1. あめの においには なまえが あるのに、ゆきには?
1. 雨のにおいには名前があるのに、雪には?
1. 雨には名前と物質があり、雪のにおいの物質は見つかっていない
あめが ふった あとの つちの においは、1964ねんに「ペトリコール」と なづけられました[1]。いわや つちに たまった きいろっぽい あぶらが、しめりけで ひろがる、という かんがえです[1]。
つちの さいきんが つくる ゲオスミンという ものも かかわります。ひとは、プール 200ぱいに スプーン 1ぱいほどでも かんじとれると いわれます[2]。
ゆきの まえの におい には、そういう なまえも ぶっしつも、まだ ありません。ゆきの においを ちょくせつ しらべた ろんぶんも、こんかいの ちょうさでは みつかりませんでした。
では、はなは なにを ひろって いるのでしょう。てがかりは、においが「ふえる」のでは なく「へる」ことです。
雨上がりの土のにおいは、1964年3月7日、オーストラリアの研究機関CSIROのイザベル・ベアとリチャード・トーマスが、科学誌『Nature』で「ペトリコール」と名づけました[1]。岩や土にたまった黄色っぽい油が、湿り気で放たれるという考えです[1]。
土の細菌(放線菌など)が作るゲオスミンも、雨のにおいに関わります。水の中では1リットルあたり4ナノグラム(10億分の1グラムの4倍)ほどでも検出できる場合があり、オリンピックプール200杯にティースプーン1杯ほどの量だといわれます[2]。雨粒が地面に当たって出る微小な粒(エアロゾル)が運ぶのではないか、という仮説もあります[3]。
雪の前のにおいには、こうした名前も物質もありません。直接調べた査読論文も、今回の調査では見つかりませんでした。
では、鼻は何を拾っているのでしょうか。最初の手がかりは、においが「増える」のではなく、「減る」ことにあります。
雨の場合、においには由来が説明されている。1964年3月7日、CSIROのベアとトーマスは『Nature』で、岩や土に蓄積した黄色い油が湿気で放出されるとして、これをペトリコール(ギリシャ語のpetra=石とichor=神々の血に由来)と名づけた[1]。土壌の放線菌などが作るゲオスミンは、水中で条件によっては約4ng/Lでも検出でき、これはオリンピックプール200杯にティースプーン1杯ほどに当たる[2]。
さらにMITのヨンス・ジョン(Youngsoo Joung)とカレン・ビュイ(Cullen Buie)らは、約600回の実験と28種の多孔質面で、雨粒が当たると内部に泡ができ、破裂してエアロゾルが飛ぶことを示した。エアロゾルは小〜中程度の雨で多く出た。ここまでは実験の結果である。これがにおいの運び手ではないかというのは仮説であり、確定はしていない[3]。
対して雪の前のにおいは、特定の分子も、直接測った査読論文も、今回の調査では確認できなかった。だから以下は、嗅覚科学者による解説が中心で、実験で確かめられた結論ではない。では鼻は何を拾っているのか。最初の手がかりは、においが増えるのではなく、減るという見方である。
2. においが ふえたのでは なく、へって いるとしたら?
2. においが増えたのではなく、弱まっているとしたら
2. 手がかり①:低温では、においが「嗅げる状態」になりにくい
ゆきが ふる ひは、そらの うえから じめんまで ひえて いる ことが おおいです。きおんが さがると、くうきの なかの においの つぶ(ぶんし)の うごきが、おそく なると いわれます[5]。
うごきが おそいと、においが よわく かんじられます。だから ふゆは、においに にぶく なると、かがくしゃの ダルトンさんは はなして います[5]。ダルトンさんの せつめいで、じっけんで たしかめた ものでは ありません。
たとえば、おんがくの ボリュームが さがった ようなもの です。ただし ほんとうは おとでは なく、においの つぶの はなしです。
においが へった くうきの なかで、それでも「ゆきの におい」が するのは なぜでしょう。はなには、においとは べつの センサーが あります。
雪が降る日は、上空から地上まで空気が冷えていることが多いです(雪になるかどうかは、地上の気温だけでは決まりません)。気温が下がると、空気中のにおい分子の動きが遅くなると説明されています[5]。
動きが遅いと、においは弱く感じられます。アメリカのモネル化学感覚センターの嗅覚科学者パメラ・ダルトンは、私たちは冬にはにおいに鈍く、においの分子も「嗅げる状態」になりにくいと話しています[5]。雪の直前は、ふだんよりにおいが弱いのではないか、というダルトンの説明です。実験で確かめた結果ではありません。
音楽のボリュームが下がったようなもの、と考えると分かりやすいかもしれません。ただし本当は音ではなく、においの分子の話です。
においが弱まった空気の中で、それでも「雪のにおい」がするのはなぜでしょうか。鼻には、においとは別のセンサーがあります。
雪が降るかどうかは地上気温だけでなく、上空から地上までの気温分布が関わるが、雪の日は空気が冷えていることが多い。気温が下がると空気中のにおい分子の運動は遅くなると説明され[5]、においは弱く感じられるという。モネル化学感覚センターの嗅覚科学者ダルトンは、冬は人間がにおいに鈍く、においも「嗅げる状態」になりにくいと述べている[5]。
そのため、雪の直前は、においが加わった状態ではなく、ふだんより弱い状態にあるという見方ができる。ただし、これはダルトン個人の解説の域を出ず、雪の日の空気中のにおい分子を実際に測った結果ではない。
ところが、においが弱まった空気で、なお「雪のにおい」を感じる。この説明が成り立つには、嗅覚以外の入力が要る。
3. はなの なかの、もう ひとつの センサー
3. 鼻の中の、もう1つのセンサー
3. 手がかり②:三叉神経が拾う冷たさが、においの体験に混ざる
はなには、「つめたい」を かんじる しんけいが あります。とうがらしの ひりひりや、ミントの すーっと する かんじを かんじるのも、おなじ しんけいです[4]。
これは、においを かんじる しんけいとは べつ です。でも ひとは、コーヒーや まつの かおりと おなじように、この かんじも「におい」の なかに いれて うけとります[4]。
つまり、つめたい くうきを すった ときの はなの かんじが、「ゆきの におい」の いちぶに なって いる のかもしれません。
では、しめりけは どうでしょう。ここで、しりょうの せつめいが わかれます。
4. しめりけと オゾン、せつめいが わかれる ところ
4. 湿り気とオゾン ── 説明が分かれるところ
4. 資料が食い違う点:湿度とオゾンの扱い
ゆきの まえは くうきが しめって いて、それが においに かかわる、という せつめいが あります[4]。でも、ゆきが ふるほど ひえた くうきは かわいて いる、という しりょうも あります[6]。
どちらが ただしいかは、この きじでは きめられません。
「オゾンの におい」という はなしも きく ことが あります。でも、こんかい よんだ ゆきの かいせつ 3ほんには、オゾンが ゆきの においの げんいんだ、という せつめいは でて きませんでした。オゾンの においは、かみなりの まえの はなしです[7]。
ニュース系の解説記事では、雪の直前の空気は普段より湿っていて、その湿り気が関係すると説明されています[4]。一方、別の解説では、雪が降るほど冷えた空気は、むしろ乾いていると書かれています[6]。湿度の影響は、資料によって食い違っているのです。
「雪にオゾンのにおいがある」という説明も、まとめ記事では見かけます。しかし、今回読んだ雪の解説3本([4][5][6])の本文には、オゾンへの言及はありませんでした。
オゾンのにおいが説明されているのは、雷雨の場合です。雷雨の下降気流が、高い所にあるオゾンを地上へ運ぶためとされています[7]。これは雷雨の話であって、雪の話ではありません。
湿度をめぐる説明は割れている。Mental Flossの解説は、雪の直前の空気はふだんより湿っており、その湿り気が関係するとする[4]。一方Science Notesは、雪が降るには気温が凍結点近くまで下がる必要があり、そのとき湿度は低いと書く[6]。なぜ食い違うのかは、資料からは判断できない。
オゾン説も同様に、根拠を確認できない。「雪にオゾンのにおいがある」という記述は一部のまとめ記事にあるが、今回読んだ雪の解説3本([4][5][6])の本文には、オゾンへの言及がない。オゾンのにおいで説明されているのは雷雨で、下降気流が高所のオゾンを地上へ運ぶためとされる[7]。雷雨の説明を、雪へ広げて読むことはできない。
説明が割れ、実験もないなら、この体験は何に支えられているのか。最後の問いは、においが「学習」と結びつくことである。
5. それでも「ゆきの におい」と よぶのは なぜ?
5. それでも「雪のにおい」と呼ぶのはなぜか
5. 「雪のにおい」という名前は、経験から生まれるのか
ダルトンさんは、あめの におい の はなしで、ひとには てんきの においに たいする うまれつきの はんのうは ないようだ、と いって います[7]。けいけんと むすびつけて おぼえる、という かんがえです。
ゆきの においにも、おなじ かんがえが あてはまる かもしれません。ただ、これは たしかめられた こと では ありません。
ゆきの においは、まだ わからない ことが おおい においです。つぎに ゆきが ふりそうな ひ、はなに どんな かんじが するか、おぼえて おけるかな。
ダルトンは、雨のにおいの文脈ですが、人には天気のにおいに対する生まれつきの反応があるようには見えないと話しています[7]。経験と結びつけて覚える、という考え方です。
雪の前のにおいも、同じ考え方で説明できるかもしれません。ただしこれは、雪の話として確かめられたものではありません。
冷たさを感じる神経、弱まる嗅覚、そして経験。この3つを合わせた説明は、解説としては筋が通っています。けれども、雪のにおいを直接測った論文は見つからず、実験で確かめる余地が大きく残っています。
ダルトンは、雨のにおいの文脈で、人は天気のにおいに生得的な反応を持たないようだと述べ、経験と結びつけて覚えると説明している[7]。この発言は雨についてのもので、雪へ広げるなら「同じ考え方で説明できるかもしれない」という推測にとどまる。
整理すると、嗅覚の鈍り、三叉神経の冷感、経験による連合という3つの説明が、雪の前の体験を支えているように見える。ただし、出典は英語の解説が中心である。
雨は名前と物質を得るまでに、1964年のNature論文を待った。雪のにおいには、まだそれに当たる論文が見えない。
自分でも しらべて みたく なったら
自分でも調べてみたくなったら
自分でも調べてみたくなったら
今日できること
はみがきこの ミントあじの ふたを あけて、はなを ちかづけ、いきを すって みましょう。においだけでなく、すーっと つめたい かんじが しないか、くらべて みます。はみがきこは、めや くちに いれないように します。
出かけてできること
ひんやりした ひに そとへ でたら、はなで かんじた ことを ことばに して、めもに のこして みましょう。においなのか、つめたさなのか、じぶんで わけて みます。
こうしきの じょうほう
てんきや きおんは、きしょうちょうの よほうで しらべられます。
今日できること
ミント味の歯みがき粉のふたを開け、鼻を近づけて息を吸ってみましょう。においだけでなく、「すーっと冷たい」感じがないかを確かめます。三叉神経の働きについて考える手がかりになります。歯みがき粉は目や口に入れないようにします。
出かけてできること
空気がひんやりした日に外へ出たら、鼻で感じたことを言葉にして、メモに残します。においなのか、冷たさなのか。書き分けてみると、自分の感覚の混ざり方が見えてきます。
公式情報
気温や雪の予報は、気象庁の情報で調べられます。
今日できること
ミント味の歯みがき粉のふたを開けて息を吸い、においと冷感のどちらが強いかをメモに書く。冷感が三叉神経の働きだという説明を、自分の体験と突き合わせる材料になる。歯みがき粉は目や口に入れない。
出かけてできること
気温の低い日に外へ出て、鼻で感じたものを「においの言葉」と「冷たさの言葉」に分けて記録する。数日続ければ、天気や気温との関係を自分のデータとして残せる。
資料を読むなら
出典[4](Mental Floss)は、三叉神経の説明を読むのに向く。[3]のMIT News(2015)は、雨のにおいの運び手についての実験を紹介している。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
雪の前のにおいを直接調べた論文は見つからず、解説記事(嗅覚科学者の発言)を突き合わせて書いた。雨のにおいの部分は、CSIRO・MIT・解説記事による。日本語の一次資料は確認できていない。
- CSIRO, "The smell of rain" (2015). https://www.csiro.au/en/news/all/articles/2015/march/the-smell-of-rain-how-our-scientists-invented-a-new-word (ペトリコールの名づけ)
- Popular Science, "The science behind the smell of rain". https://www.popsci.com/science/smell-of-rain-petrichor-science/ (ゲオスミン)
- MIT News (2015), "Rainfall can release aerosols". https://news.mit.edu/2015/rainfall-can-release-aerosols-0114 (雨粒とエアロゾルの仮説)
- Mental Floss, "What's Really Happening When You 'Smell' Snow?". https://mentalfloss.com/article/520083/whats-really-happening-when-you-smell-snow (三叉神経、ダルトンの説明)
- ENN, "Why cold air smells different". https://enn.com/articles/46900-why-cold-air-smells-different (低温でのにおい分子)
- Science Notes, "Can You Smell Snow?". https://sciencenotes.org/can-you-smell-snow/ (湿度の説明)
- Scientific American, "Storm Scents". https://www.scientificamerican.com/article/storm-scents-smell-rain (雷雨のオゾン、経験と結びつくにおい)
なおした ところ
更新履歴
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