1. 夏休みは、なんの ために ある?
1. 学年の区切りでもないのに、なぜ夏に休むのでしょうか
1. 区切りと無関係な長期休暇:暑さという説明
7月の 教室を そうぞう して みて ください。まどを あけても、風が はいって きません。あせが ながれて きます。
夏休みは、学年の かわりめでは ありません。それなのに、夏に 長い 休みが あります。夏休みが ある 大きな 理由は「あつさ」だと せつめいする しりょうが あります[1]。
「農家の 手つだいの ため」という 話も よく 聞きます。でも、今回 見た しりょうでは、日本の 夏休みの はじまりを それで せつめいする ものは ありませんでした。かわりに、あつさに こたえた きろくが ありました。
では、学校は あつさに、さいしょ どう こたえたのでしょう。
年度の区切りとは別の休み
7月の昼下がり、窓を開けても風が入らない教室を想像してみてください。日本の夏休みは、学年や学期の区切りに合わせた休みではありません。それなのに、一年のなかでいちばん暑い時期に長い休みが置かれています。
日本語を学ぶ人向けの解説には、日本の学校に夏休みがある最も大きな理由は暑さだ、と書くものがあります[1]。真夏の暑さを避けるために学校を休む、というのが基本の考え方だそうです。
よく聞く「農家の手伝い」説
「農家の手伝いのため」という説明もよく耳にします。ただ、今回見た資料には、日本の夏休みの始まりをそれで説明するものはありませんでした。あとで出てくる法令には「農繁期」の休業という言葉もありますが、それは今の休業日の分け方で、夏休みの成り立ちの説明とは別です。成り立ちのほうでは、暑さへの対応を記した資料がありました。
学校は暑さに、最初どう応えたのでしょうか。
夏休みは、学年や学期の区切りに合わせた休みではない。にもかかわらず、一年で最も暑い時期に長期休暇が置かれているのはなぜか。日本語教育向けの解説には、暑さを大きな理由として挙げ、真夏の暑さを避けるための休校が基本的な考え方だと説明するものがある[1]。
「農家の手伝いのため」という説明は広く語られるが、今回確認した資料の範囲では、日本の夏休みの成立をこれで説明する根拠は挙げられていなかった。後述する施行令の「農繁期」休業は現行の休業日の分類であり、成立の説明とは別の話である。なお[1]は一般向けの解説であり、歴史の裏づけにはならない。暑さが理由だという主張は、成立の過程を記した資料と突き合わせて初めて意味を持つ。次章では、その過程をたどる。
2. 休みの まえに、じゅぎょうを みじかく した
2. 休みの前に、授業を「早く始めて短く」する工夫があった
2. 1870年代の暑さ対策:開始時刻の繰上げと授業時間の短縮
夏休みが できる まえ、学校では べつの くふうが ありました。あつい 時期に、じゅぎょうを はじめる 時間を 早くして、じゅぎょうの 時間を みじかく したのです[2]。
夏の 朝、すずしい うちに 勉強する 人が いますね。それに にて います。ただし 本当は、ひとりひとりの くふうでは なく、学校ぜんたいで 行った ことです。
おおさかでは、1873ねんに 7月と 8月の 一部の 間、同じ ように したと されます。つぎの 年に 5日ほどの 夏休みが でき、のちに 7日、10日と のびたと いわれます[2]。
みじかく する くふうから、休みへ。では「夏休み」という ことばは、いつごろ 出て きたのでしょう。
「休む」より先に「短くする」
夏の休みが小学校に広がったのは、学制期の後半、1877年(明治10年)ごろと考えられています[2]。その前に、盛りの暑さの時期は授業の開始を早めたり、授業時間を短くしたりする措置が行われた、と説明されています[2]。休みよりも先に、短縮がありました。
大阪府の例
大阪府では、1873年(明治6年)に7月と8月の一定の期間、授業の開始を繰り上げて、授業時間を短くしたとされます。翌年には約5日間の夏休みが設けられ、その後7日、10日と延びたとも紹介されています[2]。日数は紹介記事による数字なので、目安として読んでください。
暑さで授業が短くなり、短くなった時期がやがて休みになる。そう並べると、夏休みは暑さへの対応の延長に見えてきます。では、「夏休み」という言葉と国の規則は、いつ現れたのでしょうか。
夏休みの前身は何だったのか。紀要の整理によれば、夏期休暇制度が小学校に普及したのは学制期後半の1877年ごろと考えられ、それ以前に、盛暑の時期の授業開始の繰上げと授業時間の短縮という措置が行われていた[2]。資料の記述を時系列に並べると、短縮の措置が先にあり、休暇制度があとから現れたという順序になる。
具体例として、大阪府は1873年(明治6年)から7・8月の一定期間に授業開始時刻の繰上げと授業時間の短縮を実施し、翌年に約5日間の夏休みを設け、のちに7日、10日と延ばしたと紹介されている[2]。ただし日数は紹介記事の要約に基づく数字であり、原文での照合はしていないため、「とされる」の強さで受け取るのがよい。確かなのは、短縮から休暇へという向きの変化が、大阪府の例でも読み取れる点である。
この「短縮から休暇へ」が全国に広がったと考えられる時期(1877年ごろ)に、「夏休み」という語も記録に現れる。その記録と、国の規則への登場は、どう関係するのか。
3. 「夏休み」は、いつ きまりに 書かれた?
3. 「夏休み」という言葉と、1881年の規則
3. 1877年の用例と、1881年の小学校教則綱領第七条
1877ねんの 新聞に「夏休み中」という ことばが 出て います。じてんが あげている、古い つかい方の 一つです[3]。
同じ ころ、夏の 休みは 小学校に ひろがって いったと 考えられて います[2]。
1881ねん(めいじ14ねん)には、国の 小学校の きそくに、夏と 冬の 休みの 日が 書かれました。日曜日や しゅくじつと ならぶ「じゅぎょうを しない 日」です[4]。ただし この じょうぶんには、何日 休むかは 書かれて いません。
はじめは あつさへの くふうだった ものが、国の きまりの 中に 名前が 出る ところまで 来ました。では、休みの 間、なにを する ものだったのでしょう。
新聞に出てきた「夏休み」
辞典には、「夏休み」の古い用例の一つとして、1877年(明治10年)7月22日の朝野新聞の記事が挙げられています。外国人教師の名前を含む、「生徒夏休中」という言い回しです[3]。これが最初の使用だと決まったわけではなく、辞典が引く一例です。前の章で見た、夏の休みが小学校に広がったとされる時期とも重なります。
国の規則に載った
1881年(明治14年)の小学校教則綱領の第七条には、日曜日、祝日などと並んで、「夏季冬季休業日」が授業をしない日として書かれています[4]。休みの名前が国の規則に出たことは確かです。一方で、何日休むのかは、この条文の中には見当たりません。
暑さへの工夫から始まった休みが、規則にも載るようになりました。では、休みはそもそも、何のために使うものだったのでしょうか。
「夏休み」という語は、いつ文字として確認できるのか。『日本国語大辞典』の用例として、朝野新聞の明治10年(1877年)7月22日の記事に「生徒夏休中教師フィーラアト氏は」とあることが挙げられている[3]。これは辞典が引く古い用例の一つであり、最古の使用と断定する根拠にはならない。ただ、前章で見た休暇制度の普及期(1877年ごろ)と重なる点は興味深い。
制度の側ではどうか。明治14年(1881年)の小学校教則綱領第七条は、日曜日、祝日などを除いて授業すべきものとし、除外する日の一つに「夏季冬季休業日」を挙げている[4]。休業日の名称が国の規則に載った確実な例である。しかし、この条文には休む日数や期間が書かれていない。日数がどこで決まっていたのかは、この資料からは分からない。
こうして、暑さへの措置と、言葉・規則への登場は、時期の近い出来事として結びつけて説明される。ところが、定着した時点で、休みの「使い道」まで決まっていたとは限らない。
4. 休みの 使い道は、あとから 出て きた
4. 休みの使い道は、あとから語られるようになった
4. 制度が定着したあとに、雑誌などで語られた夏休みの使い道
おもしろい ことが あります。夏休みが はじまった ころ、親や 先生が「この 休みは こう 使わせよう」と 考えて いたわけでは ない、と 研究では せつめいされて います[2]。
学校の しくみが おちついて から、ざっしなどで「夏休みを どう 使うか」「なぜ 大切か」が 語られる ように なりました[2]。
じゅんばんは、あつさ、休み、使い方です。使い道は、あとから ついて きたのですね。
海の 向こうの アメリカでも、夏休みは 農家の ためだと よく 言われます。本当でしょうか。
最初に使い道があったわけではない
夏休みが始まったころ、親や教師が夏休みを有効に使わせようという意識を、最初から持っていたわけではない、と研究では説明されています[2]。暑さへの対応として入った休みなので、使い道が先に設計されていなくても、不自然ではありません。
学校が定着してから語られた
学校制度が定着しはじめると、夏休みの利用法や意義が、雑誌などで語られるようになりました[2]。順番は、暑さ、休み、使い方です。休みの意味づけは、制度ができたあとから足されていった、という流れが読み取れます。
ところで、「農業のため」という説明は、アメリカでもよく聞かれるそうです。そちらはどうなのでしょうか。
夏休みの使い道は、いつ、誰が考えたのか。紀要の整理によれば、休みを有効に使わせようと親や教師が考えていたのは制度ができた時点からではない。学校制度が根づきはじめたのち、雑誌などで休みの過ごし方や意味が論じられるようになったという[2]。
前章までの流れと合わせると、順序は「暑さへの措置、休暇制度の普及、規則への登場、そして使い道の議論」となる。暑さへの対応から始まった休みと考えれば、使い道が先に設計されていなくても自然に読める、というのが筆者の読みである。ただしこれは資料の整理からの読みであって、当時の意図を直接記した文書があるわけではない。
では、夏休みの理由として語られがちな「農業」説は、他の国ではどう扱われているのか。アメリカの歴史家が、この点を取り上げている。
5. アメリカの 夏休みは「農家の ため」だけでは せつめいできない
5. アメリカでも「農業のため」だけでは説明できないとされる
5. 1842年のニューヨーク:農業説への反論と、都市の暑さ
アメリカの れきしを 研究する ケネス・ゴールドさんは、「農家の ため」という 話は 思いちがいだ、と せつめいして います[5]。農村の 学校は 夏にも 開いて いたからです。
むかしの 農村の 学校は、冬と 夏の みじかい 学期に 分かれて いました。夏に 通う 子も 多かった そうです[5]。
夏休みが 生まれた ばしょとして 注目されて いるのは、大きな 町です。1842ねんの ニューヨークでは、学校が 1年に 248日も 開いて いました。夏の 学校は とても あつく、お金に よゆうの ある 家の 人たちは、町を はなれて あつさを さけました。だから その 時期を 休みに するのが つごうよかったのです[5]。
これは アメリカの 話で、日本の 理由とは ちがう 話です。それでも、どちらでも「あつさ」が 休みの ことと つながって います。
では、いまの 日本の 夏休みは、だれが 決めて いるのでしょう。
農村の学校は夏にも開いていた
歴史家のケネス・ゴールドによれば、夏休みは農業のため、という説明はアメリカでも誤解です。農村の学校は冬と夏の短い学期に分かれていて、夏に通う子も多かったといいます[5]。農作業の暦に合わせた、という発想は、無意識にできた決まりのように聞こえますが、いまの学校暦は意識的につくられたものだ、とゴールドは考えています[5]。
暑い都会の学校と、街を離れる人びと
夏休みの出発点として注目されているのは、都市です。1842年のニューヨーク市では、学校は年に248日開いていました。365日で割ると約68%、つまり一年の約3分の2にあたります。冷房のない時代の夏の学校はとても暑く、裕福な家庭や、やがて中流の家庭も、暑さを避けて街を離れました。そのため、都市ではその時期に学校を休みにするのが、理にかなっていたとされます[5]。
これはアメリカの話で、日本の夏休みの理由とは別に読む必要があります。それでも、暑さが休みの理由として語られる点は、日本の資料と重なります。
では、いまの日本では、夏休みの日はどこで決まっているのでしょうか。
アメリカでも、夏休みは農業のため、とよく語られる。歴史家ケネス・ゴールドはこれを誤解とし、農村の学校は冬と夏の短い学期に分かれ、むしろ夏に通う子も多かったと述べている。農業の暦という説明は無意識にできたもののように聞こえるが、現在の学校暦は意識的につくられたものだ、という立場である[5]。
では、何が休みを生んだのか。1842年のニューヨーク市では、学校は年に248日開いていた。365日に対して約68%、一年の約3分の2に当たる。冷房のない時代の夏は学校がきわめて暑く、裕福な家庭や、やがて中流の家庭も、暑さを逃れて街を離れた。そのため都市では、その時期に学校を休むのが合理的だったと説明される[5]。
ここで注意が要る。この数字は1842年のニューヨーク市のもので、全米のものではない。また、出典は研究の紹介記事であって、ゴールドの原典ではない。日本の夏休みの理由として直接借りることもできない。言えるのは、アメリカと日本の双方で「農業説」が語られがちだが、少なくともアメリカでは、暑さと都市の事情を重くみる見方があるという点までである。では、日本の現在の夏休みは、制度の上でどう決まるのか。
6. 自分の 町の 夏休みを しらべよう
6. 自分の町の夏休みは、いつからいつまで
6. 夏季休業日を決める主体:教育委員会と、堺市の35日
いまの 公立学校の 夏休みの 日は、市や 県の 教育委員会が 決めます[6]。だから、町に よって ちがいます。
たとえば さかいしの きそくでは、小学校と 中学校の 夏休みは 7月21日から 8月24日までです[7]。かぞえると 35日です。おおさかの はじまりの 5日と くらべると、ずいぶん 長く なりました。
ほうりつの きまりには「のうはんき」という ことばも のこって います。農家が いそがしい 時期の ことです[6]。
やってみよう。自分の 町の 夏休みを 調べます。「(市の 名前) がっこうかんりうんえいきそく」で けんさくするか、学校の おたよりを 見て、はじまりの 日と おわりの 日から 何日 あるか かぞえて みましょう。きそくの 名前は 町に よって ちがう ことが あります。見つからなければ、おうちの 人と 学校の おたよりを 見てみましょう。
となりの 町と くらべたら、日数が ちがうかも しれません。
決めているのは教育委員会
いまの公立学校の夏休みは、学校教育法施行令第29条により、その学校をつくった市町村や都道府県の教育委員会が定めます[6]。この条文には、夏季や冬季、学年末のほかに、「農繁期」という言葉も休業日の種類として残っています。
堺市の35日
一例として、堺市の学校管理運営規則では、小中学校の夏季休業日は7月21日から8月24日までです[7]。7月が11日、8月が24日で、合わせて35日になります。大阪府の初期の「約5日」から比べると、ずいぶん長い休みです。もちろん、これは全国共通ではなく、自治体ごとに違います。
調べる道すじ
自分の町の日数は、家でも確かめられます。市の名前に「学校管理運営規則」と添えて検索するか、学校の配布物を見て、夏季休業日の開始日と終了日を探します。日数を数えて、堺市の35日と比べてみましょう。自治体によって、規則の名前や書き方は少しちがいます。
原典があるのは
1881年の条文は、文部科学省の学制百年史の資料にあり、今の条文は法令データベースで公開されています。「夏季冬季休業日」の語を探すと、短い一文に出会えます。
現在、夏季休業日は誰が定めるのか。学校教育法施行令第29条は、公立学校の夏季、冬季、学年末、農繁期等における休業日を、市町村または都道府県の教育委員会が定めるとしている[6]。条文には「農繁期」という語が休業日の種類として残る。ただし、この語が条文にあることから、日本の夏休みの成立が農作業と結びつくと読むことはできない。規則の分類名が残っているというだけである。
実例として、堺市の学校管理運営規則は小中学校の夏季休業日を7月21日から8月24日までとする[7]。7月が21日から31日の11日間、8月が24日間で、合計35日になる。大阪府の初期の例(約5日[2])と並べると、約7倍である。ただし、堺市は自治体の一例であり、日数は自治体ごとに異なる。時代も自治体も違う2つの数字を並べた参考値にすぎず、延びた原因までは、この比較からは言えない。
確かめるなら、自分の市町村の規則で開始日と終了日を探し、日数を数える。1881年の教則綱領第七条は文部科学省の学制百年史資料で、現行の施行令第29条は法令データベースで読める。条文の言葉づかいを現在の規則と比べると、夏季冬季休業日という言葉が、140年以上を経ても残っていることが見て取れる。暑さへの工夫から生まれた休みを、誰が、どの規則で、何日と定めているか。その問いは、自分の町の例でも立てられる。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文は、ここにある資料の内容を、自分の言葉で言いかえたものです。年・日数は、資料によって細部が異なることがあります。
- FUN! JAPAN, 日本の夏休みに関する解説(日本語教育向け) https://www.fun-japan.jp/jp/articles/14095 (暑さを理由とする説明。一般向けの解説)
- 京都大学紀要「明治期における夏期休暇をめぐる言説の変遷」(2003) https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/57490/1/eda049_246.pdf (授業の短縮、大阪府の例、使い道が語られた時期。要約による紹介を参照)
- コトバンク「夏休み」(日本国語大辞典の用例) https://kotobank.jp/word/%E5%A4%8F%E4%BC%91%E3%81%BF (1877年の朝野新聞の用例)
- 文部科学省「学制百年史」資料(小学校教則綱領) https://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/html/others/detail/1318010.htm (「夏季冬季休業日」が書かれた条文)
- Per Square Mile, "Summer vacation is an urban creation"(PBS記事の紹介) https://persquaremile.com/2014/09/08/summer-vacation-is-an-urban-creation/ (アメリカの農業説への見方。英語の紹介記事)
- e-Gov法令検索「学校教育法施行令」第29条 https://laws.e-gov.go.jp/law/328CO0000000340 (休業日を定める主体)
- 堺市 学校管理運営規則(例規集) https://www.city.sakai.lg.jp/reiki/reiki_honbun/s000RG00000535.html (夏季休業日の日付の一例)
なおした ところ
更新履歴
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