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ここにあるのは、だれかが実際に調べ、考え、作ってきたことを集めたメモです。気になったら、ページの下の「参考にした情報源」から、もとの本や記事、それを生み出した人たちに、直接ふれてみてください。このメモには書ききれないおもしろさが、そこにあります。

きつつきは、どうして あたまが いたく ならないの?

クッションではなく金づち? キツツキの頭が痛くならない理由の、新しい答え

キツツキはなぜ脳を損傷しないのか ── 衝撃吸収説と2022年のCurrent Biology論文

分野:生きもの

きつつきは、かたい 木を、くちばしで なんども たたきます。人が おなじ ことを したら、あたまが いたく なりそうです。

ながい あいだ、あたまの ほねが クッションに なって いる からだと いわれて きました。でも 2022ねんに、ちがう 見かたが 出ました。いっしょに 見て みましょう。

キツツキは、硬い木を何度もくちばしでたたきます。人間が同じことをしたら、頭が無事ではすまなさそうです。

頭の骨がクッションの役をしている、という説は長く信じられてきました。ところが2022年、高速度カメラを使った研究が、この説に疑問を投げかけました。何が分かったのかを追います。

キツツキの頭部は、つつくたびに人間の脳震盪の目安を超える減速を受けるとされる[1]。頭骨や舌骨が衝撃を吸収するという説明が広まっていたが[4]、2022年のCurrent Biology論文は、頭骨は衝撃吸収装置ではなく硬い金づちとして働くと報告した[3]。

このメモでは、旧来の説、2022年の測定、脳の小ささに着目した説明を突き合わせ、どこまでが確かなことで、どこからが今も議論の途中かを整理する。

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1. どれくらい つよく ぶつかって いるの?

1. 人なら脳震とうになりそうな強さ

1. つつくときの減速 ── 最大約400gと脳震盪の目安約135g

きつつきは、くちばしが 木に あたって とまる とき、ものすごい ブレーキが かかります。

その つよさは、じゅうりょくの 400ばいくらいに なる ことが あると、しらべた 人たちは ほうこくしました[1]。これは 一ばん つよい ときの かずです。いつも では ありません。

人の のうしんとうの めやすと されるのは、じゅうりょくの 135ばいくらいです[1]。きつつきは、それを こえても へいきな ようです。

撮影して測ってみた

アントワープ大学のヴァン・ワッセンベルクらは、3種のキツツキが木をつつく様子を高速度カメラで撮影し、頭の動きから減速の大きさを計算しました[3]。

重力の400倍

減速は「g」という単位で表します。1gは地球の重力がかける加速度で、400gなら、その400倍の急ブレーキです。この研究では、脳にかかる減速は最大で約400gと報告されました[1]。人間の脳震とうの目安とされる約135gを、大きく超えています。ただし400gは最大の値で、いつもその強さというわけではありません。

Van Wassenbergh らは2022年、3種のキツツキの高速度撮影から、つつきの際の頭部の動きを解析した[3]。報告された脳への減速は最大で約400gで、ヒトの脳震盪の閾値とされる約135gを大きく上回る[1]。

400gは最大値であり、平均や常時の値ではない。135gもヒトについての推定閾値で、鳥に直接当てはまる基準ではない点に注意が要る。なお、後の章に出る旧研究の約1000gは推定値で、2022年の測定値と同じ条件で比べた数字ではない。

2. あたまの ほねは クッションなの?

2. 長く信じられた「クッション説」

2. 旧来の説 ── 舌骨・くちばし・海綿状の骨による衝撃緩和(2011年ほか)

むかしから、きつつきの あたまには クッションが ある、と いわれて きました。

たとえば、した の ほねが あたまを ぐるっと まいて います。これが シートベルトの ように 頭を おさえる、と 考えた けんきゅうも ありました[4]。

あたまの ほねの 中の、すきまの 多い ほねも、ショックを へらすと 考えられました。つまり、いくつかの ぶひんが きょうりょくして、あたまを まもって いると いう せつめいです。

舌骨は頭を巻く骨

キツツキの舌骨は、舌の根もとから頭骨のまわりを巻くように伸びる細長い骨です。2011年のPLOS ONE論文は、コンピューターで頭の形をまねた計算(有限要素法)をして、舌骨、くちばしの構造、頭骨のすきまの多い骨が協力して衝撃を和らげると論じました[4]。

数字も出ていた

別の計算では、衝撃の圧力が頭の先から後ろまでで約75%減るという結果も出ています[5]。ただし、これは生きた鳥ではなく標本を使い、筋肉の性質にはラットの値を仮に当てた、実験室の中の計算です。

2011年のPLOS ONE論文は、有限要素モデルにより、舌骨が頭部を取り巻く安全ベルトのように働き、舌骨・くちばし・海綿骨が協調して衝撃吸収系をなすと論じた[4]。当時の資料にもとづく報告値として、つつきの速度は6〜7 m/s、減速は約1000g、1日に約12,000回つつくとも述べている[4]。

舌骨についての別の有限要素解析では、応力波の圧力が先端から後端で75%(0.15→0.04 MPa)低下する結果が報告された[5]。ただし標本を用い、筋の物性にはラットのものを仮定した数値計算で、生体での測定ではない[5]。

3. クッションが あると こまる ことも ある

3. 説の裏にあった矛盾と、2022年の測定

3. 吸収説の矛盾と2022年の測定 ── 頭骨は「硬い金づち」

ここで ふしぎな ことに 気づきます。もし あたまが クッションなら、木を たたく ちからも、クッションに すわれて しまいます。

クッションが たたく ちからを すうと、木に つたわる ちからも よわく なると 考えられます。きつつきが 木に あなを あけたいなら、クッションは じゃまです[2]。

そこで 2022ねんの けんきゅうは、3しゅるいの きつつきを カメラで とって しらべました。すると、あたまの ほねは 木を うつ かたい かなづちの ように はたらいて いると ほうこくされました[3]。

それでは、あたまの ほねが クッションでないのなら、のうは 何に まもられて いるのでしょう。

吸収すると、つつけなくなる

頭が衝撃を吸収する仕組みがあれば、つつく力が木に届かず、穴をあける能力が落ちてしまうはずです。そんな不利な仕組みが進化で残るのはおかしい、という矛盾が、2022年の研究の出発点でした[2]。

硬い金づちとして働く

研究チームは、3種のキツツキをつつくたびに高速度カメラで撮影しました。その結果、頭骨は脳を守るために衝撃を吸う仕組みではなく、つつく力を高めるための「硬い金づち」として働いている、と報告されています[3]。頭の前のほうの骨でも、くちばしと脳を入れる部分の減速に差は見られず、骨がクッションとして働いた証拠はありませんでした[1]。舌骨も、「シートベルトやクッションになる」という説は近年の研究で支持されていません[1]。

2022年論文の出発点は、頭骨が衝撃を吸収すれば打撃力が木に伝わらず、つつく能力が損なわれるはずで、そうした構造は進化的に維持されにくいという矛盾である[2]。

3種のキツツキの高速度撮影の解析から、頭骨は脳を守る衝撃吸収系ではなく、打撃性能を高める硬い金づちとして機能すると結論された[3]。頭骨前部の海綿状の骨で減速が下がる証拠はなく、くちばしと脳頭蓋の減速に差もなかった[1]。舌骨のシートベルト説やクッション説も、近年の研究では支持されていない[1]。

ただし「頭骨の構造が何もしていない」とまでは言えない。確認されなかったのは、クッションとしての働きの範囲にとどまる。

4. なぜ へいき なの? ── あたまが ちいさい から

4. では、何が脳を守っているのか

4. 脳の小ささ ── 圧力は脳の長さに比例する

では、なぜ へいき なのでしょう。ひとつの こたえは、のうが ちいさい ことです。きつつきの のうの ながさは、人の 7ぶんの 1 くらいと いわれます[1]。

おなじ きゅうブレーキでも、ながい ものほど、はしから はしまで かかる おす ちからが 大きく なります。のうも おなじです。

ですから、小さい のうは、おなじ ブレーキでも かかる おす ちからが 小さく なります。さいだいの ブレーキでも、のうしんとうが おきる 目やすの 4わり から 6わりくらいだと いわれます[1]。

圧力は脳の長さで決まる

急ブレーキのときに脳にかかる圧力は、減速の大きさ、脳の組織の密度、脳の長さをかけ合わせた値に比例します[1]。キツツキの脳の長さは人間の約7分の1しかないので、同じ減速でも圧力はずっと小さくなります。

同じ急ブレーキでも、長いものほど、端から端までにかかる力は大きくなります。脳も長いほど、ブレーキのときの圧力が大きくなると考えるとイメージできます。

最大でも、限度の半分ほど

報告された最大の減速でも、脳震とうが起きる頭の中の圧力の約4〜6割にとどまるとされています。この割合は種によって違います[1]。

ほかの候補

この論文は、脳が頭の中でぴったり詰まっていることも、安全に役立つ候補として挙げています。脳を包む液体が少ないので、脳が頭骨に対して動きにくいのです[7]。

脳内の圧力は、減速・脳組織の質量密度・脳の長さの積に比例する[1]。キツツキの脳の長さはヒトの約7分の1で、同じ減速でも圧力が小さく、耐えられる減速がはるかに大きい。報告された最大の減速でも、脳震盪に要する頭蓋内圧の約4〜6割にとどまる(値は種で異なる)[1]。

2006年にギブソンは、小さな体で応力が小さいこと、衝撃時間が極めて短いこと、脳が頭骨内で向きよく収まり接触面積が大きいことを鍵として挙げ、減速を約1000gのオーダーと推定した[6]。この数値は2022年の測定(最大約400g)と異なる点に注意が要る。

2022年論文は、脳脊髄液が少なく脳が頭蓋内に密に収まることや、脳の前方が広く応力を分散することも、適応の候補として挙げている[7]。

5. まねして ヘルメットが つくれる?

5. ヘルメットの手本にできるのか

5. 工学への含意 ── 「キツツキ型」保護具の発想の見直し

きつつきの あたまを まねして、ヘルメットを 作ろうと 考えた 人も います。

でも 2022ねんの けんきゅうを した 人たちは、その 考えを 見なおした ほうが いいと のべて います[2]。ほねが クッションでは ないかも しれない からです。

ただし、ヘルメットに やくに たたないと きまった わけでは ありません。

キツツキの頭の構造をヒントに、衝撃を吸う保護具を作る発想がありました。研究者たちは、頭骨が衝撃を吸収しているわけではないのだから、この発想を見直したほうがいいと述べています[2]。

とはいえ、役に立たないと断定されたわけではありません。頭骨の構造が部分的に何かの役に立っている可能性は、完全には否定されていません。

研究者は、キツツキの頭部構造を手本とする衝撃吸収型の保護具などの設計発想を再考すべきだと述べている[2]。

ただし「ヘルメットの参考にならない」と断定した研究ではない。頭骨の構造が部分的に役立つ可能性も、完全には否定されていない。

6. じぶんでも しらべて みたい

6. 自分でも調べてみたくなったら

6. 自分でも調べてみたくなったら

きょう できる こと

てのひらで、つくえを かるく たたいて みましょう。つぎに、うすい タオルを 一まい のせて たたきます。音と 手ごたえが どう かわるか、くらべて みてください。つよく たたきすぎない ように します。

でかけて できる こと

こうえんや はやしで、木を たたく 音に 耳を すませて みましょう。どんな リズムか、どの 高さの 木か、メモして みます。

ほんもの の きつつきが いつ いるかは、ところに よって ちがいます。見つからなくても、ふしぎでは ありません。

今日できること

手のひらで机を軽くたたき、次に薄いタオルを1枚のせてたたいて、音と手ごたえの違いを比べてみましょう。力を入れすぎないようにします。クッションをはさむと力が逃げる、という感覚をつかめます。

出かけてできること

公園や林で、木をたたく音に耳をすませてみましょう。リズムや、音がする木の高さを記録するのも一つの調べ方です。キツツキの種類や見られる時期は地域によって違うので、見つからなくても不思議ではありません。

もっと知りたくなったら

論文の要旨は、出典欄のUBC動物学科やCurrent Biologyのページで読めます。

今日できること

手のひらで机を軽くたたき、薄いタオルを1枚のせた場合と音・手ごたえを比べてみる。力を入れすぎない。柔らかいものが打撃の力を逃がす感覚の例になる。

出かけてできること

公園や林で、木をたたく音を探して記録してみる。キツツキの種類・見られる時期は地域で異なる。

タオルの厚さを変えて、音と手ごたえの差がどう変わるかも比べられる。

資料を読むなら(任意)

英語になるが、Van Wassenbergh et al. (2022) の要旨と、Gibson (2006)、PLOS ONE (2011) を読み比べると、同じ現象への説明が測定の進歩でどう変わったかが見える。要旨だけでも読める。

しらべた もとの じょうほう

参考にした情報源

参考にした情報源と、その使い方

数字や研究の内容は、次の資料を突き合わせて確認した。原文の全文は確認できていないものがあり、要旨や紹介記事に頼った部分がある。

  1. Physics Today「Why woodpeckers don't get concussions」 https://physicstoday.aip.org/quick-study/why-woodpeckers-dont-get-concussions (400g・135g・脳の大きさ・脳の圧力の考え方)
  2. ScienceDaily(2022年7月14日)Woodpeckers 関連記事 https://www.sciencedaily.com/releases/2022/07/220714145037.htm (吸収があるとつつく能力が落ちるという矛盾・保護具への示唆)
  3. UBC Zoology「Woodpeckers minimize cranial absorption shocks」(Van Wassenbergh et al. 2022, Current Biology の紹介) https://zoology.ubc.ca/article/woodpeckers-minimize-cranial-absorption-shocks-wassenbergh-et-al-current-biology (頭骨は硬い金づちという報告)
  4. PLOS ONE (2011) Why do woodpeckers resist head impact injury https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371%2Fjournal.pone.0026490 (旧来のクッション説・舌骨・有限要素モデル)
  5. Mississippi State University CAVS「Woodpecker hyoid」 https://www.cavs.msstate.edu/icme/Bio/woodpecker_hyoid.php (舌骨の応力波の数値計算)
  6. Gibson (2006) Journal of Zoology 270:462-465 https://zslpublications.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1469-7998.2006.00166.x (耐えられる3つの鍵と、約1000gの推定)
  7. Current Biology (2022) 要旨ページ https://www.cell.com/current-biology/fulltext/S0960-9822(22)00855-7 (脳が頭蓋にぴったり詰まっている点)

なおした ところ

更新履歴

更新履歴(改版の記録)

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