1. なまの たまねぎにも、あまい ものは はいって いるの?
1. 生のたまねぎにも、糖はたっぷり入っている
1. 生の段階で糖は十分にある ── 辛みが甘みを隠す
たまねぎの おもさの 9わりくらいは、みずです[1]。のこりの なかに、あまい ものが とけて います。ある ひんしゅを しらべた けんきゅうでは、みずを とった ぶぶんの 8わりほどが、さとうの なかまだったと ほうこくされて います[2]。
つまり、なまの ときから、あまい ものは ちゃんと あります。それなのに あまく かんじないのは、からさの もとが、あまさを かくして いるからだと せつめいされて います[4]。
たまねぎを きったり つぶしたり すると、なかに あった ふたつの ものが であって、なみだの でる ものや からさの もとが できます[4]。たとえば、あまい おかしに、からい ものを たくさん かけた ようすです。あまさは そこに あるのに、したには からさが さきに とどきます。
重さの約9割は水
日本食品標準成分表(八訂)増補2023によると、生のたまねぎ100gには、水分が90.1g、炭水化物が8.4g入っています[1]。重さの約9割が水で、糖はその水にうすく溶けているわけです。炭水化物には食物繊維1.5gなども含まれるので、8.4gのすべてが糖というわけではありません。
ある品種を分析した研究では、乾かした重さの約8割が、糖やフルクタン(果糖がつながった長い糖)などの炭水化物でした。糖のなかでは、ブドウ糖がいちばん多く、ほかに果糖とショ糖が含まれていました[2]。この数字は、乾かした重さあたりで、品種や玉の大きさによっても変わります。
辛みが、甘みを感じにくくする
糖がたくさんあるのに、生で甘く感じないのはなぜでしょうか。たまねぎは切ったりつぶしたりすると、アミノ酸の仲間と酵素が出会って、涙の出る成分や辛みの成分ができます。ハウス食品グループは、この辛み成分が甘みを隠していると説明しています[4]。
研究論文の抜粋でも、辛みの強い生のたまねぎでは、硫黄を含む香りの成分の影響が大きくて、糖が感じとりにくいとされています[3]。甘いたまねぎかどうかは、辛みの強さと糖の量のバランスで決まる、という見方です。
日本食品標準成分表(八訂)増補2023では、生のたまねぎ(りん茎)は可食部100gあたり水分90.1g、炭水化物8.4gである[1]。炭水化物には食物繊維1.5gなども含まれるから、糖の量はこれより少ない。それでも、水以外の部分の大半が炭水化物だということは、糖が決して少ない野菜ではないことを意味する。
ある品種の分析では、乾物の約8割が非構造性炭水化物で、全糖は乾物100gあたり約61〜62gだった。最も多い糖はブドウ糖(約28g)で、果糖、ショ糖、フルクタンが続く[2]。ただし乾物あたりの値であって、生の重さあたりではない。品種や玉の大きさで構成も変わるため、これを一般の値として扱うことはできない。
では、これだけ糖があるのに、生で甘く感じにくいのはなぜか。切断や破砕でアミノ酸系の前駆物質と酵素が出会い、催涙成分や辛み成分ができる[4]。ハウス食品グループはこの辛み成分が甘みを隠していると説明しており、Crowtherらの論文の抜粋にも、辛い品種では硫黄系の香気成分の影響が大きく、糖が検出しにくいという趣旨の記述がある[3]。糖の量と辛みの強さのバランスで感じ方が決まる、という整理である。ただし後者の2点は、原典の本文ではなく要約・抜粋で確かめた内容であり、細部までは言い切れない。
2. いためはじめに、フライパンの なかで なにが おきて いるの?
2. 炒めはじめの数分、フライパンの中で水が抜けている
2. 水分が抜けると、同じ重さあたりの糖は濃くなる
いためはじめの たまねぎは、まだ いろが かわりません。ただ、フライパンからは ゆげが あがります。みずが ぬけて いるのです。
みずが ぬけると、たまねぎは ちいさく なります。みずの おもさが へった ぶんだけ、あまい ものは おなじ おもさの なかに ぎゅっと あつまります[7]。
たとえば、100グラムの たまねぎから みずが 60グラム ぬけたと します。のこりは 40グラムです。あまい ものの おもさが かわらないと すると、おなじ おもさを たべるなら、2ばいはんくらい こく なる けいさんです。じっさいは、ひかげんと じかんで かわります。
色づく前の、水が抜ける時間
炒めはじめのしばらく、たまねぎはほとんど色づきません。調理の解説では、褐色になる反応が本格的に進む前に、水の大部分が蒸気になって鍋から出ていく必要があるとされています[7]。たまねぎが約9割も水だからこその、最初の段階です。
単純な計算でたしかめる
水分90.1g、炭水化物8.4gの100gのたまねぎから、水が60gだけ抜けたとします。残りは約40gです。炭水化物の重さが変わらないとすれば、40gのうち8.4gですから約21%になり、もとの8.4%の約2.5倍です。これは仮定にもとづく単純計算で、実際は火加減や時間で変わります。
炒めると甘くなる理由の一つめは、糖が新しくできたからではなく、水が減って、同じ重さのなかの糖の割合が上がったから、と考えられます[7]。同じ重さを食べるなら、口に入る糖の量が多くなる、という見方です。
炒め始めの数分は、色づきが進まない。解説の記述によれば、褐変反応が実質的に進むためには、水の大部分が蒸気として鍋から抜ける必要がある[7]。そのため、約9割が水というたまねぎでは、前半は水が抜ける段階、色づきは後半の段階として分けて考えられる。
ここで一つ計算してみる。100gのたまねぎ(水分90.1g、炭水化物8.4g)から水が60g抜けたとすると、残る約40gのなかの炭水化物は8.4gのままで、約21%になる。もとの8.4%の約2.5倍だ。この計算は、炭水化物の重さが変化しないと仮定した単純な例で、実際の濃縮の度合いは火加減や時間で変わり、「何倍になる」とは言えない[7]。それでも、糖が増えなくても、口に入る糖が増えたのと同じ効果が生じうることは分かる。
では、水が抜けたあとの鍋の中では、何が起きているのか。色づきと香りの段階に移る。
3. きいろから あめいろに なるとき、なにが おきて いるの?
3. 飴色の正体は、糖の変化と香りの変化
3. 炒めたたまねぎの色と香りは、どうできるか ── カラメル化・メイラード反応・加熱香気
みずが ぬけると、たまねぎは だんだん きいろ、ちゃいろに なって いきます。さとうを あつくして ちゃいろく する はたらきを、カラメルかと いいます[6]。
もうひとつ、さとうと、たまねぎに ある アミノさんと いう ものが いっしょに はたらいて、いろと かおりを つくる はたらきも あります。たまねぎには どちらも あるので、ならんで すすむと せつめいされて います[6]。
やいた たまねぎの かおりを しらべた けんきゅうでは、あまい かおりの ものが たくさん みつかりました。さとうが ねつで かわった ものが、あまい かおりに かんけい して いるらしい、と かいて あります[5]。
「からさが さとうに かわる」と いう はなしを みかけますが、この けんきゅうで わかったのは、からさの なかまが、べつの いおうの なかまに かわると いう ことです[5]。
二つの反応が並んで進む
糖だけを熱して褐色になるのがカラメル化、糖とアミノ酸が反応して色と香りができるのがメイラード反応です。たまねぎは糖もアミノ酸ももつので、二つが並んで進むと説明されます[6]。「飴色はカラメル化だけ」というわけではなく、どちらがどれだけ働くかは条件で変わります。
カラメル化が始まる温度は、糖の種類によって違うといわれます。たまねぎでは、ブドウ糖がいちばん多く、果糖やショ糖も含まれています[2]。糖そのものを熱したときの目安と、たまねぎの中で実際に起きることは同じではないので、フライパンの上では火加減や時間で進み方が変わります。
甘い香りは、糖が熱で変わってできる
時友裕紀子さんは、ゆで・焼き・電子レンジで加熱したたまねぎの香りを分析しました。辛みの成分の仲間は、硫黄を含む別の成分(二硫化物や三硫化物)に変わり、糖が熱で分解してできる物質が甘い香りに関わっているらしい、と報告されています。焼いたたまねぎでは、甘い香りのフルフラールなどのフラン類が主な成分でした[5]。
「辛み成分が加熱で糖に変わる」という説明を目にすることがありますが、この研究が示したのは、辛み成分が別の硫黄の成分に変わることです。辛みが甘みそのものに変わる、という話ではありません。
色づきの段階で何が起きているかは、二つの反応で説明される。糖だけが加熱されて褐色になるのがカラメル化、糖とアミノ酸が反応して褐色と香りができるのがメイラード反応で、糖もアミノ酸ももつたまねぎでは、両方が並んで進むとされる[6]。飴色の全部がカラメル化だとは言えず、両者の割合は条件で変わる。
カラメル化が始まる温度は糖の種類によって異なるといわれる。ブドウ糖が最多の糖であり[2]、果糖やショ糖も含むから、糖の種類ごとに反応の進み方が違うことになる。ただし、これは糖そのものを熱したときの話であり、たまねぎの中で実際に何度で何が進むかは別の問題で、火加減や時間によっても変わる。
香りについては、時友(1995)が、ゆで・焼き・電子レンジで加熱したたまねぎの香気成分を分析した。辛み成分の仲間は、二硫化物や三硫化物などの別の含硫黄成分に変わる。そして糖の熱分解でできる物質が、加熱たまねぎの甘い香りに寄与しているように見える、と著者は述べる。焼いたたまねぎでは、フルフラールなどのフラン類が主成分だった[5]。「見える」という著者の推定であって、糖の分解物が甘さの原因だと断定した研究ではない。
一般向けの記事には、辛み成分が加熱で糖に変わるという説明もあるが、この研究が示したのは別の含硫黄成分への変化であり、糖への変換は書かれていない。
4. いためると、あまい ものは ふえて いるの?
4. 炒めると糖は増えるのか。分かっていることと、まだ言えないこと
4. フルクタンの鎖は切れるのか ── 「糖が増える」を言うために足りないもの
たまねぎには、ながい くさりの かたちの あまい ものも ふくまれて います。くさりが きれると、かるい あまい ものが でて くる、と いう かいせつも あります[7]。
ただ、この はなしは、ちがう やさいの けんきゅうが もとに なって います。たまねぎを いためる とき、くさりが どれだけ きれて、あまい ものが どう かわるかを はかった しりょうは、みつかって いません。
だから、いまの ところ、「あまく なるのは、からさが ひいて、みずが ぬけて、ねつで かおりが できたから」と いう みっつが、あまく かんじる ことに かかわって いそうです。
長い鎖が切れて果糖が出る、という説明
たまねぎには、フルクタン(果糖がつながった長い鎖)も含まれます。この鎖が切れると果糖が出てくる、という料理研究家の解説があります[7]。ただ、その根拠として挙げられた研究はチコリ由来のイヌリンを加熱したもので、135〜190℃で分解が進むと報告されています。たまねぎの調理で、鎖がどれだけ切れ、糖の量がどう変わるかを量った資料は、見つけられませんでした。
三つに分けると、言えること
以上から、「炒めると糖が増える」とは言い切れません。一方で、辛みが薄れて糖が感じとりやすくなること、水が抜けて同じ重さあたりの糖が濃くなること、糖が熱で変わって新しい香りができること、の三つは、それぞれ資料の裏づけがあります。甘さには、これらが重なって関わると考えられます。
では、炒めると糖そのものが増えるのか。たまねぎにはフルクタン(果糖が連なった鎖)も含まれ、鎖が切れれば果糖が出てくる、という解説がある[7]。しかし、その根拠として挙がっていたのは、チコリ由来のイヌリンを加熱すると135〜190℃で分解が進むという報告で、たまねぎの調理で鎖がどの程度切れ、糖の量がどう変わるかを量った資料は、見つけられなかった。したがって「炒めると糖が増える」は、現時点の資料では支えられない。
一方、以下の三点はそれぞれ根拠がある。①辛み成分が糖の甘みを隠すこと[4][3]。②水が抜けて、同じ重さあたりの糖が濃縮すること[1][7]。③糖が熱で変化して、甘い香りに関わる物質ができること[5]。ただし、各要因がどれだけ寄与するかは、品種・火加減・時間で変わり、この資料からは数値で分けられない。
残る課題は、炒め時間ごとの糖(果糖・ブドウ糖・ショ糖)の増減を実測した研究を探すことである。それがあれば、「増える」かどうかを、はじめて数字で言える。
5. おうちで、いためる じかんごとに くらべて みよう
5. 台所で、炒める時間ごとの色・かさ・香りを見比べる
5. 自分で確かめる道すじと、読んでみたい資料
おとなと いっしょに やって みよう。うすく きった たまねぎを、よわびで いためます。5ふんごとに ひとつまみ ずつ、おさらに とって ならべます。
いろと かさ、においは どう かわるでしょうか。あつい うちは たべずに、さめてから ほんの すこし あじを みます。火や ほうちょうを つかう ときは、かならず おとなと いっしょに します。
今日できること
家の人と一緒に、薄切りにしたたまねぎを弱火で炒めて、5分ごとにひとつまみずつ皿に取り分けます。色、かさ、香り、さめてからの味見を比べてみてください。水が抜ける段階と、色づく段階の境目が見つかるかもしれません。火と包丁を使うので、必ず大人と一緒にします。やけどに気をつけ、熱いうちは味見をしません。
公式情報
水分や炭水化物の数字は、文部科学省の食品成分データベースで確かめられます。調べるときは、「たまねぎ」の「生」と、ほかの調理法の項目を見比べると、水分が変わる様子が見えます。
家庭では、薄切りのたまねぎを弱火で炒め、5分ごとに少量を取り分けて、色・かさ・においの変化を記録する方法がある。水分が抜ける段階と色づく段階の境目が、どの時点に現れるかを見られる。火と刃物を使うので大人と一緒に行い、熱いうちは味見を避ける。
資料としては、日本食品標準成分表(八訂)増補2023の「たまねぎ」の項で、生の成分値と、調理後の項目との比較ができる。時友(1995)の論文は日本食品科学工学会誌に載っていて、J-STAGE で題名から探せる。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文の[数字]は、下の資料の番号に対応しています。
- 文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023 たまねぎ りん茎 生」食品成分データベース https://fooddb.mext.go.jp/details/details.pl?ITEM_NO=6_06153_7 (水分・炭水化物の数値)
- Onion bulb sugars(PMC10451252) https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10451252 (乾物あたりの糖の構成)
- Crowther et al. 2005, J Sci Food Agric 85:112-120 https://www.liverpool.ac.uk/~sd21/onion/Crowther_et_al_2005.pdf (辛みと糖の感じ方。抜粋で確認)
- ハウス食品グループ ニュースリリース(たまねぎ) https://elb.housefoods-group.com/newsrelease/pdf/20151022tamanegi.pdf (辛み成分ができる流れ。要約で確認)
- 時友裕紀子(1995)加熱たまねぎの香気成分 日本食品科学工学会誌 42(4):279-287 http://www.jstage.jst.go.jp/article/nskkk1995/42/4/42_4_279/_article (加熱による香りの変化)
- Wikipedia「Caramelization」 https://en.wikipedia.org/wiki/Caramelization (カラメル化とメイラード反応の区別。参考程度)
- Nik Sharma「Why won't my onions caramelize?」 https://niksharmacooks.com/why-wont-my-onions-caramelize/ (水が抜けてから色づく流れ、フルクタンの解説)
なおした ところ
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