1. ひるに とぶと、なぜ たかい 空へ いくの?
1. 夜の鳥が昼に飛ぶと、夜の2倍以上の高さへ上がる
1. 夜行性の渡りをする小鳥が、日中だけ高度を倍以上に上げる
スウェーデンの けんきゅうで、オオヨシキリと いう 小さな とりに きろくきを つけて、わたりの ようすを しらべました[1]。この とりは ふつう、よるに とびます。
ところが ときどき、よるを とおして とび、あさに なっても おりずに とびつづける ことが あります。そのとき とりは、よるの 2ばい いじょうの たかさまで のぼりました。いちばん たかい ときは 6300メートルです[1]。
5400メートルあたりの 気おんは、マイナス 9どぐらい。よるに とんでいた たかさより 22ど ひくい のです[1]。けんきゅうした 人たちは、「ひるの おひさまで あつく なりすぎるのを さけて、つめたい 空気の ところへ いくのかも しれない」と かんがえて います[1]。
では、とりの からだは、そんなに あつく なるのでしょうか。
スウェーデンのルンド大学の研究者たちは、オオヨシキリという小鳥に小さな記録計をつけ、渡りの高さを調べました[1]。この鳥はふつう、夜に飛んで昼は休みます。
ところが、ときどき夜を通して飛び続け、朝になっても降りないことがあります。そういうとき、鳥は夜の2倍以上の高さまで上がり、いちばん高いときには6300mに達しました[1]。高度5400mあたりの気温はおよそマイナス9度で、夜に飛んでいた高さより22度も低い空気です[1]。
研究者は、「昼は太陽の熱が加わるので、過熱を避けるために冷たい空気の層へ上がるのではないか」と考えています[1]。これは仮説で、決まった答えではありません。まず、鳥の体がそんなに熱くなるのかを見てみましょう。
2. とんでいる とりの からだは、どれくらい あつく なるの?
2. 羽ばたくほど熱が出て、汗では冷やせない
2. 羽ばたき飛行は熱を生み、鳥は汗で冷やせない
はしると からだが あつく なりますね。とりも はばたいて とぶと、からだの 中で ねつが たくさん できます。つかった エネルギーの 80〜96パーセントが、ねつに なると いわれて います[2]。
とりは 人の ように あせを かきません。そのかわり、くちを あけて はあはあ したり、のどを ふるわせたり して、いきの ときに みずを じょうはつさせ、ねつを にがす とりも います[2]。
でも、みずを つかうと、からだの みずが へって しまいます。さばくに すむ 小さな とりでは、気おんが あがると、からだから みずが にげる はやさが ぐんと ふえる ことが あると いわれます[3]。
だから、つめたい 空気の ところを とべば、ねつも みずも たすかる かもしれません。
鳥が羽ばたいて飛ぶとき、使ったエネルギーの80〜96%が熱になると見積もられています[2]。走ると体があたたまるのと同じで、長く飛ぶほど体の中で熱が生まれます。
鳥は人のように汗をかきません。種によっては、口を開けてあえいだり、のどを小刻みに震わせたりして、息に含まれる水分の蒸発で熱を逃がします[2]。ただし、これは体の水を使う方法です。
砂漠にすむ小鳥の調査では、気温が上がると、蒸発で失う水の量が大きく増えることがあるとされています[3]。渡り鳥の場合も、水の乏しい場所の上を何時間も飛ぶのですから、熱を水に頼らず逃がせるなら、それだけ有利です。実際、砂漠を渡る途中の調査地では、調べた渡り鳥が水を飲む姿はあまり見られませんでした[4]。
では、「昼のほうが熱い」という推測を、数字で確かめる方法はあるのでしょうか。
羽ばたき飛行では、代謝で使われたエネルギーの80〜96%が熱として放散されると見積もられている[2]。しかも鳥は汗腺で冷やすことができず、種によってはパンティングやのどの振動(ガラー・フラッタリング)で、気道からの蒸発により熱を逃がす[2]。
この方法は水を消費する。砂漠にすむ小鳥では、気温が上がると蒸発による水分の損失が大きく増えることがあるという報告がある[3]。この報告は砂漠にすむ鳥のものなので、渡りの最中の鳥にそのまま当てはまるとは限らない。ただ、砂漠の中継地では渡り鳥が水を飲む例が少なかったため[4]、水を使わずに熱を避けられる行動があれば有利になりうる、という筋道は立つ。
その行動の候補が、冷たい高空への上昇である。では、昼の鳥が実際に熱を受けている証拠はあるのか。
3. ほんとうに ひるは あつく なっているの?
3. 同じ高さで比べると、昼の記録計は5.9〜8.8度高かった
3. 同一高度で比較した記録計の温度差と、その解釈
けんきゅうした 人たちは、おなじ たかさで、ひると よるの きろくきの おんどを くらべました[5]。すると、ひるの ほうが オオヨシキリで 5.9〜8.8ど、オオジシギで 4.8〜5.4ど たかく なって いました[5]。
おなじ たかさなら、空気の おんどは あまり かわりません。ちがいは おひさまの ねつだ、と けんきゅうした 人たちは かんがえて います。これは、とりの からだではなく、とりに つけた きろくきの おんどです。それでも、ひるは おひさまの ねつが とりに とどいて いる、と いう つよい てがかりだ、と されて います[5]。
この 2しゅるいの とりは、どちらも ふだんは よるに とぶ なかまです。ひるに とぶと、よるより ずっと たかく とぶ のも、おなじでした[5]。
スウェーデンの研究チームは、同じ高さで飛んでいるときの、昼と夜の記録計の温度を比べました[5]。すると、昼のほうがオオヨシキリで5.9〜8.8度、オオジシギで4.8〜5.4度高いという結果でした[5]。
同じ高さなら、まわりの空気の温度は昼夜で大きく変わりません。それなのに記録計が熱くなっていたのは、太陽の熱を受けたからだろうと考えられます。研究チームはこの結果を、飛ぶ鳥の熱の出入りが太陽の放射に影響されていることの強い示唆としています[5]。計っているのは鳥の体温ではなく鳥につけた記録計の温度ですが、この温度差は、飛ぶ鳥の熱収支が日射の影響を受ける可能性を示唆します。
この2種はどちらも、ふだんは夜に渡る鳥です。昼に飛ぶと、夜よりずっと高く飛ぶという点も共通していました[5]。
では、同じことは別の鳥にも起きているのでしょうか。
Sjöbergらは、オオヨシキリとオオジシギについて、同じ高度で飛んでいる昼と夜の記録計の温度を比べた。その結果、昼のほうがオオヨシキリで5.9〜8.8度、オオジシギで4.8〜5.4度高かった[5]。高度が同じなら外気温はほぼ同じなので、この差は日射の加熱を反映すると解釈でき、研究チームも、飛行中の鳥の熱収支が太陽放射の影響を受けていることを強く示すと述べている[5]。
ここで注意したいのは、測られているのは鳥の体温ではなく記録計の温度であることだ。したがって「鳥の体がその分だけ熱くなった」とまでは言えない。ただ、昼に太陽の熱が余計に加わるという前提は、これで裏づけられる。
また、2種とも夜行性の渡りをし、昼に飛ぶと夜よりずっと高く飛ぶという共通点があった[5]。では、この傾向は他の鳥にも見られるのか。
4. ほかの とりも、たかい 空を とぶの?
4. 地形の壁がなくても高く飛ぶオグロシギと、夜に飛んで昼は日陰で休む鳥
4. オグロシギの高空飛行と、砂漠を渡る鳥の昼夜の使い分け
オグロシギと いう とりは、やまの ない ところでも、わたりの 5ぶんの 1ぐらい(21パーセント)で、5000メートルより たかく とびます。いちばん たかい ときは 6000メートルに ちかい のです[6]。
その りゆうは、ひくい 空が あつい ときに、あつさを さける ためと、たかい 空で おいかぜを うける ためと、かんけい している らしい、と かかれて います[6]。
さばくを わたる とりには、よるに とんで、ひるは じめんで やすむ なかまが おおく います。ながく とまらず、ひかげで みじかく やすむ とりも います[4]。
とりは、ひるの あつさを、たかさや じかんや ばしょを えらんで さけて いるのかも しれません。
オグロシギは、山などの障害がない場所を渡る鳥です。それでも、渡りの飛行の21%で高度5000mを超え、最高では6000m近くに達しました[6]。研究では、この高い飛行は、低い高度の高い気温と、高い空で受けられる追い風のどちらとも関係していました[6]。つまり、暑さを避けることと、風を利用することが、同時に関わっているようです。
砂漠を渡る鳥には、別のやり方もあります。夜に飛んで昼は地上で休む種が多く、長くとどまらず、日陰で短く休む種もいます[4]。
高さを変える、時間帯を変える、休む場所を選ぶ。鳥は、昼の暑さを避けるために、いくつもの手を使い分けているように見えます。ただし、それぞれの行動が暑さのためだけとは言い切れません。
5. まだ わかって いない ことは?
5. 14羽の記録からは、まだ言い切れない
5. 過熱回避の仮説が抱える限界
オオヨシキリの けんきゅうで しらべた とりは 14わ だけです。それに、ひるの ひこうは、2ばん いじょう つづけて とんだ ときだけの、めずらしい ばあいでした[7]。
あつさを さける ため、と いう かんがえの ほかに、てきから かくれる ためや、とおくまで 見わたす ためだ、と いう かんがえも あり、まだ きまって いません[7]。
だから この 記事の こたえは、「あつさを さけて いる のかも しれない」です。
ここまでの話には、限界があります。オオヨシキリの調査は14羽だけで、昼の飛行は、2晩以上続けて飛んだまれな場合に限られていました[7]。
説明の候補も過熱回避だけではありません。捕食者を避けるため、遠くまで見渡すため、といった考えも挙げられていて、どれが正しいかはまだ決まっていません[7]。記録計の温度が昼に高かったことは、過熱回避の仮説と合いますが、他の説明を否定するものではありません。
問いへの答えは、「暑さを避けている可能性があり、その方法として冷たい高空へ上がる鳥がいる。ただし理由の全部かどうかは分からない」というところです。
この仮説には限界がある。オオヨシキリの調査対象は14羽にとどまり、昼の飛行は2晩以上連続して飛んだまれな場合に限られる[7]。そのため、一般的な渡りの行動とみなすには早い。
説明の候補は過熱回避だけではない。捕食者を避ける、視界を広く確保する、といった考えも挙げられており、確定していない[7]。同じ高度で昼の記録計が高温だったという結果は、過熱回避と整合するが、他の説明を排除する証拠ではない。オグロシギでは追い風も関わっており、要因は一つとは限らない。
題名の問いに対する現時点の答えは、「冷たい高空へ上がる、時間帯を選ぶ、日陰で休む、といった行動が暑さを避ける手段になりうるが、高度の上昇の理由として過熱回避が主なのかは未確定」である。
6. ひなたと ひかげで くらべて みよう
6. 日なたと日かげで、手の感じ方を比べる
6. 原典の読み方と、身近でできる比較
はれた 日に、ひなたと ひかげで、てのひらを かざして みましょう。おなじ 空気でも、おひさまの あたる ところは あたたかく かんじます。ただし、ながい じかんは たたずに、すぐ ひかげに もどって ください。
とりの きろくきも、おなじ たかさで ひるの ほうが あつく なって いました。そらを とぶ とりの はなしが、すこし ちかく なりませんか。
晴れた日に、日なたと日かげで、手のひらを同じ時間だけかざしてみましょう。空気の温度はほとんど同じでも、日なたのほうがずっと熱く感じます。長くいると熱中症の危険があるので、短い時間で切り上げ、すぐ日かげに戻ってください。
この「同じ空気なのに差が出る」感覚が、昼と夜で同じ高さの記録計の温度が違った理由の、いちばん近い体験です。鳥の渡りの話を、空の高いところから、自分の手の感覚へ引き寄せてみてください。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
鳥の渡りの高度と暑さに関する研究の紹介・論文・データを使った。数値は、それぞれの資料の条件(種・羽数・昼夜)の範囲で読んでいる。
- ルンド大学(スウェーデン)「Migratory songbirds climb to extreme altitudes during daytime」 https://www.biology.lu.se/article/migratory-songbirds-climb-extreme-altitudes-during-daytime (オオヨシキリの昼夜の高度と気温)
- Frontiers in Physiology (2017) 10.3389/fphys.2017.00532 https://www.frontiersin.org/journals/physiology/articles/10.3389/fphys.2017.00532/full (羽ばたく飛行の発熱と、気道からの放熱)
- ニューメキシコ大学 「Extreme temperatures threaten desert songbirds with death by dehydration」 https://news.unm.edu/news/extreme-temperatures-threaten-desert-songbirds-with-death-by-dehydration (砂漠の小鳥の水分の損失)
- Frontiers in Ecology and Evolution (2021) 10.3389/fevo.2021.704676 https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fevo.2021.704676/full (砂漠の中継地での渡り鳥の休み方)
- Sjöberg et al. (2023) 関連データ(Mendeley Data) https://data.mendeley.com/datasets/k7m3gnswdj/1 (昼夜の記録計の温度の比較)
- High-altitude shorebird migration in the absence of topographical barriers (PMC6030528) https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6030528/ (オグロシギの高度と気温・風)
- ScienceDaily (2021) ルンド大学の発表の転載 https://www.sciencedaily.com/releases/2021/05/210507112018.htm (調査対象の数と他の説明の候補)
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