1. パリパリの かわは、べつの たべものなの?
1. パリパリの皮は、別の食べ物なのか
1. ハードシェルは、トルティーヤとは別の食べ物なのか
おみせで タコスを たのむと、かわが ふにゃっと した ものと、パリパリの ものが あります。「ふたつは ぜんぜん ちがう ものかな?」と おもいますよね。
こたえは、どちらも もとは おなじ「トルティーヤ」です。トルティーヤは、うすく まるい パンのような ものです。これを そのまま つかうと、やわらかい タコスに なります。トルティーヤを おって、あぶらで あげると、パリパリの タコスに なります[1]。
しかも、あぶらで あげる タコスは、メキシコにも むかしから あります。「タコス・ドラドス」と よばれ、「きんいろの タコス」と いう いみです[1]。
では、まず やわらかい かわは どう つくるのか、見て いきましょう。
タコス屋さんで注文すると、皮がふにゃっとしたものと、パリパリのものがあります。まるで別の食べ物のようですが、材料はどちらも同じ、うすく丸いトルティーヤです。
そのまま使えば、やわらかいタコスになります。トルティーヤを二つに折って油で揚げると、パリパリのタコスになります[1]。この揚げたタコスは、メキシコにも昔からあり、「タコス・ドラドス」、つまり「金色のタコス」と呼ばれています[1]。
つまり、「本場はやわらかく、パリパリはアメリカの発明」と二つに分けるのは、少し単純すぎるようです。では、元になったやわらかい皮は、どう作られるのでしょうか。
タコスの皮を二種類に分けると、やわらかいトルティーヤと、パリパリのハードシェルになる。しかし後者は別の食材ではなく、前者を折って油で揚げたものである[1]。America's Test Kitchen の記事は、この揚げたタコスがメキシコにも「タコス・ドラドス(金色のタコス)」の名で昔から存在すると述べている[1]。
したがって「本場はやわらかく、パリパリはアメリカの発明」という二分法は、半分しか当たっていない。また、1949年の料理本にも、トルティーヤを折って揚げるレシピがある[6]。日本語の解説は、既製のタコシェルが量産品として広まったと書いている[2]。揚げる手順そのものよりも、「ふつうの皮」として定着した過程のほうが、アメリカでの出来事だったと考えるのが近い。
その前に、元になるトルティーヤがどう作られるかを確かめておく。
2. やわらかい かわは、どうやって つくるの?
2. やわらかい皮は、どうやって作られるのか
2. トウモロコシを石灰水で処理して、トルティーヤを作るのはなぜか
トルティーヤの もとは、トウモロコシです。でも、トウモロコシの つぶを そのまま すりつぶしても、やわらかい かわには なりにくい と いわれます。
まず、トウモロコシを せっかいを とかした みずで にます。こうすると、つぶの かたい うすかわが はがれやすくなります[3]。これを すりつぶして、ねばりの ある きじ(「マサ」)に します。
きじを うすく まるく のばして、「コマル」と いう たいらな やき板の りょうほうの めんを やきます[4]。
メキシコの いえや おみせでは、やきたてを かわかないように ぬのに くるんで だします。ぐや ソースは べつの うつわに いれて、たべる 人が じぶんで つつみます[2]。ふにゃっと した かわは、そういう たべかたに ぴったりです。
トルティーヤの原料はトウモロコシですが、粒をそのまま粉にしても、やわらかい皮にはなりにくいとされています。そこで使われるのが、「ニシュタマリゼーション」という方法です。トウモロコシを石灰(アルカリ)を溶かした水で煮ると、粒の外皮がはがれやすくなります[3]。
特許の文書には、この伝統的な方法はデンプンを水となじませ、やわらかく曲がるトルティーヤになる、という趣旨の説明があります。処理をしないと外皮の繊維が残り、やわらかい生地に向かないとも書かれています[5]。これは特許の中の説明なので、一つの見方として読むのがよいでしょう。
こうしてできた生地(マサ)を手や型で薄く丸め、コマルと呼ばれる平らな焼き板の両面で焼きます[4]。小麦粉のトルティーヤは、スペイン人が小麦をメキシコに持ちこんだ後に生まれ、北部メキシコの地域色になったそうです[4]。
メキシコの家庭や店では、焼きたてを乾かないように布でくるんで出し、具やサルサは別の器に入れます。客が自分で包んで食べます[2]。やわらかい皮は、焼きたてを手で包んで食べる流れに合った皮だと言えそうです。
トルティーヤの生地は、トウモロコシを石灰(アルカリ)水で煮る「ニシュタマリゼーション」で作る。この処理で外皮がはがれやすくなる[3]。すりつぶして得られる生地が「マサ」である。
なぜわざわざこの工程が要るのか。特許文献の記述によれば、処理をしないと外皮の繊維がそのまま残り、やわらかい生地に向かない。伝統的な方法はデンプンを均一に水となじませ、やわらかく曲がるトルティーヤになるという[5]。ただしこれは特許の中の説明であり、やわらかさの仕組みの全体像を示したものではない点に注意が要る。
焼く工程は、生地を手や型で薄く丸め、「コマル」と呼ばれる平らな焼き板の両面で焼く方法である[4]。小麦粉のトルティーヤは、スペイン人が小麦をメキシコに持ちこんだ後に生まれ、北部メキシコの地域色になった[4]。「コーンはハード、小麦粉はソフト」という分け方は出典間で一致せず、ハードシェルも元はコーンのトルティーヤを揚げたものである。
日本語の解説では、メキシコの家庭や店で、焼きたてを乾かないよう布でくるんで出し、具やサルサは別の器に入れて、客が自分で包むと説明される[2]。やわらかい皮は、焼きたてを手で包んで食べる流れに合った皮だと整理できる。
3. おって あげると、どうして こわれにくいの?
3. 折ってから揚げると、どうなるのか
3. 折ってから揚げる手順は、形と食感をどう決めるのか
パリパリの かわの つくりかたは、まず やわらかい トルティーヤを つかいます。これに ぐを いれて、おってから あぶらで あげると、たいらな ところは パリパリに なります。おりめの ところは、ほんの すこし やわらかく のこり、わりにくく なります[1]。
むかしの レシピも あります。1949年の レシピでは、トルティーヤを あつい あぶらに さっと くぐらせて、まげやすく します。それを U の かたちに おって、つまようじで とめます。そして、きつね色で カチカチに なるまで あげました[6]。
ここで ふしぎなのは、「どうして あぶらで あげると パリパリに なるの?」です。じつは、この わけを くわしく のべた しりょうは、今回は 見つかりませんでした。わかって いるのは、「トルティーヤを かたちを たもって あげると、パリパリの かわが できる」ことまでです。
なお、あぶらは とても あつくなります。おうちで ためすのは やめて、おみせの 人に まかせましょう。
パリパリのタコスは、トルティーヤに具を入れて折ってから揚げる方法でも作られます。こうすると、平らな面はパリパリになり、折り目のところだけは曲がるまま残るので、割れにくくなるとされています[1]。この皮がアメリカで広まった経緯は、4章で見ます。
1949年のレシピにも、似た手順があります。トルティーヤを熱い油にさっとくぐらせて曲げやすくし、U字に折ってつまようじで留めて、きつね色でカチカチになるまで揚げる方法です[6]。「先に少し油に通す」のは、冷えて固いトルティーヤを折ると割れてしまうからでしょう。
なぜ油で揚げるとパリパリになるのか、その理由を直接述べた資料は、今回は取れませんでした。確かなのは、折る、揚げる、という順番と、できあがりの形や食感までです。
揚げ物は高温の油を使うため、家庭で試す実験にはしません。ここでは、資料から分かる手順の紹介にとどめます。
ハードシェルの要点は、折る順番と揚げる順番である。America's Test Kitchen は、具を入れて折ってから揚げると、平らな面はパリパリになる一方、折り目は曲がるままになり、割れにくくなると説明している[1]。形を決めてから固めるため、形が崩れにくいのである。
1949年のレシピ(Gilbert)は、さらに手順を細かく述べる。トルティーヤを熱い油にさっとくぐらせて曲げやすくし、U字に折ってつまようじで留め、「きつね色でカチカチ」になるまで揚げる[6]。冷めたトルティーヤは固くなる性質があるため、先に熱で曲げやすくする工夫だと考えられるが、レシピ自体が理由を述べているわけではない。
では、なぜ揚げるとパリパリになるのか。水分が抜けて固まるといった説明がよく見られるが、これを直接述べた出典は今回は取れなかったので、断定しない。出典から言えるのは、折る→揚げるという手順と、結果として平面がパリパリ、折り目が曲がるままになることまでである。
なお、高温の油を使う作業なので、家庭での実験は勧めない。
4. パリパリは、どうして ひろまったの?
4. 揚げたタコスは、どうやってアメリカで広まったのか
4. 機械とチェーン店は、ハードシェルをどう広めたのか
1まい ずつ てで おって あげるのは、たいへんです。そこで、U の かたちを たもったまま あげる きかいが 作られました。1950年と 1951年には、べつべつの 人が とっきょを とって います。マルドナドさんと ポンパさんです[7]。
やがて アメリカでは、グレン・ベルさんが 1950年代なかごろに、サン・バーナーディノ市の メキシコりょうりの おみせの タコスを かんたんな かたちに して うりはじめました。1962年に、さいしょの タコ・ベルを ひらきます[6]。1960年代には、タコ・ベルなどの チェーンが タコスを アメリカじゅうに ひろめました[6]。
「さいしょに パリパリの かわを 作ったのは だれ?」は、じつは しりょうに よって こたえが わかれて います。だれか ひとりの 発明と きめられないのです。
1枚ずつ手で折って揚げるのは手間がかかります。そこで、U字の形を保ったまま揚げる機械の特許が、1950年代の初めに出されました。Juvencio Maldonado(1950年)と Joseph Pompa(1951年)の二人です[7]。
アメリカでは1950年代半ば、グレン・ベルがカリフォルニア州サンバーナーディノのメキシコ料理店のタコスを簡単にした形で売り出し、1962年に最初のタコ・ベルを開きました。1960年代にはタコ・ベルなどのチェーンが、タコスをアメリカに広めたとされています[6]。
では、パリパリの皮を最初に作ったのは誰なのでしょうか。出典を比べると、Maldonado、Pompa、ベル、1930年代の型の販売など、答えは分かれています。最初の発明者を一人に決めることは難しく、「機械と量産で、パリパリの皮が手軽に作れるようになった」と見るのが、いちばん無理がないようです。
日本語の解説は、アメリカの多くの人が本場との違いを意識していないとも書いています[2]。「ふつう」と思っているものが、実は広まった結果だった、という例です。
手作業で一枚ずつ折って揚げる方法は、量を作るには向かない。そこで、U字に形を保ったまま揚げる機械の特許が1950年代初めに出された。Juvencio Maldonado が1950年5月2日(US 2,506,305)、Joseph Pompa が1951年10月9日(US 2,570,374)である[7]。
機械は、均一な皮を手作業より速く作るためのものだった。ハードシェルそのものはそれ以前からあり、普及はチェーン店の動きと重なる。Glen Bell は1950年代半ば、サンバーナーディノのメキシコ料理店のタコスを簡単にした形で売り出し(Taco Tia)、1962年に最初の Taco Bell を開いた。1960年代には Taco Bell などのチェーンが、アメリカで手に取りやすくした[6]。日本語の解説も、既製のタコシェルが量産品として広まったと述べる[2]。
ここで注意が要るのは、「誰が発明者か」である。歴史家 Jeffrey Pilcher が、皮を作る最初の特許は1940年代にメキシコ系の飲食店主に与えられたもので、Bell ではないと述べているとされるが、今回は二次的な要約を見ただけである。さらに出典によって、Maldonado、Pompa、Bell、1930年代の型の販売と、先後が割れている。誰が最初かよりも、機械と量産が「ふつうのタコス」を作り替えたという流れのほうを、出典が一致して支えている。
日本語の解説は、アメリカの人の多くが本場との違いを意識していないとも書く[2]。当たり前に思えるものが、特許と工場の積み重ねで広まった結果であることを示す一例である。
5. トルティーヤが かたく なるのを 見て みよう
5. 冷めたトルティーヤが固くなるのを見る
5. トルティーヤの固さを比べ、研究資料を読んでみる
おうちの 人と いっしょに、トルティーヤを かって みましょう。あけた ひに、1まい とりだして、ゆびで まげて みます。つぎに、ふくろに もどして ふたを して、すうじつ あとに もう 1まい とりだして まげます。まげやすさは かわりましたか。
やきたてを ほうっておくと、かたく なって まげにくく なる ことが しらべられて います。これは、でんぷんが ふたたび かたまるためだと せつめい されて います[8]。しらべられた のは こむぎこの トルティーヤで、コーンの ものにも そのまま あてはまるとは、いえません。
火や あつい あぶらは つかいません。たべる ときは、おうちの 人に そうだんしてください。
今日できること
トルティーヤを買ったら、開けた日に1枚を指で曲げ、袋に戻して数日後にもう1枚を曲げて、曲がりやすさを比べてみてください。さらに調べたいときは、同じ日に買ったものを同じ袋に入れ、保存場所だけを変えて数日後に比べると、条件がそろいます。食べるときは、保存の期限や表示を守り、おとなの人に相談してください。
原典を調べるなら
焼きたてのトルティーヤは、冷めて保存するとデンプン(アミロペクチン)が再び結晶化して固くなり、曲がりにくくなると報告されています[8]。この研究の対象は小麦粉のトルティーヤで、コーンのトルティーヤにそのまま同じだとは言えません。
やわらかい皮は「出来たてが一番」、揚げた皮は「固くなることを逆に利用した形」とも読めます。皮を見るたびに、どちらの手順で作ったのかを考えてみるのも面白いでしょう。
確かめる方法は単純である。市販のトルティーヤを開封した日に指で曲げ、残りを袋で保存して数日後に曲げて比べる。分けて比べるなら、同じ日に買ったものを同じ袋に入れ、保存場所だけを変える。食べるときは表示の期限を守り、家の人と相談する。
焼きたてのトルティーヤは、冷めて保存するとアミロペクチンが再結晶(老化)して固くなり、曲がりにくくなる[8]。この研究は小麦粉のトルティーヤを対象としており、コーンのトルティーヤに同じことがそのまま当てはまるとは断定できない。また、揚げる工程で固くなるしくみの説明は今回の出典では得られていない。
店でタコシェルを見かけたら、トルティーヤの原材料表示と見比べ、材料や作り方の説明にどんなちがいがあるかを見てみるとよい。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文で使った資料です。
- America's Test Kitchen. How to Make Tacos Dorados. https://www.americastestkitchen.com/articles/678-how-to-make-tacos-dorados (揚げたタコスと折り目)
- Wikipedia(日本語)「タコス」. https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BF%E3%82%B3%E3%82%B9 (本場の出し方、量産品の広まり)
- BakerPedia. Nixtamalization. https://bakerpedia.com/processes/nixtamalization/ (石灰水で煮る処理)
- Wikipedia. Tortilla. https://en.wikipedia.org/wiki/Tortilla (コマルで焼く作り方、小麦粉のトルティーヤ)
- US Patent 7740895. https://image-ppubs.uspto.gov/dirsearch-public/print/downloadPdf/7740895 (伝統的な処理とやわらかさの説明)
- Wikipedia. Hard-shell taco. https://en.wikipedia.org/wiki/Hard-shell_taco (1949年のレシピ、タコ・ベルの広まり)
- Slices of Blue Sky. Tortilla frying patents. https://slicesofbluesky.com/tortilla-frying-patents/ (揚げる機械の特許)
- Texas A&M University thesis on staling of wheat flour tortilla. https://tdl-ir.tdl.org/handle/1969.1/ETD-TAMU-1306 (冷めると固くなる)
なおした ところ
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