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ここにあるのは、だれかが実際に調べ、考え、作ってきたことを集めたメモです。気になったら、ページの下の「参考にした情報源」から、もとの本や記事、それを生み出した人たちに、直接ふれてみてください。このメモには書ききれないおもしろさが、そこにあります。

うちゅうから かえった ひこうしは、どうして すぐに たてないの?

宇宙から帰った飛行士は、なぜ立てなくなるのか:頭に集まった体液と、立てる人・立てない人の分かれ目

帰還後の起立性低血圧:体液の頭側シフトから、着陸前の食塩水、ISS飛行士12人の24時間血圧まで

分野:宇宙・天文

うちゅうに いた ひこうしの 顔は、むくんで まるく なります。足は ほそく なります。ちきゅうに かえると、はじめは 立つだけでも たいへんな ことが あります。

むかしの しらべでは、シャトルで かえった 14人の うち 9人が、10分 立って いられませんでした。ところが 半年 うちゅうに いた 12人は、かえった あとの 一日も 立ちくらみが なかった という しらべも あります。この メモでは、そのわけが わかります。

宇宙に出ると、飛行士の顔はむくみ、足は細くなります。地球に帰ってくると、立つだけで目の前が暗くなる人がいます。スペースシャトルで帰った14人のうち9人は、飛行前には全員できた「10分間立ち続ける」テストを、帰還後にやり遂げられませんでした[5]。

ところが、国際宇宙ステーション(ISS)に約6か月いた12人は、帰還後の日常動作で立ちくらみを起こしませんでした[7]。何が分かれ目だったのでしょうか。この記事では、体の中で起きていること、着陸前の食塩水、宇宙での運動の役目が分かります。

スペースシャトルで9〜14日飛んだ14人のうち、帰還後に10分間の立位テストを完了できなかったのは9人(64%)だった。飛行前は全員が完了していた[5]。起立不耐(立ちくらみや失神など)と呼ばれるこの現象は、ISSに約6か月滞在した飛行士にも起こりうる。ところが2019年の研究では、運動と帰還時の補液という現行の対策のもとで、12人の誰も日常動作中に起立不耐を起こさなかった[7]。

なぜ立てなくなるのか、何を変えると立てるのか。この記事では、体液の頭側シフト、血圧を保つ反射、1985年の食塩水の試験、2019年の24時間血圧の測定から、その条件と限界が分かる。

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1. うちゅうでは、どうして 顔が むくんで 足が ほそく なるの?

1. 宇宙に出ると、なぜ顔がむくんで足が細くなるのか

1. 無重力で体液はどこへ動くのか:顔のむくみと「バードレッグ」

ちきゅうでは、重力が 下に ひっぱって います。だから 立って いると、体の 水は 足の ほうに たまりがちです。

うちゅうに 行くと、その ひっぱりが なくなります。足に あった 水は、頭の ほうへ うつります。顔は むくんで、足は ほそく なります。ほそい 足は「バードレッグ」、つまり 鳥の 足と 言われます[1]。

NASAは、うちゅうに 入ると 2リットルほどの 体の 水が、下から 上へ うつると つたえて います[2]。ペットボトル 1本ぶんと 少しです。人や ようすで かわる めやすです。

では、頭の ほうに 水が あつまると、体は どう 感じるのでしょう。

地球では、立っている間、重力が体の水分を足のほうへ引っ張っています。宇宙に出るとその引っ張りがなくなり、足にあった血液などの体液が頭のほうへ移ります。顔がむくみ、足がやせ細り、その細さは「バードレッグ(鳥の足)」と表現されます[1]。

NASAは、無重力に入ると約2リットルの体液が下半身から上半身へ動くと説明しています[2]。ペットボトル1本とちょっとの量が、足から胸と頭のほうへ引っ越すわけです。あくまで目安で、人や条件によって変わります。

頭のほうに水分が偏った体は、これをどう受け止めるのでしょうか。

地上では、立位のあいだ重力が体液を下肢へ引き寄せている。無重力ではこの力が消えるため、足にあった血液などの体液が頭側へ移動する(体液シフト)。その結果、顔はむくみ、足はやせ細り、細くなった下肢は「バードレッグ」と呼ばれる[1]。移動量について、NASAは無重力に入ると約2リットルが下半身から上半身へ動くと述べているが、これは目安であり、個人差や条件で変わる[2]。

では、体は頭側に体液が増えたことをどう処理するのか。宇宙では立つ姿勢がないので、この偏りは取れないまま続く。次の章で、体の側の反応を見る。

2. 頭に 水が あつまると、体は 血を へらして しまうの?

2. 頭に体液が集まった体は、血液を減らす方向に反応する

2. 頭側の体液過剰を受けた体は、全体の血液量を減らす

体には、「いま、体の 水は おおいか すくないか」を かんじる しくみが あります。うちゅうでは、上半身に 水が おおく あつまります。すると 体は「水が おおすぎる」と かんじて、体ぜんたいの 血の りょうを へらす ほうへ うごきます[3]。

うちゅうでは 立つことが ありません。だから、この かたよりは ずっと つづきます。

たとえば、毎日 おなじ じゅんばんで ならべて いた ほんだなが、うちゅうでは 全部 上の だんに うつった ようなものです。体は それに あわせて、ほんの かずを へらして しまいます。ただし 本当は、血が へる ことだけが わけでは ありません。体の はんのうなど、いくつものことが かかわって いて、いまも しらべが つづいて います[3]。

つぎは、ちきゅうに かえって 立った ときの はなしです。

体には、体内の水分が多いか少ないかを感じ取って、血液の量を調節するしくみがあります。宇宙で体液が頭のほうへ移ると、体は上半身に水分が多いと感じ、全体の血液量を減らす方向に反応する、とNASAの報告書は説明しています[3]。宇宙には「立つ」という姿勢がないので、この頭側への偏りは宇宙にいるあいだ続きます。

身近なものにたとえると、毎日きれいに並べていた本棚の本が、宇宙ではすべて上の段に移ったようなものです。体はそれに合わせて、本の数を減らしてしまいます。ただし本当の体は、本棚ほど単純ではありません。血液の減少は最初のきっかけにすぎず、その後の神経の反応や心臓・血管の変化など、複数の要因が重なるとNASAはまとめています[3]。

こうして血液が減り、立つための反応が鈍った体が地球に戻ると、何が起きるのでしょうか。

体は、頭側に体液が偏ったことを循環血液量の過剰と受け取り、反射的に血液量を減らす。NASAの報告書は、微小重力に入ると頭側への体液移動が生じ、これが反射性の血液量減少を引き起こすと説明している[3]。宇宙では立つ姿勢がなく、頭側への偏りも解消されないため、この状態は滞在中ずっと続く。

ただし、数字を出すときは注意が要る。血漿量の減少を示す値は出典や測定の時期で幅があり、着陸後の測定で4.4%減という報告もある[3]。同じNASAの報告書は、起立耐性の低下は複雑で多因子的であり、血漿量の減少は最初の引き金にすぎないとまとめている。総説では、水分を補う薬を7人に使っても防げなかった研究が紹介されている[9]。「血が減るから立てない」という一因説では説明しきれない。

では、立つとき、体は何をしているのか。それが鈍った状態で地上に戻ると、どうなるのか。

3. ちきゅうに かえって 立つと、体の なかで なにが おこるの?

3. 地球に帰って立つとき、体の中で何が追いつかなくなるのか

3. 立位で血圧を保つ反射と、帰還後にそれが追いつかない理由

ちきゅうで 立つと、血は 重力で 足の ほうに おりて いきます。そのままだと、頭に とどく 血が へって しまいます。

そこで、むねと くびの けっかんに ある センサーが、血の 力が さがった ことに 気づきます。すると 「けっかんを ぎゅっと ちぢめて」と いう 合図が しんけいから 出ます。血の 力は たもたれます[3]。ふだん、わたしたちは 立つたびに これを やって います。

うちゅうから かえった ばかりの 体は、血が すくなく、この 合図の はたらきも 本調子では ありません。合図が まにあわないと、頭に 血が いかず、目の まえが くらく なります。気を うしなう ことも あります。

JAXAの しりょうにも、かえった ばかりの ひこうしは「立って 歩く ことが できない」と 書かれて います[4]。

では、何人くらいの 人が 立てなく なるのでしょう。

地上で立ち上がると、血液は重力で下半身にたまります。すると頭へ向かう血液が減るので、首や胸の太い血管にある圧力のセンサー(圧受容器)が血圧の低下を感じ取ります。センサーからの知らせを受けて、交感神経が血管を縮める物質を出し、血圧が保たれます[3]。私たちは立つたびに、この反応を無意識に繰り返しています。

この反応が間に合わないと、頭への血流が足りなくなり、立ちくらみや失神につながります。こうした症状は起立不耐と呼ばれます。JAXAの資料も、宇宙滞在中の変化の一つとして起立性低血圧を挙げ、体液の再分布で脳への血流が低下し、失神することもあると説明しています。帰還直後の飛行士は立って歩くことができない、という記述もあります[4]。

宇宙で血液が減り、立つための反応も鈍った体は、重力が戻った瞬間にこの「立つための調整」を求められます。では、実際にどのくらいの飛行士が立てなくなるのでしょうか。

そもそも地上で立位をとると、血液が重力で下肢に貯留し、中心血液量が減る。すると大動脈弓と頸動脈の圧受容器が低血圧を感知し、交感神経からノルエピネフリンが放出されて、全身の血管が収縮して血圧が保たれる[3]。この圧反射が追いつかなければ、脳血流が不足して立ちくらみや失神になる。

ところが宇宙滞在後の体は、血液量が減ったうえに、この反応の側にも変化が起きている(前章のとおり多因子である)。JAXAの資料は、体液の再分布で脳への血流が低下し、失神することもあると記し、帰還直後の飛行士は立って歩くことができないとも述べている[4]。

では、これは一部の人の話なのか、それとも多くの飛行士に起こるのか。着陸直後のテストの数字を見る。

4. 立てなく なる ひこうしは、どれくらい いるの?

4. 帰還直後に立てなくなる飛行士は、どれくらいいるのか

4. 立位・傾斜テストの結果:短期飛行と長期滞在の比較

1996ねんに 発表された しらべです。スペースシャトルで 9日から 14日 とんだ 人たち、14人を、とぶ まえと あとに ためしました。10分間 立ち つづけるテストです[5]。

とぶ まえは、全員が 10分 立てました。かえった あとは、14人の うち 9人が 10分 立って いられませんでした[5]。

もっと ながい あいだ うちゅうに いた 人は どうでしょう。NASAの まとめでは、ミールという うちゅうステーションに 4〜5か月 いた アメリカの 6人の うち 5人が、おりた ひの 10分の テストを おえられませんでした。ISSに 半年ほど いた 6人では、4人でした[3]。

これは、だれかが よわいから ではありません。うちゅうに いた 体が ちきゅうに もどる ときに、おきる ことです。

では、立てなく ならないように するには、どうしたら いいでしょう。

1996年に発表された研究では、スペースシャトルで9〜14日飛んだ3回の飛行から、14人の飛行士を前後で調べました。10分間の立位テストで、飛行前は全員が完了できたのに、飛行後は14人中9人(64%)が完了できませんでした[5]。これは9〜14日の短い飛行の結果です。

長く宇宙にいた人はどうでしょうか。NASAの報告書によると、ロシアの宇宙ステーション「ミール」に4〜5か月いたアメリカの飛行士6人のうち5人が、着陸日に10分間の傾斜テストを完了できませんでした。ISSに約6か月いた人では、6人中4人でした[3]。テストの条件が違うので数字をそのまま比べることはできませんが、長い滞在のあとにも起こることは分かります。

NASAの報告書には、着陸後の傾斜テストで失神寸前になる割合が、歴史的に女性で80%を超え、男性で約20%だったという記述もあります。原因は研究中で、調べた人数も少ないため、女性が弱いという意味ではありません[3]。

これは飛行士の「弱さ」の話ではなく、宇宙にいた体が地球の重力に戻るときに起きることです。では、対策はあるのでしょうか。

まず短期飛行から見ると、シャトル3回(9〜14日)の前後に14人を調べた1996年の研究で、10分間の立位テストを飛行前は全員が完了したが、飛行後は9人(64%)が完了できなかった[5]。この数字は9〜14日の短期飛行のものである。

一方、長期滞在ではどうか。NASAの報告書によると、ミール(4〜5か月)の後は米国人飛行士6人中5人が着陸日の10分間の傾斜テストを完了できず、ISS約6か月の後でも6人中4人が完了できなかった[3]。テストの種類(立位と傾斜)や人数が違うため、64%、5/6、4/6を一つの直線上に並べて「長いほど悪化する」と読むことはできない。分かるのは、短期でも長期でも、帰還直後は多くの飛行士が10分の起立負荷に耐えられない、という点までである。

さらに、性差についても記述がある。同報告書は、着陸後の傾斜テストで失神寸前になる割合が、歴史的に女性で80%超、男性で約20%だったと書く[3]。原因は研究中で、調べた人数が少ないことにも注意が必要であり、優劣の話ではない。

起こることがここまで分かっているなら、防ぐ手立てはあるのか。まず1985年の試験を見る。

5. ちゃくりくの まえに しお水を のむと、どうなるの?

5. 着陸前に食塩水を飲むと、立ったときの体の負担はどう変わったか

5. 着陸前の食塩水(1985年)と、与圧服の効果の範囲

1985ねんに、おもしろい ためしが ありました。シャトルの ひこうし 17人は、ちゃくりくの まえに しおの つぶと 水を のみました。9人は のみませんでした[6]。

のんだ 人は、立った ときに 心ぞうが どきどきと はやく なる ようすが、のまない 人より 29%ほど ちいさく なりました。血の 力の さがりかたも、おさえられました[6]。体の なかの 水が ふえて、立つ ときの 手つだいに なったのでしょう。

この やりかたは、その後 シャトルの ひこうしの ふだんの 手じゅんに なりました[6]。

シャトルでは、ちゃくりく する ときに、足に 血が おりすぎない ための 服も きて いました[3]。まるで 足を やさしく しめつける 服です。

では、半年も うちゅうに いた 人は、どうやって 立てた のでしょう。

1985年に、こんな試験がありました。シャトルの飛行士17人は、着陸前に食塩の錠剤と水を飲みました。ほかの9人は飲みませんでした[6]。結果は、飲んだ側のほうが、立ったときの心拍数の上がり方が29%小さく、血圧の落ち込みも抑えられていました[6]。この方法は、シャトルの飛行士の標準的な手順になりました。

体の中の水分を補っておくと、立ったときの負担が軽くなる、ということです。ただし前の章で見たとおり、原因は血液量だけではありません。水分を補う薬を使っても防げなかった研究もありますから、食塩水は万能の特効薬ではなく、有効な対策の一つです[9]。

シャトルでは、再突入と着陸のときに、下半身へ血液が落ちるのを防ぐ与圧服(抗重力服)も着ていました。ロシアにも同様の服があります[3]。地上の模擬実験では、こうした圧迫服が、15分の傾斜テストでの失神寸前を100%防ぎました。ただし、これは血液量が少ない状態を模した地上実験での値で、宇宙飛行士の結果そのものではありません。

こうした着陸前後の対策で、半年の宇宙滞在をした飛行士は、実際どこまで普通に動けるのでしょうか。

手がかりになるのが、着陸前に体の水分を補う方法である。シャトル飛行士のうち17人が着陸前に食塩錠と水を摂り、9人は摂らなかった1985年の試験がある。すると摂取群では立位時の心拍数反応が29%小さくなり、平均血圧の低下も抑えられた[6]。体の水分を補っておけば、立位負荷に対する心拍の上がり方が小さくて済んだ、という結果である。この方法はシャトル飛行士の標準手順になった。

ただし限界がある。これは1985年の、飛行士26人を比べた試験であって、血液量の補充だけで起立耐性が回復するという意味ではない。総説は、水分を補う薬を7人に使っても防げなかった研究を紹介しており、原因が多因子であることと整合する[9]。

また、物理的な対策として、再突入と着陸時に与圧服(抗重力服)が使われた。ロシア側にも同様の服がある。NASAの報告書は、圧迫服が15分の傾斜テストでの失神寸前を100%防いだと書くが、これは低血液量を模した地上実験での値であり、飛行士の帰還時の効果をそのまま示すものではない[3]。

では、運動や補液を含めた現在の対策を、半年の滞在で通して試すと、どうなるのか。

6. 半年 うちゅうに いた 人は、どうして 立てたの?

6. 半年の滞在後、日常動作で立ちくらみがなかった12人の記録

6. 日常動作中の24時間連続血圧で見た、ISS約6か月滞在後の12人

2019ねんの しらべです。ISSに 半年ほど いた 12人が、とぶ まえと かえった あとの 24時間、血の 力を ずっと はかりました。ふつうの 一日の すごしかたの なかで、です[7]。

けっかは、とぶ まえも あとも、立ちくらみを おこした 人は いませんでした。12人の なかには、4人の 女の 人も いました[7]。

ひこうしは うちゅうで、さいだい 1日2時間、体を うごかす くんれんを して いました。ちゃくりくの あとは、水分を ふやす てんてきも うけて いました。しらべた 人たちは、いまの たいさくが あれば、かえった 24時間の ふつうの うごきで 気を うしなったり 立ちくらみを したり しなかった と まとめて います[7][8]。

うちゅうに いる あいだ、血の 力は 120から 106ぐらいまで さがって いました。ちゃくりくの あとは 122に もどって いました[7]。

10分 立てなかった 人たちの はなしと、立てた 12人の はなしは ちがう テストです。どちらも ほんとうで、その あいだに、くんれんと たいさくが あります。

2019年に医学誌『Circulation』に報告された研究があります。ISSに約6か月滞在した飛行士12人(女性4人)の日常動作中の血圧を、心拍ごとに24時間測りました[7]。測定は飛行の前と、着陸後にしています。

結果は、飛行前後とも、立ちくらみや失神などの起立不耐を起こした人はいませんでした。宇宙にいる間の収縮期血圧(上の血圧)は、飛行前の120から106 mmHgまで下がり、着陸後は122に戻っていました[7]。

この12人は、宇宙で最大1日2時間、持久力と筋力の運動をしていて、着陸後には生理食塩水の点滴も受けていました。研究者は、船内での運動訓練と帰還時の補液という現在の対策があれば、着陸後24時間の日常動作で失神や立ちくらみは起きなかった、と結論づけています[7][8]。

注意したいのは、これが日常動作中の24時間血圧で、前の章の傾斜テストとは別の測り方だという点です。難しい条件のテストでは多くの人が立てなかったのに、ふだんの動きの中では立ちくらみが起きなかった。この二つは、矛盾するのではなく、測っているものが違います。

宇宙での運動、着陸前後の水分補給という工夫が重なったとき、半年の滞在後でも「ふつうに立てる」ところまで来ている。これが、この記事でいちばん話したくなる点です。では、まだ分からないことは何でしょうか。

その問いに答えたのが、ISSに約6か月滞在した飛行士12人(女性4人)を対象とした2019年の研究である。日常動作中の血圧を拍動ごとに24時間測ったところ、飛行前後のいずれでも、起立不耐(立ちくらみ・失神など)を経験した者はいなかった。宇宙での収縮期血圧は飛行前の120±10 mmHgから106±9 mmHgへ下がり、着陸後は122 mmHgに戻った[7]。

この12人は、宇宙で最大1日2時間、個別に組まれた持久・筋力運動を行い、着陸後には生理食塩水の点滴を受けた。著者らは、これらの現行の対策があれば、着陸後24時間の日常動作で失神や立ちくらみは起きなかったと結論づけている[7][8]。

この結果を、前章までの数字と並べるときには、条件の差に注意が要る。64%や5/6、4/6は、着陸直後の立位・傾斜テストという、負荷をかけたテストでの数字である。2019年の結果は、着陸後24時間の日常動作中の血圧であり、測っているものが違う。したがって「現行の対策で、日常の動きでは失神は起きなかったが、負荷テストで立てなくなる人が多い現象そのものは消えていない」という二つの事実が、矛盾せずに並ぶ。対象は12人で、運動と補液を同時に行っているため、どちらが効いたのかも切り分けられていない。

では、まだ分からないことは何か。

7. まだ わからない ことは、なんだろう?

7. まだ答えが出ていない問いと、原典の読みどころ

7. 残された問い:性差・因果の切り分け・原典への入り口

ここまでで、わかった ことが あります。うちゅうでは 体の 水が 頭に あつまります。かえって 立つと、血を おくる はたらきが まにあわず、立ちくらみに なる ことが あります。うちゅうでの うんどうや、ちきゅうに かえった あとの てんてきなどの たいさくで、半年 いた 人たちも、ふつうの 一日を すごせました。

わかって いない ことも あります。女の 人の ほうが 立ちくらみに なりやすい ようすが ある ことは、NASAの 本に 書かれて います。でも その わけは、いま しらべて いる ところです[3]。

もっと 知りたい人は、JAXAの しりょうを 読んで みましょう。うちゅうに いる あいだの 体の へんかが、日本語で 書かれて います[4]。

ここまでの流れは、頭のほうへ移った体液、体の反応、帰還後の立ちくらみ、そして着陸前の食塩水と宇宙での運動、という順でした。残っている問いは、少なくとも二つあります。

一つは、なぜ着陸後の傾斜テストで失神寸前になる割合が、女性のほうが高いのかです。NASAの報告書は原因は研究中としています[3]。もう一つは、運動と補液のどちらが、どれくらい効いたのかです。2019年の研究は両方を同時に行っているため、切り分けは分かりません[7]。

原典を読みたくなった人には、入り口が三つあります。JAXAの資料は日本語で、宇宙滞在中の体の変化がひと目で分かります[4]。NASAの報告書は英語ですが、グラフや表が多く、数字を拾い読みするだけでも違いが見えます[3]。2019年の研究には、日常動作中の血圧の変化が、飛行前・宇宙・着陸後の三つの時点で載っています[7]。

この記事の問いに対する現時点の答えは、次のとおりである。宇宙で頭側に移った体液は、血液量の減少を含む複数の変化を引き起こし、帰還後の起立負荷には耐えにくくなる。着陸前の食塩水や与圧服、宇宙での運動などの対策により、日常動作中の失神は起きなかったと、約6か月滞在の12人で報告されている。

未解決の点は少なくとも二つある。第一に性差で、着陸後の傾斜テストで失神寸前になる割合が女性で歴史的に80%超、男性で約20%だった理由は、NASAの報告書で研究中とされている[3]。第二に、運動と補液の寄与の分離である。2019年の研究は両者を併用した12人の結果であり[7]、どちらが効いたかは切り分けられていない。

原典の入り口は三つある。JAXAの金井宇宙飛行士関連のプレス資料(日本語)は、宇宙滞在中の変化を一覧できる[4]。NASAのエビデンスレポート(英語)は、起立不耐に関する歴史的データと対策の評価がまとまっている[3]。2019年の論文(英語)には、24時間血圧の測定方法と、飛行前・宇宙・着陸後の数値が載っている[7]。

しらべた もとの じょうほう

参考にした情報源

参考にした情報源と、その使い方

数字・人数・割合は、下の資料に書かれている内容を、記事の中で言いかえたものです。NASAの報告書は英語です。

  1. imidas「長期宇宙滞在と体」 https://imidas.jp/jijikaitai/k-40-067-11-08-g412 (体液シフトと「バードレッグ」)
  2. NASA "Ensuring Astronaut Health" https://www.nasa.gov/?p=207552 (約2リットルの体液の移動)
  3. NASA Evidence Report: Orthostatic Intolerance https://ntrs.nasa.gov/api/citations/20150007319/downloads/20150007319.pdf (血液量の反射的な減少、圧反射、ミール・ISS後のテスト、性差、与圧服)
  4. JAXA 金井宇宙飛行士関連プレス資料 https://iss.jaxa.jp/iss/jaxa_exp/kanai/material/kanai_press_mission_07.pdf (宇宙滞在中の変化としての起立性低血圧)
  5. Buckey et al., J Appl Physiol 1996(スペースシャトル飛行士の10分間立位テスト) https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8828642/ (14人中9人が完了できなかった結果)
  6. Bungo et al., Aviat Space Environ Med 1985 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/4062772/ (着陸前の食塩錠と水の試験)
  7. Fu et al., Circulation 2019(ISS飛行士12人の24時間血圧) https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31319685/ (日常動作中の血圧と起立耐性)
  8. The Week (2019) 解説記事 https://www.theweek.in/news/sci-tech/2019/07/22/Working-out-in-space-reduces-risk-of-fainting-on-return-to-Earth.html (運動訓練と着陸後の補液)
  9. Frontiers in Physiology (2020) 総説 https://www.frontiersin.org/journals/physiology/articles/10.3389/fphys.2020.00778/full (原因が一つではないこと)

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