1. 空気の ていこうって、どんな ちから?
1. 空気の抵抗は、空気を押しのけるときの力
1. 空気抵抗の正体と、「大きいほど負けにくい」の答え
走りながら、手を 前に ひろげて みると、手が 後ろに おされます。見えない 空気が、じゃまを して いるのです。これが くうきの ていこうです。空気の ていこうは、ものが 前の 空気を おしのけるときに うける ちからです。
では、大きい ものが まけにくいのは、どうしてでしょう。ものを 2ばいの 大きさに すると、空気に ぶつかる ひろさは 4ばいに なります。でも 重さは、8ばいに なります。空気から うける ちからより、重さの ほうが ずっと ふえるので、大きい ものほど 空気に まけにくいのです。
ただし、これは ものの ざいりょうと かたちが おなじ ときの はなしです。ちがう ときは、のちほど みます。
自転車で下り坂を走っていて、ペダルをこがなくても、あるところから速さが上がらなくなることがあります。前の空気を押しのけるのに、力が使われているからです。これが空気の抵抗です。動いているものは、前にある空気を押しのけながら進むので、進む向きと逆向きの力を受けます。
大きいものが負けにくい理由は、数字にすると分かりやすくなります。同じ材料で同じ形のまま、大きさを2倍にしたとします。空気にぶつかる面積は4倍になります。一方で、体積は8倍になるので、重さも8倍です。空気から受ける力は4倍、重さは8倍なので、重さに対する空気の力は半分になります。だから、大きいほど空気の影響は目立たなくなります。
この説明は、材料と形が同じときの話です。形や重さがちがうときや、とても小さい粒のときは、別の見方が要ります。それは後の章で見ます。
空気抵抗(抗力)は、物体が空気に対して動くときに、進行方向と逆向きに受ける力である。NASAグレン研究センターの教材は、これを「抗力の式」でまとめている。抗力は、抗力係数、空気の密度の半分、速度の2乗、基準面積の積で表され、速度の2乗と面積に比例する[1]。
Cdは物体の形などで決まる係数、ρは空気の密度、Vは空気に対する速度、Aは基準面積である。Cdには形、表面の摩擦、空気の粘りなどの影響がまとめて入っていて、ふつうは風洞実験で決める[1]。
題名の問いへの答えは、この式と重さの比べ方から出る。同じ材料・同じ形のまま長さを2倍にすると、面積Aは4倍、体積は8倍で、重さも8倍になる。条件がそろえば、抗力は4倍、重さは8倍なので、重さに対する抗力の割合は半分になる。大きい物体ほど空気に負けにくい理由は、これである。ただし、Cdが一定という前提がある。次章以降で、その前提がどこまで成り立つかを見る。
2. 空気の ていこうは、はやいと どうなるの?
2. 速さが2倍になると、抵抗は4倍になる
2. 抗力が速度の2乗に比例する理由
空気の ていこうは、はやく うごくほど、ぐんと 強く なります。はやさが 2ばいに なると、ていこうは 4ばいです。自転車で ゆっくり はしるより、いきおいよく はしる ほうが、風が ずっと 強く あたる ことを おもいだして ください。
わけは こうです。はやく うごくと、1秒間に おしのける 空気の りょうが ふえます。おしのけた 空気は、動かされるので、その ぶんの はやさも、はやいほど 大きく なります。空気の りょうが 2ばい、動かす はやさも 2ばいなので、2×2で 4ばいに なるのです。
空気の抵抗は、速く動くほど急に大きくなります。速さが2倍になると、抵抗は4倍です。NASAの教材も、抵抗は速さの2乗に比例すると説明しています[1]。
理由は、次のように考えると見当がつきます(これは目安の考え方で、正確な導き方ではありません)。速く進むと、1秒間に押しのける空気の量が速さに比例して増えます。しかも、押しのけた空気に与える速さも、物体の速さに比例します。量が2倍で、与える速さも2倍なら、必要な力は2×2で4倍です。
風を受ける力が、速さの2倍より急に強くなるのは、このためです。時速10kmと時速20kmの自転車では、受ける風の力が4倍もちがいます。
抗力が速度の2乗に比例する理由は、運動量の考え方で見当がつく(厳密な導出ではない)。物体が速度Vで動くと、単位時間に面積Aの前を通過する空気の質量は、ρAVに比例する。その空気に物体と同程度の速度Vを与えると、単位時間あたりに渡す運動量はρAV²に比例し、これが抗力に当たる。ここから、式の形と、Cdという係数が最後に残る理由が説明できる。
実際には、Cdも速度や物体の大きさで変わる。NASAの教材は、Cdに形、傾き、空気の粘り、圧縮性の影響が入ると述べる[1]。次章以降で出てくる「抗力は面積に比例する」は、Cdを一定とみなしたときの、おおまかな関係である。
3. おちる ものの はやさは、どこで きまるの?
3. 落ちるものの速さが頭打ちになる理由
3. 重さと抗力がつり合う終端速度
ものが おちはじめると、はじめは だんだん はやく なります。でも、はやく なるほど、空気の ていこうも 強く なります。そして、ていこうが 重さと おなじ ちからに なると、それより はやく ならなく なります。これが 終端速度です。
ひろい ものは、空気に たくさん あたるので、ゆっくり おちます。おなじ 重さなら、たいらな ものは、まるい ものより おそく おちます。パラシュートが ゆっくり おりるのも、ひろく ひらいて 空気を うけるからです。
空気が ない ところでは、ていこうが ないので、どんな ものも おなじ はやさで おちます。
ものが落ち始めると、最初は重さの力で、だんだん速くなります。速くなると空気の抵抗も強くなります。抵抗が重さと同じ大きさになると、力がつり合って、それ以上は速くなりません。この一定の速さが終端速度です。NASAの教材が説明するとおり、面積が広いものほど終端速度は小さく、重いものほど大きくなります[2]。
同じ重さなら、大きく広げた平らな板は、小さな玉よりゆっくり落ちます。NASAの教材も、この例を挙げています[2]。パラシュートは、重さを変えずに面積を大きくして、終端速度を下げる道具です。
空気がなければ、抵抗はゼロなので、終端速度はありません。どんなものも同じように落ちます。ガリレオが考えたとおりです[2]。
落下する物体には、重さWが下向きに、抗力Dが上向きにはたらく。加速度は(W − D)を質量で割った値になり、Dが増してWと等しくなると加速が止まる。このときの速度が終端速度である。つり合いの式を解くと、V = √(2W / (Cd・ρ・A)) になる[2]。
式から、面積Aが大きいほど、重さWが小さいほど、終端速度は小さくなる。NASAの教材は、同じ重さなら大きな平板は小さな球よりゆっくり落ちることを例に挙げる。空気がなければ抗力はゼロで、終端速度は存在せず、ガリレオが見いだしたように物体は同じ割合で落ちる[2]。
この式は、題名の問いの別の見方にもなる。W/Aが大きいほど終端速度は大きい。つまり、「単位面積あたりの重さ」が大きいものほど、空気に負けにくい。次章では、大きさを変えるとW/Aがどう変わるかを見る。
4. おおきさが 2ばい、10ばいに なると?
4. 大きさを2倍、10倍にすると、重さと面積はどう変わるか
4. 相似拡大でW/Aは長さに比例する
おなじ ざいりょうで、おなじ かたちの ものを、大きく して みましょう。たてと よこと たかさを 2ばいに すると、空気に あたる ひろさは 4ばい、重さは 8ばいです。10ばいに すると、ひろさは 100ばい、重さは 1000ばいです。
空気から うける ちからは ひろさに ついて ふえるので、10ばいの ものでは 重さ 1に たいして、空気の ちからが 10ぶんの 1に なります。小さい ものは、その ぎゃくです。小さい ネズミは、重さに くらべて、空気の ていこうを いっぱい うけます。だから、ゆっくり おちるのです。
同じ材料・同じ形のまま、長さだけを変えるとします。長さが2倍なら面積は4倍、体積と重さは8倍です。10倍なら、面積は100倍、重さは1000倍です。
| 長さ | 面積(空気の力のめやす) | 体積(重さ) | 重さに対する空気の力 |
|---|---|---|---|
| 1倍 | 1 | 1 | 1 |
| 2倍 | 4 | 8 | 1/2 |
| 10倍 | 100 | 1000 | 1/10 |
ハルデンは、動物を10分の1に小さくすると、重さは1000分の1に、表面は100分の1にしかならないので、空気の抵抗が重さに比べて約10倍になると書きました[3]。小さい動物ほど、落ちるときに空気にゆっくり止められます。馬とネズミの差は、この理屈で説明されました。
終端速度も、この計算でおよその値が出ます。重さを面積で割った値が大きいほど速いので、長さが4倍になると、終端速度はおよそ2倍になります。長さの平方根に比例する、ということです。
形も材料も同じまま、長さをL倍にする(相似拡大)。面積AはL²、体積はL³に比例し、重さWもL³に比例する。抗力もAに比例(Cd一定とする)するので、重さに対する抗力D/WはL²/L³ = 1/Lに比例する。終端速度はV = √(2W/(Cd・ρ・A))から、√(W/A) ∝ √L になる。長さが4倍で2倍、100倍で10倍である。
| 長さ | 面積A | 重さW | D/W | 終端速度 |
|---|---|---|---|---|
| 1倍 | 1 | 1 | 1 | 1 |
| 2倍 | 4 | 8 | 1/2 | 約1.4倍 |
| 10倍 | 100 | 1000 | 1/10 | 約3.2倍 |
ハルデンはこの比を使い、動物を10分の1にすると重さは1000分の1、表面は100分の1にしかならず、空気の抵抗の相対的な大きさは約10倍になると書いた。大きさと重さ・表面積の比で動物の落下を説明したのが、このエッセイの要点の1つである[3]。落下の被害は骨の強さなど別の要素にも関わるので、空気抵抗だけで全てが決まるわけではない。
5. あめつぶで たしかめて みよう
5. 雨粒で見る、大きいほど速く落ちる
5. 雨粒と雲粒に見る終端速度の大きさ依存
あめつぶは、大きさが ちがっても、空気の なかを おちて きます。直径1ミリの あめつぶは、秒速4メートルくらいです。直径2ミリなら 6.5メートル、4ミリなら 9メートルくらいです。大きい あめつぶほど、はやく おちて きます。
それに くらべて、くもを つくる とても ちいさな つぶ(雲粒)は、1秒に 1センチも おちません。くもの なかには、その おちる はやさより つよい のぼる 風が あるので、くもは そらに うかんで いるように 見えます。くわしくは くもの うかぶ しくみの きじを みて ください。
雨粒の落ちる速さは、大きさでかなり変わります。日本語版Wikipediaによると、直径1mmの雨粒で秒速約4m、2mmで約6.5m、4mmで約9mです[4](資料は半径で書かれているので、直径になおしました)。大きい雨粒ほど速く落ちるのは、同じ形なら大きいほど空気に負けにくいから、という説明と合っています。
ただし、きれいな比例にはなりません。2mmから4mmへ大きさが2倍になっても、速さは約1.4倍にしかなりません。これは先の「長さの平方根に比例」に近い増え方です。1mmから2mmは約1.6倍で、少し食いちがいます。雨粒は大きくなると形も変わるため、ここまでの単純な計算とは少しずれます(くわしくは、雨粒の形の記事)。
雲を作る小さな粒(雲粒)になると、半径1〜10マイクロメートルの粒は、秒速1cmにも届きません[4]。ここまで小さいと、空気の粘りの影響が大きく、ここで使った式はそのままは使えません。
実際の雨粒で確かめる。日本語版Wikipediaの記述は、半径0.1mm(直径0.2mm)で約70cm/s、直径1mmで約4m/s、直径2mmで約6.5m/s、直径4mmで約9m/s(最大)である[4](資料は半径表記なので直径に直した)。直径2mmから4mmへ2倍にして速度は約1.4倍で、√2に近い。一方、1mmから2mmは約1.6倍で、√2より大きい。
相似拡大の計算は、Cdが一定という前提のもとでの目安にすぎない。雨粒は大きくなると形がつぶれ、Cdも変わる(雨粒の形の記事)。さらに、粒が小さいと、粘性の影響が支配的になる。半径1〜10μmの雲粒は、1cm/s未満で落ちる[4]。雲粒の記事が扱うように、この領域では抗力が速度の2乗ではなく速度にほぼ比例する流れになり、終端速度は粒の半径の2乗に近い増え方をする。
ここで「大きいほど負けにくい」を言い直す。大きいほど、空気から受ける力の絶対値は増える。ただし、重さの増え方がそれを上回るので、重さに対する割合は小さくなる。
6. 大きくても、空気に まけやすい ものも ある?
6. 大きくても空気に負けやすいもの、小さくても負けにくいもの
6. 「大きいほど負けにくい」が成り立たない場合
この はなしは、重さと かたちが おなじ とき だけです。たとえば、おなじ 大きさの ピンポンだまと てつの たまでは、てつの たまの ほうが ずっと 重いので、空気に まけにくいです。
また、大きな 紙を ひろげたまま おとすと、ふわふわ ゆっくり おちます。大きくても、うすくて かるい から、空気に まけやすいのです。
この話は、材料と形が同じときのことです。次のような場合は、あてはまりません。
まず、同じ大きさでも、重さがちがう場合です。同じ大きさのピンポン玉と鉄の玉では、鉄の玉のほうが重いので、終端速度は大きくなります。見た目の大きさだけでは決まらず、重さを面積で割った値が大事です[2]。
次に、形がちがう場合です。大きな紙を広げて落とすと、ひらひらとゆっくり落ちます。大きくても、うすくて軽く、面積のわりに重さが小さいからです。丸めると、同じ重さでも面積が小さくなるので、速く落ちます。NASAの教材も、同じ重さの平らな板と玉の例で、これを説明しています[2]。
相似拡大の議論は、形と材料が同じという条件の上にある。条件が外れると、判断の基準はW/A(重さ÷面積)とCdになる。
第一に、同じ大きさで密度が違う場合。同じ大きさのピンポン玉と鉄球では、鉄球のほうがWが大きく、V ∝ √(W/(Cd・A)) は大きくなる[2]。
第二に、形が違う場合。広げた紙と丸めた紙は、重さが同じでもAとCdが違う。広げた紙は、Wが小さいのにAが大きく、終端速度が小さい。NASAの教材は、同じ重さなら大きな平板は小さな球より遅く落ちることを例に挙げている[2]。パラシュートは、この関係を使って、Aを大きくして終端速度を下げる道具である。
第三に、小さな粒の領域。前章のとおり、雲粒の領域では、抗力が速度に比例する別の関係になる。「大きいほど負けにくい」は、中くらいの大きさから大きなものの、速度の2乗の抗力の領域でおおまかに言えることである。
7. じぶんでも しらべて みたく なったら
7. 自分でも調べてみたくなったら
7. 自分でも調べてみたくなったら
紙を 2まい よういして、1まいは ひろげたまま、もう 1まいは ぎゅっと まるめます。おなじ 高さから、いっしょに はなして みましょう。どちらが さきに ゆかに つくでしょうか。高い ところに のぼらず、手を いっぱいに のばした 高さで やります。
できたら、まるめた ほうを もう すこし 小さく かためて みて ください。空気に まけない ようすが かわるか、見て みましょう。
コーヒーフィルターを使うと、重さと落ちる速さの関係を確かめられます。1枚のフィルターと、4枚を重ねたフィルターを、同じ高さから同時に落とします。重ねたほうが先に落ちるはずです。重さが4倍になっても、終端速度は4倍ではなく2倍に近くなる、というのが、抵抗が速さの2乗に比例する場合の予想です。実際に何倍になるかは、床につくまでの時間を測るなどして、自分で確かめられます。
アメリカの教材会社ヴァーニアは、重ねたフィルターの終端速度をくらべる実験を紹介しています[5]。ハルデンのエッセイは、英語ですが、ネットで読めます[3]。大きさと生きものの形の関係を扱った、短くて読みやすい文章です。
落とすときは、足元に気をつけ、いすやはしごの上に立たないで、手を伸ばした高さで行いましょう。
コーヒーフィルターの落下実験で、「抗力が速度の2乗に比例する」を検証できる。重ねる枚数を変え、同じ高さから落として床につくまでの時間を測れば、枚数と終端速度の関係を調べられる。ヴァーニア社の教材は、質量の異なる6組のフィルターの終端速度を比べ、抗力が速度に比例するという単純なモデルがどこまで合うかを調べ、モデルを改良する課題になっている[5]。
自分で調べる材料として、次の3つが挙げられる。①抗力の式と終端速度の式(NASA教材[1][2])。②ハルデンのエッセイの、大きさと落下の節[3]。③雨粒の大きさと速度の表[4]。式のCdを、実測から逆算してみるのもよい。
しらべた ところ
参考にした情報源
参考にした情報源
出典について:式とその意味はNASAグレン研究センターの教材、ネズミと馬の話はハルデン本人のエッセイの転載ページ、雨粒の速さは百科事典の記述にもとづきました。雨粒の値は目安として扱っています。
- NASA Glenn Research Center「Drag Equation」。 https://www.grc.nasa.gov/www/k-12/VirtualAero/BottleRocket/airplane/drageq.html (抗力の式、抗力係数Cd、速度の2乗・面積に比例すること)
- NASA Glenn Research Center「Terminal Velocity」。 https://www.grc.nasa.gov/www/k-12/VirtualAero/BottleRocket/airplane/termv.html (終端速度の式、面積・重さとの関係、同じ重さの平板と球の例、空気がないとき)
- J. B. S. Haldane「On Being the Right Size」(1920年代の執筆。1985年刊の論集からの転載ページには1928年とある)。 https://www.marxists.org/archive/haldane/works/1920s/right-size.htm (鉱山の縦穴に落ちるネズミ・人・馬の話、重さと表面の比の説明)
- Wikipedia日本語版「雨」。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9B%A8 (雨粒・雲粒の大きさごとの終端速度。百科事典の記述で、同じページ内で数字がゆれる箇所があるため目安として使った)
- Vernier「Refining the Air Drag Model」。 https://www.vernier.com/experiment/hsb-vvams-e-7_refining_the_air_drag_model/ (重ねたコーヒーフィルターの終端速度を比べる実験の内容)
なおした ところ
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