1. よる ねむく なるのは、ふたつの ちからの たしざん
1. 夜に眠くなるのは、2つの力が足し算になるから
1. 夜の眠気は、なぜ「S+C」の合計で説明されるのか
あさ おきてから、ずっと うごいて いると、ゆうがたには ねむく なります。これは、おきている あいだに、ねむけが すこしずつ たまって いくからです。
でも、ひるねを しないで ひるま ずっと おきて いても、ひるまの ほうが ねむけは かるい ことが あります。ねむけは、たまった りょうだけでは きまりません。
もうひとつ、からだの なかには 1にちを はかる とけいが あります。この とけいが「よるだよ」と しらせると、ねむく なりやすく なります。
けんきゅうしゃは、「たまる ねむけ」と「とけいの しらせ」を あわせて、ねむりやすさを かんがえます。おきていると ねむけが たまり、とけいが「よるだよ」と しらせると、ねむりやすさが ふえます。
夜に眠くなる理由は、1つではありません。睡眠の研究では、「起きている間に高まり、眠ると下がる力」と「体内時計が決める1日のリズム」の2つが、互いに影響し合って眠りを調節すると考えられています。前者は過程S、後者は過程Cと呼ばれ、このモデルでは、眠りやすさはこの2つの合計にあたるものとして説明されます[1]。
過程Sに関わる物質の1つとして、脳の中のアデノシンが挙げられます。ラットやネコの複数の脳の部位で、アデノシンは起きている間に増え、眠ると減る傾向がありました[2]。ただし人での直接の測定ではなく動物実験が中心で、眠気の原因がアデノシンだけとは言えません。
ふつうに飲む量のカフェインは、このアデノシンの受け皿(受容体)をふさぐ働きをします[2]。コーヒーで眠気が軽くなる話は、別のメモ(カフェインは体の中で何をしているのか)で扱っています。
では、もう1つの力である体内時計は、どんな時計なのでしょうか。
睡眠の調節を説明する代表的な枠組みが、二過程モデルである。覚醒中に高まり睡眠中に下がる「ホメオスタシス過程(過程S)」と、体内時計が決める約1日周期の「概日過程(過程C)」が相互作用し、モデル上、睡眠のとりやすさ(sleep propensity)はSとCの合計に相当するものとして扱われる[1]。だから、徹夜明けの昼間にも強い眠気が来る一方で、Cが「起きている側」に傾く時間帯には、Sが高くても眠りにくいことがある。
過程Sに関わる物質の候補が、脳の細胞外アデノシンである。ラットやネコの複数の脳部位で、覚醒中に増え睡眠中に減る傾向が報告されている。ただし中心は動物実験で、ヒトでの強さは断定できず、眠気の原因をアデノシン単独に求めることもできない。ふつうの摂取量のカフェイン、テオフィリン、パラキサンチンは、アデノシン受容体の拮抗薬として働く[2]。カフェインの詳細は別のメモ(カフェインは体の中で何をしているのか)に譲る。
では、Cを担う体内時計の周期は、実際に何時間なのか。
2. からだの とけいは、24じかん ぴったりでは ない
2. 体内時計は24時間ぴったりではなく、毎日ずれている
2. 1999年の測定で、ヒトの体内時計の周期は約25時間説から24.18時間に改められた
からだの とけいは、1にちを ちょうど 24じかんで まわって いるのでしょうか。1999ねんに、アメリカの ハーバード大学などの けんきゅうで、ひとの とけいの ながさが はかられました。
こたえは 24.18じかん、つまり 24じかん 11ふんほどでした。わかい ひとたちと、としうえの ひとたちで、へいきんは ほぼ おなじでした。
それまでは、「25じかんくらい」と かんがえられて いました。でも、けんきゅうの あいだ ひかりが とけいを ゆがめて いたかもしれない、と わかりました。
とけいが 24じかんより すこし ながいと、なにも しなければ まいにち すこしずつ おそく なって いきます。だから ひかりで まいにち あわせなおす ひつようが あります。
体内時計は、1日ちょうど24時間で動いているのでしょうか。1999年、ハーバード大学などの研究チームが、ヒトの体内時計の自然な周期を、光を厳しく管理した条件で測りました。メラトニン、深部体温、コルチゾールのリズムを調べた結果、平均は24.18時間(約24時間11分)で、若い人と高齢の人でほぼ同じでした[3]。
それまでは、ヒトの時計は約25時間で、毎朝の光で1時間ずつ戻していると考えられていました。1999年の研究は、従来の測定では光がリズムをゆがめていた可能性を指摘しました[4]。
周期が24時間より少し長いなら、時計は放っておくと毎日ずれていきます。それを外の明るさ・暗さに合わせ直す手がかりが、環境の光です。目の網膜で受けとった光の情報は、脳の視床下部にある体内時計の中枢に届き、時計を外の明暗に合わせると説明されています[5]。時計遺伝子のしくみを解いた研究には、2017年にノーベル生理学・医学賞が贈られました[9]。
光が時計を毎日合わせるなら、夜にその時計が出す合図は、いつ始まるのでしょうか。
体内時計の自然な周期は、実際に何時間なのか。かつては約25時間と考えられ、毎朝の光で1時間ずつ戻して24時間に合わせていると説明されていた[4]。ところが1999年にハーバード大学などの研究グループは、照明条件を厳密に管理してメラトニン、深部体温、コルチゾールのリズムを測り、周期の平均を24.18時間(24時間11分)と報告した。若年者と高齢者で同程度だった[3]。従来の推定は、測定中の光がリズムをゆがめていた可能性が指摘されている[4]。
周期が24時間より約11分長いと、光の手がかりがなければ、単純に考えて1日あたり約11分ずつ後ろにずれていくことに相当する。そのため、毎日の光による同調が必要になる。光は網膜で受容され、視床下部の視交叉上核(体内時計の中枢)に伝わり、中枢を外界の明暗に同調させると説明される[5]。時計遺伝子period(1984年にショウジョウバエから取り出された)のPERたんぱく質が約24時間周期で増減することを示した研究には、2017年のノーベル生理学・医学賞がHall、Rosbash、Youngに贈られた[9]。ただし分子機構の詳細は別のメモに譲る。
では、同調された時計は、夜のどの時点でメラトニンを出しはじめるのか。
3. ねむく なる ホルモンは、いつ ではじめる?
3. 眠気のホルモン「メラトニン」は、起きてから何時間で出はじめるのか
3. メラトニンの分泌開始は、起床後どれくらいで始まるのか
よるに ねむく なる ことと かかわる ホルモンに、メラトニンが あります。「すいみんホルモン」とも よばれます。
おおまかな めやすでは、あさ おきてから 14〜16じかんくらい たつと、でるのが はじまります。そして その 2じかんくらい あとに いちばん おおく なる、といわれます。
たとえば 7じに おきた ひとなら、21じごろに はじまり、23じごろに いちばん おおく なる、というわけです。ひとに よって ちがいます。
この ホルモンは、よるに つよい ひかりを あびると、でる じこくが おくれたり、へったり します。では、いえの ふつうの あかりでも、そうなるのでしょうか。
4. いえの あかりでも、とけいは おくれるの?
4. 家の明かりでも、メラトニンは遅れるのか
4. 就寝前の室内光は、メラトニンの開始をどれくらい遅らせたのか
2011ねんの アメリカの けんきゅうでは、18〜30さいの けんこうな わかい ひと 116にんが きょうりょくしました。かれらは すうじつ けんきゅうの しせつで くらしました。
ねる まえの 8じかんを ふつうの へやの あかりで すごすと、うすぐらい あかりのときに くらべて、メラトニンが でる はじまりが おくれた ひとが 99%でした。メラトニンが でて いる じかんも、やく 90ぷん みじかく なりました。
ふだん ねる じかんに へやの あかりを あびると、ほとんどの ばあい(85%)で、メラトニンは はんぶんより おおく おさえられました。
ただし、これは わかい おとなの けっかです。こどもの けっかでは ありません。
2011年に発表された米国の研究では、18〜30歳の健康な若者116人が、数日間、研究施設で暮らす実験に協力しました。就寝前の8時間を、薄暗い光で過ごした場合と、ふつうの室内光で過ごした場合を比べています[7]。
結果は、室内光のときに、メラトニンの分泌開始が遅れた人が99.0%、メラトニンが出ている時間が約90分短くなる、というものでした。さらに、ふだん眠る時間帯に室内光を浴びると、ほとんどの試行(85%)でメラトニンが50%より多く抑えられました[7]。
この研究の対象は若い成人で、子どもの結果ではありません。それでも、特別な強い光ではなく、ふつうの部屋の明かりでも、夜の時計の針に影響する可能性が示されています。
では、その明かりをほとんど使わない暮らしをすると、時計はどう動くのでしょうか。
家庭の照明程度の光で、体内時計は実際に動くのか。Gooleyらが2011年に報告した研究では、18〜30歳の健康な116人が数日間研究施設で過ごし、就寝前8時間を室内光(room light)と薄暗い光で比べた。室内光では、メラトニンの上昇開始が遅れた人が99.0%(遅れた人の割合であり、遅れの大きさではない)。メラトニンの分泌時間も約90分短くなった[7]。
同じ研究では、ふだん眠る時間帯に室内光を浴びた場合、ほとんどの試行(85%)でメラトニンが50%を超えて抑えられた[7]。対象は若年成人に限られるため、子どもや高齢者に同じ割合が当てはまるとは言えない。それでも、特別な強い光でなく室内光で効果が出た点に意味がある。
では、こうした光を日常から取りのぞくと、時計はどちらへ動くのか。
5. でんとうを つかわない キャンプで、とけいは どうなった?
5. 電灯を使わない1週間のキャンプで、体内時計はどうずれたか
5. 夏と冬のキャンプで、メラトニンの開始はどれだけ早まったか
アメリカの コロラド大学の けんきゅうでは、ひとびとが 1しゅうかん キャンプを しました。ひるは おひさまの ひかりを あび、よるは でんとうや かいちゅうでんとうを つかわずに すごしました。
そうすると、ふだんに くらべ、ひるの ひかりを うける りょうは やく 4ばいに なりました。そして キャンプから かえった あと、メラトニンが ではじめる じこくが、やく 2じかん はやくなり、ひがしずむ ころに ちかづきました。
ふゆの キャンプでは、ひるの ひかりが やく 13ばいに なり、メラトニンが のぼる じこくは 2.6じかん はやまりました。
ひかりを たくさん あびる じかんが かわると、とけいの すすみ方も かわる、という ことです。
2013年、米国コロラド大学のWright氏らは、夏に1週間キャンプをして、電灯も懐中電灯も使わずに暮らす人たちを調べました。昼の光への曝露は、ふだんの約4倍になりました。キャンプから帰ったあと、メラトニンが出はじめる時刻は約2時間早まり、日没の近くになったそうです[8]。
冬のキャンプでは、昼の光が約13倍になり、メラトニンの上昇は2.6時間早まりました[8]。
この結果から、昼にたくさんの自然光を浴び、夜は人工の光が少ない暮らしだと、体内時計の針が早い側に動く、と読めます。ふだんの家の明かりの中で、時計が少し遅れた位置にあったのかもしれない、ともいえます。ただし、この結果はキャンプに参加した人たちのもので、すべての人に同じ変化が起こるとは限りません。
夜の眠気は、起きていた長さと体内時計の足し算で、時計は光で動きます。では、自分の暮らしで確かめるとしたら、何ができるでしょうか。
日中の自然光と夜の暗さの暮らしに戻すと、体内時計は動くのか。コロラド大学のWright氏らが2013年にCurrent Biologyで報告した研究では、夏に1週間、電灯も懐中電灯も使わず野外で暮らした参加者の昼の光への曝露がふだんの約4倍になり、帰宅後のメラトニン上昇開始が約2時間早まって日没の近くになった。冬のキャンプでは昼の光が約13倍、メラトニンの上昇が2.6時間早まった[8]。
この結果は、前節の室内光の実験と向きが一致する。夜の人工光が時計を遅らせるなら、それを取りのぞき、昼の光を増やせば早まる、という読みである。ただしこの節の数字は、論文本文ではなく大学による解説に依拠している。また、キャンプの参加者は少人数で、結果をすべての人に当てはめることはできない。
以上から、夜の眠気は、覚醒の長さ(S)と体内時計(C)の合計で説明され、Cの位相は光で毎日動く、と整理できる。残る問いは、その光をどう日常に生かすかである。
自分でも しらべて みたく なったら
自分でも調べてみたくなったら
自分でも調べてみたくなったら
きょう できること
あさ、おうちの ひとに はなして から カーテンを あけて、まどの ちかくで ひかりを あびて みましょう。よるは、ねる まえの へやの あかりを すこし くらく して みましょう。そして、いつ ねむく なったか、ノートに ひとこと かいて みます。
これで ねむく なる じこくが かわるかは、ひとに よって ちがいます。かわらなくても、かまいません。
しりょうを よむなら
むずかしい ろんぶんでは なく、こうせいろうどうしょうの「けんこうづくりの ための すいみんガイド」が、にほんごで よめます。
今日できること
朝、家の人に相談してカーテンを開け、窓の近くで光を浴びてみましょう。夜は、寝る前の部屋の明かりを少し暗くしてみます(これも家の人と相談して)。そして、いつ眠くなったかを、ノートに一言書きとめます。
これで眠くなる時刻が動くかどうかは、人によって違うはずです。変わらなくても、気にしなくて大丈夫です。
資料を読むなら
日本語で読めるものとして、厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」があります。睡眠と光の関係を、ここを入り口に調べられます。
今日できること
朝にカーテンを開けて光を浴び、夜は就寝前の部屋の照明を少し落とし、眠くなった時刻を数日分メモしてみる。効果の有無や大きさは人によって異なり、動かないこともある。
資料を読むなら
日本語では、厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」が入り口になる。英語の一次資料としては、Gooleyら(2011)とWrightら(2013)があり、本稿の出典欄にURLを載せた。日本生物時計学会の解説も、時計の光受容の説明の参考になる。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
- The two-process model of sleep regulation: Beginnings and outlook. J Sleep Res (2022) https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9540767 (二過程モデル)
- Adenosine, caffeine, and sleep-wake regulation: state of the science and perspectives. J Sleep Res (2022) https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9541543 (アデノシンとカフェイン)
- Czeisler et al. (1999) Science(NASA NTRS抄録) https://ntrs.nasa.gov/citations/20040141918 (体内時計の周期24.18時間)
- Harvard Gazette (1999) Human biological clock set back an hour https://news.harvard.edu/gazette/story/1999/07/human-biological-clock-set-back-an-hour (従来の25時間説)
- 日本生物時計学会誌「体内時計と光受容」(2013) https://chronobiology.jp/2023/journal/JSC2013-1-003.pdf (光による時計のリセット)
- 厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」 https://www.mhlw.go.jp/content/001305530.pdf (睡眠と光の入り口。メラトニン分泌の時刻の目安の参考)
- Gooley et al. (2011) J Clin Endocrinol Metab 96(3):E463 https://academic.oup.com/jcem/article/96/3/E463/2833657 (室内光とメラトニン)
- University of Colorado Boulder の解説(Wright et al. 2013 Current Biology) https://www.colorado.edu/today/node/21746 (キャンプ実験)
- Nobel Prize 2017 Press release https://www.nobelprize.org/prizes/medicine/2017/press-release/ (時計遺伝子の研究)
なおした ところ
更新履歴
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