1. どうして かわに あわが のこったの?
1. 川に消えない泡が浮かんだのは、なぜか
1. 1960年代の河川の発泡 ── 洗濯機と下水道のずれ
1960年ごろの 日本では、でんき洗濯機が ふえ、あわの 立つ ごうせいせんざいも 広まりました。
ところが、そのころは 下水を きれいに する しくみが、まだ 少なかったのです。よごれた 水は、そのまま 川へ 流れました。
そのため、あわが きえずに のこる 川が 出ました。たまがわでは、1967年に あわが のこって いた 場所が あります。
でも、あわの 正体は、なんだったのでしょう。
1960年代前半、日本の河川では洗剤による発泡が問題になりました[4]。日本石鹸洗剤工業会の資料は、背景に3つのことが重なっていたと整理しています。電気洗濯機の普及、合成洗剤の発売、そして下水道の普及率が10%に届かなかったことです。
家庭の排水が処理されないまま川に入れば、洗剤の濃さはそのまま川の水に反映されます。この資料では、その結果として泡が消えずに残った、と説明されています。多摩川の丸子橋堤防付近には、1967年に泡が残っている写真が載っています。ただし、業界団体がまとめた資料なので、原因の見方は業界側のものとして読む必要があります。
泡が消えなかった直接の原因は、洗剤そのものの性質にありました。
河川の発泡は、1964年に問題として現れた[4]。日本石鹸洗剤工業会の資料は、その背景を、電気洗濯機の普及と合成洗剤の発売によって家庭排水中の洗剤濃度が上がったこと、そして下水道普及率が10%に届かず、未処理の排水が川に入ったことの重なりと説明する。多摩川の丸子橋堤防付近では、泡が消えずに残る様子が1967年の写真に残っている。
この資料は洗剤を作る側の団体がまとめたもので、原因の整理は業界側の見方として読むべきである。とはいえ、洗剤が増えるだけでは泡は残らず、それを処理する仕組みがなかったことが重なった、という構図は、次章で見る洗剤成分の違いと合わせると筋が通る。では、その洗剤の何が問題だったのか。
2. せんざいの 「えだ」を なくすと どうなるの?
2. 洗剤の何を作り替えたら、泡が消えるようになったのか
2. ABSからLASへ ── 分解されにくい分子を、分解されやすい分子に替える
あわの 力を 出す ものは、洗剤に 入って いる 界面活性剤です。むかしの ものは、ABSと よばれ、えだのように えだわかれした 形を して いました。
この 形は、分解されにくく、川や 湖の よごれの もとに なりました。
そこで、まっすぐな 形の LASに 作りかえました。たとえば、えだの ついた 木は はこに 入れにくく、まっすぐな ぼうは 入れやすい、と 考えて みてください。ただし ほんとうの ようすは、もっと むずかしい しくみです。
1966年に この 新しい せんざいが 作られ、1970年代の はじめには、入れかわりました。川の あわも きえて いきました。
では、新しい せんざいは、下水を きれいに する ところで、どうなるのでしょう。
泡の力のもとは、洗剤に含まれる界面活性剤です。当時使われていたのは、ABSと呼ばれる、枝分かれした構造を持つものでした[3]。この形は分解されにくく、河川や湖沼の汚れの原因になったと、横浜市の資料は説明しています。
そこで1966年に、枝分かれのない直鎖型のLASを使ったソフト型洗剤が開発されました[4]。1968年ごろから切りかえが本格的に進み、1970年代の初めに完了しています。資料の年表では転換完了が1971年か1972年か読み取りにくいため、ここでは「1970年代初め」と書きます。
多摩川の泡は、ソフト化と下水道の普及によって1970年には消えた、と業界の資料は記しています。洗剤の側を変え、処理する側も整える。両方が進んだ時期に、泡は消えていきました。この作り替えは、分解しやすい形にしたからこそ、処理場の中で意味を持ちます。
泡の性質を担うのは、洗剤中の界面活性剤である。1951年に発売された衣料用の洗剤に使われたABSは、アルキル基が枝分かれした構造で、分解されにくい「ハード型」だった[3]。このため河川・湖沼の汚染を招いたと、横浜市下水道FAQは説明する。
そこで1966年に、アルキル基が直鎖のLASによるソフト型洗剤が開発された[4]。1968年に転換が本格化し、1970年代初めに完了している(年表の読み取りが1971年とも1972年ともとれるため、年は「1970年代初め」とする)。多摩川の泡は、ソフト化に下水道の普及が加わって1970年には消えた、というのが業界資料の整理である。
洗剤側の対策だけで泡が消えたわけではなく、処理する側がなければ、分解されやすい分子にした意味も生きない。では、その「処理する側」は、泡の水をどう扱っているのか。
3. しょりの ところで、だれが よごれを 食べるの?
3. 処理場の中で、泡立った水は何をくぐるのか
3. 標準的な下水処理 ── 沈殿と活性汚泥の役割分担
せんたくの 水は、家の 下水の くだを 通って、下水を きれいに する ところへ 集まります。
まず、大きな ごみや 土を 取ります。つぎに、小さな ごみを しずめます。
そのあと、大きな タンクに 入ります。ここには、微生物の たくさん 入った どろが あり、空気を おくりこみます。
微生物は、水の 中の よごれを えさに して 食べて ふえます。たとえば、ツリガネムシは、口の まわりの 毛を 動かして、水の 中の 細きんを 集めて 食べると しょうかいされて います。
さいごに、どろを しずめて、消毒を して、水を 川や 海に かえします。
では、そうやって、どれくらい きれいに なるのでしょうか。
洗濯の水は、下水管を通って処理場に集まります。横浜市の資料によると、標準的な処理は次の順に進みます[1]。まず沈砂池で大きなごみや石を取り除き、最初沈殿池で小さなごみを沈めます。
その先の反応タンクが、この話の主役です。ここでは、微生物を含んだ泥(活性汚泥)に空気を送りこみながらかき混ぜます。微生物は下水の中の汚れ(有機物)を餌にして増えます[2]。たとえばツリガネムシは、口のまわりの繊毛を動かして、水の中の細菌をかき寄せて食べる、と紹介されています。
最後に、最終沈殿池で活性汚泥を沈めて分け、消毒をしてから水を川や海に戻します。前の章で洗剤を分解しやすくしたのは、この反応タンクで微生物に食べてもらうためでした。
実際に、どれくらいの洗剤成分が取り除かれるのでしょうか。
4. あわの もとは、どれくらい へるの?
4. 洗剤の成分は、処理場でどれくらい減るのか
4. 界面活性剤の除去率 ── 横浜市の測定と、その読み方
よこはま市の 水を きれいに する ところでは、せんたくに つかう せんざいの おもな せいぶんは、98%より 多く とりのぞかれると 書かれて います。
100こ 入って きたら、のこりは 2こ より 少ない、という くらいです。もう 1つの しゅるいの せいぶんは、99%です。
これは、よこはま市の はかった 数字です。日本じゅうの どこでも、同じとは かぎりません。
分解しやすい せんざいが 使われて いる ことも、きれいに しやすさに 関係して います。では、せんざいの 中の べつの せいぶんは、水の 中で なにを 起こしたのでしょうか。
横浜市の下水道FAQ(水質)によると、市の水再生センターでは、洗濯用洗剤の代表的な成分である陰イオン界面活性剤が98%以上、非イオン界面活性剤が99%除去されているとされています[3]。100の量が入ってきたとして、出ていくのは2以下という規模です。
これは横浜市の施設の結果で、全国のどこでも同じ数字になるとはかぎりません。ただ、前の章で見たように、分解しやすいLASに切りかえたことも、処理しやすさに関係していると考えられます。
泡の問題は、こうして遠のきました。ところが洗剤には、泡とはちがう形で水に影響する成分がありました。それが、琵琶湖で問題になったリンです。
横浜市下水道FAQ(水質)は、市の水再生センターにおける陰イオン界面活性剤の除去率を98%以上、非イオン界面活性剤を99%と示している[3]。陰イオン界面活性剤は洗濯用洗剤の代表的な成分にあたる。これは横浜市の測定結果であり、全国一律に成り立つとは書けない。
分解性の良いLASが使われていることも、処理しやすさに関係していると考えられる。ただし、この資料は除去率の要因を微生物処理や洗剤の種類に限って示しているわけではない。
泡の問題は、分解性の改善と処理場の整備で収まった。だが、洗剤が水環境に及ぼした影響は泡だけではない。次は、洗剤に含まれた別の成分、リンが湖に与えた影響を見る。
5. せんたくは、びわこを どう かえたの?
5. 洗濯の洗剤は、琵琶湖の赤潮とどう結びついたのか
5. 琵琶湖の淡水赤潮とリン ── 洗剤の寄与と、条例・業界・高度処理
1977年、琵琶湖で、赤潮が 大きく 出ました。げんいんの 1つとして、洗剤に 入って いた リンが あげられました。
すると、家庭の 人たちが 「こなせっけんを つかおう」という 動きを 始めました。1978年の 8月には、みんなで 石けん会ぎが できました。
1980年には、リンの 入った せんざいを つかったり 売ったり しないと いう 条例が できました。せんざいを 作る 会社も、リンを へらして いきました。1985年には、リンの 入らない せんざいに 切りかわりました。
リンが 赤潮の げんいんの すべてでは ありません。それでも、へらせる ものから へらそうと しました。
いまの 琵琶湖では、下水を きれいに する ところで リンなども とりのぞき、ちかごろは 水の よごれが おさえられて いると つたえられて います。
1977年、琵琶湖で淡水赤潮が大発生しました。原因の一つとして、合成洗剤に含まれるリンが挙げられました[5]。リンは、洗うときにカルシウムイオンを捕まえるために洗剤に配合されていたもので、湖が栄養を増やしすぎる富栄養化に関わったとされます。
これを受けて、県内では婦人団体などが中心となって、粉石けんを使う運動が広がりました。1978年8月には、その連絡会議が結成されています。1980年には、滋賀県が琵琶湖の富栄養化を防ぐ条例を定め、リンを含む合成洗剤の使用・販売の禁止も盛り込まれました。
ただし、リンの発生源は洗剤だけではありません。業界団体の資料によると、衣類用洗剤の寄与は10数%とされ、自然由来や農業、し尿などもありました[4]。それでも業界は、人の手で制御できる発生源として削減する方針を決め、1980年に低リン・無リン洗剤へ転換し、1985年に無リン洗剤への転換を完了しました。
いまの琵琶湖流域の下水道では、窒素とリンを取り除く高度処理を行っています。滋賀県は、流入する負荷を大きく減らせたとして、近年は富栄養化が抑えられていると伝えています[5]。
洗剤が問題になったのは泡だけではない。1977年に琵琶湖で淡水赤潮が大発生し、その要因の一つとして合成洗剤中のリンが挙げられた[5]。リンは洗液中のカルシウムイオンを捕まえるために洗剤へ配合されていたもので、湖の富栄養化に寄与した。1978年8月には婦人団体等が中心となり、滋賀県で「石けん会議」が結成された。1980年には、有リン合成洗剤の使用・販売の禁止を含む「琵琶湖の富栄養化の防止に関する条例」が制定されている。
ただし、洗剤が唯一の原因だったわけではない。業界団体の資料によれば、リンの発生源は自然・農業・家庭し尿にもあり、衣類用洗剤の寄与は10数%とされる[4]。そのうえで業界は、制御可能な発生源として削減する方針を決め、1980年に低リン・無リン洗剤へ転換し、1985年に無リン洗剤への転換を完了した。寄与が一部でも、手の届くところから減らす選択をした、という点は注目に値する。
もうひとつの対策が処理場側である。琵琶湖流域下水道では、窒素とリンを除く高度処理を実施し、流入負荷を大幅に削減した。滋賀県は、近年は富栄養化が抑えられていると記す[5]。洗剤の成分設計、住民の運動、条例、処理場の高度化が重なった結果であり、どれか一つだけの効果とは言い切れない。
6. じぶんでも しらべて みよう
6. 自分でも調べてみたくなったら
6. 自分でも調べてみたくなったら
今日できること:せんたくに つかう せんざいの ふくろを 見て、「界面活性剤」と 書いて ないか さがして みましょう。つかう りょうの めやすも、いっしょに 読んで みましょう。
出かけてできること:すんで いる 町の 下水を きれいに する ところは、見学が できる ことが あります。おうちの 人と、市の ホームページで しらべて みましょう。
くらべて みよう:おうちの せんざいの ふくろで、「つかう りょう」の めやすを 見て、水の りょうが ふえると どう かわるか、おうちの 人と 話して みましょう。
今日できること:洗剤の容器の成分表示を見て、界面活性剤の種類がどう書かれているか探してみましょう。あわせて、水の量に対する洗剤の使用量の目安も読んでみてください。
出かけてできること:住んでいる市町村の下水処理場が、見学を受け付けているか調べてみましょう。沈殿池や反応タンクを、実際に見ることができる場合があります。
公式情報:各自治体の下水道局のページと、滋賀県の琵琶湖に関するページで、処理の流れや水質の取り組みを読めます。
今日できること:洗剤容器の成分表示から、界面活性剤の種類の記載を確かめ、この記事のABS・LASの話と照らしてみる。
出かけてできること:居住地の下水道局が見学を受け付けているか調べ、反応タンクの活性汚泥や最終沈殿池の様子を見る。
資料を読むなら:横浜市の下水道の処理の流れとFAQ、滋賀県の琵琶湖に関する資料、日本石鹸洗剤工業会の資料(愛知県のサイトに掲載)が入口になる。業界資料は、洗剤を作る側の見方であることを踏まえて読むとよい。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
数値は各機関の資料に書かれた範囲で用いています。自治体の測定値は、その地域のものです。
- 横浜市「下水処理の流れ(標準的な処理)」 https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/machizukuri-kankyo/kasen-gesuido/gesuido/shori/hyoujun.html (処理の順序)
- 横浜市「微生物の役割」 https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/machizukuri-kankyo/kasen-gesuido/gesuido/shori/bacteria/dic.html (微生物が汚れを餌にすること)
- 横浜市「下水道FAQ(水質)」 https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/machizukuri-kankyo/kasen-gesuido/gesuido/gesuidofaq/suishitsu/010.html (ABSとLAS、界面活性剤の除去率)
- 日本石鹸洗剤工業会の資料(愛知県サイト掲載) https://www.pref.aichi.jp/uploaded/attachment/486512.pdf (洗剤の年表、河川の発泡、リンの寄与。業界団体の資料)
- 滋賀県「びわ湖・環境」のページ https://www.pref.shiga.lg.jp/ippan/kankyoshizen/hozen/13247.html (淡水赤潮、石けん会議、高度処理)
なおした ところ
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