどうの あとは、まったく ちがう ものが 賞しょうに なりました。バナナの 皮です。

ScienceDaily が伝える研究チームの見通しでは、粘菌の増え方をまねた数理モデルは、中央に司令塔のない自己組織的なネットワークの効率を上げ、費用を下げられる可能性があります。例として、センサーを並べた網や、無線のメッシュ網が挙げられています[6]。

ただし、これは「可能性」の話です。実用化が済んだという意味ではありません。

中垣さんは、脳がなくても物理や化学のしくみで環境に合わせた動きをすることを「原生知能」と呼んでいます[2]。笑わせるところから始まって、考えさせる側に入っていく研究です。

粘菌とは全く違う題材で、「みんなが知っていること」を測った研究があります。バナナの皮です。

Science 誌の報道によれば、粘菌の増え方を取り入れた数理モデルは、中央に司令のない自己組織的ネットワーク(センサー網、無線メッシュ網など)の効率向上と費用削減に使える可能性がある[6]。これは「可能性」の段階で、実用化が済んだとは言えない。

中垣は、脳がなくても物理・化学のしくみで環境に適応する粘菌の動きを「原生知能」と名づけた[2]。生きものの動きから、網づくりのヒントを探す研究である。

この流れは「当たり前だと思っていた現象を、実際に条件を決めて測る」点で、次の研究に通じる。主題は、粘菌から一転して、バナナの皮の摩擦である。

4. バナナの 皮は、どれくらい すべるの?

4. 「バナナの皮は滑る」を、誰も数字で測っていなかった

4. バナナの皮の摩擦係数 ── 靴底だけの約1/6、条件つきの値

バナナの 皮を ふむと、すべって ころぶ。むかしから、みんなが そう 思って います。でも、「どれくらい」すべるのかは、だれも はかって いませんでした[8]。

そこで 北里大学の まぶち きよしさんたちが、はかって みました。2014年に、イグ・ノーベル賞しょうの 物理学賞しょうに なりました[8]。

バナナ12本で、1本ずつ 5回、ぜんぶで 60回。ゆかの 下に、力を はかる きかいを おいて、くつの そこで バナナの 皮を ふんで すべらせます[8]。

くつの そこだけの ときの 「すべりにくさ」は、ならすと 0.412 でした。皮が まんなかに はいると、0.066 に なりました。この くつと ゆかで はかった とき、すべりにくさは 約やく6分の1です[8]。

ミカンの 皮では 0.225、リンゴの 皮では 0.125 でした。バナナは、そのどれよりも すべりやすかったのです。ただ これは、この 実験じっけんの くつと ゆかの 条件じょうけんの ときの 話です[8]。

それにしても、どうして バナナの 皮は そんなに すべるのでしょう。

「バナナの皮は滑る」は、19世紀なかばにバナナが北米に入ってから常識になりました。けれど論文の序論は、常識すぎて、誰も疑わず、あえて摩擦を測ろうとしなかった、と書いています[8]。

北里大学の馬渕清資さんたちは、これを実際に測りました。12本のバナナ(キャベンディッシュ種)で、1本につき5回、合計60回です。リノリウムの床板の下に6軸の力センサーを置き、靴底でバナナの皮を踏んでこすって、摩擦係数(0なら全く滑る、大きいほど滑りにくい)を調べます[8]。

結果は、靴底が直接床に触れたときが平均0.412、バナナの皮をはさんだときが平均0.066でした。0.066÷0.412で約0.16、つまり摩擦が約6分の1になります(私たちの計算)[8]。

ほかの皮とも比べています。ミカンの皮は0.225、ユズは0.200、リンゴの皮は厚さ2mmで0.125、3mmで0.105でした。バナナの0.066と比べると、ミカンの皮の摩擦はおよそ3.4倍です(0.225÷0.066)[8]。ただし、この比べ方が成り立つのは、論文の条件(靴・リノリウム・測定のしかた)の中での話です。

この研究は2014年のイグ・ノーベル物理学賞になりました。それにしても、バナナの皮の中で、何が滑りを生むのでしょうか。

「バナナの皮は滑る」という常識は、バナナが北米に広まった19世紀なかばから定着した。しかし論文(Tribology Online 7巻3号、2012年9月)の序論によれば、その潤滑能力を疑う者がおらず、あえて摩擦を測ろうとする者もいなかった[8]。常識が強いほど、数字がないまま放置される例だ。

北里大学の馬渕清資らは、12本のバナナ(キャベンディッシュ種)を各5回、計60回測定した。リノリウムの床板の下に6軸力センサーを置き、靴底でバナナの皮を踏みこすって摩擦係数を求めた。靴底が直接触れたときの平均は0.412(SD 0.019)、皮をはさむと平均0.066(SD 0.028)だった。0.066/0.412≒0.16で、摩擦は約1/6に下がる(計算は筆者)[8]。

他の皮との比較もある。ミカンの皮の下は平均0.225、ユズは0.200、リンゴの皮は厚さ2mmで0.125、3mmで0.105だ。バナナはミカンの約1/3.4の摩擦である(0.066と0.225から計算)。論文は、摩擦係数が0.1以下の例として、スキーと雪、氷と氷、関節軟骨のような、よく潤滑された面を挙げている[8]。したがってバナナは、潤滑の優れた面と同じ側に入る。ただし、この序列が言えるのは論文の条件下のみで、靴や床、皮の熟度を変えれば値は変わりうる。

では、なぜバナナの皮だけが、これほど低い摩擦を作るのか。論文の後半は、その原因を探っている。

5. すべる ひみつは、人の ひざと にて いるの?

5. 滑りのひみつと、人工関節の改良という目標

5. 多糖類ゲルの潤滑と、生体潤滑(バイオトライボロジー)の視点

けんびきょうで バナナの 皮を 見ると、ちいさな ふくろが ならんで います。ふむと ふくろが つぶれて、中の ゼリーのような ものが 出て きます[8]。

この ゼリーが ぬるぬるして、すべりやすく する おもな はたらきを して いるのでは ないか。論文ろんぶんは、そう そう 考えて います。まだ、言い切っては いません[8]。

はかった まぶちさんは、人の 関節かんせつの すべりの よさを しらべて きた 人です。ひざや ひじが なめらかに うごくのは、ほねの 先の 軟骨なんこつの すべりが よいから です[8]。

まぶちさんは、バナナの 皮と 軟骨なんこつの すべり方には にた ところが あると 考えて います。いつか、人の 手で つくる 関節かんせつを よくする ヒントに したいと 話しました[9]。これも、「めざして いる」という ところです。

わらって しまう けんきゅうが、うごきの ふしぎに つながって いたのです。

顕微鏡で見ると、バナナの皮には小さな袋が並んでいます。踏まれると袋がつぶれて、中のゲルが出てきます。この多糖類のゲルが、つぶれて均一なゾル(さらさらの液体に近い状態)に変わることで、潤滑のおもな役割を果たしていると、論文は「推定」しています[8]。

測定した馬渕さんは、生体の潤滑(バイオトライボロジー)の研究者です。論文のキーワードにも biotribology が入り、参考文献には、馬渕さん自身の関節の適合性と潤滑能についての1998年の論文があります[8]。

馬渕さんは、バナナの皮と関節の軟骨のまわりの潤滑には、似たところがあると考えていると、Science News は伝えています。人工関節の改良の手がかりにしたい、という考えです[9]。ただし、これは目標であって、実際に人工関節が改良されたという報告ではありません。

笑える測定のように見えて、測った人の仕事の中心には、関節という別の「滑りの名人」がありました。

顕微鏡観察では、バナナの皮の小さな袋(follicle)が踏まれてつぶれ、中の多糖類ゲルが出てくる。論文は、ゲルが潰れて均一なゾルに変わることが潤滑の主役だと「推定」している[8]。直接の証明ではなく、観察からの推定にとどまる点を押さえておきたい。

測定者の馬渕清資は生体潤滑(バイオトライボロジー)の研究者で、関節のなめらかさと軟骨の潤滑を調べてきた。論文のキーワードは biotribology で、参考文献に自身の1998年の論文(滑膜関節の適合性と潤滑能、Clinical Biomechanics)が含まれる[8]。つまりバナナの測定は、本業の延長で選ばれた題材だと読める。

Science News のブログによれば、馬渕は、バナナの皮と軟骨のまわりの潤滑に似た点があると考え、人工関節の改良の手がかりにしたいと話した[9]。ただし応用は「めざしている」段階にとどまる。

粘菌とバナナの2つは、どちらも「当たり前」あるいは「ありえない」と思われた現象を、実験で確かめたものだった。最後に、もっとも突飛に聞こえる研究を短く取り上げる。

6. 牛の ふんから、バニラの においが できるの?

6. 牛ふんから、バニラの香りの成分を取り出す

6. 牛ふんからのバニリン抽出 ── 授賞式で語られた「環境」の話

バニラの アイスの においの もとは、バニリンと いう 成分せいぶんです。これを 牛の ふんから 取り出す 方法ほうほうを 見つけた 人が います。山本さんです。

山本さんは、2007年に イグ・ノーベル賞しょうの 化学賞しょうを もらいました。当時は、こくりつこくさいいりょうセンターで 研究を して いました[10]。「はじめは じょうだんかと 思った」と 話したと 伝つたえられます。

賞しょうを もらう 会で 山本さんは、牛の ふんを もっと 使えば、環境かんきょうにも よいと 話しました。すてて しまう ものを、いかす 考え方です。

地元の アイスクリームの おみせは、おいわいに 「Yum-a-Moto Vanilla Twist」という 味を つくりました[11]。

わらって しまう 話の おわりに、「すてる ものを 使えないか」という 問いが のこりました。

2007年のイグ・ノーベル化学賞は、当時の国立国際医療センターの山本麻由さんの「牛ふんからバニラの香り成分バニリンを取り出す方法」に贈られました[10]。授賞式での感想は「最初は冗談かと思った」だったといいます。

授賞式で山本さんは、牛ふんをもっと使えば環境にもよい、と述べました。地元のアイスクリーム店は記念に「Yum-a-Moto Vanilla Twist」というバニラ風味のアイスを作りました[11]。

ここでも、笑いのあとに考える話が付いています。捨てられるものを、香りのもとに変えられるか。問いは、そこから始まります。

3つの研究に共通するのは、「実際にやってみた」ことでした。

2007年のイグ・ノーベル化学賞は、当時の国立国際医療センターの山本麻由の「牛ふんからバニラの香り成分バニリンを取り出す方法」に贈られた[10]。授賞式のコメントは「最初は冗談かと思った」だったとされる。所属は報道による。

授賞式で山本は、牛ふんをもっと使えば環境にもよいと述べ、地元のアイスクリーム店が記念の味「Yum-a-Moto Vanilla Twist」を作った[11]。捨てられるものの用途を広げる、という発想が語られた場面である。

3つの研究を並べると、共通点は、「みんなが知っている(あるいは、ありえないと思う)ことを、実際に確かめた」点にある。

7. バナナの 皮と ミカンの 皮、どっちが すべる?

7. 板を少しずつ傾けて、皮の上のものが動き出す角度を見くらべる

7. 出口 ── 傾斜板で皮の滑りを比べる/原典に当たる

おうちの 人と いっしょに、おためしを して みましょう。まな板や 下じきのような、平らな 板を 用意します。ミカンや バナナを 食べた あとの 皮も、とっておきます。

板の 上に 皮を おき、その 上に 消しゴムを のせます。そして、板を ゆっくり かたむけます。消しゴムが うごきだした ところで 止めて、板の 角度を くらべます。板と 台の あいだに 指を はさまないように しましょう。

バナナの 皮と ミカンの 皮、ほかの 皮では、どう ちがうでしょうか。ふんで ためすのは、あぶないので やめましょう。手と 板だけで 行います。

家でも、似た比べ方ができます。まな板のような平らな板に、バナナの皮やミカンの皮を置きます。皮の上に消しゴムをのせ、板を少しずつ傾けて、消しゴムが動き出した角度を比べます。板と台の間に指をはさまないよう、大人と一緒に行ってください。角度が小さいほど、滑りやすいと考えられます。

論文の実験とは条件が違うので、バナナが必ずミカンより滑るとは限りません。皮の厚さ、熟し具合、置く向きでも変わるかもしれません。結果がどうなっても、その違いは確かめる価値があります。足で踏む実験は、転ぶので絶対にしないでください。

原典を読むなら、バナナの論文は J-STAGE の Tribology Online 7巻3号に載っています[8]。粘菌の迷路実験は Nature 2000年の論文です[3]。

家庭で確かめるなら、傾斜板法が使える。平らな板の上に皮を置き、その上に消しゴムをのせて板を徐々に傾け、動き出す角度を比べる。板と台の間に指をはさむ危険があるため、大人と一緒に行う。静止摩擦係数は、動き出す角度の正接(タンジェント)にほぼ等しい。皮の種類、厚さ、置く向き、熟度による差も調べられる。論文の靴底とリノリウムの条件とは別物なので、値は直接比べられない。足で踏む実験は転倒の危険があるので行わない。

原典に当たるなら、バナナの摩擦は Tribology Online 7(3), 147–151(J-STAGE)[8]、粘菌の迷路は Nature 2000 の論文[3]。鉄道網の実験は、報道[5][6]で概要を読み、Science 2010年の原著論文につなげるとよい。受賞理由の一覧は、公式サイトではなく Wikipedia の一覧で確認した点にも留意する[7]。

しらべた もとの じょうほう

参考にした情報源

参考にした情報源と、その使い方

出典について:賞の趣旨と受賞一覧、各研究の論文・研究者のインタビュー・報道を使いました。賞の受賞理由は二次的な一覧で確かめています。

  1. Wikipedia “Ig Nobel Prize”。 https://en.wikipedia.org/wiki/Ig_Nobel_Prize (賞の趣旨と創設について)
  2. 現代ビジネス 中垣俊之さんのインタビュー。 https://gendai.media/articles/-/100414 (迷路実験の要点と「原生知能」の考え方について)
  3. Nakagaki T, Yamada H, Tóth A. “Maze-solving by an amoeboid organism”. Nature, 2000。 https://doi.org/10.1038/35035159 (迷路実験の論文の存在と題名について)
  4. nippon.com 中垣俊之さんの紹介記事。 https://www.nippon.com/ja/currents/d00282/ (2010年の2度目の受賞と、鉄道地図に似た構造について)
  5. National Geographic(Phenomena)粘菌と東京の鉄道網の記事。 https://www.nationalgeographic.com/science/phenomena/2010/01/21/slime-mould-attacks-simulates-tokyo-rail-network/ (実験の置き方について)
  6. ScienceDaily 2010年1月21日の記事。 https://www.sciencedaily.com/releases/2010/01/100121141051.htm (網の性能の比較と、応用の見通しについて)
  7. Wikipedia “List of Ig Nobel Prize winners”。 https://en.wikipedia.org/wiki/List_of_Ig_Nobel_Prize_winners (2008年認知科学賞の受賞理由について)
  8. Mabuchi K, Tanaka K, Uchijima D, Sakai R. “Frictional Coefficient under Banana Skin”. Tribology Online 7(3), 2012。 https://www.jstage.jst.go.jp/article/trol/7/3/7_147/_article (測定の条件、摩擦係数の値、ゲルの推定について)
  9. Science News “Banana peel slipperiness wins Ig Nobel Prize in physics”。 https://www.sciencenews.org/blog/scicurious/banana-peel-slipperiness-wins-ignobel-prize-physics (関節との関係について馬渕さんが話したこと)
  10. 国立国際医療センター(JIHS)病院史ページ。 https://www.hosp.jihs.go.jp/en/aboutus/history/120/index.html (牛ふんからバニリンの化学賞について)
  11. Art of the Prank 2007年10月8日の授賞式の報道。 https://artoftheprank.com/2007/10/08/17th-first-annual-ig-nobel-prizes-awarded/ (授賞式の様子と記念のアイスについて)

なおした ところ

更新履歴

更新履歴(改版の記録)

  •  初版を公開。
  •  摩擦の値に実験条件を添え、指はさみへの注意を加えました。

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