1. 画家の 絵が、どうして 空の きろくに なるの?
1. 測器のない時代の空を、絵から読めるのか
1. 測器がない時代の大気を、絵の色から推定する着想
むかしは、空の よごれを はかる きかいが ありませんでした。でも 画家は、見た ままの 空を 絵に のこして います。
この 研究を した 人たちは、「絵の 中に、むかしの 空気の じょうほうが かくれて いるかも しれない」と 考えました[5]。
見る ところは、ゆうやけの 空の 赤と 緑です。赤を 緑で わった 数を くらべます。
では、絵を 何まい、どう ならべて くらべたのでしょう。
空の汚れを測る器械がなかった時代や場所でも、画家は目に映った空を絵に残しています。研究を率いたゼレフォスは、そこに過去の大気の情報が入っているのではないかと考え、絵を使う方法を試したと説明しています[5]。
見るのは、夕焼けの地平線近くの空の色です。画像から赤の強さを緑の強さで割った「赤緑比」を求め、火山の噴火のあとに空にただよう微粒子(エアロゾル)が増えると、この比も大きくなるかを調べました[1]。
画家が一人で描いた一枚だけでは、その人のくせかもしれません。では、何枚の絵を、どう分けて比べたのでしょうか。
測器による観測がなかった時代や地域の大気について、環境の情報を絵から取り出せないか、というのが研究の動機である。リーダーのゼレフォスは、自然が芸術家の心に語りかけ、画家が夕焼けに色を塗るとき、脳が赤と緑をどう受けとめるかに環境の情報が含まれる、という趣旨で説明している[5]。
指標は、画像のうち地平線近くの空の領域で求めた赤と緑の強さの比(R/G比)である。火山噴火後はエアロゾルが増え、夕焼けの色が変わることを利用し、R/G比を噴火後の濁りの代理指標として使った[1]。ただし相関係数0.8という数字は、絵の赤緑比と火山の指標との関係の強さであり、空の濁りそのものを直接測った値ではない[1]。
代理指標である以上、一枚ごとの偏りが問題になる。では、どう統計を設計したのか。
2. 絵は 何まい あって、どう わけて くらべたの?
2. 絵を「ふんかの あと」と「ふつうの とき」に分けて比べる
2. 554点から327点へ:噴火後3年以内の絵と、それ以外の絵の比較
この 研究では、181人の 画家の 554まいの 絵を しらべました。その うち、いつ かいたか わかる 327まいが、くらべる ずに つかわれました[2]。
ふんかの あとの 3年いないに かかれた 絵を「火山の ゆうやけ」、それいがいを「ふつうの ゆうやけ」と わけました[2]。
わけるのは、ふんかの あとで 赤が つよく なるかを みたいからです。クロード・ロラン、ターナー、ドガ、クリムトなど、有名な 画家の 絵も ふくまれます。
画家ごとの 色の くせは、絵の かずを ふやして へらします[3]。
では、そうして 出た 数は、空の どんな ようすを あらわすのでしょう。
研究チームが集めた絵は、181人の画家による554点です。そのうち描かれた年が分かる327点が、年代ごとの比較のグラフに使われました[2]。クロード・ロラン、ターナー、フリードリヒ、ドガ、クリムトといった画家の作品が含まれています。
比べ方は、まず絵を二つに分けることです。大きな噴火から3年以内に描かれた絵を「火山の夕焼け」、それ以外を「ふつうの夕焼け」としました。対象の噴火には、1641年のアウ山、1783年のラキ、1815年のタンボラ、1883年のクラカタウなどが入っています[2]。
画家によって色づかいの好みは違います。そこで、画像の地平線近くの空を平均して比を求め、多くの画家・多くの絵で統計をとることで、そのちがいの影響を小さくしています[3]。
こうして出た「赤緑比」を、空の濁りの数字にどう直したのでしょうか。
候補になった絵は181人の画家の554点で、年代ごとの比較には、描かれた年が分かる327点を使った。554点がすべて使われたわけではない点に注意が要る[2]。クロード・ロラン、ターナー、フリードリヒ、ドガ、クリムトらの作品が含まれる。
分析の核は、噴火後3年以内に描かれた絵と、それ以外の絵の比較である。対象期間(1500〜1900年)の噴火には、アウ(1641)、ラキ(1783)、タンボラ(1815)、バブヤン(1831)、コセグイナ(1835)、クラカタウ(1883)などが含まれる[2]。
画家による色づかいの差は避けられない。そのため、デジタル画像から画家が見た視野の地平線近くの空の部分を平均してR/G比を求め、異なる画家の多数の絵を扱うことで不確かさを減らしている[3]。
残る問題は、比の増減を、濁りの大きさという数字にどう結びつけたかだ。
3. 絵の 赤さから、空の よごれは どれだけと 出たの?
3. 赤緑比から、空の濁りの大きさを計算する
3. R/G比からエアロゾルの光学的厚さへ:0.05と最大約0.6
絵から 計算した 空の にごりの 数は、ふだんは やく 0.05でした。タンボラや クラカタウの ふんかの あとでは、いちばん 大きい ときで やく 0.6でした[1]。
0.6を 0.05で わると 12です。いちばん 大きい ときは、ふだんの 12ばいほどと 見つもられました。
ただし この 数は、きかいで はかった ものでは ありません。絵から 計算で 出した、見つもりの 数です。
見つもりが 当たって いるか、どうやって たしかめたのでしょう。
4. 画家に ゆうやけを かいて もらったら、どう なった?
4. ギリシャのヒドラ島で、画家に夕焼けを描いてもらった実験
4. 2010年のヒドラ島の描画実験:砂の流れが弱まる時期に、絵と日射計が合った
2010年6月、ギリシャの ヒドラ島に、サハラさばくの すなが とんで きました。この あいだ、画家に ゆうやけを つぎつぎ かいて もらいました[3]。
すなの ながれが よわまる ころ、絵から 計算した 空の にごりが、おなじ ばしょで たいようの ひかりを はかる きかいの 数に 合いました[3]。
むかしの 絵を はかる 方ほうが、今の 空でも つかえる、と いう 手がかりに なりました。
ただし 合ったのは、すなが よわまる ころ。ぜんぶの 時間では ありません。では、この 方ほうに 弱い ところは あるのでしょうか。
確かめるために、2010年6月19〜20日、ギリシャのヒドラ島で、サハラ砂漠の砂がただよってくる間に、画家に夕焼けを次々と描いてもらいました[3]。同じ場所には日射計(サンフォトメーター)が置かれ、空の濁りを測っていました。
絵から計算した濁りの値は、砂の流れが弱まっていく時期に、日射計の値と合いました[3]。合ったのは、その時期のことで、実験のすべての時間ではありません。
この実験では、砂の流れが弱まる時期に、画家の絵から求めた値が測器の値と合いました。ただ、この方法には、まだ弱いところもあります。
検証として、研究チームは2010年6月19〜20日、ギリシャのヒドラ島で、サハラ起源のミネラルダストが島の上を通る間、画家に夕焼けを次々に描いてもらった。同じ場所の日射計(サンフォトメーター)が測ったエアロゾルの光学的厚さと、絵から求めた値は、砂の流れが弱まる時期に合った[3]。
合ったのは減衰期であり、全期間ではない点を読み落とさないこと。また、同じ論文で、火山起源のエアロゾルと砂漠の砂を比べると、夕焼けのR/G比の差は−2.6%〜+1.6%と小さかった[4]。つまり、この比だけで煙の種類までは言い分けにくい。
雲などほかの要因がR/G比に与える影響は、まだ調べる必要があると著者は述べている[4]。では、原因が一つに決まらないままの有名な空は、どう扱われているのか。
5. ムンクの 《さけび》の 空は、なにが つくったの?
5. ムンクの《叫び》の赤い空は、火山か真珠母雲か
5. ムンク《叫び》の空:火山説と真珠母雲説は並んだまま
ムンクの 《さけび》は、空が まっ赤です。ムンクは 1892年に、さんぽ中に 空が とつぜん 血のような 赤に なったと 書いて います[6]。
ひとつの せつは、火山です。1883年の クラカタウの ふんかの あと、ノルウェーでも 赤い 空が 見られたと いう 記ろくが あります[6]。
もう ひとつは、しんじゅぼ雲の せつです。ふゆの とても 高い ところに、まれに できる 雲です。空の なみうつ かたちや 色に 合うと、2017年に ノルウェーの 気しょう学者が ていあん しました[7]。
どちらが 本当かは、まだ きまって いません。
ムンクは1892年1月22日にニースで書いた文章で、オスロ近くの散歩中に空が突然「血のような赤」になり、雲が血や炎の舌のように青黒いフィヨルドの上に垂れたと述べています。《叫び》は1893年ごろの作品です[6]。
この空には、2つの説があります。ひとつは火山説です。研究者のオルソンらは、1883年のクラカタウ噴火の後、同年11月下旬から翌年2月にノルウェーで赤い薄明の記録があり、若いムンクがオスロにいた時期と重なること、エーケベルグの丘の道で場所を特定したことなどを根拠にしました[6]。
もうひとつは、ノルウェーの気象学者フィッケらが2017年に提案した真珠母雲説です。冬の成層圏に高緯度で現れる雲で、空の波うつ形と鮮やかな色が、ムンクの言葉とよく合うと述べられました[7]。高さは地上約20〜30kmで、雲の粒の大きさが光の波長に近いため鮮やかに色づく、と紹介されています[8][9]。
火山説が否定されたわけではなく、2つの説が並んでいます。美術館の絵の空を、そんな目で見てみませんか。
ムンクは1892年1月22日にニースで書いた文章に、オスロ(当時クリスチャニア)近くの散歩の途中で空が突然「血のような赤」になり、雲が血や炎の舌のように青黒いフィヨルドの上に掛かったと記した。《叫び》は1893年ごろの作品である[6]。
火山説では、オルソンらがクラカタウ噴火(1883年8月27日)の後、同年11月下旬から1884年2月にかけてノルウェーで火のような薄明が見られた記録を示した。当時のムンクがオスロにいたことと、エーケベルグの丘の道を現場と特定したことが根拠である[6]。
これに対し、ノルウェーの気象学者フィッケ、クリスチャンソン、ノルドリ(2017年、Weather誌)は、冬の成層圏に高緯度で現れる真珠母雲が、空の波うつ形と色に合うと提案した[7]。真珠母雲は高度約20〜30 kmに、非常に寒い冬にまれに現れ、雲粒の大きさが可視光の波長に近いために鮮やかに色づくと紹介されている[8][9]。
2説は並んでおり、どちらかが否定されたわけではない。絵が空の記録になることと、記録が一つの原因を指すことは別である。それを確かめるには、どんな目で絵を見ればよいか。
自分でも しらべて みたく なったら
自分でも調べてみたくなったら
自分でも調べてみたくなったら
今日できること
ゆうやけが 見えた 日に、地平線の ちかくの 空の 色を、色えんぴつで ぬって みましょう。何日か つづけて、赤の つよさを くらべます。太陽は、直せつ 見ません。おうちの 人と いっしょに やります。
出かけてできること
びじゅつかんや がしゅうで、空の 絵を さがして みましょう。空の 色が、赤っぽいか 青っぽいか、くらべて みます。
今日できること
夕焼けが見えた日に、地平線の近くの空の色を色鉛筆で塗り、数日続けて赤の強さを比べてみましょう。太陽は直接見ないようにします。画家のくせではなく、日による空の変化を比べる体験になります。
出かけてできること
美術館や画集で、夕焼けや空を描いた絵を探してみましょう。描かれた年と、空の色を並べて見ると、おもしろい発見があるかもしれません。
今日できること
夕焼けの日に、地平線近くの空を色鉛筆で塗り、数日続けて赤の強さを比べる。太陽は直接見ない。比べるのは日ごとの空の変化であり、画家のくせは別の問題になる。
出かけてできること
美術館や画集で、空を描いた絵を探し、描かれた年と空の色を並べて見る。ムンクの空のように、一つの絵に複数の説が並ぶ例も探してみるとよい。
資料を読むなら
出典の[1][3]は英語の論文だが、図をたどるだけでも、絵の点数や噴火の年がどう並ぶかが見える。英語が難しければ、[5]のEGUニュースのように短い紹介記事から入り、気になった点だけ論文の図で確かめるとよい。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文の事実は、次の論文・報道・紹介ページをもとにしています。
- Zerefos et al. 2007, Atmospheric Chemistry and Physics 7, 4027「Past volcanic aerosol optical depths」 https://acp.copernicus.org/articles/7/4027/2007/ (研究の方法・値・要旨)
- Zerefos et al. 2007 本文PDF https://acp.copernicus.org/articles/7/4027/2007/acp-7-4027-2007.pdf (絵の点数・分け方・噴火名)
- Zerefos et al. 2014, Atmospheric Chemistry and Physics 14, 2987 本文PDF https://acp.copernicus.org/articles/14/2987/2014/acp-14-2987-2014.pdf (測り方・ヒドラ島の実験)
- Zerefos et al. 2014 論文ページ https://acp.copernicus.org/articles/14/2987/2014/ (火山と砂漠の砂の差・今後の課題)
- EGUニュース(2007)「Famous paintings help study the Earth's past atmosphere」 https://www.egu.eu/news/106/famous-paintings-help-study-the-earths-past-atmosphere/ (研究の動機)
- APS News(2004)「The Back Page」 https://www.aps.org/apsnews/2004/05/the-back-page (ムンクの文章・火山説)
- オスロ大学「Meteorology and Munch」 https://mn.uio.no/geo/english/about/news-and-events/in-media/from-the-archive/2017/meteorology-and-munch.html (真珠母雲説)
- Mental Floss「The Scream and nacreous clouds」 https://www.mentalfloss.com/posts/the-scream-munch-nacreous-clouds (真珠母雲の高さ・色づく理由)
- Fikke, Kristjansson, Nordli 2017, Weather「Munch's The Scream: nacreous clouds?」 https://doi.org/10.1002/wea.2786 (真珠母雲説の原論文)
なおした ところ
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