1. あかい きりみなのに、どうして しろみ魚なの?
1. 赤い切り身なのに、なぜ白身魚に入るのか
1. 赤く見えるサケが、白身魚に分類される理由
さかなを 赤み魚と しろみ魚に わける ことが あります。マグロは あかみ、タイや ヒラメは しろみと いわれます。
では、サケは? きりみは あかいのに、しろみ魚に わけられます[1]。
サケの 身は、マグロのように もとから あかい わけでは ないと いわれます[1]。サケの あかは、べつの ところから きた いろなのです。
では、その あかは、どこから やって きたのでしょう。
魚屋さんで、マグロの赤身とサケの切り身を並べて見たとします。どちらも赤いので、同じ仲間に思えます。ところが、サケは白身魚に分類されます[1]。
サケの身は、マグロのようにもともと赤いわけではないと説明されています[1]。サケの身の赤は、赤身魚の赤とは別のところから来た色です。
では、その赤はどこから来たのでしょうか。
マグロの赤身とサケの切り身は、どちらも赤い。それでも、サケは水産の分類では白身魚に入る。自治体の給食だよりでは、サケの身の色はマグロのようにもとから赤いわけではないと説明されている[1]。
そうなると、サケの身が赤い理由は、赤身魚の赤とは別に説明される必要がある。次に、その色素の出どころを調べる。
2. あかい いろは、だれが つくったの?
2. 赤い色は、藻を起点に、餌を通じてサケの体に入る
2. 色素の出どころ:動物は合成できず、餌から受けとる
サケの あかい いろの もとは、アスタキサンチンと いう 色素です。
さかなを ふくむ どうぶつは、この なかまの 色素を、ゼロから じぶんでは つくれません。たべものから もらいます[2]。もとを たどると、藻や 植物が つくった いろです[2]。
サケは、藻や、オキアミなどの ちいさな 甲殻類を ふくむ えさを たべます。その えさに ふくまれる 色素が、サケの 身に たまって、あかい いろに なると いわれます[3]。
つまり、あかい いろは、えさから サケの からだに はいって きた ものです。だれかから 手わたされる のでは なく、えさを たべる たびに、からだに たまって いきます。
では、サケの からだの なかの どこに、あかい バトンは とまって いるのでしょう。
赤い色の元は、アスタキサンチンというカロテノイドの色素です。魚を含む動物は、この仲間の色素を体の中でゼロから作ることができず、食べ物から取り入れます。もとをたどれば、植物や藻が作った色です[2]。
サケは川で生まれ、海で育つあいだに、藻やオキアミなどの小さな甲殻類を含む餌を食べます。その餌に含まれる色素が身にたまって、あのサーモンピンクになります[3]。オキアミなどの色も、もとをたどれば藻類に行きつく、と説明されています。
つまり、赤は、餌を通じてサケの体に入ってきた色です。食べるたびに体にたまっていくので、色素の出どころは、サケ自身ではなく餌にあります。
では、サケの体のどこに、この色素は置かれているのでしょうか。
サケの赤の正体は、カロテノイドの一種アスタキサンチンである。魚を含む動物は、カロテノイドを新たに合成できず、餌から取りこむしかない。北海道大学水産学部の研究報告は、色素の合成は、もとをたどると植物界に頼っていると述べる[2]。
では、サケはどこで色素を得るのか。川で生まれて海で成長するあいだに、アスタキサンチンを多く含む餌(藻類、オキアミなどの小型甲殻類)を食べ、その色素が筋肉に蓄えられて、身がサーモンピンクを示すという[3]。この色は、もとをたどれば藻類に由来すると説明される。
したがって、サケの赤は、餌を通じて取り入れられた色素である。この色素が筋肉の中で実際にどんな状態にあるのかが、次の問いになる。
3. あかい 色素は、筋肉の なかで なにを して いるの?
3. 赤い色素は、筋肉のたんぱく質にくっついている
3. 筋肉中の色素は、アクトミオシンの表面に結合しているとされる
サケの あかい 色素は、おもに 筋肉、つまり ふだん たべる 身の ところに たまって います[4]。
1989ねんの けんきゅうでは、色素の つぶが、筋肉の たんぱく質の ひょうめんに くっついて いると 考えられました[4]。
いろが ただ うかんで いるのでは なく、たんぱく質に つかまって いる ようすです。
ところが、この あかい いろは、サケが かわを のぼる ころに、うごき だします。
サケの赤い色素は、おもに筋肉に蓄えられています。1989年の日本水産学会誌に載った研究では、筋肉の中で色素の分子が、アクトミオシンという筋肉のたんぱく質の表面に結合しているとされました[4]。
色素が身の中をただ漂っているのではなく、たんぱく質につかまっている様子です。この研究の要旨だけを見た範囲では、結合のしかたまでは分かりますが、そのあとサケの体の中でどう動くかは、別の研究で説明されています。
その動きが起こるのは、サケが産卵のために川をのぼる時期です。
アスタキサンチンは、サケでは主に筋肉に蓄えられる。日本水産学会誌に1989年に載った、サケ筋肉中のアスタキサンチンとカンタキサンチンの存在状態の研究は、色素分子がβ-イオノン環の側で、アクトミオシン表面の疎水性の結合部位に結びつくとする[4]。アクトミオシンは、筋肉の収縮を担うたんぱく質である。
ここで参照できたのは要旨であり、結合の強さや、結合した色素がどれだけ動きにくいかは本文で確かめる必要がある。それでも、色素が筋肉に「置かれている」のではなく、筋肉のたんぱく質に「つかまっている」ことが示唆される。
その色素が、産卵期には筋肉を離れる。次の章で、その動きを見る。
4. かわを のぼる うちに、あかは どこへ いくの?
4. 川をのぼる産卵期に、赤い色素は筋肉から卵巣へ運ばれる
4. 性成熟にともない、カロテノイドは筋肉から卵巣と皮膚へ動員される
サケは、産卵の ために、うみから かわを のぼります。この ながい たびの あいだに、からだの なかで ふしぎな ことが おこります。
シロザケを しらべた けんきゅうでは、おとなに なる にしたがって、筋肉に あった 色素が、皮膚と 卵を つくる ところに はこばれると ほうこくされました[2]。
卵を つくる ところでは、アスタキサンチンが いちばん おおい 色素でした。卵の いろは、色素によると せつめいされて います[2]。
ただし、「なぜ うつすのか」は、この けんきゅうでは 言いきれません。どれくらい うつるのかも、数字では わかりません。
では、この あかい いろは、サケの ほかにも いるのでしょうか。しろい サケの はなしも あります。
サケを含むサケ科の魚は、体が成熟していくにつれて、筋肉にたまっていたカロテノイドが皮膚と卵巣へ運ばれます。北海道大学の研究では、シロザケが産卵のために川をのぼるあいだに、卵巣のカロテノイドの総量が大きく増え、いちばん多いのはアスタキサンチンでした[2]。
イクラは、この卵巣の卵です。サケ科の卵の黄色や橙色、赤色は、卵の表面ではなく、卵黄に含まれるカロテノイドによるものだと述べられています[2]。イクラの赤には、産卵期に筋肉から卵巣へ運ばれると報告されている色素がかかわっていると考えられます。
ここで、注意したいのは「なぜ運ぶのか」です。卵を守るためなのか、ほかの理由なのかは、この研究の範囲では断定できません。また、どれだけの割合が身から卵へ動くかも、示されていません。
この色素の動きを、養殖のサケはどう扱っているのでしょうか。
サケ科魚類では、性成熟が進むにつれて、筋肉に蓄えられていたカロテノイドが動員され、皮膚(体表)と卵巣へ運ばれる。北海道大学水産学部の研究報告によれば、シロザケの卵巣では、産卵のために川をのぼる期間にカロテノイド総量が大きく増え、主成分はアスタキサンチンであった[2]。
サケ科の卵の鮮やかな黄・橙・赤の色は、同じ報告によると卵黄中のカロテノイドに由来する。したがって、イクラの赤は、産卵期に筋肉中のカロテノイドが卵巣へ運ばれると報告されていることと、卵の色が卵黄中のカロテノイドによることを合わせて説明できる。「卵の表面が赤い」のではなく、卵黄が色づいている点に注意が要る。
ただし、研究が示すのは色素の移動という事実までである。なぜ運ぶのかについて、卵を守るためだと断定する根拠は資料にない。「親が子のために色を渡す」という説明は、人の気持ちに引きつけた読み方であり、採らない。また、筋肉の色素のうち何割が卵へ移るのかという数字も、今回の資料にはない。
では、野生の餌を食べない養殖のサケは、赤をどこから得ているのだろうか。
5. ようしょく魚の サケは、なにを たべて あかく なるの?
5. 養殖のサケは、赤い餌を食べて赤くなる
5. 養殖サケの赤は、餌に加えたカロテノイドで作られる
いけすで 養殖される サケは、ふつうの えさでは、オキアミの ような ものを たべません。そのままでは、あかい 身に なりません。
そこで、えさに アスタキサンチンなどを くわえて います[3]。
えさに くわえる アスタキサンチンは、野生の サケが もつ ものと おなじ ぶっしつです。あかい いろが どこから くるか しって いると、スーパーの サケが ちがって 見えて くるかも しれません。
養殖のサケは、ふつうの餌のままでは、野生のサケのようにオキアミの仲間をたくさん食べません。そのため、餌にカロテノイド(アスタキサンチンなど)を加えて、赤い身に育てています[3]。
加える色素は、野生のサケが持っているのと同じ物質です。「着色料でだましている」とも、「すべて天然」とも言い切れません。野生のサケは餌から、養殖のサケは飼料に加えた色素から、赤を取り入れています。
スーパーで赤いサケを見かけたら、この色素の旅を思い出せます。
養殖サケは、通常の飼料ではオキアミ類のような甲殻類を食べないため、飼料にカロテノイド(アスタキサンチンなど)を加えて赤い身にしている。ダルハウジー大学の解説によると、加えるカロテノイドは合成もでき、野生のサケが持つものと同じ物質である[3]。
「着色料でだましている」とも「すべて天然」とも簡単には言えない。野生のサケは餌から、養殖のサケは飼料に加えた色素から赤を取り入れており、動物はカロテノイドを合成できないという第2章の説明と合う。
では、この色素を取りこむ仕組みそのものが、個体によって違うことはあるのだろうか。
6. まっしろな サケが いるって ほんとう?
6. 身も卵もまっ白になる、キング・サーモンもいる
6. キング・サーモンには、色素の取りこみが遺伝的に異なる白い個体がいる
カナダの かわに いる キング・サーモンには、皮膚も 卵も 身も、しろい ものから、こい あかまで います[5]。
しかも、あかと しろが、ほぼ おなじ くらいの わりあいで、おなじ かわで いっしょに くらして います。おたがいに 卵を うんで、こどもを つくります[5]。
この ちがいは、色素を からだに ためる しくみが、遺伝で ちがって いる ことから きて いると ほうこくされて います。しろい からと いって、びょうき とは かぎりません。
サケの あかには、たべものと、生まれつきの からだの しくみの りょうほうが かかわっています。
北アメリカにすむキング・サーモン(チヌーク)には、色素の取りこみ方の遺伝的なちがいがあり、皮膚も卵も身も、白いものから濃い赤までいます。カナダのケスネル川では、赤と白がほぼ同じ割合で同じ川にすみ、たがいに交配します[5]。
2016年の研究は、赤と白で、免疫にかかわる遺伝子への自然選択のかかり方がちがう可能性を示しました。理由として、色素の使い方の差があるかもしれない、と述べられています[5]。色素が免疫を助けると決まったわけではなく、あくまで「かもしれない」の段階です。
ここで紹介したのは、日本のシロザケではなく、別の種類のサケの話です。それでも、このキング・サーモンの例では、赤は「食べれば必ず赤くなる」ものではなく、体の仕組みにも左右される可能性が分かります。
キング・サーモン(Chinook)には、カロテノイドの沈着に影響する遺伝的多型があり、皮膚・卵・身の色が、白から濃い赤まで大きく異なる個体がいる。カナダ・ケスネル川では、赤い型と白い型がほぼ同じ割合で同じ川に暮らし、互いに交配する[5]。
さらに、この2016年の論文は、赤と白で免疫関連遺伝子にかかる自然選択のちがいを示唆し、その背景に色素の使い方の差がある可能性を挙げた[5]。「可能性」という強さで述べられており、色素が免疫を助けると断定する段階ではない。また、白いから病気や栄養不良だと読むこともできない。
この報告は要旨の範囲で読んだもので、日本のシロザケ(chum)とは別種の話である。それでも、このキング・サーモンの例では、赤が「餌に含まれる色素」と「体が色素をどう扱うかという遺伝」の両方にかかわることを示している。
自分でも しらべて みたく なったら
自分でも調べてみたくなったら
自分でも調べてみたくなったら
おうちに サケの きりみと イクラが あれば、いろを くらべて みましょう。産卵の ころに、あかい 色素が 卵へ はこばれると せつめい されて います。
もっと しりたい ひとは、おうちの ひとと いっしょに、しりょうを 読んで みましょう。
今日できること:スーパーや家で、サケの切り身とイクラの色を見比べ、赤の出どころを家の人に説明してみましょう。産卵期に筋肉から卵巣へ運ばれると報告されている色素が、イクラの赤にかかわっています。
もっと調べたいときは、下の出典欄の北海道大学水産学部の研究報告などを開くと、色素の移動や、キング・サーモンの遺伝の話を、原文で読めます(英語の資料もあります)。
今日できること:切り身とイクラの色を見比べ、赤の出どころを自分の言葉で家の人に説明してみる。
原典に当たる場合は、出典欄の北海道大学水産学部研究彙報(シロザケ卵巣のカロテノイド)と、ダルハウジー大学の解説、キング・サーモンの遺伝的多型の論文を、この順に読むとよい。筋肉中のアクトミオシンとの結合の研究は、要旨だけでなく本文を確かめたい。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文で使った資料です。要旨や一般向けの解説だけを見た部分は、本文でそのように書きました。
- 深谷市『給食だより』2022年9月号 https://www.city.fukaya.saitama.jp/material/files/group/3/202209_32.pdf (サケが白身魚に分類される説明)
- Ando, S. (1986) 北海道大学水産学部研究彙報 37(4):309-313 https://hdl.handle.net/2115/23933 (カロテノイドの由来、産卵期の移動、卵の色)
- Dalhousie University News (2023-03-21) https://www.dal.ca/news/2023/03/21/farmed-salmon-colour-healthy-antioxidant.html (サケの餌と養殖魚の飼料)
- 日本水産学会誌 55(9) (1989) 国立国会図書館サーチ https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R000000016-I0017391694 (筋肉中の色素の存在状態。要旨)
- Lehnert, S. J. et al. (2016) Molecular Ecology 25(6):1259-1274 https://scholar.uwindsor.ca/glierpub/87 (キング・サーモンの白い個体。要旨)
なおした ところ
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