1. まるまった とき、そとに むくのは どこ?
1. 丸まったとき、外に向くのはどこか
1. 丸まった体の表面 ── 外に向くのは縁のとがった鱗
センザンコウは、てきに おそわれると、からだを まるめて ボールの ように なります[2]。
そとに むくのは、かたくて ふちの とがった うろこだけです[1]。
なまえの ペンゲリンは、マレーごで 「まるまる もの」という いみだと いわれます[1]。なまえが、こたえを さきに いって いるようです。
うろこは、せなかや よこ、あしの そとがわを おおって います。おなかは うろこが なく、やわらかいので、まるまると なかに かくれます[1]。
では、その うろこは、なにで できて いるのでしょう。
2. うろこは、なにで できて いるの?
2. 鱗の正体は、爪や髪と同じ材料
2. 材料はケラチン ── 髪・爪と同じ、一生のび続ける
うろこの ざいりょうは、ケラチンと いいます。わたしたちの かみの けや つめも、おなじ ケラチンで できて います[1][4]。
つめは、きっても また のびて きます。うろこも おなじで、いっしょう のびつづけて、すりへった ぶんを おぎなうと いわれます[1]。
ところで、つめは かたいのに、ぎゅっと まるめる ことは できません。うろこの ならんだ からだが まるまるのは、どうしてでしょう。
3. かたい いたなのに、どうして まるまれるの?
3. 板がずれて重なると、丸まってもすき間が出ない
3. 六角形状に重なる鱗 ── すべりとずれが柔軟性をつくる
こたえは、いたの ならびかたに ありました。
トランプを、ぴったり よこに ならべて まげると、そとがわに すきまが できます。すこしずつ ずらして かさねて おくと、まげても すきまが できません。うろこも、これと にて います。ただし ほんとうは、うろこは たてにも よこにも かさなって います。
ある けんきゅうでは、うろこ 1まいは、まわりに ろっかっけいの ように ならんだ うろこの まんなかに あります。うらがわは したの 3まいを、おもてがわは うえの 3まいに、すこしずつ おおわれて います[1]。
かさなった うろこは、たがいに すべって ずれます。だから からだを まるめても、はだが むきだしに なりません[3]。
ただ、うろこの なかには、われにくい ひみつも あるようです。
答えは、板そのものより、板の重ね方にあるようです。
トランプを隙間なく横に並べて曲げると、外側に隙間があきます。少しずつずらして重ねておくと、曲げても隙間ができません。鱗の重なり方は、これに似ています。ただし本当は、鱗は縦にも横にも重なっています。
中国センザンコウとアフリカの樹上で暮らすセンザンコウを調べた論文によると、鱗は1枚ごとに、六角形状に並んだ周りの鱗の中心に位置します。内側の面は下の3枚を部分的におおい、外側の面は上の3枚に部分的におおわれます[1]。この重なりで、体が動いたり丸まったりしても、皮膚を覆いきれます[1]。
重なった鱗は互いにすべり、ずれることで、柔軟な防護面になります。丸まっても、板と板のあいだに皮膚がむき出しになる場所ができにくい、と説明されています[3]。
ところで、板が硬いだけなら、割れてしまうこともあるはずです。鱗の中は、どうなっているのでしょうか。
Wang らの論文では、各鱗は六角形状に配置された周囲の鱗の中心に位置し、内面は下の3枚を部分的に覆い、外面は上の3枚に部分的に覆われる。これにより、体が動いたり丸まったりしても皮膚を完全に覆える[1]。この観察の対象は中国センザンコウとアフリカ樹上性センザンコウの2種で、全種に一般化はしない。
板一枚の大きさは、中国センザンコウで幅10〜30mm・長さ20〜40mm・厚さ0.4〜3mm、アフリカ樹上性では平均で幅18mm・長さ40mm・厚さ約1.5mmである[1]。調べられたこの2種では、小さな板をずらして重ねているので、曲げても皮膚のすき間が出にくいと考えられる。
重なった鱗は互いにすべってずれ、モジュール状の柔軟な防護面になる[3]。硬い素材でも、板を小さく分けてずらして重ねれば、全体としては曲がる。柔らかさには、材料だけでなく構造も関わる。
では、板の一枚ずつはどれだけ割れにくいのか。内部の構造を見る。
4. いた いちまいは、われないの?
4. 板の中の層が、ひびの向きを曲げる
4. 内部構造 ── 交差ラメラ構造とひびの偏向
うろこの なかを のぞくと、ひらたい さいぼうが、みっしり かさなった そうに なって います[1]。
うろこの ちからは、その ならびかたから きて いると いわれます。ひびが はいっても、むきの ちがう そうに ぶつかって、ひびの すすむ むきが まがります。ささりにくく、ちからも すいとりやすい つくりです[4]。
ただし、これは かいせつ きじの まとめで、ライオンなどが かんでも たえる、と かんたんに いえる わけでは ありません。
5. みずを ふくむと、どう なるの?
5. 湿ると、粘り強くなる
5. 含水度依存性 ── 湿度が高いと破壊靱性が上がる
うろこの ちからは、すいぶんの りょうで かわります。しめった ほうが、ねばり づよく なると いわれます[4]。
つめも、かわくと われやすく、しめると ねばり づよく なります。おふろに はいったあとの つめは、やわらかい でしょう。うろこも、にた ところが あるようです。
つめと おなじ ざいりょうの いたが、ならびかたと、すいぶんで、からだを まもる よろいに なって いる。ふしぎですね。
鱗の力学的な性質は、水分量に大きく左右されます。湿度が高いと、ひびが広がりにくくなるという報告があります[4]。乾いた爪がもろく、潤った爪が粘り強いのに似ています。
爪と同じ材料の小さな板が、ずれて重なる並び方、中の層、水分の力を借りて、体を守る鎧になっている。丸まるという動きは、その全部を使って成り立っているのです。
鱗の力学的性質は含水度に強く依存し、湿度が高いほど破壊靱性が向上するとされる。乾いた爪が脆く割れ、潤った爪が粘り強いのと似た関係である[4]。
Wang らの引っぱり試験では、引張強さ60〜100MPa、力学的応答は方向によらない(横等方性)と報告され、含水度への依存が大きいとされる[1]。60〜100MPaは、断面1mm²あたり60〜100Nの力に相当する。試験条件で値が変わるため、数値は目安である。
丸まる防御は、爪と同じ材料の板を、六角形状の重なり・層構造・含水度が支えることで成り立っている。原理は分かってきたが、柔軟性と強度の折り合いは、種や湿度による違いを含め、なお調べる余地がある。
自分でも しらべて みたく なったら
自分でも調べてみたくなったら
自分でも調べてみたくなったら
今日できること
おなじ おおきさの かみの カードか ふせんを 10まい ようい します。ぴったり よこに ならべて、ペットボトルに テープで とめながら まきつけて みます。つぎに、おなじ まいすうを すこしずつ ずらして かさねて、おなじ ところまで まきつけます。すきまの できかたを くらべて みましょう。
出かけてできること
まつぼっくりを 見つけたら、かさの ひとつ ひとつが どう かさなって いるか、よく 見て みましょう。センザンコウの うろこは、まつかさの ように なって いると いわれます。
こうしきの 情報
どうぶつえんや ずかんの センザンコウの ページにも、ヒントが あります。
今日できること
同じ大きさの紙のカードか付箋を10枚ほど用意します。隙間なく横に並べてペットボトルにテープで留めながら巻きつけたときと、同じ枚数を少しずつずらして重ね、同じ範囲まで巻きつけたときで、隙間の出方を比べてみてください。
出かけてできること
松ぼっくりを見つけたら、鱗片がどう重なっているかを観察してみましょう。センザンコウの鱗が松かさ状と説明されているのは、この重なり方が似ているからでしょう。
公式情報
動物園や図鑑のセンザンコウの解説を読んで、鱗の重なりや丸まり方を調べてみてください。
今日できること
紙のカードを同じ枚数ずつ用意し、隙間なく並べたものと、ずらして重ねたものを、同じ範囲を覆うようテープで円筒に留めて巻きつけ、隙間の出方を比べる。鱗が、板を小さく分けて重ねることで柔軟性を得ている理由を、手で確かめられる。
出かけてできること
松ぼっくりの鱗片の重なりを観察し、センザンコウの鱗の配置(六角形状に並び、上下の3枚と重なる)と比べる。
公式情報
動物園や図鑑のセンザンコウの解説を読み、鱗の重なりや体の丸め方が種によって違うかを調べる手がかりにするとよい。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
今回は、鱗の重なり・材料・内部構造は学術論文(中国センザンコウとアフリカ樹上性センザンコウが対象)と解説記事を突き合わせた。水分の影響は解説記事による。日本国内の動物園での展示や観察の記録は確認できていない。
- Wang et al. 2016, Acta Biomaterialia 41:60-74(センザンコウの鱗の構造と力学) https://meyersgroup.ucsd.edu/papers/journals/Meyers 425.pdf (重なり方・材料・内部構造・名前の由来・鱗の範囲)
- コトバンク センザンコウ(日本大百科全書ほか) https://kotobank.jp/word/センザンコウ-3157342 (丸まる防御・松かさ状の鱗)
- AskNature Scales provide flexible, strong protection https://asknature.org/strategy/scales-provide-flexible-strong-protection/ (すべりとずれによる柔軟性)
- Atlas of Science Internal structure of scaly armor enables bite resistance in the African pangolin https://atlasofscience.org/internal-structure-of-scaly-armor-enables-bite-resistance-in-the-african-pangolin/ (ケラチン・層構造・水分の影響)
なおした ところ
更新履歴
更新履歴(改版の記録)
- 初版を公開。
このサイトでは、公開した記事の本文は原則として書き直しません。誤りが見つかったときや、内容が古くなったときだけ手を入れ、その理由をこの欄に残します。