1. どうして アリの 巣には、ほかの 虫が くるの?
1. アリの巣が、ほかの虫にとって暮らしやすいわけ
1. なぜ、攻撃的なアリの巣が他の昆虫の住処になるのか
アリの 巣は、ある 大学の 先生の はなしに よると、食べ物が いつも はこびこまれて きて、てきが きたら アリが たたかって くれる ところだと されて います[7]。ほかの 虫から 見ると、ごはんも あって、まもって もらえそうな、たからばこの ような 家です。
だから、コオロギや ハエ、シジミチョウの なかまなど、いろいろな 虫が アリと いっしょに くらして いる ことが 知られて います[2]。アリと くらす 虫は、「こうぎせい昆虫」と よばれます[1]。
その なかでも、ハネカクシと いう こうちゅうの なかまは、アリと くらす 種類が とくに 多いと されて います[2]。
でも、アリは 巣に 入る 知らない 虫に きびしいはずです。どうして おそわれないのか。かぎは、「におい」に ありました。
アリの巣は、家の中のようなものです。大学の講義資料は、巣には食べ物が常に運び込まれ、敵が来ればアリが戦ってくれるからだと説明しています[7]。ほかの虫にとって、食事と用心棒つきの家は、とても魅力的に見えます。
実際、コオロギ、ハエ、シジミチョウなど、さまざまな生物がアリと一緒に暮らしていることが、九州大学の発表で紹介されています[2]。アリと共生する昆虫は「好蟻性昆虫」と呼ばれます[1]。なかでも甲虫のハネカクシの仲間は、好蟻性の種類が多く知られています[2]。
ちなみに、アリは日本だけで約300種、世界では1万種以上いるといわれます[1]。アリの種類が多いことも、巣に住みつく客の多様さにつながっているのかもしれません。
では、仲間以外にきびしいアリの巣に、どうして入っていけるのでしょうか。
アリの巣に好蟻性昆虫が集まる理由として、一つの講義資料は、巣には常に食物が運び込まれ、外敵が来ればアリが戦ってくれるからだと説明する[7]。この説明どおりなら、食料と防衛が最初から揃った場所であり、そこへ入り込めれば得るものは大きい。
実際、コオロギ、ハエ、シジミチョウなどが巣で暮らしていると報告されている[2]。アリと共生する昆虫は好蟻性昆虫と総称され、なかでもハネカクシ科の甲虫は、他の昆虫に比べて好蟻性の種が多く知られる[2]。なお、アリ自体も日本に約300種、世界に1万種以上いるといわれ[1]。
ただし、利益があるからといって、すぐ入れるわけではない。アリは巣の仲間を体表の化学物質で見分けており、異物には攻撃的である。丸山宗利の紹介ページによれば、好蟻性昆虫は、アリが好む臭いや化学物質を出し、アリの攻撃を避けている[1]。この章の問いは、次章で、その化学物質の使い方に進む。
2. アリの においを まねすると、どうなるの?
2. アリのにおいを身にまとうと、仲間として扱われる
2. 体表の化学物質を模倣すると、仲間として扱われる
アリは、体の においを てがかりに、仲間を 見分けて います。だから、そっくりの においを つけた 虫は、「仲間だ」と まちがえられやすく なります。
ある ハネカクシは、巣の アリの においを まねして いる ことが しらべられて います[6]。
チョウの ゴマシジミの 幼虫は、きまった アリの 体の ろうの においを まねて、アリに 仲間だと おもわせると せつめい されて います[7]。
もっと ふしぎなのは、マクレニアと いう チョウの 幼虫です。アリの 幼虫に 形も においも にて いるので、アリに 巣の 地下まで はこばれて、10か月から 22か月も せわを うけます[5]。ふつうは おそわれそうな 虫が、かえって だいじに されるのです。
アリは、体の表面のにおいを手がかりに、仲間かどうかを見分けています。だから、そのにおいをまねできれば、仲間として扱われやすくなります。
あるハネカクシは、アリの仲間認識に使われる体表の物質を、まねするように進化したと報告されています[6]。チョウのゴマシジミの幼虫も、特定のアリの体表のろうをまねして、アリに仲間と思わせると説明されています[7]。
とくに驚くのは、マクレニア属のチョウの幼虫です。アリの幼虫に姿もにおいも似ているので、働きアリに地下の巣まで運ばれ、10〜22か月もの間、世話を受けます[5]。食べられそうなものが、かえって大事にされるのです。
けれど、このチョウの幼虫は、においだけで巣の中の地位を決めているのでしょうか。
アリの巣仲間の識別には、体表の炭化水素などの化学物質が使われる。そのため、これをまねできれば、巣の中で受け入れられる可能性が高まる。カリフォルニア工科大学の学位論文は、あるハネカクシ類が、宿主アリの巣仲間認識フェロモンをまねするように独立に進化したと述べる[6]。ゴマシジミの幼虫は、特定のアリのワックスをまねることで、仲間と勘違いさせるとも説明される[7]。
最も手が込んでいるのが、マクレニア属のチョウである。幼虫は、アリの幼虫に形と化学物質の両面で似ているため、働きアリに地下へ運ばれ、10〜22か月ものあいだ巣で世話される[5]。ふつうなら攻撃される異物が、育てられる側に回るのである。
ただし、これらは種ごとの報告であり、すべての好蟻性昆虫が同じ方法を使うわけではない。化学的な擬態だけで巣の中の地位が決まるのかという問いに、マクレニアの研究は、音という別の信号で答えている。
3. チョウの 幼虫は、音まで まねするの?
3. においの次は、女王の音をまねするチョウの幼虫
3. 化学的擬態の次に、音を使うマクレニアの幼虫
アリの 女王は、アリの 社会で いちばん だいじな アリです。アリの なかまの ミルミカ(Myrmica)では、女王が 出す とくべつな 音が しらべられて います。
マクレニアの 幼虫は、この 女王の 音を まねします。すると、はたらきアリの 中で、女王のような 高い ちいを 手に入れると、研究で ほうこく されて います[5]。
においだけで なく、音まで にせて いるのです。ただし、これは 一つの 研究が くわしく しらべた れいで、ほかの 虫が みんな 同じ ことを するとは かぎりません。
アリの社会には、においのほかに、音という合図もあります。Myrmica属のアリでは、女王がストリデュレーションと呼ばれる音を出すことが報告されています。
マクレニア属のチョウの幼虫は、この女王の音をまねしていると調べられました。まねによって、幼虫は働きアリの社会で高い地位を得る、と報告されています[5]。
前の章の「形とにおいが似ているから巣に運ばれる」という話と合わせると、このチョウの幼虫は、まずにおいと形で運び込まれ、次に音で扱いを上げているようです。
ただし、この研究が示すのはマクレニア属の例で、音をまねする好蟻性昆虫がほかにも多くいる、とまでは言えません。
では、まねをしない虫は、どうやって巣に入っているのでしょうか。
音による擬態の報告が、2010年の論文である。Myrmica属のアリでは、女王が特有のストリデュレーション音を出し、働きアリはこれに反応すると報告されている。マクレニア属のチョウの幼虫は、この女王の音響をまねることで、宿主社会で高い地位に就くと報告された[5]。
前章で見た化学的擬態とあわせると、二段階の侵入が見える。第一に、アリの幼虫に似た形と化学物質で、巣へ運び込まれる。第二に、女王に似た音で、巣の中での扱いを引き上げる[5]。
とはいえ、この研究はマクレニア属に関するもので、音をまねる好蟻性昆虫が他にも広く存在するとまでは言えない。また、同じ巣の中で化学物質と音がどのような比率で効くのかも、この資料の範囲では決められない。
では、まねをしない虫、あるいは最初からにおいを作らない虫は、どうやって巣に入っているのか。
4. ゴキブリも アリの 巣に すむの?
4. アリの菌の庭にもぐりこむゴキブリ
4. ハキリアリの菌園に潜むゴキブリと、宿主特異性
ハキリアリは、アリが そだてる きんの 「にわ」を 巣の 中に もっています。この 「きんの にわ」に、ゴキブリが かくれて いることが 調べられて います[8]。
この ゴキブリは、きんの 間に かくれ、きんを 食べて いる らしいと されて います[8]。すみかも 食べ物も、アリの 巣に あるのです。
ゴキブリには 2つの 種類が いて、それぞれ きまった アリの なかまとだけ くらして いるようです[8]。同じ 巣の アリは ゴキブリを あまり おそいませんが、べつの 巣の アリは、いちばん おこりました[8]。
この ゴキブリは、その 巣に 合った においを まとって います。ただ、そのにおいを アリから もらったのか、自分で 作ったのかは、まだ 分かって いません[8]。
ハキリアリは、巣の中で菌を育てています。この「菌の庭」の中に、ゴキブリがひそんでいる例が研究されています[8]。
この研究では、ゴキブリは菌のすき間に隠れ、その菌を食べているらしいと報告されています[8]。つまり、隠れ家も食事も、アリの巣の中にあるのです。
ここで注目したいのは、巣ごとのちがいです。調べられたゴキブリ2種は、それぞれ特定のアリの属とだけ結びついていて、宿主の選び方が細かいようです[8]。実験では、同じ巣のアリはゴキブリにあまり攻撃的でなく、別の属のアリはもっとも攻撃的でした。つまり、アリは巣の仲間とよそ者を区別しており、ゴキブリはその区別を通り抜けていることになります[8]。
ゴキブリは、巣ごとに特有の体表の化学物質の組成をもっています。ただし、その物質をアリから得ているのか、自分で作っているのかは、現時点では区別できていません[8]。
この「分かっていない」部分は、次の章の話ともつながります。
ハキリアリの巣に住むゴキブリ(Attaphila 属)は、アリが栽培する菌園の隙間に隠れ、その菌を食べているらしい[8]。避難場所と餌が、巣の内部で同時に得られる。
この研究が調べたゴキブリ2種は、それぞれ特定のアリの属とだけ結びついており、宿主特異性が高いようである[8]。行動試験では、同じ巣のアリはゴキブリに攻撃的でなく、別の属(Atta)のアリは最も攻撃的だった。アリが巣の仲間と侵入者を区別していることを前提にすれば、ゴキブリがその境界線の内側に入っていることになる[8]。
ゴキブリの体表には宿主の巣に特有の化学物質の組成がみられる。ただし、アリから獲得したのか、自ら合成するのかは、現在のデータでは決められず、どちらの可能性も排除できない[8]。次章のハネカクシでは、物質の扱い方が別の形で現れる。
5. においを 作るのを やめた 虫が いるって ほんと?
5. においを自分で作るのをやめた甲虫
5. 化学防御の腺を失ったハネカクシ:依存の深まり
ハネカクシの なかには、アリを おちつかせる においを 出す ものが います[4]。おこりっぽい アリが、においで しずまると、その 巣で くらせます。
ところが、ぐんたいアリの 巣に 長く すみついた ハネカクシは、においを 出す 小さな 「せん」を へらして しまったと 研究で いわれて います[4]。アリに 守って もらえるように なった ためと みられます。
あるハネカクシは、アリから においの もとを かりて いる ほど、アリに たよって いて、アリが いないと 1日で 死んでしまうと ほうこく されています[6]。
ぐんたいアリの 巣の ハネカクシは、すがたも アリに にて います。にた すがたは、少なくとも 12回、べつべつに うまれたと 考えられて います[3]。
ハネカクシの中には、アリを落ち着かせる化学物質を出して、本来は攻撃的な働きアリのいる巣で暮らせるものがいます。巣の中でアリを食べることもある、とも報告されています[4]。
ところが、軍隊アリの巣に長く住みついたハネカクシは、この化学物質を出す腺を失った、とカリフォルニア工科大学の研究は述べます。アリをだまして受け入れられるようになったため、自分で作らなくてもよくなった、という解釈です[4]。
アリに頼る度合いはさらに強くなり、あるハネカクシは、アリの体表の物質を取り入れ、その宿主なしでは1日で死んでしまうほど依存している、と報告されています[6]。
見た目も変わりました。軍隊アリと暮らすハネカクシは、アリに似た体型に進化し、その系統は少なくとも12回、独立に生じたと、九州大学の研究が報告しています[3]。
ただし、なぜ化学物質を作ることをやめたのか、そのきっかけは、はっきりしていません。
ハネカクシ類の一部は、攻撃的な働きアリを鎮静させる化学物質を出して巣に入り込み、アリを捕食することもある[4]。ところが、軍隊アリの社会にうまく受け入れられたハネカクシは、この化学防御の腺を失っていた[4]。防御を自分で担う必要が減ったと解釈できるが、化学物質の生産を完全にやめてアリから奪うようになった進化のきっかけは、不明確である。
依存の深まりを示すのが、前述の学位論文である。あるハネカクシはアリの体表物質をまねるだけでなく、アリから化学物質を取り入れるため、宿主なしでは1日で死んでしまうほど、深く依存していると報告された[6]。
形にも収斂が見られる。軍隊アリと共生するハネカクシでは、アリ型の形態が少なくとも12回独立に進化した[3]。同じ生活様式の別系統が、似た姿にたどり着いたということである。
ここまでの結果は、特定の種で調べられたものであり、すべてのハネカクシに一般化はできない。では、日本の身近なアリの巣では、どんな虫が見つかっているのか。
6. 日本の アリの 巣にも、ふしぎな 虫は いるの?
6. 日本のヒラタアリヤドリは、種ごとに行動がちがう
6. 日本産ヒラタアリヤドリ属:種ごとに異なる行動と新種の発見
日本には、ヒラタアリヤドリと いう ハネカクシの なかまが います。九州大学の 研究で、日本には 9種類 いて、そのうち 3種類は 新しい 種類だと わかりました[2]。
この 虫は、アリの 体を なめたり、くちうつしで えさを もらったりします。しかも、種類に よって、アリの はんのうも ちがいます[2]。
つまり、アリと 虫の つきあい方は、一つでは ありません。まだ 名前の ない 虫も、これから 見つかるかもしれません。
7. にわで アリの すを そっと 見て みよう
7. 庭や公園のアリの巣を、そっとのぞいてみる
7. 巣の周りを観察し、原典に当たる
きょう できる こと
にわや こうえんで、アリが 出入りする あなを さがして みましょう。巣を ほったり、ふんだり しては いけません。少しはなれて しゃがんで、アリの ようすを 見ます。アリが 出入りする あなの 近くで、アリが 何か はこんで いるか、虫めがねで 見て みましょう。
見つからなくても ふつうです。アリの 巣に すむ 虫は、とても 小さくて、なかなか 見えないからです。かまれることも あるので、さわらない ように しましょう。
観察してみる
庭や公園で、アリが出入りしている巣の穴を探します。巣は掘らず、踏まず、少し離れてしゃがんで観察します。巣穴に出入りするアリが何かを運んでいるか、運んでいるなら何色でどのくらいの大きさか、虫めがねで確認します。巣の周りに小さな虫がいても、それが好蟻性昆虫かどうかは、見ただけでは決められません。見つからなくても、ふつうのことです。
夏の暑い日は、帽子をかぶり、水を飲みながら観察しましょう。アリのなかにはかむ種類もいるので、手でさわらないようにします。
資料を読むなら
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文で使った資料です。
- 九州大学 総合研究博物館 丸山宗利 紹介ページ. https://www.kyushu-u.ac.jp/ja/university/professor/maruyama.html (好蟻性昆虫とは/アリの種数)
- 九州大学 アリと暮らす昆虫、日本産ヒラタアリヤドリの多様性を解明. https://www.kyushu-u.ac.jp/f/64156/25_1208_03.pdf (巣の客の多様さ/日本産9種と新種)
- 九州大学 軍隊アリ共生甲虫における古い時代からのアリ型形態の収斂進化. https://www.kyushu-u.ac.jp/ja/researches/view/96/ (アリ型形態が12回以上独立に進化)
- Caltech. Beetles Conquered Earth by Evolving Their Own Biochemical Laboratory. https://www.caltech.edu/about/news/beetles-conquered-earth-by-evolving-their-own-biochemical-laboratory (アリを落ち着かせる物質/腺の退化)
- Barbero, F. et al. Corruption of ant acoustical signals by mimetic social parasites. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2889977/ (マクレニアの化学的・音響的擬態)
- Caltech thesis. Cuticular Hydrocarbons in Myrmecophiles are a Mechanism of Symbiotic Entrenchment. https://thesis.caltech.edu/17346/ (体表物質の模倣と依存)
- 講義No.04249 生物学(telemail 進学情報). https://telemail.jp/shingaku/academics-research/lecture/g004249 (巣が暮らしやすい理由/ゴマシジミ)
- Chemical disguise of myrmecophilous cockroaches and its implications for understanding nestmate recognition mechanisms in leaf-cutting ants. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4974750/ (ハキリアリの巣のゴキブリ)
なおした ところ
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