2. 1頭の クマが、牧場を おどろかせた
2. 4年間、同じクマが牛を襲いつづけた
2. 「OSO18」:1頭のヒグマが北海道東部の牧場に与えた影響
北海道の 東の 町、しべちゃちょうと あっけしちょうでは、2019年から 4年の あいだに、草はらに いた 牛 65頭が、同じ ヒグマに おそわれた、と 見られて います[2]。この クマは「OSO18(オソ18)」と よばれました。
町は、クマの 体の 毛や ふんを しらべたり、カメラに うつった すがたを 見たり して、同じ 1頭だと 考えました。
ヒグマは ふつう、山の 草や 木の 実、虫を 食べて くらします。大学の 先生は、肉や 魚を 1度も 食べずに 一生を おえる クマも めずらしく なかった、と 話して います[2]。OSO18の ように 牛を おそう クマは、めずらしいと されました。
では、牧場や 町は、どうやって 牛を まもったのでしょう。その 前に、かかった お金を 見て みます。
65頭を襲った、1頭の雄
北海道東部の標茶町と厚岸町では、2019年から4年間に、放牧中の牛65頭が、同じ雄のヒグマ「OSO18(オソ18)」に襲われたと、両町は見ています。体毛やふんの分析と、自動撮影カメラの映像から判断したものです[2]。年別では、2019年28頭、2020年5頭、2021年24頭、2022年8頭でした。
クマは、ふつう肉をあまり食べない
酪農学園大学の佐藤喜和教授によると、ヒグマの主食は山の草木、木の実、昆虫です。かつては、肉や魚を口にせず一生を終えるクマも珍しくありませんでした。OSO18は、ここまで肉食化したクマは珍しい、とされました[2]。なぜ肉食化したのかは、資料では断定されていません。
北海道のヒグマによる被害は、大半が農作物で、家畜への被害は道東などで報告されるようになってきた段階とされます[3]。数が少ない被害でも、町にとっては大きな出来事でした。その大きさは、お金にも表れました。
北海道東部の標茶町と厚岸町(標茶=しべちゃ、厚岸=あっけし)では、2019年から4年間に放牧中の牛65頭が、同じ雄のヒグマ「OSO18(オソ18)」に襲われたと、両町は体毛やふんの解析と自動撮影カメラの映像から見ている[2]。内訳は2019年28頭、2020年5頭、2021年24頭、2022年8頭である。なお、報道には65頭と66頭の二通りの数字があり、ここでは町の見解にそった65頭を使う。
この事例が注目されたのは、ヒグマが肉食に偏ることが少ないからである。酪農学園大学の佐藤喜和教授の説明では、主食は山の草木・木の実・昆虫で、かつては肉や魚を口にせず一生を終える個体も珍しくなかった。そのためOSO18は「ここまで肉食化したクマは珍しい」とされた[2]。報道では、シカの死体が放置されたことが背景かという推測も出ているが、原因は確定していない。
北海道全体で見ると、ヒグマによる被害の大半は農作物で、家畜被害は道東などで報告されるようになった段階にとどまる[3]。家畜被害は農作物より少なく、全体の規模は、この記事で使う資料だけでは数字にできない。では、1頭の個体による被害に、町はどう対応し、いくらかかったのか。
3. 牛の ひがいより、まもる お金が 大きかった?
3. 被害額より、守る費用のほうが大きかった
3. 被害額と防除対策費:厚岸町では約13倍の差になった
しべちゃちょうでは、牛の ひがいの お金が 2180万円でした。クマを ふせぐ ための お金は 2190万円で、ほとんど 同じです[2]。
あっけしちょうは もっと おどろきです。牛の ひがいは 80万円でしたが、電気の さくを つくる ために 1030万円 かかりました。1030を 80で わると、およそ 13に なります。まもる お金が、ひがいの 13ばいです。
ただ、電気の さくは 1ど つくると 10年ほど 使えると いわれます[3]。10年 使うと して、1030万円を 10で わると、1年あたりは 100万円ほどです。ひがいの 80万円が 何年ぶんかは 分からないので、年を そろえて くらべる ことは できません。
では、その さくは どんな ふうに クマを とめるのでしょう。
標茶町はほぼ同額、厚岸町は約13倍
北海道新聞の報道によると、標茶町では、牛の被害額が2180万円、防除対策費が2190万円でした。厚岸町では、牛の被害が80万円、電気柵の設置に1030万円がかかっています[2]。
厚岸町の1030万円を80万円で割ると、約12.9、つまり約13倍です。被害が出たあとの損害より、被害を防ぐための費用のほうが大きくなりました。
電気柵は、1回買えば長く使える
ただ、電気柵は一度買うと10年程度もつとされます[3]。仮に10年使えば、1030万円は1年あたり約100万円です。ただ、被害額が何年ぶんなのかは資料に書かれていないため、年あたりで単純に比べることはできません。
では、電気柵はクマをどう止めるのでしょうか。
北海道新聞の報道では、標茶町は牛の被害額2180万円に対し防除対策費が2190万円、厚岸町は牛の被害80万円に対し電気柵の設置に1030万円であった[2]。標茶町はほぼ同額、厚岸町は1030÷80で約12.9倍、つまり約13倍である。
被害額を上回る支出は、一見すると割に合わない。しかし柵は、すでに出た被害を埋め合わせるお金ではなく、これから起きるかもしれない被害に備える費用である。報道は被害額と防除対策費を並べて示しているが、内訳や、被害を防げたかどうかまでは示していない。
また、電気柵は一度購入すると10年程度もつとされる[3]。仮に10年使えば、厚岸町の1030万円は1年あたり約100万円となる。ただし被害額の対象期間は報道に示されておらず、年あたりでの単純な比較はできない。また、電気柵が放牧牛の被害を防げたかを検証した公的資料は見つかっていないため、効果は断定しない。
では、電気柵はどのような仕組みで、どんな条件のもとで使うのか。
4. 犬や さくや 見まわりで、牛を まもる
4. 電気柵、番をする犬、見回り人:守り方にはそれぞれ得意な場所がある
4. 非致死的な防御手段:電気柵・番をする動物・見回り・旗つきロープの条件と限界
北海道の 電気の さくは、クマが さわった ときに、びりっと する ことで、「ここは あぶない」と 思わせる ものです[3]。さくの 下に すきまが あったり、草が のびて いたりすると、入られやすく なります。だから、草を かる ことも 大事です。
アメリカでは、牛を まもる 犬も います[4]。犬は 牛の むれに なじんで、見まわったり、においを つけたり、あぶないと しらせたり、立ち向かったり します。2頭 いじょう いる ほうが よいと されます。
ほかにも、夜だけ 牛を 電気の さくで かこんだ 場所に 入れる、見まわりの 人(レンジライダー)が 回る、などの 工夫が あります。
これらは、どれも 動物の いのちを うばわずに まもる やり方です。
電気柵:物理的な壁ではなく、警戒させる仕掛け
北海道のヒグマ対策の電気柵は、触れたときの電気ショックで、クマに警戒心をもたせるものです。壁のように物理的に防ぐものではありません。柵の下に隙間があると入られやすいので、隙間をふさぎ、下草を刈ることが大切です[3]。
アメリカの牧場の、番をする動物と見回り人
コロラド州立大学の普及機関の資料は、番をする動物を挙げます。主に犬で、ラマやロバもいます。広い野原で効果が期待できるといいます。犬は群れになじみ、見回る、においをつける、警告する、立ち向かうといった働きをし、2頭以上いるほうがよいとされています[4]。
ほかに、夜だけ電気柵で囲った場所に牛を入れる方法、見回り人(レンジライダー)、電気を通した旗つきロープ(ファドリー)があります。ファドリーは、数エーカー以下(1エーカーは約4000㎡)の小さな場所で、約2か月以内の短期間に使うのが向くとされます。風や雪で隙間ができるとオオカミに突かれるので、こまめな点検が欠かせません[4]。
どの方法も、得意な場所と限界があります。では、こうした守り方は、昔からあったのでしょうか。
北海道のヒグマ対策の電気柵は、触れたときの電気ショックで警戒心を起こさせるもので、物理的に侵入を防ぐものではない。したがって柵の下の隙間や、伸びた下草が弱点になりやすい。隙間をふさぎ、下草を刈るという管理が前提であり、設置して終わりではない[3]。
米国コロラド州立大学の普及機関(Extension)は、捕食者対策として四つの手段を挙げる[4]。①番をする動物。主に犬で、ラマやロバも使われ、特に広く開けた場所に向く。犬は群れになじみ、見回り、においづけ、警告、立ち向かうといった役割を担い、2頭以上のほうがよいとされる。②夜間の囲い込み。電気柵で囲った場所に夜だけ牛を入れる。③見回り人(レンジライダー)。④旗つきロープ(ファドリー、fladry。電気を通すものはターボファドリー)。ファドリーは数エーカー以下(1エーカーは約4047㎡)の小さな場所で、約2か月以内の短期に使うのが向き、風や雪で隙間ができるとオオカミに突かれるため、こまめな点検が要る。
ここで見えてくるのは、道具ごとに「向く規模・期間・点検の手間」が決まっているということである。広い放牧地では番をする動物が、小さく短期の場所では旗つきロープが向く。電気柵も、点検しなければ効果が下がる。いずれも命を奪わずに守る方法で、「非致死的」と呼ばれる。では、こうした方法は昔からあったのか。
5. 昔の オオカミと、今の 守り方は ちがうの?
5. 北海道ではオオカミを駆除し、アメリカでは殺さない対策が増えた
5. 北海道のエゾオオカミ駆除と、米国で広がる非致死的な対策
むかし、北海道には「エゾオオカミ」が いました。いまから 150年ほど 前から、牛や 馬を おそう 動物と して、たくさん つかまえられ、1900年の ころまでに いなく なりました[5]。馬の ひがいは、それより ずっと 前から あった ことが 分かって います。
今の アメリカでは、動物の いのちを うばわずに まもる 工夫を 使う 牛の 農場が、ふえて きました。2000年に 3%ほどだったのが、2015年には 19%ほどに なったと されます[1]。
北海道のエゾオオカミ
北海道には、かつてエゾオオカミがいました。明治以降、家畜を襲う害獣として駆除され、1900年前後までに絶滅したとされます(絶滅の年は資料によって幅があります)。北海道大学の梅木佳代さんの研究では、馬への被害は江戸時代からあり、複数の地域で確かめられました[5]。
アメリカで、捕食者を殺さない対策を使う農場が増えた
アメリカでは、番をする動物や柵、見回りなど、捕食者を殺さずに守る対策を使う牛の農場が、2000年の3.1%から2015年の19.0%に増えたとされます[1]。一方で、子牛の死のうち捕食者によるものの割合は、1995年の3.5%から2015年の11.1%に増えました。割合の上昇だけからは、襲われる数が増えたのか、ほかの原因による死が減ったのかは分かりません。
数字を自分で確かめるには、どうすればよいでしょうか。
北海道のエゾオオカミは、明治以降、家畜を襲う害獣として駆除対象となり、強い狩猟圧のもとで1900年前後までに絶滅したとされる(絶滅年は資料により1889年、1890年ごろ、20世紀初頭と幅がある)。梅木佳代の研究によれば、馬への食害は江戸時代からあり、新冠牧場以外の複数の地域でも確かめられた[5]。家畜を守る手段が、かつては捕食者の駆除に傾いていたことがうかがえる。ただし被害の規模は、資料では数字にされていない。
米国では、番をする動物、柵、見回りなど非致死的な手段を使う牛の農場が、2000年の3.1%から2015年の19.0%に増えたとされる[1]。同じ資料には、子牛の死亡のうち捕食者によるものの割合が、1995年の3.5%から2015年の11.1%へ、約3.2倍に増えたという記述がある。
ただし、これは割合であり、捕食者による死亡数そのものが約3.2倍になったという意味ではない。ほかの原因による死亡が減っても割合は上がる。非致死的な対策の普及と、捕食者の割合の上昇は、同じ期間に並んで起きたが、一方が他方の原因だとは、この数字だけでは言えない。
6. ニュースの 数字を、わり算で たしかめよう
6. 報道の数字を、自分で割り算してみる
6. 数字の「分母」を確かめる:割合と費用を自分で再計算する
この ページの 数字は、じぶんで たしかめられます。紙と えんぴつを 用意して、やって みましょう。
まず、あっけしちょうの 1030万円を、80万円で わります。13ぐらいに なれば、合って います。つぎに、しべちゃちょうの 2190を 2180で わると、どう なるでしょう。1に ちかく なります。
もう 1つ。近くの 牧場や 公園で 電気の さくを 見かけたら、近づいて さわらずに、下に すきまが ないか、草が のびて いないかを 見て みましょう。電気が 流れて いる ことが あるので、手で さわっては いけません。
紙と鉛筆で、割り算をする
この記事に出てきた数字を、自分で計算できます。厚岸町の電気柵の費用1030万円を、被害額80万円で割ります。約13になれば合っています。標茶町の2190万円を2180万円で割ると、ほぼ1になります。
次に、「死んだ成牛100頭のうち、捕食者によるものは2頭」は、死んだ牛が100頭いたとすると約2頭、ということです。数は少なく見えても、牧場にとっては1頭1頭が大切な牛です。
柵を見かけたら、さわらずに観察する
牧場や公園で電気柵を見かけたら、近づいて触らずに、柵の下に隙間がないか、草が伸びていないかを見てみます。電気が流れていることがあるので、決して手で触ってはいけません。
この記事の数字は、自分で再計算できる。厚岸町は1030÷80で約12.9、標茶町は2190÷2180で約1.00となる。割合のほうは、100頭のうち2頭と、100頭のうち11頭を、自分の言葉で言い直してみるとよい。分母が「牛の総数」ではなく「死んだ牛」であることに気づけば、数字の意味が変わることが分かる。
さらに調べるなら、米国の数字はUSDAの原報告にあたり、本稿が使った要約の数字と照合できる。北海道の事例は、北海道新聞の記事と、各町の公表資料を読み比べると、65頭と66頭の食い違いの理由が分かるかもしれない。
なお、電気柵は、牧場や公園で見かけても決して手で触れないこと。見るだけにして、下の隙間や草の伸び具合を観察すれば足りる。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文は、ここにある資料の内容を自分の言葉で言いかえたものです。数字や名称は、資料によって細部が異なることがあります。米国の数字はUSDAの調査を伝える要約から確認したもので、原報告との照合はしていません。
- TSCRA, USDA NAHMS Report on Cattle and Calves Death Loss(USDA APHISの牛の死亡損失報告2015の要約) https://tscra.org/usda-nahms-report-on-cattle-and-calves-death-loss/ (米国の死亡原因と捕食者の割合、非致死的対策を使う農場の割合)
- 北海道新聞「オソ18 肉食化した謎を追う」 https://www.hokkaido-np.co.jp/article/762533/ (被害頭数、被害額と防除費、ヒグマの食性)
- 北海道新聞 ヒグマ農業被害の特集 https://www.hokkaido-np.co.jp/higuma/nogyo/ (電気柵の仕組み、家畜被害の位置づけ)
- Colorado State University Extension(捕食者対策の資料) https://extension.colostate.edu/?p=23068 (番をする動物、見回り、旗つきロープ)
- 北海道大学 梅木佳代 博士論文要旨 https://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/bitstream/2115/76328/1/Kayo_Umeki_abstract.pdf (エゾオオカミと家畜被害)
なおした ところ
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