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ここにあるのは、だれかが実際に調べ、考え、作ってきたことを集めたメモです。気になったら、ページの下の「参考にした情報源」から、もとの本や記事、それを生み出した人たちに、直接ふれてみてください。このメモには書ききれないおもしろさが、そこにあります。

おおきな ふねは、どうして ゆっくり きしに つくの?

巨大な船はなぜ岸壁にそっと着くのか ── 衝撃を受け止める防舷材

防舷材と接岸エネルギー ── 速度の2乗が決める、大型船のゆっくりした接岸

分野:海・釣り

なんまんトンも ある ふねが、きしに ごつんと あたるように つくことが あります。それでも ふねも きしも こわれません。

ふしぎですね。ふねが ゆっくり ちかづく わけと、あいだに おかれた ぼうげんざいの はたらきが わかります。

何万トンもある船が、岸壁にぶつかるように着く。そう聞くと大事故のようですが、港ではこれが毎日くり返されていて、船も岸壁も傷つきません。船と岸壁のあいだに、防舷材(ぼうげんざい)という大きなクッションがあるからです。

ただ、クッションだけで守っているわけではありません。大きな船ほどゆっくり着けるのはなぜか、ゴムで受ける型と水に浮かぶ型はどう使い分けるのかが分かります。

船が岸壁に着くとき、最後に船体と岸壁のあいだで衝撃を受け止めるのが防舷材である。ところが、守りを固めるだけでは足りない。速度が半分になれば、受け止めるべき運動エネルギーは4分の1になるからだ。

では、大型船はなぜゆっくり着くのか。固定式のゴムと、水に浮かぶ空気式やフォーム式はどう分かれているのか。港湾の研究資料とメーカーの発表を照らして、その考え方が分かる。

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1. ふねと きしの あいだには、なにが あるの?

1. 船と岸壁のあいだに置かれた、大きなクッション

1. 船体と岸壁を守る緩衝材 ── 防舷材という機材

みなとで ふねが きしに つくとき、ふねと 岸壁がんぺきの あいだに、まるい ゴムの かたまりや、たての ゴムが ならんで います。これが 防舷材ぼうげんざい です。

ふねが ちかづいて きたとき、ふねも きしも きずつかないように、しょうげきを やわらげる クッションです[1]。「フェンダー」とも よばれます。

ふねと ふねが つながる ときにも つかいます[2]。でも、クッションが あれば それで だいじょうぶ、なのでしょうか。

港で船が着く岸壁を見ると、壁の面にゴムの大きなかたまりが並んでいることがあります。船と岸壁のあいだに置かれた防舷材です。

川崎市の資料は、防舷材を、船が接岸するときに船体と岸壁の損傷を防ぐための機材と説明しています[1]。フェンダーとも呼ばれ、横浜ゴムは、接岸や、船と船を横づけする接舷の衝撃から守る緩衝材だと紹介しています[2]。船どうしでも使えるのが、岸壁だけの道具ではないところです。

守る相手は、船と岸壁の両方です。では、防舷材はいったい何を受け止めているのでしょうか。手がかりは「運動エネルギー」という言葉です。

運動エネルギーは、動いているものが持つ、動きの勢いのようなものです。次の章で、それがどう決まるのかを見ます。

防舷材は、船舶が接岸するとき船体と岸壁の損傷を防ぐための機材である。川崎市の補修資料にこの定義があり[1]、横浜ゴムも同じ趣旨で、接岸だけでなく接舷、つまり洋上や港内で船を並べてつなぐときの衝撃からも船体を保護する緩衝材と説明している[2]。護岸の側だけの設備ではなく、船どうしでも使う点がまず押さえておきたいところだ。

防舷材の機能は、接岸する船の運動エネルギーを吸収することだと整理できる。「衝撃をやわらげる」という言い方は感覚的だが、吸収する対象はエネルギーなので、数で考えられる。では、船が持っているそのエネルギーは何で決まるのか。これが、大型船がなぜゆっくり着くのかという問いへの入口になる。

なお、ここでいう防舷材は港に常設されるものを中心に扱う。タグボートなどが古タイヤをふなべりに下げて使う例もあるが[5]、設計の対象になるのは、数万トンの船を受ける大型の防舷材である。

2. おそく ちかづくと、なにが かわるの?

2. 受け止める量は「速さの2乗」で増える

2. 接岸エネルギーは接岸速度に特に大きく左右される

ころがって きた ボールは、ゆっくりなら かるく てで とめられますが、はやいと とめるのが たいへんです。うごいている ものは、はやいほど、とめるために うけとめる エネルギーが おおきく なります。

うごいている ふねが もっている この エネルギーを、運動エネルギーと いいます。みなとの けんきゅうしりょうは、ふねが きしに つく ときの うんどうエネルギーは、ちかづく はやさに とくに おおきく えいきょうされる、と しています[3]。

はやさが 2ばいに なると、エネルギーは 4ばいです。はんぶんの はやさなら、4ぶんの 1です。ただし これは、おなじ ふねで くらべた ばあいの はなしです。

だから、はやさを おとす ことが、おおきな くふうの ひとつです。

歩いている人にぶつかっても、ゆっくりなら平気ですが、走ってきた人ならけがをするかもしれません。動いているものは、速いほど、止めるのに大きな力が要ります。

国土技術政策総合研究所(国総研)の資料は、船の接岸エネルギーとは接岸時の船の運動エネルギーのことで、接岸速度に特に大きく影響を受けると書いています[3]。船を受けとめる力は、ゴム製の防舷材などを通して岸壁に伝わる、とも説明されています。

運動エネルギーは、速さの2乗に比例します。同じ船で、速さが2倍になればエネルギーは4倍、速さが半分ならエネルギーは4分の1です。たとえば毎秒10センチの接岸を毎秒5センチにできれば、防舷材が受け止める量は4分の1ですむ計算になります(数字は説明のための仮の例です)。

重い船が同じ速さで近づけば、受け止める量はさらに増えます。そこで考えられるのが「防舷材を強くする」より前に、「そもそもゆっくり着ける」という手です。実際の港では、どうなっているのでしょうか。

国総研資料は、船舶の接岸エネルギーを接岸時の運動エネルギーと定義し、接岸速度の影響を特に大きく受けると述べる[3]。接岸力は、ゴム製防舷材などを介して岸壁に伝わる。したがって、防舷材の仕事は、このエネルギーを変形で受け止め、岸壁と船体に伝わる力を許容できる範囲におさえることだと整理できる。

運動エネルギーは質量に比例し、速度の2乗に比例する。よって、同じ船で速度が2倍になればエネルギーは4倍、半分なら4分の1になる(この計算は筆者の確認による)。たとえば毎秒10cmを毎秒5cmにできれば、受け止める量は4分の1ですむ。数値は説明のための仮の例で、実際の接岸速度の代表値を示したものではない。

速度は、設計で上げ下げしやすい変数でもある。質量は積んだ荷物で変わり、船体も選べないが、速度は操船の仕方で小さくできる。では、現場の船は実際にどのくらい慎重に着けているのか。これを実測データで調べた研究が、国総研にある。

3. おおきい ふねほど、ゆっくり つくって ほんとう?

3. 大きい船ほどゆっくり着く ── 実測と着け方の工夫

3. 船型が大きいほど接岸速度は小さい ── 実測データと操船方法

みなとの けんきゅうしりょうでは、ふねが おおきいほど、きしに つく はやさは ちいさく なる けいこうが みられると いいます[3]。

おおきな ふねは、はしらせるのも とめるのも たいへんです。だから、そーっと ちかづくのです。ちょうおんぱや レーザーで きょりを はかって、じっさいの はやさを しらべて います。

つけかたでも ちがいが でます。タグボートに てつだって もらったり、きしと ならんで いったん とまってから、ゆっくり よせたりする みなとでは、はやさの へいきんも、ばらつきも ちいさく なって いました[3]。

ゆっくり つけるのは、わざです。それでも しょうげきは ゼロには なりません。さいごの うけとめを するのが、ぼうげんざいです。

国総研の資料では、船型が大きいほど接岸速度が小さくなる傾向が示されています[3]。理由までは資料に書かれていないので、ここでは傾向だけを受け取っておきます。

この資料では、超音波やレーザーの距離計で接岸の速さを測った実測データを集めています。たとえば大型タンカー(約12万6千〜29万2千DT)のデータは36件あります。DTは船の大きさを表す単位です。

着け方でも差が出ます。コンテナ船が着く岸壁の実測では、タグボートの支援や横向きに押すスラスターを使う、あるいは岸壁と平行に一度止まってからゆっくり寄せる方法を定めた港のほうが、速度の平均も、ばらつきを表す標準偏差も小さくなっていました[3]。資料はこれを、より慎重な接岸が行われている結果だと見ています。

防舷材の設計では、この実測が材料になります。資料によれば、設計に使う接岸速度は、対象の港の実測か、これまでの実測をもとに決めるのが望ましいとされます[3]。一方、大型船のデータが足りないことは課題として挙がっていました。ゆっくり着ける工夫と、受け止める道具。では、その道具には、どんな種類があるのでしょうか。

接岸速度について、国総研資料は、船型が大きいほど小さくなる傾向を示している[3]。大型船は慣性が大きく、岸壁に近づいてからの止め方に余裕がないため、操船者が速度を落として近づけるからと読める(この理由づけは筆者の解釈で、資料が因果として述べているのは傾向までである)。実測は超音波式やレーザー距離計などで行われ、約12.6万〜29.2万DTの大型タンカー36件をはじめ、各種の船のデータが整理された。

着け方の違いも数字に表れる。コンテナバースの実測で、タグボートの支援、横向きスラスターの使用、岸壁と平行にいったん止まってから緩やかに着ける方法を定めた港(グループA)は、そうでない港(グループB)より、平均値も標準偏差も小さく、より慎重な接岸が行われていると評価された[3]。標準偏差が小さいことは、遅いだけでなく、速度が安定していることを意味する。設計者にとっては、ばらつきが小さいほど想定しやすい。

設計の側はどうか。平成19年の港湾の基準では、設計に使う接岸速度の特性値は、対象港での実測か既往の実測資料に基づいて定めるのが望ましいとされる。他方、大型船のデータが不足していることは、資料の課題として挙げられていた[3]。つまり防舷材は、岸壁の寸法と船の大きさだけでなく、「その港でどう着けているか」という実績から選ばれる道具でもある。では、受け止める側の型は、どう分かれているのか。

4. ゴムの クッションと、みずに うかぶ クッションは なにが ちがうの?

4. 岸壁に固定するゴムと、水に浮かぶ空気やフォーム

4. ゴム式と浮体式(空気式・フォーム式)── 特性による使い分け

ぼうげんざいには、おおきく ふたつの かたちが あります。ひとつは、ゴムの ちからで うけとめる かたち。もうひとつは、なかの くうきの ちからで うけとめる かたち です[2]。

ゴムの ほうは、きしに しっかり とめて あります。うける ちからが つよいのが とくちょうだと、住友ゴムは せつめいして います[4]。

くうきの ほうは、みずに うきます。しおが みちたり ひいたりして みずの たかさが かわっても、いっしょに うごいて くれます。さわった ときも やわらかいと いわれます[4]。

ふねと ふねの あいだにも つかえます。よこはまゴムは、1958ねんに せかいで はじめて、うみの うえで ふねを つなぐ ための くうきの ぼうげんざいを つくったと、じぶんたちで せつめいして います[6]。

どちらが えらい、では なくて、ふねと みなとに あわせて えらびます。

防舷材は、衝撃を何で吸収するかで大きく2種類に分かれます。ゴムの弾力で受けるソリッド式と、中の空気の弾力で受ける空気式です。横浜ゴムは、防舷材の需要全体の約8割をソリッド式が占めると説明しています[2]。これは一社の説明で、業界全体の統計ではありません。

もう一つの分け方が、固定式と浮体式です。住友ゴムの2026年2月の発表によると、ゴム式は岸壁に固定され、エネルギーを吸収する力が高いのが特長です。浮体式(空気式、フォーム式)は水に浮くので、潮位が変わっても追随し、当たりの初期の反力がやわらかいとされます。空気式は内部の圧力の管理が必要で、フォーム式は不要だと紹介されています[4]。フォーム式は新しい製品の紹介で、空気式の代わりと決まったわけではありません。

空気式の歴史について、横浜ゴムは、洋上で2隻をつなぐ接舷に使う空気式防舷材を1958年に世界で初めて開発したと、同社の説明で述べています。自動車のタイヤや航空機の燃料タンクのゴム技術が土台になったそうです[6]。「世界初」は同社の説明です。ほかの資料で裏づけた話ではありません。

防舷材は、衝撃を吸収する機構で大別できる。横浜ゴムの説明では、ソリッド式はゴム弾性、空気式は内部の空気弾性で吸収し、ソリッド式が防舷材需要全体の約8割を占める[2]。ただしこの割合は一社の説明であって、公的統計ではない。

別の軸が、固定式か浮体式かである。住友ゴム(2026年2月の発表)は、ゴム式は岸壁に固定され、エネルギー吸収能力が高い、と述べる。浮体式の空気式・フォーム式は、水に浮くため潮位の変化に追随し、当たり(初期反力)がやわらかい。空気式は内圧の管理が要り、フォーム式は不要という整理である[4]。フォーム式は同社の新製品の紹介であり、空気式に置き換わったとは書かれていない。

空気式の来歴は、横浜ゴムによれば1958年、洋上で2隻をつなぐ接舷用に世界で初めて開発したもので、自動車タイヤと航空機の燃料タンクのゴム技術が土台になった[6]。この「世界初」は同社の主張で、第三者資料による裏づけは今回の材料にない。重要なのは、潮位の変動に追随するか、岸壁で確実に吸収するかという性質の違いが、使い分けの理由になっている点である。固定式と浮体式は優劣ではなく、船の種類と港の条件で選ばれる。

5. みなとで ぼうげんざいを さがして みよう

5. 港で防舷材を探す ── 手元でできる確かめ方

5. 港で防舷材を探す ── 資料へのつなぎ方

みなとへ いったら、きしの かべを みて みましょう。ゴムの かたまりが ならんで いたら、それが ぼうげんざいです。タグボートの よこに、ふるい タイヤが さがって いることも あります。

きしの はしは あぶないので、ぜったいに ちかづかず、おうちの 人と いっしょに、はなれた ところから みてね。

うちで できる ことも あります。おもちゃの 車を つくえの はしで ゆっくり、つぎに はやく ぶつけて、おとと とまりかたを くらべます。つぎに あいだに タオルを おいて、もう いちど。クッションが ある ときと ない とき、なにが ちがうかな。

近くに港があるなら、岸壁の壁面を眺めてみてください。V字型や丸い筒の形のゴムが並んでいれば、固定式の防舷材です。タグボートなどには古タイヤが下がっていることも多いそうです[5]。岸壁の端は危ないので、柵や立入禁止の表示を守り、遠くから見ます。

家でできるのは、タオルを使った小さな実験です。おもちゃの車を机の上で壁に当て、ゆっくりの場合と速い場合の止まり方を見ます。次に壁と車のあいだにたたんだタオルを置いて、同じことを繰り返します。クッションの有無と速さの違いが、音や跳ね返り方にどう出るでしょうか。

もっと知りたいときは、国総研の資料(接岸速度の特性に関する分析)が出発点です。速度の図表は、実測の様子をよく表しています。

港で実物を探すなら、岸壁の壁面にV型や円筒型のゴムが取り付けられているのを確かめるのがよい。タグボートなど港内で働く船が古タイヤをふなべりに下げている例もある[5]。ただし岸壁の端は危険なので、立入禁止の区域には入らず、遠くから観察する。

家で試すなら、おもちゃの車を壁に当てる。速さを変え、さらに壁との間にタオルを置くと、衝突音と跳ね返りの違いが分かる。厳密な測定ではないが、第2章の「速度で変わる」と、第4章の「クッションの種類で変わる」を体感する手がかりになる。

読むなら、国総研資料No.864(船舶の接岸速度の特性に関する基礎的分析)を勧める[3]。接岸速度の実測方法と、船型による傾向、着け方のグループ別比較が整理されている。メーカーの説明(横浜ゴム、住友ゴム)は製品の紹介を含むので、数字は「同社の説明」として扱い、公的資料と見比べるとよい。

しらべた もとの じょうほう

参考にした情報源

参考にした情報源と、その使い方

資料の種類を混ぜないよう、公的機関の資料とメーカーの発表を分けて使っています。メーカーの数字は「同社の説明」として扱いました。

  1. 川崎市「防舷材補修」の資料 https://www.city.kawasaki.jp/580/cmsfiles/contents/0000138/138218/bougenzaihoshu.pdf (防舷材の定義)
  2. 横浜ゴムのニュース(LNEWS、2023年7月28日) https://www.lnews.jp/2023/07/p0728305.html (接岸・接舷の緩衝材、ソリッド式と空気式、需要の約8割)
  3. 国土技術政策総合研究所 資料No.864「船舶の接岸速度の特性に関する基礎的分析」(2015) https://www.ysk.nilim.go.jp/kenkyuseika/pdf/ks0864.pdf (接岸エネルギー、船型と接岸速度、着け方の比較、設計速度)
  4. 住友ゴム DUNLOP フォーム式防舷材の発表(2026年2月) https://kyodonewsprwire.jp/release/202602254509 (ゴム式と浮体式の特長の整理)
  5. Wikipedia「Fender (boating)」「フェンダー(船舶)」 https://en.wikipedia.org/wiki/Fender_(boating) (古タイヤの利用)
  6. 横浜ゴム「YOKOHAMA Floating Fenders」 https://y-yokohama.com/release/?id=2686 (1958年の空気式防舷材の開発、同社の説明)

なおした ところ

更新履歴

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