1. 冬の 田んぼで、イタチは なにを?
1. 水が消えた冬の田んぼで、イタチは何を食べたのか
1. 冬の水田地帯で、糞の中身は何だったのか
冬の 田んぼは、水が ぬかれて かわいて います。夏の ように、水の 中の 生きものを つかまえる ことは できません。
さいたまけんの 田んぼの あたりで、イタチの ふんを 75こ あつめて しらべた けんきゅうが あります[2]。春から 秋の ふんには、ザリガニや むし、カエルが たくさん ありました。でも 冬の ふんは、おもに イチジクなどの くだものでした。
水が なくなる 冬は、えさに なる 動物が すくなく なるからだと 考えられて います。ただ、これは さいたまけんの 田んぼの 1つの れいです。イタチが 冬は いつも くだものを たべる、という 話では ありません。
ふんで たべものが わかるのは、どうして でしょう。つぎに それを 見て みましょう。
干上がった水田に残る食べ物
冬の水田は、水が抜かれて乾いています。夏のように水の中の生きものがいる場所ではなくなり、動物の餌が少なくなる季節です。
埼玉県の水田地帯で、2017年7月から2018年8月にかけて集めた糞75個を調べた研究があります[2]。春から秋の糞は、外来のアメリカザリガニ、昆虫、カエルの成体が中心でした。ところが冬の糞は、主にイチジクなどの果実でした。報告では、水田が干上がる冬は動物の餌が少ないことが理由と考えられています。
これは「一例」である
この結果は、埼玉県の水田地帯での調査です。イタチが冬になると果実を食べる、とまとめられる話ではありません。場所が変われば、同じ季節でも食べ物は違うかもしれません。
そもそも、糞から食べ物を知るとはどういうことでしょうか。別の地域の調査と合わせて見ていきます。
冬の水田は水が抜かれて乾き、水生の動物が減る。そこに暮らすニホンイタチは、何を食べて冬を越すのか。
埼玉県の水田地帯で2017年7月から2018年8月に集めた糞75個の分析によると、春から秋は外来種のアメリカザリガニ、昆虫、カエルの成体が中心だった。ところが冬は、主にイチジクなどの果実に変わった[2]。報告は、水田が干上がる冬には動物性の餌が少なくなることを理由に挙げている。
ここで注意したいのは、これが水田地帯1か所の調査だという点だ。ザリガニ中心という結果も、冬に果実が多いという結果も、全国のニホンイタチに共通すると読むことはできない。一般的な説明では、ネズミ・カエル・昆虫などの動物を食べ、果実なども食べるとされる[1]。基本は動物食でも、季節と場所で中身がここまで動くことが、この調査の見どころである。
では、糞から食べ物を読むとは、具体的に何を数えることなのか。別の地域の調査で確かめる。
2. ふんの 中身で、たべものが わかる
2. 糞の中身を比べると、哺乳類がいちばん多かった
2. 茨城県の237個:体積と出現回数で比べる
イタチの ふんの 中には、たべた ものの ざんが 入って います。それを 分けて、どれが 多いかを 数えると、たべものが わかります。
いばらきけんの 水戸市の まわりでは、1999年から 2001年に ふんを 237こ あつめて 調べました[3]。いちばん 多かったのは、ネズミなどの けものでした。つぎに バッタの なかま、ザリガニや カニの なかま、くだもの、かぶと虫の なかま、魚が つづきました。
イタチは、ほぼ ネズミだけを たべて いる わけでは ありません。ネズミが 中心でも、水の ちかくの 生きものも くだものも、ちゃんと 入って います。
では、さいたまけんの 冬の くだものと、いばらきけんの くだものは、同じ話なのでしょうか。
体積と出てきた回数で比べる
糞の中には、消化されずに残った動物の体の一部や、植物の種などが入っています。それを種類ごとに分け、量(体積)と、何個の糞に出てきたか(出現回数)を比べると、食べ物の中心が見えてきます。
茨城県水戸市周辺の約901平方キロメートルで、1999年から2001年にかけて集めた糞237個の調査があります[3]。この調査では、ネズミなどの哺乳類が、体積でも単独で出てくる回数でも最も多くなりました。次に高い頻度で出たのは、バッタの仲間、ザリガニなどの甲殻類、果実、甲虫、魚です。水田や川沿いで目立った食べ物でした。
「ネズミ中心」は半分だけ正しい
イタチの主食はネズミ、と書く事典は多く、この調査もネズミなどが最多だったと示します[1]。ただし、2位以下にバッタ、甲殻類、果実、甲虫、魚が並ぶので、中心はネズミでも、食べ物の幅は広いと読めます。
水戸市周辺ではネズミ、埼玉県の水田地帯ではザリガニ。この違いは、季節だけでなく場所の違いも関わりそうです。春から秋の埼玉県を、もう少し見てみましょう。
糞分析は、糞に残る動物の体の一部や植物の種などを種類別に分け、体積の割合と、何個の糞に出たか(出現頻度)を比べて食べ物を推定する方法である。野外で集めた糞から食性を推定できる。
茨城県水戸市周辺の約901平方キロメートルで、1999年から2001年に集めた糞237個の分析では、哺乳類(ネズミなど)が相対体積でも単独出現でも最も多く、次いでバッタ類、甲殻類、果実、甲虫類、魚が高い頻度で見られた[3]。水田や川沿いで目立った、という整理である。
「ネズミが主食」という説明は、この結果と矛盾しない。しかし、ネズミだけで説明できるわけではない。2位以降に、水辺・草地・樹木の実という別々の環境の食べ物が並んでいる。埼玉県の水田地帯ではザリガニが中心になったことと合わせると、食べ物の中心は、そこで手に入りやすいものに応じて動いていると読める。
この読みは、2つの調査の比較であり、調査方法や時期は同じではない。では、埼玉県の春から秋の食べ物には、どんな特徴があるのか。
3. 水田の 春から 秋は ザリガニが 多い
3. 春から秋の水田では、外来のザリガニが中心だった
3. 埼玉県の水田地帯:外来種のザリガニが中心になるとき
さいたまけんの 田んぼの イタチは、春から 秋に、アメリカザリガニを たくさん たべて いました[2]。アメリカザリガニは、もともと 日本に いなかった 生きものです。
ほかには、むしと、大きく なった カエルも 多く でて きました。水の ある 田んぼは、ザリガニも カエルも すむ ところです。
イタチは ネズミだけでなく、水の 近くの 生きものも 食べて います。どこに 行けば 何が とれるかで、メニューが かわる ようです。
では、くだものは 冬だけの 食べ物 なのでしょうか。
水があるときの食卓
埼玉県の水田地帯の調査では、春から秋の糞に、アメリカザリガニ、昆虫、カエルの成体が多く出ました[2]。アメリカザリガニはもともと日本にいなかった外来の生きもので、水のある田んぼや水路で見つかります。
水田が水で満たされる季節には、ザリガニもカエルも昆虫も、そこにいます。イタチは、それをよく食べていました。
ここから言えること、言えないこと
この調査から分かるのは、この水田地帯のイタチが、春から秋には水辺の動物を中心に食べ、冬には果実に切り替えたということです。ザリガニが外来種の生態系にどう影響するかまでは、この結果からは読み取れません。また、ザリガニ中心という姿は、水田地帯の1例です。
では、果実は冬の「困ったときの食べ物」なのでしょうか。別の場所の調査では、夏にも果実が目立ちました。
同じ埼玉県の調査で、春から秋の糞は外来種のアメリカザリガニ、昆虫、カエルの成体が中心だった[2]。水田は水を張る時期に水生動物が集まる場所であり、ニホンイタチはそれを利用していたことになる。
この結果から言えるのは、調査地では春から秋は水辺の動物が多く、冬は果実が多かったという季節差だ。水田や水路が乾くことが、その違いに関係すると考えられている。ザリガニを食べる行為が、在来の生物や水田の生態系にどう効いているかは、糞の分析だけでは分からない。1つの水田地帯の事例であり、他の地域のザリガニがいない水田では当てはまらない。
この「切り替え」は、冬の果実への移行で終わるのか。さらに別の場所の調査では、夏の糞でも果実が目立った。
4. くだものは 冬だけの 食べ物?
4. 夏にも多かった果実の種
4. 渡良瀬遊水地の103個:夏にも果実の種が多い
わたらせゆうすいちという 広い 場所で、2024年9月から 2025年8月に、イタチの ふんを 103こ あつめて 調べた けんきゅうが あります[4]。
この ふんには、植物の かけらや、くだものの たねが、どの きせつにも 多く 入って いました。夏の ふんでは、くだものの たねが、ふんの かさの 大きな ぶぶんを しめて いました。
冬の ほかに、夏も くだものを たべる イタチが いる ようです。くだものは、イタチの 大切な たべものの 1つかも しれません。
ところで、イタチは どうして 水田も 草むらも 木の 下も、行ける のでしょう。体に ひみつが ありそうです。
夏の糞の、かなりの部分が種だった
群馬・栃木・埼玉・茨城にまたがる渡良瀬遊水地で、2024年9月から2025年8月に集めた糞103個の分析があります[4]。植物や果実の種は季節を問わず多く出て、特に夏は、糞の体積の大きな部分を果実の種が占めていました。
果実は「冬の非常食」だけではない
埼玉県の水田地帯では、果実が目立ったのは冬でした。渡良瀬遊水地では、夏の糞にも果実の種が多く出ました。この2つを並べると、イタチが果実を食べるのは餌が少ない冬だけの例外、とは言い切れないと読めます。
ただし、2つの調査は場所も年も調べ方も違います。どの果実を、どれくらいの量で食べたのかも、ここから決められません。
水の中、草地、木の下。食べ物がこれほど広いのは、イタチの体と関係があるのでしょうか。
群馬・栃木・埼玉・茨城にまたがる渡良瀬遊水地で、2024年9月から2025年8月に集めた糞103個の分析では、植物片と果実の種が季節を問わず頻繁に見られ、特に夏は果実の種が糞の体積の大きな部分を占めた[4]。
埼玉県の水田地帯では冬が果実の季節だったが、この遊水地では夏にも果実が目立つ。そのため、果実は「動物の餌が減る冬だけの代わりの食べ物」と一括りにはできない。遊水地は広い湿地・草地であり、水田地帯とは利用できる餌が違うという事情も考えられるが、調査からは決められない。
3つの調査を並べて分かるのは、ニホンイタチの食べ物には、ネズミ、水辺の動物、昆虫、果実のどれもが入りうること、その配分が場所と季節で変わることだ。では、そのような食べ方を可能にしている体は、どんなつくりか。
5. 細長い 体の ひみつ
5. 細長い体は、狭い場所に入れる代わりに、費用もかかる
5. 細長い体形の利点と代謝の費用
イタチは、胴が 長くて 足が みじかい 体を して います。大阪府の 説明では、3cmたらずの すきまでも すりぬけて しまうそうです[6]。およぎも 上手で、まっすぐな かべも のぼれると いわれます。
おすの イタチは、しっぽを のぞいた 長さが、30〜37cmくらい です[1]。30cmの ものさし 1本ぶんほどの 体で、あなや すきまに 入って いけます。
ただし、細長い 体には、お金のように 「ひよう」も かかります。北アメリカの イタチの なかまを 調べた 1972年の けんきゅうでは、寒い ときに、同じ 重さの ふつうの 体の けものより、エネルギーを 50〜100%も 多く 使うと されて います[5]。
体が 細長いと、あなに 入れて えものを とりやすい。その かわり、たくさん たべる ひつようが あるのかも しれません。
3cm足らずのすき間を抜ける体
イタチは胴長短足で、大阪府の説明では3cm足らずのすき間も通り抜けます。泳ぎも上手で、垂直の壁を登ることもあるそうです[6]。ニホンイタチの雄は、尾を除いて体長30〜37cm前後、雌は20〜27cm前後と、性別で大きさがかなり違います[1]。
水田、川、草むら、木の下。そのどこにも入っていける体は、食べ物の選択肢を広げているのかもしれません。
細長さの「費用」
北米のイタチの仲間を対象にした1972年の研究では、寒さにさらされたイタチは、同じ重さの普通の体形の哺乳類より50〜100%多くエネルギーを使うとされています[5]。この研究では、細長い体形で狭い場所に入れる利点が、対象種ではエネルギーの費用を補うと考察されています。
この研究は北米の種を、寒さにさらした状態で調べたものです。ニホンイタチの1日の食べる量や代謝は、この記事の資料では数字にしていません。「だから大食いだ」と言い切るのではなく、「体の形と食べ物は関わりがありそうだ」と読むのが、いまの精一杯です。
ニホンイタチは胴長短足で、3cm足らずのすき間を通り抜け、泳ぎが得意で、垂直の壁も登る[6]。雄の体長(尾を除く)は30〜37cm前後、雌は20〜27cm前後で、性差が大きい[1]。この体は、巣穴や草地、水辺のどこにも入れることを意味する。
一方で、細長い体形には代謝の費用がある。Brown and Lasiewski(1972)は、北米のイタチ類を寒冷にさらした条件で調べ、同じ体重の普通の体形の哺乳類より50〜100%多くのエネルギーを使うと報告した[5]。この研究では、細長い体形で狭い場所に入れる利点が、対象種ではその費用を補うと考察されている。
ただし限界がある。この数字は北米の種・寒冷時の値であり、ニホンイタチに当てはめて「1日に体重の何割を食べる」とは言えない。ここで言えるのは、(1) 糞分析で食べ物の幅が広いこと、(2) 細長い体は、狭い場所にも入れること、(3) 細長い体は別の種で費用が大きいと報告されていること、の3点である。
3つを並べる読み方は一つの仮説であって、因果の証明ではない。それでも、糞1個の中身を、体の形や季節、場所から考える楽しみは残る。
6. 水の ちかくを 見て、イタチの ごはんを 考える
6. 近くの水辺で、イタチの食べ物を想像する
6. 論文の表から、自分の地域に引き寄せて考える
田んぼや 川の ちかくを 歩く とき、水が あるか、ザリガニや カエルが いそうか、木の み が なって いるかを 見て みましょう。そこに イタチが すんで いたら、何を たべるかな、と 考えて みるのです。
もし ふんを 見つけても、さわっては いけません。野生の 動物の ふんには、人に うつる ばいきんが いる ことが あるからです。見るだけに して、手を あらいましょう。
さいたまけん、いばらきけん、わたらせゆうすいち。同じ イタチでも、ばしょで たべものが ちがいました。あなたの まちの イタチは、どうでしょう。
ちがう場所なら、メニューも違うはず
埼玉県の水田地帯ではザリガニと冬の果実、茨城県水戸市周辺ではネズミ、渡良瀬遊水地では夏の果実の種。同じニホンイタチでも、調べた場所で食べ物の中心が違いました。自分の住む町なら、どうでしょうか。
田んぼや川の近くを歩くとき、水があるか、ザリガニやカエルがいそうか、実をつける木があるかを見て、イタチの食べ物を想像してみてください。
糞を見つけても、さわらないでください。野生動物の糞には、人にうつる病原体がいることがあるからです。見るだけにして、帰ったら手を洗います。
原典を確かめる
出典欄の論文では、糞を集めた期間、数、食べ物の分け方が表や図で細かく示されています。出典欄の研究と、博物館や自治体の日本語資料を読み比べると、同じイタチでも調べる場所や季節で結果が違うことが見えてきます。
3つの糞分析(茨城・埼玉・渡良瀬遊水地)は、調査地・年・季節の区切り方が違うため、数字をそのまま足し引きして比べることはできない。それでも、ネズミ中心、水辺の動物中心、果実の種が多いという食べ物の違いは、同じ種でも環境に応じて食べ物が変わることを示す。
自分の地域でも、水田や水路、果樹のある場所によって、利用できる餌は変わる。その土地のイタチが何を食べているかは、地域の調査や、博物館・自治体の資料に当たると手がかりが得られるだろう。糞を野外で見つけても素手で触らず、観察にとどめる。
原典は出典欄に挙げた。Mammal Studyの論文は、糞の分析方法と食べ物ごとの出現頻度を示している。Tsunodaらの論文は、冬に果実へ切り替わる季節変化を扱う。2つの論文で、同じ「糞の分析」でも、見ている問いが違う点を比べると面白い。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
食べ物の数字は、場所・時期・糞の数が調査ごとに違います。
- 世界大百科事典・日本大百科全書「イタチ」(コトバンク) https://kotobank.jp/word/%E3%82%A4%E3%82%BF%E3%83%81 (体の大きさ、食べ物の一般的な説明)
- Tsunoda et al. "Trophic plasticity of the endemic Japanese weasel"(オックスフォード大学ORA掲載) https://www.biology.ox.ac.uk/node/4383571 (埼玉県の水田地帯の糞分析)
- Diet of Japanese weasels (Mustela itatsi) in a suburban landscape, Mammal Study 34(2) https://bioone.org/journals/Mammal-Study/volume-34/issue-2/041.034.0205/Diet-of-Japanese-Weasels-iMustela-itatsi-i-in-a-Sub/10.3106/041.034.0205.full (茨城県水戸市周辺の糞分析)
- Qiao et al. Animals 16(11), 2026(オックスフォード大学ORA掲載) https://ora.ox.ac.uk/objects/uuid:b77464c8-5686-4b09-affb-e76816557e48 (渡良瀬遊水地の糞分析)
- Brown and Lasiewski (1972) Metabolism of weasels: the cost of being long and thin, Ecology(OEHHA掲載の引用情報) https://ecotox.oehha.ca.gov/citation/metabolism-weasels-cost-being-long-and-thin (細長い体の代謝の費用)
- 大阪府「イタチ」 https://www.pref.osaka.lg.jp/o120140/doubutu/yaseidoubutu/itachi.html (体のつくりと動き)
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