1. ふでばこの ペンは、なにが ちがうの?
1. 同じ「線」なのに、紙とガラスでは違う
1. 紙とガラスで違う結果 ── 問いの出発点
ノートに ゆせいペンで なまえを かいて、まちがえて こまった ことは ありませんか。かみに かいた せんは、けしゴムでも なかなか きえません。
でも、プラスチックの ふたに かいた せんは、こすると うすく なる ことが あります。おなじ ペンなのに、どうして でしょう。まず、ペンの なかみから 見て みましょう。
ノートの隅に油性ペンで名前を書くと、消しゴムを使っても、なかなか消えません。ところが、プラスチックの容器やガラスに書いた線は、こすったり拭いたりすると、薄くなることがあります。
同じペンなのに、書く相手が変わると結果が変わる。その手がかりは、インキの中身と、素材の表面のようすにありそうです。まず、インキの中身から見ていきます。
油性ペンで紙に書いた線は、消しゴムを使っても消えにくい。一方、プラスチックの容器やガラスに書いた線は、こすると薄くなったり、溶剤を含ませた布で拭くと落ちたりする。この差は、インキの側の性質と、素材の表面の性質の組み合わせで説明できそうだ。
油性ペンの線が水に流れにくい理由を考えるには、まずインキに何が入っているかを見る。
2. みずに ぬれても、どうして ながれないの?
2. 水にぬれても、流れにくいのはなぜか
2. 水に流れる水性、流れにくい油性 ── 色材と溶剤の違い
みずせいペンで かいた もじに みずを こぼすと、いろが にじんで ながれて しまいます。ゆせいペンは、ほとんど にじみません。
ゆせいペンの インクは、「ようざい」という、すぐに かわく えきに、いろと のりのような ざいりょうを とかして あります[1]。ようざいが かわいて とんだあとは、いろと のりのような ものが のこります。
この いろと のりは、みずに とけにくい ざいりょうです。だから みずでは ながれにくいのだと 考えられます。
水性ペンで書いた文字に水をこぼすと、色がにじんで流れます。水性染料インキは、水に湿潤剤などを加えた液に、水に溶ける染料を溶かしたもので、ほとんどのペンは耐水性がなく、水に流れやすいと説明されています[1]。
これに対して油性染料インキは、有機溶剤に、油に溶ける染料と樹脂を溶かした、速乾性のインキです。溶剤にはアルコール系などが使われます[1]。溶剤が乾いて飛ぶと、水に溶けにくい色と樹脂が残ります。
資料は「水に溶けないから耐水性がある」とまで書いていません。ただ、材料の表と耐水性の記述を並べると、そう考えるのが自然です。
水性染料インキは、水に湿潤剤などを加えた水溶液に水溶性染料を溶かしたもので、多くは耐水性がなく水に流れやすい欠点がある[1]。これに対して油性染料インキは、有機溶剤に油溶性染料と樹脂を溶かした速乾性のインキで、耐水性を特長とする。溶剤には芳香族系・アルコール系・脂肪族系が使われる[1]。
では、なぜ水をかけても流れないのか。溶剤が揮発すると、水に溶けにくい油溶性の色材と樹脂が残る。材料表と耐水性の記述を合わせると、この因果が最も素直な読みになる。ただし、資料はそこまで明言していないため、ここでは推論として扱う。
同じ寺西化学工業の資料は、油性染料インキが紙・プラスチック・金属・木材・ガラス・布・革・陶器など多くの素材に書けるとする[1]。書ける素材が広いのに、落ちやすさが素材で大きく変わる。次の章では、その差がどこから来るのかを考える。
3. かみに かくと、どうして おちにくいの?
3. 紙の上では、なぜ落ちにくいのか
3. 紙への浸透 ── 時間がたつほど落ちにくくなる理由
かみを よく 見ると、ちいさな すきまが たくさん あります。ゆせいペンの インクは、その すきまに はいりこむ と せつめいされて います。
ペンの あぶらの ぶぶんが、いろを すきまの おくまで はこぶ そうです[2]。のりのような ざいりょうが かわくと、ぴったり くっつきます。
しかも、じかんが たつほど おちにくく なると いわれます[3]。かいた ばかりなら、まだ おとせる ことも あります。
紙は、拡大して見ると、繊維のあいだに細かいすき間がたくさんあります。暮らしの情報を扱うサイトでは、油性ペンのインクは油分・染料・樹脂でできていて、油分が染料を素材のすき間まで運び、樹脂が乾くにつれて密着を高める、と説明されています[2]。
別の育児情報サイトでも、時間がたつほど素材にしみ込んで落としにくくなる、と書かれています[3]。
紙のように繊維のすき間が多い素材では、なぜ線が落ちにくいのか。ある生活情報サイトは、油性ペンのインクを油分・染料・樹脂の組み合わせと説明する。油分が染料を素材のすき間まで運び、樹脂が乾燥とともに密着を高めるという[2]。
この説明は、時間の効果とも合う。別の育児情報サイトは、油性ペンの染料は時間がたつと素材にしみ込むため、時間がたつほど落としにくくなるとする[3]。紙の中に入りこんだ色を、表面から拭いても取り出せない。だから落としにくい、という道すじになる。
ただし、これらは民間の解説であり、メーカー資料が同じ機構を直接述べているわけではない。「しみ込む」という説明は、この記事では有力な説明として扱い、確定した事実とはしない。
4. つるつるの ものでは、どう なるの?
4. つるつるの面では、どう違うのか
4. すき間の少ない面 ── 落とし方と注意点
ガラスや、ひょうめんが つるつるの プラスチックでは、インクが おくに はいりにくい ことが あります。うえに のって いるだけだと 考えられます。
そのため、ゆせいペンの せんを、けしゴムで こすると うすく なる ことが あります[3]。がんこな よごれには、おとなが アルコールなどを つかう やりかたも しょうかいされて います。
でも、ふくや かみ、きは おとすのが むずかしいと いわれます。じぶんで ためさず、おとなに そうだんしましょう。
ガラスや、表面が滑らかなプラスチックでは、紙のようなすき間が少なく、インクが内部に入りにくいことがあります。そのため、インクは表面に乗っているだけになる、と考えられます。
落とし方の案内では、プラスチックやガラスは消しゴムでこすり、頑固な汚れには、消毒用エタノールや除光液を布につけて拭く方法が紹介されています。一方で、布・木・革・紙は落とすのが難しいとされます[3]。
溶剤で拭く方法は、素材を変色させたり、傷めたりするおそれがあり、換気や火気にも注意が必要です。実際に試すときは、大人といっしょに、目立たない場所から始めてください。
ガラスや、表面が滑らかなプラスチックでは、インキが内部に入りにくく、表面に乗る形になることがあると考えられる。この見方が正しければ、表面のインキだけを取り除けば線は消えるはずだ。実際、落とし方の案内では、プラスチックやガラスは消しゴムでこすり、頑固な汚れは消毒用エタノールや除光液を布につけて拭く方法が紹介される。布・木・革・紙は落とすのが難しいともされる[3]。
ただし、この案内も民間の育児情報サイトのもので、「表面に乗るだけ」という説明を直接述べているわけではない。素材によっては、溶剤で変色したり、溶けたりすることもある。エタノールや除光液は引火性があるため、換気と火気に注意し、大人が目立たない場所で試すのが前提になる。
ここまでで、「しみ込むか、乗るだけか」が落ちやすさを分けるという見取り図ができた。では、この性質を逆に利用して、つるつるの面でだけ消えるペンを設計できないだろうか。
5. きえないはずの ペンを、きえるように できるの?
5. 消えにくいはずのインキを、わざと消せるようにする
5. 「はがす材料」を混ぜる ── ホワイトボードマーカーと水拭きマッキー
ホワイトボードの ペンも、ふつうは ゆせいの インクです。でも、かいた せんを ふくと きえます。インクの なかに、「はがす ざいりょう」を いれて あるからです[1]。
「みずで ふくと きえる」マッキーは、みずに とける のりを まぜて いると しょうかいされて います[4]。みずで ふくと、のりが とけて、いろが はがれる しくみだと しょうかいされて います。
この マッキーは、プラスチックや ガラスなど、つるつるの めんで きえます。でも、インクが しみこむ かみや ぬのでは、みずで ふいても きえません。
寺西化学工業の資料では、ホワイトボードマーカーは油性インキの一種で、有機溶剤・顔料・樹脂に「剥離剤」を加え、書いた線を拭き消せるようにしています[1]。普通の油性マーカーとの違いは、はがすための材料が入っているかどうかです。
「水拭きで消せるマッキー」は、インキに混ぜた水糊が、水拭きで溶けて色材がはがれる仕組みだと紹介されています[4]。プラスチック・ガラス・金属などのつるつるの面では消せますが、インクがしみ込む紙や布では、水拭きでも消せません[4]。
この製品は、2014年7月の展示会で紹介され、第23回日本文具大賞の優秀賞を受けたと報じられました。つるつるの紙にも書けて、手で触れてもインクは落ちないとされます[5]。
ある高校の課題研究では、紙にホワイトボードのペンで書いて試したところ、表面を光沢仕上げで滑らかにしたストーンペーパーでは消え、わら半紙とコピー用紙では消えませんでした[6]。これは高校生の実験の一例で、光沢仕上げをしたストーンペーパーで消えた、という範囲の結果です。
もし、しみ込まない面でだけ消えるペンを作るなら、どうすればよいか。ホワイトボードマーカーは、その答えの一つになっている。寺西化学工業の資料では、油性インキの一種で、有機溶剤・顔料・樹脂に剥離剤を加え、書いた線を拭き消せるようにしている。溶剤は主にアルコール系だ[1]。油性マーカーとの違いは、はがすための材料が入っているかどうかにある。
「水拭きで消せるマッキー」は、別の道を選んだ。インキに水糊を混ぜ、水で拭くと糊が溶けて色材がはがれる、と紹介されている[4]。つるつるの面では消せるが、インクがしみ込む紙や布では水拭きでも消せない[4]。これは、これまで見てきた「しみ込むか、乗るだけか」の差を、製品の使い分けとして示す例といえる。展示は2014年7月の国際文具・紙製品展で、第23回日本文具大賞の優秀賞を受けた。つるつるの紙にも書け、手で触れてもインクは落ちないとされる[5]。ただし、この水糊の仕組みは報道記事で紹介されているものだ。
「表面が滑らかな紙では消しやすい」という見方を試した例もある。兵庫県立加古川東高校の課題研究(平成29年度)では、ホワイトボードのインクを紙に書いて消せるかを調べ、表面を光沢仕上げで滑らかにしたストーンペーパーではイレーザーで消え、わら半紙とコピー用紙では消えなかった[6]。高校生の実験の一例で、結果はこの範囲に限られる。
6. マジックは、いつ できたの? ペンの いろは なにで できて いるの?
6. 油性ペンの色は何でできているのか ── 染料と顔料
6. 染料と顔料 ── マジックインキの登場と、油性インキの二つのタイプ
にほんで はじめての ゆせいペンは、1953ねんに できた「マジックインキ」です。てらにしかがくこうぎょうと、うちだようこうが いっしょに つくりました[1]。
ゆせいの ペンには、いろの もとが ちがう ものが あります。ふつうの ものは「せんりょう」、そとで つかう ペンには「がんりょう」が つかわれる ことも あります[7]。
いろの もとが ちがうと、あめや ひかりに つよかったり、しろや きんの いろが だせたり します。
日本のマーキングペンの歴史は、1953年(昭和28年)に、寺西化学工業と内田洋行が共同で開発・発売した、速乾性の油性マーキングペン「マジックインキ」に始まります[1]。
油性インキの色材には、染料のほかに顔料もあります。油性顔料インキは、染料の代わりに顔料を使った不透明の速乾性インキで、水に溶けず、耐光性に優れ、プラスチック・金属・ガラス・陶器や屋外の標識に向くとされます。白・金・銀のように、染料では作れない色もあります[1]。
たとえば、サクラクレパスの油性マーカー「ペイントマーカープロ」は、顔料ベースで、金属・ガラス・プラスチック・ゴム・石・木材に書け、耐水・耐光性が高いと紹介されています。蛍光色は染料です[7]。ゼブラのハイマッキーも、紙・布・木・段ボール・ガラス・プラスチック・金属・ビニール類に書けますが、柔らかいビニール製品は対象外です[8]。「何にでも書ける」わけではありません。
ここまで見てきたインキの性質は、いつ、どこで生まれたのか。寺西化学工業の資料によれば、日本のマーキングペンの歴史は、1953年(昭和28年)に同社と内田洋行が共同で開発・発売した速乾性の油性マーキングペン「マジックインキ」に始まる[1]。「マジック」「マジックインキ」は内田洋行の登録商標なので、一般には油性マーカーと呼ぶ。
油性インキには、色材の違いで二つのタイプがある。油性染料インキは、色材が溶剤に溶けているタイプだ。油性顔料インキは、染料の代わりに顔料を使った不透明の速乾性インキで、水に溶けず、耐光性に優れ、プラスチック・金属・ガラス・陶器や屋外の標識に向くとされる。白・金・銀のように染料では作れない色も出せる[1]。
製品でも、この違いが表れている。サクラクレパスのペイントマーカープロは顔料ベースで、蛍光色は染料とされ、金属・ガラス・プラスチック・ゴム・石・木材に書け、耐水・耐光性が高い[7]。ゼブラのハイマッキーは油性染料インキで、紙・布・木・段ボール・ガラス・プラスチック・金属・ビニール類に書けるが、柔らかいビニール製品は対象外とされる[8]。「何にでも書ける」ではなく、書ける素材にも限りがある。
なお、染料は紙の奥へ、顔料は表面にとどまる、という一般的な説明もあるが、本文での断定は避ける。ここでは、インキの種類と素材の相性が製品ごとに違う、という点にとどめる。
自分でも しらべて みたく なったら
自分でも調べてみたくなったら
自分でも調べてみたくなったら
今日できること
プラスチックの、すてても よい あきようきの ふたに、ゆせいペンと みずせいペンで、せんを かいて みましょう。かいた あとは、ぬらした ゆびで こすって みます。つぎに、かわいた ぬので こすります。かみに かいた せんとも くらべて みます。ゆせいペンは、つくえや ふくに つかないよう、しんぶんしの うえで つかいます。
出かけてできること
ぶんぼうぐの おみせで、ゆせいペンと ホワイトボード用の ペンの ラベルを、おうちの ひとと 見て みましょう。「かける ざいりょう」が かいて あります。
こうしきの じょうほう
ペンの メーカーの ホームページにも、ヒントが あります。
今日できること
プラスチック製で、捨ててよい空き容器のふたに、油性ペンと水性ペンで線を書き、湿らせた指、乾いた布、消しゴムの順にこすって、落ち方を比べてみます。紙に書いた線とも比べます。油性ペンは、新聞紙の上で使います。
出かけてできること
文房具店で、油性ペンやホワイトボード用ペンの裏や説明書きを見て、「書ける素材」の書き方を比べてみます。
公式情報
ペンのメーカーの製品ページや、筆記具の種類を説明した資料が参考になります。
今日できること
傷がついてもよい、プラスチック製で捨ててよい空き容器のふたに、油性ペンと水性ペンで線を書き、湿らせた指、乾いた布、消しゴムの順にこすって、落ち方を比べる。紙に書いた線とも比べ、素材ごとの差を記録する。油性ペンは新聞紙の上で使い、換気に気をつける。
出かけてできること
文房具店で、複数のメーカーの油性ペンとホワイトボード用ペンの、書ける素材・耐水性・「消せる」かどうかの表記を比べる。
公式情報
各メーカーの製品ページと、寺西化学工業の「マーキングペンの種類」の資料が、インキの種類を整理している。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
インキの種類・材料と、日本での歴史は寺西化学工業の資料による。しみ込みや落とし方の説明は、民間の解説記事による。水拭きで消せるマッキーの仕組みは報道記事の紹介で、メーカー公式の仕組み説明は未確認。
- 寺西化学工業「マーキングペンの種類」 https://www.guitar-mg.co.jp/_files/ugd/71bd54_7d28ce9c99b44bb5bb893af4302dd9c8.pdf (インキの種類・材料、1953年の歴史、剥離剤)
- 暮らしのアシスト「油性ペンの落とし方」 https://lifestyle.assist-all.co.jp/?p=15825 (しみ込みと密着の説明)
- HugKum「油性ペンの落とし方」 https://hugkum.sho.jp/207990 (時間による落ちにくさ、落とし方の案内)
- BCNRetail「水拭きで消せるマッキー」 https://www.bcnretail.com/market/detail/20201129_201674.html (水糊の仕組みと、紙・布では消せないこと)
- 週刊アスキー 2014年7月10日記事 https://weekly.ascii.jp/elem/000/002/624/2624299/ (展示と受賞)
- 兵庫県立加古川東高校 課題研究ポスター「紙のホワイトボード化」 https://www.hyogo-c.ed.jp/~kakohigashi-hs/pdf/h29/kadai/71-4-HP.pdf (紙での消え方の実験)
- サクラクレパス ペイントマーカープロ用細字 https://www.craypas.co.jp/products/signpen-marker/009/0017/263355.html (顔料ベースの油性マーカー)
- ゼブラ ハイマッキー 製品ページ https://www.zebra.co.jp/pro/mackee/ (書ける素材と対象外)
なおした ところ
更新履歴
更新履歴(改版の記録)
- 初版を公開。
このサイトでは、公開した記事の本文は原則として書き直しません。誤りが見つかったときや、内容が古くなったときだけ手を入れ、その理由をこの欄に残します。