1. あかい はずの たいが、くろっぽく なった
1. 赤いはずのマダイが、黒ずんでしまった
1. 養殖マダイの黒ずみ:本来の体色と、それが褪せる現象
たいの からだは、きれいな あかい いろです。おなかは うすい いろで、からだの よこには、あおみどりの ちいさな てんが ちらばって います。おびれの うしろの ふちが くろいのも、たいの とくちょうです[4]。
ところが、いけすなどで そだてる ようしょくの たいは、この あかが うすれて、くろっぽく なる ことが あるそうです[5]。
おなじ たいなのに、どうして いろが かわるのでしょう。まず、ふつうの たいが なにを たべて いるのかを、のぞいて みましょう。
赤・青い点・黒いふち
マダイの体は、はっきりした赤色(紅色)で、腹は淡い色をしています。体の横の上のほうには、青緑からコバルト色の小さな点が、ばらばらに散らばっています。尾びれの後ろのふちが黒いのも特徴です[4]。
養殖で起きた色の変化
ところが、養殖のマダイでは、この鮮やかな赤が褪せて、黒みを帯びることがあります。広島大学の研究報告は、この点を出発点にして、赤い色を保つ方法を調べています[5]。
同じマダイなのに、育て方で色が変わるのはなぜでしょうか。手がかりを探すために、まず、天然のマダイが何を食べているのかを見ていきます。
マダイの体色は、東京都島しょ農林水産総合センターの解説では、体は紅色で腹部は淡く、体側の上半部にコバルト色の小斑点が散在し、尾びれの後縁が黒い、とされる[4]。この「紅色」が、養殖では保たれないことがある。広島大学の研究報告は、養殖マダイ本来の鮮やかな赤い色調が褪色して黒みを帯びる現象を、研究の出発点にしている[5]。
ここで問いが2つ生まれる。赤は何に由来するのか。そして、養殖と天然では何が違うのか。本稿は、色の話に入る前に、まず食性という「入口」から調べる。体の色素の材料は、多くの場合、食べ物から来るためである。
ただし、この「多くの場合」を、本稿の資料だけで一般化することはしない。後の章で、資料が支える範囲を区別する。
2. たいは なんでも たべる。いちばんの すきは?
2. マダイは何でも食べる。いちばんの好物は何か
2. 食性:雑食に近い広い食べ物と、資料が一致して挙げる好物
たいは、ほんとうに いろいろな ものを たべます。ちいさな プランクトンの なかまや、かいそう、ヒトデ、ちいさな さかなまで たべる、と いわれます[1]。
その なかでも だいこうぶつは、甲殻類、つまり えびや かにの なかまだ、という かいせつが あります[1]。
かながわけんの ずかんにも、「えびが すき」と 書いて あります。かいや ゴカイ、ヒトデ、かにも たべます[3]。
えびや かには、かたい から を もって います。たいは、その からを どう するのでしょう。
食べ物の幅は、とても広い
マダイが食べるものとして、釣り具メーカーの水産学の解説は、カイアシ類(小さな甲殻類のプランクトン)、アミ類、海藻類、甲殻類、ヒトデ類、小魚をあげています[1]。
公的機関の資料も、エビ・カニをあげる
その中でも「大好物」とされるのが甲殻類、つまりエビやカニの仲間です[1]。神奈川県の図鑑は、「海老が好物」としたうえで、貝、ゴカイ、ヒトデ、カニなどもいろいろ食べると書いています[3]。東京都の資料は、成魚はエビ類・カニ類などの甲殻類を中心に捕食する、としています[4]。
ただし、解説の中には「年齢を問わず」好物だと書くものがあります[1]。後の章で見るように、小さいころの食べ物は大人と少しちがうので、この言い方は少し幅をもって読みます。
エビやカニの殻は硬いはずです。マダイはどうやって食べるのでしょうか。
マダイは、カイアシ類、アミ類、海藻類、甲殻類、ヒトデ類、小魚など、多様な生物を捕食するとされ[1]、別の解説も、甲殻類・小魚・貝・頭足類などを挙げる[2]。幅の広い食性だが、好物をめぐる資料の記述は、ある程度そろっている。
民間の解説は、年齢を問わず大好物は甲殻類だとする[1]。公的機関では、神奈川県の図鑑が「海老が好物」としつつ貝・ゴカイ・ヒトデ・カニなども餌にすると述べ[3]、東京都の資料は、成魚はエビ類・カニ類などの甲殻類を中心に捕食するとする[4]。つまり、「成魚の中心は甲殻類」という点では、民間と公的資料が同じ方向を指している。
注意したいのは、東京都の記述が「成魚」に限られていることである。「年齢を問わず」という表現は1つの解説のものであり、成長段階ごとの食べ物(第4章)と並べると、少し強い言い方に見える。本稿は、成魚で甲殻類が中心、という範囲で受け取る。
では、エビやカニの硬い殻を、マダイは何で処理するのか。
3. かたい からを、どうやって わるの?
3. 硬い殻を砕く道具は、口の中にある
3. 臼歯:甲殻類を砕くための歯の構造
たいは、とても じょうぶな 歯を もって います。その 歯で、えびや かにの かたい からを かみくだいて たべる、と いわれます[2]。
くちの おくの ほうには、すこし おおきめの 歯が 2れつ ならんで います。この 歯は「臼歯」と いって、ものを すりつぶす 臼のような はたらきを します[4]。
では、うまれたばかりの ちいさな たいも、おなじ ものを たべて いるのでしょうか。
頑丈な歯と、奥の歯
釣り図鑑には、マダイはかなり頑丈な歯を持ち、エビやカニの硬い殻を噛み砕いて食べる、とあります[2]。
東京都の資料は、マダイの両あごによく発達した2列の臼歯があると記しています[4]。
「臼」の字が教えること
臼歯の「臼」は、ものを砕いたりすりつぶしたりする道具の臼のことです。名前のとおり、硬いものを砕くのに向いた奥の歯だと考えられます。
ただ、大人のマダイがこんな歯をもつなら、生まれたばかりの小さなマダイは、何を食べているのでしょうか。
マダイの歯は、複数の資料で、甲殻類を食べる食性と結びつけて説明されている。釣り図鑑は、かなり頑丈な歯をもち、エビやカニの硬い殻を噛み砕くと記す[2]。東京都の資料は、両あごに発達した2列の臼歯(きゅうし)があるとする[4]。殻を噛み砕くという釣り図鑑の記述と、臼歯という歯の構造は、資料の上で矛盾しない。
ここから導けるのは、「甲殻類を砕く食べ方」と「臼歯の構造」が、資料の上で矛盾しないということまでである。どの歯がどの餌に使われるかという細かい分担までは、本稿の資料には書かれていないため、述べない。
むしろ次の疑問のほうが大きい。これらの歯が整った成魚と、体長数センチの稚魚とでは、食べる物が同じはずがない。成長で食べ物はどう移るのか。
4. ちいさい ときは、たべものが ちがう
4. 小さいころは、食べ物の顔ぶれがちがう
4. 成長に伴う食べ物の変化と、稚魚の暮らす場所
うまれたばかりの たいは、プランクトンを たべて います。だんだん おおきくなると、たべる ものも すこしずつ かわって いきます。
おおきさが 1センチぐらいに なると、稚魚は、うみの そうが たくさん はえて いる ばしょに すみつきます[3]。
そこで 2、3ねん くらして、そのあと ふかい ところへ いく、と いわれます[2]。
たいが おおきくなると、えびや かにを たべる ように なる。では、あかい いろは、どこから くるのでしょう。
プランクトンから、エビ・カニへ
水に浮かんで暮らす時期の仔魚は、動物プランクトンを食べます。成長するにつれて、食べ物の顔ぶれは少しずつ入れかわり、大人になると、エビ類・カニ類が中心になります[4]。
稚魚が暮らす海のそう
体長1cm前後になると、カジメやホンダワラ類、アマモ類などの海藻・海草が多く生える場所(藻場)に住みつきます[3]。稚魚は浅い藻場や岩の多い場所で暮らし、2〜3年で深いところへ移るとされています[2]。
大きくなるにつれて、食べ物も暮らす場所も変わるのです。では、体の赤い色は、食べ物と関係があるのでしょうか。ここで、最初の養殖の話に戻ります。
成魚が甲殻類を中心に食べる一方[4]、浮遊期の仔魚は動物プランクトンを食べる。成長段階ごとの細かな餌の遷移や全長ごとの区切りは、本稿の資料では支えきれないため、成長とともに食べ物が入れ替わっていく、という範囲にとどめる。
暮らす場所も変わる。体長1cm前後でカジメ・ホンダワラ類やアマモ類が多い藻場に住みつき[3]、稚魚は浅場の藻場や岩礁帯で生活して、2〜3年で深みへ移動するとされる[2]。小さい体で食べられる獲物の多い、隠れ場所のある場所が選ばれていると解釈されるが、これは資料が直接述べる因果ではなく、本稿の推測である。
第2章の「年齢を問わず甲殻類」との関係も整理できる。仔魚は動物プランクトンを食べ、成魚は甲殻類が中心という並びからは、「年齢を問わず甲殻類」を、そのまま全期間に当てはめるのは強すぎる、と読める。本稿は、甲殻類が中心になるのは成魚の段階、という範囲で受け取る。
食べ物が変わる魚なら、体の赤い色も、食べ物の影響を受けるのだろうか。養殖の研究が、ここに手がかりを与える。
5. ザリガニの からの こなで、あかが よく なった けんきゅう
5. ザリガニの殻の粉で赤みが良くなった研究と、その読み方
5. 広島大学の研究:甲殻類の殻・アスタキサンチンと体色の改善
ひろしまだいがくの けんきゅうでは、ようしょくの たいの えさに、ザリガニの からの こなを まぜて みました。すると、たいの あかい いろが よく なりました[5]。
あかい いろには、アスタキサンチンという あかい 色素が おおきく かかわって いる、と かんがえられています[5]。
ただし、これは そだてる たいで やった じっけんです。うみで くらす たいの あかが、どうやって できるのかを、すべて しめした わけでは ありません。
くろっぽく なる りゆうも、えさだけでは ありません。あさい すいそうで ひなたに いた たいが、まっくろに なった れいも あり、くろい 色素が たまった ためだと、県の せんたーは せつめいして います[3]。
餌に殻を足すと、発色が良くなった
広島大学の研究では、褪せて黒みを帯びた養殖マダイの赤い色調を改善する目的で、アメリカザリガニの殻から取り出したカロテノイド(赤や黄色の色素の仲間)や殻の粉末を、人工飼料に加えました。その結果、マダイの赤い発色が良くなったと報告されています[5]。
研究では、赤い色にはアスタキサンチン・エステルという色素が大いに寄与すると考えられる、とされました[5]。
この結果から言えることと、言えないこと
これは、養殖したマダイで行った試験です。天然のマダイの赤が、エビやカニを食べて作られているかどうかまでは、この研究だけでは決まりません。
また、黒ずみは餌だけが原因ではありません。神奈川県の水産技術センターは、浅い水槽で日光を浴びて全身が黒く変わった例があり、メラニンという黒い色素がたまったためだと説明しています[3]。
赤い色の背景には、餌と環境の両方が関わっていそうです。ところで、「エビ」とマダイの関係は、昔から人の暮らしの中にも顔を出しています。
広島大学の研究報告は、褪色して黒みを帯びた養殖マダイの体色改善を目的に、アメリカザリガニの殻に含まれるカロテノイドや殻の粉末を人工飼料に添加した。その結果、マダイの赤い発色が良くなったと報告している。赤色には、アスタキサンチン・エステルが大いに寄与すると考えられている[5]。
この結果には、読み方の限界がある。第一に、これは飼育下の養殖魚への給餌試験であり、天然のマダイの赤が、エビやカニの色素に由来するという因果を直接示すものではない。「ザリガニの餌で赤くなる」と「天然のマダイの赤はエビやカニの色に由来する」は別の主張で、本稿が支えられるのは前者の養殖試験の範囲である。
第二に、黒ずみの原因は餌だけに限られない。神奈川県の水産技術センターは、浅い水槽で日光を浴びて全身が黒くなった飼育例を挙げ、黒い色素であるメラニンの沈着が原因だと説明する[3]。赤の維持には餌の色素、黒ずみの抑制には光などの飼育環境と、複数の要因が関わりうると整理できる。
では、この「エビ」とマダイの結びつきは、釣りの世界ではどう表れているのか。
6. えびで たいを つる って、ほんとう?
6. 「エビでタイを釣る」ことわざと、小エビの釣り餌
6. 釣りと食性:ことわざ「エビで鯛を釣る」と小エビの餌
「えびで たいを つる」という ことばを 聞いた ことが ありますか。すこしの ものを つかって、おおきな ものを 手に いれる、という いみです。
たいは えびが すきなので、つりの えさにも、こえびが つかわれる、と しょうかいする ページが あります[6]。
たいが えびを すきな ことは、むかしから よく しられて いて、ことばにも のこって いるのです。
釣りの餌と、春の「桜鯛」
「エビでタイを釣る」は、小さな元手で大きな利益を得る、という意味のことわざです。マダイ釣りの紹介ページでは、小エビがマダイ釣りの餌に使われると書かれています[6]。マダイがエビを好むことが、ことわざの背景にあると考えられます。
ことわざに使われるほど、マダイとエビの結びつきは身近なものでした。とはいえ、エビを食べると体が赤くなる、というところまでは、釣りの話からは言えません。
赤い色と食べ物は、養殖の試験ではつながりが見えましたが、天然のマダイについては、まだ分かっていないところも残っています。
「エビで鯛を釣る」は、小さな元手で大きな利益を得るたとえである。釣りの紹介ページは、マダイ釣りに小エビが餌として使われることを記している[6]。マダイがエビを好むという前の章までの記述と、釣りの実際の餌は、矛盾しない。
ただし、このページは旅行会社の釣りプランの紹介であり、一次資料ではない。釣り餌にエビが使われることは、マダイの体の赤い色の由来を説明するものではないので、本稿は食性の傍証として添えるにとどめ、体色とは結びつけない。
赤い体色と食べ物の関係は、養殖試験で部分的に示され、天然魚では議論が残る。この「残り」が、次の観察の出発点になる。
赤い たいを、さかなやさんで みて みよう
魚売り場で、マダイの体の目印を探してみる
観察と資料:食性・体色を自分の目と公的資料で確かめる
きょう できること
スーパーや さかなやさんで、まるごとの たいを 見つけたら、しらべて みましょう。
おなかは うすい いろか、からだの よこに あおみどりの てんが あるか、おびれの うしろの ふちが くろいか、さがして みます[4]。
お店の 人に、「この たいは、なにを たべて そだったの?」と きいて みるのも、いい 方ほうです。
しらべる ときの ばしょ
今日できること
スーパーや魚屋さんで、まるごと1匹のタイを見つけたら、この記事に出てきた目印を探してみましょう。腹の淡い色、体の横の青い点、尾びれの後ろの黒いふちです[4]。魚屋さんがいたら、「このタイは、何を食べて大きくなったのですか」と聞いてみるのも手です。刃物は使わず、見るだけにします。
資料で確かめる
神奈川県の「おさかな図鑑」や、東京都島しょ農林水産総合センターのマダイの解説は、食性や体の特徴が短くまとまっています[3][4]。養殖マダイの色の研究は、大学の論文リポジトリで公開されています[5]。
観察の道すじ
鮮魚売り場でマダイを見つけたら、腹部の淡い色、体側上半部の青緑〜コバルト色の小斑点、尾びれ後縁の黒さを探す[4]。産地や養殖か天然かの表示があれば、記録しておくと、後で資料と照らし合わせる材料になる。ただし、本稿は養殖と天然の色の差を一般論として述べていない。表示と色の関係は、読者が自分の観察で検討する課題である。
資料案内
食性と体の特徴は、神奈川県の図鑑[3]と東京都島しょ農林水産総合センターの資料[4]が公的資料である。体色は、広島大学の「養殖マダイの体色改善に関する研究 I」で、飼料へのザリガニ殻の添加を扱っている[5]。成長段階ごとの食べ物の移り変わりは、各県の水産試験場の資料などに詳しく載っていることがある。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
資料のうち、一般向けの解説は、公的機関の資料と照らし合わせて使っています。
- ダイワ「水産学 マダイ」 https://www.daiwa.com/dyfc/manabu/suisangaku/madai (食べ物の種類・好物)
- Honda 釣り図鑑「マダイ」 https://www.honda.co.jp/fishing/picture-book/madai/index.html (歯・食べ物・稚魚の暮らし)
- 神奈川県「おさかな図鑑 マダイ」 https://www.pref.kanagawa.jp/docs/mx7/cnt/f430693/zukan-madai.html (好物・稚魚の藻場・黒ずみ)
- 東京都島しょ農林水産総合センター「マダイ」 https://www.ifarc.metro.tokyo.lg.jp/archive/27,1053,55,227.html (体の特徴・臼歯・成魚の食べ物)
- 「養殖マダイの体色改善に関する研究 I」(広島大学リポジトリ) https://hiroshima.repo.nii.ac.jp/records/2038151 (黒ずみと殻の粉による発色)
- 日本旅行「釣りプラン紹介(茨城)」 https://www.nta.co.jp/activity/sea/fishing/kanto/ibaraki/175/ (釣り餌)
なおした ところ
更新履歴
更新履歴(改版の記録)
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