1. 草原は なぜ 森に ならないの?
1. 草原を放っておくと、何が起きるのでしょうか
1. 管理をやめた草原は、どのような経過をたどるのか
草原を 歩いて いると、ここは ずっと 草原 だと 思って しまいます。でも 草を かったり 火を つけたり しなくなると、いろいろな 草が いっぱいに のびて、やがて 木が 生えて きます。
人の 手が はいって、はじめて 草原で いられる 場所が あるのです。こういう 草原を、「人と いっしょに つくる 草原」と おぼえて ください。
では、人の 手が はいると、どんな 生きものが 草原に すむように なったのでしょうか。
草原に立つと、ここは昔からこの姿だったと思いがちです。しかし、環境省の資料では、半自然草地は里地里山の草地にあたり、草を刈る、牛や馬を放す、火を入れるといった、ゆるやかな利用によって保たれるものと説明されています[2]。
その利用が止まると、特定の植物だけが背を伸ばして広がったり、木が生えて森へ移っていったりして、草原らしさが失われます[3]。愛媛県の塩塚高原では、山焼きがなくなれば短い期間で草原が消えるおそれがある、という説明も見られます[3]。
守るために働き続けなくてはならない自然、というのが半自然草地のおもしろいところです。では、人の手が入った草原は、いつごろから、どんな生きものと関わってきたのでしょうか。
2. 草原の チョウは 人と いっしょに ふえたの?
2. 草原のチョウは、人の暮らしとともに増えたのでしょうか
2. コヒョウモンモドキの数は、人の草地利用でどう変わったのか
草原に すむ チョウの なかまに、「コヒョウモンモドキ」が います。京都大学の 研究では、この チョウの いでんしを しらべて、昔の 数の かわりかたを さぐりました。
すると、縄文時代の なかごろ、いまから 6000年 くらい 前から 数が ふえた ようだと わかりました。人が 草原を ふやした ことが、数が ふえた 理由の ひとつと 考えられて います。
ところが この 30年で、数が ぐんと へりました。草原が へったからです。むかしは 日本の 10ぶんの 1 ぐらいが 草原でしたが、いまは 1パーセント ぐらいです。
この 草原を、いまも 人の 手で 守っている ところが あります。九州の あそです。
草原にすむチョウ、コヒョウモンモドキ(関東から中部に分布し、絶滅の危険が高いチョウ)の遺伝子を調べた京都大学の研究があります[1]。遺伝子から昔の個体数の変化を調べたところ、縄文時代の中ごろ(約6000年前)から数が大きく増え、ここ30年ほどで激減したと分かりました[1]。増えた理由は、人の活動で半自然草地が広がったためと説明されています[1]。
草地が減った理由も同じ研究で挙げられています。20世紀の初めには日本の面積の1割強が草地でしたが、化石燃料への依存や拡大造林といった人間活動の変化で激減し、現在は1%ほどです[1]。環境省の資料でも、1960年代以降に草の利用が減り、管理されなくなったことが背景に挙げられています[8]。1割強が約1%、つまりおよそ10分の1です。
人が増やした草原が、人の暮らしの変化で消えていく。それなら、今も人が草原を守っている場所では、何をしているのでしょうか。
人が草原を広げ、のちに減らしたことは、チョウの遺伝子にも痕跡を残している。コヒョウモンモドキ(関東〜中部に分布、絶滅危惧IB類)の遺伝子解析によると、個体数は縄文時代中期(約6000年前)以降に大きく増加し、過去30年で激減した[1]。増加の理由は、人間活動で半自然草地が拡大したためと解釈されている[1]。
では、なぜ近年に激減したのか。同研究は、20世紀初頭に日本の面積の1割強を占めた草地が、化石燃料への依存や拡大造林などの人間活動の変化で激減し、現在は1%程度になったことを背景に挙げる[1]。環境省生物多様性センターの資料も、1960年代以降の利用機会の減少によって管理が放棄された点を指摘している[8]。1割強から約1%への変化は、約10分の1への縮小にあたる。いずれも概数であり、年次や定義によって数字は多少ずれうる。
このチョウの数は、草原を使う人の暮らしの変化と結びついてきた。ならば、いま人が管理を続けている草原では、具体的に何が行われているのか。
3. あそでは どうして 草原を やくの?
3. 草原を焼くことが、なぜ草原の植物を守るのでしょうか
3. 野焼きは、なぜ草原の植物や昆虫を残せるのか
あそには、2万ヘクタールを こえる 広い 草原が あります。ここでは 平安時代の 本にも、のやきの ことが 出て くるそうで、「千年草原」と よばれて います。
あその のやきでは、春の はじめに 草原に 火を つけると、地面が むき出しに なります。すると 春に 花を さかせる 草が 日の 光を うけやすく なります。
火は 地面の 上の ほうだけを やくので、土の 中の たねや 虫には ひがいが 少ない と いわれて います。
2013年には、草原を 守る くらしが みとめられて、「せかいのうぎょういさん」に えらばれました。
熊本県の阿蘇には、2万ヘクタールを超える国内最大級の草原が広がっています。草を焼く野焼きの営みは平安時代の文献にも見えるといわれ、「千年草原」と呼ばれます[9]。
草原を焼くと聞くと、生きものが心配になります。環境省の資料では、春先の火入れで地表が裸地になり、春に芽を出す植物に良い状態になること、地表や地中の温度は上がりすぎず、生きものへの被害はそれほど大きくないことが説明されています[2]。農林水産省の資料も、野焼きが表面だけを焼くため、土の中の植物の種や昆虫に影響が少なく、希少な動植物が数多く残っているとしています[5]。これは阿蘇の事例の説明で、どこの火入れにも同じように当てはまるとは限りません。
阿蘇には約600種の草原性の植物があり、絶滅の危険がある種や、ここにしかない種もかなりの割合を占めるそうです[2]。大陸から来た植物の生き残りであるヒゴタイやフクジュソウも、野焼きなどの活動で守られてきたと紹介されています[6]。草原と人の営みが評価され、2013年5月には世界農業遺産にも認定されました[5]。
火を使えば、燃え広がる心配もあります。火を安全に使うために、人はどんな準備をしているのでしょうか。
野焼きは破壊的な行為に見えるが、阿蘇ではむしろ草原の植物を残す手段として位置づけられている。阿蘇には2万ヘクタールを超える草原があり、平安時代の文献にも野焼きの営みが見えるといわれ、「千年草原」と呼ばれる[9]。
では、なぜ焼いても残るのか。環境省の報告は、春の火入れで地表が裸地になり、春植物に良い状態になること、地表・地中の温度は高くならず、生物へのダメージが大きくないことを述べる[2]。農林水産省の世界農業遺産の説明も、野焼きが表面だけを焼くため土中の種子や昆虫への影響が小さいとしている[5]。これらは阿蘇の事例についての説明で、他地域の火入れや、火入れの時期・強度が異なる場合へそのまま一般化はできない。
結果として、阿蘇には約600種の草原性植物があり、絶滅危惧種や固有種がかなりの割合を占める[2]。大陸系遺存植物のヒゴタイやフクジュソウも、野焼き関連の活動で維持されている[6]。こうした草原と持続的農業は2013年5月に世界農業遺産に認定された[5]。
野焼きの効果は理解できても、広い草原で火を安全に扱うのは別の問題である。その準備に誰がどう関わっているのか。
4. 火を つける 前に、人は なにを するの?
4. 野焼きの前に、人は何を準備するのでしょうか
4. 輪地切りとボランティアは、野焼きをどう支えているか
火が まわりの 森や 家に うつったら たいへんです。そこで 秋に、草原の ふちの 草を ぐるっと かって、火が とまる 道を つくります。これを 「わちぎり」と いいます。
この 道が あると、火は そこで とまりやすく なります。かった 草を やく しごとも あって、「わちやき」と よばれて います。
2005年には「あそそうげんさいせいきょうぎかい」が できました。ぼくじょうの くみあいや 町の 人、NPOなどが、じぶんたちで くわわって、のやきや わちぎりの ボランティアを すすめて います。
5. 草を かる じき で、花の 実は かわるの?
5. 草を刈る時期で、植物の実の数は変わるのでしょうか
5. 刈り取りの時期が、スズサイコの結実と遺伝的多様性に与える影響
「スズサイコ」は、草原に はえる、なくなりそうな 草花です。京都大学の 研究では、花が さいて 実が できる 7月から 9月に 草を かると、実の 数が へって、なかまの いろいろな せいしつも 少なく なる ことが わかりました。
冬から 春に かると、実が ふえたと いわれて います。
ただし これは スズサイコの 話で、ほかの 草も 同じとは かぎりません。
草を刈る時期にも、植物ごとのちがいがあります。京都大学の研究では、半自然草地に生える絶滅危惧種のスズサイコについて、花が咲いて実をつける7〜9月に刈ると、実の数と遺伝的な多様性が下がることが示されました[7]。冬から春に刈ると、実の数は増えました[7]。
これはスズサイコについての結果で、すべての草原の植物に同じ規則が当てはまるわけではありません。それでも、「いつ人が手を入れるか」が植物の子孫の残し方に関わりうることは分かります。
愛媛県の塩塚高原では、山焼きと刈り取りを組み合わせた草原で306種の植物が確認され、そのうち33種が愛媛・徳島・高知の各県か環境省の絶滅危惧種でした[3]。約1割にあたります。
管理の「時期」は、草原植物の繁殖に直接影響する。絶滅危惧種スズサイコ(半自然草地に生育)を対象とした研究では、開花・結実期にあたる7〜9月の刈り取りは、結実数と遺伝的多様性を低下させた[7]。一方、冬〜春の刈り取りでは結実数が増加した[7]。
結果はスズサイコに限った話で、全植物に通用する規則ではない。刈り取りの時期と植物の関係は、植物ごとに調べられていく性質のものである。
多様性の例として、塩塚高原では山焼きと刈り取りを組み合わせた草原域で306種の植物が確認され、うち33種(約11%)が愛媛・徳島・高知の各県または環境省のいずれかの絶滅危惧種だった[3]。33/306は約1割で、「大半が絶滅危惧種」という意味ではない。草原は、希少種が一定数含まれる場だといえる。
自分でも しらべて みたくなったら
自分でも調べてみたくなったら
自分でも調べてみたくなったら
今日できること
近くの 公園や 空き地で、よく かられて いる ところと、のびた ままの ところを、くらべて みましょう。草の 高さや、さいて いる 花の しゅるいが ちがうかも しれません。かった 時期が 分かれば、なぜ ちがうのか 考える ヒントに なります。
出かけてできること
草原の ある こくりつこうえんなどの ビジターセンターで、のやきの 写真や せつめいを 見て みましょう。
公式の じょうほう
かんきょうしょうの あそくじゅう国立公園の ページで、草原を 守る 活動が 見られます。
今日できること
近所の公園や空き地で、よく刈られている場所と、しばらく刈られていない場所を見比べてみましょう。草の高さや、咲いている花の種類にちがいがあるかを、写真やメモにしておくと、あとで刈られる時期と結びつけて考えられます。刃物のついた道具は使わず、立ち入ってよい場所で観察してください。
出かけてできること
草原のある国立公園のビジターセンターなどで、野焼きや輪地切りの展示を見てみるのもよい方法です。ボランティアの案内があるかどうかは、阿蘇草原再生協議会や環境省の公式の案内で確かめられます。
公式の情報
環境省の阿蘇くじゅう国立公園のページに、草原を守る活動の紹介があります[4]。
今日できること
身近な草地で、刈り取りの頻度が違う区画を見比べ、草丈や開花種を記録してみるとよい。刈り取りの時期が分かれば、スズサイコの例[7]のような時期の影響を、自分の観察と結びつけて考えられる。立ち入りが認められた場所で、刃物は使わずに行うこと。
出かけてできること
阿蘇くじゅう国立公園のビジターセンターなどで、野焼きや輪地切りの展示・案内を確かめられる。ボランティアの有無は、阿蘇草原再生協議会など主催者の公式案内で確認するのがよい。
資料を読むなら
京都大学の2016年と2018年の研究成果の発表[7][1]は、日本語で概要が読める。環境省の里なびの報告[2]も、半自然草地の定義と管理の考え方をたどる入口になる。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文の事実は、次の公的機関・大学・報道の資料をもとにしています。一部の数値は概数で、資料により異なる場合があります。
- 京都大学 研究成果「縄文時代から現在までの草地性チョウ類の歴史を解明」(2018年)https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2018-02-28 (チョウの個体数の歴史、草地面積の変化)
- EIC ネット 生物多様性の事例(塩塚高原)https://eic.or.jp/library/bio/case/c9_2.html (管理放棄による変化、植物の種数)
- 環境省 阿蘇くじゅう国立公園 草原を守る https://www.env.go.jp/park/aso/data/mtasovc/sustaining-glasslands.html (輪地切り、阿蘇草原再生協議会)
- 農林水産省 世界農業遺産(阿蘇)https://www.maff.go.jp/j/nousin/kantai/giahs_3_040.html (世界農業遺産の認定、野焼きの特徴)
- 環境省 里なび 熊本事例 https://www.env.go.jp/nature/satoyama/43_kumamoto/no43-3.html (ヒゴタイ・フクジュソウ)
- 京都大学 研究成果(2016年)https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2016-02-16 (スズサイコと刈り取り時期)
- 環境省 生物多様性センター 資料 https://www.biodic.go.jp/biodiversity/activity/policy/kyosei/23-2/files/3-2.pdf (草地の利用の減少)
- 熊本日日新聞 https://kumanichi.com/articles/1553314 (阿蘇の草原の面積、千年草原)
なおした ところ
更新履歴
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- 初版を公開。
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