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ここにあるのは、だれかが実際に調べ、考え、作ってきたことを集めたメモです。気になったら、ページの下の「参考にした情報源」から、もとの本や記事、それを生み出した人たちに、直接ふれてみてください。このメモには書ききれないおもしろさが、そこにあります。

てつの ふねは、どうして みずに うくの?

鉄でできた重い船は、なぜ水に浮かぶのか

鉄の船はなぜ浮くのか ── 排水量の考え方と、海水・淡水での喫水のちがい

分野:技術

240ねんくらい まえ、てつで できた ふねが あらわれた とき、しんぶんは「てつが うくのは、へんに おもえるかも しれません」と かきました。しかも、おなじ ふねは、うみより かわの ほうが ふかく しずみます。

てつは みずに しずむのに、ふねは なぜ うくのでしょう。かわでは どれくらい かわるのでしょう。そのわけが わかります。

1787年、イギリスの運河に鉄でできた船が現れると、新聞は「鉄が浮くとは奇妙に思えるかもしれない」と書きました。鉄のかたまりは水に沈むのに、鉄の船が浮くのはなぜでしょう。

実は、同じ船でも、海と川では沈む深さが少しちがいます。浮く理由と、そのちがいが生まれる理由が分かります。

1787年のイギリスで、鉄製のはしけが運河に入ると、新聞は「鉄が浮くとは奇妙に思えるかもしれない」と書いた[1]。鉄は水より重いのに、なぜ船は浮くのか。しかも同じ船を海から淡水へ移すと、押しのける水の体積が約2.5%増える(密度の比からの計算)[4]。

浮く条件と、水の密度で喫水が変わる理由、そして船の横腹の印がその差をどう扱うかが分かる。

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1. てつが うくのは、へんなこと?

1. 「鉄が浮くのは奇妙」と、新聞は書いた

1. 1787年の驚き ── 鉄製はしけを見た新聞の反応

1787ねん、イギリスの うんがに、てつで つくった ふねが やって きました。にもつを つんだ はしけ、つまり にもつを はこぶ ふねです[1]。

その ころの しんぶんは「てつが うくのは、へんに おもえるかも しれません」と かきました[1]。しんぶんが ふしぎに おもえると かいたのも、むりは ありません。てつの かたまりは、みずに ポチャンと しずむからです。

ふねは、どうして うくのでしょう。

1787年7月の終わりごろ、イギリスのウィルキンソンが英国産の鉄で造った船が、バーミンガムの運河に姿を見せました。当時の報道では約22.75トンの荷を積んだとされています[1]。これは最古級の鉄製船体の候補とされますが、何を「最初の鉄の船」と呼ぶかで諸説あり、1787年の船が最初だとは言い切れません。

船の到着を伝える記事とは別に、8月7日付の新聞は、鉄が浮くのは奇妙に思えるかもしれない、と書きました。そして、薄くのばした鉄なら浮く、と説明しています[1]。

鉄のかたまりは沈みます。それなのに、同じ鉄でできた船は荷物まで積んで浮く。この食いちがいが、新聞に「奇妙」と書かせました。

1787年7月28日ごろ、ジョン・ウィルキンソン(ブラッドリー製鉄所)が英国産の鉄で造った船がバーミンガムの運河に到着し、当時の報道では約22.75トンの荷を積んだとされた[1]。これは最古級の鉄製船体の候補とされるが、「初の鉄船」の定義しだいで諸説あり、1787年の例が最初とは言えない。

この到着の報道とは別に、8月7日付のSaunders's News-Letterは「鉄が浮くのは奇妙に思えるかもしれない」と述べ、薄くのばした鉄なら浮くと説明した[1]。この説明は当時の言い方で、現在の用語でいう平均密度の議論と同じものとは言えない。

では、現代の物理はこの驚きにどう答えるのか。

2. ふねは、じぶんの おもさと おなじ みずを おしのける

2. 答えは「自分の重さと同じ重さの水を押しのける」こと

2. 浮く条件 ── 押しのけた水の重さと、船全体の平均密度

こたえは「おしのけた みず」に あります。ふねが みずに はいると、ふねの かたちの ぶんだけ、みずが よこへ おしのけられます。

うかんで いる ものは、じぶんの おもさと おなじ おもさの みずを おしのけて います[2]。ふねの なかは からっぽの ところが たくさん あって、くうきが はいって います。だから、おなじ おもさでも、かたちが おおきくなり、たくさんの みずを おしのけられるのです。

てつの かたまりは、ちいさい ままなので、おもさに たりる みずを おしのけられず、しずみます。

ただし ほんとうは、てつが かるく なるのでは ありません。ふねぜんたいで かんがえると、くうきを ふくむぶん かるい、というだけです。

浮いている物は、自分の重さと同じ重さの水を押しのけています[2]。船が押しのけた水の重さを排水量といい、これは船の実際の重さに等しくなります[3]。

鉄の船の中は、広い空間になっていて、空気が入っています。そのため、船全体としての重さは同じでも、体積が大きくなり、平均の密度が水より小さくなります[2]。鉄そのものが軽くなるわけではありません。

鉄のかたまりは、体積が小さいので、自分の重さ分の水を押しのけられず、沈みます。船は形を広げて、必要な量の水を押しのけているのです。

浮く物体が押しのける水の重さは、その物体の重さに等しい[2]。船の排水量は押しのけた水の重さで、船の実際の重さと一致する[3]。したがって、船が浮くためには、自分の重さ分の水を押しのけるだけの体積を水面下にもたなければならない。

鉄の密度は水より大きく、かたまりは沈む。だが船体は内部に空気を含み、船全体の平均密度を水と同程度まで下げられる[2]。ここで比べているのは鉄の密度ではなく、船全体の平均だ。1787年の新聞の「薄くのばした鉄」という説明は、この平均を下げる工夫を、当時の言葉でとらえたものと読める。

では、この考え方から、どんな予想が立つのか。水が変われば、押しのけるべき体積も変わるはずだ。

3. おなじ ふねが かわに はいると、どうなる?

3. 同じ船が川に入ると、海より深く沈む

3. 淡水と海水 ── 約2.5%の差を計算する

ふねが おしのける みずの おもさは、ふねの おもさと おなじです。では、みずの ほうが かるいと どうなるでしょう。

うみの みずは しおが とけて いて、かわの みずより すこし おもく なります。1リットルの おもさを くらべると、うみは 1.025キログラム、かわは 1.000キログラムと して けいさんします(ふつうの ばあいの めやすです)[4]。

かわの みずは かるいので、おなじ おもさを ささえるには、たくさんの みずを おしのけなければ なりません。だから、ふねは かわで すこし ふかく しずみます。

ためしに、1000トンの ふねで けいさんします。うみでは 976 りっぽうメートルほど、かわでは 1000 りっぽうメートルを おしのけます。ちがいは 24 りっぽうメートルほどで、1つの へんが 3メートルくらいの はこの おおきさです。

船が押しのける水の重さは、船の重さと同じです。では、水が変わるとどうなるでしょうか。

満載喫水線の計算では、淡水の密度を1立方メートルあたり1000キログラム(1000kg/m³)、標準的な海水を1025キログラム(1025kg/m³)とします[4]。海水は塩分を含むぶん重く、同じ体積でも2.5%重いのです(1025÷1000)。

同じ重さの船が浮くとき、重い海水なら少ない体積で足り、軽い淡水ではより多くの体積が要ります。そのため、同じ船は淡水のほうが深く沈みます[4]。

実際に計算してみます。重さ1000トンの船が押しのける水は、淡水なら1000立方メートル、海水なら1000÷1.025で約976立方メートルです。差は約24立方メートルで、一辺が約2.9メートルの立方体にあたります。ただしこれは筆者の計算例で、沈む深さが2.5%増えるという意味ではありません。深さの増え方は、船の形しだいです[4]。

満載喫水線の計算では、淡水の密度を1000kg/m³、標準的な海水を1025kg/m³とする[4]。船の重さが同じなら、押しのける水の重さも同じなので、必要な体積は密度に反比例する。淡水では海水より、約2.5%(1025÷1000)多くの体積が要る。

例として、重さ1000トンの船を考える。海水では1000÷1.025≒976m³、淡水では1000m³で、差は約24m³だ。これは筆者の計算例にすぎない。体積が約2.5%増えるという話と、喫水(水面から船底までの深さ)が2.5%増えるという話は別で、喫水の増え方は水面付近の船の形で決まる[4]。

この差は小さい。しかし船は荷を満載にすると、水面から船の上端までの余裕(乾舷)が限られる。2.5%の体積の差が、安全の余裕にどう響くのかが、次の問いになる。

4. うみの なかでも、しずむ ふかさは かわる

4. 海の中でも、水の重さは同じではない

4. 海水の密度は一定ではない ── 水温と塩分の影響

かわと うみだけでは ありません。うみの みずの おもさも、いつも おなじでは ありません。

うみの みずは、あたたかく なると かるく なり、しおが ふえると おもく なります[5]。ですから、つめたくて しおが こい うみから、あたたかくて うすい みずへ はいった ふねは、さらに ふかく しずみます[3]。

ふねを まもるには、「いまの みずは、どれくらい かるいか」を かんがえて、にもつを つむ ひつようが あるのです。

海水の表面の密度は、目安として1リットルあたり約1.025キログラム(約1025kg/m³)です。水温が上がると密度は下がり、塩分が増えると上がります[5]。そのため、海の中でも場所と季節で密度が変わります。

船乗りの資料には、冷たく塩分の濃い海から、暖かく塩分の薄い水へ入った船が、より多くの水を押しのけて釣り合うため、さらに深く沈む、と説明されています[3]。

船に荷を積む人は、こうした水のちがいも考えて、積む量を決めなければなりません。

海水の表層の密度は目安として約1.025kg/L(約1025kg/m³)で、水温が上がると下がり、塩分が増えると上がる[5]。したがって「海水は1025kg/m³」は標準値で、場所・季節ごとにずれる。

Gardの解説は、冷たく塩分の濃い海から暖かく塩分の薄い水へ入った船は、釣り合うために多くの水を押しのけるので、さらに深く沈むと述べる[3]。同じ荷でも、水の密度しだいで喫水が変わるという構図だ。

密度は場所や季節で変わるので、ここに挙げた数字は「およそ」の目安だ。

水ごとに沈み方が違うなら、荷をどこまで積んでよいかを、どう決めるのか。

5. ふねの よこの しるしは、「ここまで」の めじるし

5. 船の横腹の印は、水ごとの「沈んでいい深さ」

5. 満載喫水線 ── 1876年の義務化と、条件別の線

おおきな ふねの よこの はらには、まるに よこせんが はいった しるしが あります。これは、にもつを つみすぎて、ふねが ふかく しずみすぎないように する めじるしです。

この しるしの よこに、なつ・ふゆ・かわの みずなど、みずに あわせた せんが かいて あります[6]。かわの みずは かるく、うみより ふかく しずみやすい ので、かわ ようの せんも あるのです。

むかし、この しるしを ふねに つける ことを もとめて、はたらきかけた 人が いました。サミュエル・プリムソルです。1876ねんの イギリスの ほうりつで、しるしは ぎむに なりました[7]。

船の横腹には、円に横線が通った印が描かれています。満載喫水線と呼ばれ、積みすぎによる海難を防ぐために、19世紀のイギリスで考えられました[6]。

印の横には、夏季(S)・冬季(W)・淡水(F)など、条件ごとの限度の線が刻まれています。淡水は海水より浮力を得にくいため、淡水の線があるのです[6]。ここまでの章で見てきた、水の重さのちがいが、そのまま線の位置になっています。

サミュエル・プリムソルは、船に載貨限度線を表示するよう求めて運動しました。1876年の商船法で、対象となる英国船では表示が義務になりました[7]。印の考え方はそれ以前にもあり、プリムソルが一人で発明したわけではありません。

満載喫水線は、積みすぎによる海難を防ぐため、19世紀のイギリスで考案された。夏季(S)・冬季(W)・淡水(F)など、条件ごとの限度が刻まれる。淡水は海水より浮力を得にくいため、専用の線がある[6]。前章までの密度の差が、そのまま線の位置に反映されているわけだ。

サミュエル・プリムソルは載貨限度線の表示を求めて運動し、1876年の商船法(Merchant Shipping Act)で、対象となる英国船では表示が義務化された。印は、円を横線が貫く形である[7]。ただし、限度線の考え方自体は中世ベネチアなどにもあったとされ、プリムソルが「発明した」とは言えない。誰が考案したかは資料によって言い方が分かれるため、ここでは「運動の結果、義務化に至った」と整理しておく。

なお、国際条約の年や、季節ごとの線の幅の数値は、この記事では扱わない。条約や国内の規則の原文は、国土交通省などの公式資料で読める。

6. ふねの かわりに、ペットボトルで ためして みよう

6. ペットボトルで「沈む深さ」を比べる

6. 沈み方の差を、家で観察する

ちいさな ペットボトルに、10えんだまを いくつか いれて ふたを しめ、みずを いれた ふかい いれものに うかべます。みずの せんに、あぶらせいの ペンで しるしを つけます。

つぎに、おなじ いれものの みずに しおを たくさん とかして、もういちど おなじ ペットボトルを うかべます。しるしの いちは、どう かわったでしょうか。

ほんものの うみの みずと かわの みずの ちがいは、とても ちいさいので、こい しおみずの ほうが、ちがいが はっきり わかります。ペンは みずに ぬれるので、すぐに ふいて ください。

みなとで ふねを 見たら、よこの しるしに ちゅうもくして みましょう。

小さなペットボトルに10円玉を数枚入れてふたを閉め、深めの容器の水に浮かべます。水面の位置に、油性ペンで印をつけます。

次に、同じ容器の水に塩をたっぷり溶かして、同じボトルを浮かべます。印と水面の位置は、どう変わるでしょうか。塩水が重いぶん、ボトルは水から少し浮き上がると予想できます。

本物の海水と淡水の差は約2.5%と小さいので、濃い塩水のほうが差を見つけやすくなります。塩水は目に入らないように気をつけてください。

港で大きな船を見かけたら、船体の横の円と線を探してみましょう。何本の線が、どんな条件ごとに並んでいるでしょうか。もっと知りたければ、ロイヤル・ミュージアムズ・グリニッジのプリムソルの解説[7]が、印の歴史を読めます。

観察するなら、小さなペットボトルにおもりの10円玉を入れて密閉し、深めの容器の水に浮かべて水面に油性ペンで印をつける。次に、水に塩をたっぷり溶かした容器で同じ操作をして、印と水面の位置を比べる。塩水は水より密度が大きいので、ボトルは少し浮き上がるはずだ。

本物の海水と淡水の差は約2.5%と小さいため、飽和に近い塩水を使うほうが、差を見つけやすい。なお、この実験は筆者が考えた観察で、資料に書かれた手順ではない。塩水は目に入らないよう注意する。

資料を読むなら、排水量の考え方はGardの解説[3]とScientific American[2]、1787年の新聞の引用はGrace's Guide[1]、印と1876年の法律はロイヤル・ミュージアムズ・グリニッジ[7]が読める。いずれも英語なので、日本語で読むなら乗りものニュースの解説[6]から入るとよい。

しらべた もとの じょうほう

参考にした情報源

参考にした情報源と、その使い方

出典について:英国の鉄船の歴史資料、船会社向けの解説、博物館の解説、日本語の解説記事を使った。何に使ったかは、それぞれの項目の最後に書いている。

  1. Grace's Guide「Early Iron Boats」。https://www.gracesguide.co.uk/Early_Iron_Boats (1787年の鉄のはしけと新聞の記事について)
  2. Scientific American「How Metal Boats Float」。https://www.scientificamerican.com/article/bring-science-home-how-metal-boats-float/ (浮く物体が自分の重さと同じ重さの水を押しのけること)
  3. Gard「Why do ships float?」。https://gard.no/insights/why-do-ships-float/ (排水量と、水が変わったときの沈み方について)
  4. Wikipedia「Load line (watercraft)」。https://en.wikipedia.org/wiki/Load_line_(watercraft) (淡水と海水の密度の値について。二次資料)
  5. The Physics Hypertextbook「Density of Seawater」。https://hypertextbook.com/facts/2002/EdwardLaValley.shtml (海水の密度と水温・塩分の関係について)
  6. 乗りものニュース「満載喫水線」の解説。https://trafficnews.jp/post/685596/2 (満載喫水線の目的と、条件別の線について)
  7. Royal Museums Greenwich「Samuel Plimsoll and ship safety」。https://www.rmg.co.uk/stories/maritime-history/samuel-plimsoll-ship-safety (プリムソルの運動と1876年の商船法について)

なおした ところ

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