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きいろい かみは、どうして むしに くわれにくいと いわれるの?

キハダで染めた黄色い紙は、なぜ虫に食われにくいと考えられてきたのか

キハダ染めの黄紙はなぜ防虫に効くと考えられてきたのか:色素ベルベリンの苦みと実験の到達点

分野:歴史・文化

キハダと いう 木の かわの うちがわは、あざやかな きいろで、とても にがいと いわれます。この きいろと にがさは、どちらも ベルベリンと いう せいぶんから 来て います。

むかしの 人は、この きいろで 紙を そめました。どうして そめた 紙は むしに くわれにくいと 考えられたのでしょう。この ページを 読むと、きいろの しょうたいと、じっけんで わかった ことと、まだ わからない ことが わかります。

キハダという木の内側の皮は鮮やかな黄色で、しかも苦い。その黄色の色素と、薬になる苦み成分が、同じベルベリンという物質だと世界大百科事典は説明しています[2]。色と苦みは、一つの成分の表と裏でした。

そのキハダで染めた紙は、奈良時代から大切な紙に使われてきました。苦みが虫を遠ざけたのでしょうか。この記事を読むと、黄色い紙が防虫と結びつけられてきた理由と、実験で確かめられたこと、まだ確かめられていないことが分かります。

キハダの内皮の黄色い色素は、生薬としての主成分でもあるアルカロイドのベルベリンと同じ物質だとされる[2]。色と苦みと薬効が一つの成分に重なるこの木の樹皮で染めた紙は、奈良時代から「黄紙」として使われ、防虫効果をもつと説明されてきた[3]。では、その説明は実験で支えられているのか。

この記事を読むと、黄紙が防虫と結びつけられた経緯、シロアリを使った二つの研究が示したことと示していないこと、紙が千年もつ理由としてどこまで言えるかが分かる。

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1. きいろい いろは、にがい ものの いろ

1. 黄色は、苦みと同じ成分の色

1. 色素と薬効成分が同じ物質である木

キハダは、葉が 秋に おちる 大きな 木です。みきの そとがわは、はいいろの かたい かわで おおわれて います。ところが、その かわを はがした うちがわは、あざやかな きいろです[1]。しかも とても にがいと いわれます。

きいろの しょうたいは、ベルベリンと いう ものです。キハダの くすりと しての ちからを もつ いちばんの せいぶんも、同じ ベルベリンだと 本に あります[2]。にがい せいぶんが、そのまま きいろい いろを して いるのです。

この かわを かわかした ものは、むかしから おなかの くすりに つかわれて きました。きいろい いろは、くすりの いろでも あったのです。

キハダは落葉する高木で、幹の外側は厚いコルク層をもつ灰褐色の樹皮です。ところが、その内側の皮は鮮やかな黄色で、苦いことが知られています。名前は、この内皮の色に由来するとされます[1]。

世界大百科事典によると、この黄色い色素の正体は、薬としての主成分でもあるベルベリンです。染料の黄色も同じ成分で、染めるときに色を定着させる媒染剤は要らないとされます[2]。コルク層を除いて乾かした内皮は、生薬として胃腸の薬に使われ、奈良県の伝統的な胃薬「陀羅尼助」もこの内皮のエキスが材料です。

つまり、見た目の黄色、口に含んだときの苦み、薬としての働きが、一つの成分でつながっています。この「色と苦みが同じ」という事実が、あとで防虫の話に効いてきます。

キハダは落葉高木で、幹は灰褐色の厚いコルク層をもつ。そのコルク層を除くと内皮は鮮やかな黄色で、苦い。和名は内皮の色に由来するとされる[1]。

この黄色の色素は、アルカロイドの一種ベルベリンで、薬理作用の主成分と同じ物質であると世界大百科事典は述べる。染料の黄色色素もこれと同じで、染めに媒染剤は要らないとされる[2]。コルク層を除いて乾燥した内皮は生薬の「黄蘗」(黄柏とも書く)で、胃腸薬に用いられ、奈良県の胃薬「陀羅尼助」の原料にもなっている。

ここで押さえたいのは、色素・苦み・薬効が一つの化合物に重なっていることだ。ただし、苦み成分が虫にも効くかどうかは別の問いで、これを辞典の記述と実験の両方から見ていくのが本記事の筋である。では、この黄色で染めた紙は、いつから何のために使われたのか。

2. むかしの 人は、だいじな 紙を きいろく そめた

2. 大切な紙は、なぜ黄色く染められたのか

2. 黄紙はいつから、何を守るために作られたと説明されるか

キハダで そめた きいろい 紙は、「黄紙」と よばれました。本の じてんは、ベルベリンが きいろの いろであると 同時に、むしを よせつけない ちからも もつと せつめいします[3]。

日本では、奈良時代ならじだいに、おきょうを うつす ところで、きいろい 紙が たくさん そめられました。この 紙を つかう ならわしは、えどじだいまで つづいたと いいます。ながく のこす おふれの 紙にも つかわれました。

そめた 木の かわの えきを 紙に しみこませると、だいじな 紙を むしから まもれる。むかしの 人は、そう 考えたのだと されて います[4]。ただし、そう 書いた 当時の 文書が みつかって いるわけでは ありません。

キハダで染めた黄色い紙は「黄紙」と呼ばれます。世界大百科事典は、黄紙がベルベリンを多く含み、これが黄色の色素であると同時に防虫効果をもつと説明しています[3]。

日本では奈良時代に、写経所を中心に黄紙が大量に染められました。江戸時代まで経典に黄紙を使う習慣が続き、詔勅など長く保存する文書にも用いられたとされます[3]。「黄紙」という語の文献上の初出は、780年(宝亀11年)の『西大寺資財流記帳』に出る「黄紙、綺緒、花軸」だと辞典にあります。ただしこれは言葉が記録に出る最も早い例で、染紙が始まった年ではありません。

では、なぜ黄色く染めたのか。キハダの樹皮の内側を煎じた液で染めた紙は、貴重な紙を虫から守るために使われたと考えられています[4]。ここで注意したいのは、「考えられている」という言い方です。奈良時代の人の考えは、あとの時代の説明から推し量られているのです。

キハダで染めた黄色い紙は「黄紙」と呼ばれる。世界大百科事典は、黄紙がベルベリンを多量に含み、それが黄色の色素であると同時に防虫効果をもつと説明する[3]。

日本では奈良時代に写経所を中心に黄紙が大量に染められ、江戸時代まで経典に黄紙を使う習慣が続いた。詔勅など長期保存する文書にも用いられたという。語の文献上の初出は『西大寺資財流記帳』(宝亀11年・780年)の「黄紙、綺緒、花軸」とされるが、これは語が記録に現れる最古の例にとどまり、染紙の開始年を示すものではない。

防虫という目的については、貴重な紙を守るために防虫効果のある煎じ液で染めたと「考えられている」という紹介にとどまる[4]。同じ紹介には、染液にアリが近づかない様子が見られるという観察談も載るが、実験の記録ではない。中国では南北朝(420〜589年)以降、黄柏の樹皮の薬液で紙を染めて虫食いを防ぐ方法が広まり、宋代にも使われたと紹介される。紙が黄色くなるので「黄紙」と呼ばれたと紹介される[7]。アルカロイドが虫の卵を殺すと信じられたとされるが、一般向けの記事であり、学術的な裏づけは弱い。日中で似た工夫が現れたことは、経験から見つけた知恵だった可能性を示すが、目的を証明するものではない。では、現代の実験は何を示したのか。

3. じっけんで、わかった ことと わからない こと

3. シロアリを使った二つの実験は、何を示したか

3. 摂食阻害の発見と染め紙の忌避試験:示されたことと示されていないこと

では、本当に むしは キハダを いやがるのでしょうか。まず、1989ねんの けんきゅうが あります[5]。キハダの かわから とりだした えきを シロアリに あたえると、シロアリは それを たべるのを つよく いやがりました。いやがらせる せいぶんは、ベルベリンの ほかにも いくつか みつかりました。

つぎに、かんこくの 2010ねんの けんきゅうです[6]。キハダで そめた 紙には、シロアリを よせつけない ちからが あったと 書かれて います。

けれども、ここまでです。これは シロアリの じっけんで、紙が せんねん まもられた しょうこでは ありません。そめた 紙が、ほんとうに どれだけ むしくいを へらすかは、まだ わかって いないのです。

現代の研究者は、黄色い紙の防虫を実験で調べています。一つは1989年の日本の研究です。キハダ樹皮のメタノール抽出物は、ヤマトシロアリに対して強い摂食阻害(食べさせない)活性を示しました。活性物質として、クロロホルム画分からオバクノンとキハダニンA、水画分から塩化ベルベリンとヨウ化パルマチンが取り出されています[5]。効いたのはベルベリン一つではなく、複数の成分でした。

もう一つは、韓国の2010年の研究です。シロアリを使った忌避実験で、黄連とキハダ(黄蘗)で染めた紙に防虫力が確認されたと要旨にあります[6]。染めた紙そのものを調べた点が大事です。

ただし限界もはっきりしています。前者はシロアリの食べ物の選択を調べた実験で、染め紙の実験ではありません。後者は要旨しか読めず、虫の種類もシロアリで、効果の大きさは分かりません。紙を守る力が千年続いたかどうかは、どちらの実験も答えていないのです。

防虫の説明に実験の裏づけはあるのか。一つ目は、1989年の川口らの報告である。キハダ樹皮のメタノール抽出物はヤマトシロアリ(Reticulitermes speratus)に対して強い摂食阻害活性を示し、活性物質として、クロロホルム画分からオバクノンとキハダニンA、水画分から塩化ベルベリンとヨウ化パルマチンが単離された[5]。これは摂食阻害、つまり食べ物としての選択を調べた実験であり、効いたのはベルベリン単独ではなく複数の成分だった点が重要である。

二つ目は、韓国の保存科学の学会誌に載った2010年の研究で、シロアリを使った忌避実験において、黄連とキハダ(Phellodendri amurense)で染めた紙に防虫力が確認されたとされる[6]。染め紙を対象にしている点で、一つ目より主張に近い。ただし読めるのは要旨で、効果の大きさや試験条件は分からない。

二つを合わせて言えるのは、キハダの成分にはシロアリが食べるのをいやがらせる働きがあり、染めた紙にも似た傾向が報告されている、という範囲である。一方で、奈良時代の紙の防虫が染めによると確定したわけではなく、染め紙が実際にどれだけ虫食いを減らすかを定量的に比べた資料は、今回は見つからなかった。シロアリ以外の紙の害虫にも効くかも、ここからは言えない。

4. にがい かわから、きいろい えきを つくる

4. 染料の作り方と、色が変わる不思議

4. 染料の作り方と媒染による色の違い

そめる えきは、キハダの かわを かわかして くだき、2〜3じかん にて つくります[8]。この えきで そめると、レモンのような あかるい きいろに なります。

ふつうの そめものでは、いろを とめる くすりを 使う ことが おおいのですが、キハダは それが いりません。ベルベリンの きいろい いろは、そのままで 紙に のこる とされます[2]。

おもしろい ことに、てつを ふくんだ えきを くわえると、オリーブいろ、つまり みどりがかった きいろに かわります[8]。同じ えきでも、くわえる ものしだいで いろが かわるのです。

染料の作り方は、思ったより素朴です。キハダの樹皮を乾かして砕き、2〜3時間煮ます。この液で染めると、媒染剤なしで明るいレモンイエローになります[8]。

色を定着させるために金属の化合物を使うのを媒染といいます。キハダでは、これを使わなくても黄色が出ます[2]。一方、鉄を含む媒染剤を使うとオリーブ色になります[8]。同じ液でも、何を足すかで色が変わるわけです。

防虫の成分と色の成分が同じなら、「黄色く染まっていること」自体が、その紙に成分が染みこんだ印になります。黄色い紙を見て、苦い成分が入っているしるしだと見分けられたのかもしれません。ただし、これは筆者の推測であり、資料にそう書いてあるわけではありません。

染料は、乾燥・粉砕した樹皮を2〜3時間煮出して作る。媒染剤なしで鮮やかなレモンイエローに染まり、鉄媒染ではオリーブ色になる[8]。染料の黄色が薬効成分と同じベルベリンであり、媒染剤が不要だとされる点は前に見たとおりである[2]。

この性質は、防虫を考える上で意味がある。黄色く染まることは、染料が紙に使われたしるしにはなる。ただし、色の濃さから成分の量を推定できるかは分かっておらず、染色の濃さと防虫力の関係は、これから測られるべき点である。実験が示したのは、成分が複数あり、ベルベリン単独ではないことまでである(前章)。

古い染紙の染料が何かを調べる研究や、キハダ染めの色あせを測る研究もあるが、本記事では取り上げる根拠が十分にそろっていない。染め方と防虫を結ぶ資料はまだ少なく、そこが読者の調べがいのある余白でもある。

5. きいろい 紙を さがしに いこう

5. 黄色い紙を見つけたら、確かめたいこと

5. 古い黄紙の展示と原典で、残された問いに当たる

おてらや はくぶつかんで、むかしの おきょうの てんじを 見られる ことが あります。きいろい 紙が あったら、「これは キハダで そめた 紙かな」と 考えて 見て みて ください。てんじの せつめいに、そめた 木の なまえが 書いて ある ことも あります。

キハダの 木の かわは、くすりにも なります。でも、おうちで かじったり なめたり しては いけません。見るだけに しましょう。

そして、こんな 問いも のこって います。「そめた 紙は、ほんとうに むしを へらしたのかな。」だれかが、この 答えを しらべるかも しれません。

博物館や寺の展示で、古い経典を見る機会があるかもしれません。黄色みを帯びた紙を見つけたら、説明のカードに染料の名前が書かれていないか探してみてください。キハダで染めたと書かれていれば、この記事の話と重なります。

もう一つ、手元で確かめられる読書の道すじがあります。図書館や、辞典を集めたウェブの辞典サービスで「黄紙」と「キハダ」を引き、この記事で[2]と[3]にした二つの項目を読み比べることです。どちらも「ベルベリン」が出てきますが、一方は薬の話、もう一方は紙の話になっています。

残された問いは、はっきりしています。染めた紙は、実際にどれだけ虫食いを減らすのか。シロアリ以外の虫にはどうか。昔の人は、成分ではなく経験で「黄色い紙は虫に強い」と知ったのかもしれません。その経験を、現代の実験がどこまで裏づけるのかは、これからの研究の余地です。

黄紙の防虫について、一次資料にあたるなら次の三つが出発点になる。(1) 川口らの1989年の論文([5])は、シロアリの摂食阻害と活性物質の単離を扱う。(2) 保存科学会誌の2010年の論文([6])は染め紙の忌避実験で、全文を読めば試験条件が分かるはずである。(3) 辞典の「黄紙」の項([3])は、文献上の初出と使用例を集めている。

残る問いは三つ。奈良時代の黄紙が防虫を目的としたことを示す当時の文書はあるのか。染め紙の虫食い減少量を、シロアリ以外の害虫も含めて定量的に比べた研究はあるのか。中国と日本の似た工夫は、互いに影響したのか、別々に生まれたのか。いずれも、今回の資料では答えが出ていない。

色と苦みが同じ成分に由来するという事実は、「見た目のしるしが機能を示す」という道具の作りの一例として興味深い。博物館で古い経典の黄色い紙を見たら、その黄色が千年のあいだ紙の中にとどまっていることと、守る力が実際にあったかどうかという問いを、並べて考えてみてほしい。

しらべた もとの じょうほう

参考にした情報源

参考にした情報源と、その使い方

辞典の説明と、実験の報告を分けて使っています。参考にしたページは次のとおりです。

  1. 林野庁 北海道森林管理局 駒ヶ岳 キハダ https://www.rinya.maff.go.jp/hokkaido/komagatake_fc/guide/25_kihada.html (木の特徴・内皮の色)
  2. コトバンク「キハダ」(世界大百科事典・ニッポニカ) https://kotobank.jp/word/%E3%82%AD%E3%83%8F%E3%83%80-1523672 (ベルベリン・生薬としての使い方)
  3. コトバンク「黄紙」(世界大百科事典・精選版 日本国語大辞典) https://kotobank.jp/word/%E9%BB%84%E7%B4%99-448928 (黄紙の説明・奈良時代の使われ方・初出)
  4. 暦生活「日本の色/黄檗色」 https://www.543life.com/content/nipponcolor/post20240711.html (防虫目的と考えられていること・アリの観察談)
  5. Kawaguchi et al., Agricultural and Biological Chemistry 53(10), 1989 https://www.jstage.jst.go.jp/article/bbb1961/53/10/53_10_2635/_article/-char/en (シロアリへの摂食阻害・要旨)
  6. 保存科学会誌 26(4), 2010 https://www.earticle.net/Article/A142528 (染め紙のシロアリ忌避実験・要旨のみ)
  7. The World of Chinese, The Ancient Art of Chinese Book Preservation https://www.theworldofchinese.com/2022/10/the-ancient-art-of-chinese-book-preservation/ (中国の例・一般向け記事)
  8. JAANUS「Kihada」 https://projects.mcah.columbia.edu/jaanus/record/kihada (染料の作り方・色)

なおした ところ

更新履歴

更新履歴(改版の記録)

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