1. とけた アイスは どうして あまく なるの?
1. とけたアイスが甘く感じるのは、舌のセンサーのせい?
1. TRPM5の温度依存 ── 温まると甘味が強まる仕組み
アイスクリームが とけて ぬるく なると、あまく かんじる ことが あります。その わけの ヒントが、した に ある「TRPM5(ティーアールピーエムファイブ)」と いう しくみです。
マウスの けんきゅうでは、この しくみは 15度から 35度の あいだで、きゅうに はたらきが 大きく なりました[1]。あたためると、あまさに 反おうする 神けいの はたらきも 強く なりました。TRPM5を もたない マウスでは、強く なりませんでした[1]。
大学の はっぴょうでは、15度では ほとんど ひらかず、37度では 100ばい いじょう びんかんに なる と しょうかい されて います[2]。ただし マウスの けんきゅうなので、人でも 同じ 数とは かぎりません。では、した を あたためるだけで、味が する ことは あるのでしょうか。
アイスクリームが溶けてぬるくなると、冷たいときより甘く感じる。そんな経験はないでしょうか。この感覚の手がかりになりそうなのが、味を感じる細胞にある TRPM5 というチャネル(細胞の出入り口になるたんぱく質)です。
2005年の研究では、TRPM5 に流れる電流が、15〜35℃の間で急に大きくなることが示されました。さらにマウスを15〜35℃に温めると、甘味に対する味覚神経の反応が強まりました。TRPM5 をつくれないマウスでは、この強まりが起こりませんでした[1]。
KU Leuven の発表では、15℃では TRPM5 がほとんど開かず、37℃では感度が100倍以上になると紹介されています[2]。ただし100倍という表現は発表資料のもので、論文の抄録には書かれていません。実験もマウスなので、人でも同じ数になるとは限りません。研究者は、人で知られる「温かいと甘味が強まる」現象の背景かもしれない、と述べています[1]。
温度は、味の感じ方そのものを動かすのでしょうか。舌を温めたり冷やしたりする実験を見てみます。
アイスが溶けてぬるくなると、なぜか甘く感じる。この経験に分子の側から手がかりを与えたのが、味細胞のチャネルTRPM5の温度依存性の発見である。2005年の論文は、TRPM5の内向き電流が15〜35℃で急峻に増えることを示した。さらに、マウスを15〜35℃に温めると甘味物質への味覚神経応答が強まり、Trpm5を欠くマウスでは強まらなかった[1]。
KU Leuvenの発表は、15℃ではチャネルがほとんど開かず、37℃では感度が100倍以上になると紹介した[2]。ただし、この倍率は発表資料の表現で、論文抄録には書かれていない。しかも実験はマウスなので、同じ数値がヒトに当てはまるとは限らない。
論文は、この強い温度感受性が、ヒトで知られる「高温で甘味が強まる」現象や、温度だけで味がする「温度味覚」の背景にある可能性を挙げる[1]。現時点では、あくまで可能性の段階である。では、温度の変化だけで、舌は実際に味を作り出すのか。
2. した を あたためるだけで あまく なるの?
2. 舌を温めるだけで、甘さを感じることがあるのか
2. 温度の変化だけで味は生じるのか ── 舌の前縁を温める実験と、味ごとに違う感度の高い温度
ある けんきゅうでは、した の はしを つめたい 温度から じわじわ あたためる じっけんが ありました。すると、あまい 味が する ことが ありました[3]。
反たいに ひやすと、すっぱい 味や しょっぱい 味が する ことも ありました[3]。人の 味の 神けいには、温度に 反おうする ものが ある ようです。ただし、した の 小さな ところで しらべた じっけんで、みんなに おこる とは かぎりません。
また、味を かんじとれる いちばん うすい こさは、のみものの 温度で かわります。いちばん びんかんに なる 温度は 味の しゅるいで ちがいますが、だいたい 22度から 32度と いわれます[4]。つまり、とても つめたくても、とても あつくても、味は かんじにくく なる 場合が ある のです。
ここまでは した の はなし でした。では、はなは どうでしょう。
2000年の研究では、舌の前のふちを冷たい温度から温めたとき、甘味が起こることがあると報告しました。反対に冷やすと、酸味や塩味が起こることもありました[3]。食べ物を何も当てなくても、温度の変化だけで味が生じることがある、という「温度味覚」の報告です。ヒトの味の神経には、温度に反応する種類があることも示されました。
ただしこれは、舌の小さな領域に温度の刺激を与えた実験です。誰にでも同じように起こるとは限りません。
もう一つ、味を感じとれる最小の濃さ(しきい値)も、味の溶液の温度で変わります。いちばん感度が高くなる温度は味の種類によってちがいますが、おおよそ22〜32℃とされています[4]。冷蔵庫から出したての飲み物よりずっとぬるく、熱い飲み物よりずっと冷めた温度です。「冷たいほど薄く感じる」と一言でまとめられないのは、この味の種類による差があるからです。
ここまでは舌の話でした。では、においを受けとる鼻のほうは、冬の冷たい空気にどう反応するのでしょうか。
温度の変化だけで味が生じるのか。Cruz と Green の2000年の報告は、舌の前縁を冷たい温度から温めると甘味、冷やすと酸味や塩味が起こりうることを示し、ヒトの味の神経には温度に応答するものがあると論じた[3]。ただし、これは舌の小さな領域に温度刺激を与えた実験であり、全員に起こるとは限らない。
温度は、味の感じとれる最小の濃さにも影響する。味覚のしきい値は溶液の温度で変化し、最低のしきい値を示す温度は味質によって異なるが、おおむね22〜32℃である[4]。これは辞典項目の記述で、数値の根拠となる実験条件までは追えない。それでも、冷蔵庫から出したばかりの飲み物と熱い飲み物のどちらも、この範囲から外れていることが分かる。
したがって「冷たいほど味が薄い」という一般化は適切ではない。感度の高い温度が味質ごとに違うので、冷たさで弱まる味もあれば、そうでない味もありうる。では、冬の冷たい空気にさらされる鼻のほうは、どうか。
3. つめたい 空気で はなが 通ったと かんじるのは なぜ?
3. 冷たい空気で「鼻が通った」と感じるのは、本当に通っているから?
3. 「鼻が通る」感覚は何で決まるか ── 粘膜の冷却と実際の空気の通り道
冬の 朝、つめたい 空気を すうと、はなが すっと 通った 気が しませんか。
44人の 大人が きょうりょくした けんきゅうでは、つめたい 空気や かわいた 空気を すうと、へやの 温度の 空気より、はなづまりが へったと 答えました。つめたい 空気が、いちばん ききました[5]。
ところが、この「通った 気」には、空気が 実さいに 通りやすく なった ことより、はなの 中の まくが ひえる ことや、空気の しつどが かかわって いました[5]。つまり、気もち よく 感じても、はなの 中が 広がったとは かぎりません。
この けんきゅうは、においが 強く 感じる けっかでは ありません。では、本当に はなが つまると、どうなるのでしょう。
冬の朝、冷たい空気を吸い込むと、鼻がすっと通った気がします。この感覚を調べた研究があります。
健康な成人44人が、冷たい空気、乾いた空気、室温の空気をそれぞれ吸いました。すると、冷たい空気や乾いた空気のほうが、室温の空気より鼻づまりが減ったと答え、冷たい空気で鼻づまり感がもっとも減りました。この研究では、「鼻が通った」という感覚は、実際の空気の通りやすさよりも、鼻の粘膜の冷却や空気の湿度と結びついていました[5]。
気持ちよく感じることと、鼻の中が広がることは、別のようです。ただしこの結果は「鼻が通った感じ」についてのもので、においを感じる力が上がるという結果ではありません。
では、本当に鼻がつまったときは、においの感じ方にどんなことが起こるのでしょうか。
冬の朝に冷たい空気を吸うと鼻が通った気がするが、これは気道が実際に広がった結果なのか。健康な成人44人を対象にした研究では、冷たい空気・乾いた空気を吸うと、室温の空気より鼻づまり感が減り、冷たい空気で鼻づまり感がもっとも減った。しかも、鼻が通る感覚には、実際の空気の通りやすさよりも、粘膜の冷却(熱を失うこと)や空気の湿度が関わっていた[5]。
つまり、知覚された通気と実測された通気は、ずれうる。ただし範囲は限られる。これは「鼻が通る感じ」の研究で、においの感度が上がるという結果ではない。
では、鼻が実際に詰まったときは、においの知覚はどう変わるのか。
4. はなが つまると、においは どう なるの?
4. かぜで鼻がつまると、においを感じにくくなるのはなぜか
4. 鼻づまりとにおいの知覚 ── 嗅覚の細胞に分子が届かない
かぜを ひいて はなが つまると、においが わかりにくく なります。りゆうの 一つは、においの つぶが、においを かんじる さいぼうまで とどかなく なる ことです[6]。
日本語の じてんにも、においを かんじにくい 原いんとして、はなの びょうきや かぜが あげられて います。はなの 中の まくが はれて においが とどかない 場合と、かぜの あとで 神けいが いたむ 場合が あるそうです[7]。
冬は かぜを ひく 人が ふえやすい きせつです。ですから、「冬は においが かわる」と 感じる ことの 一つの 理由は、はなづまりかも しれません。ただし、冬の かぜで 全員の においが なくなる わけでは ありません。
かぜやインフルエンザで鼻が詰まると、においを感じにくくなります。理由の一つは、においの分子が、においを感じる細胞まで届かなくなることです[6]。
日本語の辞典でも、においを感じにくい状態(嗅覚障害)の原因に、鼻炎・副鼻腔炎のような慢性の鼻の病気や、かぜなどのウイルス感染が挙げられています。鼻の粘膜が腫れてにおいが届かない型と、かぜのあとで神経が傷つく型がある、という説明です[7]。
冬は、かぜを引く人が増えやすい季節です。「冬はにおいが変わる」と感じる理由の一つが、鼻づまりである可能性はありそうです。ただし、冬のかぜで誰もがにおいを失うわけではありません。
では、鼻が詰まっていないとき、部屋の寒さや乾燥そのものは、においを感じる力を弱めているのでしょうか。
鼻が実際に詰まると、においの知覚はどう変わるのか。米国国立聴覚・伝達障害研究所(NIDCD)は、かぜやインフルエンザで鼻が詰まると、においの分子が嗅覚の感覚細胞に届かなくなることが、においを感じにくくなる理由の一つだと説明している[6]。分子が受容細胞に届かなければ、受容細胞の感度が下がっていなくても、においは感じにくくなる。
日本語の辞典項目も、嗅覚障害の原因に、鼻炎・副鼻腔炎などの慢性の鼻の病気やウイルス感染(かぜ)を挙げ、鼻の粘膜の腫れで届かない型と、かぜのあとに神経が傷む型を区別している[7]。この項目は家庭医学系の辞典の記述である。
したがって、冬に「においが変わった」と感じる理由の一つとして、鼻づまりは有力な候補になる。ただし、冬のかぜで全員がにおいを失うわけではない。残る問いは、鼻が詰まっていないとき、冬の室温や湿度そのものがにおいの感度を下げるのか、である。
5. へやが さむくて かわいて いると、においは うすく なるの?
5. 部屋の温度や湿度を変えると、においの感じとれる濃さは変わるのか
5. 室温や湿度を変えると、においを感じる最小の濃さは動くのか ── 測定の結果と限界
びょういんの 外らいの けんさしつで、これを しらべた けんきゅうが あります。10人の 人が、10しゅうかんの あいだに 10回、においを かんじる いちばん うすい こさを はかりました。へやの 温度、しつど、はなから すう 空気の いきおいが ちがう 日が ありました[8]。
けっかは、においの かんじとれる こさが、これらに ほとんど さゆうされない、と いうものでした[8]。
ただし、しんさつしつの へやの 温度の はんいでの けっかです。まっ冬の そとの 空気の はなしでは ありません。人数も 10人と 少ないです。
冬に においが かわる 気が する のは、へやの 温度そのものより、した や はなの 温度と、はなづまりが かさなって いる のかも しれません。
この問いを調べたのが、外来の検査室で行われた研究です。10人が10週間にわたり、計10回、においを感じとれる最小の濃さ(しきい値)を測りました。部屋の温度、湿度、鼻から吸う空気の最大の勢い(吸気流量)は、日によってちがいました[8]。
においのしきい値は、これらの条件にほぼ左右されませんでした。鼻から吸う空気の勢いが変わっても、しきい値は動かなかったので、「鼻が通る」感覚と、においを感じる力そのものは、別のものかもしれません。ただし、3章と5章は別々の研究の結果で、直接くらべたものではありません。
ただし、これは診察室の室温の範囲での結果で、真冬の屋外の話ではありません。10人という小さな研究でもあります。
ここまでの手がかりをつなぐと、こう考えられます。冬に味やにおいが変わった気がするのは、部屋の寒さそのものより、舌の温度、冷たい空気で冷える鼻の感覚、鼻づまりが重なっているためかもしれません。「冬だから」と直接調べた研究は、ここでは取り上げていません。だからこれは確定した答えではなく、考えるための道すじです。
鼻が詰まっていないとき、冬の室温や湿度はにおいの感度を動かすのか。外来の検査室で、10人が10週間にわたり計10回、においのしきい値を測り、同時に室温、湿度、鼻の最大吸気流量を記録した[8]。
結果は、しきい値がこれらの条件からほぼ独立しているというものだった[8]。第3章の知見(冷気が「通気感」を変える)とあわせると、知覚された通気が変わっても、嗅覚の感度そのものは動きにくい可能性がある。ただし、第3章の研究は鼻づまり感、本章の研究はしきい値を測っており、同じ条件での比較ではない。
限界も明確である。第一に、結果は診察室の室温の範囲のものであり、真冬の屋外の温度は含まない。第二に、被験者は10人と少ない。第三に、「冬」という季節そのものを比べた研究ではない。この章の結果は、「冬」そのものや屋外の冷気の影響については何も語らない。
以上から、冬に味やにおいが変わる感覚の背景として言えるのは、次の道すじにとどまる。舌の温度で味の感度が変わりうる(第1・2章)、冷気は鼻の通りの「感覚」を変える(第3章)、鼻づまりはにおいを届きにくくする(第4章)、一方で室温や湿度だけではしきい値は動かなかった(本章)。これらが重なって、冬の感じ方の変化につながる可能性はあるが、確定した答えではない。
6. おうちで あじと はなを くらべて みよう
6. 家にあるもので、温度と鼻のはたらきを比べてみる
6. 家にあるもので、温度と鼻の役割を比べるには
やってみよう。うすい さとう水を つくり、3つの コップに わけます。1つは れいぞうこで ひやし、1つは そのまま、1つは ぬるま湯で ほんの少し あたためます。あつくは しません。ゆを つかう ときは、おうちの 人と いっしょに して ください。
じゅんばんに 少しずつ のんで、あまさを ことばで メモして みましょう。つぎに、はなを つまんで ジュースを 少し のみ、手を はなした とき、味の かんじが かわるか みて みましょう。
はなを つまむのは、あじと においの やくわりが ちがうか、たしかめる ためです。けっかが どうなるかは、やって みないと わかりません。
次のようなことを、家で試せそうです。熱い飲み物は使わず、お湯を使うときは家の人と一緒にしてください。
- 薄い砂糖水を3つのコップに分け、冷蔵庫で冷やしたもの、そのままのもの、ぬるま湯で少し温めたものを、順に少しずつ飲んで、甘さを言葉でメモしてみる。
- 鼻をつまんでジュースを少し飲み、手を離したとき、味の感じ方が変わるか確かめてみる。においの分子が鼻の奥に届くかどうかを、自分の体で試すことになります[6]。
結果が思ったとおりになるとは限りません。1回の試しでは、条件もそろっていません。
2つめの試しは、「味」と「におい」の役わりを分けて考えるためのものです。鼻をつまむとにおいが届きにくくなるので、舌だけで感じる味と、鼻で感じるにおいを分けて体験できます。
手元で比べるなら、薄い砂糖水を冷蔵庫で冷やしたもの・常温・ぬるま湯で軽く温めたものに分け、甘さを言葉で記録する(熱くはしない。お湯は家の人と)。鼻をつまんでジュースを少し飲み、手を離して味の感じ方の差を見る方法もある。後者は、嗅覚の細胞に分子が届くかどうかを自分の体で試す形になる[6]。1回の試しでは条件がそろわないので、結果は目安にとどまる。
この試しは、味(舌)とにおい(鼻)の寄与を切り分ける簡易版にあたる。温度だけでなく、鼻をつまむ・つままないの条件も1つずつ変えて記録すれば、本文の道すじのどこが自分にも当てはまるかを見られる。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文で使った出典。論文の細部は抄録や研究機関・報道の紹介にもとづく。
- Talavera et al. (2005) Nature (抄録, Europe PMC) https://europepmc.org/article/MED/16355226 (TRPM5の温度依存とマウスでの甘味への反応)
- Medical News Today (KU Leuven プレスリリース) https://www.medicalnewstoday.com/releases/35142.php (15℃と37℃での感度の紹介)
- Cruz and Green (2000) Nature (抄録, Europe PMC) https://europepmc.org/article/MED/10706285 (温度味覚)
- コトバンク「味覚」 https://kotobank.jp/word/%E5%91%B3%E8%A6%9A (味のしきい値と溶液の温度)
- Zhao et al. (2011) PLoS ONE の紹介 (ScienceDaily) https://www.sciencedaily.com/releases/2011/10/111013184803.htm (冷たい空気と鼻が通る感覚)
- NIDCD, Smell Disorders https://www.nidcd.nih.gov/health/smell-disorders (鼻づまりとにおい)
- コトバンク「嗅覚障害」 https://kotobank.jp/word/%E5%97%85%E8%A6%9A%E9%9A%9C%E5%AE%B3 (においを感じにくい原因)
- Philpott et al. (2004) Clin Otolaryngol (抄録, Europe PMC 検索) https://europepmc.org/search?query=Philpott%20temperature%20humidity%20peak%20inspiratory%20nasal%20flow%20olfactory%20thresholds (室温・湿度としきい値)
なおした ところ
更新履歴
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