1. すべりにくさは、くつの せい? ゆかの せい?
1. 「滑りにくさ」は靴と床の組み合わせで決まる
1. 防滑係数 ── 床と靴底の組み合わせを数字にする
がっこうの ろうかで、うわばきを はいて あるいて います。ふいた ばかりの ゆかは、つるっと する ことが ありますね。
この「すべりにくさ」は、靴だけの せいでも、ゆかだけの せいでも ありません。ゆかと くつの そこの くみあわせで きまります。
はじめに 出した はなしを おもいだして ください。おなじ コンクリートの ゆかで、ゴムの かかとは 0.72から 0.73、かわの かかとは 0.38から 0.46でした[1]。かずが 大きい ほうが、すべりにくい という ことです。
この かずは、摩擦という ものから 作ります。靴を ゆかに おしつける 力に くらべて、よこに ひく 力が どれだけ いるかを わり算で だします。たくさんの 力で ひかないと うごかない ほど、すべりにくい のです。
では、この かずを さいしょに 作ったのは、いつ ごろでしょう。
学校の廊下を上履きで歩くとき、拭いたばかりの床がつるりとすることがあります。この「滑りにくさ」は、靴だけでも床だけでも決まらず、靴底と床の組み合わせで決まります。
冒頭の数字がその例です。同じコンクリートむき出しの床で、ゴムのかかとは0.72〜0.73、革は0.38〜0.46でした[1]。数字が大きいほど滑りにくいという読み方です。
こうした数字の土台は摩擦係数です。靴を床に押しつける力に対して、横に引いて動かすのにどれだけの力が要るかを割り算で表します。たとえば押しつける力が1のとき、0.7の力で動き出すなら、数字は0.7です(わかりやすくするための数字で、資料の測定値ではありません)。大きな力で引かないと動かない組み合わせほど、滑りにくいといえます。
では、この数字を最初に測れるようにしたのは、いつ、どんな道具だったのでしょうか。
滑りにくさの指標は、床と履物の間の摩擦係数が基本になる。履物を床に押しつける力に対し、水平に動かすのに要る力の比である。冒頭に挙げた1959年の報告(文書番号SH-1959-3-2から読んだ年で、誌面の発行年は未確認)では、コンクリートむき出しの床で、ゴムは防滑係数0.72〜0.73、革は0.38〜0.46を示した[1]。
数値が大きいほど滑りにくい。同じ床でも靴底の材質で約1.6〜1.9倍(0.72÷0.46≒1.57から0.73÷0.38≒1.92まで)の差が出るため、「この床は滑る」という言い方は、靴底と条件を決めなければ数字にならない。
ここで、数字として表すという発想そのものが新しかった。同報告は、それまで床の滑りの程度を数値で表したものはなかった、と述べる[1]。数字にするために、報告は専用の測定機を作った。
2. ふりこで、ゆかの すべりを はかった
2. かかとの一片を振り子につけ、床を滑らせる
2. 持ち運べる振り子式測定機 ── かかと接地角10〜30度を再現する
むかしの しらべでは、振り子の かたちの きかいを つかいました。靴の かかとの 小さな 4センチ四方の ひとかけらを、ふりこの さきに つけます[1]。
その かかとを ゆかに あてて、10センチだけ すべらせます。すると、ふりこは むこうがわへ ふれあがります。その あがった たかさが どれだけ へったかから、すべりにくさの かずを だします[1]。
この きかいは、はこんで つかえる ように 作られました。それまで、ゆかの すべりを かずで あらわした ものは なかった と されます[1]。
また、あるく ときに いちばん すべりやすいのは、まえに だした 足の かかとが ゆかに ついた すぐあとです。そのときの かたむきは、すりへった くつの かかとから、10どから 30どと わかって いました[1]。きかいは、このうごきを まねる ために、かかとの ひとかけらを 10ど、20ど、30どで つけられる ように なって います。
ところで、おなじ ゆかでも、みずで ぬれたら どうなるのでしょう。
この報告で作られたのは、持ち運べる「床の滑り測定機」です。靴のかかとの一片(4cm角)を振り子の先に取りつけ、床の上を10cm滑らせます。そのあと反対側へ振り上がった高さの減り方から、防滑係数を求めます[1]。
報告は、それまで床の滑りの程度を数字で表したものはなかった、と述べています[1]。滑るかどうかが、感覚で語られていた時代からの一歩です。
測り方にも、歩く動きへの目配りがあります。歩くとき、滑りが最も起こりやすいのは、前に出した足のかかとが床についた直後です。その接地角度が10〜30度であることは、すり減った靴のかかとから知られていました[1]。そこで測定機は、靴底片を10度・20度・30度で取りつけられます。
床の上で転ぶ瞬間を、振り子の動きで写し取ろうとしたわけです。では、その床が水や油でぬれたときは、どうなるのでしょうか。
測定機は、靴のかかとの一片(4cm角)を振り子の先に取りつけ、床の上を10cm滑らせる構造である。反対側へ振り上がった高さの減り方から、防滑係数を求める[1]。装置は持ち運べるため、実際の床で測れる点が重要だった。
なぜ振り子にかかとをつけるのか。同報告は、歩行で滑りが最も起こりやすいのは前に出した足のかかとが接地した直後とし、その角度が10〜30度であることを、すり減った靴のかかとの摩滅から知られていた事実として挙げる[1]。測定機は靴底片を10・20・30度で取りつけられ、この動きを再現する。
つまり、床の滑りを「人の歩き方のどの瞬間か」まで決めて測る設計だった。では、その床が水や油でぬれると、数字はどうなるのか。
3. みずが あると、どうして すべりやすく なる?
3. 水が入ると、数字が極端に下がることがある
3. 吸着層と、凹みにたまる水 ── ぬれた床で摩擦が落ちる理由
おなじ ゆかと おなじ くつの そこでも、はかる ばしょで かずが かわる ことが ありました。みずや あぶらで ぬれて、ゆかの おもてに うすい まくが できると、かわいた ゆかより ずっと すべりやすく なる と されます[1]。
では、どうして みずが あると すべるのでしょう。タイヤと みちの けんきゅうが ヒントに なります。
ゴムを ざらざらした めんに おしつけると、ゴムが でこぼこに ひっかかって、ぐにゃっと ゆがみます。そのとき、力が ゴムの 中で つかわれる ぶんが、まさつを 大きく して います。
ところが、すこしの みずが でこぼこの くぼみに たまって ふさぐと、ゴムは くぼみの そこまで とどきません。ゆがむ ぶんが なくなって、まさつが さがる という せつめいです[2]。
これは タイヤの はなしです。くつの そこにも おなじ かんがえが あてはまりそうですが、そうと きまった わけでは ありません。
では、みずで ぬれた ときの すべりやすさは、どう くらべれば いいのでしょう。
同じ床、同じ靴底でも、測る場所によって値が変わることがあります。水や油でぬれて床の表面に薄い層ができると、乾いた床よりずっと滑りやすくなるとされます[1]。
なぜ水が入ると摩擦が下がるのか。ゴムの摩擦を調べた研究(タイヤと道路が対象。科学ニュースの記事による紹介です)が、手がかりになります。ゴムをざらざらの面に押しつけると、ゴムが細かい凹凸に引っかかって変形し、そのたびに内部でエネルギーが失われます。この失われる分が、摩擦の大きな部分を占めます。
少量の水が凹みにたまってふさぐと、ゴムは凹みの底まで届かなくなり、この変形の分が消えて摩擦が下がる、と説明されています[2]。
道路とタイヤの研究なので、靴底にそのまま当てはまると言い切ることはできません。ただ、ぬれた床で数字が急に落ちることがある理由を考える、一つの見方になります。では、水の量や引き方が違えば、測るたびに数字がばらつきます。公的な試験は、それをどう防いでいるのでしょうか。
同じ床・同じ靴底でも、測る場所で値が変わる。同報告は、水や油でぬれて床の表面に吸着層ができると、乾いた床より極端に滑りやすくなる、としている[1]。なお、この報告の他の表の数値はOCRが乱れているため、本稿は本文の数字だけを使う。
理由の手がかりは、Persson・Tosattiらのゴム摩擦の研究(Nature Materials)の紹介記事にある。ゴムが粗い面に押しつけられると、凹凸に引っかかって変形し、内部にエネルギーが失われる。この寄与が摩擦の大きな部分を占める。少量の水が凹みにたまってふさぐと、ゴムが凹みの底に届かず、この寄与が打ち消されて摩擦が下がる[2]。
ただし、これはタイヤと道路の研究で、原論文は本稿では未確認である。靴底にも同じ考え方があてはまりそうだが、断定はできない。
理由が水の量や表面の状態に左右されるなら、測定の再現性は条件をそろえられるかにかかる。公的な試験は、どこまで条件を決めているのか。
4. あるく うごきを、おもりで まねする
4. おもりを斜めに引き、動き出す瞬間の力を測る
4. JIS A 1454とC.S.R ── 80kgのおもりを785N/秒で引く
いまの 日本の ゆかの しけんでは、おもい おもりの そこに、くつの そこの かわりに なる 小さな かたまりを つけます。
おもりは 80キロです。これを ななめ 上、18どの ほうこうへ、だんだん 強く ひっぱります[3]。
おもりが うごき 出す その しゅんかんの いちばん 大きな 力を、おもりの おもさで わります。それが、すべりの かずです[3]。
これは、あるく ときに、けりだす 足が ゆかを おし出す うごきを まねて います[3]。
この きかいは、ぜんぶで 150キロを こえる ほど 大きいので、げんばでは つかいにくい のです。そこで、小さくした もちはこべる きかいも 作られました[3]。
この かずは、たてものの きまりの めやすにも なって います。日本けんちく学会の すいしょうの かず(あん)では、ろうかや かいだん、おてあらいの ゆかは 0.4いじょうです[4]。ただし、これは ほうりつの きまりでは ありません。
ここまでは、ゆかを はかる しけんでした。つぎは、くつの そこを はかる しけんを みます。
現在、床の滑りにくさを測る日本の試験の代表が、JIS A 1454です。80kgのおもりの底に、靴底や足裏の代わりになる「滑り片」(接触面70×80mm)をつけ、斜め上18度の向きに、785N(80kgf)毎秒の割合で引っぱります。動き出す瞬間の最大の引っぱり力を、おもりの重さ(785N)で割った値がC.S.Rです[3]。人が歩くとき、蹴り足が床を押し出す動作を再現した方法とされています。
この試験機は、全体で150kgを超える大がかりな装置です。そのため現場では使いにくく、考案者の小野英哲氏(東京工業大学名誉教授)が縮小した携帯型を開発しました。JIS試験機と同じ傾向のデータが得られることも確かめられています(携帯型の値はC.S.R'と書き分けます)[3]。
数字の目安もあります。日本建築学会の推奨値(案、2008年)では、履物をはく場合、屋内の通路や階段の踏面、便所・洗面所の床などはC.S.R=0.4以上、客室の床は0.3以上です[4]。ただし、案であり、法律上の基準値ではありません。水や砂がつくと、また履物の底の材質でも値は変わります。
これは「床」を主役にした試験です。靴のほうを主役にした試験は、また別の工夫をしています。
日本の床の滑り試験の代表は、JIS A 1454である。80kgのおもりの底に、靴底や足裏の代わりの「滑り片」(接触面70×80mm)をつけ、斜め上18度の方向から785N(80kgf)/秒の割合で引く。動き出す瞬間の最大の引っぱり力Pmaxをおもりの重さ(785N)で割ったものがC.S.Rだ。人が歩くとき、蹴り足が床を押し出す動作を再現している[3]。
この試験機は全体で150kgを超え、現場で扱いにくい。考案者の小野英哲(東京工業大学名誉教授)は、スケールを縮小した携帯型を開発し、JIS試験機とデータの同一性が確認されている。値はC.S.R'と書き分ける[3]。
数値の目安として、日本建築学会の推奨値(案、2008年)は、履物をはく場合の屋内の通路・階段の踏面・便所や洗面所の床でC.S.R=0.4以上、客室の床で0.3以上とする。C.S.Rは大きいほど滑りにくく、水や砂の付着、履物底の材質で値が変わる。推奨値は「案」で、法的な基準値ではない[4]。床の側から測る試験の次に、靴底の側から測る試験を見る。
5. くつの そこを、ステンレスの 板で ためす
5. 安全靴は、グリセリンを塗った板で試される
5. JIS T 8101の耐滑性試験 ── 動摩擦係数0.20と、歩行実験で決まった0.30
はたらく 人が はく 安全ぐつには、すべりにくさの しけんが あります。靴を 水平な ステンレスの 板に おいて、グリセリンという ぬるぬるした えきを ぬります。
その うえから、500ニュートンの 力で おしつけた まま、靴の そこを よこに うごかします。うごかす はやさは、1びょうで 0.22メートルです。その ときの よこの 力を、おしつけた 力で わった かずが、すべりにくさの かずです[5]。
この かずが 0.20 いじょうなら、すべりにくい くつと みなされます[5]。
この しけんは、おとなの はたらく 人の ための くつの しけんです。うわばきの ための ものでは ありません。
では、きかいで はかった かずは、ほんとうに あるいたときの すべりやすさと つながって いるのでしょうか。それを 人で たしかめた けんきゅうが あります。
すべりにくさの かずが 0.12から 0.64までの 5しゅるいの 靴で、ななめの すべりやすい ゆかを あるいて もらいました。すると、かずが 0.1 ふえるごとに、すべりだす ゆかの かたむきが 2どほど 大きく なりました[5]。
この けっかを うけて、0.20に くわえて、あたらしく 0.30 という 上の きじゅんが 作られました[5]。
安全靴のJIS(T 8101)の耐滑性試験は、靴のほうを主役にしています。グリセリンを塗った、表面粗さ0.16μm以下のステンレス板に靴を置き、500Nで押しつけたまま、靴底を毎秒0.22mで水平に動かします。測定開始から0.4〜0.8秒の水平荷重を鉛直荷重で割ると、動摩擦係数が求まります。0.20以上が耐滑性の基準です[5]。
ここで大事なのは、これが安全靴・作業靴のための試験だということです。学校の上履き向けの規格ではありません。
では、機械の数字は、人が歩くときの滑りやすさと本当に結びつくのでしょうか。労働安全衛生総合研究所の研究が、そこを確かめました。動摩擦係数が0.12〜0.64の5種類の靴で、滑りやすい斜面を歩く実験と、前後に足を踏み出す実験をしました。その結果、基準の0.20は、前後の動きでの滑りを抑えるのに妥当だと分かりました。さらに、動摩擦係数が0.1上がると、斜面で滑り始める角度が約2度増えました[5]。
この結果も報告され、0.30が上位の基準としてJISの改訂に採用されました[5]。機械の数字を、人の歩きで確かめてから基準にした、という流れです。ただし、この実験は成人男性19名が協力したもので、ステンレス板とグリセリンという厳しい条件での値です。子どもの歩き方や学校の廊下の水とは別の話として読む必要があります。
ところで、こういう試験の考え方を、手作りで真似した子どもがいました。
安全靴のJIS T 8101の耐滑性試験は、グリセリンを塗った表面粗さ0.16μm以下のステンレス板に靴を置き、500Nの鉛直力で押しつけたまま、靴底を水平に0.22m/sで動かす。測定開始0.4〜0.8秒の水平荷重を鉛直荷重で割って動摩擦係数を求め、0.20以上が耐滑性の基準とされる[5]。
なお、これは安全靴・作業靴向けの試験で、学校の上履き向けの規格ではない。上履きそのものを測った公的な数字は、本稿では扱わない。
では、この厳しい条件の数値は、実際の歩行の滑りと対応するのか。労働安全衛生総合研究所の研究(JNIOSH-SRR-No.47、2017)は、動摩擦係数0.12〜0.64の5種類の靴で、滑りやすい斜面での歩行と、前後ステップの実験をした。結果、0.20は前後移動の滑りを抑えるのに妥当と確かめられ、動摩擦係数が0.1上がると、斜面での滑り発生角度が約2度増えた[5]。
この結果が報告され、新たに0.30が耐滑性の上位基準としてJIS改訂に採用された[5]。機械の数値を、人の歩行で確かめたうえで基準に反映した点が、この研究の核心だ。ただし被験者は成人男性19名の協力による研究で、子どもの歩行や学校の床にそのまま当てはまるわけではない。
厳密な装置がなくても、条件を決める発想をまねる実験は組める。実際に、小学生が組み立てた例がある。
6. 小学生は、くつの そこを どう くらべた?
6. 小学6年生が、霧吹きとメトロノームで条件をそろえた
6. 手作り実験の工夫 ── 水の量と引く速さを決めた自由研究
東京都の 小学6年生が、靴の そこを くらべる じゆう研究を しました。はっぴょうの しりょうに のって います[6]。
ヒノキの 板の そこに、ゴム、コルク、ポリウレタン、シリコーンを はります。それを じゅしの 板の うえに おいて、ばねばかりで ひいて、うごき出す 力を くらべました[6]。
この 子は、くふうを して いました。ぬれた ゆかは、きりふきで 10かい ずつ 水を ふきかけて 作ります。ひく はやさは、メトロノームの 音に あわせて そろえます。そして、3回 ずつ はかって 平均を とりました[6]。
この じっけんでは、かわいても ぬれても、シリコーンが すべりにくい という けっかでした。ポリウレタンは、かわいて いる ときは すべりにくいのに、ぬれると きゅうに すべりやすく なりました[6]。
これは 小学生の ひとつの じっけんで、ほかの ゴムや ゆかに そのまま あてはまる とは かぎりません。
おなじ じっけんで、もようも くらべて います。ぬれた ゆかでは、くらべた もようの 中で、丸い へこみの もようが ふみだす ときも ふんばる ときも いちばん すべりにくい けっかでした。ただ、溝に 水が いっぱいに なると、きゅうに すべりやすく なりました。そこで 水の にげ道に なる 溝を つけると、きゅうに すべる ことは なくなりました[6]。
この 子の くふうは、さっき みた おとなの しけんと、おなじ かんがえです。おしつける 力、はやさ、ぬらす 水を 決めて、おなじ ようすに そろえて います。
東京都の発表資料に、中野区の小学6年生の自由研究が載っています[6]。ヒノキの板の底に、ゴム・コルク・ポリウレタン・シリコーンを貼り、樹脂板の上でばねばかりで引いて、動き出す力を比べたものです。
ぬれた床は、霧吹きで10回ずつ水を吹きかけて作ります。引く速さは、メトロノームの音に合わせてそろえます。各3回の平均をとりました[6]。
この実験では、乾いていてもぬれていても、シリコーンが滑りにくい結果でした。ポリウレタンは、乾いているときは滑りにくいのに、ぬれると急に滑りやすくなりました[6]。素材一般の結論ではなく、この実験での結果です。
模様の比較もしています。ぬれた床では、この実験で比べた模様の中で、丸い凹みの模様が踏み出しでも踏んばりでも最も滑りにくい結果でした。ただ、溝に水がいっぱいになると急に滑りやすくなり、排水の溝をつけると、急に滑ることがなくなりました。溝の分だけゴムが床にふれる面積が減る点にも、考察が及んでいます[6]。砂地では、登山靴に似たチェック柄が踏み出しで滑りにくく、場面によって得意な模様が違う、とまとめています[6]。
水の量と引く速さを決めたこの工夫は、押しつける力と速さを決めるJISの試験と同じ発想です。数字を比べるには、「条件をそろえて、何回か測る」ことが大切です。
東京都が公表した発表資料に、中野区立小学校6年生の自由研究「転ばぬ先のくつ」がある[6]。ヒノキ板の底にゴム・コルク・ポリウレタン・シリコーンを貼り、樹脂板の上でばねばかりで引いて、滑りやすさを比べた。ぬれた床は霧吹き10回で作り、引く速さはメトロノームでそろえ、各3回の平均をとった[6]。
この実験では、乾いていてもぬれていてもシリコーンが滑りにくく、ポリウレタンは乾くと滑りにくいが、ぬれると急に滑りやすくなった[6]。個人の自由研究の結果であり、素材一般の結論にはならない。
模様の比較では、ぬれた床で、この実験で比べた模様の中では丸い凹みが踏み出しも踏んばりも最も滑りにくい結果だったが、溝に水がいっぱいになると急に滑りやすくなった。排水の溝をつけると、急に滑ることがなくなった。滑りやすさ自体は大きく変わらなかったとも書かれ、研究は、排水が効果的だったと考察する。溝の分だけゴムが床にふれる面積が減る点も触れている。砂地では、登山靴に似たチェック柄が踏み出しで滑りにくく、場面で得意な模様が違うとまとめている[6]。
注目したいのは、条件の固定のしかただ。水の量、引く速さ、測る回数を決めている。これは、JISの試験が押しつける力と動かす速さを決める発想と同じだ。小学生の手作りでも、測定値を比べる条件さえそろえば、素材の傾向をつかむ入口になる。
一方で、小学生の実験はサンプル数が少なく、樹脂板という床での話にとどまる。滑りにくさは靴底と床と水の組み合わせで決まるという、冒頭の見方の確認とも言える。
7. うちの ものを、わゴムで ひきくらべて みよう
7. 家の靴底を、輪ゴムで引き比べる
7. 出口 ── 条件をそろえて引き比べる/原典に当たる
つくえの うえで、かんたんな くらべっこが できます。ただし、あるく ばしょや ぬれた ゆかでは ためさないで ください。ころぶと あぶないからです。
うわばきを、そこを 下に して、つくえの うえに おきます。わゴムを かけて、よこに ゆっくり ひきます。うごき出す 直前に、わゴムが どれだけ のびたかを、じょうぎで はかります。3回 やって、平均を みます。
こんどは、おうちの 人と いっしょに、うわばきが つくえから おちない ばしょで、つくえに きりふき 1回ぶんの 水を つけて やって みます。のびが どう かわるでしょうか。やったら、つくえを ふいて おきましょう。
のびが 大きい ほど、うごき出すのに 力が いった、つまり すべりにくい という めやすです。ほかの くつや スリッパとも くらべて みてください。ひく はやさや、おもさを そろえるのが、コツです。
家にあるもので、同じ発想の比べ方ができます。ただし、歩く場所やぬれた床の上では試さないでください。転ぶと危ないからです。
机の上に上履きを底を下にして置き、輪ゴムをかけて、ゆっくり水平に引きます。動き出す直前の輪ゴムの伸びを、定規で測ります。3回測って平均をとります。
次に、保護者と一緒に、上履きが机から落ちない位置で、机に霧吹き1回ぶんの水をつけて同じことをし、伸びがどう変わるかを見ます。終わったら机を拭きます。伸びが大きいほど、動き出すのに大きな力が要った、つまり滑りにくいというめやすになります。ほかの靴と比べるときは、同じ靴で机の素材だけを変えるなど、比べる条件をそろえるのがコツです。
小学生が引く速さをメトロノームでそろえたのと同じ工夫です。机の上の素材で数字が変わるなら、それは靴底と床の組み合わせで決まる、という見方の小さな確認になります。
手元で試すなら、机の上に上履きを底を下にして置き、輪ゴムで水平にゆっくり引いて、動き出す直前の伸びを定規で測るとよい。3回測って平均をとる。保護者と一緒に、上履きが机から落ちない位置で、机に霧吹き1回ぶんの水をつけて再測定し、乾いた場合と比べる。歩く場所やぬれた床では試さない。
輪ゴムの伸びは力のめやすにすぎず、JIS A 1454のC.S.Rと同じ数値にはならない。それでも、押しつける力と引く速さをそろえるという条件の固定は、手作りでも守れる。
原典に当たるなら、産業安全研究所の1959年報告[1]は、振り子式測定機の図と測定法を日本語で読める。林産試だより2011年11月号[3]はC.S.R試験機の仕組みを、労働安全衛生総合研究所の特別研究報告[5]は安全靴試験の根拠となった歩行実験を扱う。ゴム摩擦の理由は、英語の紹介記事[2]から原論文へ進める。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
出典について:産業安全研究所の報告、ゴム摩擦の紹介記事、北海道立総合研究機構の林産試だより、鳥取県の建築設計基準の解説、労働安全衛生総合研究所の特別研究報告、東京都の児童・生徒発表資料を使いました。
- 産業安全研究所「床の滑り易さの限界について(第一報)」。 https://www.jniosh.johas.go.jp/publication/doc/syoho/SH-1959-3-2.pdf (振り子式測定機、かかと接地角度、ゴムと革の防滑係数、ぬれた床について)
- Science News「Little water pools foil road friction」。 https://www.sciencenews.org/article/piddly-puddle-peril-little-water-pools-foil-road-friction (ゴムの摩擦と、凹みにたまる水の影響について。英語の記事)
- 北海道立総合研究機構「林産試だより」2011年11月号。 https://www.hro.or.jp/upload/7796/1111-1.pdf (JIS A 1454の試験機とC.S.R、携帯型について)
- 鳥取県「福祉のまちづくり 滑りにくい床材」。 https://www.pref.tottori.lg.jp/secure/1397632/24_suberinikuiyukazai.pdf (日本建築学会の推奨値(案)について)
- 労働安全衛生総合研究所 特別研究報告 JNIOSH-SRR-No.47(2017)。 https://www.jniosh.johas.go.jp/publication/doc/srr/SRR-No47-1-6.pdf (安全靴の耐滑性試験と、歩行実験による基準の確かめについて)
- 東京都 児童・生徒の発表資料 中野区「転ばぬ先のくつ」。 https://www.gimukyoikushidoka.metro.tokyo.lg.jp/wp/wp-content/uploads/2026/03/14_中野区.pdf (小学生の靴底素材と模様の比較実験について)
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