1. ぬれた すなは、どうして くろっぽく 見えるの?
1. 濡れた砂や布は、なぜ暗く見えるのか
1. 濡れた粗い面が暗くなるのは、光がどう動くからか
あめの ひ、かわいた すなと ぬれた すなを くらべると、ぬれた ほうが くらく 見えます。ぬれた ふくも、いろが こく 見えます。
ひとつの せつめいは こうです。ざらざらの おもては、あたった 光を いろいろな ほうに ちらします。そこに みずの まくが あると、まくの そとの ところで 光の いくらかが はねかえって、おもての ほうに もどされます。もどると、また おもてに あたって、すいこまれる ことが ふえます[1]。
すいこまれる 光が ふえると、目に とどく 光が へって、くらく 見えます[2]。
では、革の おもては、すなの ように ざらざらなのでしょうか。
雨の日、乾いた砂と濡れた砂を並べて見ると、濡れたほうがはっきり暗く見えます。濡らしたタオルや、水をこぼしたコンクリートも同じです。
この現象を説明した論文があります。ニュージーランドの研究者たちによると、表面が粗くて光を吸う材料は、水の膜で覆われると暗くなります。粗い表面は光を斜めにばらばらに返します。そのうち、水の膜と空気の境目に斜めに当たった光は、境目で全反射して表面に戻ります。戻った光はまた表面に当たり、そのたびに吸収される機会が増えます[1]。
日本語の解説記事も、同じ現象を観察者の目に戻る光の量で説明しています。濡れた部分から目に届く反射光は、乾いた部分より少なくなります[2]。
では、この説明は、革にクリームを塗った場面にもそのまま使えるのでしょうか。
濡れた物が暗く見える現象について、Lekner と Dorf(1988)は、粗くて光を吸う材料に水の膜がかかった場合を考えた。粗い面では拡散反射が起こり、表面から出た光の一部が膜と空気の境目に大きな角度で当たる。その光は全反射して表面に戻り、再び吸収される確率が上がる。そのため、膜がない乾いた状態より、観察者に届く光が減る[1]。日本語の解説でも、濡れた部分から目に入る反射光が乾いた部分より少なくなると整理されている[2]。
この説明には条件がある。論文は、光学的になめらかな面は、液体で覆っても鏡のように反射するだけで、このしくみは働かないと述べている[1]。粗い面であること、光を吸う材料であることが、暗くなる前提である。
では、革に手入れ剤を塗るとき、この前提はどこまで当てはまるのか。革の表面と内部を見る必要がある。
2. ぬった あぶらは、革の どこへ いくの?
2. 塗った油は、革の中でどこへ行くのか
2. 手入れ剤の成分は革の中でどう分かれて動くのか
革の クリームには、ワックス、あぶら、みず、ほんの すこしの ようざい、そして あぶらと みずを まぜる ものが はいっています[3]。
ワックスは おもてに のこって、みがくと つやが でます。あぶらは すこしずつ、革の なかに しみこんで いきます[3]。つやの はなしは、べつの メモで くわしく よめます。
革は、とても ほそい 繊維が からまって できて います。その すきまに あぶらが はいって、繊維を やわらかく たもちます[3]。
あぶらが しみこむと、すきまの くうきの ところが あぶらに おきかわります。これが、いろが かわる ひとつの わけだと かんがえられます。ただし、これは みずの はなしを 革に あてはめた かんがえ方で、革で ちょくせつ たしかめた はなしでは ありません。
革の手入れ用クリームの成分は、ワックス、油分、水または少量の有機溶剤、界面活性剤が一般的だと、日本皮革産業連合会の担当者の解説にあります。ワックスは革の表面にとどまり、磨くとつやが出ます。油分は、時間をかけて革の内部にしみこみ、柔らかさを保ちます[3]。つやの仕組みは別のメモで扱っているので、ここでは色の話に絞ります。
革は、細い繊維が絡み合ってできています。濡れと乾きをくり返すと繊維が近づいて硬くなり、繊維の間の油分は時間とともに減っていきます。そのため、つやにはワックス、柔らかさには油分を、シーズンの前後に補うとよいとされています[3]。
ここで面白いのは、油と水は混ざらないのに、クリームには水も油も入っていることです。革づくりの現場では、石鹸のような界面活性剤で油を水に細かく分けて、革の繊維の間にしみこませる方法が開発されました[4]。手入れ用クリームにも界面活性剤が入っています。油と水を細かく混ぜる点には、加脂と共通する考え方があります。
こうして油が繊維の間の空気のあった場所に入ると、前の章の「液膜が粗い面を暗くする」説明と似た状況になる、という見方ができます。ただしこれは、水の膜の論文を手がかりにした類推です。革の油でも同じことが起きると確かめられたわけではありません。
手入れ用クリームの一般的な成分は、ワックス、油分、水または少量の有機溶剤、界面活性剤である。ワックスは表面に残って磨くと光沢を与え、油分は徐々に内部へ浸透して柔軟性を保つ[3]。光沢の仕組みは既存の別メモに任せ、ここでは色に関わる油分の動きを見る。
油分が必要になる理由は、革の繊維構造にある。革製品は濡れと乾きをくり返すと繊維が近づいて硬くなり、繊維の間の油分が時間とともに減る傾向がある。そのため、光沢にはワックス、柔軟性には油分を、シーズンの前後に補給するとよいとされる[3]。革づくりでも、なめしだけでは革は柔らかくならず、油脂を入れる加脂の工程がすべての革づくりで行われる。原始的な方法では、動物の脂を塗りこんで揉んだ[4]。
では、水に溶けない油を、どう繊維の間に入れるのか。加脂の現場では、油を界面活性剤で水の中に細かく分散させ、革の繊維の間に浸透させて定着させる方法が開発された[4]。手入れ用クリームにも界面活性剤が入る[3]。
ここから、色が濃くなる説明に戻ろう。油が繊維の間の空気を置きかえると、前の章の「液膜が粗い面に届く光を減らす」状況に似る、という見方ができる。しかし、論文が扱ったのは水の膜であり、これは類推にすぎない。革の油でも同じことが起きると確かめられたわけではなく、「同じ理屈で説明されることが多い」と読むのが妥当である。
3. おなじ クリームでも、革が ちがうと こくなり方も ちがうの?
3. 手入れ剤によって、色の変わり方はちがうのか
3. 製品ごと・革ごとに、濃くなり方はどうちがうのか
クリームに よって、いろの こくなり方が ちがう、という はなしが あります。
ある あいこうかが、なんしゅるいかの 手入れざいを かさねぬりして ためした きろくが あります。「いろを かえない」と うたう ざいは かわらず、「くろくなりにくい」と うたう ざいも ふつうの ものと おなじくらい こくなりました。しょくぶつの あぶらも こくなりました[5]。
ただし これは ひとりの ためしで、あつく ぬった ばあいの はなしです。だれにでも あてはまる けっかでは ありません。
また、ヌメ革という、しあげを していない 革は、みずや あぶらを すいこみやすいので、ヌメ革せんようの ものを つかいます[3]。
手入れ剤によって、色の濃くなり方がちがうという話があります。革細工の愛好者が集まるフォーラムに、何種類かの手入れ剤を重ね塗りして比べた投稿がありました。それによると、「色を変えない」とうたう製品は実際に変わらなかった一方、「暗くならない」とうたう別の製品は、ふつうの製品と同じくらい暗くなり、植物油も暗くなったそうです[5]。
ただし、これは個人の非公式な実験で、塗り重ねた厚塗りの条件です。製品や革の種類が変われば結果も変わるはずなので、一例として読むのが安全です。
もう一つ、革の種類も効いてきます。植物タンニンでなめして、表面を仕上げていない「ヌメ革」は、水や油を吸いやすい革です。そのため、シミにならないように調整したヌメ革専用の手入れ剤を使うのがよいとされています[3]。吸いやすさが、色の濃くなり方にも関わりそうです。
手入れ剤だけでなく、革そのものにも色が変わる理由があります。次の章で見てみましょう。
手入れ剤ごとに濃くなり方がちがうことを示す例として、愛好者のフォーラムに、何種類かの手入れ剤を重ね塗りした比較の投稿がある。「色を変えない」とうたう製品は変化がなかったが、「非暗色化」とうたう製品も、通常品と同程度に暗くなった。植物油も暗くなった[5]。
ただし、これは非公式な個人の実験であり、厚塗りの条件である。査読された研究ではない。したがって、「この製品なら暗くならない」と一般化するのは避け、「一例では、成分や宣伝文句と、実際の色の変化は一致しないことがあった」と読むにとどめる。
革の側の条件も、結果を左右するはずである。植物タンニンなめしで、仕上げをしていないヌメ革は、水やオイルを吸いやすい。手入れでは、手入れ剤がシミにならないよう、しみこみを調節したヌメ革専用のものを使う[3]。革の吸収性と手入れ剤の相性が、仕上がりの色に関わると考えられる。
手入れ剤と革の組み合わせだけが色を決めるのではない。革には、油とは別に、自分で色を変えていく性質がある。
4. 革の いろは、あぶらの ほかにも かわるの?
4. 革の色は、油のほかに何で変わるのか
4. タンニン革の色を動かす、日焼け・pH・汚れ・鉄
ヌメ革を ずっと つかうと、うすい ちゃいろが、あめいろに かわって いきます。ひに あたる ことでも、いろが かわります。紫外線という 目に 見えない 光が あたるからです[3]。
よく さわる もちてが くろずむ ことも あります。その わけは、いろいろ かさなって います。さんせいか アルカリせいかも かかわり、そこに ひやけと よごれが かさなると いわれます[3]。
革を なめす ときに つかう くすりにも、いろが あります。クロムなら あおっぽく、しょくぶつの タンニンなら ちゃいろです[3]。
だから、革の いろは、あぶらの せいだけでは ありません。じかんを かけて いろが かわる のも、革の おもしろい ところです。
ヌメ革を長く使っていると、薄い茶色から飴色に変わっていきます。日本皮革産業連合会の担当者の解説によると、これは植物タンニンそのものが紫外線などで変色するためで、植物タンニンなめし革の特徴です[3]。
色は、革の酸性・アルカリ性(pH)でも変わります。酸性側では黄みに、アルカリ側では赤みになり、ヌメ革のpHは通常4〜5だそうです[3]。よく触る持ち手が黒ずむのは、pHが上がって赤みが増し、そこへ日焼けと汚れが重なるためだと説明されています[3]。鉄が付くと、タンニン革は黒く変色するとも書かれています[3]。
革の色は、そもそも染料や顔料だけで決まるわけではありません。なめし剤にも色があり、クロムなら青色、植物タンニンなら茶色になります[3]。
こうして見ると、手入れ剤で濃くなった色と、年月で変わった色は、原因が別です。ただし、この資料には「油で飴色になる」とは書かれていません。油がタンニンや染料とどう関わるかは、資料がないので、ここでは決めつけません。
手入れ剤による濃色化とは別に、タンニン革の色は、使用による変化でも動く。植物タンニン自体が紫外線などで変色し、薄茶色から飴色になる。これは植物タンニンなめし革の特徴である[3]。
pHも色に関わる。酸性側で黄み、アルカリ側で赤みを帯び、ヌメ革のpHは通常4〜5である。持ち手の黒ずみは、pHが上がって赤みが出たところへ、日焼けと汚れが重なったものと解説される。鉄分が付くと、タンニン革は黒く変色する[3]。
また、革の色は染料や顔料のみで決まらない。なめし剤自体に色があり、クロムなめしでは青、植物タンニンなめしでは茶色になる[3]。色つきのクリームは色の成分を足すと考えられる。
整理すると、手入れ剤の直後に起きる変化は、油が繊維の間に入ることによる光の効果として語られる。一方、使用中に少しずつ起きる変化は、日焼け・pH・汚れ・鉄の付着など、使用の履歴によるものである。この区別が、色の変化を読むときの手がかりになる。
油とタンニンが化学反応を起こして色を変える可能性もあるが、ここでは断定できない。
5. ざらざらと つるつる、ぬらすと どちらが こくなる?
5. 粗い面と、なめらかな面を濡らして比べる
5. 粗さの条件を、家の紙で確かめる
まず、おうちで あんぜんに ためせる ことを ひとつ しょうかいします。みずを つかう だけです。
ざらざらした しろい かみ(ふうとうの うらや、がようしなど)と、つるつるした かみ(ひかる カレンダーの かみなど)を よういします。つめで かるく さわって、ざらざらか つるつるか たしかめます。
ゆびに みずを ちょっと つけて、かみに ぬります。ひかりの 入る ところで、ぬった ところと ぬらして いない ところを くらべます。かわいたら どうなるかも 見ましょう。
せつめいの とおりなら、ざらざらの かみは ぬれた ところが くらく なりやすいと かんがえられます。つるつるの かみは、あまり かわらない はずです[1]。ただし、かみが みずを すうので、ちがう けっかに なる ことも あります。
家にある紙で、粗い面となめらかな面を比べてみましょう。ざらざらした紙(封筒の裏、表面に凹凸のある画用紙など)と、つるつるした紙(光沢のあるチラシやカレンダー)を用意します。
指先に水を少しつけて、それぞれの紙に細く塗ります。窓の近くなど、明るいところで、濡れた部分と乾いた部分を見比べます。乾いていくあいだ、色がどう戻るかも見ておきます。
論文の説明どおりなら、ざらざらした紙は濡れたところが暗くなり、つるつるした紙は光の反射で見え方が変わるだけで、暗さの差は小さいはずです[1]。ただし、紙は染みこみやすい材料なので、紙の中に水がしみこむことの影響も混ざります。論文の条件とぴったり同じ実験にはなりません。
革製品を持っていれば、目立たない場所に、手入れ剤を少しだけ塗って、前後の色を見比べる使い方もあります。ただし、ヌメ革などはシミになりやすいので、必ず専用の製品を、目立たない場所で試します[3]。
原典に当たりたい場合は、Lekner と Dorf の論文(Applied Optics, 1988)が出発点になります。式の部分が難しければ、図と導入だけでも、濡れると暗くなる理由の見取り図が分かります。革の取り扱いは、日本皮革産業連合会の担当者による解説が、東京都の公開資料に載っています[3]。
粗さの条件を、家の紙で確かめてみよう。ざらざらした紙(封筒の裏、画用紙)と、つるつるした紙(光沢のあるチラシ)に、指先で水を細く塗り、濡れた部分と乾いた部分の明るさを見比べる。論文の説明どおりなら、粗い面は暗くなり、なめらかな面は鏡のように反射するだけで差が小さい[1]。ただし、紙は水を吸うので、水のしみこみによる色の変化が混ざる。論文が想定した「粗い面の上に液膜がある」条件とは完全には同じでない点に注意する。
革を持っている場合は、目立たない場所で、少量の手入れ剤を塗って前後を比べる。ヌメ革は水や油を吸いやすいので、専用の手入れ剤を使う[3]。使う手入れ剤や革で結果は変わるため、一例として受け取る。
より進んだ確かめとして、次の問いが残っている。油の屈折率は、水と比べて光の戻り方をどう変えるのか。革の繊維の間に入った油は、乾いた革と比べて、実際どれだけ光の吸収を増やすのか。革を直接扱った研究を探す余地がある。原典としては、Lekner と Dorf の論文(Applied Optics, 1988)と、日本皮革産業連合会の担当者による「皮革の取扱いの基本」が出発点になる[1][3]。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
液膜の光学は論文、革の手入れと変色は日本皮革産業連合会の担当者による解説、製品ごとのちがいは愛好者の非公式な投稿を使いました。
- Lekner, J. & Dorf, M. C., Why some things are darker when wet, Applied Optics 27 (1988) https://www.wgtn.ac.nz/scps/staff/pdf/darkerwhenwet.pdf (濡れると暗くなる光の説明、なめらかな面では効かないこと)
- GIGAZINE「濡れると暗く見える理由」(2020年)http://gigazine.net/news/20200114-some-things-darker-when-wet/ (観察者に戻る光が減るという日本語の解説)
- 日本皮革産業連合会 今井哲夫「皮革の取扱いの基本(2)」(東京都 公開資料)https://www.hikaku.metro.tokyo.lg.jp/Portals/0/images/shisho/shien/public_2/150_4.pdf (クリームの成分、油分の役割、ヌメ革の変色、pH、なめし剤の色)
- 川村通商 鍛治雅信「かわのはなし」15.加脂(東京都 公開資料)https://www.hikaku.metro.tokyo.lg.jp/Portals/0/images/shisho/shien/public/194_4.pdf (加脂と油を水に細かく分ける方法)
- leatherworker.net 愛好者のフォーラム投稿(非公式の実験)https://leatherworker.net/forum/topic/24515-testing-the-darkening-effects-of-leather-conditioners (手入れ剤による暗さのちがいの一例)
なおした ところ
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