1. 川の きしの 石は、なにを 守って いるの?
1. 洪水のたびに削られる川岸を、石が守っている
1. 洪水の流れに削られる堤防を、石を積んで守る
大雨が ふって 川の 水が ふえると、流れが とても 強く なります。そのままでは、川の きしや ていぼうが 水に けずられたり、くずれたり します[1]。
これを ふせぐために、きしに 石を つんだり、ブロックを おいたり します。この ことを 「ごがん」と いいます[1]。石の かべは、川の 力から きしを 守る よろいの ような ものです。
ところで、同じ 石の かべでも、作り方には ちがいが あります。大きく 2つに わけると、なにが ちがうのでしょうか。
2. 石を コンクリートで かためるか、かためないか
2. 分かれ目は、石の間をコンクリートで固めるかどうか
2. 練石積と空石積 ── 固めるか固めないかで分かれる二つの型
石の かべは、石と 石の あいだを コンクリートで かためるか どうかで、大きく 2つに わかれます[5]。
かためた ものは 「ねりいしづみ」、かためずに 石を くみ合わせて つんだ ものは 「からいしづみ」と よばれます[5]。おしろの いしがきも、からいしづみの なかまです[5]。
水の 力が 強い 川の そばで、かためない かべが 長く つかわれて きました。かためて いないのに、石の うしろの 土や すなは、どうして 出て いかないのでしょうか。
京都府の河川用語集は、石積みを大きく二つに分けています。石と石の間をコンクリートで固めたものが「練石積」、石を組み合わせて積み、コンクリートなどで固めないものが「空石積」です[5]。お城の石垣も空石積に入ります[5]。
固めない空石積は、日本の伝統的な河川護岸として長く使われてきました[2]。その一方で、強度や設計の方法については、まだ知見の足りない面があると水理実験の論文は述べています[2]。
水が通りぬけられるすき間があるのに、岸の土はなぜ流れ出さないのでしょうか。次の章で、その工夫を見ます。
京都府丹後土木事務所の河川用語集は、石積みを、石と石の間をコンクリートで固めた「練石積」と、石を組み合わせて積み、固めない「空石積」に分けている[5]。城の石垣は空石積の例である[5]。
空石積は日本の伝統的な河川護岸として長く用いられてきたが、強度や設計方法についての知見は十分でない、と水理実験の論文は書き出している[2]。長く使われてきた技術であっても、設計の拠り所が足りない部分があるという指摘は、固めない構造を調べる意味を示している。この不足を補うために行われた実験が、次章の中心である。
では、水が通れるすき間を残した構造で、最大の弱点になりうるのは何か。水が通るなら、石の裏の土砂も一緒に出ていくのではないか。
3. すきまから すなが 出て いかないのは、なぜ?
3. すき間だらけでも砂が出ないのは、石の裏に小石を詰めるから
3. 吸い出しを防ぐ裏込め材 ── 粒径と充填幅が効く水理実験
からいしづみの すきまを、水は とおりぬけられます。すると、石の うしろに ある すなが、水と いっしょに すきまから 出て しまう ことが あります。これを 「すいだし」と いいます[2]。
これを ふせぐ くふうが あります。石の うしろに、小さな 石や すなを つめて おく のです。これを 「うらごめざい」と いいます[2]。
水を ながす じっけんで、うらごめざいを つめると、すいだしを ふせげる ことが しらべられて います[2]。つめる 石が 小さく、つめる はばが 広いほど、よく きく という けっかでした[2]。
すきまの ある かべでも、うしろに 小さな 石が つまって いれば、すなは 出にくく なります。
ところで、石を つむ 人は、石の かたちだけを 見て いたのでしょうか。つぎは、むかしの つみ方を 見ましょう。
空石積の弱点として調べられているのが、「吸い出し」という現象です。水が石積みを通りぬけるとき、石の裏にある砂が、石と石のすき間から外へ出ていってしまうことがあります[2]。
土木学会の論文集に載った水理実験では、石の裏に小さな石や砂を詰める「裏込め材」を入れると、吸い出しを防げると報告されています[2]。しかも、詰める粒が小さく、詰める幅が広いほど効果が大きいという結果でした[2]。
見た目はすき間だらけでも、石の裏には粒の細かい詰め物が控えている、ということです。裏込め材は、外からは見えにくい場所で働く工夫です。
ただし、これは実験室での結果です。実際の川では、場所によって水の流れ方も土の性質も違います。では、昔の人はどんな石を、どんな地面の上に積んでいたのでしょうか。
固めない構造の弱点として、この水理実験が扱ったのが「吸い出し」である。水が石積みの間を通りぬけるときに、背後の砂がすき間から外へ流れ出す現象だ[2]。
論文は、石の裏へ小さな石や砂を詰める裏込め材を充填すれば吸い出しを防止できること、さらに裏込め材の粒径が小さく、充填幅が大きいほど効果が高いことを、水理実験で示している[2]。つまり、すき間があること自体が欠点なのではない。すき間の奥に何がどれだけ詰まっているかが、砂の流出を左右することが実験から読み取れる。
ここで注意したいのは、この結果が一つの水理実験の条件のもとで得られたものだという点である。粒径や幅の大小という傾向は分かるが、実際の護岸で最適な粒径と幅は、水の流れや土の性質によって変わるため、実験の数値をそのまま現場に当てはめることはできない。
石の裏の詰め物が砂の流出を抑えるなら、石積みの安定を支えているのは石そのものだけではない。では、昔の石積みは、石の形と、その下の地面を、どう扱っていたのか。
4. むかしの 石づみは、どんな 石を つかったの?
4. 自然の形の石を積む「野面積み」と、やわらかい地面の土台
4. 自然石を積む野面積みと、軟弱な地盤を支える「はしご胴木」
むかしの 石づみには、しぜんの 形の 石を、そのまま つみ上げる やり方が あります。「のづらづみ」と いいます[4]。古い しせつにも、この やり方が つかわれて きました[4]。
じめんが やわらかい ところでは、石の おもみで 石づみが しずんで しまいます。そこで、はしごの ような 形の 土台を 入れて、しずむのを おさえた れいが あります[4]。この 土台は 「はしごどうぎ」と いう 名前です。
石の 形だけでなく、石の 下の じめんにも 気を くばって いたのですね。
では、今の 工事では、石を どうやって とめて いるのでしょうか。
石井樋など、歴史のある石積みの構造物には、自然石を積み上げた「野面積み」の技が使われてきました[4]。「穴太積み」という呼び名も出てきますが、資料は、基本的には穴太積みとは自然石を積み上げた野面積みのことだと説明しています[4]。
石の下の地面にも工夫がありました。地面がやわらかい場所では、重い石の重みで石積みが沈むおそれがあります。そこで、はしごのような形をした土台「はしご胴木」を置いて、沈下を抑えた例が紹介されています[4]。
石積みの強さは、石の積み方と、足もとの地面への備えの両方で決まっていたと読めます。では、今の工事はどんな手順で石を支えているのでしょうか。
歴史的な石積みの代表として、石井樋などの構造物には自然石を積み上げる野面積みが用いられてきた[4]。資料は、穴太積みとは基本的には野面積みのことだと述べており、呼び名は二つあっても、自然石を積み上げるという核は同じだと説明していることが分かる[4]。
ただし、積み方が分かっただけでは、石積みが長持ちする理由の半分でしかない。地盤が弱い場所では、石の重みそのもので石積みが沈み、傾く危険がある。そこで置かれたのが、はしご状の土台「はしご胴木」で、沈下を抑える目的で設置されたと資料は記している[4]。
前章の裏込め材が石の背後を守る備えなら、はしご胴木は石の足もとを守る備えである。石を積む技術は、石の積み方の工夫と、前後と下の土への備えが組み合わさって成り立っていたことになる。では、現代の施工は、この考え方をどう受けついでいるのか。
5. 今の 工事では、石を どうやって とめるの?
5. クレーンで吊る前に石を洗い、鉄筋とコンクリートで止める
5. 石を洗う理由から見る現代の施工 ── 基礎工、石の向き、鉄筋、コンクリート
今の 川の 工事では、大きな 石を クレーンで つり上げて つみます。つる 前に、石に ついた どろや 氷を あらいます。つり上げる ときに すべって、じこに ならないようにする ためです[3]。
石を つむ 前には、土台を 作ります。わくを 立てて コンクリートを 入れ、石を うける 土台に します[3]。石は、けしきにも 気を くばって、平らな 面を 上に して おくように 心がけて います[3]。
石が たおれないように、石に あなを あけて、鉄の ぼうで とめます。石と 石の あいだには、のりの ような はたらきを する コンクリートを 入れて、くっつけます[3]。これが、さっきの 「ねりいしづみ」です。
石の かべの 足もとや、かべの かたむきにも、よび名が あります。
石を吊り上げる前に、まず石を洗います。表面についた泥や氷を落とすと、石の吊り込み作業のときの滑りを防ぎ、事故を防ぐためです[3]。北陸地方整備局の施工の説明には、そんな細かな準備も書かれています。
手順はこうです。まず型枠を組み、コンクリートを入れて、石を受けるための基礎工を作ります[3]。その上に石を並べるときは、石の平らな面を上にして、景観にも配慮します[3]。
石が倒れないように、石に穴をあけて鉄筋で固定します[3]。石と石の間には、接着剤の役目をするコンクリートを入れます[3]。これが、前に出てきた練石積の作り方です。
固めない空石積と固める練石積のどちらが長持ちするかを、数字で比べた資料は、ここで使ったものの中にはありません。ただ、石の足もとと斜面の傾きは、どちらの型にも関わる話です。
現代の施工の説明は、石を洗う場面から始まる。石の表面の泥や氷を洗浄するのは、石の吊り込み作業時の滑りを防ぎ、事故を防ぐためである[3]。重い石を扱うからこそ、積む前の準備が安全に直結する。
北陸地方整備局の説明では、積む手順は次のとおりである。まず型枠を組んでコンクリートを入れ、石を受ける基礎工を設ける[3]。その上に石を置くときは、石の平らな面を上にするよう心がけ、景観にも配慮している[3]。次に、石が転倒しないよう石に穴をあけ、鉄筋で固定する[3]。最後に、石どうしの接着剤にあたるコンクリートを投入して、一体として固める[3]。
これは、前章までの「練石積」の具体例である。空石積が石の組み合わせと裏込め材で安定を得るのに対し、練石積は鉄筋とコンクリートで石を固定する。もっとも、両者の耐久性を数値で比べたデータは、今回の資料から読み取れない。どちらが優れているかは、この資料からは言えない。
型の分類には、あと二つの見方がある。石積みの足もとの守り方と、斜面の傾きである。
6. 石の かべの 足もとと、かたむきの よび名
6. 足もとを守る根固工と、斜面の傾きによる呼び分け
6. 護岸と根固工の役割分担、「石積み」と「石張り」の勾配による区別
川の 水は、かべの 前の 川の そこも けずって しまいます。かべの 前の 川の そこが ふかく ほれすぎないように 守る ものを 「ねがため」と いいます[6]。かべと ねがための 2つで、きしを 守って います。
石を つかった かべは、かたむきでも よび名が かわります。かたむきが 急な ものは 「石づみ」、ゆるやかな ものは 「石ばり」です[5]。
護岸は、堤防の斜面を守る構造物です。その前にある川底、つまり河床が深く掘られすぎないように守る構造物は、根固工と呼ばれます[6]。壁だけでなく、足もとを守る役もいる、ということです。
明治の初めにオランダから伝わった「朶沈床」も、川底の砂が吸い出されるのを防ぐ伝統的な河川技術として紹介されています[4]。
斜面の傾きでも呼び名が変わります。京都府の用語集では、勾配が1割未満の急なものを「石積み」、1割以上のゆるやかなものを「石張り」と区別しています[5]。ふだん「石積み」とひとまとめにしていても、傾きによって呼び分ける決まりがあるのです。
護岸は堤防の法面、つまり斜面を守る構造物である。これに対し、護岸の前面にある河床を保護して、深掘れしすぎないようにする構造物が根固工である[6]。壁面だけでなく足もとの川底も守らなければ、護岸は成り立たない。
明治初期にオランダから伝わった「朶沈床」も、川底の砂が吸い出されるのを防ぐ伝統的な河川技術として紹介されている[4]。川底の吸い出しも、石の裏の吸い出しも、どちらも砂が抜ける問題として紹介されている。ただし二つの仕組みが同じかどうかは、ここで使った資料からは分からない。
もう一つの分け方は斜面の傾きである。京都府の用語集は、石を用いる工法のうち勾配が1割未満のものを石積み、1割以上のゆるやかなものを石張りと区別する[5]。同じ石材でも、斜面が急か緩いかで呼び名が変わる。
近くの 川で、石の かべを 見る ときの めあて
近所の川岸で、石積みの型を見分けてみる
近所の護岸を観察し、資料と見比べるための視点
川の ちかくに 石の かべが あったら、見て みましょう。川には 入らないで、はしや 土手の 上から 見ます。雨の 日や、水が ふえた 日は ちかづきません。大人と いっしょに 行きましょう。
見る ところは 3つです。石と 石の あいだが コンクリートで かためて あるか。石の 形が しぜんの ままか、そろって いるか。かべの かたむきが 急か、ゆるやかか。
大隅かせん国道じむしょは、きもつき川の 石づみの かべで、すきまが 魚の すみかにも なると しょうかい して います[1]。はしや 土手の 安全な 場所から 見える はんいで、かんさつ しましょう。身を のり出したり、きしへ おりたり しません。
家に かえったら、くにの やくしょの ページや 京都ふの ようご集で、見て きた かべの 名前を しらべて みましょう。
川の近くを歩いたときに、石積みの壁を見かけたら、次の三つを見てください。川には入らず、橋や堤防の上から、大人と一緒に見ることが大切です。雨の日や水が増えた日は、岸に近づきません。
見る点は三つです。石と石の間がコンクリートで固められているか。石は自然の形のままか、それともそろっているか。壁の傾きが急か、ゆるやかか。これで、練石積らしいか空石積らしいか、石積みか石張りか、ある程度見当がつきます。
大隅河川国道事務所は、肝属川の石積み護岸について、すき間が魚の住みかにもなると紹介しています[1]。石を積むのは、岸を守るためだけでなく、川の生きものにも関わる技術です。
見当がついたら、大隅河川国道事務所の護岸の説明や、京都府の河川用語集で、見てきた壁の呼び名を確かめると、見え方が変わります。
近所の護岸を観察するときは、橋や堤防の上から、安全な距離で行う。増水時や雨天は近づかない。見る視点は三つある。石の間がコンクリートで固められているか(練石積か空石積か)、石が自然の形か加工されているか(野面積みの特徴との照合)、斜面の勾配が急か緩やかか(石積みか石張りか)である。
見えにくいのは裏込め材と基礎工である。裏込め材は石の裏側、基礎工は石の下にあるため、外から確かめることは難しい。見えるのは石の表情とすき間であり、そこから構造を推測する。大隅河川国道事務所は、肝属川の石積み護岸について、すき間が魚の住処にもなると紹介しており、見た目の隙間が機能と生態の両方に関わりうる[1]。
観察のあとは、国土交通省九州地方整備局の護岸の解説、北陸地方整備局の石積み護岸の施工説明、京都府の河川用語集、大阪府の河川管理施設の説明、水理実験の論文に当たると、見てきた壁の名前と理由が結びつく。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文で使った資料です。年号や仕様は、各ページの最新の説明も合わせて見てください。
- 国土交通省 九州地方整備局 大隅河川国道事務所「護岸」 https://www.qsr.mlit.go.jp/osumi/river/chisui/chisui-gogan.html (護岸の役割、石積みのすき間と魚)
- 「水理実験による空石積み護岸の吸い出し現象と防止策に関する基礎的研究」(土木学会の論文集)J-STAGE https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscejhe/74/5/74_I_847/_article/-char/ja/ (空石積み、吸い出し、裏込め材)
- 国土交通省 北陸地方整備局「「石積み護岸」の施工について」 https://www.hrr.mlit.go.jp/jintsu/kouji/sekou/ishidumi.html (現代の施工の手順)
- 国土交通省 九州地方整備局「水利用の歴史等」 https://www.qsr.mlit.go.jp/saga/about/kasegawa/kasegawa_shiru/mizuriyo_rekishi.html (野面積み、はしご胴木、朶沈床)
- 京都府丹後土木事務所「河川用語集」 https://www.pref.kyoto.jp/tango/tango-doboku/river_term.html (練石積、空石積、石積みと石張りの区別)
- 大阪府「河川管理施設の役割について」 https://www.pref.osaka.lg.jp/o130110/kasenkankyo/kasenijikanri/kasenkanri_yakuwari.html (根固工)
なおした ところ
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