1. さらさらの すなは、どうして あなを たもてるの?
1. 乾いた砂は崩れるのに、湿った砂はなぜ穴を保てるのか
1. 砂粒の間の水が、崩れない穴の土台になる
スナガニは、すなはまに あなを ほって くらす 小さな カニです[2]。
あなが くずれない ひみつは、すなの つぶと つぶの あいだに ある 水です。すなの おしろを しらべた けんきゅうでは、ぬれた すなの かたさは、つぶの あいだに できる、水の 小さな「はし」から 生まれる と せつめい されて います[1]。この はしを、キャピラリーブリッジと いいます。
水の はしが つぶどうしを 引き あうので、すなが ひとかたまりに なります。反対に、からからの すなには この はしが ありません。からからの すなは、じぶんの おもさを ささえる ことも できない と されて います[1]。
ためしに、水を すこし ふくんだ すなで お山を つくると、あなが あいても もちこたえます。スナガニの あなも、おなじように、しめった すなの 力で たって いる のだと 考えられます。
砂浜でさらさらの砂に穴を掘ろうとすると、周りからすぐに崩れてきます。ところが海辺の砂が湿っていると、手で掘った穴の壁は意外なほどしっかり立ちます。
砂の城を調べた研究では、湿った砂でできた城の固さは、砂粒の間にできるキャピラリーブリッジ(毛管橋)から生まれると説明されています[1]。砂粒どうしの小さなすき間に水がたまって橋のようにつながり、粒を引きよせるのです。これは表面張力のはたらきとして知られています。反対に、乾いた砂にはその橋がありません。そのため、乾いた砂は自分の重さを支えることさえできないと書かれています[1]。
スナガニは、砂浜に穴を掘って暮らす小型のカニです[2]。砂の城の研究は、カニの穴そのものを調べたものではありません。それでも、湿った砂の固さの理由は、スナガニの穴の壁にも当てはまるはずです。では、水は多いほどよいのでしょうか。
2. みずが おおければ おおいほど、かたく なるの?
2. 水が多すぎても、穴は崩れてしまう
2. 最も安定な含水率は約1%:水は多すぎても構造を壊す
みずが おおければ、もっと かたく なりそうですが、そうでは ありません。すなの おしろの けんきゅうでは、みずが おおすぎると、じめんが ずるずる すべる ときのように、かたちが ふあんてい になる と せつめい されて います[1]。
いちばん あんていした すなの おしろは、すなの おもさの うち、みずが やく 100分の1しか ありません[1]。びっくりするほど、ほんの すこしの みずです。
すくなすぎても、おおすぎても、だめ。ほどよい しめりけの すなだけが、かたまる のです。
水があるほど固まる、というわけではありません。同じ研究によると、砂の城をつくれるのはわずかな水分を含む砂だけで、水が多すぎると、地すべりのときのように構造が不安定になります[1]。
最も安定な砂の城の含水率は約1%、つまり砂の重さの100分の1ほどの水です。しかも、城の最大の高さは、底面の直径に左右されることが示唆されています[1]。細く高いものほど、土台を広くしなければ立てないということです。
ここで大事なのは、約1%という数字は砂の城の実験で得られたもので、スナガニの穴の数字ではないことです。それでも、「少なすぎても多すぎてもだめで、ほどよい湿り気にしか安定がない」という形は、砂浜の穴を考えるときの手がかりになります。では、スナガニは、そのほどよい砂浜をどう選んでいるのでしょうか。
水は多いほど強いのではない。紹介された研究では、砂の城がつくれるのはわずかな水分を含む砂だけであり、水分が過剰になると地すべりのように構造が不安定化する[1]。最も安定な城の含水率は約1%と非常に低く、最大可能高さが底面の直径に依存することも示唆されている[1]。含水率1%は、砂の質量の100分の1が水ということである。
ここには二つの限界がある。第一に、水が少なければ橋が足りず、多ければ粒間が水で満たされて橋としてはたらかず、崩れやすくなる。第二に、高さが底面に依存するため、細長い構造ほど不利になる。ただし、約1%はあくまで砂の城での値で、実際の砂浜やスナガニの巣穴に直接あてはめることはできない。
では、この「ほどよい湿り気」を、スナガニはどのように手に入れているのか。
3. スナガニは、どんな すなはまを えらぶの?
3. スナガニは、穴が保てる湿り気の砂浜を選んでいる
3. 巣穴の分布と砂浜の含水率:穴が保てる湿り気の場所に掘られている
すなはまの すなは、どこでも おなじ しめりけでは ありません。うみに ちかい ところと、はなれた ところでは、すなの しめりぐあいが ちがう ことが あります。
スナガニの あなが ある ばしょを しらべた けんきゅうが あります。それによると、あなの ばしょは、すなはまの みずの ふくみぐあいで きまる ようだ、と しめされて います[3]。スナガニの あなは、あなの かたちが たもてる しめりけの ばしょに あります[3]。
つまり、スナガニは、くずれない ばしょを えらんで すんで いる と いえそうです。
砂浜は、波打ちぎわに近いほど湿り、離れるほど乾きます。同じ砂浜の中でも、穴を保てる場所と保てない場所があるはずです。
科学研究費の報告書は、スナガニの巣穴が砂浜のどこにあるか(空間分布)を調べ、主に砂浜の含水率によって決まっていることが示唆されたと述べています[3]。また、巣穴は、穴の構造が安定して存在できる含水率の範囲の砂浜に掘られているとも書かれています[3]。
つまりスナガニは、どこにでも穴を掘れるのではなく、砂の湿り気がちょうどよい帯の中に住んでいると考えられます。砂が乾きすぎれば穴は崩れ、水が多すぎても不安定になる、という前の章の話とつながります。ただし、スナガニがどうやって湿り気を見分けているのかは、この資料からは分かりません。
砂浜の含水率は、水際からの距離や地下水位によって連続的に変わる。科研費の研究成果報告書は、スナガニの巣穴の空間分布が主に砂浜の含水率によって支配されていることが示唆されたと報告している[3]。さらに、巣穴は穴構造が安定的に存在し得る含水率領域の砂浜に掘られているとされる[3]。
これを前章と合わせると筋が通る。含水率が低すぎる領域では粒間の水の橋が足りず、高すぎる領域では砂が不安定になる。その間の領域にだけ、穴が安定して残る。巣穴の分布は、含水率で引かれた帯の内側に収まる、という読み方ができる。
ただし「示唆された」という表現のとおり、これは因果を断定した結論ではない。含水率は巣穴の分布と強く結びつく要因だが、カニが含水率を直接感知して場所を選ぶのか、結果として安定な場所にだけ穴が残るのかは、この資料では区別されていない。
4. あなの かたちにも、くずれにくい くふうが あるの?
4. 入り口が細いとっくり型の穴には、どんな意味があるのか
4. スナガニの巣穴は、徳利型の入り口や、地下水に届くとU字型になる
スナガニの あなは、まっすぐ したへ のびて います。いりぐちが 小さく、おくが 大きい、とっくりの ような かたちを して います[4]。
いりぐちを かためて、小さな えんとつの ように している のかも しれません。かわくのを ふせぐ ためと 考えられて います[4]。
ふかさは、ふつうは 30センチくらいと いう ほうこくが あります[3]。50センチから 1メートルに なる こと も あると いう しりょうも あります[5]。
もし じめんの みずが ある ところまで ほりすすむと、あなは ぎゃくに 上へ のびて、Uじの かたちに なります[4]。いちばん おくが しめった ままに なるよう、あなを ほると されて います。
スナガニ類の巣穴は、入り口が砂中の部分の直径に比べて小さく、細長いとっくり型で、ほぼ垂直に作られています[4]。入り口を補強して小さなチムニー状にしているのかもしれない、という見方も紹介されていて、乾燥への対策と読まれています[4]。
深さについては、資料によってちがいがあります。野外調査では、典型的な巣穴の深さは0.3 m(30センチ)ほどと報告されています[3]。一方、富山市科学文化センターの解説は、50センチから1メートルに達することもあると紹介しています[5]。典型的な穴は30センチほどで、深いものは1メートルに及ぶことがある、と並べて受けとるのが無理のない読み方です。
穴が深くなって地下水位に達すると、今度は上へ向かって巣穴を伸ばし、最後はU字型になるといいます[4]。最深部が湿った状態に保たれるつくりです。
鹿児島大学総合研究博物館のニュースレターによると、スナガニ類の巣穴は、入り口が砂中の部分の径に比べて小さい細長い徳利型で、ほぼ垂直に作られる[4]。同じ資料は、入り口を補強して小さなチムニー状にしているのかもしれないと述べ、その意味を乾燥対策と読んでいる[4]。「かもしれない」という推測の形であり、確定した説明ではない。
深さは資料で幅がある。科研費の研究成果報告書は、フィールド調査での典型的な巣穴の深さを0.3 m程度としている[3]。富山市科学文化センターの解説は、50 cmから1 mに達することもあるとしている[5]。典型値と最大級の例を区別して読めば、矛盾はない。なお、浅い側が0.3 mにとどまる理由は、この資料では説明されていない。
地下水位に達すると、巣穴は上方へ伸長してU字型になるとされる[4]。穴の底が地下水位の近くにあれば、最深部は湿潤に保たれやすい。湿り気が穴の形と関わっている可能性を示す記述である。
5. あなの いりぐちに ある、小さな すなの だんごは なに?
5. 穴の入り口の砂団子は、穴を固めたあとなのか
5. 入り口の砂団子:食事のあと、と考えられている
スナガニの あなの いりぐちには、5ミリくらいの すなの だんごが たくさん ならんで います[5]。
これは、あなを かためた ざいりょうでは なさそうです。スナガニは、小さい ほうの はさみで、すなの 上の たべものを すなごと 口に いれます。そして、すなだけを だんごに して すてる と いわれます[6]。だんごは、ごはんの あとに のこる すなの かたまりだと 考えられて います。
だんごが あなの つよさに どう かかわるかは、まだ はっきり していません。
巣穴の入り口には、直径5ミリほどの砂のダンゴがたくさん見られます[5]。穴を固める材料のように見えますが、ブリタニカ国際大百科事典の記述は、別の見方を示しています。スナガニは小さいほうのはさみで砂の上の有機物を砂ごと口に入れ、砂はダンゴにして捨てる、というのです[6]。入り口の砂団子は、この食事のあとと考えられます。
では、砂団子は穴の強さに関係しないのでしょうか。入り口を砂団子でふさぐ行動が穴の強さにどんな役割を果たすかは、使った資料の範囲では分かっていません。穴の強さをつくっているのは、前の章までの、砂粒の間の水と、穴の形だと考えられます。
穴の入り口の砂団子は、直径5 mm程度のものが多数見られる[5]。ブリタニカ国際大百科事典の記述では、スナガニは小さいほうの鋏で砂上の有機物を砂とともに口に入れ、砂は団子にして捨てる[6]。この記述から、入り口の砂団子は摂食の際に出る砂のかすと考えられる。ただし、これは資料の記述を組み合わせた推定であり、団子の起源を直接観察して示したものではない。
巣穴の強度との関係は未解決である。入り口を団子でふさぐ行動が強度の維持にどう関わるのかは、今回の資料では分からない。
以上から、砂の穴を支える要因は、砂粒間の水の橋、含水率が適した場所の選択、細長い徳利型や上方へ伸びるU字といった形の三つに整理できる。深さが典型的には0.3 m程度にとどまる理由など、残された問いも多い。
6. すなばで、水の ちょうどよさを たしかめよう
6. 砂場で「ちょうどよい湿り気」を確かめる
6. 砂の湿り気と穴の安定を、自分で確かめる
すなばの すなと、コップに 水を 用意して ためして みましょう。
①からからの すなで 山を つくります。②ほかの すなに 水を 少しずつ まぜて、手で ぎゅっと すると かたまる くらいに します。③その すなで 山を つくって、ゆびで あなを あけます。④水を いれすぎた どろどろの すなでも、おなじ ことを やって みます。
あなが たもてる のは、どれでしょう。からから と どろどろは、たぶん くずれやすい はずです。
すなを 目に いれない ように して、おわったら 手を あらいましょう。うみで スナガニの あなを 見つけたら、さわらずに 見るだけに して、あなを こわさない ように します。
砂場の砂と水を使って、「ちょうどよい湿り気」を確かめられます。
用意するのは、乾いた砂、コップの水、スプーンです。①乾いた砂で山を作り、指で穴を開けます。②別の砂に水を少しずつ混ぜ、握ると固まるくらいにして、同じ穴を開けます。③水を足しすぎてどろどろにした砂でも、同じことを試します。どの湿り具合で、穴の壁がいちばん長く立っているかを見くらべます。
砂が目に入らないよう注意し、終わったら手を洗ってください。海辺でスナガニの穴を見つけたときは、入り口の形と、周りの砂団子を見るだけにして、穴は壊さないようにします。
砂の城の研究と、スナガニの巣穴の研究(鹿児島大学の資料、科研費の報告書)は、出典欄から読めます。含水率という言葉が、どちらにも出てくるのを探してみてください。
砂場の砂と水で、含水率による安定性の違いを再現できる。乾燥砂、握って固まる程度の湿り砂、水を足しすぎた砂の三条件で、同じ太さの穴を開け、壁が自立する時間を比べる。含水率が約1%のとき最も安定という砂の城の研究値が、このやり方でそのまま再現されるとは限らない。砂の種類や粒の大きさで最適な含水率は変わるはずなので、数値の再現ではなく、傾向の確認として行う。
目に砂が入らないよう注意し、終了後は手を洗う。海岸でスナガニの巣穴を見つけたときは、巣穴を掘ったり壊したりせず、観察にとどめる。
原典は、Nature Asia の研究ハイライト、科研費の研究成果報告書(16K13861)、鹿児島大学総合研究博物館のニュースレター No.39である。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文の各数字と説明は、次の資料をもとにしています。砂の城の研究は、スナガニの巣穴を直接調べたものではありません。
- 砂の城の物理(Nature Asia 研究ハイライト) https://www.natureasia.com/ja-jp/chemistry/research/1817 (湿った砂が固まる理由、含水率約1%)
- スナガニ|新潟大学佐渡自然共生科学センター臨海実験所 https://www.sc.niigata-u.ac.jp/sc/sadomarine/marinelife/sunagani.html (スナガニの暮らし)
- 科研費研究課題16K13861 研究成果報告書 https://kaken.nii.ac.jp/file/KAKENHI-PROJECT-16K13861/16K13861seika.pdf (巣穴の分布と含水率、典型的な深さ)
- 鹿児島大学総合研究博物館 NEWS LETTER No.39 https://www.museum.kagoshima-u.ac.jp/publications/pdf_images/newsletter/News%20letter%20No39.pdf (巣穴の形、U字型)
- 今月の話題 No.292「スナガニ」|富山市科学文化センター https://www.tsm.toyama.toyama.jp/_ex/public/wadai/nendo2002/wadai292/wadai292.html (巣穴の深さ、砂団子の大きさ)
- スナガニ(ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典/コトバンク) https://kotobank.jp/word/%E3%81%99%E3%81%AA%E3%81%8C%E3%81%AB-3156500 (砂団子のでき方)
- Scientific Reports 2, 549 (2012) https://doi.org/10.1038/srep00549 (原論文。毛管橋と含水率約1%の根拠)
なおした ところ
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