1. たって いる だけで、どうして ふくらはぎは いそがしいの?
1. 動かずに立っていても、ふくらはぎは働き続けている
1. 静止して立つ姿勢は、ふくらはぎの小さな修正でできている
バスを まって、じっと たって いる ところを おもいうかべて ください。うごいて いない ように みえます。
でも、ひとの からだは、えんぴつを たてた ような ものです。ほうって おくと、まえに かたむいて いきます。かたむきそうに なる たびに、ふくらはぎが ちいさく ちからを いれて、もとに もどして います。
10にんの 足を ちょうおんぱで しらべた けんきゅうでは、からだが まえに かたむきそうに なる たびに、ふくらはぎが ちいさく ちからを いれて、ささえて いました。そのうごきは 1びょうかんに 2.6かいほど くりかえされて いました。ただし これは 10にんの へいきんで、ひとに よって ちがいます。
この ときは、すねの まえの きんにくは ほとんど はたらいて いませんでした。まえに たおれないように、ふくらはぎの きんにくが、ちいさく ちからを いれて、からだを ささえて います。
バスを待ちながら、ぼんやり立っている場面を思い浮かべてください。体はほとんど動いていないように見えます。ところが人の体は、足首を支点にして、鉛筆を立てたようにゆらゆらと前へ傾きやすい形をしています。
10人の超音波計測では、静かに立っているとき、ヒラメ筋と腓腹筋が、体が前へ倒れるのを防ぐように働いていました。すねの前側の筋肉は、ほとんど働いていませんでした。ふくらはぎの筋肉は、1秒間に平均2.6回ほど動く向きを切りかえる小さな調整を続けていたと報告されています[1]。
2.6回を1時間に直すと、9000回あまりです。計算上は、そのくらいの回数を、気づかないうちにくり返していることになります。ただしこれは10人の平均で、立ち方や足の形で変わるはずの数字です。「じっと立つ」は、止まっているのではなく、とても細かく動き続けて止まって見える状態、と言えそうです。
人体は足首の上に積まれた背の高い構造物で、重心が足首より前に出れば前へ倒れる。静かな立位でこれを防いでいるのが何かを、Loramらは10人の超音波計測で調べた。結果は、ヒラメ筋と腓腹筋が前方への動揺を防ぎ、すねの前の筋はほぼ活動しないというものだった。筋の動く向きは平均して1秒間に約2.6回切りかわり、小さな修正が加えられていた[1]。
この値を1時間に直すと、2.6×3600で約9400回である。ただし10人の平均値であり、被験者数も多くない。「動かない立位」が実は連続した制御であることを示す一例として読むのが妥当で、誰にでも同じ回数が当てはまるとは言えない。
では、この調整を長く続けても、ふくらはぎは疲れにくいのだろうか。次の章では、筋肉の中身に目を向ける。
2. おなじ ふくらはぎの なかに、ふたつの きんにくが ある
2. ヒラメ筋と腓腹筋では、疲れにくさの配合がちがう
2. ヒラメ筋は遅筋が約70%、腓腹筋は約50%:遅筋の割合のちがいと、疲れにくさとの関係
ふくらはぎの なかには、腓腹筋と、その したに ある ヒラメ筋が あります。どちらも あしくびを うごかす きんにくです。
きんにくの なかには、ゆっくり うごいて つかれにくい せんいと、すばやく うごけるけれど つかれやすい せんいが あります。ヒラメ筋は、つかれにくい ほうの せんいが とくに おおいと いわれます。ながく たって いても つかれにくい わけの 1つです。
むかしの けんきゅうで、32にんぶんの 足の きんにくを しらべた ものが あります。それに よると、つかれにくい せんいの わりあいが、ヒラメ筋で 70%ほど、腓腹筋で 50%ほどでした。10この せんいが あれば、ヒラメ筋では 7こ、腓腹筋では 5こが つかれにくい ほうだ、という ことです。これは めやすで、ひとに よって ずいぶん ちがいます。
ふたつの きんにくが ぜんぜん べつの しごとを して いるわけでは ありません。どちらも たつ ときにも、あるく ときにも つかわれます。
ふくらはぎの表面側にあるのが腓腹筋、その奥にあるのがヒラメ筋です。どちらも足首を伸ばす(つま先を下げる)筋肉で、つま先立ちや、歩くときの蹴り出しに使われます。
ヒラメ筋は、疲れにくい遅筋線維がとくに多い、重力に逆らう筋肉として知られています。長い時間の立つ姿勢に向く一因と考えられます[2]。
数字も見ておきましょう。1975年の研究では、亡くなった方32人の脚の筋肉を調べ、遅筋線維の割合はヒラメ筋が約70%、腓腹筋が約50%だったと報告されました[3]。線維が10本あれば、ヒラメ筋では7本、腓腹筋では5本が疲れにくいタイプ、という計算です。
ただし、この研究の標本は数が限られ、年齢や調べ方にも制約があります。70%と50%は目安で、個人差は大きいと考えられます。2つの筋肉を「立つ係」と「蹴る係」にきっぱり分けることもできません。どちらも立つときにも歩くときにも使われ、疲れにくさの配合が少しちがう、と受け取るのが近いようです。
下腿三頭筋は、表層の腓腹筋と深層のヒラメ筋からなる。どちらも足首の底屈にはたらき、つま先立ちや歩行の蹴り出しに使われる。ヒラメ筋は遅筋線維が著しく優位な抗重力筋で、長時間立っていても疲れにくいと説明される[2]。
この「優位」を数字で裏づけたのが、1975年のEdgertonらの研究である。亡くなった方32人の脚の筋を調べ、遅筋線維の割合をヒラメ筋で約70%、腓腹筋で約50%と報告した[3]。この値は、前の章で見た静止立位に当てはめると意味が分かる。ごく小さな力を休みなく出し続ける仕事には、疲労しにくい遅筋が多いことは、その仕事に向く一因と考えられる。
ただし、この標本は年齢や染色法に制約があり、70%と50%はあくまで目安である。また、2つの筋が「立位用」と「蹴り出し用」にきれいに分業しているとは言えない。どちらも底屈筋として両方の場面に動員され、ちがうのは線維組成の比率である。この点は、次の章で取り上げる歩行の話でも変わらない。
では、歩くとき、この2つの筋肉は具体的にどう使われるのだろうか。
3. あるく とき、ふくらはぎは どうやって けりだすの?
3. 歩くとき、ふくらはぎは腱と組んで「ぱっ」と蹴り出す
3. 歩行の蹴り出しは、筋と腱の組み合わせによる「カタパルト」だった
あるくとき、ふくらはぎの きんにくの したの ほうには、腱という じょうぶな ひもの ような ものが つながって います。
8にんの おとこの ひとが ゆっくり あるく ところを しらべた けんきゅうが あります。腱は、あしを じめんに つけて いる あいだ、ゆっくり のびて いきました。そして つま先が じめんを はなれる ちかくで、きゅうに ちぢみました。
ゴムひもを ゆっくり ひっぱって、ぱっと はなす ところを おもいうかべて ください。ふくらはぎが ちからを ためて、ぱっと だす ようすに にて います。ただし ゴムと ちがって、きんにくと 腱が いっしょに はたらいて います。
この けんきゅうでは、ばねの ように ぽんぽん はずむのでは なく、腱が ためた ちからを いちどに はなす はたらきだと、「カタパルト」に たとえて せつめいされて います。
歩くとき、ふくらはぎの筋肉は、アキレス腱などの腱を介して足の後ろ側とつながっています。この筋肉と腱の組み合わせは、ただ引っぱっているわけではなさそうです。
男性8人が毎秒約1.4メートルで歩く様子を調べた研究では、腓腹筋とヒラメ筋の腱は、足が地面についている間にゆっくり伸ばされ、足が離れる直前に急に縮んでいました。研究者はこれを、ばねの弾みではなく、ためた力を一気に放つ「カタパルト」のような働きだと表現しています[4]。
ゴムひもをゆっくり引いておいて、ぱっと放す場面を考えると、イメージしやすいでしょう。筋肉が力を出し続ける間に腱が伸び、その力が足を蹴り出す瞬間に使われます。これは8人の男性が普通の速さで歩いたときの結果で、走るときや、年齢のちがう人にも同じように当てはまるかは、この研究だけでは言えません。
歩行の蹴り出しでは、ふくらはぎの筋が出す力が、そのまま足に伝わるわけではない。筋と腱は直列につながっており、腱は伸びたり縮んだりする弾性要素として働く。
Ishikawaらは、男性8人が約1.4 m/sで歩く間の腓腹筋とヒラメ筋の腱を測った。腱は立脚の中ほどでゆっくりと伸ばされ、接地の終わり近くで急に短縮した。この弾性エネルギーの使われ方を著者らは、ばねのような反発ではなく、カタパルト的な作用と表現している[4]。ここでいうカタパルトは、時間をかけてためた力を、短い時間に放出する仕組みを指す。
この結果から言えるのは、ふくらはぎの筋と腱が蹴り出しを「つくる」ときの、力の出し方の特徴である。腱に蓄えられた弾性エネルギーが、接地の終わり近くに放出される、ということである。ただし対象は健康な男性8人の通常歩行で、走行や他の年齢層への一般化はこの研究だけではできない。
ふくらはぎの仕事は、立つことと蹴り出すことだけではない。もう1つ、足から心臓へ向かう血液の流れにも関わっている。
4. ふくらはぎは、なぜ 「だいにの しんぞう」と よばれるの?
4. 足にたまりやすい血液を、ふくらはぎが心臓へ押し戻す
4. 筋ポンプとしてのふくらはぎ:静脈血を心臓へ戻す仕組みと、資料ごとの重みづけのちがい
ひとの からだでは、心臓が 血液を おくり だします。でも、たって いる ときに 足の 血液が 心臓まで もどる ためには、うえに むかって あがらないと いけません。
ここで ふくらはぎが かつやくします。きんにくが ちぢむと、そばを とおる 静脈(血液が 心臓へ もどる ときに とおる くだ)が おされて、なかの 血液が おしだされます。静脈の なかには、ぎゃくに ながれないようにする べんが あるので、血液は 心臓の ほうへ すすみます。
この はたらきが つよいので、ふくらはぎは 「だいにの 心臓」と よばれる ことが あります。
心臓から送り出された血液は、足の先まで届いたあと、静脈を通って心臓へ戻ります。立っているとき、この帰り道は重力に逆らう上り坂です。
そこで働くのが、筋肉のポンプです。筋肉が縮むと近くの静脈が押されて、中の血液が押し出されます。静脈の中には逆流を防ぐ弁があるので、血液は心臓の方向へ進みます。ふくらはぎはこの作用が大きいため、「第二の心臓」と呼ばれることがあります[5]。
ポンプの部品は、足の裏の静脈、ヒラメ筋、腓腹筋、太ももの4つの単位で、順に縮んで1つの装置のように働くと説明されています。このうち最も重要なのは腓腹筋とする報告があり、ヒラメ筋は外側のほうが内側より重要とされます。資料によって重みづけが分かれているので、「どちらが主役か」は決めずに、ふくらはぎの筋肉全体で働くと考えておくのがよさそうです[6]。
下肢の静脈血は、立位では重力に逆らって心臓へ戻る必要がある。この還流を助けるのが筋ポンプで、筋が収縮すると静脈が圧迫されて血液が押し出され、静脈弁が逆流を防ぐため、流れは心臓の方向に限られる。作用が大きいふくらはぎは「第二の心臓」と呼ばれることがある[5]。
構成要素については、足底の静脈、ヒラメ筋、腓腹筋、大腿の4つの単位が順に収縮して1つの装置として働くという整理がある。この整理では最も重要な部品は腓腹筋ポンプとされ、ヒラメ筋は外側が内側より重要とされる[6]。一方で、一般向けの記事にはヒラメ筋を主役として紹介するものも多く、資料によって重みづけは分かれている。そのため、ここではどちらかを主役と断定しない。
なお、「ポンプ」のはたらきの強さは、筋が実際にどれだけ収縮するかに左右される。1回の収縮で押し出される血液量を、ここで示せる数値は用意できていない。
5. じぶんの ふくらはぎを さわって みよう
5. 自分のふくらはぎで確かめてみる
5. 自分の足で確かめる観察と、読む資料
きょう できる こと
かべに 手を そえて、あんぜんに たちます。かたほうの てで、ふくらはぎを そっと さわります。つま先立ちを して、ゆっくり おろして みましょう。ふくらはぎが かたく なったり、やわらかく なったりするのが わかります。むりを しないで、いたく なったら すぐに やめて ください。
しらべる とき
むずかしい ことばが でて きたら、ほんとうに そうかを おうちの ひとと いっしょに、図書館の 人体の ほんで しらべて みましょう。
今日できること
壁に手をそえて、安全に立ちます。片方の手でふくらはぎをそっとさわりながら、ゆっくりつま先立ちをして、おろしてみてください。筋肉が固くなったり、ゆるんだりするのが分かります。無理をせず、痛みがあるときはすぐにやめてください。
資料を読むなら
「ヒラメ筋」「腓腹筋」「筋ポンプ」で調べると、解剖学の用語解説が日本語で読めます[2][5]。立つ・歩くことの研究を直接読みたいときは、出典の論文[1][4]を見てください(英語です)。
今日できること
壁に手をそえ、片手でふくらはぎを触りながら、ゆっくりつま先立ちをしておろす。筋が収縮して硬くなる様子を、自分の足で確かめられる。無理をせず、痛みがあれば中止する。
資料を読むなら
日本語では「ヒラメ筋」の用語解説[2]と、日本大百科全書の「筋肉ポンプ」[5]が入口になる。立位の調整[1]と歩行の腱の働き[4]は、原典を読むと測定方法まで分かる(英語)。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文で使った資料です。
- Loram ID, Maganaris CN, Lakie M. Active, non-spring-like muscle movements in human postural sway(J Physiol 564:281–293, 2005). https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC1456051 (静かに立つときの調整)
- 解剖学用語解説「ヒラメ筋」(3rd-in pedia). https://pedia.3rd-in.co.jp/wiki/%E3%83%92%E3%83%A9%E3%83%A1%E7%AD%8B (ヒラメ筋の性質)
- Edgerton VR, Smith JL, Simpson DR. Muscle fibre type populations of human leg muscles(Histochem J, 1975). https://www.researchgate.net/profile/Victor-Edgerton/publication/23010936_Muscle_fibre_type_populations_of_human_leg_muscles (遅筋線維の割合)
- Ishikawa M, Komi PV, Grey MJ, et al. Muscle-tendon interaction and elastic energy usage in human walking(J Appl Physiol 99:603-8, 2005). https://research.birmingham.ac.uk/en/publications/muscle-tendon-interaction-and-elastic-energy-usage-in-human-walki/ (歩行中の腱の働き)
- 日本大百科全書「筋肉ポンプ」(コトバンク). https://kotobank.jp/word/%E7%AD%8B%E8%82%89%E3%83%9D%E3%83%B3%E3%83%97-1725834 (筋ポンプの仕組み)
- Uhl JF, Gillot C. EUROCHAP meeting report(Phlebolymphology). https://phlebolymphology.org/?p=4103 (ポンプの構成単位)
なおした ところ
更新履歴
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