1. はさみと ホチキスは どこが ちがうの?
1. はさみは紙を「切る」、ホチキスは紙を「通して曲げる」
1. せん断の定義と、ステープラーの定義 ── 目的がちがう
はさみで 紙を 切る とき、二まいの はは すれちがいます。このように、ものの 中の 面に そって、ずらす 向きに かかる 力を「せんだん」と いいます[1]。はさみは、せんだんの 力で 紙を 切って いる 道具です。
では、ホチキスは どうでしょう。ホチキスは、コの 字の 形の はりを 紙に さして とおし、出て きた はりの さきを りょうがわから たいらに まげて、紙を とめる 道具です[4]。
ここで 大切なのは、ホチキスの しごとが「切る」ことでは なく「とおして、まげる」こと だと いう 点です。はさみと ホチキスは、おなじ 紙を あつかっても、ねらいが ちがいます。
はさみの刃は、すれちがう
はさみで紙を切るとき、2枚の刃は、少しずれた位置をすれちがいます。このように、物の内部の面に平行な向きに力がはたらくことを、せん断といいます。漢字では剪断とも書きます[1]。はさみの刃のあいだにある紙は、せん断の力で切れていきます。
ホチキスの目的は、切ることではない
一方、ステープラー(ホチキス)は、コの字形の針を紙に刺し通し、出てきた針先を両側から平らに曲げて、紙を綴じる文具です[4]。仕事の中心は「通す」と「曲げる」で、紙を切り分けることではありません。
同じ紙に力を加える道具でも、はさみは切るために、ホチキスは留めるために作られています。次の章からは、針が曲がる場面を順に見ます。
せん断は、物体の内部の任意の面に対し、その面と平行な方向に力が作用することをいう。剪断とも書き、はさみで挟み切る状態が典型例とされる。はさみの2枚の刃はすれちがい、切られる物体はせん断力で破壊される[1]。
これに対し、ステープラーはコの字形の針を紙に刺し通し、針先を両側から平らに曲げて綴じる文具と定義される[4]。道具の目的が、はさみは「切断」、ステープラーは「貫通と曲げによる固定」とずれている。そのため、紙に力を加えるという共通点だけで、ホチキスをせん断の道具と呼ぶことはできない。
この記事は、ホチキスの動作を貫通・曲げ・留めた後の3場面に分け、場面ごとに「せん断かどうか」を問う。まず、針が紙を貫いたあと、何が起きるかから見る。
2. 紙を とおった はりは、どこで まがるの?
2. 紙を通り抜けた針は、裏の受け台の溝で曲がる
2. 貫通からクリンチまで ── 受け台の溝が足を曲げる
ホチキスを おすと、まず はりが 紙を つきぬけます。つきぬけた はりの 足は、ホチキスの 下がわに ある 受けだいに あたります。
この 受け台には、みぞが あります。足は みぞに そって まがります[2]。みぞの 形の おかげで、左の 足と 右の 足が おなじ ように まがる ように なって います[2]。
ホチキスを つかった ことが あれば、「パチン」と 音が する まえに、かるい てごたえが あった はずです。その 一しゅんの あいだに、はりは 紙を とおり、うらで まがり、おわって います。
もし みぞが なかったら、足は バラバラの 向きに まがって しまうかも しれません。みぞは、ふたつの 足の まがり方を そろえる しくみです。
針が紙を貫いて、裏に当たるまで
ホチキスの内部では、ドライバーと呼ばれる部品が針を押し下げて、紙を貫通させます。紙の裏側には、クリンチャー(受け台)があり、貫通した針の足が溝に当たって曲がります[2]。
この溝は、針の足が曲がる道すじをつくっています。溝の形のおかげで、左右の足が同じように曲がる仕組みになっています[2]。
この場面は「曲げ」が主役
針が紙を通り抜ける瞬間は、紙の繊維を切っているのか、押し広げているのかは、ここでは決めません。そのため、貫通する場面をせん断と呼ぶかどうかも、決めずにおきます。はっきり言えるのは、足が溝に当たって曲がる場面は、曲げの動きだということです。
動作の順序を、針の側から整理する。ドライバーが針を押し下げて紙を貫通させ、裏側のクリンチャー(受け台)の溝に当たった足が溝に沿って曲がる。溝の形状によって、左右の足が均等に曲がる[2]。
ここで、せん断かどうかを分けて考える。針が紙を貫く瞬間に、紙の繊維が切られるのか押し広げられるのかで見方が変わるため、貫通の瞬間を「せん断」とは断定しない。一方、足が溝に当たって向きを変える場面は、針の金属が曲げの力を受ける過程である。曲げは、せん断のように面に平行な力が主役ではない。この場面は、はさみとはちがう種類の力が主役になる。
溝が左右の足を均等に曲げるという仕組みは、出典では100円均一の商品を分解して説明された内容である。個々の機種で形は異なりうるので、この記事では一般的な考え方として扱う。では、そもそも足は、なぜ狙った向きに曲がってくれるのか。
3. はりの あしは、なぜ ねらった 向きに まがるの?
3. 針の足はなぜ狙った向きに曲がるのか ── 先細りと長方形の断面
3. 足先のテーパーと長方形の断面 ── 曲がる方向を決める形
ホチキスの はりの あしの 先は、ほんの すこし だけ ほそく なって います[3]。この 先ぼそりの 形を「テーパー」と いいます。
もう ひとつ、はりを よこから 切った 面(だんめん)は、正方形では なく 長い 四角です[3]。この 形が、まがりやすい 向きを きめて います[3]。
うすい 定ぎを 思い うかべて ください。平らな ほうを おすと まがらず、はばの せまい ほうから 力を かけると まがります。長い 四角の はりも、これと 同じ ように、まがりやすい 向きと まがりにくい 向きが あると 考えられます。ただし 本当の はりは 細くて 小さいので、定ぎとは 力の かかり方が ちがいます。
先は細く、断面は長方形
ホチキスの針の足先には、ごくわずかなテーパー(先端に向かって細くなる形)がつけられていて、曲がる向きが制御されています[3]。さらに、針の断面は正方形ではなく長方形で、これも曲がりやすい向きを決めています[3]。
プラスチックの定規で考える
断面が長方形だと、曲がりやすさが向きによって変わります。薄い定規を思い浮かべてください。平らな面を押すとたわみますが、幅の狭い側面から押してもなかなか曲がりません。長方形の断面の針の足も、同じ理由で、曲がりやすい向きと曲がりにくい向きができると考えられます。ただし針は細くて短く、定規とは力のかかり方が違うので、あくまで考え方の目安です。
もし足が曲がる向きが毎回ばらばらだったら、紙の裏で2本の足がぶつかったり、浮いたりして、綴じ口が不ぞろいになりそうです。向きがそろうことは、見た目のきれいさだけでなく、紙をしっかり留めることにもつながると考えられます。
針先が細いことと、断面が長方形であることは、針が受け台の溝にうまく入り、決まった向きに折れ曲がるための設計だと説明されています[3]。
足先には微妙なテーパーが付けられ、曲がる方向が制御される。さらに、断面は正方形ではなく長方形で、曲がりやすい方向が決まっている[3]。この二つの設計が、針が受け台の溝に入って、狙った向きに折れ曲がる助けになっていると説明される。
長方形の断面で曲がり方が向きによって変わる理由は、薄い定規の例で考えられる。平らな面に力をかければ曲がりやすいが、幅の狭い側面から押しても曲がりにくい。曲げに対する強さは、力を受ける向きに断面がどれだけ厚いかで変わる。この記事で使った出典は「長方形は曲がりやすい方向を決めている」と述べるが、なぜそうなるかの力学的な説明までは書いていない。定規の例は筆者の考えた目安であり、針の実際の寸法・材質での計算ではない。
設計の狙いは、足の曲がる向きを、毎回同じにそろえることだと読める。曲がる向きがそろえば、紙の裏で2本の足がどちらも内側へ平らに寄り、前章のクリンチャーの溝と組み合わさって、きれいに綴じ上がる。では、綴じ終わった針には、どんな力がかかり続けるのか。ここで、せん断が顔を出す。
4. とめた あとの はりにも 力は かかるの?
4. 留めたあとの針は、横ずれの力を受けて「せん断」が顔を出す
4. 綴じた後の横ずれ ── どこまでを「せん断の仲間」と呼べるか
紙を とめた あとで、紙を 左右に ずらそうと すると どう なるでしょう。重なった 紙の 面は、たがいに すれちがう 向きに 動こうと します。
このとき、紙の あなを とおって いる はりの 足は、よこ向きの 力を うけます。これは、はじめに 出て きた「せんだん」の 考え方を あてはめて みられます。はさみの はが すれちがう のと、かんがえ方は にて います。
ただし、これは この メモの 筆者が あてはめた 見方です。
ですので、答えは「見方に よる」です。はりが 紙を とおる ところは「とおす」、はりが まがる ところは「まげる」、とめた あとの よこずれは「せんだんの なかま」と わけて 考えると、すっきり します。
横にずらすと、針の足は何を受けるか
綴じた紙の束を左右にずらそうとすると、紙どうしの面が、すれちがう向きに動こうとします。このとき、紙の穴を貫いている針の足は、その横向きの力を受けます。せん断の定義は、面に平行な向きに力がはたらくことですから[1]、この横向きの力には、せん断の考え方を当てはめられます。はさみの2枚の刃が、すれちがいながら物を切るのと、力の向きの考え方は似ています。
答えは「見方による」
ただし、これは筆者が定義にあてはめた見方で、針の断面に生じる力を特定した説明ではありません。ですから、ホチキスがせん断の道具かどうかは、どの場面を見るかで答えが変わります。針が紙を通る場面は貫通、足が受け台で曲がる場面は曲げ、留めたあとに紙がずれようとする場面にはせん断の考え方が当てはまる、と分けて見るのがすっきりします。
紙を引き離す向きには、曲げた足の先が紙にかかって、針が抜けにくくなっていると考えられます。これは構造からの推測です。
綴じた紙束に横向きの力がかかると、紙の面どうしが互いにすれちがう方向へ動こうとする。穴を貫く針の足には、紙を介してその面に平行な向きの力がかかると見られる。せん断の定義が内部の面に平行な方向の力である以上[1]、この状況には、せん断の考え方を当てはめて整理できる。はさみの刃の間で物が切れる構図と、力の向きの関係は同じだ。
ただし、これは定義への当てはめであり、針の断面に生じる応力を特定した説明ではない。せん断力の大きさや破壊の仕方、針と紙の数値の見積もりには踏み込まない。また、引き抜く向きには、曲げた足が紙に引っかかって抵抗すると推測できる。
結論は条件つきになる。貫通の場面は、せん断とは言い切れない。曲げの場面は、せん断ではなく曲げである。留めた後の横ずれの場面は、定義から、せん断の考え方を当てはめられる。ホチキスは「せん断の道具」と一言では呼べず、「どの場面を見るかで答えが変わる道具」と言える。同じ道具でも、見る場面を変えると、働いている力の種類が入れ替わる。この点が、ホチキスをせん断の一言でくくれない理由である。では、この道具はいつから、どんな形で作られてきたのか。
5. ホチキスは、さいしょから 一回で とめられたの?
5. 最初のステープラーは、1回で留められたのか
5. 1877年の特許から1打で綴じる形へ ── 発明者の序列は資料で割れる
ホチキスの もとに なる きかいの とっきょは、アメリカで 1877年に とられました[5]。さいしょの 形では、一回目に はりを さして 足を とちゅうまで まげ、二回目で しあげて いました[5]。
1881年の とくべつな 書きなおしで、一回で 足まで まげる 形に まとまりました[5]。1879年の とっきょの きかいは、一回で はりを とおして まげられ、「さいしょに 商売で せいこうした ステープラー」と いわれます。ただし 一キロより 重かったそうです[6]。
今の ホチキスは 手に のる 大きさです。一キロより 重い きかいから、ここまで 小さく かるく なったと 考えると、一回で とめる しくみが どれだけ くふうされて きたかが 分かります。
だれが さいしょの 発明者かは、しりょうに よって 話が ちがいます。この メモでは、ひとりに 決めません。
1877年の特許は2打だった
米国のヘンリー・ヘイルが1877年に取得した特許(米国特許195,603)は、針を紙に通して足を曲げる機械でした。初めの形では、1回目の打撃で針を紙に入れて足を途中まで内側に曲げ、2回目で仕上げていました。1打でできる形にまとまったのは、1881年の再発行の版です[5]。
1打で留める商品の登場
1879年にジョージ・マギルが取得した特許(米国特許212,316)の機械は、1打で針を通して曲げるもので、最初に商業的に成功したステープラーと呼ばれます。ただし重さは1キログラムを超えていました[6]。いまの手のひらに収まる大きさとは、だいぶ違います。
だれが最初の発明者かは、資料によって見方が割れます[6]。このメモでは「最初の発明者」とは言い切りません。
「ホッチキス」の名前
日本でホチキスと呼ばれるようになったのは、1903年に伊藤喜商店(現イトーキ)が米国から初めて輸入した製品が、E.H.ホッチキス社のHotchkiss No.1だったことに由来します[4][7]。
初期のステープラーでは、針の貫通と曲げが別々の打撃で行われた例がある。1877年にヘンリー・ヘイルが取得した米国特許195,603は、1回目の打撃で針を紙に入れて足を途中まで内側に曲げ、完全な綴じは2回目で行った。1打にまとまったのは、1881年の再発行の版である[5]。この経緯は、前の章で見た貫通と曲げの2段階が、のちに1打に統合されたことを示す。
1879年にジョージ・マギルが取得した米国特許212,316は、1打で針を通し曲げる機械で、「最初に商業的に成功したステープラー」とされる。ただし重さは1kgを超えた[6]。発明者の序列は、ヘイル説とマギル説で資料により割れており、断定を避ける[6]。
日本での呼び名「ホッチキス」は、1903年に伊藤喜商店(現イトーキ)が米国から初めて輸入した、E.H.ホッチキス社のHotchkiss No.1に由来する[4][7]。つまりホチキスは、もともとは製造会社名である。
6. ホチキスの はりを 一本 よこから 見て みよう
6. とめた紙のうらで、針の足がどう曲がったかを見る
6. 手元の1本で確かめる ── 紙の裏の足と、資料の探し方
ホチキスで とめた 紙の うらがわを 見て みましょう。二本の 足は どちらも 同じ 向きに、たいらに まがって いますか。
もし 同じ ように まがって いたら、受け台の みぞと はりの 形が、はたらいて いる のかも しれません。
注意: はり先は とがって います。はりを はずす ときは、大人と いっしょに して ください。
紙の裏を見る
ホチキスで留めた紙を1枚用意して、裏側を見てください。2本の足が、どちらも同じように平らに曲がっているでしょうか。曲がり方がそろっているなら、受け台の溝と針の形が、うまくはたらいている様子と考えられます。
注意:針先は鋭いので、針を外すときは大人と一緒にしてください。
もっと調べたい人へ
はさみの「せん断」については、材料力学の教科書が参考になります。ホチキスの中のようすは、分解してみた記事が出典欄にあります。「ホチキスの針はなぜ曲がるのか」という問いは、まだ分かりやすい資料が少ない分野です。
手元のホチキスで紙を留め、裏側の2本の足を観察する。どちらも内側に平らに寄って曲がっていれば、受け台の溝と針の形状が、足を狙った向きに曲げた結果と読める。ただし、これは1回の観察であり、個々のホチキスの設計の確認ではない。
注意:針先は鋭利なので、外す作業は大人と行う。
より深く調べたい人のために、資料の探し方を挙げる。せん断の定義は、材料力学の教科書や用語解説で確かめるとよい。この記事の出典欄には、ホチキスの分解解説、ステープラーの解説、特許をまとめた資料館のページ、ドイツ特許商標庁の解説が並ぶ。「紙の綴じで針にかかる力」は、読んだ人が次に調べる余地として残っている。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文の[数字]は、下の出典の番号に対応します。
- Wikipedia「せん断」 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%9B%E3%82%93%E6%96%AD (せん断の定義)
- ITmedia MONOist「100円均一でモノの仕組みを考える(15)」 https://monoist.itmedia.co.jp/mn/articles/2511/25/news011_2.html (針が貫通して受け台の溝で曲がる流れ)
- ITmedia MONOist 同連載(15) 3ページ目 https://monoist.itmedia.co.jp/mn/articles/2511/25/news011_3.html (針の足先のテーパーと断面の形)
- Wikipedia「ステープラー」 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%BC%E3%83%97%E3%83%A9%E3%83%BC (ステープラーの定義と日本での呼び名の由来)
- Early Office Museum「Single Staple Staplers」 https://officemuseum.com/stapler_gallery_single_staple.htm (1877年の特許と1881年の再発行)
- ドイツ特許商標庁(DPMA)「140 Years of Staplers」 https://dpma.de/english/our_office/publications/milestones/inventionsthatmadehistory/140yearsofstaplers/index.html (1879年の特許と発明者の見方)
- EDRDG「The Strange Tale of the Hotchkiss」 https://www.edrdg.org/~jwb/mondir/hotchkiss.html (Hotchkiss No.1と日本での呼び名の補足)
なおした ところ
更新履歴
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