1. ヒョウタンは、どうして おわんにも ひしゃくにも なるの?
1. ヒョウタンは、切り方しだいでひしゃくにもお椀にもなった
1. ヒョウタンは、切る向きひとつで杓にも椀にもなった
ヒョウタンは、まん中が くびれた 形の 実です。これを たてに 切ると、ながい くぼみが ふたつ できて、水を くむ どうぐに なります。よこに 切ると、まるい くぼみが ふたつ できて、おわんに なります[1]。
「しゃくし」や「ひしゃく」と いう ことばは、ヒョウタンの むかしの 名前「ひさご」が なまった もの、と いわれます[1]。
ヒョウタンは、どの くらい むかしから 日本に あったのでしょう。ふくいけんの とりはま かいづかと いう あとから、やく8500年前の ヒョウタンの 皮や たねが 出て います。縄文時代の はじめごろの ものです[1]。ただし 出て きたのは 皮と たねで、水を くむ どうぐに した しょうこでは ありません。
おたまの せんぞは、ヒョウタンだけ なのでしょうか。
ヒョウタンは、縦に切れば水くみ用のしゃくしやひしゃくに、横に切ればお椀になった、と世界大百科事典は説明しています[1]。同じ一つの実が、切る向きで二つの道具に分かれたわけです。
言葉にも、そのなごりがあります。「しゃくし」「ひしゃく」は、ヒョウタンを指す古い言葉「ひさご」がなまったものとされます[1]。「柄杓」という字は当て字で、柄がつくことやヒノキで作ることは、もともとの特徴とはいえないと辞典は述べています[2]。古いひしゃくは、ひさごを半分に割ったものでした。
ヒョウタンは、どのくらい昔から日本にあったのでしょうか。福井県若狭町の鳥浜貝塚(縄文時代前期)からは、約8500年前のヒョウタンの果皮や種子が出土しています[1]。ただし出土したのは皮と種で、杓として使った証拠ではありません。
では、おたまの先祖はヒョウタンだけなのでしょうか。
ヒョウタンは、縦に切れば水くみ用のしゃくし・ひしゃくに、横に切れば椀になった[1]。同じ実が、切る向きだけで「汲む道具」と「盛る器」に分かれたことになる。しゃくし・ひしゃくという語も、ヒョウタンを指す「ひさご」(瓠・匏)がなまったものとされる[1]。
では、なぜ道具の名前に「柄」の字がつくのか。辞典によれば、「柄杓」は当て字で、柄があることやヒノキで作ることは最初からの特徴とはいえない。古くは、杓子と同じようにひさごを半分に割って作った[2]。つまり、柄の長さではなく「半分に割った実のくぼみ」こそが、元の姿である。
ヒョウタンの古さについては、福井県若狭町の鳥浜貝塚(縄文時代前期)から約8500年前の果皮と種子が出土している[1]。ここで注意が要るのは、出土したのが果皮と種子であり、杓として使った証拠ではないことだ。古くから人の暮らしの近くにあった、とまでが言える。
とはいえ、おたまの起源をヒョウタンだけに求めてよいのか。別の説明がある。
2. かいがらも、おたまの せんぞ なの?
2. もうひとつの手がかりは、柄をつけた貝殻
2. 貝殻に柄をつけた説 ── 正倉院に残る杓子の原型
おたまは、しるを すくう「しる しゃくし」の なかまです。さきに 半きゅうの ような へこみが ついて いて、えが のびて います[4]。
この 形の はじまりは、かいがらに 木の えを つけて つかった ことだと、すいそく されて います[4]。しょうそういんには、かいに えを つけた、しゃくしの もとに なった どうぐが ある といいます[4]。
ヒョウタンと かいがらの どちらが 先かは、今回の しりょうからは きめられません。ただ、どちらも しぜんに できた まるい へこみを かりて つかった ところは、にて います。
では、ヒョウタンも かいも 手に 入らない ときは、なにで つくったのでしょう。
おたまは汁杓子の一種で、柄の先に半球状の部分がついた形の道具です[4]。この形の起源は、貝殻に木の柄をつけて使ったことだと推測されています[4]。正倉院には、貝に柄をつけた杓子の原型となった道具が収められているといいます[4]。
ここで大事なのは、どちらも「推測」「説明」の範囲だということです。ヒョウタン説と貝殻説のどちらが先かを決められる資料は、今回の範囲にはありません。
ただ、ヒョウタンも貝殻も、人が一から作ったのではなく、自然の中にすでにあったくぼみを借りた器です。柄があれば、手を汁や水から遠ざけられます。ただし、それがおたまの形の始まりだったとまでは言えません。
では、ヒョウタンも貝殻も手に入らない土地では、何で作ったのでしょうか。
おたまは汁杓子の一種で、柄の先に半球状の部分がついた道具である[4]。起源については、貝殻に木の柄をつけて使ったのが始まりと推測されており、正倉院には、貝に柄をつけた杓子の原型となった道具が収められているという[4]。
ここで気をつけたいのは、これが「推測」だという点だ。ヒョウタン説(前章)と貝殻説は、どちらかが正解というより、並べて読むべき二つの手がかりである。今回読んだ範囲に、どちらが先かを決める資料はない。
両者に共通するのは、人が設計した形ではなく、自然がつくったくぼみを器として借りた点だ。そこに柄をつければ、手を汁や水から遠ざけられる。ただし「だから半球になった」と結ぶのは、資料の範囲を超える。確かに言えるのは、半球のくぼみに柄という組み合わせが、自然の器から出発した可能性があるというところまでだ。
では、自然の器が手に入らない場面では、何で作られたのか。
3. ざいりょうが かわっても、へこみは のこった?
3. 竹・木・曲物・金属と素材が変わっても、くぼみは残った
3. 素材が竹・木・曲物・桶・金属へ移っても、くぼみは残った
ひしゃくの ざいりょうは、むかしから すこしずつ かわって きました[2]。
まず、竹の ふしを のこして 切った もの。木の みきの こぶを くりぬいた もの。これらに えを つけて つかいました。ふしを そこに すれば、そのまま いれものに なります。
むかしの 中ごろには、ヒノキや スギで つくった「まげもの」と いう いれものに えを つけた ものも ありました。そのあと、おけに えを つけて うるしを ぬった ものも つくられました[2]。
しるを すくう しゃくしには、木・竹・かいで できた ものと、金属で できた ものが あります[3]。ひしゃくも しゃくしも、ざいりょうは いろいろですが、へこみに えが ついた 形は のこって います。
では、今の おたまの かたちには、なにか くふうが あるのでしょうか。
ひしゃくの素材は、時代とともに変わってきました。古くは、竹の節を残して切ったものや、木の幹のこぶをくりぬいたものに柄をつけて使いました。節を底にすれば、そのまま入れ物になります[2]。
中世にはヒノキやスギで作った曲物に柄をつけたものが、近世にはたが締めの桶に柄をつけ、漆を塗ったものも作られました[2]。現在は、金属の椀形の容器に木の柄をつけたものもあります[2]。
汁をすくう杓子には、木・竹・貝で作られたものがあり、金属製のものも使われています[3]。ひしゃくも汁杓子も、素材はいろいろに変わりましたが、「くぼみに柄がついた形」は変わりませんでした。
なぜその形が残ったのか、設計の意図を直接書いた資料は見あたりません。ただ、素材が替わるたびに作り直されながら残ったことは、この形が使いやすかったことを思わせます。では、今のおたまは、昔のままの形なのでしょうか。
素材が替わっても形が残ったのか、順に見る。ひしゃくは古くは、竹の節を残して切ったものや、木の幹のこぶをくりぬいたものに柄をつけて使った。節を底にすれば、加工せずに容器になる[2]。
中世にはヒノキ・スギの曲物に柄をつけたものが現れ、近世にはたが締めの桶に柄をつけて漆を塗ったものも行われた。現代には、金属の椀形容器に木の柄をつけた組み合わせもある[2]。汁をすくう杓子にも、木・竹・貝製のものと金属製のものがある[3]。
この移り変わりで注目したいのは、素材だけが入れかわっていることだ。ヒョウタンの果皮、竹の節、木のこぶは、どれも「ほぼそのまま」が器になる材料である。曲物・桶・金属は、人が丸い器を一から組み立てる材料だ。それでも、できあがる形は「半球〜椀形のくぼみ+柄」で変わっていない。
素材が自然の器から人工物へ移っても、くぼみに柄をつける形は残った。では現代のおたまには、昔の形に加わった工夫はあるのか。
4. おたまの よこに、とがった ところが ある わけは?
4. 横にとがりのあるおたまは、なぜ注ぎやすいのか
4. 横レードルの「とがり」と、液だれの理由
おうちの おたまを 見て みましょう。ふちの ところが、すこし とがって いる ものが あります。
よこから 見ると、半きゅうが よこむきに なった、しずくの ような 形です。「よこレードル」と よばれ、とがった ところから 注ぎやすい といわれます。なべの そこや かどにも、そわせやすい そうです[4]。
ただし、とがりは ひだりむきの ものが 多く、ひだりききの 人には つかいにくい ことが あります[4]。
ゆっくり 注ぐと、水が ふちの 下がわを つたって、たれる ことが あります。これを「ティーポット こうか」と いいます。水を 速く 注ぐと、ふちから はなれて 落ちます[6]。これは ポットや ビーカーの けんきゅうで、おたまだけの 話では ありません。
おたまの形は、横から見たとき、半球が横向きの涙のしずくのようになっているものがあります。「横レードル」と呼ばれ、とがった部分から注ぎやすいほか、平底の鍋に接する線が長いので、深い鍋の底や角にも合う、と説明されます[4]。
この説明は、実験で測った数値ではなく、新聞記事などを脚注にした記述です。ただ、使い手の実感としては分かりやすい特徴です。とがりが左向きのものが多く、左利きの人には使いにくいことがある、という指摘もあります[4]。
注ぎ口があっても、液体はときどき縁を伝ってたれてしまいます。ゆっくり注ぐと、液体が注ぎ口の下側を伝って流れる「ティーポット効果」が起こります。流れを速くすると、液体は縁から離れて落ちやすくなることがあります[6]。液体のぬれやすさや縁のとがり方も影響するとされます[6]。
この研究はポットやビーカーなどが対象で、おたま専用ではありません。ただ、液体を注ぐ道具に共通する話として読むことはできます。
くぼみが半球なら、注ぐとき液はどこから出るのか。半球が横向きの涙滴状になった形のおたまは「横レードル」と呼ばれ、とがった部分から注ぎやすく、平底鍋に接する線が長いので深い鍋底や角にも合うと説明される。とがりが左向きのものが多く、左利きには使いにくいこともある[4]。
ただし、これは新聞記事などを脚注にした記述で、実験による測定値ではない。注ぎやすさの根拠は使い手の経験則の範囲にとどまる。
では、とがりがあっても液がたれるのはなぜか。ゆっくり注ぐと、液体が注ぎ口の下側を伝って流れる「ティーポット効果」が起きる。流れの速さを上げると、液体は縁から離れて落ちやすくなることがある。ぬれやすさ(接触角)と縁のとがり方も影響する[6]。Duezらの2010年の研究(Physical Review Letters)にもとづく話として、Bouwhuis & Snoeijerの論文に紹介されている。
対象はポット・瓶・ビーカーで、おたまを測った研究ではない。液だれの一般的な理由として読み、おたまの縁でも同じことが起きるかは、次の章で自分で観察できる。
5. 「おたま」って、どうして そう よぶの?
5. 「おたま」という名前は、多賀大社のお守りから来たともいわれる
5. 「お玉杓子」の語源 ── お多賀杓子説と、カエルの子との前後
しがけんの たが たいしゃ という じんじゃには、「おたが しゃくし」と いう えんぎものが あります。びょうきが なおる お守りとして、全国に ひろまり、「お玉じゃくし」と よばれた、とも いわれます[5]。
もうひとつ。カエルの 子の オタマジャクシが、この 形に にて いるので、そう よばれる ように なった、と いう はなしも あります[5]。
どちらが 先なのかは、はっきり しません。いずれも「いわれて います」と いう はなし です。
滋賀県多賀町の多賀大社には、縁起物の「お多賀杓子」があります。これが病気平癒のお守りとして全国に広まり、「お玉じゃくし」と呼ばれるようになった、とも言われています[5]。「おたま」の名は、ここから来たという説明です。
一方で、カエルの子のオタマジャクシが、杓子の形に似ているので、そう呼ばれるようになったという話も、同じ資料にあります[5]。
「お多賀杓子から、お玉じゃくしへ」という説明と、「カエルの子の形から、オタマジャクシへ」という説明は、名前のつながり方が逆向きです。どちらの呼び名が先かは、資料だけでは決められません。
「おたま」という名はどこから来たのか。滋賀県の広報は、多賀大社(滋賀県多賀町)の縁起物「お多賀杓子(おたがしゃくし)」が病気平癒のお守りとして全国に広まり、「お玉じゃくし」という呼び名になったとも言われる、と紹介する[5]。
同じ資料には、カエルの子が杓子の形に似ているので「オタマジャクシ」と呼ばれるようになった、という説明もある[5]。「お多賀杓子→お玉じゃくし」説と「カエルの子の形→オタマジャクシ」説は、つながり方が逆向きで、どちらの呼び名が先かは資料だけでは決められない。
どちらも「言われる」「という」の範囲の話で、辞典などで裏づけを取った因果ではない。名前の由来は断定せず、複数の説があると読むのが妥当である。
6. いえの おたまで、水を 注いで みよう
6. 家のおたまで、水の注がれ方を観察する
6. 家のおたまで確かめる ── 注ぎ方と、読める資料
おうちの おたまを だして、ながしの 上で ためして みましょう。つかうのは、水だけです。あついものは つかいません。
まず、ふちの 形を 見ます。とがって いる ところは ありますか。とがりは、どちらむきですか。
つぎに、おたまに 水を すくって、ゆっくり かたむけて 注ぎます。水は ふちの どこから 出ますか。下がわを つたって たれますか。すこし 速く かたむけると、どう かわりますか。
見つけた ことを、おうちの 人に はなして みましょう。ヒョウタンや かいがらの へこみも、こんな ふうに 水を くんだのかも しれません。
家にあるおたまを出して、流しの上で試してみましょう。使うのは水だけです。熱いお湯や汁は使いません。
まず、縁の形を見ます。とがりはあるか、あるなら左右どちら向きか。次に、おたまに水をすくい、ゆっくり傾けて注ぎます。水は縁のどこから出るか、下側を伝ってたれるか。少し速く傾けると、流れ方はどう変わるか。
家に何種類かおたまがあれば、縁の形のちがいと、水のたれ方を見比べます。水はふけばよいので、台所で安全にできます。ここで見えたことは、論文の言う「ティーポット効果」が、おたまにも起きるかどうかの手がかりになるかもしれません。
読んでみたい資料もあります。名前の話は滋賀県のページ[5]に、ヒョウタンとひしゃくの話はコトバンクの「ヒョウタン」[1]と「柄杓」[2]にあります。
手元で確かめるなら、家のおたまを使い、流しの上で水を注いでみる。熱いものは使わず、水だけでよい。縁にとがりがあるか、とがりはどちら向きか。ゆっくり傾けたときと、少し速く傾けたときで、水が縁を伝うか、離れて落ちるかを見比べる。
ここで見えることは、ポットやビーカーで報告されたティーポット効果[6]が、おたまの縁にも当てはまるかを、自分の目で調べる手がかりになる。測定値ではなく観察だと割り切って、見えたことをそのまま書き留めればよい。
資料を読むなら、日本語では滋賀県のページ[5]と、コトバンクの「ヒョウタン」[1]と「柄杓」[2]が入口になる。注ぎ口の流れは、英語になるが、arXivに公開された解説[6]から入れる。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
出典について:辞典・自治体の広報・論文の解説を使いました。何に使ったかは、それぞれの項目の最後に書いています。Wikipediaなどの二次資料は、結論ではなく手がかりとして読んでいます。
- コトバンク「ヒョウタン」(世界大百科事典・日本大百科全書)。https://kotobank.jp/word/%E3%83%92%E3%83%A7%E3%82%A6%E3%82%BF%E3%83%B3-1582733 (ヒョウタンの縦切り・横切り、「ひさご」の語、鳥浜貝塚の出土について)
- コトバンク「柄杓」(世界大百科事典・日本大百科全書ほか)。https://kotobank.jp/word/%E6%9F%84%E6%9D%93-119688 (ひしゃくの素材の移り変わり、「柄杓」が当て字とされることについて)
- Japanese Culture「Shamoji and Shakushi」。https://japanese-culture.info/keywords/daily_life/food/shamoji (汁杓子の素材が木・竹・貝から金属へ変わったことについて。二次資料)
- Wikipedia日本語版「お玉」。https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%8A%E7%8E%89 (おたまの形、貝殻起源の推測、正倉院の道具、横レードルの特徴について。二次資料)
- 滋賀県広報レポート(令和8年5月)。https://www.pref.shiga.lg.jp/ab00/24242.html (お多賀杓子と「お玉じゃくし」の呼び名の説について)
- Bouwhuis & Snoeijer, arXiv:1507.05931(液体を注ぐときの液だれを扱う論文)。https://arxiv.org/abs/1507.05931 (液体を注ぐときの液だれ「ティーポット効果」について。ポットなどが対象。おたま専用ではない)
なおした ところ
更新履歴
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