1. どうして「きょねんの おなじ 月」なの?
1. 12月と6月を比べても、物価の動きは分からない
1. 前年同月比が季節変動を除く理由と、前月比との差
ふゆの コートは、さむく なる まえに ねだんが たかく、はるが ちかづくと やすく なります。ふくの ねだんは、1年の なかで、のぼったり さがったり します。
だから 12月と 6月を くらべても、「ぶっかが あがった」のか、「きせつが かわった」だけなのか、わかりません。
そこで、きょねんの 12月と ことしの 12月のように、おなじ 月どうしを くらべます。きせつが そろうので、1年の うごきが みえやすく なります[1]。
この くらべかたを「ぜんねんどうげつひ」といいます。
冬のコートは寒くなる前に高く、春が近づくと安くなります。衣料品は、季節の変わり目が近づくと値段が下がることが多いと、総務省統計局の解説にもあります[2]。野菜や果物も、出回る量が季節で変わります。
そのため、12月の物価指数と6月の物価指数を並べても、世の中全体の物価が動いたのか、季節が進んだだけなのかは分かりません。前の月と比べる「前月比」にも、衣料品や生鮮果物など、出回りの変化による季節の動きが含まれます[1]。
そこで使われるのが、1年前の同じ月と比べる前年同月比です。季節がそろうので、季節の動きをいちいち考えなくても、当月までの1年間の物価の動きを見るのに便利だと説明されています[1]。季節の影響を除く方法には、ほかに、統計の手法で季節の波を取り除く「季節調整」もあります[2]。前年同月比は、計算が簡単なほうの工夫です。
では、その計算は、実際にはどうやるのでしょうか。
衣料品の価格は、季節の変わり目が近づくと下がることが多い[2]。したがって、12月の指数と6月の指数を直接比べても、物価水準の変化と季節変動が分けられない。前月比も同じ弱点をもち、衣料品や生鮮果物の出回りの変化による季節的な変動を含む[1]。
そこで統計局は、季節変動を除いて物価を見る方法を二つ挙げている。一つは前年同月比で見る方法、もう一つは季節調整済指数(米国センサス局が開発したX-13ARIMA-SEATSという統計プログラムを使う)で前月比を見る方法である[2]。前年同月比は、同じ月どうしの比較なので季節的な変動要因を考慮する必要がなく、当月までの1年間の動きを見るのに便利とされる[1]。
では、その変化率は具体的にどう求めるのか。次の章で、統計局の計算例を電卓にかけてみる。
2. 「1.5%」は、どうやって でるの?
2. 99.3が100.8になったとき、1.5%はどう出るのか
2. 変化率の計算 ── 1.5ポイントと1.5%を区別する
ぶっかは、「しすう」という 数で あらわします。きょねんの 1月が 99.3で、ことしの 1月が 100.8だと します[1]。
ひき算を すると、1.5 ふえました。この 1.5を、きょねんの 99.3で わり算します。すると 0.015ぐらいに なります。100を かけて 1.5%です。
つまり、きょねんより 1.5%、ぶっかが あがった という ことです。
統計局の説明には、次の計算例があります。2025年の平均を100とした2026年1月の全国の消費者物価指数(総合)は100.8、前年の1月は99.3でした[1]。差は1.5です。
ここで大切なのは、1.5をそのまま「1.5%」としないことです。この差を、前の年の指数99.3で割って100倍します。1.5÷99.3は約0.0151なので、100倍して約1.5%の上昇になります(検算)。差の1.5は指数の差で、%は「もとの値に対して何割動いたか」という割合です。
統計では、この1.5のような指数のちがいを「ポイント」と呼んで、%と区別します。ニュースで「0.2ポイント縮小」と聞いたら、割合のちがいを引き算した数だと考えると、読みまちがいが減ります。
ここまでは、素直な数字の読み方です。ところが、この「1年前」という相手が特別な年だと、数字はふしぎな動きをします。
変化率は、二つの時点の指数の差を、前の時点の指数で割って100倍する。統計局の例では、2025年平均を100とした2026年1月の全国CPI(総合)が100.8、前年1月が99.3で、差1.5を99.3で割ると約0.0151、100倍して約1.5%の上昇となる[1]。
ここで差の1.5は「ポイント」で、%はそれを前の値で割った割合である。両者を混同すると、「物価が1.5%上がった」と「指数が1.5上がった」を同じ意味に読んでしまう。指数が100に近いうちは数字がほぼ重なるが、指数が200なら同じ1.5の差は約0.75%にしかならない。基準の取り方で見かけが変わる以上、%で読む習慣が要る。
統計局はこの前年同月比の変化そのものについても、「1月1.5%→2月1.3%で0.2ポイント縮小」のように、%どうしの差をポイントで表す[1]。%の差が%ではない点は、次章のベース効果を読むときにも効いてくる。
それでも、前年同月比は完全ではない。統計局自身が、足元の動きに加えて1年前の動きが含まれる点に注意が必要と書いている[2]。その実例が、2022年4月に起きた。
3. けいたいでんわは ねあげ されて いないのに、どうして?
3. 携帯電話の料金が上がっていないのに、伸びが大きく見えた
3. ベース効果 ── 2022年4月、携帯電話通信料の下落率が52.7%から22.5%へ縮んだ
まず、かりの はなしです。けいたいの りょうきんが、まえは 6000円で、あとから 3000円に さがったと します。
さがった 年の 3月、きょねんの 6000円と くらべると、はんぶんです。でも 1年たった 4月は、きょねんの 3000円と ことしの 3000円で、おなじです。
りょうきんは ずっと 3000円なのに、「おおきく さがった」が 「さがって いない」に かわります。すると、ニュースの「きょねんの おなじ 月との くらべ」で、ぶっか ぜんたいの のびが おおきく みえるのです。
2022ねんの 4月に、これと にた ことが おきたと ほうどうされました[5]。
まず、仮の数字で考えてみます。携帯料金が6000円から3000円に下がったとします。値下げ直後の月は、1年前の6000円と比べるので、下落率は50%です。1年たつと、比べる相手の1年前も、すでに値下げ後の3000円です。下落率は0%になります。
料金は3000円のまま、まったく動いていません。それなのに、前年同月比で見る「携帯料金の下落」は、50%から0%に消えます。比べる相手の1年前の側に、値下げの動きが入っていたからです。この現象はベース効果と呼ばれます。
2022年4月の全国CPIは、総合が前年同月比2.5%上昇、生鮮食品を除く総合が2.1%上昇でした[4]。報道によると、携帯電話通信料は前年同月比で22.5%の下落でした。前の月の52.7%の半分以下になり、大幅値下げの影響の大部分が、比べる範囲から外れたと伝えられています[5]。そのぶん携帯電話通信料は、前年同月比の総合指数の上昇幅を1.04ポイント押し上げたとされます[5]。
値下げがなくなったのでも、料金が上がったのでもありません。統計局の解説にある「1年前の物価の動き」が数字に入りこんだ、典型的な例です[2]。では、こうした動きの理由は、どうやって見つけるのでしょうか。
前年同月比は「当月の値」と「1年前の値」の比なので、1年前に大きな動きがあると、当月の動きがなくても数字が変わる。仮に携帯料金が6000円から3000円に下がった場合、値下げ直後は前年同月比で−50%、1年後は両方3000円で0%になる。料金は据え置きなのに、下落率だけが消える。これがベース効果である。
2022年4月の全国CPI(2020年=100)は、総合101.5で前年同月比2.5%上昇、生鮮食品を除く総合101.4で2.1%上昇だった[4]。ロイター配信の報道によれば、同月の携帯電話通信料は前年同月比22.5%下落で、前月の52.7%の半分以下となり、大幅値下げの影響の大部分がはく落した。携帯電話通信料は前年同月比の総合指数の上昇幅を1.04ポイント押し上げたとされる[5]。
ただし、この携帯料金の数字は二次報道によるもので、統計局の速報原文では照合していない。52.7%と22.5%の差は、料金が上がったのではなく、1年前との比較から値下げ分が外れたことを示す、と読むのが筋であろう。なお、この値下げがいつ、どのように行われたかは、本稿では扱わない。
前年同月比には、足元の動きに加えて1年前の動きが混ざる[2]。ならば、物価の伸びの「理由」を知るには、何が押し上げたのかを項目別に見ればよい。それが寄与度である。
4. なにが ぶっかを うごかしたの?
4. 「寄与度」で、数字を動かした項目を探す
4. 寄与度と寄与度差 ── 項目別に分解して、変化の原因を探す
ぶっかの のびが おおきく なったとき、「なにが のびたのか」を しらべる ほうほうが あります。
ぶっかは、たべもの、すまい、ふくなど、いくつもの なかまで できています。なかまごとに、「どれだけ ぜんたいを おしあげたか」を あらわす 数が あり、「きよど」と いいます[1]。
きよどを ぜんぶ たすと、ぶっか ぜんたいの のびに なります。
全体の数字が動いたとき、統計局は、どの項目が動かしたのかを「寄与度」で示しています。物価は食料、住居、光熱・水道、教養娯楽など、10大費目に分けられています。各項目の寄与度をすべて合計すると、総合指数の変化率になります[1]。
統計局の説明では、食料の寄与度が1.00というのは、他の項目が変わらず、食料だけが3.7%上がった場合の総合の変化率にあたります。食料が3.7%上がっても、総合への寄与は1.00にとどまります。物価全体の中で食料が占める割合(ウエイト)が、100%ではないためです[1]。
前年同月比が1月の1.5%から2月の1.3%へ0.2ポイント縮小したときも、どの項目が縮めたのかを見るために、寄与度の差である「寄与度差」が公表されています[1]。携帯電話通信料のようなベース効果も、こうして項目ごとに見ていくと、全体の中の一部として切り分けて読めます。
とはいえ、1年前の動きを切り分けても、足元の景気がいま上向きなのか下向きなのかは、別の問題です。それには、前年同月比だけでは足りない場面があります。
寄与度は、項目ごとの変化が総合の変化率にどれだけ効いたかを表す。10大費目の寄与度を合計すると総合指数の変化率になる[1]。ただし「食料が3.7%上昇」でも、総合への寄与は1.00にとどまる。食料のウエイトが全体の一部にすぎないためで、寄与度はウエイトと項目の変化率の積と読める。
統計局は、前年同月比の変化(1月1.5%→2月1.3%で0.2ポイント縮小)が何によるかを示す「寄与度差」も公表している[1]。2022年4月のように、携帯電話通信料の下落率が縮んで総合を押し上げた月は、寄与度(差)で見れば、物価全体の動きと個別項目のベース効果を分けて読める。
もっとも、これで分かるのは「前年との差の中身」であって、足元の変わり目ではない。景気の転換点を見つけるには別の指標が要る。
5. きょうの うごきは いつ わかるの?
5. 前の期との比較と「年率」── 変わり目は前年比だと遅れて見える
5. 前年同期比の遅れと、前期比年率という別の指標
きょねんと くらべる ほうほうは、ひとつ ざんねんな ところが あります。さいきんの うごきが、すぐには みえない ことです。
たとえば、ぶっかが のぼって いたのが、ことし おちはじめたと します。それでも、きょねんからの 1年かんで みると、まだ のびて いるように みえる ことが あります。
そこで、1つまえの 月や 3か月まえとも くらべます。きせつの うごきを とりのぞく ほうほうと あわせて つかいます[2]。
内閣府の2007年版の経済財政白書には、前年同期比のくせが書かれています。前年同期との比較は、季節性を除く最も簡便な方法の一つです。その一方で、前年同期比の動きは、景気の転換点を過ぎたあとも、しばらく増加や減少を続ける場合があります。判断が遅れうるので、季節調整をしたうえで前期と比べるのが有効だと、この白書は述べています[3]。
統計局の解説でも同じです。季節調整済指数は前月との比較ができるので、直近の物価の変動が見えます[2]。前年同月比は計算が簡単ですが、1年前の動きも含みます。目的で使い分けるのです。
GDP速報では、前の期との比較を「年率」にして示すことがあります。内閣府の説明では、前期比の伸びが4四半期続いた場合の1年間の伸び率として、(当期÷前期)の4乗から1を引いて100倍します[6]。たとえば前期比が0.5%の増加なら、年率はおよそ2.0%になります(1.005の4乗が約1.02であることからの計算)。ただし、年率は1年間の実績ではなく、1つの期の勢いを引き伸ばした仮の数字です。前年同期比とは、別の指標です。
前年同期比の弱点は、動きの変わり目の見え方が遅れることである。内閣府の経済財政白書(2007年版)は、前年同期との比較は季節性を除く最も簡便な方法の一つだと認める一方、前年同期比は景気の転換点を過ぎたあともしばらく増加または減少を続ける場合があり、判断が遅れうると指摘する。そのため、季節調整をして前期と比べるのが有効だという[3]。2007年の白書なので、現在の運用というより考え方の根拠として読むのが妥当である。
統計局の解説も同様で、前年同月比は足元の動きに1年前の動きが加わる一方、季節調整済指数は前月との比較で直近の変動が見える[2]。これで二つの方法は、目的ごとに役割が分かれる。
GDP速報の前期比年率は、前期比の伸びが4四半期続いたと仮定した1年間の伸び率で、{(当期÷前期)の4乗−1}×100により、季節調整値から求める[6]。前期比0.5%なら、1.005の4乗が約1.020なので年率は約2.0%になる。ただしこれは1四半期の勢いを複利で4期分に引き伸ばした仮の数字であり、実際の1年間の実績ではない。前年同期比とは別の指標である点にも注意したい。
6. ニュースの すうじを みたら、2つ きいて みよう
6. 数字を見かけたら、2つ問いかけてみる
6. ニュースの数字を読むときの2つの問いと、原典の探し方
ニュースで 「ぜんねんどうげつひ」の すうじを みたら、2つ、じぶんに きいて みましょう。
ひとつめは、「きょねんの おなじ 月に、なにか おおきな できごとが なかったかな」です。もうひとつは、「さいきんの うごきも わかる すうじが あるかな」です。
やってみよう。おうちの人と、でんたくを つかって、この 記事の 99.3と 100.8の けいさんを してみましょう。1.5を 99.3で わると、おなじ 答えが でます。
ニュースで前年同月比を見かけたら、次の2つを、自分に聞いてみるとよさそうです。
1つ目は、「1年前の同じ月に、大きな値下げや値上げ、制度の変化はなかったか」。2つ目は、「前月比や季節調整済みの数字では、足元の動きはどう見えているか」。この2つで、前年同月比の数字が、足元の動きなのか、1年前の動きの影響なのかが見えやすくなります。
やってみよう。電卓を用意して、統計局の計算例(99.3と100.8)を計算してみましょう。差の1.5を99.3で割り、100倍します。約1.5%になるはずです。ニュースの別の数字で試すときは、元の数字(指数)が公表されているかを、統計局のサイトで探してみてください。
統計局の「消費者物価指数の見方」は、日本語で読める一次資料です。変化率の計算、寄与度、季節調整の考え方が、図つきで丁寧に書かれています[1]。
ニュースの前年同月比を読むときは、二つの問いをもつとよい。①1年前の同じ月に、値下げや制度変更のような大きな動きがなかったか(ベース効果)。②前月比や季節調整済指数で見ると、直近の動きはどうか。この二つで、前年同月比に混ざる「1年前の動き」を切り分けやすくなる。
検算も、自分でできる。統計局の例(99.3→100.8)なら、(100.8−99.3)÷99.3×100≒1.5%である[1]。ニュースで見た数字を調べ直すときは、指数の原数値を統計局の公表資料で探し、同じ式にかけてみればよい。
資料を読むなら、まず統計局「消費者物価指数の見方」[1]と同「解説 第7 季節調整」[2]がよい。前者に計算例と寄与度、後者に季節調整とベース効果の注意が書かれている。さらに、景気判断の考え方は内閣府の白書[3]に当たれる。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
次の資料のうち、携帯電話通信料の数字(52.7%・22.5%・1.04ポイント)は報道、GDPの年率の式は内閣府資料の抜粋による。ほかは公的機関の資料である。
- 総務省統計局「消費者物価指数の見方(2025年基準)」 https://www.stat.go.jp/data/cpi/2025/mikata/pdf/3.pdf (前年同月比・前月比の定義、計算例、寄与度)
- 総務省統計局「消費者物価指数の解説(2025年基準)第7 季節調整」 https://www.stat.go.jp/data/cpi/2025/kaisetsu/pdf/3-7.pdf (季節変動を除く2つの方法、前年同月比の注意点)
- 内閣府「経済財政白書(2007年版)付注3-2 景気判断を行う際の経済指標の見方」 https://www5.cao.go.jp/keizai3/2007/1214nk/07-00403-02n.html (前年同期比と前期比の使い分け)
- 総務省統計局「統計メールニュース No.1450」(2022年5月20日) https://www.stat.go.jp/info/mail/pdf/20220520_no1450.pdf (2022年4月の全国CPIの前年同月比)
- ロイター配信(SBbit掲載)2022年5月20日 https://www.sbbit.jp/article/refers/87843 (携帯電話通信料の下落率の変化の報道)
- 内閣府経済社会総合研究所「四半期別GDP速報(2024年10–12月期 時系列表)」 https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/files/2024/qe244/pdf/jikei_1.pdf (前期比年率の式)
なおした ところ
更新履歴
更新履歴(改版の記録)
- 初版を公開。
このサイトでは、公開した記事の本文は原則として書き直しません。誤りが見つかったときや、内容が古くなったときだけ手を入れ、その理由をこの欄に残します。