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ここにあるのは、だれかが実際に調べ、考え、作ってきたことを集めたメモです。気になったら、ページの下の「参考にした情報源」から、もとの本や記事、それを生み出した人たちに、直接ふれてみてください。このメモには書ききれないおもしろさが、そこにあります。

さなぎの なかで、いもむしは ほんとうに どろどろに とけて いるの?

さなぎの中で、イモムシは本当にどろどろのスープになっているのか

蛹の中で幼虫は「スープ」になるのか ── 成虫原基と組織の分解、ホルモンの切りかえ

分野:生きもの

さなぎの 中では、いもむしが どろどろの スープに なって いる。そんな 話を 聞いた ことが あるかも しれません。ところが、さなぎを こわさずに X線で 何日も さつえいした けんきゅうでは、中は「かたまりの 入った ととのった おしる」の ようだと 言われました。

こわれる ところと、のこる ところは、どう 分かれて いるのでしょう。さなぎに なる 合図と、いもむしの ときに おぼえた においの 話まで 分かります。

さなぎの中では、イモムシがどろどろのスープになっている。そんな説明を聞いたことはありませんか。ところが、さなぎを割らずに同じ個体をX線CTで撮り続けた研究を紹介した記事では、中は「かたまりの入った、整った汁」のようなものだと述べられました。

では、何が壊れて何が残り、何がきっかけで作りかえが始まるのでしょうか。壊す部分と作る部分が同時に進むようす、ホルモンの切りかえ、幼虫のときに覚えたにおいが成虫まで残るかという実験が分かります。

蛹の内部は幼虫の組織が溶けた「スープ」だとよく説明される。しかしヒメアカタテハの蛹をX線CTで同じ個体のまま繰り返し撮影した研究では、蛹化12時間後に気管が見え、成虫の気管系はほぼ1日目にできあがっていた[1]。報道では、中身は「塊の入った整った汁」と表現されている[2]。

分解と形成は、どのように同時進行するのか。成虫原基の役割、幼若ホルモンとエクダイソンの切りかえ、蛹期のエネルギー、幼虫期の記憶の行方(ガでの実験)が分かる。

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1. さなぎの 中は、スープなの?

1. 「スープ」という説明だけでは、蛹の中のようすは言い表せない

1. X線CTが見せた蛹の内部 ── 「スープ」説明の修正

いもむしは、たくさん 食べて 大きく なると、さなぎに なります。さなぎは、ほとんど うごきません。外から 見ると、なにも おきて いない ように 見えます。

でも 中では、大きな 作りかえが 進んで います。ヒメアカタテハという チョウの さなぎ 9こを、こわさずに X線で 何日も 見つづけた けんきゅうが あります[1]。しょうかいした 記事では、「中が スープだと しても、かたまりの 入った ととのった おしる」と 書かれました[2]。

「とけて スープに なる」と いう はなしは、ぴったり 正しいとは いえない、とも 書かれて います[2]。きんにくは、小さな かたまりに 分かれて 使い回され、のこる ぶぶんも ある、と いう ことです。

では、こわれる ものと のこる ものは、どう 分かれて いるのでしょう。

動かない蛹の内側

蛹は、腹の部分を曲げる程度で、ほとんど動きません。外から見れば、変化は何も起きていないようです。ところが中では、幼虫の体が成虫の体に作りかえられています。

スープではなく「整った汁」

この中身を、壊さずに見た研究があります。ヒメアカタテハの蛹9個を、同じ個体のままX線CTで繰り返し撮影したものです[1]。この研究を報じた記事は、蛹の中がスープだとしても「塊の入った整った汁」だと紹介し、教科書にある「溶けてスープになる」は厳密には正確でないと述べています。筋肉は細胞の塊に分かれて再利用され、一部の器官は残るという説明です[2]。

つまり「全部が溶ける」のではなく、壊されるものと、残って作りかえられるものがあります。この記事の前半は、その分かれ目を見ていきます。

蛹は腹部を曲げる程度でほとんど動かないが、内部では時期によって大きく変わる。この内部を、ヒメアカタテハ(Vanessa cardui)の蛹9個について、同じ個体を繰り返しX線CTで撮影した研究がある(Lowe ら、2013年)[1]。同じ個体を追えるため、別々の個体を比べるより、器官が動く順番をそのまま読み取れる。

この研究の報道では、蛹の中がスープだとしても「塊の入った整った汁」であり、教科書の「溶けてスープになる」は厳密には正確でないと述べられた。筋肉は細胞の塊に分かれて再利用され、一部の器官は残るという[2]。ただしこれは報道による要約で、CTは解像度の限界から筋肉や神経系までは見せていない[1]。少なくとも、気管など形を保って見える器官があったことは、報道の説明と合わせて「全部が溶ける」という見方に合わない。筋肉・神経がどう組み替わるかは、この研究だけでは言えない。では、残る側の部品はどこにあるのか。

2. はねや あしの もとは、いもむしの 中に あるの?

2. 成虫の部品は、幼虫の体の中で先に育っている

2. 成虫原基 ── 壊す前に用意されている「成虫の部品」

じつは、ハエの 研究で、子どもの 体の 中に、はねや あし、しょっかく、目に なる 小さな かたまりが あると 分かって います。「せいちゅうげんき」と いいます。子どもが 食べて 大きく なる あいだも、この かたまりは 少しずつ ふえて います[3]。チョウの 一しゅでも、はねの もとが しらべられて います[7]。

たとえば、古い 家に すんだまま、あたらしい 家の 部品を となりで 作って おく ようなものです。さなぎに なると、この 部品が いっきに 育ちます[3][4]。ただし 本当は、家と ちがって、同じ 体の 中で 作りかわります。

のこりの 体は どうなるのでしょう。いもむしの ままの ところは、どうなるのでしょう。

幼虫のうちから用意される翅や脚

ショウジョウバエの研究では、幼虫の体の中に、成虫の翅・脚・触角・目などになる、未分化な細胞のかたまりがあることが分かっています。「成虫原基」と呼ばれ、幼虫が食べて育つあいだに、独立して増えていきます。蛹になると、成虫の構造として急速に発達します[3]。

チョウでは、タテハチョウの一種で翅の原基が調べられています[7]。成虫の部品を幼虫のうちから用意しておく仕組みは、昆虫の変態を説明するときの土台になっています。

壊しながら、同時に育てる

蛹の段階では、多くの幼虫の構造が分解され、成虫原基を含む成虫の構造が急速に発達します[4]。壊すのが先で、そのあとで新しく作る、という順ではありません。古い家に住んだまま、となりで新しい家の部品を組んでおいて、あとでつなぐような進み方です。

作り直しではない器官もある

CTの研究では、気管(空気の通り道)が、蛹になってわずか12時間後にはもう見えました。成虫の気管系は、ほぼ1日目にできあがっていました。大きな作り直しはせず、体積が増えていくようすでした[1]。蛹の中は、全部壊して作り直すのではなく、残して育てる部分も多いようです。

ショウジョウバエでは、幼虫の体内に、成虫の翅・脚・触角・眼・生殖器などになる未分化な細胞のかたまりがあり、成虫原基(imaginal disc)と呼ばれる。幼虫期のあいだ、これらは幼虫の体の成長とは独立して増殖し、蛹になると成虫の構造として急速に分化・発達する[3]。この列挙はハエの総説による。チョウでは、タテハチョウの一種 Precis coenia の翅原基が調べられている[7]。

だから蛹の内部では、幼虫の構造の分解と成虫構造の形成が同時に進む[4]。「全部を壊してから新築する」のではなく、「壊しながら、先に用意した部品を育てる」と理解したほうが実態に近い。

壊さずに残る器官の例が、気管である。ヒメアカタテハのCTでは、蛹化12時間後に気管はすでに見え、成虫の気管系の大部分は1日目にほぼ形成されていた。しかも大きく作り直されるのではなく、体積が増える形で成長した[1]。では、壊される側は、どのように壊されるのか。

3. こわれる ところは、だれが かたづけるの?

3. 壊れるのは「溶ける」ではなく、細胞が自分で片づけるから

3. プログラム細胞死とオートファジー ── 分解も制御されている

いもむしの 体の 中で、もう いらなく なる ところが あります。たとえば、ハエの 研究では、つばを 作る ところや、食べものを 通す 長い はらの 中の ぶぶんの 一部が、さなぎの ころに 取りのぞかれます[3]。

これは、でたらめに とけるのでは ありません。ホルモンが 合図に なって、さいぼうが 自分で 自分を かたづける しくみが 動きます[3]。カイコの 研究でも、同じ ような 話が 出て います[5]。

X線の 研究では、食べものを 通す ちょうの 形が、さなぎに なって 4日目に 前の ほそい ぶぶんが 消え、7日目に おとなの 形に なりました[1]。これは 1ぴきの きろくなので、日数は そだてる ようすで かわります。

では、「かたづけ はじめて」の 合図は、だれが 出して いるのでしょう。

決まった時期に、決まった組織が壊れる

ショウジョウバエでは、唾液腺や中腸など、幼虫にしか要らない組織が、脱皮ホルモン(エクダイソン)を引き金とする「プログラムされた細胞死」で取り除かれます[3]。細胞が、決まった時期に、自分で自分を片づけるしくみです。

カイコでは、脱皮ホルモン(エクダイソン)が体液中で増えると、自分の細胞の一部を分解するオートファジーと、細胞が自ら死ぬアポトーシスが起こり、幼虫の組織が融かされて成虫の体がつくられると説明されています[5]。

CTで見えた、腸の変身

ヒメアカタテハのCTでは、中腸(食べものを通す管)は、1日目は幼虫の形のままでした。4日目に前方の細い部分が消え、7日目には成虫の最終的な位置と形になっていました。大きな形の変化は、7日目までに起きていました[1]。ただしこの日数は、撮影した9個体のうち1個体(個体2)の経過です。個体や飼う条件によって変わります。

「溶ける」と言うと、形がなくなっていく印象があります。実際には、時期と場所が決まった、段取りのある片づけです。

不要になる組織の除去は、無秩序な溶解ではなく、制御された過程である。ショウジョウバエでは、唾液腺や中腸などの幼虫特異的組織が、エクダイソンを引き金とする段階特異的なプログラム細胞死で除去される[3]。カイコでも、体液中のエクダイソンが増えるとオートファジーとアポトーシスが起こり、幼虫の組織が融かされて成虫の体が作られる[5]。つまり「溶ける」と呼ばれる現象の実体は、ホルモンに指示された細胞自身の分解である。

CTで見ると、その経過は時間とともに進む。ヒメアカタテハ9個体のうち1個体(specimen 2)では、中腸は1日目は幼虫の形で、4日目に前方の細い部分が消え、7日目に成虫の最終的な位置と二つの前方の葉をもつ形になった。大きな形態変化は7日目までに済み、クチクラ(外骨格)は16日目に見えた[1]。この日数は1個体の経過であり、個体差や飼育温度などで変わりうる。ハエやカイコの知見と、チョウの中腸の観察を並べているが、種が異なるため、細胞レベルの機構が同一かどうかは別の問題である。

では、分解と形成を一斉に始めさせる「合図」は、何なのか。

4. さなぎに なる 「合図」は、なにが 出して いるの?

4. 「幼虫のまま」をやめる合図は、ホルモンの減少から始まる

4. 幼若ホルモンの低下とエクダイソン ── 蛹化の決定が広がる過程

からだの 中には、ホルモンと いう 合図を 出す ものが あります。いもむしには、「こどもの ままで いなさい」と はたらく ホルモンが あります。これが 多い うちは、皮を ぬいでも、いもむしの ままです[6]。

この ホルモンが へると、「さなぎに なる」ほうへ 切りかわって いきます。そのあとの ホルモンの かわり方が、からだの ところごとの 進み方を ととのえると されて います[6]。ただし、スイッチを ぱちんと 入れるような 一回だけの 話では ありません。

チョウの 一しゅでは、いったん「さなぎに なる」と 決まると、その 決まりが 体の ところから ところへ、ひとりでに ひろがります。はねの もとでは、さなぎに なる 前の 数時間に 始まり、2〜3日かけて ぜんたいに ひろがりました[7]。

カイコでは、さなぎに なる 前に、わざと 体の 中の さんそ 由来の ぶっしつを ふやす ことも 分かりました[5]。

幼若ホルモンの低下から、変態へ

カイコなどの研究をもとに、完全変態をする昆虫では一般に、血液中の幼若ホルモンの濃度が下がり、続いてエクダイソン(脱皮ホルモン)が分泌されることで、変態が始まると説明されています[6]。幼若ホルモンが高いうちは、脱皮をしても幼虫のままです。幼若ホルモンの低下が変態への切りかえに関わり、そのあとのホルモンの変化が、組織ごとの進み方を調節すると考えられています。

決まったら、組織から組織へ広がる

タテハチョウの一種 Precis coenia の研究では、蛹へ進むことを決める始まりは、幼若ホルモン濃度の低下で決まると報告されています。いったん決まると、その決定は組織から組織へ自動的に広がります。翅の原基では、最終齢の最初の数時間に始まり、2〜3日かけて原基全体に広がりました[7]。ただし、この数字は1998年の翅原基での観察で、すべての種に共通とは限りません。

活性酸素をわざと増やす

東京農工大が2019年に発表したカイコの研究では、蛹になる前にわざと体内の活性酸素を増やすことが分かりました[5]。これはカイコ(ガ)の研究で、チョウ全般に当てはまるかは分かっていません。

変態を始める引き金は、幼若ホルモン(JH)とエクダイソンの順序で説明される。カイコなどの研究にもとづき、完全変態昆虫では一般に、血中のJH濃度が低下し、続いてエクダイソンが分泌されて変態が誘導されると説明される。JHが高いうちは、脱皮しても幼虫のまま(現状維持)である[6]。つまりJHは、幼虫のままでいる状態を保つはたらきをもち、その低下が変態の最初の合図になる。

では、この切りかえは、体のどこで、どう広がるのか。タテハチョウの一種 Precis coenia では、蛹への決定の始まりはJH濃度の低下で決まり、いったん始まると決定は組織から組織へ自動的に広がる。翅原基では最終齢の最初の数時間に始まり、2〜3日かけて原基全体に広がった[7]。ただし2〜3日は1998年の翅原基での観察で、全種に共通するわけではない。

切りかえには、ホルモン以外の要素も絡む。カイコでは、エクダイソンが増えるとオートファジーとアポトーシスが起こり、さらに蛹になる前に活性酸素がわざと増やされることが報告された(東京農工大、2019年10月発表)[5]。これらはカイコ(ガ)の知見であり、チョウ全般には当てはめない。ここまでの合図は、変態を始めさせる話だった。では、食べない蛹は、何をエネルギーに作りかえを進めるのか。

5. たべない さなぎは、どうやって 力を 出して いるの?

5. 食べない蛹は、幼虫期に貯めた栄養で変身する

5. 蛹期のエネルギー収支と、栄養状態が蛹化の時期に与える影響

さなぎは、ものを 食べません。作りかえに 使う 力は、いもむしの ころに たくわえた えいようです[8]。

ショウジョウバエの けんきゅうでは、さなぎの あいだの 主な 力の もとは あぶらです。さなぎに なる ときには、さとうの なかまの トレハロースも、すこしの あいだ 使われる ことが 分かりました[8]。

また ハエでは、えいように めぐまれると、さなぎに なる 時期が はやまり、えいようが 少ないと おくれます。体の 中の しんけいが、ホルモンを 出す ところに とどくか どうかが かかわって います[9]。

ただし これは ハエの けんきゅうです。チョウに そのまま あてはまるかは 分かりません。

貯金だけで作りかえる

蛹の時期は、外から栄養を取りません。そのため、幼虫のあいだに蓄えた栄養を、計画的に使って変態する必要があります[8]。理化学研究所が2020年に発表したショウジョウバエの研究では、蛹期の主なエネルギー源は脂質で、蛹になるときには糖の一種(トレハロース)由来の糖も一時的に使われることが分かりました[8]。

栄養が足りると、変身が早まる

筑波大学などの研究(2014年)では、ショウジョウバエで栄養が豊富だと、セロトニンを出す神経の軸索が、脱皮ホルモンをつくる前胸腺に届き、蛹になる時期が早まります。栄養が乏しいと軸索が届かず、時期が遅れます[9]。

どちらもハエの研究で、チョウに直接当てはまるとは限りません。

蛹は摂食しないため、幼虫期に蓄えた栄養を計画的に使って変態を進める必要がある。理化学研究所の報告(2020年7月)では、ショウジョウバエでは蛹期の主なエネルギー源は脂質で、蛹化の際にトレハロース由来の糖も一時的に利用されることが示された[8]。蛹期に使える資源は、幼虫期にどれだけ蓄えたかで、あらかじめ決まる面があると考えられる。

では、「どれだけ食べたか」が、蛹化の時期まで左右するのか。筑波大学などの研究(2014年12月)では、ショウジョウバエで栄養が豊富な場合、セロトニン神経の軸索が脱皮ホルモンを合成する前胸腺に届き、蛹化が早まる。栄養が乏しいと軸索はほとんど届かず、脱皮ホルモンの生合成が遅れ、蛹化の時期が遅れる[9]。

これらはいずれもショウジョウバエの知見で、チョウに直接当てはまるとは限らない。ここまでが、作りかえの進み方だった。最後に、作りかえられた体に、幼虫の経験は残るのか。

6. いもむしの ときに おぼえた ことは、おとなに なっても のこる?

6. 幼虫のときに覚えたにおいを、成虫は覚えているのか

6. 変態をまたぐ記憶 ── タバコスズメガの実験と、その限界

ここまで 体を つくりかえると、いもむしの ときに おぼえた ことは 消えて しまう ような 気が します。

タバコスズメガと いう ガの 研究が あります。大きく なった いもむし(5れい)に、あるにおいを かがせて、弱い でんきの しげきと 組に して おぼえさせました。すると、おとなに なった ガの 77%が、その においを さけました[10]。いもむしの ときは 78%が さけたので、ほとんど 同じです[10]。

さなぎに においが ついて いて、それを かいだ だけでは、と いう うたがいも ありました。さなぎに においを つけたり、あらったり する じっけんで、その うたがいは ちがうと 分かりました[10]。

ただし、小さい ころ(3れい)に おぼえさせた 場合は、大きく なった ころ(5れい)は さけたのに、おとなでは さけませんでした[10]。いもむしの おぼえた ことが、ぜんぶ のこるとは いえません。

においと弱い電気刺激の組み合わせ

タバコスズメガ(ガの一種)の5齢幼虫に、においと弱い電気ショックを組みにして訓練した研究があります。訓練した群では、成虫になってからも77%がそのにおいを避けました。幼虫のときの78%と、ほぼ同じ割合です[10]。

においが蛹に残っていて、成虫がそれに反応しただけではないか、という疑いもありました。蛹ににおいをつけたり、蛹を洗ったりする実験で、その可能性は否定されました[10]。

残らなかった場合もある

3齢で訓練した幼虫は、5齢では避けましたが、成虫では避けませんでした。研究者たちは、記憶の保存に関わる脳の構造(キノコ体)の一部が蛹の間に失われるためではないか、という仮説を挙げています。ただし、これは「シナプスが生き残る確かな証拠ではない」と、著者たち自身が書いています[10]。

幼虫の記憶が全部残る、とは言えません。どの記憶が、どの条件で残るのかは、仮説の段階です。

変態で神経系も大きく再編されるなら、幼虫期の学習は成虫に引き継がれるのか。Blackiston ら(2008年)は、タバコスズメガ(Manduca sexta)の5齢幼虫に、においと弱い電気ショックを対にして訓練した。訓練した群では成虫の77%がそのにおいを避け、幼虫でも78%が避けていた[10]。蛹ににおいをつける、蛹を洗うといった実験で、においが蛹に残って成虫が反応しただけという可能性は否定された[10]。

ただしこの結果は限定つきである。3齢で訓練した幼虫は、5齢では避けたが、成虫では避けなかった。著者らは、記憶の保存に関わる脳の構造(キノコ体)の一部が蛹の間に失われるためという仮説を挙げるが、実験結果は「シナプスの接続が生き残ったことの確かな支持にはならない」と明記している[10]。「幼虫の記憶がそのまま残る」と読むのは行きすぎで、「条件によっては、においの学習が成虫まで保たれた例がある」が妥当な表現になる。しかもガの一種での結果であり、チョウ全般には広げられない。

7. さなぎを 見つけたら、さわらずに 日づけを 書いて みよう

7. 庭や公園で、さなぎの「ようす」を日付つきで残す

7. 観察の道すじと、原典の読み方

にわや こうえんで、チョウの さなぎを 見つけたら、さわらずに 見ます。いもむしの ときの 毛が ある 場合は、さわると かぶれる ことが あるので、手を ふれないで ください。

見つけた 日と、その ときの いろ・かたちを ノートに 書きます。数日 たったら、同じ ところを 見て、どこが かわったかを くらべて みます。外から 見ても、あまり かわらないかも しれません。それでも、中では 作りかえが 進んで いる はずです。

見おわったら、さなぎは その 場所に のこして かえります。

庭や公園でチョウの蛹を見つけたら、手を触れずに見てみましょう。毛のある幼虫は、さわるとかぶれることがあるので、近づきすぎないようにします。見つけた日と、そのときの色や形、まわりの様子をノートに書いておきます。

数日後に同じ場所を見ると、外見はほとんど変わっていないかもしれません。それでも内部では、この記事で見たように、壊す部分と作る部分が同時に進んでいます。観察が終わったら、蛹はその場に残して帰ります。

原典を読むなら、CTの研究は Lowe ら(2013年)の論文[1]、幼虫の記憶は Blackiston ら(2008年)の論文[10]に図つきで載っています。どちらも英語です。

観察は、蛹化の日時、色・形、周囲の状況の記録から始められる。外観は羽化前まであまり変わらないといわれるため、内部の進行は外から見えない。毛のある幼虫は、触れると皮膚炎を起こす場合があるので、観察は手を触れずに行い、観察後は個体をその場に残す。

資料としては、蛹内部の時間変化は Lowe ら(2013年)[1]、変態をまたぐ記憶は Blackiston ら(2008年)[10]の原論文(英語)が読める。日本語では、カイコの蛹化と活性酸素の話を東京農工大の発表[5]、ショウジョウバエの蛹期の栄養を理化学研究所の発表[8]が説明している。筋肉と神経系がチョウの蛹の中でどう組み替わるかは、CTでは見えておらず、残された問いである。

しらべた もとの じょうほう

参考にした情報源

参考にした情報源と、その使い方

出典について:論文・大学や研究機関の発表・報道記事を使った。何に使ったかは、それぞれの項目の最後に書いている。ショウジョウバエ、カイコ、タバコスズメガの研究は、種名を本文に書いた。

  1. Lowe et al. 2013 Journal of the Royal Society Interface(ヒメアカタテハの蛹のX線CT)。https://www.ebi.ac.uk/europepmc/webservices/rest/PMC3673169/fullTextXML (蛹の内部の時間変化について)
  2. National Geographic「3-D scans of caterpillars transforming into butterflies」(Lowe 2013 の報道)。https://www.nationalgeographic.com/science/article/3-d-scans-caterpillars-transforming-butterflies-metamorphosis (「スープ」という説明について)
  3. Cranna & Quinn 2009 Cell Division(ショウジョウバエの成虫原基と細胞死)。https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2647916 (成虫原基と、不要な組織の細胞死について)
  4. Wikipedia「成虫原基」。https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%88%90%E8%99%AB%E5%8E%9F%E5%9F%BA (分解と形成の同時進行について。補助として使用)
  5. 東京農工大学 プレスリリース(2019年10月28日)。https://www.tuat.ac.jp/outline/disclosure/pressrelease/2019/20191028_01.html (カイコの蛹化と活性酸素について)
  6. 東京大学リポジトリ(審査要旨)。https://repository.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/record/48037/files/A32261_review.pdf (幼若ホルモンとエクダイソンの順序について)
  7. Kremen & Nijhout 1989/Nijhout & Kremen 1998(Duke Scholars の掲載ページ)。https://scholars.duke.edu/publication/753521 (蛹への決定が広がる過程について。要旨で確認)
  8. 理化学研究所 プレスリリース(2020年7月17日)。https://www.riken.jp/press/2020/20200717_1/index.html (蛹期の栄養の使い方について)
  9. JSTサイエンスポータル(筑波大学の研究、2014年12月)。https://scienceportal.jst.go.jp/newsflash/20141216_01/index.html (栄養と蛹になる時期について)
  10. Blackiston et al. 2008 PLoS ONE「Retention of memory through metamorphosis」。https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0001736 (幼虫のときの学習について)

なおした ところ

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