1. ねがえりが できないと、どうして いたく なるの?
1. 同じ場所を押され続けると、皮膚で何が起こるのか
1. 長時間の圧迫は、皮膚の細胞に何をもたらすのか
ねている あいだに、わたしたちは むきを かえる ことが あります。かたほうの うでが しびれて きたら、ごろんと うごく ことも あります。
けれど、びょうきや けがで、じぶんで からだの むきを かえにくい ひとが います。そう いう ひとは、おなじ ところが ながい じかん、からだの おもみで おされ つづけます。すると、おされた ところの 皮膚に、いきを するのに いる くうきの ざいりょう(さんそ)や えいようが とどきにくく なって、きずが できる ことが あります。これを とこずれ(じょくそう)と いいます。
でも、これは ふせぐ くふうが たくさん ある ものです。その ひとつが、ねる ときに つかう マットレスです。
夜、同じ姿勢で眠り続けても、ふだんは体が自然に向きを変えます。腕が痺れてきたら、ごろりと動く人もいるでしょう。
病気やけがで、自分で体の向きを変えにくい人は事情がちがいます。日本褥瘡学会は、自分で体位変換ができない人では、体重で長い時間押された皮膚の細胞に酸素や栄養が十分に届かなくなり、褥瘡(床ずれ)が起こる、と説明しています[2]。
同じ学会は、予防の方法も示しています。体圧分散寝具を使うことで、褥瘡の発生率を下げることが可能だという説明です[1]。では、体圧分散寝具とは、体のどこに何をする道具なのでしょうか。
睡眠中に自然に体位が変わる人は、特定の部位が長時間圧迫され続けることが少ない。これに対し、自分で体位変換ができない場合は、体重で長時間圧迫された部位の皮膚細胞に、酸素や栄養が行き渡りにくくなる。日本褥瘡学会は、これを褥瘡(床ずれ)が起こる仕組みとして説明している[2]。
圧迫の原因は体重であるから、予防の一つの柱は、圧迫を受ける部位の圧力を下げることになる。同学会の一般向け資料は、体圧分散寝具の使用によって褥瘡の発生率を低下させることが可能だと述べる[1]。本記事で扱うのは、この予防の考え方そのものであり、個別の治療や介護の方法ではない。
では、体圧分散寝具は、体のどの部分の何を変えることで圧力を下げるのか。次の章で、定義から確かめる。
2. ふかふかだと、ちからは ほんとうに ちいさく なるの?
2. 体圧分散寝具は、押す力を「どこ」で受けているのか
2. 体圧分散の定義:接触面積を広げることと、最大体圧を下げることは同じか
ゆきの 上を、ながぐつで あるくと ずぼっと しずみます。でも、スキーの いたを はくと、あまり しずみません。からだの おもさは かわらないのに、ゆきを おす ひろさが ひろがるからです。
マットレスも にて います。「からだ ぶんさん」と いう かんがえ方は、からだが ふれる ひろさを ひろげて、ほねが とびだした ところに あつまる ちからを へらす ことです。ほねが とびだした ところは、おしりや かかとの ほうに あります。
やわらかい マットレスは、からだが しずんで、まわりを つつむように ふれるので、ひろさが ひろがりやすいのです。
ただし、ゆきと ちがって、マットレスは からだの かたちに あわせて へこみます。そして、ある けんきゅうでは、ふかふかの ほうが ひろく ふれて いたのに、いちばん つよく おされる ところの ちからは、マットレスで かわりませんでした。ひろく ふれる ことと、いちばん つよい ちからが ちいさく なる ことは、べつの ことのようです。
雪の上を長靴で歩くと、ずぼっと沈みます。ところが、スキー板を履くと、あまり沈みません。体重は同じでも、雪を押す面が広がるからです。
体圧分散寝具の考え方も、これと似ています。日本褥瘡学会は、体圧分散用具の目的の一つを、沈み込みや包み込みによって、骨の突出部の圧力を低くすること、つまり体との接触面を増やすことだと説明しています[1]。骨が出っぱっている場所は、皮膚のすぐ下に骨があり、圧力が集まりやすいためです。
体圧分散という言葉は、国際的には、支持面が人体の接触面全体に荷重を分散させる能力、と定義されています[7]。
では、柔らかいマットレスほど体への圧力は小さくなるのでしょうか。硬さのちがうベッドマットレスで終夜の体圧分布を測った研究は、柔らかいほど接触面積が大きく、圧力が分散していたと報告しました。ただし、最大体圧にはマットレス間で差がなかった、とも述べています[3]。広く触れることと、いちばん強い圧力が下がることは、別の話なのです。ただし、この結果は一つの研究のもので、すべてのマットレスや人に当てはまるとは限りません。
ならば、体のどの場所に力が集まっているのでしょうか。
雪の上を長靴で歩くと沈むが、スキー板を履くと沈みにくい。体重は同じでも、荷重を受ける面積が広がるからである。体圧分散寝具の考え方は、これに近い。日本褥瘡学会は、体圧分散用具の目的の一つを、沈み込みや包み込みにより骨の突出部の圧力を低くすること、すなわち身体の接触面を増やすことと説明している[1]。
用語の定義も確かめておく。Support Surface Standards Initiative の用語集では、体圧分散(pressure redistribution)は、支持面が人体の接触面全体にわたって荷重を分散させる能力とされる。同じ用語集には、沈み込みが臨界点を超えて有効な圧力分散が失われた状態を指す「ボトミングアウト」の語もある[7]。つまり、沈めば沈むほどよいのではなく、沈み込みにも限度がある。
硬さの異なるマットレスで終夜の体圧分布を測った研究では、柔らかいほど接触面積が大きく、圧力が分散していた。しかし最大体圧については、マットレス間で差がなかった[3]。接触面積は広がっても、最も圧がかかる点の値までは下がらない場合があるわけだ。これは一つの研究の結果であり、他の素材や被験者に一般化することはできない。
なお、同学会の資料では、粘弾性フォームマットレスや上敷二層式エアマットレスなどを使う場合、体位変換の間隔は4時間を超えない範囲で行ってもよいとされる[1]。寝具の性能が、ケアの間隔の判断にも関わる例である。では、実際の寝姿勢では、どの部位に圧が集まるのか。
3. あおむけと よこむきで、おされる ところは ちがうの?
3. 仰向けと横向きでは、圧力が集まる場所がちがう
3. 仰臥位と側臥位で、高い圧力がかかる部位はどこか
じぶんが ねる すがたを おもいうかべて みましょう。あおむけに なると、せなかが ぜんぶ マットレスに つくように 思えます。でも、おもさは どこにも おなじように かかる わけでは ありません。
ある けんきゅうでは、あおむけで ねた とき、おしりと あしの ほうに つよい ちからが かかって いました。よこむきで ねた ときは、かたと おしりでした。
からだの ほねが でっぱった ところに、ちからは あつまりやすいと いう ことです。
仰向けに寝ると、背中全体が布団に着いているように感じます。ところが、体重は体のあらゆる場所に同じように乗るわけではありません。
先ほどの研究では、終夜の寝姿勢と体圧分布も調べています。仰向けでは臀部と足部に、横向きでは肩と臀部に、高い圧力がかかっていました[3]。体の中でも出っぱった部分に、荷重が集まりやすいことが分かります。
言いかえれば、同じマットレスでも、寝姿勢が変わると圧力が強くかかる場所は変わります。寝返りは、この「集まる場所」を入れかえている動きだと見ることもできます。ただし、この点を直接説明した資料は今回使っていないので、見方の一つとして読んでください。
では、圧力が分散していれば、よい寝心地になるのでしょうか。
圧力の分布は、寝姿勢によって異なる。終夜睡眠時の寝姿勢と体圧分布を調べた研究では、仰臥位では臀部と足部、側臥位では肩部と臀部に高い圧力がかかっていた[3]。いずれも骨の突出部に近い部位であり、前章の「骨の突出部の圧力を低くする」という体圧分散の目的と、対象となる部位が重なる。
寝返りによって、荷重を受ける部位が入れかわるとすれば、一つの姿勢で長く寝る場合に比べ、特定の部位に圧力が集中し続けることは減ると考えられる。ただし、この解釈は今回の資料が直接示したものではなく、筆者の推論である。
ここまでは、皮膚への圧力を扱ってきた。しかし寝心地は、皮膚の痛みだけでなく、背骨の形や、眠りの深さにも関係しそうである。圧力が分散していれば寝心地がよいのか。次の章で、別の研究を見る。
4. せぼねの かたちと、ねごこちは おなじ?
4. 背骨の形がよいことと、寝心地がよいことは同じなのか
4. 背骨のカーブと主観的な寝心地は、一致するのか
ねている ときの せぼねの かたちも、ねごこちに かんけいが ありそうです。ある けんきゅうでは、マットレスの かたさを、からだの した・まんなか・うえの ぶぶんで かえて、せぼねの かたちと ねごこちの よさを くらべました。
よこむきに ねて、からだを すこし まげた ときの せぼねの かたちに ちかかったのは、ある じょうけんでした。ところが、「ねごこちが いい」と かんじた ひとが おおかったのは、べつの じょうけんでした。
せぼねの かたちが よい ことと、ねごこちが いい ことは、いつも いっしょでは ないようです。
べつの けんきゅうでは、ていはんぱつと いう、ゆっくり もどる ざいりょうの マットレスで、ねむりが つづくか どうかの てんすうが ひくい ようすが みられました。これも、ひとつの けんきゅうの はなしです。
寝ている間の背骨の形も、寝心地に関わっていそうです。ある研究では、マットレスの硬さを、体の下部・中央部・上部で変えた条件を比べ、脊柱のカーブと夜間睡眠、主観的な評価を調べました。
横向きに寝て体幹と大腿の角度が135度のときの背骨のカーブに近かったのは、圧力分布が下部:中央部:上部で6:4:6 kPaの条件でした。ところが、「寝心地の良さ」という主観評価で高い評価を得たのは、6:4:8の条件でした[4]。背骨の形が理想に近いことと、本人が心地よいと感じることは、一致しませんでした。
最初に紹介した研究では、OSA睡眠調査票を使った評価もあり、低反発素材のマットレスで、睡眠維持の因子の得点が低くなっていました[3]。ただし、これらは限られた条件の研究結果で、好みの硬さと睡眠の質の関係には個人差もありそうです。
寝心地には、まだ別の要素もあります。温度です。
圧力の分布を、体の部位ごとに設計したマットレスで比べた研究がある。横臥位で体幹と大腿の角度が135度のときと近い脊柱カーブが得られたのは、下部:中央部:上部の圧力分布が6:4:6 kPaの条件だった。ところが、主観評価の「寝心地の良さ」で高い評価が得られたのは、6:4:8の条件だった[4]。
脊柱の形としてよい条件と、本人が心地よいと感じる条件が一致しなかった。したがって、客観的な指標と主観評価を、同じ「寝心地」の言葉で一つにまとめることはできない。どの条件が総合的に最もよいのかは、この資料だけからは断定できない。
素材の違いを見た調査もある。OSA睡眠調査票では、低反発素材のマットレスにおいて、睡眠維持の因子の得点が低かった[3]。ただし、これは一つの研究の傾向を示す結果であり、素材の優劣を一般化できるものではない。
マットレスの性能を、圧力だけで語れない理由はまだある。睡眠中は、温度という別の条件が加わる。
5. ねごこちには、あつさも かんけい するの?
5. 眠りの深さには、温度も関わっている
5. 睡眠中は体温調節が難しい:寝床の温熱環境という条件
あつい 夜は、ねむりにくい ことが あります。ある けんきゅうでは、あつさに さらされると、めが さめやすく なり、ふかい ねむりや、ゆめを みる ねむりが へる ことが わかって います。
ねている ときは、おきている ときのように、ふくを ぬいだり まどを あけたり しにくいので、からだの あつさを ちょうせつするのが むずかしく なります。そこで、ふとんの 中の おんどと しつどから、あつい か さむい かを おしはかる ほうほうも しらべられて います。
寝心地は、圧力だけでは決まりません。熱環境の研究では、高温の環境にさらされると、目が覚めやすくなり、レム睡眠と徐波睡眠が減ることが示されています[6]。
睡眠中は、起きているときのように服を調節したり窓を開けたりする行動が取りにくく、覚醒時と比べて体温調節が難しくなります。そのため、温熱環境が睡眠を妨げやすい、と研究者は述べています[5]。そこで、寝床内の温度と湿度から温冷感を推定し、適した環境へ導く方法も検討されています[5]。
ただし、今回の資料は、マットレスの素材と寝床内の温度との関係までは扱っていません。体圧、背骨の形、温度は、それぞれ別の研究で調べられた、寝心地の部品と考えるのがよさそうです。
寝心地を左右する条件として、温熱環境も欠かせない。睡眠中は行動性体温調節が行われにくく、覚醒時と比べて体温調節が困難になるため、温熱環境が睡眠阻害につながりやすい[5]。熱曝露は覚醒を増加させ、レム睡眠と徐波睡眠を減少させる[6]。
この前提に立つと、行動による調節が期待できない睡眠中には、環境の側で適した温熱条件を作る意味が出てくる。実際、行動性体温調節が行われなくても適した温熱環境へ導くために、寝床内温湿度から温冷感を推定する方法が検討されている[5]。
ただし、マットレスの素材が寝床内の温度にどう影響するかは、今回の資料からは分からない。圧力、脊柱の形、温熱環境は、別の研究で測られた、寝心地を構成する別々の条件と整理するのが妥当である。
6. てを つかって、ちからの ひろがりを たしかめよう
6. 指と手のひらで、同じ力の広がりを比べる
6. 圧力=力÷面積を手で確かめ、原典に当たる
きょう できる こと
つくえの 上に、うでを のせます。もう ひとつの てで、おなじ くらいの ちからで、ゆびを 1ぽんだけで おして みます。つぎに、てのひら ぜんぶで おして みます。ゆびの ほうが、ずっと つよく かんじます。ちからは おなじでも、おす ひろさが ちがうからです。
つよく おさないように、いたく ならない ところで やめましょう。
しらべる とき
おうちの ひとと、いろいろな クッションや ざぶとんに てを のせて、どの くらい しずむか、まわりが つつまれる かんじが あるかを くらべて みましょう。
家でできること
机に腕を置き、反対の手で同じくらいの力を加えます。まず指1本で押し、次に手のひら全体で押して、感じ方を比べてください。力が同じなら、押す面が広いほど、1か所あたりの圧力は小さくなります。これが、体圧分散の基本の考え方です。痛くなる前にやめましょう。
次に、クッションや座布団、折りたたんだ毛布など、硬さのちがうものに手のひらをのせ、沈み方や、手のまわりが包まれる感じを比べてみます。広く触れていても、押された感じが残る場所があるかを探してみてください。
原典を読むなら
日本褥瘡学会の一般向けページ[1][2]は、体圧分散寝具の目的が日本語で短くまとめられています。J-STAGEの論文[3][4]は、図や表を見ると、接触面積や最大体圧、評価の違いがどう示されているかが分かります。
手で確かめる
圧力は、力を面積で割った量である。机に腕を置き、同じくらいの力で指1本、次に手のひら全体で押して比べると、押されたと感じる強さがどう違うかを確かめられる。式では、力が同じなら面積が広いほど圧力は小さくなる。痛みの出ない力で行うこと。
クッション、座布団、折りたたんだ毛布のように硬さのちがうものに手をのせ、沈み込みと接触面の広がりを比べるとよい。第2章の「広く触れても最大体圧は変わらない場合がある」という結果と、自分の感覚が一致するかを観察できる。
原典を読むなら
日本褥瘡学会の一般向けページ[1][2]は、体圧分散寝具の目的と褥瘡の仕組みを日本語で述べる。J-STAGEの論文[3][4]は、測定条件(マットレスの硬さ、圧力分布の比、評価票)が書かれており、結果をどの範囲まで一般化してよいかを自分で判断できる。Support Surface Standards Initiative の用語集[7]は英語だが、体圧分散やボトミングアウトの定義を確かめられる。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
体圧分散の目的、褥瘡の仕組み、寝心地や睡眠に関する研究を、学会の説明と論文から確かめるために使いました。
- 日本褥瘡学会「褥瘡の予防について」 https://www.jspu.org/general/prevention/ (体圧分散用具の目的、褥瘡発生率、体位変換の間隔)
- 日本褥瘡学会「褥瘡について」 https://www.jspu.org/general/about/ (褥瘡が起こる仕組み)
- 「ベッドマットレスの硬さが終夜睡眠時の寝姿勢・体圧分布に及ぼす影響」 https://www.jstage.jst.go.jp/article/kasei/63/0/63_0_277/_article/-char/ja (接触面積、最大体圧、圧がかかる部位、低反発素材と睡眠調査票)
- 「マットレスの固さが脊柱カーブと夜間睡眠に及ぼす影響」 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jhesj/21/1/21_KJ00009357749/_article/-char/ja (脊柱カーブと寝心地の主観評価)
- 「寝床内温湿度を用いた温冷感推定方法の検討」 https://www.jstage.jst.go.jp/article/shasetaikai/2016.6/0/2016.6_221/_article/-char/ja (睡眠中の体温調節と寝床内温湿度)
- 「環境温湿度と睡眠」 https://www.jstage.jst.go.jp/article/josm/2/2/2_89/_article/-char/ja (熱曝露と睡眠段階)
- Support Surface Standards Initiative, Terms and Definitions (2019). https://cdn.ymaws.com/npiap.com/resource/resmgr/terms_and_defs_nov_21_2019_u.pdf (体圧分散とボトミングアウトの定義)
なおした ところ
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