1. あたまを さげたら、どう なるの?
1. 頭が3〜5m上下する動物
1. 問題の設定 ── 頭の位置が大きく変わる
キリンは、あたまを ひくく して みずを のみます。この とき、あたまは 3から 5メートルも さがる そうです[7]。
あたまが さがれば、ちは あたまの ほうへ なだれこみそうです。あたまが あがれば、ちは のぼって いかなくては なりません。
この ふしぎを、さいしょに ちを おくる しんぞうから、しらべて いきます。
キリンが水を飲むには、脚を広げ、首を大きく曲げて頭を下げます。飲む前に頭は3〜5mも下がるとされ、体の中の血の流れにとっては大きな難題です[7]。
頭が高いときは、血を押し上げなくてはなりません。頭が低いときは、血が頭に集まりすぎないようにしなくてはなりません。正反対の問題が、1頭の体に同居しています。
まず、頭が高いほうの問題から見ます。
頭の位置の変化は、高いときと低いときで別の問題を生む。高いときは、心臓から頭まで血を押し上げる圧が要る。低いときは、頭側の血圧が急に変わらないようにする仕組みが要る。飲水前に頭が3〜5m下がる点は、2025年の研究が循環上の課題として挙げる[7]。
頭が高いときの問題(2〜5章)と、頭を下げたときの問題(6〜7章)を扱う。
2. たかい あたままで、ちは のぼれる?
2. 血の柱の重さを持ち上げる
2. 血柱の静水圧 ── 1mあたり77 mmHg
おおきな ビルの おくじょうに、みずの タンクが ある ことが あります。たかい ところまで みずを あげるには、つよい ポンプが いります。たかいほど、つよい ポンプです。
キリンの しんぞうは、この ポンプに にて います。あたまは、しんぞうより 2メートル いじょうも たかい ところに あります。ちを そこまで おしあげる ちからが いります。
ある けんきゅうでは、たかさ 1メートルごとに、しんぞうの ところで よぶんに けつあつが 77 mmHg ひつよう だと せつめいして います[1]。たんいは mmHg(ミリメートル・エイチジー)です。2メートルなら、ぜんぶで 155 ぐらいに なります[2]。
ただし ほんとうは、けつあつの ほかにも いろいろな しくみが かんけいして います。これは、いちばん わかりやすい ぶぶんだけの はなしです。
ビルの屋上にある水のタンクは、高い所まで水を届けるために、強いポンプが必要です。高いほど、ポンプは強くなくてはいけません。
血もおなじで、重さがあります。頭は心臓より2m以上高いところにあるので、その高さぶんの血の柱を、心臓が持ち上げなくてはなりません。研究では、高さ1mごとに、心臓の高さで77 mmHgの血圧が追加で必要とされます[1]。mmHgは血圧の単位です。
首の動脈の血の柱を高さ約2mとして計算した論文があり、その圧は約155 mmHgに相当します(77×2にほぼ等しい)[2]。これは論文のモデルによる計算値で、実際の値は個体や条件で幅があります。
ポンプにたとえましたが、血管は水道管より複雑です。ここでは、高さぶんの圧がいる、という基本だけを取り出しています。
3. キリンは、びょうきなの?
3. 人の約2倍の血圧は「病気」ではない
3. 血圧の水準 ── 高血圧症ではない
キリンの けつあつは、しんぞうの たかさで、ひとの やく 2ばいだと いわれます。しらべた ほんに よって、200から 260 ぐらいまで、かずが ちがいます[3][4]。
ひとなら、とても たかい けつあつです。でも キリンは、びょうきでは ありません。たかい あたまの さきまで ちを おくる ために、この たかさが ひつよう だと せつめい されて います[5]。
4. しんぞうは、とても おおきいの?
4. 心臓は巨大ではなく、壁が厚い
4. 左心室の構造 ── 体重比は同程度、壁は厚く内腔は小さい
これだけ つよく ちを おくる しんぞうは、さぞ おおきいと おもいます。でも、しらべると ちょっと ちがいます。
キリンの しんぞうは、おもさが 1トンの キリンで 10キロぐらい だと いわれます[5]。からだの おもさに くらべると、ほかの どうぶつと おなじ くらいの おもさだと ほうこく されて います[6]。
ちがうのは、かべです。しんぞうの かべが あつく、なかの おへやは ちいさい ことが わかって います。
5. ながい あしは、じゃまなの?
5. 長い脚が心臓の負担を軽くしている
5. 脚の長さとエネルギー ── 心臓の負担の見積もり
くびが ながい ぶん、しんぞうは はたらきものです。では、あしまで ながい のは、しんぞうに とって たいへんでしょうか。
2025ねんの けんきゅうは、ぎゃくの こたえを だしました。ながい あしが、しんぞうの たいへんさを かるく して いると いうのです[1]。
あしが ながいと、からだの たかさに たいして、くびを みじかく できるからです。
首が長いだけでなく、脚も長いのがキリンです。脚の長さは、心臓の負担にとっては、じゃまではなく助けになるようです。
2025年の研究では、キリンの左心室が使うエネルギーは、安静時の体全体の代謝の約16%でした。首の短い、同じ体重の哺乳類は約9%です。もし長い脚がなく、首だけで同じ背の高さにした場合は、約21%になると見積もられています[1]。21%は仮定にもとづく見積もりで、実測値ではありません。
脚が長いぶん、首を長くしすぎずに背が高くなれるので、心臓の仕事が増えすぎずにすむ、という説明です。
2025年の研究は、キリンの左心室が使うエネルギーを安静時の全身代謝の約16%と見積もり、首の短い同体重の哺乳類(約9%)より大きいとした。脚が長くなく、首だけで同じ背の高さを実現した場合は約21%と見積もられ、脚の長さが心臓の負担を軽くしているとする[1]。21%は仮定にもとづく見積もりで、実測値ではない。
頭の高さのうち、脚が担うぶんは首を伸ばさずにすむため、静水圧を生む血柱が短くなる。この点が、脚の長さが心臓の負担を軽くする理由と読める。
6. みずを のむ とき、ちは どう うごく?
6. 頭を下げたときの、意外な結果
6. 飲水時の血行動態 ── 2025年の研究
あたまを さげると、くびの ふとい けっかんに、ちが たまると いわれます[3]。すると しんぞうの ところの けつあつは、いったん さがります。
ここまでは、おもった とおりです。ところが 2025ねんの けんきゅうで、おどろく けっかが でました。みずを のみはじめると、けつあつが、のむ まえの たかさまで もどったのです[7]。
のみこむ みずが、くびの ふとい けっかんに はたらく ためだろうと、けんきゅうした ひとたちは かんがえて います。
頭を下げると、首の太い静脈に血がたまり、その量は1リットルを超えるといわれます。すると、心臓の高さの血圧は一時的に下がります[3]。頭を上げるときは、たまった血が一気に心臓へ戻り、心臓が強く送り出す、という説明です。
2025年の研究(キリンの水飲みの実験)の抄録(要旨)は、頭を下げると「中心血圧」が下がったと報告しています。そして、水を飲むこと自体が、血圧を飲む前の水準まで上げるという、予想外の結果も出ています[7]。飲み込む水が首の太い静脈に作用するためではないか、と研究者は推測しています。
頭を下げると血圧が急にはね上がる、と思われがちですが、抄録の内容はその逆で、頭を下げたときには中心血圧が下がったとあります。測る場所や指標の細かい違いは、抄録だけでは確かめられていません。
7. あたまを まもる しくみは あるの?
7. 首の弁と網、脳の血管の守り
7. 緩衝の仕組み ── 静脈弁・ワンダーネット・脳動脈の筋原性反応
くびの ふとい けっかんには、ところどころに、ちが ぎゃくもどりしない ための とびらが あると いわれます。あたまの うしろには、あみのめの ような けっかんの かたまりが あって、けつあつの ゆれを やわらげる と、にほんの しりょうでは せつめい されて います[5][4]。
2025ねんの けんきゅうでは、のうの けっかんが、けつあつに あわせて じぶんで ちぢむ ことも ほうこく されました[7]。
どれが どのくらい きいて いるのかは、しりょうに よって いうことが ちがいます。まだ、なぞが のこって います。
自分でも しらべて みたく なったら
自分でも調べてみたくなったら
自分でも調べてみたくなったら
いえで できること
ストローで、みずを すいあげて みましょう。ストローの さきを みずに いれて、コップの みずの めんから どれくらい たかく すいあげられるか、ためして みましょう。たかく なるほど、すう ちからが いるか、くらべて みます。
どうぶつえんで
キリンを 見る ことが あったら、みずを のむ ところを まって みましょう。あしを ひろげて、くびを ゆっくり さげる ようすを 見られると いいです。
今日できること
ストローで水を吸い上げる実験ができます。コップの水面から、ストローの先をどこまで高くして吸えるか、吸う力の感じ方を比べてみてください。高さが増えるほど、吸うのに力が要るはずです。
出かけてできること
動物園でキリンが水を飲む場面に出会ったら、脚の開き方、首の曲げ方、頭を上げる速さを観察してみてください。ゆっくり動くことにも、理由があるのかもしれません。
公式情報
日本心臓財団や動物園の解説には、キリンの心臓の話が日本語でまとまっています。
今日できること
ストローで水を吸い上げるとき、水面からの高さを変えて、必要な力の違いを体で感じてみる。高さが増えると吸う力が要ることが、血柱の静水圧の考え方につながる。
出かけてできること
動物園でキリンの飲水行動(脚の開き方、頭を下げる速さ、戻す速さ)を観察し、ゆっくり動く理由を考える。
公式情報
出典の Journal of Experimental Biology(2025年)と Acta Physiologica(2025年)の原論文を読み、頭の高さと血圧の関係、飲水時の血圧の変化の測定方法を確認すると、この記事で「とされる」と書いた点の根拠がたどれる。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
血圧の数値と計算は論文(Journal of Experimental Biology)と日本語の解説を突き合わせた。飲水の実験と脳動脈の反応は、抄録の範囲で紹介した。静脈弁とワンダーネットの効き方は日本語の解説による。
- How long limbs reduce the energetic burden on the heart of the giraffe(Journal of Experimental Biology 2025) https://journals.biologists.com/jeb/article/228/20/jeb251092/369564/How-long-limbs-reduce-the-energetic-burden-on-the (血圧・血柱・脚とエネルギー)
- The origin of mean arterial and jugular venous blood pressures in giraffes(Journal of Experimental Biology 2006) https://journals.biologists.com/jeb/article/209/13/2515/16123/The-origin-of-mean-arterial-and-jugular-venous (血柱の計算)
- Cardiovascular secrets of giraffes(Smithsonian Magazine) https://www.smithsonianmag.com/science-nature/cardiovascular-secrets-giraffes-180977785/ (人との血圧比較・静脈にたまる血・線維化)
- 福岡市動物園 キリンの解説 https://zoo.city.fukuoka.lg.jp/knowledges/detail/16 (最高血圧の平均・ワンダーネット)
- 日本心臓財団 はあと文庫 第54話 https://www.jhf.or.jp/publish/bunko/54.html (高血圧症ではないこと・心臓の重さ・静脈弁とワンダーネット)
- The thick left ventricular wall of the giraffe heart normalises wall tension...(Journal of Experimental Biology 2016) https://journals.biologists.com/jeb/article/219/3/457/16781/The-thick-left-ventricular-wall-of-the-giraffe (心臓の壁と体重比)
- Hemodynamics and Drinking in the Giraffe(Acta Physiologica 2025) https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12012874/ (飲水時の血圧・脳の動脈の反応。抄録の範囲)
なおした ところ
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